こっちのことりちゃんも可愛いです!
それでは今回もよろしくお願いします。
夕陽も殆ど沈んだ頃に雛乃さんと合流し、鍋料理店に連れていかれた。
そこでは、進路や勉強についての堅苦しい話は一切なく、食べ物の好き嫌いや、読書や、何故か小町やカマクラについての話をした。
そして、急に雛乃さんの目が悪戯っぽく細められた。
唇も同じような質の微笑みが作られ、その妖艶さについ目を奪われてしまう。
「ねえ、あなた達って……もう、キスはすませたの?」
「っ!?」
「はわっ!?」
いきなりすぎる質問に飲んでた水を吹き出しそうになる。ことりも手をわたわたさせて、自分の母親に抗議した。
「お母さん!いきなり何言い出すの?」
「あらあら、だって気になるじゃない?これだけ可愛いのに、今まで色恋沙汰の一つもなかった愛娘が、急に離れた所に住んでる男の子と仲良くなって、お泊まりまでしちゃうんだもの」
「そ、それは……お母さん、もしかして酔ってる?」
「そんなことないわよ~♪」
確かに雛乃さんは一杯も飲んでいないはずだ。それに、酒臭さもなければ、顔が赤くもなっていない。
つまり……ガチで聞いているということだ。
「比企谷君」
「は、はい……」
「大事なことを言っておくわね」
雛乃さんがずいっと顔を寄せてくる。年上の色気を纏った唇が耳元まで来て、甘い吐息をかけてくる。決して今から『捻くれた少年と美しき未亡人』が始まるわけではない。
「むぅ……」
ことりがじとーっと鋭い眼差しを向けてくるが、正直俺にはどうしようもない。
娘のそのような視線は意に介さず、雛乃さんは話を続ける。
「この子、あなたが思うよりずっと奥手だからリードしてあげてね?」
「……え?あ、はい」
「お母さん!?」
*******
「もう……お母さんったら……」
帰り道、ことりはまだぷんすか怒っていた。
もうすっかり夜で、まだ冷たい夜風が火照った体を冷ますように優しく首筋を撫でていく。
ちなみに雛乃さんは、今から『ママライブ!』という特別な集まりがあるらしい。何その本家並に太オタできそうな集まり。少し見てみたいんですけど。
「八幡君もお母さんにデレデレしちゃうし」
おっと、こちらに矛先が向いてきましたよ?
しかし、事実無根である。
「記憶にございません……」
「一番疑わしい否定の仕方だね」
頬を膨らませたことりは数歩先を歩き出し、ぽそっと呟いた。
「私以外……見ちゃいや……」
「…………」
今、何て……?
切り返しできずに突っ立っていると、彼女は振り返りざまにこちらに踏み込み、上目遣いで微笑んだ。
「なんて言ったらどうする?」
「おまっ……」
「ふふっ♪きゃっ!」
急に脚をもつれさせ、ふらついた南の手を取る。
「ご、ごめんね?」
「あ、ああ……」
しばしの間、繋がれた手を見つめる。
「……は、早く帰ろっか」
「……ああ」
二つの手は解かれることはなく、そのまま俺達は帰り道を歩いた。
最初はひんやりしていたが、やがて互いの体温が混じり合い、一つの温もりになっていた。
そんな二人を月明かりがうっすらと照らしていた。
雛乃さん……多分、俺の方がずっと奥手です。
そんな呟きを心の中で漏らした。
隣を歩く横顔は、やわらかく微笑んでいた。
読んでくれた方々、ありがとうございます!