μ'sのラブライブ!関東大会優勝を見届けた後は、あっという間に時間が過ぎ、気がつけば年を跨いでいた。時間という物は、無関心でいればどこまでも早く進んでいくようで、そんな流れの中に最近あった色んな出来事も埋もれていった。
平塚先生からのメールで知ったのは、雪ノ下の生徒会長就任、由比ヶ浜の副会長就任。そして、それに伴う奉仕部の解散である。依頼を持ち込んだ一色は庶務を担当する事になったようだ。入部は強制だったし、積極的な活動などしていないが、それでも胸にぽっかりと穴が空いた気分だ。
離れてみて気づいた。
あの場所は紛れもなく俺の居場所だった。
散々ぼっちに慣れて、学校に居場所なんてなかった俺の安らぎだった。
その場所を自分から手放した虚しさが、たまに胸をつついた。
そして、そんな痛みもやがては感じなくなる事も知っていた。
「比企谷君?」
「…………」
「比企谷く~ん、聞いてますか~?」
「……っ!わ、悪い。ぼーっとしてた」
「もしかして具合悪い?」
「いや、違う……」
南の声で現実に引き戻される。
新年が始まってから既に五日が経ち、それでも元旦からの賑やかな雰囲気が残る中、俺は南と並んで千葉のショッピングモールを歩いていた。
建物内は学生らしき若者が多く、皆残り少ない冬休みを謳歌しようとしていた。
「比企谷君って考え込む事多いよね」
「そ、そうか?」
こちらの顔を覗き込んでくる南の顔が割と近く、つい顔を逸らしてしまう。白い肌と優しげな目がやけに印象的だった。
「うん、そうだよ。たまに……すごく哀しそう」
「そうでもねーよ。つーか、悪かった。何の話だったっけ?」
「…………」
南が呆気にとられたような表情を見せ、すぐに頬を膨らます。これは流石にやばい。
「ほ、本当にすまん。ケーキ奢るから……」
「食べ物で釣ろうとしてる」
「じゃあ、何でも一つ言うことを聞くってのは……」
「ふ~ん、何でも?」
「……善処させていただきます」
「どうしよっかな~?何しよっかな~?」
悪戯っぽい笑顔で周囲を見渡す南は、この前のステージで見たスクールアイドルとしての南とはまるで別人だ。後で知ったのだが、あの衣装は全て南が考えているらしい。……どんだけスペック高いんだよ。
隣に立つのが少し申し訳なくなってきた時、南の視線がある一点に固定されていた。
「どした?」
「…………」
反応がない。
よく見れば、頬が少し赤くなっている。
どうしたのかと思い、その視線を辿る。
するとその先にはカフェがあり、窓側にカップルがいて、女の方が自分のパフェをスプーンで掬い、男に食べさせていた。
「比企谷君……あれ、食べたいな」
「あ、ああ……」
囁くような声に、胸が高鳴る音が聞こえる。今は南の顔を見れそうになかった。
やがてどちらからともなく、俺と南はゆっくりとカフェの方へ歩き出した。