そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

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幕間 オムニバス③ 我が野望のために

 

 闘い疲れた戦士には休息が必要である。

 

 

 室町時代最強の剣豪将軍「足利義輝」が、戦国武将が美少女化して覇を競っている剣と魔法の世界「倭の国」に転生した。彼はたどり着いた弱小国の姫武将を、自が剣の腕と転生時に会得した二刀流の技、そして左手に封印された黒炎龍の力で無双して助け、その国の軍師となる。

戦いの中で義輝の力を見せられて次から次へと軍門に下った他の美少女武将達。ヒロインや彼女たちとイチャコラしつつ天下統一に突き進む。

 

 ……という実に心踊るストーリーの自作小説を、我が「小説家になるぜ」という投稿サイトで連載し始めたのが無事大学に進学したこの春の事。

 

 このweb小説が一気に人気爆発。書籍化待ったナシで大量重版。あっという間にアニメ化が決まって……メインヒロインの声優には人気絶頂アイドル声優の「あやみん」がっ!

 

 そして――アニメが縁で原作者の我とあやみんがケコーン!!

 

 …………と、なるのが約束された未来のシナリオだったはずなのだが……。

 

 

 

―― パクリ要素つなぎ合わせただけでツマンネ

 

―― 相手(主人公)がちょっとチート見せたくらいですぐに敗けを認めてハーレム要員に成り下がるとか、この世界の女武将はバカしかいないのか

 

―― 足利義輝とかマイナーすぎ草生えるww 戦国武将かせめて幕末志士にしろよ 足利は尊氏しか知らん

 

―― ワイは義満と義政なら知ってるゾ

 

―― おー、金閣と銀閣の人だっけ

 

―― いっそ金閣さんと銀閣さんを擬人化して主人公にしろよ

 

―― そこは主人公じゃなくヒロインじゃね? 金閣ちゃんと銀閣ちゃん

 

―― そのほうがこのクソつまんねー話よりはマシになるな

 

―― …………

 

 

 ……酷評されすぎてて辛い……というか最後の方はもう作品の話ですら無いではないかっ。

 ううっ、我の心が折れちゃうよぉぉぉ。

 

 くそう、天才はいつの時代でも最初は大衆には理解されないものなのだ。いずれは時代の方が追いついて我の前にひれ伏すであろう……。

 

 高校時代はまだ良かった。なんだかんだ言っても八幡をはじめ奉仕部の連中が我の小説を読んでくれたからな。あの者たちの指摘は時にはネットのコメント欄以上に辛辣ではあったが、少なくとも悪意は無かった……無かったよね?

 

 卒業後、八幡に相談してみたら、

「プロの作家だってネットでは酷い事書かれたりしてるんだから、そういうのにも慣れが必要だ」

 と言われて、それもそうかと思い大手の小説サイトに我の作品を投稿してみたのだが……orz

 とにかく! 我は傷ついた心を癒すため、ここ最近の憩いの地である、とあるファミレスへとやって来たのであった。

 

 勿論ただ休息するためだけなどではない。我の尊敬している漫画家さんが、

「ネームは家の近くのファミレスでやることが多いです。煮詰まった時なんかは、家で一人でうんうん悩んでるより良いアイデアが出るんですよ」

 と、仰有っていたのにあやかろうと思ったからである。

 

 ……決してこの店のウェイトレスさんの制服が可愛くて、さらにはスカート丈も短くて、バイトに入ってる女の子が可愛い娘ばかりだから――という訳では無い! ……無いのだ。

 

 

 

 ◇  ◇  ◇

 

 

 

 ……ドリンクバーのお替わりもすでに三杯目。我が大学ノートを拡げて例の小説の今後のプロットをああでもないこうでもないと考えていると、店のドアが開き、ガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。

 顔を上げて見れば中学生らしき男子が6、7人。服装は制服だったりジャージだったりとバラバラだが、部活の帰りに小腹を満たしにファミレスに寄ったというところであろうか。

よく見ればその制服の校章やジャージには見覚えがあった。我の通っていた総武高校からほんの200メートル程しか離れていない中学校の物だったと記憶しておる。

 ここの女子の制服は可愛いと評判なのだが――ほむん、残念ながら女子の姿は無い……無念である。まあ、我にはこのファミレスのウエイトレスさんという強い味方がいるから許してやろう。

 

 通路を挟んで我の斜め向かいにある大人数用のボックス席に通された彼らは、手早く注文を済ませると、やや常識に欠ける――少々耳障りな声で騒ぎ始めた。

ややっ、我のちょうど向かいの席に一人で座っていた30歳位の茶髪の男性が顔をしかめて迷惑そうな顔をしているではないか。

 

 我が義憤に刈られ、騒がしい小僧どもを一喝すると、存外彼らは礼儀正しく謝罪し行いをあらためた。そして彼らは後にわが有能な配下になるのであった……というシーンのアイデアが浮かんだのでそれをネタ帳に書き留める。

 

 ……げふんごふん。いや、ちゅ、中学生と言ったって七人もいたら怖いし我にはムリィ!

キレる若者、スマホ世代、オヤジ狩り。君子危うきに近寄らず。

 

 まあ彼らとて悪気は無いのだろう。単に声がデカいだけだ。

 

 そんなわけで、聞くとは無しに聞こえてしまう話を聞いていると、我が知己の者の名が聴こえたような気がして思わず耳をそばだててしまった。

 

「…………」

 

「……藤沢さんって流石に絵ぇ描くの上手いよな~」

 

「藤沢……泉だっけ? まあそりゃ美術部だしな」

 

「いや、そういう話じゃ無くってさ、いやそれもそうなんだけど」

 

「何の話?」

 

「俺こないだ藤沢さんと同じ小学校の奴に聞いたんだけどさ、彼女、藤沢誠司って有名な画家の孫なんだってよ」

 

「藤澤誠司……ああ、確か去年……一昨年だっけ? 亡くなったとかニュースでやってたよな。難病を克服して世界的に認められた天才とかどうとか」

 

「そそ。その藤澤誠司」

 

「でも、凄いんだろ。確か絵一枚で何百万とか何千万とかするって……」

 

「おお! てことは何? 彼女もしかしてお嬢様ってやつ? ……あんまそうは見えないけどな……ちっちゃくって可愛い感じだけど」

 

「お? 可愛いってお前……」

 

「ばっか、そんなんじゃ無いっての」

 

「そうそう。こいつはどっちかっつーと彼女の友達の鶴見さんのことが……」

 

「……余計なこと言ってんじゃねえよ」

 

「鶴見さんって……お前自分の顔鏡で見たことある?」

 

「うるせーよ」

 

「いやでも、留美ちゃん確かに可愛い……ってか、綺麗だよな~。どっかのブランドの専属モデルやってんでしょ?」

 

「ブランドってもデザイナーの個人ブランドのらしいけどな。ゴシックロリータとかそういう系」

 

「へー……ってやっぱ詳しいじゃんお前!」

 

「……別にいいだろ!」

 

「まあまあ。鶴見さんは可愛い。ああいう娘がうちの学校に居てくれることを感謝せねばなるまい」

 

「うん、彼女……ホントいいよな~」

 

「あ、鶴見さんって言えば、こないだトーヤのやつが告って玉砕したって話だぜ」

 

「まじ? トーヤでもだめならお前とかぜってー無理じゃん」

 

「っだから……」

 

「んでもさ……彼女、大学生と付き合ってるとか噂で聞いたぜ……K大生の家庭教師だとかなんとか」

 

「げ、マジ? 俺もちょっといいなって思ってたのに……。お前も残念だったな……」

 

「だからそんなんただの噂だろ。大体今そんな話してなかっただろが」

 

「分かった分かったって。つまり今度は可愛い感じでお金持ちのお嬢様である泉ちゃんに目標変更したと……」

 

「言ってねぇ! 藤沢がお嬢様だってのも今聞いたばっかりだっつーの……」

 

「…………」

 

 

 それであっさりと話は変わって、中学生たちはすぐ違う話題に夢中になっているようだが……。

 

 彼等の話題に上っていた二人……鶴見留美……あのしょっちゅう八幡にくっついておる黒髪ロングの中学生だな。藤沢某というのも彼女の友人だったか。その藤沢という子ともクリスマスイベント等で一応面識はあるのだか……向こうは我の事など覚えているのかどうかも怪しいな。

 

 今の話を聞く限り、鶴見嬢は男子に相当人気があるようだが、まあ納得ではある。

 一昨年のクリスマスイベントで劇の主役を演じているのを見た頃から見栄えのする少女だとは思っていたが、中学生になり、たまに通学路などで見かける彼女は明らかにその美貌に磨きがかかってきている様子であった。此方の中学生が言っていたようにモデル活動までしているようであるしな。

 付き合っているという噂の大学生とはおそらく八幡のことであろう。先日八幡と少し話をした時には、今のところ特に「お付き合いをしてる」という雰囲気ではなかったはずだが、しかし――傍から見ているだけならば、あの二人はそう誤解されても仕方ないくらいに距離感が近い気がするのだ。強いて言えば兄妹のような関係……かもしれぬ。

 八幡め、リアル妹がいるくせにもう一人妹キャラをゲットとかうらめやましい……我の呪いを受けて爆発してしまうがよい。あともげろ。……もしくは一人我に分けて下さいお願いします。

 

 そういえば……彼女ら美浜二中女子の制服は「艦◯れ」朝潮型駆逐艦の改二の制服とデザインが良く似ており、実に我の好み……駆逐艦としては、かなりいい仕上がり……なのである。

 去年の秋頃だったか、件の鶴見嬢と八幡兄妹が通学路で愉しそうに立ち話をしているのを見かけたのだが、その時彼女は髪をサイドに結っていて、朝潮というよりまるで我の好きな、デレないツンこと霞の改二そのままという雰囲気の姿で――実は思わずときめいてしまったりしたのだが……むむん、一生懸命お願いしたら、あの制服に霞の髪型で、

「このクズ!」

 とか言って駄目な我を叱ってはくれぬかな。

 想像すると……ふほうっ! 色々と捗るではないかっ。きっと小説のアイデアも湯水の如く浮かんでくるに違いない!

これはぜひ、八幡の盟友であるという立場を最大限に生かして実現すべく作戦を……。

 

 はっ、いかんいかん!

 

 なんだかんだで八幡は鶴見嬢のことを大切にしているのが端から見ても丸分かりであり、彼女の方も八幡を慕っているのを隠す気もない様子である。

 つまり……彼女にそんな変態ちっくなお願いをしたのがばれたら、怒り狂った八幡により我は物理的社会的に死亡待ったなし!

 

 ええい、だいたい八幡ばかりがなぜモテる。

 確かに一見(つら)が整っておるのは認めてやらんでもないが、あんな淀んで世の中をなめ腐ったような目をしておるくせに……。

 しかもあの男……高校時代からこの美少女JC以外にも、ぽわぽわ巨乳の同級生やらあざとビッチ生徒会長やらともイチャコラしおって……ちょっぴり――いや結構――いやいやめちゃくちゃうらやましいではないかっ! 一周回って、ビッチでも可愛ければアリだと思います。

 

 ん、もう一人とな?

 あ、あの御仁は恐いので正直羨ましくはないです。万が一あんなのと二人にされたら我のライフは5秒に1ずつ減っていって……最期は氷の彫像にされてしまうにちがいないのだ。それに確かにとんでもない美人ではあるがいかんせん胸は無――――。

 そんな事を考えた瞬間、何故か背筋に冷たい物が走る。くっ、なんというプレッシャーだ。これ以上は考える事さえ不可侵のギアスに抵触するというのかッ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………この辺であの手の制服なら浜ニ中ですかね? 野郎の制服は詳しくないっすけど多分」

 

 

 不意に横から聞こえてきた声によって我の硬直が解除される。

向かいのボックス席、先ほど迷惑そうな顔をしていた男性客の連れらしき人がいつの間にか席に着いていた。

 小肥りに眼鏡。髪を金色に染めてピアスと、チャラ男のような格好をしているものの、……どこかオタクっぽいというか、何となくだが我と同じ匂いがする。いや、我は只のオタクではなく小説家のたまごな訳であるが。

 

「はまに……?」

 

「あーっと、美浜第二中のことっす。女子の制服が可愛いって有名で……ぐふ。これがマジで可愛すぎなんすよ~~」

 

 男性客の問いに答えた連れの男はちょっと独特の笑い方をした。

 

 ほう……こいつ、なかなかに良い目をしておるではないか! あの制服は似合う娘が着ると超絶可愛いのだ。なんというわかりみの深さか……。

 同意の意を込めて熱い眼差しを送り、心のなかで拳を握ってうんうんと頷いていると、茶髪の男性からギロリと睨まれた。

 

 我はさっと目をそらして知らんぷりをする。

 彼らは、我の視線に気付いたせいであろうか、お互いに少し頭を寄せ合い、人目を憚るように小声で話を始めた。

 

「…………」

 

「……顔と……調べ……」

 

「……名前……ならなんとか。でも……」

 

「……金……都合良い……」

 

「それって……ヤベー話……」

 

「……ちょっとお小遣いを……」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……調べるだけなら……」

 

 二人が声をひそめているのと中学生が騒がしいのとではっきり聞こえないが……。

 

 顔とか名前を調べる、ヤバい話、金・お小遣い……。さっきの女子の制服が可愛いという話と合わせて、わが灰色の脳細胞で推理すると……ま、まさかお金でエロい事をさせてくれる中学生(制服着用!)を調べろとか探せ言っておるのか? それで

「おじさんがお小遣いあげるからイイコトしよう。グエッヘッへ~」

「そんなにお小遣いもらえるなら…………少しだけですよ、オジサマ」

 とか言っちゃったり――なんて羨まし……げふんごふん、けしからん話だ。

 

 さてはこの二人ロリコンか? あるいは……そういえば、制服が可愛いと言っていたのは後から来た男の方だけであって最初から座っていた茶髪の男性はそれに反応した様子は無かった。つまり想像したくも無いが――目の前の男子中学生こそが獲物(ターゲット)という可能性も微レ存!?

 

 我は驚愕のあまりまたあの二人をガン見してしまい、それに気付いた茶髪にまたまた睨まれてしまったのであった。

 

 だが――後から思えば、こんな些細な日常の一コマが、後に恐るべき事件へとつながっていくということを、この時の我はまだ知らなかったのだ。

 

 ……という物語の導入部分を思いついたのでネタ帳に書き留めた。

 

 しかしファミレスの日常風景では異世界侍バトル作品には使えぬし……ここは一つ気分を変えて新作を書いてみるのも良いかもしれぬな。

 主人公は現代日本に転生した我……ではなく足利義輝。ヒロインは……よし、黒髪サイドテールの中学生で、妹ポジションぽいツンデレキャラにしてみようではないか。

 

 うむ、これは名作の予感! 今度こそ我のラノベ作家デビュー待ったナシ!!

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 その後「小説家になるぜ」に投稿したこの新作だが、

 

―― テンプレ&ワンパターン乙

 

―― 〇〇ちゃんだけ可愛い。主人公は無能

 

―― 恐るべき事件とか言ってた癖に後半話が尻すぼみ杉ww

 

―― 話の時系列が飛び飛び過ぎです。過去と現在がごっちゃになって結局今何が起きているのかが分かりにくいです

ヒロインはよくあるタイプとはいえそこそこ可愛いと思いましたので、設定とか戦闘シーンとかの説明過多で読みにくい文章が勿体なかったです

 

 

 コメント欄にはそんな文章が踊っている。

 

 これは……褒められてばかりではおらぬが、前よりは高評価と言って良いのではないだろうか?

 ……け、決して前が酷すぎたとか褒められてんのはヒロインだけだろうとかそういう事では無いッ

 

 う、うむ。わが未来は明るいな!

 

 我は次代の人気ラノベ作家の地位を掴むべく、新たなる闘いの場へと歩を踏み出すのであった。

 

 

 

 

 ……次のヒロインは、「あざと可愛いロリ巨乳の生徒会長」とかもっとウケるかもしれん……。

 

 

 

 




2/3
剣豪将軍の闘いはこれからだ!(打ち切り感)

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