そして、鶴見留美は   作:さすらいガードマン

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どもども。 更新が滞りがちで申し訳ありません。なんと言いますか、

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というわけで、更新はあせらずにしていきたいと思います。

今回、投稿前に知り合いに読ませたところ、
「長い。一話五分ぐらいで読めるほうが楽」
と言われましたので、4000文字前後の三話に分割してみました。

では、また新たなキャラが参加してくる「聖夜に願う」④⑤⑥。どうぞ。




鶴見留美は聖夜に願う④ 大切な友達①

 

『……世界中で贈り物をやり取りする人々の中で、この若い二人のような者たちが最も賢い行いをしたのです』

 

『こういう者こそが最高の賢者と呼ばれるのです』

 

『……だから、私達から彼ら若い二人に』

 

『そしてみなさんに、心ばかりの贈り物を』

 

『メリー・クリスマス』

 

 

 

「……で、ここで留美と、保育園の代表の子にスポット・ライトが当たるから、ここからは向こうの代表が決まってからもう一回だな。一応、流れとしてはこの後ケーキとお菓子配って、それから留美と綾瀬さんでキャンドルサービスってことになる。大体のところはいいか?」

 

「うん。台詞もそんなには無いし」

 

「あ、あたしも大丈夫です」

 

 ここはコミュニティーセンターの三階ホールのステージ上。八幡の言葉に、私と綾瀬さん――絢香(あやか)が頷く。

 

「後は……あ、そうそう。言いにくい台詞とか有ったら今のうちに言ってくれってさ。変えられるところは書き直すからって」

 

「セリフは別に……ただ……」

 

 私が少し言いよどむと、

 

「ん、どした?」

 

「別に大したことじゃ……。この話は前から知ってたけど、あらためて読んでみると……その、どこが賢者なのかなって。……何ていうか、この二人、結局ちぐはぐな事するわけでしょ。賢者って、頭いい人のことじゃないの?」

 

「留美もやっぱそう思った? 実はあたしも。……二人とも脇が甘いっていうか……とにかくリサーチが足りないっ」

 

 絢香は両足を踏ん張り、右手の拳を握りしめて言う。……相変わらずアクションが大きいなあ。けれど背の高くスラッとした彼女がやるとそれがギャグにならず、いちいちカッコイイのだ。そういうところはちょっと羨ましい。

 

すると八幡は、

 

「ああ、それな。俺も前に気になって調べたことがあんだけど、これってキリストさんが産まれた時にすごく貴重な贈り物をした三人の賢者の話からきてるんだと。『相手のためだけを想って自分の本当に大切なものを差し出すという行為が素晴らしい』って事なんだとさ」

 

「相手のためだけを想って……」

 

「ああ。何でもその贈り物ってのが、それぞれ当時は簡単には手に入らない、家が買えるぐらい貴重なもので、しかも、その三人の賢者たちは、幼いキリストを守るために命がけで王様の命令に背いたんだと」

 

「ま、だからこの『賢者』ってのは頭がいい人という意味じゃなくて……」

 

 

 

「せんぱ~い、ちょっとこっち良いですか~」

 

 ホールの入口から、ファイルを胸にかかえた一色会長さんがぴょこりと顔を覗かせる。

 

 八幡は言葉を切り、「悪い。じゃ、あとでな」と言って舞台から降りていく。

 

「こっち単独で使える予算の事なんですけど~……」

 

 一色さんは八幡の隣にぴたっとくっついてファイルを開き、指を指して何かを説明してる。

 

 八幡は頭をガシガシと掻きながら、

 

「あー、それか……。雪ノ下はなんて言ってる?」

 

「雪ノ下先輩と結衣先輩はケーキとクッキーの材料費の試算してます。あとは、まだ参加人数が確定して無いんで……」

 

 小声で話を続けながら、二人は並んでホールを出ていってしまった。

 

 

 

「へへっ。留美、比企谷さん取られちゃったね」

 

 つい、二人の姿を目で追ってしまっていた私の肩を後ろから捕まえて、絢香がそんな事を言う。

 

「べ、別に取られたとか……」

 

「いやー、他の男の事をそんな熱い目で見られると、夫としては妬けちゃうねえ」

 

 絢香は全身をくねくねさせながら大げさに言い、また「へへっ」と笑う。

 

「『夫の役』でしょ。日本語は正確に」

 

 釣られて笑いながら私は答える。

 

 

 

  **********

 

 

 

 あの、長い会議がようやく決着した日、私は八幡に、「総武高の劇に出ないか」と誘われた。

 

『八幡は、私が出たら嬉しい?』

 

『……おう。まあ、留美ならその、舞台映えすると思うしな』

 

『……八幡がやって欲しいなら、良いけど……。でも、それって八幡が決めちゃていいの?』

 

そう聞くと、彼は視線を天井に向け、しばし考えると、

 

『……まあ、俺はプロデューサーみたいなもんだからな』

 

 そうして、よくわからないけど、とにかく私は総武高の劇に出演することになった。

 

 

 

 その後、上演する劇は「賢者の贈り物」に決まった。私でも知っている有名な話で、作者はO.ヘンリー。

 ざっくり言うと、デラとジムという貧しい夫婦が、お互い相手へのクリスマスプレゼントを買うために、デラは自慢の美しく長い髪を、ジムは親から受け継いだ金時計を売ってしまう。ところが、デラからジムへのプレゼントは金時計のための立派なプラチナの鎖、ジムからデラへのプレゼントは美しい髪を飾るためのべっ甲の櫛で、お互いのプレゼントは用をなさなくなってしまった。という話だ。

 しかし、物語はこの二人を最高の賢者であると言って締めくくる。初めてこの話を読んだ時から少し変だなと思っていたけれど、八幡の説明で何となくだけど納得はできた。

 

 

 

 で、その配役が……

 

 デラ : 私、鶴見留美

 

 ジム : 綾瀬絢香さん。私とは違う小学校。背が高い。カッコイイ女の子。

 

 ヘア用品店の女主人 : 中原さん。誰もやりたがらないので手を上げてくれた。

 

 あとは、ナレーション及び機械の操作に五人、園児の誘導に三、四人。それぞれ兼任あり。中原さんも、出番以外の時はこっちに回る。

 

 それから、楽器が弾ける数人は海浜総合高校のミニコンサートの方に参加することになった。二曲ぐらい高校生と一緒に演奏するらしい。

 

 

 

『じゃ、あらためてよろしくね。綾瀬絢香だよ。そろそろ絢香って呼んでくれたら嬉しいけど』

 

 そう言って彼女は右手を差し出してくる。

 

『こっちこそよろしくお願いします。ふふ……じゃあ、私のことも『留美』でいいよ、……絢香』

 

 私は絢香の手をしっかりと握った。

 

 絢香はまず、背の高さが印象に残る女の子だ。私も小さい方じゃないけれど、立って話すと少し見上げるような感じになる。九月に測った時には161センチだったと言っていた。その後も伸びているらしい。

 意思の強そうな瞳。肩より少し長めの髪を一つ縛りにしていて、美人だけど「かわいい」というより「かっこいい」女の子。あと、アクションがいちいち大きい。そういうところは演劇に向いてるのかも。

 

 

 

  **********

 

 

 

 今日は、あの「書記さん」が劇の脚本を書き上げたというので、劇に参加する小学生みんなと、実際の流れを確認しに三階のホールに来てたんだけど……。

 

「それで? 前から気になってしょうがなかったんだけど……留美と、あの比企谷さんってどういう関係なの?」

 

 他のみんながステージを降りて、私と二人だけになったところで絢香がそう聞いてきた。

 

「どうって……。前に話したことあると思うけど、夏の林間学校の時にお世話になって……」

 

「えぇ~~。でもさ、なんかお互い名前で呼んでるし、最初は親戚とか、ご近所さんとかかなーって思ったけど、そーゆうんでも無さそうだし、この間なんか頭撫でられてるし。……それに、そういう時、留美が比企谷さんを見る時の目がさ……」

 

「え、私の目?」

 

 思わず聞き返すと、

 

「マジ? 自覚無いの?」

 

 絢香は、「意外」といった顔をする。

 

「うん。そんなに変な目、してるかな」

 

「変、っていうか……その、目の中にハートマークが見えるというか……」

 

「な…… え?」

 

「やっぱその、好き、なんでしょ?」

 

 動揺している私に、何故か絢香のほうが赤くなって聞いてくる。

 

 ……「好き」か。正直良くわからない。いや、ここまで来ればさすがに自覚はある。私は間違いなく八幡が好き。……けれど、それが、みんなが囃し立てるような恋愛的な「好き」なのかと問われるとすぐには答えが出ない。

 私は、八幡からは妹みたいに思われているんだろうな、というのが何となくわかる。でも、それが嬉しいと感じる自分もいて……。恋として好きなら、妹扱いされて嬉しいと思うだろうか。……それに、「高校生と小学生の恋愛」というのは、なんだか現実感が無いし。

 

「うーん。よく分かんない」

 

「えぇー、なんで?」

 

「あ、もちろん嫌いなわけじゃないけど……だって、高校生と小学生だよ?」

 

「いいじゃん! 高校生との大人っぽい恋とか、ちょっと憧れあるなぁ」

 

 絢香は、両手をぐーにして軽く頬に当て、わざとらしく腰を左右にくねくねさせる。

 

「だからさぁ、留美はもっとぐいぐい行こうよぉ」

 

「絢香……面白がってるだけでしょ……」

 

「へへっ。やっぱわかる?」

 

「あのねぇ……」

 

 私が呆れた声を出すと、

 

「あ、ゴメン。……こういうの嫌だったらもう言わない」

 

 絢香は、しまった、という感じで真顔になる。

 

「ううん。……ここだけの話にしてほしいんだけど、正直、自分でもちょっとは自覚あるよ。八幡のこと、好きなのかな、って」

 

「! だったら……」

 

「でも、八幡から見たら、多分私は妹みたいなもので……どう考えても恋愛対象にはならないと思うんだよね……」

 

 私が小さく溜息をつくと、絢香は、

 

「うーん……確かにすぐには……。あ、でもさ、あたしら来年は中学生じゃん。中学生と高校生なら、さ」

 

「ふふ。今はこの話はいいよ。まあ、自分でもホントのところ分かってないんだし。……もし良かったら、また相談乗って」

 

 私がそう言うと、

 

「うん。それはもちろん」

 

 絢香はホッとしたように頷いた。

 

 

 





分割一話目 三話で投稿します。

3月2日 誤字修正


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