マジ恋〜直江大和は夢を見る〜   作:葛城 大河

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とりあえず、投稿してみた。そして誰か、俺にマジ恋の時系列を教えて下さい‼︎ マジ恋のストーリーとかもううろ覚えで、殆ど忘れているレベル。英雄の口調ってこれで良いっけ? この時からあずみって居たっけ? もう分からん‼︎(ヤケクソ


第一拳 テロリストと厨二病

何故こうなったのかと、目の前の光景に対して直江大和は考える。大和の前には屈強の男たちが、目出し帽を被り、突撃銃を突きつけていた。

 

 

「あん? なんだこのガキ。何処から迷い込んで来やがった」

 

「ったく、あいつらちゃんと見張ってるんだろうな」

 

 

二人の男がそう言いながら、大和に顔を向ける。それに、幼いながらも、彼は次になにが起きるかを理解した。

 

 

「おいガキ、恨むなら自分の不幸を恨むんだな」

 

「クククっ、やめろ。まさか、迷い込んだ所でテロが起きているなんて誰も思えないだろ?」

 

「はは、確かにな」

 

 

男たちはお互いが笑い合う。その声音には、自分たちが立場的に上だという感情が映っていた。正しくその通りだろう。突撃銃を持つ二人の男と、まだ一桁の子供。確かに、誰が如何見ても男たちの方が立場が上だと思ってしまう光景だ。だが、大和は突撃銃を突き付けられて尚、ニヒル(・・・)に笑った。

 

 

まるで、男たちに対して馬鹿にするように。その笑みに、男の一人が気付いた。

 

 

「あぁ? なにを笑ってやがる」

 

「…………ククッ。いや、滑稽だと思ってな」

 

 

男の言葉に彼は、嘲笑を持って返した。因みに余談だが、一桁の子供が『滑稽』などという言葉を知っているのは、ひとえにある病気により、カッコいい言葉を探す為に辞書を開いて覚えたからだ。

 

 

「お前たちは運がない。何故なら、俺と出会ってしまったんだからな」

 

 

笑みを浮かべたまま、彼は言葉を紡いでいく。その際に、右手を頭に持っていく動作をしながらだ。いきなり、変なスイッチが入った少年に、さしものテロリストも呆然とする。

 

 

「これから貴様らは、真の絶望を味わう事だろう。そう、俺の隠された力によってな」

 

 

そんなテロリストの反応など、知ってか知らずか、少年は口を開き続ける。止まらない少年の言葉に、テロリストの二人は同時に思った。

 

 

『こいつ、イっちまってやがる』、と。

 

 

テロリストは余りの恐怖により、壊れたのだと推測した。それに舌打ちを一つして、男の一人が無造作に突撃銃の引き金に指を掛ける。そして、

 

 

「チッ、泣き叫ぶ所を見たかったってのによぉ。こんなに早く壊れちまうなんざ、楽しみが半減じゃねぇか。もう死ねよ、ガキ」

 

 

パンッ、と空気が破裂するような音が周囲に響き渡る。音速と同等に射出された弾丸は、子供の頭を貫き血の華を咲かす────筈だった。

 

 

「……………は?」

 

「……………ッ⁉︎」

 

 

二人の男がそれぞれ眼を見開く。本来なら、目の前には頭から血を流す物言わぬ子供が出来上がっている筈だった。しかし、彼等の視界には、未だに傷一つ付いていない少年がニヒルに笑っている。如何いう事だ⁉︎ 疑問が彼等を覆いつくす。改めて子供を見ると、先程と変わらずに笑みを浮かべているだけだ。

 

 

だが、その笑みが無性に苛立ちを募らせる。そして、再度、彼等は突撃銃の引き金に指を掛けて、引いた。

 

 

「舐めんじゃねぇぞぉぉぉぉぉッ‼︎ ガキがぁぁぁぁぁぁッ‼︎」

 

 

二人の突撃銃の銃口から火が吹き、ドドドドドドドドッッッと凄まじい音が鳴り響く。と、そこで彼等は目撃した。銃口から放たれる銃弾。勿論、ソレを彼等は視界に捉える事が出来ない。しかし、眼前に佇む子供が、あたかもその銃弾を避けるように動いているのだ。少し首を傾げ、半歩分横に体をズラす。ただソレの繰り返し。銃撃音が止む頃には、辺りに静寂が舞い降りていた。

 

 

そこにあるのは、カランカランと落ちる薬莢と、笑みを浮かべた少年だ。それに男が、ポツリと口を開いた。

 

 

「………嘘……だろ。避けたってのかよ」

 

 

そんな男の言葉に、なにを今更と少年が首を振って答えて見せた。

 

 

「俺にとって避ける事など容易い。そう、この魔眼の力にかかればなっ‼︎」

 

「ま、マガンだと⁉︎」

 

「ま、まさか本当にそんな物があるのか⁉︎」

 

 

勿論、そんな物は存在しない。大和は魔眼などという、物など持っていない。これはただの彼の脳内設定だ。大和が銃弾を避けれたのは、銃口の向き、弾速と弾道の軌道を予測して躱して見せたのだ。断じて魔眼の力ではない。しかし、テロリストにとっては、子供が銃弾を避けたという衝撃な光景を目の当たりにして、二人は半分信じ込んでしまっていた。

 

 

と、ブツブツと言葉を続けるテロリストの男たちに、大和は口を開く。

 

 

「さて、俺は貴様らに言ったよな。真の絶望を見せると」

 

「「……………は?」」

 

 

少年のその言葉に、最初はなにを言っているか理解出来なかった彼等は、しかし、過去を思い返して顔を青褪めた。彼等からしてみれば、目の前の子供は、もう子供ではない。銃弾を意図も容易く避ける化け物だ。そんな化け物が、真の絶望を見せると言った。だからこそ、彼等は顔を青褪めた。

 

 

「さぁテロリスト共、自分の罪を数えろ」

 

 

そう言うや否や、少年は身を低くして疾走した。一瞬で距離をゼロにすると、男の一人に肉薄する。小さな悲鳴が聞こえた気がしたが、大和は気にしない。自身の氣を練り、拳を構える。そして────

 

 

「……………ふっ‼︎」

 

 

裂帛の気合いと共に掌打を繰り出した。放たれた掌打は、男の腹部に直撃する。次の瞬間。少年は勢い良く踏み込んだ。ズンッという内部に響く音が鳴ったと同時に、男は静かに膝から崩れ落ちる。

 

 

────浸透水鏡掌(しんとうすいきょうしょう)

 

 

内面と内部を破壊する掌打。ソレが男の体内を蹂躙した。激しく駆け巡る激痛が、体内を奔る。崩れ落ちた男は、しかし、まだ息をしていた。殺しはしない。ソレが少年の流儀だ。とはいえ、死にたくなる程の激痛を味わう事になるが。そして、男が崩れ落ちたと同時に、大和は動いていた。すぐ横に居る二人目に腕を伸ばす。

 

 

刹那────彼は地獄を体験した。なにをされたのかが理解出来ない。テロリストが最後に見た光景は、少年が関節技を仕掛けた時までだった。その次の瞬間に、生まれてこれまで感じた事のない痛みを覚えた。足で立つ事が出来ず、倒れ伏す。それだけではなく、全身が動かない。動くのは眼だけ。彼はその唯一動く眼で自分がどんな事になっているのかを確かめて、絶望した。

 

 

「あ、あぁぁ…………ぁぁぁあッ⁉︎」

 

 

腕が変な方向に曲がっていた。折れてはいない。関節を外されているのだ。しかも、それは腕の関節だけではなかった。肩、股、肘、膝、指という人が持つ生命活動に必要な最低限の機能だけを残して、破壊し、外されていた。

 

 

────悶虐陣破壊地獄(もんぎゃくじんはかいじごく)

 

 

人間が最低限生きれる機能のみを残して、完全に破壊する技。ここまでやっても、人は死なないという人体の神秘を具現していた。そんな、自分がやった技に大和は引いていた。

 

 

「…………こ、これは。ヤバイな」

 

 

夢の中で見た事はあったが、実際にやるとここまで悲惨なのかと彼は思う。これはもう使わない方が良いなと静かに大和は誓った。

 

 

「さて、如何やらこの場所はテロに巻き込まれているらしいな」

 

 

一応、可哀想だからと直せる関節全てを直した後、彼は呟いた。本当に何故、こんな事になっているのか。それは数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「大和。私と外国に行くぞ」

 

 

直江景清(なおえかげきよ)は唐突にそう言った。それに、母親によりすっかりと、ヤドカリ好きになっていた大和が、飼っているヤドカリを愛でながら、視線を自分の父親に向けていた。

 

 

「如何したのだ? 我が父よ」

 

「ん? 相変わらず、変な言葉遣いだな。まぁそれは良いか。いや、私の仕事の関係でな少し海外に行く事となった」

 

 

たったの五日程で終わる、と告げる景清に大和は、まぁ別に暇だしと頷いて付いていく事となった。そして一瞬にして手続きを完了させ、飛行機に乗り、海外にへと出発したのだ。向かったのはアメリカ。そこで父親と共に、百階を超える程の大きなビルの中に入った。父親が、知らない人と話し始めて、それを見ているとトイレに行きたくなり、景清にトイレに行く事を伝えて、行ったのだ。

 

 

そこで、トイレを済ました彼は二人のテロリストに出会った。簡単に思い出して、大和はため息を溢した。つまり、父親に付いてきたから巻き込まれたという事だ。

 

 

「そう考えると、俺の父さんは大変な眼にあっているという事だな。さて、テロリストは一体、何人居るんだろうか?」

 

 

顎に手を添えて、彼は考える素振りを見せる。何人居るかも分からない。なら、無闇に動く事は危ない事に繋がる。となれば、テロリストの数を確認する方が良いだろう。しかし、彼は目立ちたくない。如何すれば顔を隠して動けるものか、と考えた大和は倒れ伏している、テロリストが付けている目出し帽に、視線が固定されてニヒルに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

九鬼英雄(くきひでお)は今の現状に怒りを覚えていた。彼がこのビルに来ていた理由は、九鬼財閥の代表として来ていたからだ。まだ一桁の子供だが、政治や商売に関しては凄まじい才能を有しているのだ。もしもの危険がないようにと、屈強なSPが付いている。しかし、そのSPは今、倒れていた。それは突如、部屋に乱入してきた男たちによる銃撃から、英雄を守ったからだ。

 

 

チラリと倒れたSPに顔を向けると、生きている事が分かる。彼等は防弾チョッキを着ていたらしく、死んではいないのだが、気絶しているらしい。そして英雄は、乱入してきた男たちに怒声を浴びせた。

 

 

「貴様ら、王たる我の前にそのような物を持って来るなど恥を知るが良いッ‼︎」

 

 

突撃銃を向けている相手に対して、叫ぶ少年に、テロリストの一人が口を開いた。

 

 

「おいガキ。お前、状況を理解してるか? 立場を弁えろよ。今のお前は人質なんだからな」

 

「ふん、立場を弁えるのは貴様らだ。誰の前に居るのか分かって居ないようだな」

 

 

侮蔑を込めた視線を向け、テロリストたちを鼻で笑う。それにピクリと眉を動かした彼等だが、前に居た男が手を横に出して止めた。

 

 

「落ち着けお前ら。…………それにしても、随分と態度が上のガキだな。流石は九鬼財閥の御曹司か」

 

「貴様、我が九鬼の者だと知って」

 

「あぁ、そうだよ。俺の目的はお前だ九鬼英雄。世界最大の財閥の息子を人質に取ったんだ。どれ程の大金を貰えるか」

 

 

自分の未来を想像して、笑み浮かべるテロリスト。つまりはそういう事だ。金欲しさに起こしたテロ行為。それに曲がった事が嫌いな英雄は憤怒した。

 

 

「金だと。そんな事の為に、民を傷付けたのか⁉︎」

 

「あぁそうだよ。この世の中は全て金なんだよ。お前なら分かると思ってたんだかなぁ、九鬼財閥の御曹司」

 

 

下卑た笑みを向けて、テロリストは表情を歪める。それに怒りが膨れ上がってくる少年だ。

 

 

「きさ、」

 

「あぁ、それとさ」

 

 

再度、言葉を紡ごうとした英雄だったが、テロリストの男が言葉を遮り、冷たい声で言った。

 

 

「お前、さっきから煩い」

 

 

パンッと乾いた音が響く。銃口から煙が上がった。

 

 

「……………あ?」

 

 

呆気に取られた声が漏れ、彼は自身の右足を見る。そこにジワリと血が広がった。熱い。右足のある一点が異様に熱く感じる。と、同時に広がる痛み。

 

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅッッッ⁉︎」

 

 

右足を抑えて、痛みに耐える。つまり、彼は右足を撃たれたのだ。痛みに耐える英雄だが、パンッとまた乾いた音が響き渡る。今度は左足を撃ち抜かれ、立つ事が出来なくなり、床に倒れた。倒れた英雄に近付くテロリストたち。

 

 

「ぐぅッ⁉︎ き、貴様ら恥を知れッ‼︎」

 

「へぇ、両足を撃ち抜かれたのに、まだ啖呵を切るか。流石だねぇ。一体、九鬼財閥は自分の子供にどういう教育してんだかな」

 

「────がッ⁉︎」

 

 

倒れる少年の頭をテロリストは踏み付ける。それでも英雄は鋭い眼光を向けるのを止めない。

 

 

「なぁ、お前からも頼んで欲しんだよ。そうしたら、俺たちは大金をゲットしてこのまま帰れる。それで良いじゃねぇか」

 

「ふざ……けるなぁ‼︎ 誰が、貴様のような外道に」

 

「おいおい、余り俺たちを怒らすもんじゃねぇ、ぞっ‼︎」

 

 

バキッと頭を蹴られ、彼は転がる。それを他の男が、足で止める。英雄は朦朧とする意識の中、何処かに腕を伸ばした。だが、テロリストがその腕を、いや肘を踏み付けた。グギリと音が鳴り、激痛が襲う。それに朦朧とした意識が覚醒した英雄は、自分の肘が踏まれている事に気付いた。気付いて青褪めた。

 

 

「………や……め、ろ」

 

「…………あん?」

 

「ひ、肘を………我……の肘を……ふ、むな」

 

 

英雄は止めろと、そう言った。それに男たちは下卑た笑みを浮かべ、足に力を込める。

 

 

「あぁ? 肘がなんだって?」

 

 

グリグリと踏み付けるテロリストに、英雄は顔を真っ青にした。自分はプロになるのだ。世界に出て野球の王になる器なのだ。それがこんな所で終わる? そんな時、背後のドアが粉砕したと共に一人のメイドが飛び出た。

 

 

「ッ⁉︎ 英雄様ぁッ⁉︎」

 

「…………あ、ずみ」

 

 

忍足あずみ。英雄に仕えるメイドであり護衛。九鬼家従者部隊の第一位を任されている。何故、あずみが英雄の近くに居なかったのか? それは英雄から周囲を見て回れと命令された為に、気付くのが遅れたのだ。メイドとして情けない‼︎ とあずみは舌打ちする。そして英雄が居る部屋に辿り着いて、眼にした光景に彼女はブチ切れそうになった。

 

 

両足から血を流し倒れる英雄。その彼の肘を踏み付ける男たち。あずみも英雄が野球好きである事を知っていたし、どれだけ本気でプロを目指しているのかも知っている。だから、許せなかった。その投手にとって大事な肘を踏み付ける行為を。

 

 

「テメェら、英雄様に手を出して、無事に帰れると思うなよ」

 

 

素早く、己の武器である小太刀を二つ取り出して逆手に構える。例え、奴らが銃を持っていても彼女は勝てる自身があった。しかし、それは人質を持って居ない場合の話だ。

 

 

「おっと動くなよ。このガキが如何なっても良いのか?」

 

 

ゴリッと銃口を英雄の頭に突き付けるテロリストに、あずみは呻いた。九鬼家の従者として、守る対象を人質に取られてしまえば手が出なくなるのは当然だ。しかし、忍足あずみは元傭兵だ。その経験により、如何すればいいのかを瞬時に考える。色んな方法を思いつくが、どれも危険な物ばかりである。あんなに銃口を密着させられれば、少し指が動いただけで、英雄の頭から血の華が咲くだろう。

 

 

それだけは絶対に避けなければならない。そう、一瞬で良い。ほんの一瞬だけ、眼を他に向ける事が出来さえすれば、

 

 

そう、考えた時だった。突如、外の廊下で聞こえる発砲音。それと共に『ば、化け物ッ⁉︎』と怯えた男たちの悲鳴が聞こえた瞬間────

 

 

────猛羅総拳突き(もうらそうけんづき)

 

 

という、言葉が聞こえたと共に、部屋の壁が拳の嵐によって完膚なきまでに破壊されたのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

破砕音と共に崩壊する壁と、恐らく見張りをしていた仲間が吹き飛んできた光景に、テロリストの男が苛立ち気に叫んだ。

 

 

「今度は一体、なんだよッ⁉︎」

 

 

そんな男の言葉に、吹き飛んできた仲間の一人が、震えた腕を上げて恐れるように口を開いた。

 

 

「…………に、げろ……やつが……ふ……くめん……が……くる」

 

 

そう言うと、力尽きたのかそのまま気を失った。

 

 

「あぁ? おい‼︎ なんだよ覆面って、チッ、気絶してやがる」

 

 

仲間が言った『覆面』という単語は気になるが、それよりも英雄の頭に銃口を強く押し付けて、今の隙に動こうとしたメイドをけん制した。

 

 

「俺が気付かねぇとでも思ったか? テメェがなにかを狙ってる事ぐらいは分かってんだよ」

 

(こいつ、雑魚の癖に冴えてやがる)

 

 

意外に警戒が強い男に、あずみは歯噛みする。すると、崩壊した壁の所からガラッと音が鳴った。それにテロリストたちが視線を向ける。あずみも隙を伺いながら、横目で確認した。そんな部屋の中に居る者達に見られる中、そいつは現れた。

 

 

「ふっ、これで後は六人ぐらいだったか?」

 

「子供だとッ⁉︎」

 

 

驚きの声を最初に上げたのは、あずみだった。信じられないという思いが、駆け巡る。何故なら、壁が崩壊する前に発せられたあの氣は達人クラスと同等だったのだから。故に、驚愕する。あの氣をこんな子供が放ったのかと。

 

 

「テロリスト共、後はお前らだけだ。投降するなら、痛み目を見ずに済むぞ?」

 

 

ニヒルに笑いながら、上から物を言う少年だ。

 

 

「近頃のガキは大人に対する言葉使いがなってねぇな。おい、やれ」

 

 

新たに現れた顔を隠す子供にまで、上から言われ、流石の男もイライラする。そして横に居る仲間に指示を出すと、表情を歪めて、突撃銃を向ける。そして発砲音。次いで聞こえたのは、隣からの呻き声だった。

 

 

「…………なに?」

 

 

何故、撃った方が呻き声を上げているんだと、隣を見てみるとさっきまで立っていた仲間が居なかった。如何いう事だ? と疑問を浮かべる。だが、その疑問はすぐに解消される事となった。

 

 

「撃ってきたな? 撃ったという事は投降の意思はないと言ってるようなもんだ。つまり、お前らは俺の敵だ。だが、お前らだけ飛び道具があるのはズルイな。だから俺も、飛び道具を使うとしよう」

 

 

────現地調達でな。

 

 

そう言って、目出し帽を被った少年は近くで倒れているテロリストの足を無造作に掴むと、そのまま勢いよく────

 

 

「それそれっ‼︎」

 

 

投げ放った。まるで、手裏剣のように投げられた彼等は、英雄を取り囲む男たちに衝突して吹き飛ばしていく。六人居たテロリストが、人間手裏剣により、一人また一人と倒れていった。そうして、最後に残ったのは英雄に突撃銃を押し付けている男と、汗を全身から流しながら必死に人間手裏剣を躱し続けた男の二人だけになった。そんなとんでもない光景に、あずみは絶句する。

 

 

「とんだ、出鱈目なガキだな」

 

 

ポツリとその少年の印象を語って見せる。その小さな体型から繰り出すには、余りにも出鱈目だ。残った二人も同じ意見なのか、顔を引きつらせている。

 

 

「て、テメェ………なにもんだ?」

 

「俺が何者だと? ふっ、良いだろう教えてやる。俺の名前は覆面Xだっ‼︎」

 

 

男の誰何(すいか)の声に、直江大和は胸を張って自信満々に答えて見せた。覆面Xだと。勿論、これは彼が毎日見る夢の影響に他ならない。仮面ではないのが残念で仕方ないが、これで良しとしようと、胸中で頷く少年だ。

 

 

「で? 如何するテロリスト。後はお前ら二人だけだぞ」

 

「ッ⁉︎ は、お前だって理解してるかガキ。俺には人質が居るんだよ」

 

 

少年の言葉に状況を思い出した彼等だったが、まだ人質が居ると思い出して、英雄を見せるように無理やり立たせて突き出す。その時、痛みに英雄が呻くが勿論、気にするテロリストではない。それに怒りを浮かべるあずみだ。しかし、大和とあずみは動けない。

 

 

「ははっ、こいつを殺されたくなきゃどきやがれ‼︎」

 

 

形勢逆転と見た男は、大声で道を開けろと告げる。だが、退こうとしない大和に、叫んだ。

 

 

「退けって言ってんだよ。コレが見えないのかッ⁉︎」

 

 

ゴツゴツと銃口を何度も押し付ける男に、少年は動かす事をせずに人質にされている英雄を見据えていた。恐らく、近しい年齢の少年を。

 

 

「なぁ、お前の名前はなんて言うんだ?」

 

「……………う、ぅぁ」

 

 

少年の突然の問い。それはテロリストに対してではなく、人質とされている英雄に対してだ。それを理解した英雄は、九鬼の者として、なによりも王として名乗りを上げる。

 

 

「…………わ、我の名は……九鬼英雄。いずれ、野球の王に成る者だ」

 

 

声を発するのも辛い筈だ。それでも彼は、しっかりとした声で言ってのけた。

 

 

「ほぉ、野球の王を目指すか。なら、尚更ここに居るべきじゃないな。お前の力を世界が待っているぞ」

 

「ふっ、当たり前だ。世界を取るのは我なのだから」

 

 

突然に会話しだした二人の少年に、状況が状況だけに呆然としてしまう。だが、男は勝手に喋るなと強制的に口を封じようとした瞬間。全身を悪寒が駆け巡った。まるで、背中に氷塊を入れられたかのような寒気が奔る。それはただ純粋なる威圧だった。勝手な事をするなという風に、会話の邪魔をするなという風に叩きつけられた威圧。その威圧だけで、意識が飛びそうになる。現に、さっきまで立っていた仲間が意識を失い今は一人だけになっていた。

 

 

テロリストが硬直した事を知ると、大和は改めて野球の王に成ると言った少年に視線を向ける。それに向き返すのは、強い意志が宿る眼だ。

 

 

「九鬼英雄。お前は俺を信じれるか」

 

「なにを言う。民の言葉を信じずして、なにが王かっ‼︎」

 

 

大和の信じるかという問いに、王たる少年は愚問だと叫ぶ。

 

 

「ククッ、そこまで言われたら仕方がない。九鬼英雄、俺がお前を助けてやる」

 

「な、なにをする気だガキぃ」

 

 

そこで硬直が解けたテロリストが、見せるように英雄に突撃銃を突き付ける。しかし、少年が動きを止める事はない。腰を落とし、軋む音が鳴るほど筋肉を活性化させて、両手首を合わし手を開き、腰付近に持っていく。英雄も疑う素振りも見せない視線で、目出し帽を被った少年に視線を固定させる。まるで、奴ならやってくれると信じているかのように。腰に両手を持っていった彼は、ゆっくりと口を開く。

 

 

「りょ〜〜〜ざ〜〜〜ん〜〜〜〜」

 

「チッ、俺が殺せないと思ってるのか⁉︎ 舐めやがって、なら見せてやるよ‼︎」

 

 

言う事を聞かない彼等に、いよいよ男が怒りを浮かべて引き金に指を掛けた時だった。大和は構えた両手を前方に突き出した。

 

 

「波ッッッ‼︎」

 

「─────ッッッ⁉︎」

 

 

放たれたのは拳圧によって生じた突風と気当たりだ。気当たりを受け流す訓練を得た者なら、この技は通じないだろう。しかし、男はただのテロリストだ。気当たりを受け流す訓練などしていない。凄まじい気当たりで、男は大きく怯む。そこを大和は見逃す筈がない。床を蹴って瞬時に男の眼前に躍り出る。

 

 

「これで、チェックメイトだな」

 

「ひっ⁉︎ よ、よせ‼︎」

 

 

目の前に現れた少年に、これからなにが起こるかを察して顔を歪める。だが、大和は動きを止めない。ギチリと拳を握る。最初に英雄の姿を見た時、肘にくっきりと足跡が残っていたのを覚えている。そして英雄が語った夢も。だからこそ、大和の胸の内に静かな炎が灯っていた。この男は、もう少しで夢を奪おうとしたのだ。それは許せるものではない。だから、ここで痛い目にあってもらうと、決める。

 

 

「これは、ちょっとばかり響くぞ」

 

「やめ────ッ⁉︎」

 

 

テロリストの言葉が途中で、途切れる。何故なら、少年が技を解き放ったからだ。

 

 

「────風林寺任力剛拳波(ふうりんじにんりょくごうけんは)

 

 

その一撃は容易く音の壁を突き破る程の剛拳だ。それが男の左頬を強打する。と、共にピンボールの如く吹き飛び、部屋の壁も壊して隣の部屋まで吹き飛んだ。その余りにも子供が出すには出鱈目な威力に、あずみだけではなく英雄も呆然とした。しかし、呆然とするのは王に相応しくない。すぐに我に返ると、傷を負っているのが嘘かのように立ち上がる。

 

 

「英雄様ッ⁉︎」

 

「我は大丈夫だあずみ」

 

「し、しかし」

 

 

心配するメイドに、心配は無用だと言う少年。そして改めて大和に向き直ると、礼を言った。

 

 

「覆面Xと言ったか? 礼を言おう。貴様のおかげで、また野球が出来る」

 

「ふっ、礼なんて要らない。俺はただ出来る事をしただけだからな」

 

 

相変わらず上から言う英雄だが、彼は気にせずにニヒルに笑う。すると、彼等の耳に騒ぎの音が聞こえてきた。如何やら、テロリストが倒されたと何処からか広まったらしい。外からパトカーのサイレン音が高く鳴り響く。

 

 

「さて、俺もそろそろ行かないとな」

 

 

父さんが心配してるしな、と胸中で呟いて動こうとした大和だが、英雄に呼び止められた。

 

 

「待つのだ、覆面Xよ‼︎」

 

「なんだ、九鬼英雄」

 

「如何だ? 我に仕えてみないか?」

 

 

突然の勧誘に眼を見開くが、すぐに冷静になり、ゆっくりと首を振って断る。

 

 

「そうか………断るか。なら、もう無理には勧誘はせん。だが、聞かせてくれ。何故、我の勧誘を断る」

 

 

そう聞かれて大和は悩んだ。何故なら断る理由など、ただ面倒だったからに過ぎないのだから。しかし、そう何処か期待するような視線を向ける英雄に、そう答える事など出来る筈もなく、つい彼は言ってしまった。

 

 

「俺は覆面Xだ。常に人を救う為に活動している。そんな俺が、一人の人物に仕える事など出来る筈がない」

 

「おぉ、なんと‼︎ 覆面Xよ、やはり大勢の人を救う為に動いているとは。ややっ、もしやこの場所に来たのも」

 

「あぁ、その通りだ‼︎ 助けを求める声が聞こえたから、俺はここに参上した」

 

 

嘘八百とはこの事を言うのだろうか。最早、ヤケである。言ってしまったのは仕方がない。もうソレで貫くしかないのだ。別に正義の味方をしたかった訳じゃない。ただ巻き込まれたから、テロリストを倒したら結果的に正義の味方っぽくなってしまったに過ぎない。しかし、こうも素直に信じてもらえると、少年の厨二魂が燃えてくる。

 

 

「ふっ、これでも俺は幾億の人間を救ってきたのだ。ビル内の人間を救うなど造作もない」

 

「なんと⁉︎ それだけの人間を救ったと」

 

 

つまり、彼は調子に乗り出したのである。大和の発言に、一喜一憂する英雄とは対照的に、あずみが疑わしそうに冷めた視線を向けてくる。と、大和の耳にこちらに駆けてくる足音を聞いて、幾ら顔を隠していてもこれ以上は出会いたくないと思い、早々に別れを切り出した。

 

 

「では、俺は行くとする。まだ俺に助けを求める者が居るからな」

 

「そうか。………覆面Xよ、今一度、礼を言おう。助かった大義である」

 

「ふっ、またな九鬼英雄。必ず夢を叶えろよ」

 

「誰に物を言っているのだ。王たる我が目指すのだ。ならば、叶ったも同然よ‼︎ もしも、我が世界を取った暁には、覆面Xよ見に来るがよい」

 

 

英雄の言葉を聞いた彼は、楽しみにしてると残して、そのまま消えていった。と、同時に部屋に九鬼の従者が入って来た。だが、英雄は未だに覆面Xなる少年が居た場所を、視線を外す事なく見続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




英雄「そうだ‼︎ アニメを作ろうではないかっ‼︎」
あずみ「英雄様? あ、アニメですか?」
英雄「そうだ。題名は覆面戦隊Xというのは如何だ‼︎ 人気が出るぞ。早速、制作に取り掛かれあずみよっ‼︎」
あずみ「分かりました英雄様ぁっ‼︎」

数年後

大和「や、やめろぉぉぉぉぉぉぉッッッ⁉︎ お、俺の黒歴史をアニメ化するなぁぁぁぁぁぁぁッッッ」


覆面戦隊Xは子供達に凄く人気が出たとか。


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