あの後、なのはとユーノを見送った後にリンディさんと一緒に家に帰ったわけだが時間的に、いるはずがない父さんまでいたことから、どれだけ心配をかけていたかが分かる。実際に帰った時には泣きながら抱き着かれたし。精神年齢の関係から、我ながら子供らしくない子供だったが、気味悪がることなく、普通に愛情持って育ててくれたことには頭が下がる思いである。
次の日には普通に学校に行った。母さんたちからは、一日くらい休んだらどうだと言われたが、別に体調に悪い所は何もないし、なのはに昨日また明日って言っちゃったしな。
「おー、ゆーた、おはようっす」
「おー、おはよう」
「何か入院したとか聞いたけど、大丈夫か?」
「問題ねーよ、もう治ったし」
普通にクラスメートにも俺が入院した情報はしっかりと流れているようだ。うむ、これなら面倒くさい言い訳を考えないで済みそうだなと安心しながら席に座る。
「あ。長峰君。おはよう」
「月村か。おはようっす」
「良かった。元気そうで安心したよ」
「大げさなんだよ、皆。ただ五日間学校を休んでただけで」
「それだけ愛されてるってことなんじゃない?」
俺が肩をすくめてから話すと、月村はクスクス笑いながら返事をする。しかし、内容が疑問文で終わっている辺り信憑性が非常に疑われる。
ちなみにこの会話から分かっているかもしれないが、俺と月村は案外仲が良い。俺は精神年齢だけなら完全に大人だし、なのはやアリサもそうなんだが、特に月村はこの年の子供と比較すると非常に大人っぽい。なので、俺とするとかなり話しやすい相手なのだ。
「アリサちゃんも何だかんだ言いながら、心配してたよ?本人は認めたがらなかったけど」
「ただ、怒る相手がいないから寂しかっただけじゃないのか?」
「あはは。それもあるかもね」
「ちょっと!!私がいない間に私の話をするんじゃないわよ!」
噂をすれば影という諺があるが、どうやら本当らしい。
「よう、アリサ」
「おはよう、アリサちゃん」
「何あからさまに話を変えてんのよ!さっきまでの話と全然違うじゃない!」
「さっきって何の話をしてたっけ?」
「アリサちゃんが可愛いって話じゃない?」
「あー、そーだったな。確かにアリサは可愛い」
「だよね。私もそう思う」
「ちょっと!?適当に話を広げてんじゃないわよ!」
「そーやって、自分が褒められる話をすると露骨に照れる所とかも可愛いよな」
「それがアリサちゃんのチャーミングポイントだからね」
「だから止めなさいって言ってんでしょうが!あー、もう朝っぱらからあんたたちは」
顔を真っ赤にしながら怒る姿は正にバーニング。うーん、相変わらずからかうのが楽しい幼女である。
加えると、月村と協力してアリサをからかうのは良くあることである。こと、こーゆーことに関しての俺と月村のコンビネーションは他の追随を許さないゴールデンコンビである。今度からは、なのはも対象にすると更に面白くなるかもしれない。
「にゃはは。朝から楽しそうだね」
「これが楽しそうに感じるならあんたは病院に行きなさい、なのは」
「でも楽しそうだったよ?おはようアリサちゃん。すずかちゃん」
「おはよう、なのはちゃん」
「あ!ゆーた君もおはよう。やっぱり今日から出てきたんだね」
「おう、なのはおはよう。まーな、もう治っちゃったし」
「ゆーた君? なのは?」
「あんたたちって名前で呼ぶほど仲が良かったっけ?」
「えと、まあ、色々あったんだよ」
「まさか、最近あんたが元気ないことと関係あったんじゃないでしょうね?」
「そ、そんなことないよ」
にゃははと笑いながらごまかすなのはだが、隠し事が面白くないのかアリサは若干不機嫌になっていくが、どうどうと月村が宥めて事なきを得る。
そんなことをしている内にチャイムが鳴ったので、この話はお流れになる。
そして授業が始まったのだが、俺はそれよりも考えなければならないことがある。それは今後の俺の行動である。色々あったとはいえ、こうして俺は日常に戻ってきたわけなのだから、この後は別に原作に関わる必要はない。俺が関わることで多少原作とのズレが進んだが、この程度のズレならば大した問題にはならないだろう・・・多分。
そんなこんなで悩んでいたら放課後になった。時間って経つの早い。
俺は昼休みになのはと念話で、放課後に屋上で話そうって話をしていたので、現在屋上に向かっていたのだが、どうやらなのはの方が先に来ていたらしい。
「悪いな、なのは。待たせた」
「あ!ゆーた君。ううん、全然! 私が頼んだんだし。それに私も来たばっかりだしね」
まあ、なのはがこんなことで怒るわけないか。しかしこんなんでこいつ将来ダメな男に騙されないのか、ちょっと不安である。
「それで何のようだ?」
「えと、ゆーた君とメールアドレスの交換をしようと思って」
え?それだけ?
てゆーか
「別にそんなもんしなくても俺たちなら念話があるだろ」
そう。俺たちの場合、念話があるのだから別に携帯がなくても連絡を取ることが可能なのだ。
「ダメだよ、一応しとかないと!クロノ君に聞いたよ!ゆーと君が巻き込まれたジュエルシードの暴走は、もし運が悪かったら死んじゃってたかもしれないって!もし次にそんなことがあった時のために、連絡を取れる手段を少しでも増やしとかないと!」
そんな危険な状況の中で携帯での連絡が役に立つとも思えんが、まあ、こんなにも真剣なら良いか。別に嫌なことでもないし。
「そんなに言うなら良いけど。ほれ」
「あ、うん。…やった。これで完了」
はい、となのはが俺の携帯を返してくる。
「後、もう無茶なことしちゃダメだよ?これもクロノ君から聞いたんだけど、ゆーと君は魔法を上手に使えないんでしょ?」
あいつ余計なことを言いすぎだろ。俺のファンかよ。
「分かってるよ。俺だって痛いのは嫌いだし、死ぬなんて絶対にごめんだ。そうそう無茶なことはしないさ」
「本当だよ?約束だからね?」
「分かったって。お前は俺の親かよ。それにお前も人のこと言えないだろ?」
「え?私?」
本気で分からないという顔をするなのは。この幼女は人のことを心配してる場合じゃないな。
「アリサが言ってただろ?お前最近元気ないって。それってあのフェイトって奴と関係があるんじゃないのか?」
「う・・・」
どうやら心当たりがあるらしい。
「お前のことだから、フェイトに負けたこととか、フェイトが自分の話を聞いてくれないこととかを気にしてたんだろ?どうやったらフェイトちゃんを止められるのかが分からないーみたいに」
「え⁉︎嘘⁉︎何でゆーた君がそんなこと知ってるの⁉︎」
「ふふん。俺くらいになればお前の表情とか性格とか状況とかでそれくらいのことを読み解くのは訳ないのだ」
「うぅ…」
私ってそんなに分かりやすいかなーと悩むなのは。まあ、実際は原作知識から知っていただけなのだが。
「しかもまだ悩みが完全には取れてないって顔だな?話してみろよ。アドバイスくらいはできるかもしれないぜ?」
「本当?」
「多分な」
微妙に頼りないなーと苦笑いのなのは。内容が分からんのに保証などできるはずないだろ。
「実は、私はフェイトちゃんに勝てるのかなって。後、私の思いがフェイトちゃんに本当に届くのかどうか自信がなくて」
「何だ、そんなことか」
「そんなこと⁉︎」
「そんなことだよ。大丈夫だよ。なのはならフェイトに勝てるし、なのはの思いはフェイトに届くさ」
「え⁉︎何で、ゆーた君にそんなことが分かるの⁉︎」
そんなもん決まってる。
「俺の勘だ」
一気になのはの目が冷めたものになる。原作知識のことが言えないなら、このように言う以外に方法はない。
「それに確かアリサとも殴り合いで仲良くなったんだろ?」
「た、確かにアリサちゃんとはそうだけど…ていうか、どうしてゆーた君がそんなこと知ってるの⁉︎」
「ここから見てたから」
見たのは完全に偶然だったが、原作主人公がいきなり親友に殴りかかっていったあの時は本当にビックリした。
「まあ、冗談はともかく、なのはがフェイトに勝てるかどうかは俺には分からんが、なのはの思いがフェイトに届くのは間違いないさ」
原作知識からすると、勝つのも間違いないけど。
「何でそんなこと言えるの?」
さっきのことがあったからか、微妙に胡散臭いものを見る目でなのはが聞いてくる。
「なのはは、人のために本気で怒ったり、心配したりすることができる女の子だからさ」
これは実際に本気で感じてしたことだ。なのはは全く自覚していないが、誰かのために本気になれるというのは素晴らしい才能だと思う。
「なのははフェイトのために本気で思いを届けようとしてる。だったら、その思いが届かない何てことはないさ」
「本当にそう思う?」
「ああ。もちろん。それでも届かないなら届くように俺がなのはの背中を押してやるさ」
ドンって感じでな。と俺は手を押し出しながらなのはに言う。
その俺の姿になのははクスっと笑いながら言う。
「ははは。ゆーた君らしいね。ありがとう。ゆーた君。私頑張ってみるよ!」
「よし、その顔ができるなら大丈夫だな。とはいえ、実際に俺がやれることなんてほとんどないだろーけど」
俺がなのはとフェイトの戦いに介入したら一瞬で戦闘不能になる自信がある。
「そんなことないよ!」
そんな俺の言葉をなのはは全力で否定する。
「私はゆーた君の言葉で元気を貰えたんだよ?そんなことができるゆーた君にできることがないなんてことは絶対にないよ」
なのはは確かな意思を瞳に込めて俺に言う。
「そーかい。ありがとよ」
「ね、ね、ゆーた君。ゆーた君は元気出た?」
「さーて、どーだかな」
ただ、少しだけ俺にやれることの範囲のことをやろうとは思ったけど。
俺はそんなことを思いながら屋上からの階段を降りた。
なのははその俺の返答が不満だったのか、文句を言いながらも俺の後を追ってきた。
もしかするとこの時が初めてかもしれないな
少しでも、原作に巻き込まれるんじゃなくて、自ら原作に関わろうと思えたのは。
初めて4000字書きました。