死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

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久し振りの投稿です


2.9 言わなきゃ伝わらないこともある

「あれ?ティアナちゃん?」

 

「え…と…確か…アリサさん?」

 

「そうよ。一回あっただけなのに、良く覚えてたわね」

 

珍しく車ではなく、塾の帰り道を一人で歩いているアリサの目の前に一度だけ友人の家で会ったことがある年下の女の子の姿が見えた。

 

「しかし、久しぶりね。こんなとこにいるってことは、雄太に会いに来たの?」

 

「…止めて下さい」

 

「ティアナちゃん?」

 

「私の前であの人の名前を出すのは…止めて下さい」

 

突然泣き出したティアナの姿を見て、ただ事ではないと感じたアリサも心配になってくる。

 

「ど、どうしたのよ、ティアナちゃん?あいつに何かされたの?」

 

「あの人は…奪ったの!私の…私の…世界にたった一人の…大切な…」

 

良くは分からないが、雄太が何かをしたことは間違いないと考えたアリサはため息を吐きながらティアナにハンカチを差し出す。

 

「取りあえず、これで涙を拭きなさい。折角の可愛い顔が台無しよ」

 

「アリサさん?」

 

目の前に差し出されたハンカチを困惑した顔で見つめながらティアナが言葉を発する。

 

「事情は全く呑み込めてないけど、あのバカが何かやったんでしょ。全くあのバカは・・・こんなに可愛い子を泣かせるなんて後でキツク言っておかないとダメね」

 

でもとアリサは笑顔で続ける。

 

「あんなんでも一応私の友達なのよ。だから、話くらいは聞かせてくれない?もしかしたら力になれることがなにかあるかもしれないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし・・・どーすっかねー」

 

途中の道でフェイトと別れて岐路についた雄太はどうすべきか迷っていた。

 

(ここにティアナが来た以上、ティアナを送った奴らも何らかの動きをみせるだろうがそれが何なのか全く見当もつかんからな)

 

相手の出方が分からない雄太としては相手が動き出すまで、効果的な対応策を打つことができないのだ。

 

最近ティアナに接近してきた人間を探したり、現在海鳴にいる不審な人間を特定したりと取れる手段はあるにはあるが、そんなものアリアとロッテがとっくにしているだろう。

 

(とりあえずは、アリアとロッテの報告待ちか・・・はあ・・・めんどくせえ)

 

頭をかきながら雄太は一人悩む。今までは雄太の唯一であり最大の武器である原作知識があったので、常に先手を打つことができた(その結果予想もつかない出来事に遭遇することも多かった)のだが、今回の事件に関しては原作に全く存在しない事件なので、その雄太の知識は全く役に立たない。

 

(未来が分からないなんて前の人生なら当たり前だったんだが、生まれ変わってからは例外を除いて予定調和の人生だったからな・・・10何年振りに味わうと何この感じ・・こえーよ、めんどくせーよ。てか、原作知識も持たない俺の存在意義って何?何の役に立てるっつーんだよ、唯のモブキャラと変わらねえじゃねえか)

 

自虐に近い文句を言いつつ歩いている雄大は、それでも思考は止めずに考え続けた。そして、ふと妙な事に気が付いた。

 

(てか、今更だがそいつらの目的は何なんだ?)

 

よくよく考えてみれば、ティアナを誑かせて地球に向かわせた奴らの目的が見えてこない。わざわざこんな面倒なことをしてまで奴らがしたいこととは一体何なのだろうか。

 

(こんなことをするのは、ほぼ間違いなくあの事件の生き残りしかいないだろうが、こんなことをして一体奴らに何のメリットがある?ティアナに復讐を遂げさせるためか?いや、未来ならともかく今のティアナに俺を殺すなんて無理だろう。だとすれば考えられるのは俺とティアナを会わせることだけど、そんなことに何の意味が)

 

その考えに思い至った時雄太の背中に悪寒が走った。

 

(もしかして会わせることが目的じゃなく、俺を見つけることが目的・・・なのか?だとしたら)

 

直後、雄太の背後から銃声が鳴り響いた。

 

「マスター!!」

 

思考に集中している雄太に普段は落ち着いているレブールが慌てて警告信号を発し、その音で雄太が我に返ると同時に

 

「ぐっはっ!!」

 

雄太の脇腹を弾丸が貫いた。

 

その痛みに意識を持っていかれそうになりながらも、アリアとロッテの特訓のおかげで痛みに耐性が付き始めていた雄太は何とか意識を保ちながら、追撃に備えて物陰に隠れた。

 

「マスター。至急アリア様達に連絡を取ることを推奨します」

 

心配してくれる自らのデバイスの気持ちにむず痒い思いを感じつつ、苦笑しながら雄太は言う。

 

「あんがとよ、レブール。だけど、それは駄目だ。そんなことしたら折角出てきてくれたのに奴さんまた隠れちまうだろ?大丈夫だよ、なんとか急所は外したし、こんなもんホイミでもかけとけば治るって」

 

やせ我慢をしながら、傷口を押さえて雄太は走り出す。ずっと探していた敵を見つけるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?あのバカはティアナちゃんに一体何をしたの?」

 

ティアナと一緒に公園へと移動したアリサは一体何があったのかをティアナに聞こうとするが、ティアナは黙ったまま何も話そうとはしない。

 

これは相当複雑な事情があると察したアリサは思わずため息を吐く。

 

「奪ったって・・・さっきティアナちゃんは言ってたけど、あのバカがティアナちゃんから何かを奪ったってこと?」

 

コクりと黙ったまま頷くティアナ。

 

「そっか・・・」

 

そんなティアナの様子を見ながら、アリサは頭の中でこんな小さい子をここまで傷付けたバカに心の中で文句を言う。

 

(あのバカ・・何があったか知らないけどしっかりアフターケアくらいしなさいよ)

 

これは後で叱るだけではなく、ボコボコにしても良いんじゃないかと物騒なことを考えるアリサだが、一つだけ勝手に信じていることがある。それは

 

「多分ティアナちゃんがそこまで言うくらいだからあいつがティアナちゃんの大切なものを奪ったっていうのは間違いないんでしょうね。だけど、本当にそれだけなのかな?」

 

「どういう・・ことですか?」

 

雄太が何の意味もなく女の子を泣かせるような人じゃないということである。

 

「えーと、何て言えば良いのかしら。奪ったっていうことが事実だったとしても、それが真実だとは限らないといいうか、あー、その・・・あー!!面倒くさいわね、あいつは本当に!!!」

 

上手く自分の考えていることが言えずに、イライラし出して雄太に文句を言い出したアリサの姿を見て、戸惑うティアナ。

 

暫くして落ち着いたアリサは再び話し始める。

 

「ご、ごめんねティアナちゃん。とにかく、私が言いたかったことは、あのバカに本当のことを聞きに行きましょうってことよ。大丈夫よ、私も一緒に行くから心配しないで良いわ」

 

先ほど話した内容と全く繋がらない気もするが、自分の手を掴んでいきなり歩き出したアリサに引っ張られるティアナには、そんなことをツッコむ余裕はない。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。私はさっきあの人に直接会って確認したら、その事実に間違いはないって自分で」

 

「だからって関係ないわよ」

 

ティアナの話を聞きながらも、歩む足をアリサは止めない。

 

「あのバカと付き合うならこれだけは覚えといた方が良いわよ、ティアナちゃん。あいつはね、嘘つきなのよ」

 

本人も無意識の内に少し不機嫌な顔になりながらアリサは続ける。

 

「弱音とか文句とかはペラペラ喋るくせにね、本当に大切なことだったり、本当に痛い時はね、あいつ本当のことを言わないのよ」

 

だからとアリサは続ける。

 

「あんな奴の言葉を信じちゃだめよ、ティアナちゃん。あいつと付き合うならね、あいつの言葉を信じるんじゃなくて自分の信じるあいつを信じなさい。これがあいつと付き合うコツよ」

 

1年生の時から知ってる私が言うんだから間違いないわとアリサは笑う。

 

「アリサさん・・・」

 

そんなアリサの言葉を聞き、ティアナは何も言えなくなってしまった。そんな二人の前に

 

「おやおや、ティアナちゃん。こんな所にいたのかい」

 

数十人の男たちが現れた。

 

「あなたたちは・・」

 

「ティアナちゃん、知ってる人たち?」

 

いきなり現れた不審な男たちに警戒しながらティアナに尋ねるアリサ。

 

「はい。私をここまで連れてきてくれた人たちです」

 

「へえ。そうなの」

 

その言葉を聞きながらも疑いの目は解かないアリサの姿を見て、男たちの一人がアリサに話しかける。

 

「ここまでティアナちゃんと遊んでくれてありがとうな、お嬢さん。後は俺たちに任せてくれて良いから」

 

「あらそう?でもこの子は私と一緒にとあるバカと会わなきゃいけないから、結構よ。ちょっとそこ退いてくれないかしら?」

 

直感的に、この男たちのことは信じられないと感じたアリサは何とか此処から逃げようとするが

 

「そいつはできない相談だ」

 

別の男に手を掴まれて動けなくなり、怒鳴りつける。

 

「離しなさいよ、あんたたち!!」

 

「こうなったらしょうがねえなあ」

 

ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる男たちの姿を見て、ティアナとアリサは本能的に恐怖を感じる。特に彼らを仲間だと思っていたティアナには尚更である。

 

「皆・・・さん?」

 

顔を青くしながら何とか絞りだしたティアナの声も無視し、男たちは続ける。

 

「予定変更だ。このガキも一緒に連れてくぞ」




オリジナル展開は難しい・・・

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