やっぱり日々勉強ですね。
「初めましてだね、長峰雄太君。僕は時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ。」
ティーダさんに連れられて管理局本局に着いてから三日後。年齢の割には随分身長が小さいクロノ通称クロスケが俺の前に現れた。
一応リリカルなのはの中では主要キャラの一人であり、信頼できる有能な人物だ。
少々頭が固いのが玉にきずだが。
「今何か失礼なことを考えなかったか?」
「気のせいだろ」
どうやらアニメの主要キャラクラスになると他人の思考を読むことくらい容易いらしい。
・・・・・・・いや俺が分かりやすいだけか
俺は管理局本局に着いてから、案内をしてくれたティーダさんと別れて、軽い取り調べを受けた。
その結果、ジュエルシードの事件を担当する人(それがクロノ達)が来るまで2.3日かかるから、それまで本局でゆっくりしていて(学校とか家への連絡とかは向こうが処理してくれるらしい。どうやるのかは知らんが)と言われたが特にやることがなかったので、暇な時間を活かして魔力資質の検査権能力テストを受けたり、魔法の練習をしたり色々やったが(ジュエルシードの光を浴びたせいか知らんが、どうやら今の俺には魔力があるらしい。しかし、検査結果は魔力量が常人より多少多いだけで、それ以外の数値は全て並以下。ちょっとだけ期待していた俺が心の中で号泣したのは言うまでもない)一番の衝撃はあの優しいイケメンがあのティアナ・ランスターの兄貴のティーダ・ランスターだったことだろう。
ティアナ・ランスターと言えばStrikersに登場する主要キャラだ。正確には覚えていないが、ティアナの兄は記憶が確かならばStrikersが始まる前には殉職していたはずだ。
その兄の夢を叶えるためにティアナは執務官を目指すのだから。
『ということはティーダさん、後数年で死んじゃうのか』
死ぬということが分かっているのに何もできない自分に少しだけイラッとしたが、そうしたところで俺にできることは何もない。
一応俺には原作知識があるにあるが、ティーダさんのことに関してはティアナの兄であることと何かの事件に巻き込まれて死ぬということ以外何も知らない。
いつ、どこで、誰に、なぜ殺されるのかについて分からなければどーしよーもない。
精々俺にできることと言えば「数年後に殺されるかもしれないので気を付けて下さいね」と声をかけるくらいだが、数年後どころか明日殺されることも有りうるのが管理局の職員だ。俺が言ったところでありがとう、気を付けるよと言われて終わりである。
そもそも仮に助けられたとしてもその場合原作の方に与える影響が不安だ。
なぜなら、ティアナが執務官を目指して頑張るのはティーダさんの死がきっかけだからだ。
つまり、ティーダさんが死ななければティアナは執務官を目指さない可能性が出てくる(もしかすると管理局に入ることもないかもしれない)
そーなると
ティアナが執務官を目指さない(もしくは管理局に入らない)
↓
ティアナが機動六課に入ることもなくなる
↓
機動六課弱体化
↓
機動六課がスカリエッティに負ける
↓
BAD END
なんてことになりかねない。
これは別にリリカルなのはに限った話ではなく、大体のバトル漫画がそうなのだが主人公側は圧倒的に敵の方が強い状況の中、奇跡の連続で勝利を掴むことが多い。(そもそも、そーしないと盛り上がらない)そんな綱渡りのような物語に俺が横やりを入れてしまえば、助けるつもりが逆に綱から落としてしまうなんてことが普通にありそうだ。
こうしたことを考えると俺が何もしないことが一番の正解のように思えてくる。
リリカルなのはは俺が何もしなくてもHAPPY ENDを迎える物語なのだ。
ワクワクするような魔法バトルに男として惹かれるものがないわけではないが、痛いのは嫌いだし、命をかけた戦いをするなんてしたい訳がない。
俺は普通に生きて、普通に働いて、可愛い奥さんと結婚をして幸せに暮らしたい。
しかしだからと言って、ティーダさんを見殺しにするのは流石に気が引ける。
関わる前ならばともかく、関わってしまった今となってはあんな優しい人が寿命を迎えるどころか、20歳くらいで死んでしまうなんてのは可哀想すぎると思う。
それに、大好きなお兄ちゃんを小さいころに亡くしてしまうティアナの悲しみは一体どれほどだろうか。兄が死んでもティアナは元気に育っていくというのは原作が証明しているが、それは幼いティアナの心に傷を付けて良いということにはならない。
内心、そんな矛盾する思いに答えを出せないでおり、思い悩んでいたがクロノの言葉によって現実に引き戻される。
「おい、聞いているか?」
「あ、ごめん。何の話だっけ?」
クロノは呆れた顔で全くと呟いていたが、律儀なのでもう一回話してくれる。
「君を地球に送り届けることは引き受けた。話を聞く限りでは君は完全に被害者だし、そんな人を助けるのも僕たちの仕事だ。君のことがなくても地球に行く用事があったしな」
「もっと素直な言い方ができないんかい」
「うるさいな」
俺のクラスのバーニングさん顔負けのツンデレを披露してくれたクロノ君に思わずツッコんでしまう。
文句は言っているが、顔が少し赤くなっていることから本人にも自覚はあるらしい。
「こほん。そして出発前に君には僕たちの艦長に会ってもらうことになっているが構わないかい?」
「あー、別に構わないけど」
『艦長って確か緑茶の人だよな』
最近少し希薄になってきた原作知識からそんなことを思う。
「なら着いてきてくれ。艦長が君に少し聞きたいことがあるらしい」
「え?何それ?聞いてないんだけど?」