死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

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2.6 やりたいことをやるのは難しい

日曜の朝5時。小学生どころか大人だって熟睡して、休日の布団の温もりを楽しんでいる時間だ。しかしそんな時でも、雄太は今日も今日とて

 

「頑張れー後50周だぞー」

 

「はあっ、はあっ、はあっ」

 

重りを付けた状態で違う星の海岸をランニングしていた。

 

なのはやティーダさん達と遊んだ日から時は経ち、雄太は五年生となった。その時のクラス替えで、雄太はなのは達とは違うクラスになり、あまり会わなくなるかもと思っていたのだが、なのは達は頻繁に雄太の教室まで遊びに来たりしており、全く疎遠になるようなことはなかった。まあ、それは雄太としても良いのだが

 

「うーん、やっぱり応援だけじゃ、やる気が出ないか。しょうがない、多少の後遺症は残るかもしれないが、攻撃魔法を」

 

「うおーっっっっ!!」

 

雄太は加速した。当然である、しなければ命の危険が伴う可能性がある。

 

「なんだ、やっぱりやればできるじゃないか。早くしろよー。しないと、折角の休日が特訓だけで終わるぞ」

 

「終わってたまるかーー!!」

 

このようなあり得ない特訓を一年間以上毎日していることは雄太としても甚だ不本意だ。毎日のように止めたいと思っているのだが、アリアとロッテが(ちなみに、今日はロッテの番)一生懸命になってくれていることに加えて、なのはやフェイト、ヴォルケンリッター達の協力も何時の間にか得ており、特訓に協力してくれている。そこまでして貰えると、雄太としても今更止めるとは非常に言い辛くなっており、何だかんだで今日まで続けているのである。

 

「こ…れ…で、ゴールだ」

 

ゴールと同時に雄太は倒れこむ。 限界まで体力を使った雄太には、立つ体力すら残されていない。倒れた雄太の側に駆け寄り、ロッテは頭を掻きながら言う。

 

「あんまりタイム伸びてないな。やっぱりメニューが甘いのか…もっと厳しくすっかな」

 

おい、止めろ殺すつもりかと雄太はツッコミたかったのだが、体力を使い尽くしたせいで、喋ることすら、ままならないので、ツッコめずにいた。

 

「てか、反応ないな。おーい、生きてるかー?」

 

ロッテは、そこらへんで拾った木の棒で雄太のことをツンツンと刺してみた。ニヤニヤと笑っていることから、楽しんでいるのは明白だ。雄太が特訓で倒れた後ロッテが雄太で遊ぶのは最早日課となっていた。

 

 

 

それから30分後

 

 

「相変わらず体力ないな。そんなんじゃ、持久戦の戦いになれば勝ち目ないぞ」

 

「やかましい。無理難題言うなや」

 

雄太としては才能の欠片もない自分がここまでできていることを褒めて欲しいくらいだ。

 

「泣き言言ってる場合じゃないぞ。自分のやりたいことをやれる自分になるんだろ?」

 

「いや、まあ、そうだけど」

 

それを言われると弱い雄太である。まあ、自分のやりたいことが一体何かは未だに雄太本人にも分かっていないのだが。

 

(今んとこティーダさんを助けたいってことくらいだけど、それってやりたいことなのかねえ)

 

雄太からすると、これは罪悪感から生じる感情だ。自分がやりたいと思うこととは何か違う気がする。可愛い女の子と付き合うことは、当然やりたいことだが、そうすると、ここまでキツい修行をする必要がない。

 

(あれ?俺何でこんなあり得ない特訓してるんだっけ?)

 

雄太が今更過ぎる問いを自らにぶつけている時に、ふと思いついたという風にロッテが喋り始める。

 

「そーいや、来週雄太は三連休だよな?」

 

「あー、そーだぞ」

 

「そっか。なら都合が良いな」

 

何の都合が良いのかは怖いので雄太は聞きたくなかったのだが、嫌な笑顔でロッテは喋り始める。

 

「実践トレーニングに行くぞ」

 

「は!?」

 

「思うんだが、やっぱりある程度の実践をしていないと自分の課題とか弱点とか見えてこないと思うんだ」

 

「いや、お前らとかなのはとの戦いで十分見えてるよ」

 

「あれはダメだ。力の差があり過ぎて、全部が弱点に見えるだけだ」

 

ロッテ達と雄太では実力差が開き過ぎているので、実践ではなく、教導になってしまっている。それでは雄太自身が自分で弱いところが分からなくなってしまうので、ロッテとしてはそろそろ近い実力の者との戦闘経験を積んで欲しいのだ。

 

「俺と実力が等しい奴なんて周りにいないだろ」

 

良くも悪くも雄太の周りは異常な才能に恵まれている人ばかりなので、頼ったりする分には助かるのだが、こういう時は困ってしまう。

 

「だから、実践トレーニングに行くんだよ。お前の相手は野生動物だ」

 

「野生動物?熊とか?」

 

「いや、危険な魔力生物」

 

「いきなりハードルが高過ぎるだろ!」

 

本気でこいつは俺のことを殺すつもりなんじゃないだろうかと雄太は本気で疑いにかかる。しかし、ロッテはそんな雄太の言葉も何処吹く風と言うかのように平然と答える。

 

「だーいじょうぶだよ。そんなに心配すんなって。死なないように気は配るからさ」

 

「できたら、怪我しないように気を配ってくれませんかねぇ!!」

 

「何言ってんだよ。怪我をするのは前提の実践トレーニングだ。怪我くらいして当然だ」

 

「…もうやだ、このスポ根猫」

 

何を言っても無駄だと思い、雄太はため息を吐く。

 

「ま、とにかく来週決行だ。念のために今からサバイバル技術を叩き込むから準備しろ」

 

「俺の休日は何処に行った!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処なんだ、ここはー!!!」

 

雄太はロッテに連れて来られた謎の星で彷徨っていた。着いて早々ロッテは「私がいたら直ぐ頼るだろ。だから、とりあえず1日目は日没までこの森の中で生き抜きな」と言って、何処かに消えてしまった。確かにその可能性はあるが、もう少し優しさが欲しいと感じる雄太であった。

 

「ロッテは居なくなるわ、着いて直ぐに謎のイタチみたいな生物に襲われるわ…何でイタチのパンチが大木をへし折るんだよ、おかしいだろうがよ」

 

ブツブツと文句を言う雄太だが、文句を言ったところで状況は変わらない。

 

「はあ…なあ、レブール。今どの辺か分かるか?」

 

『no data』

 

「だよなぁ、やっぱり」

 

レブールの中にもこの星のデータは入っておらず、自力で全体像を把握しなければ今いる場所も分からない。そのために、とりあえず高いところに向かっている雄太だが、道のりは険しいわ、襲いかかる野生動物はいるわで手間取っていた。

 

「これが1日目とか明日はどうなるんだよ…」

 

考えただけで気が遠くなる雄太。しかし、そんなことを考えている間に高く、開けた所に出た。

 

「お!着いた、着いた。うへー、結構高い所に出たな」

 

どうやら、気がついたら遠くまで歩いていたらしい。雄太が周りを見渡していると、人の姿が目に入った。

 

「あれは…ティーダさん?」

 

雄太が見た先にはティーダと時空管理局の仲間と思われる男達数人がいた。ここで何をしてるのかは分からなかったが、何となく雄太が目で追っていると

 

「な!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんのよ、ロッテ!特訓中に弟子から目を離すとかあり得ないでしょ!」

 

「うるさいな!ちゃんと遠見の魔法で見てたんだよ!見てたら誰かに結界を張られた影響で映像は途絶えるし、雄太との通信も転送もできなくなっちゃったんだよ」

 

「言い訳しない!とにかく急ぐわよ」

 

苛立ちからロッテを責めたアリアだが、心の中ではロッテの対応に失敗はないことが分かっていた。雄太がいる地域に何らかの異変があったとロッテから連絡を受けて、アリアが急いで来たのは10分ほど前で、雄太との連絡が途絶えてから、1時間以上経過している。大丈夫だとは思うが、アリアもロッテも不安を隠せずにいた。とりあえず最後に雄太の姿を確認できた所に到着はした二人だが、そこに雄太の姿はない。二人は雄太の姿を探すために周りを確認するが見当たらない。しかし本格的に焦ってきた二人の耳に聞き慣れた声が届く。

 

「おい、アリア!今の声って」

 

「ええ。雄太の声よ」

 

叫ぶような雄太の声が聞こえた二人はその方向に進んで行く。しかし途中でロッテが妙なものを発見した。

 

「ん?お、おいアリア!あれ!」

 

「どうしたのって…え?」

 

ロッテが指差した方向に見えるのは人の姿。しかし、より正確に言えば

 

「死体?」

 

「何でこんな所に…とにかく雄太を探すぞ!」

 

雄太の声が聞こえた方向に進んだアリアとロッテだが、そこには予想外の光景が待っていた。

 

「そんな!?」

 

「これは!?」

 

10人ほどの管理局の人間と敵対したと思われる男達の死体があった。戦闘の結果なのか辺りの地面は抉られ、一部では炎が残っていた。

 

「ここで一体何が…」

 

「雄太!!」

 

その惨状の近くに立っている雄太の姿を確認したアリアは雄太の側に駆け寄った。しかし雄太の姿は平常時とは違っていた。

 

「雄太!大丈夫!?何があったのよ!!」

 

「アリア…頼む…」

 

雄太の手は血で真っ赤に濡れており、立っている雄太の足元にも胸をレブールの剣で貫かれた死体があった。

 

雄太は静かに涙を流しながら言う。

 

「何もなかったことにしてくれないか…?」

 

ティーダ・ランスターの死体が。

 

 

 

 

 

 




結局こうなってしまった…

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