何なんだろう、この状況は。
「へー、ゆーたにこんなにしっかりした友達なんていたんですね」
「いやいや、ゆーた君は充分しっかりしているよ。小学生なのが信じられないくらいだ」
「ゆーた君はしっかりしている所としっかりしていない所が両極端だからね。それよりもなのはちゃんとフェイトちゃんもティーダさんと知り合いだったのは意外だな。ねぇねぇ、何処で知り合ったの?」
「にゃ…にゃはは。ちょ、ちょっとした時にね。ね、ねぇフェイトちゃん?」
「ここで私!?そ、そうだねちょっと家族の問題があった時にね。ただ、ティアナとは会ったことがなかったけど」
「あー、それは仕方ないんだよ。まだ小さくて小学生に上がる歳にもなってないから連れていくのも危ないしね」
「でも、今日は何で連れてきたんですか?」
「えと、ダメだったですか?」
「い、いやいやそんなことはないよ!ただ何でかなーと思って聞いただけで」
「ああ。それは僕が今日仕事が休みだったからね。雄太君が入院してる時は忙しくて一回もお見舞い行けなかったし、こっちに来る用事があったから来ようと思ったんだ。そうしたら、ティアナも行きたいって言うもんだから、観光がてら連れてきたんだ」
何か凄く話が盛り上がってる。もう一度言おう。何なんだろうこの状況は。何でウチのリビングでなのは達とティーダさんとティアナとお喋りすることになってるんだ。てか、こいつらコミュ力高すぎだろ。6人中3人が初対面なのに何でこんなに普通に話ができんだよ。俺みたいな人見知りにはできん芸当だなー、羨ましい。
『現実逃避してないで会話に参加しなさいよ』
俺の頭の上からアリアが念話で話しかけてくる。てか、さりげなく人の思考読むなや。
『あなたが分かりやす過ぎなのよ』
アリアはやれやれといった様子を見せる。え?俺そんなに分かりやすいの?
『ところで、雄太』
『なんだよ』
『前に言ってた犠牲にしようとしてる人ってこの人なの?』
俺の思考が一瞬停止する。故に俺は答えられなかったが、その反応だけでアリアには充分だったようだ。
『やっぱり、そうなのね』
少し悲しそうにアリアは呟く。
『軽蔑したか?』
『馬鹿なこと言わないでよ、私にそんな資格はないわ』
恐らくアリアは、はやてのことを思い出しているのだろう。はやては気にしていないと言っていたが、アリアが自分を許すとは思えない。これから先ずっと。悲しい生き方だとは思うが、これはアリア達が自分自身でけりをつけなければならない問題だ。俺がなんとかできる問題ではない。
『だからね、私はこのことに対して何も言わないわ。だけど一つだけ言わせて』
一瞬の沈黙の後にアリアは続ける。
『あなたがこれから先どういう選択をして、どういう境遇に陥ったとしても私達は、いえ、少なくとも私はあなたの味方よ。これだけは忘れないで』
言葉を選んでいたのかアリアは随分とゆっくりと喋っていたが、だからこそアリアの言葉は俺の心にしっかりと染み込んだ。
(俺には勿体無いくらいできた師匠だよ、本当に)
アリアの言葉で俺の心が少し軽くなった気がした。お礼を言うべきかとも思ったが、ここでお礼というのは違うように感じた。
『その内お前には話すよ』
『期待しないで待ってるわ』
そのアリアの言葉を最後に念話は終わったが、その余韻からか思わずニヤついてしまう。素直じゃねーな、こいつも。
「何ニヤついてんのよ、気持ち悪い」
はたと気付くとなのは達全員が俺を見ていた。やべ、アリアとの念話に集中し過ぎてた。
「さっきから会話に参加しないから、どうしたのかと思って見てみれば、何一人でニヤついてんのよ。完璧不審者よ、あんた」
「誰が、不審者だ誰が」
「だからあんたよ」
「ゆーたさん何か面白いことあったの?」
容赦ないアリサはともかく、純粋な瞳で質問してくるティアナには少々困ってしまう。何と言えば良いのやら。俺がそんなことを考えていると思わぬ所から助け舟が来た。
「ダメだよ、ティアナちゃん。こーゆー時のゆーた君は、どーせ真面目に質問に答えてくれないから」
「おい、待て止めろ。子供に嘘を教えるな」
「雄太君も十分に子供のような気が…」
「そー言えば、そーだよね。何でもないとか秘密だとか言って何時も誤魔化すし」
「言う時もあるだろーが」
こいつらは人のことを何だと思っているのか。アリアはこの状況を面白がって笑っているし。言っとくけど、お前も原因だからな、この野郎。
「そんなことより、折角集まったんだから何かしよーぜ」
「何かって何よ?」
「何かは何かだよ」
「ゆーた君それ答えになってないよ…」
すずかが呆れたように言うが、こんな大人数に加えて年齢の幅があると、なかなか良い遊びが思いつかない。ん?遊びではないが、頼みたいことはあったな。折角だから、他の人に決めて貰おう。俺は首にかけていたネックレス状のデバイスを机の上に置いた。魔法関係者であるなのは達はぎょっとした顔をした。大丈夫だって、魔法使うわけじゃないから。
「何よこれ」
「ネックレス」
「そんなもん見れば分かるわよ。何で今このタイミングでこれを机の上に置いたのかって聞いてんのよ」
相変わらずせっかちなお子様だな、少し待て。
「いや、皆にこのネックレスの名前を決めて貰おうと思ってな」
「はあ?」
言葉を発したアリサだけでなく、事情を知るアリアとなのはとフェイト以外は何を言ってるんだこいつ的な目を俺に向ける。正直俺もネックレスに名前を付ける男とかキモいと思うが、まあ、小学生ならアリだろう。
「いや、実はな。このネックレスは知り合いに貰ったオーダーメイドのネックレス何だけど、オーダーメイドだからこそ、このネックレスには名前がないんだよ。くれた人は俺が自分で付けてくれって言うんだけど俺ネーミングセンスないからさ、他の人に決めて貰おうと思って」
「ふーん、そう言うこと。あんた意外にロマンチストなのね」
「馬鹿言ってんじゃねーよ、男は何歳になってもロマンチストだよ」
「相変わらず馬鹿みたいなことを自信満々に言ってんじゃないわよ」
アリサは俺の言葉に額に手を当てるが、どうやら名前を決めてくれるつもりはあるらしい。他の皆も一生懸命に考えてくれている。
「あ!ゆーた君こんなのはどう?」
「どんなのだ?」
「レイジングサン」
「やだ」
「即答!?何で!?」
何でってお前嫌に決まってんだろ。なのはのレイジングハートと殆ど同じじゃねぇか。
その後も幾つかの案が出たが、なかなかコレと言ったものは出てこなかった。まあ、今日決めなくても良いから、止めにしようかなと俺が声を発する直前にティーダさんが提案を出してきた。
「レブール」
「はい?」
「雄太君のネックレスの名前だよ。どうかな?」
レブールねぇ…うん、響きが良いな。気に入った。
「それ良いと思います」
「うん、シンプルだけど良いよね」
どうやら他の皆にも好評のようだ。しかし、一つだけ気になることがある。
「ティーダさん、レブールってどっから出てきたんですか?」
「ああ、それはね」
ティーダさんはニヤッと笑い、続ける。
「本に書いてあったんだけど、フランス語で天邪鬼とか捻くれたって意味らしいんだ。雄太君らしい名前だろ?」
その言葉に皆がドッと笑い出したが、俺一人仏頂面で座っていた。ちくせう、ティーダさんにまでそんな間違った印象を持たれているとは。
それから、今度は普通に人生ゲームをしたりして盛り上がった後になのは達は帰って行ったが、ティーダさん達は母さんの遠いところから来てくれたんだから、晩飯くらい食べて行けという言葉に甘えて夕飯を食べてから帰ることにした。現在は夕飯を食べ終わり、俺とティーダさんとティアナの三人で食後のお茶を飲んでいる。猫状態のアリアはティアナの足の上で横になっているというか、捕まっている。どうやら、ティアナに気に入られたようだ。
「いや、悪いね雄太君。晩飯までご馳走になってしまって」
「俺は何もしてないんで、構いませんよ。礼なら後で母さんに言っといて下さい」
「それは勿論だよ。でも、雄太君にも楽しませて貰ったからね。年長者として感謝するのは当然だよ」
相変わらず底抜けに良い人だな。なのはといい、フェイトといい、俺の周りはこんな人ばっかか。俺の汚さが身に染みて辛いんですけど。
「そんなにお人好しだといつか酷い目に会いますよ」
「心配してくれるのかい?ありがとう。気をつけるよ。でも、大丈夫。相手は選んでいるからね」
ホンマかいな。しかし折角の機会だし、ちょっと聞いてみるか。
『アリア』
『何?』
『ティーダさんと二人で話したいことがあるから、ティアナを上手く部屋の外に連れて行ってくれ』
『難しいことを簡単に言ってくれるわね…まあ、いいわ。待ってなさい』
アリアはそう言うと、体をくねらせて、ティアナの拘束から抜け出した。
「あ!猫ちゃんが!」
「ティアナがそんなに締め付けるからだよ」
「そんなに力強くしてないもん!」
「いや、別に怒ってはないみたいですよ」
俺の言葉でティアナがアリアを見ると、アリアはティアナの近くをウロウロしており、ティアナはそれを見て目を輝かせた。こいつ演技上手いな。
ティアナはもう一度アリアを捕まえようとするが、アリアはひらりと躱した。悔しくなったのか、さらにティアナはアリアを捕まえようとするが、アリアはギリギリで捕まらないように避ける。それを繰り返すことで、上手くアリアはティアナを部屋の外へと連れ出した。グッジョブ、アリア!後で小魚あげる!
「ははは。どうやら、猫の方がティアナより一枚上手みたいだね」
「ですね。そう言えば、ティーダさんに聞きたいことがあったんですけど聞いても良いですか?」
「いいよ。何?」
「ティーダさんは、どうして管理局に入ったんですか?」
「誰かの命を助ける仕事がしたかったからかな」
「それがティアナを悲しませることになってもですか?」
俺の言葉にティーダさんの顔が真剣になったが、構わず続ける。
「管理局にティーダさんの代わりはいても、ティアナにティーダさんの代わりはいないんですよ。別にティーダさんくらいの人なら、命懸けの仕事をしなくたって他に仕事なんて幾らでもあるじゃないですか。だったら管理局の仕事を辞めたって」
「雄太君」
ティーダさんは優しく俺の言葉を遮る。
「ありがとう。やっぱり雄太君は優しいね。でも、悪いけど俺は管理局の仕事は辞められないな」
「何でですか?」
ティーダさんはニコリと笑いながら言う。
「僕はティアナだけじゃなくて、雄太君のことも皆のことも同じくらい大好きだからさ。だからこそ、他の人が傷つくのを見たくないんだよ。その結果、自分が傷ついたとしてもね」
馬鹿みたいで、笑っちゃうだろ?そう言い、ティーダさんは更に笑う。俺はそのティーダさんの言葉を笑うことも何かを返すこともできなかった。ただ、自分が何を言ったとしてもティーダさんが管理局を辞めることはないだろうということだけは分かった。俺は、はあとため息をついた。
「ええ。本当に馬鹿ですね」
「遠慮なしだね」
遠慮など、こんな大馬鹿のお人好しには不要だろう。まあ、いい。ティーダさんの返答はある程度は予想できたことだ。俺がやるべきことに代わりはない。
「馬鹿に馬鹿と言っても問題ないでしょう。じゃあ、俺は一つだけその馬鹿に約束をしますよ」
「約束?」
「今日はありがとうございました。おばさん。雄太君」
「ありがとーございました。おばさん。ゆーたさん」
「いえいえ、こちらこそ特にお構いもしませんで」
「帰り道は気を付けて下さいね」
ティアナがそろそろ寝る時間が近いということで、ティーダさんとティアナは帰ることにした。まあ、時間も時間だからしょうがないな。
「雄太君。また今度ね」
「また遊ぼうね。ゆーたさん。アリアさん」
「今度は俺らの方から行きますよ」
その言葉を最後にティーダさんとティアナは帰って行った。ふう、やれやれ、なかなか大変な1日だったな。俺が体の力を抜くと、母さんはその様子を見て笑う。
「ふふ、雄太あんたなかなか楽しそうだったじゃない」
「まあ、普通に楽しかったからね」
だからこそ思うんだ。
10年後に、またこのメンバーで笑い合えたら良いなって。
ティーダのキャラってこれで良いのだろうか。