死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

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無理矢理な感がありますけど、これで闇の書編終わりです


2.3 女の笑顔は恐ろしい

雄太が入院した日の翌日。本日の夕方は雄太がヴォルケンリッターと会う約束をしている日なのだが、雄太はグレアム提督との戦闘の影響で3週間の入院を命じられてしまった。

 

「せっかく見つけた解決への糸口なのに、そうそう手放せるかっての」

 

雄太にとって、この約束をすっぽかすという選択肢はない。今の雄太とヴォルケンリッターとの間に信頼関係など無いに等しく、この約束で会うことができなければ、もうヴォルケンリッターと話し合う機会は失われるだろう。そうなっては、ここまで痛い思いをしてまで頑張ったことが無駄になってしまう。

 

(まあ、こっそり出かければバレないだろ)

 

なので雄太は病院着から普段着へと着替え、病院の外へと抜け出す気でいる。正直傷は痛むが、そんなことに構っている場合ではない。下手をすれば、怪我どころか世界が滅亡する。そんな思いと共に病室のドアへと手を掛けると

 

「そんなことだと思った。大人しく寝てなさい」

 

「へぶし!」

 

雄太は病室の外で待ち構えていたアリアの持っていたハリセンに頭を叩かれて座り込んでしまった。アリアは、そんな雄太の姿にため息を吐く。

 

「全く・・・大人びてると思ったら、こんな子供でもしないような無茶をするなんて振り幅が激しすぎるわよ。3週間の入院をしなきゃいけないくらいの怪我なのに次の日出かけるなんて駄目に決まってるでしょ」

 

まあ、怪我をさせた私たちが言うのも何だけどとアリアは顔をそらしながら言う。しかし、そんなことよりも雄太には聞きたいことがあった。

 

「随分と遅かったじゃないかアリア。待ちくたびれたぜ」

 

「悪かったわね。本当は入院してるあなたに猫の姿で寄り添うつもりだったんだけど、あのプレシア・テスタロッサがあなたの治療をすることになったから方針を変えたのよ。彼女ほどの魔導士なら私たちが何に姿を変えようともバレてしまいそうだったからね」

 

まあ、そうだろうなと雄太は思う。プレシアならばアリアたちの変身を即座に見破ることが可能だろう。その結果俺とグレアム提督たちとの関係が露呈してしまえば、色々と工夫してきたことの意味がなくなってしまう。

 

「だから一緒にいるのはやめて少し遠くから雄太の様子を見守ることにしたってわけ。雄太なら今日までに何かしらの行動を起こすと思ったからね」

 

最後にウインクをしながらアリアは言う。色々と文句を言いたかった雄太だが、アリアが可愛いので許そうかなという気持ちになっていた。可愛いは正義である。

 

しかし雄太は冷静になってみると今のアリアの言葉は色々とおかしいことに気付く。

 

「いや、何でアリアが今日までに俺が行動することが予測できるんだよ」

 

「だって、あなた今日ヴォルケンリッターと会う約束をしてるんでしょ?」

 

「何でそんなこと知ってんだよ」

 

「あー…それはね」

 

「それは?」

 

「雄太が気絶してる時に、雄太の記憶を少しだけ見ちゃったのよ」

 

「おい」

 

「本当にごめんなさい!でも、あなたの意識が戻るのが遅かった時に備えて、あなたが持ってるヴォルケンリッターの情報を手に入れる必要があったのよ」

 

そう言われては雄太としても返す言葉がない。別に他人に知られて恥ずかしい性癖があるわけでもないし、アリアが本心から謝っていることは伝わってくるので、これ以上追求することは止めた。

 

「じゃあ、それはいいや。なら分かってるだろ?多少の無理をしてることは百も承知だが、行かなきゃならないんだよ」

 

「じゃあ、それはいいやって…勝手に自分の記憶を他人に覗かれてるのに軽いわね」

 

もっと怒っても良いわよというニュアンスを込めてアリアは言う。

 

「別に怒ったってしょうがないだろ?無駄にエネルギーを使うだけだし。あんたらだってしたくてしたわけじゃないってのは、アリアの顔を見てれば分かるしな」

 

その雄太の言葉にアリアは、ぽかんとした顔になった後吹き出したように笑い出した。

 

「何がおかしいんじゃい」

 

「あはは。だって、あなた素直じゃないんだもの。私たちのことを気遣ってくれてるならそう言ってくれれば良いのに」

 

まだ笑い足りないのかアリアは暫く笑っていた。そしてその笑いが収まってきた頃に満面の笑顔で喋り出した。

 

「でも、ありがとう。今のこともそうだけど、父様のことも。ここ数年ずっと辛い顔をしていたのに、あなたとの勝負の後から憑き物が落ちたみたいにスッキリした顔になってるの。全部あなたのおかげよ」

 

アリア程の美人にお礼を言われたこともそうだが、それ以上にアリアの笑顔が魅力的過ぎて雄太の心臓は物凄い勢いで高鳴り始めた。

 

(ヤバい、何かドキドキしてきた)

 

バレたら確実にからかわれるので雄太が赤くなった顔を逸らしていると

 

「どうしたの?急に黙っちゃって」

突然喋らなくなった雄太を心配してアリアが雄太の顔を覗き込む。そうすることで、アリアのキレイな顔が近くなるだけでなく、アリアの甘い匂いもするようになってしまう。いよいよ、男の生理現象まで生じ始めた雄太は慌ててアリアから少し距離を取り、話を変える。

 

「と、ところで俺の記憶の一部を覗き見たってことは今日の約束のことも知ってるんだろ?だったら、早く俺を病院から出させてくれないか?」

 

「ああ、その件なら気にしなくても大丈夫よ。あなたの代わりに父様とロッテが行ってるから」

 

「は?グレアム提督とロッテが?」

 

突然の話の流れに疑問符が浮かぶ雄太。アリアは優しい笑顔を浮かべながら言う。

 

「そう。八神はやてには本当に酷いことをしちゃったからね。父様が自分で謝りに行って協力を頼むって言ってきかなくてね。本当は私も連いて行きたかったんだけど、雄太のことを見張っている人も必要だったから。私も今度謝りに行くわ」

 

「そーかい」

 

原作とは全く違う流れに多少の不安はあるが、こんな変化なら良いのではないだろうかと考えた雄太は、懸念材料の一つが消えたことに胸を撫で下ろす。

 

「じゃあ、闇の書はどうするんだ?」

 

「あなたの記憶から、闇の書を封印するんじゃなく消滅させることも可能だと思ったから、そうすることにしたわ。万が一のための私たちの保険もあったし、ヴォルケンリッターも結構蒐集してたから早ければ二週間くらいで解決できると思うわ」

 

「じゃあ、俺は」

 

「あなたは行かせないわよ。行くと言うなら、気絶させても置いとくわ」

 

(まだ何も言ってないのだが…)

 

そもそも雄太としては自分の実力からして行っても邪魔にしかならないことは分かっているので、行くつもりはない。その事実が少し寂しくはあるが諦めるしかない。

 

「分かってるって。俺みたいな雑魚が行ったって何もできないって言うんだろ?大丈夫だって。自分の実力くらい知ってるよ」

 

雄太のその言葉にアリアは非難を込めた瞳を向ける。その瞳に雄太は少し居心地が悪くなる。

 

「な、なんだよ。事実だろ?」

 

「自分でそういうことを言うのは止めなさい。あなたくらいの年で自分の可能性を狭めるものじゃないわ」

 

ふぅとため息を吐くとアリアは何か悪巧みを思いついた子供のような顔になる。その顔に雄太は嫌な予感を覚え、話を変えようとしたがアリアの方が先に話を始める。

 

「そういえば、雄太言ってたわよね。もう逃げないって。自分のやりたいことをやるって」

 

「いや、まあ言ったけど」

 

それが何だという気持ちを込めて雄太は言う。

 

その雄太の言葉を受けて、アリアは先ほどの優しい笑顔とは違う見てると嫌な汗をかきそうな笑顔を雄太に向ける。

 

「今の雄太じゃあ、自分のやりたいことをやれるとは思えないわ。だから、今までのお礼として私たちが雄太がやりたいことをやれる手助けをしてあげるわ」

 

その笑顔と言葉に雄太は猛烈に寒気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三週間後に雄太は無事退院した。その間に闇の書事件はほぼ原作通りに終わりを告げた。雄太としてはリィンフォースを助けたかったのだが、その場に行く手段も助ける方法も分からなかったので何もできなかった。その事実に心が痛んだが、気にし過ぎてもしょうがないので反省はしながら普通の小学生生活を送る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

 

「何で…俺が…こんな目に…合わなきゃ…ならんのだ…」

 

雄太は魔力負荷が大きくなる重りを付けながら山道を走っている。側には楽しそうに雄太の様子を見守るアリアがいる。

 

「言ったでしょ?雄太がやりたいことをやれるように手助けするって。そのためにはまず、実力をつけないと。安心して。確かに雄太は才能ないけど、私とロッテが本気を出せば普通の魔導士には負けないくらいの力を身につけさせてあげるわ」

 

(その特訓が終わった後に俺の命はあるんですかね、アリアさん)

 

退院した次の日から、雄太はアリアとロッテが考えた特訓メニューをこなしている。初めて見た時は人間のやるメニューじゃねぇと逃げ出したくなったが、アリアとロッテの雄太ならできるという謎の信頼に負けて続けることになってしまった。本当に思う。どうしてこうなった。

 

「はーい、ラストスパートよ。スピード上げて。上げないと雷の矢が降り注ぐわよ」

 

「ギャアーーー!!」

 

雄太はアリアの強制的なスピードアップの指令により、残る体力を振り絞って全力疾走をする雄太。雄太の後ろから雷の雨が降っていることから、アリアの話は脅しではないことが分かる。雄太はギリギリながらゴールまで駆け抜けた。その後はその場で倒れこみ、息も絶え絶えになる。

 

「はあ!はあ!はあ!」

 

「はい。10分休憩。その後は素振り5000回ね」

 

アリアは雄太が見惚れた美しい笑顔で言うのだが、今の雄太から見れば鬼も可愛く思えるほどの恐怖の笑顔にしか見えない。だが、アリアもロッテも雄太のことを考えて夜遅くまでメニューを作ってくれていることも知っているので文句も言えない。雄太は寝ながらため息をつく。

 

 

「俺は平凡に生きたいだけなんだけどなぁ」

 

 

 




次からは空白期です

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