「おい、聞こえてんだろ?猫姉妹。お前らの父親のグレアム提督に会わせろって言ってんだろが」
何も言わない目の前の猫に対してもう一度問いかける。
「にゃー」
「にゃー?」
「それは本当に唯の猫だ。私はこっちだ」
後ろから話しかけられたので、振り返ってみるとリーゼロッテと思われる猫がいた。あれ?では目の前の猫は?
確認のため、もう一度正面の猫を見ると、くあーっと眠そうな声を上げながら体を伸ばし、そのまま隣の塀の上にジャンプをして何処かに行ってしまった。
俺とリーゼロッテの間に微妙な沈黙が流れる。
・・・え、どうするのこの空気。
気まずくてリーゼロッテの方を見れないため、未だに猫が消えた方面を見続けている俺を哀れに感じたのか、リーゼロッテ(人間形態)の方から俺に話しかける。
「あー、あれだよ。私が来るっていうのは何となく感じていたのは凄いと思うよ。だから元気出しなって」
一応慰めようとしてくれているらしいが、逆効果ですロッテさん。
「・・・それじゃあ、グレアム提督の所に連れて行ってくれ」
「ああうん。分かった」
俺の肩をポンポン叩きながら、案内してくれようとするロッテ。結果オーライになったとはいえ、こんな調子で大丈夫なのだろうか。
「君が雄太君か。初めまして。私がギル・グレアムだ。とは言っても、ロッテのことを知っていた君だ。私のことも知っているんだろうがね」
「はあ。まあ、そうですが」
まさかこんなに簡単に会うことができるとは思わなかったな。まあ、ヴォルケンリッターの所に突然こんな魔力持ちの謎の少年が現れて、しかも、その少年がリーゼロッテのことを知っているとなれば、グレアム提督も興味を抱くか。
現在俺は、リーゼロッテに連れて来られてグレアム提督の執務室にいる。グレアム提督は俺の正面に座り、それに連れ添うような形でアリアと思われる女性が横に立ち、ロッテが部屋の唯一の出入り口に立っている。まあ、ここまで厳重な警備をせんでも、俺がここにいる人たちに勝てるどころか逃げることも不可能なのだが。
「しかし何故君が私たちのことを知っているんだね?私の記憶が確かならば私たちと君は初対面のはずなんだがね」
まあ不思議に思うよな、そりゃ。
「はい、その認識で合っていますよ。俺とあなたたちは、これが初対面です」
「では何故その君が私たちのことを知っている?」
これはクロノたちに話したのと同じ話でいくか。クロノたちが信じてくれたんだから、グレアム提督たちも信じてくれるだろ。
「俺には未来予知できるレアスキルがあるからですよ」
「未来予知できるレアスキル?これはまた随分と珍しいレアスキルを持っているな」
「はい。そのレアスキルでグレアム提督たちのことも知っていたという訳です」
「なるほど。では君が八神はやてとヴォルケンリッターの所に現れたのも、そのレアスキルと関係があると考えて良いのだね?」
何かこの世界の人たちって鋭い人が多すぎない?
「そうですよ。そう言うと下心があるみたいではやてには悪いですけどね」
まあ、実際に下心があった訳だからしょうがないか。バレたら誠心誠意はやてに謝ろう。
「一体八神はやてに何の用があったんだね?」
隣のアリアは警戒した目で俺を見ている。グレアム提督もアリア程ではないが、心なしか先程よりも目つきが鋭くなっている気がする。
「俺が用があったのは、はやてじゃありませんよ。俺が用があったのはヴォルケンリッターとグレアム提督たちです」
場の温度が急激に下がった・・・気がする。
「私に用?そういえば、雄太君はロッテに私に会いたいということを伝えていたそうだね」
「はい。時間も惜しいんで単刀直入に言わさせて頂きます」
俺は一呼吸置いてから
「今グレアム提督がしている計画を中止して、クロノやヴォルケンリッターと協力して八神はやてを助けて下さい」
その俺の言葉を聞いた瞬間にアリアは杖を手に取り、俺に攻撃をしようとするが、グレアム提督が手で止める。
「私の計画?何の話だね?」
「ここまできて、しらばっくれるのは止めましょうよグレアム提督。グレアム提督がはやての養父だってことも、はやてを人と関わらせないようにするために結界を張っていることも、はやてごと闇の書を封印しようとしていることも俺は全部知ってるんすよ」
いよいよ、アリアと恐らく後ろにいるロッテから警戒した空気を感じるが、全神経を集中して無視するように努める。
しかしグレアム提督は目を瞑ったまま、何事かを考えているだけで、特に殺気のようなものは感じない。
(もっとアリアやロッテみたいに警戒するなり、捕まえようとすると思ったんだが…)
意外なほど、冷静なグレアム提督に雄太は少し拍子抜けしてしまう。
これなら案外すんなりといくかもと考えた雄太だが、その判断は甘かった。
「なるほど。君のレアスキルの話はどうやら本当みたいだね。そこまで分かっているのなら、誤魔化す必要もないか。君の言う通りだ。確かに私たちは八神はやてごと闇の書を封印しようとしている。それは私たちの罪だろう。だが、これは必要なことなのだ。闇の書をこのまま放っておけば、さらなる犠牲者を生んでしまう。その連鎖を断ち切るには、これしか方法がないんだ」
「それが間違いなんですよ、グレアム提督。あなたたちがそんなことをしなくても、クロノ達やヴォルケンリッター達と協力すれば闇の書を消滅させることが可能です。これは俺が見た未来ですから、間違いありません」
俺のその言葉に、警戒していたアリアの表情が驚愕の表情へと変わる。
俺は更に続ける。
「ですから、こんなことは止めていいんですよ、グレアム提督。あなただって、別にこんなことしたい訳じゃないでしょう」
俺のこの言葉で部屋の中の時間は止まる。俺もグレアム提督も全く動かない。アリアは少し困ったような顔でグレアム提督を見ている。俺の言葉から、こんなことをする必要がなくなったことに喜びつつ、信じて良いのか分からないという不信感も混じった微妙な表情だ。
「なるほど君の言いたいことは分かった」
グレアム提督のこの一言で部屋の時間が動き出す。
「だが、私はこの計画を止める気はない」
それは俺にとって予想外な一言だった。
「な、何でですか!グレアム提督!はやても救えて、闇の書も消滅させられるという理想の道があるんですよ!?」
「確かに、君が言っていることが本当になるならば、それが理想なことに間違いはない」
「なら、何故!」
「では聞くが、君の見た未来が確実に来るという保証はあるのかね?君の見た未来に君はいたのか?そして、君はこんなことをしていたのかい?」
「そ、それは…」
答えられない。それこそ正に俺が懸念していることだからだ。
「なら、君の要望は叶えられないな。1%でも失敗する可能性のある計画に乗ることはできない。私はどんなことをしても、何を犠牲にしても今回で闇の書を封印しなくてはならないからな」
「計画に100%なんてあり得ないでしょう!グレアム提督の計画だって、絶対に成功するという保証があるもんじゃない!」
「その通りだ。しかし私の中では君から聞いた話よりは私の計画の方が成功する可能性が高いという結論を出した」
「こ…の…頑固オヤジが」
幾ら言っても自分の考えを全く曲げないグレアム提督に、雄太も少しイラつきを覚え始めた。それはグレアム提督が自分の言うことを信じてくれないからというだけではない。雄太自身は気付いていないが、グレアム提督は似ているのだ。雄太が一番許せない存在と。
「頑固オヤジか…構わんよ。君が何を言おうと可能性の少ない賭けに乗るつもりはない。だが、どうしてもと言うなら勝負をしないか?」
「勝負?一体何の?」
「何簡単だ」
その言葉を言い終わると同時に、グレアム提督は俺に拳を殴りつけてきた。俺は咄嗟に後ろに後退したため、無事だったが、俺がいた場所の床は破壊されていた。
「「父様!?」」
アリアやロッテは完全に想定外だったであろうことが、ありありと分かるほど焦った声を出す。しかしもっと想定外だったのは雄太だ。原作で見る限り、グレアム提督がこんなことをするとは思えなかったからだ。
「雄太君と私の一対一の勝負だ。私は肉体強化以外の魔法を使わない。雄太君はどんなことをしても良いから、私に一撃を与えたら勝ちだ。逆に私は雄太君を気絶させたら勝ちだ。はっきり言って、この勝負はどう考えても私の勝ちだ。しかし万に一つ雄太君が勝つことができたのなら、先ほどの雄太君の提案を飲むことを約束しよう。それでどうかな?」
無理ゲーにも程がある。何時もの雄太ならば絶対に乗らない勝負だ。しかしこの勝負以外にグレアム提督の考えを変える方法が思いつかないことに加えて、先ほどから何やらグレアム提督の考えに苛立ちを覚えていた雄太は
「いいぜ。乗ってやる。目を覚まさしてやるよ頑固オヤジ」
次回はバトルパートです