「じゃあね、ゆーた君。また明日」
「また明日ね、ゆーた君」
「遅れないようにしなさいよ」
「はいよ。じゃーな、また明日」
今日もいつも通り学校に行って、てきとーに勉強して適度に遊んで、なのはたちと別れて、家に帰る。まあ、今日はこの後リンディさんに呼ばれてアースラに行くんだが、ほぼいつも通りの毎日だ。こんな当たり前の毎日が普通に続いていけば俺としては非常に嬉しいのだが
「続かないんだよなぁ」
うんざりとした気持ちを吐き出すようにため息をつく。ジュエルシードの一件から暫く時間が経ったし、そろそろ闇の書事件が始まるころだろう。正確な日時は分からんが。
別に闇の書事件が起きるのは良い。問題なのは、俺という存在の影響で闇の書事件がどのような変化をするのか全く分からないということだ。ジュエルシード事件の時に起きた変化は、俺が時の庭園に行かなければ起きなかったのだが、今回の舞台は俺が普通に生活している海鳴市だ。はっきり言おう。巻き込まれる気しかしない。
腹が立つことに俺は戦闘能力は低いのに、魔力はそこそこあるという全くもって要らない特徴がある。そんなほとんどエサみたいな奴をシグナム達が放っておくとは思えない。このままいけば、確実に俺は蒐集される。
まあ、百歩譲ってこれも良い。痛いのは嫌だけど、これで死ぬことはないだろうし、これによって平和に過ごせるのなら我慢できる。だが…
「どんな変化が起きるか全く予想がつかん…」
ジュエルシード事件の時はプレシアが虚数空間に落ちなかったというだけで、あんな変化が起きたのだ。俺の魔力が蒐集された結果何かが起きたとしても驚きはない。そうなると、俺が蒐集される訳にはいかないのだ。そのために、やりたくはないのだが、一応なのはとユーノと一緒に魔法の特訓に参加してはいる。しかし、相手がシグナムとかでは焼け石に水も良いところだろう。この短期間に俺が何をしようとも勝てる相手ではない。
「考えるのはやめよう。なるようになるさ、うん」
まあ、ここまで考えてから言うのも何だが俺の魔力は多いとは言っても、そこまで多い訳ではないのだ。そんな俺の魔力が蒐集されたところで闇の書の完成にそう影響はあるまい。
雄太はそのように考えて、とりあえずは悩むのを止めた。
このような雄太の思考を死亡フラグと呼ぶ。
「こんにちは、雄太君。急に呼び出してごめんなさいね。」
「こんにちは、リンディさん。それは別に良いですけど、用事ってのは何ですか?クロノもいないみたいですけど」
「クロノはフェイトちゃんとプレシアさんの裁判の件で本局に用があってね。今はあの二人と一緒に本局にいるはずだわ」
「そうですか。んで、俺に用事ってのは?」
「ああ、そうそう。これを渡したかったの。プレシアさんがカスタマイズ完了したから雄太君に渡して欲しいって」
「マジすか、わざわざ、ありがとうございます」
リンディさんは、以前プレシアがカスタマイズしてくれると言っていたインテリジェントデバイスを渡してくれた。しかしリンディさんも忙しいだろうに、わざわざこれを渡すために来てくれなくても、良かったのだが。
「気にすることはないわよ。実は雄太君の是非会いたいって人がいてね。その人を雄太君に紹介するついでに持ってきただけだから。もう少しすれば来ると思うわ」
「俺に会いたい人?」
リンディさんと俺の共通の知り合いなど、ほとんどいないはずだが。
「ええ。後そのインテリジェントデバイスの名前を知りたいと言っていたので、プレシアさんに聞いてきたけど」
「けど?」
「「自分で考えて」だそうよ」
「はい?」
「プレシアさんに聞いたのだけれど、雄太君はそのデバイスを拾ったんですって?」
「まあ、そうですけど」
「プレシアさんの理屈だと、「私がそれを捨てた段階でそれの名前はなくなった。であれば、それを拾った人が名前を付けるべきだ」ということらしいわ」
「何ですかその理屈」
まあ、分からんでもないが。
「という訳で、そのデバイスの名前は雄太君が付けてね」
「まあ、そうなりますよね」
名前ねー、何が良いか。例えばライトニングサンダーとかどうだろう?・・・ないな。まあ、追々付ければ良いか。
「それで俺に会いたい人ってのは?」
とりあえず、用事を済ませて帰ろう。
「凄く優しい人よ。それに雄太君はお世話になったこともあるわ。あ、丁度来たみたいよ。入ってきて」
俺がお世話になった人ねえ。一体誰なのやら。
「こんにちは、雄太君。久しぶりだね」
その声を聴いた瞬間俺は固まった。何故だ、あの人がこのタイミングで此処にいるはずがない。俺は自分の耳が間違っているのを期待して、ギギギと音がしそうな程ぎこちないスピードで首を回した。
しかし残念ながら俺の耳は間違っておらず、振り向いた先には俺が会いたくない人(罪悪感的な意味で)ダントツで1位の座に君臨している
「オヒサシブリデスネ、ティーダサン」
ティーダ・ランスターが立っていた。
「雄太君を連れてきてくれた時に少し話をしてね。凄い好青年だったから人材交流の一環を兼ねて暫くアースラで働いてもらうことになったの。そうしたら・・・」
リンディさんは何やら話を続けているが、俺の頭には全く入ってこない。予想外の事態に完全に混乱している。何でティーダさんがここにいるんだよ⁉︎原作では、此処どころかティアナの過去話くらいにしか登場しなかったはずだ!俺一人の不確定要素でも大変なのに、更にティーダさんというもう一人の不確定要素が増えるなど考えたくもない。いや、待て。まだ分からん。闇の書事件が始まる頃には、ティーダさんはもう此処にはいないかもしれん。
俺は一縷の望みをかけてリンディさんに質問する。
「そ、そうですか。と、ところでリンディさん。ティーダさんはどのくらいアースラにいるんですか?一ヶ月くらいですかね?」
「やーねー、雄太君。そんなに短い期間じゃ人材交流にならないでしょ?まあ、1年くらいかしらね。それでも少ないくらいよ」
俺の希望という名の塔がガラガラと崩れ去る音が聞こえた。
そんな俺の様子を気にもせずに、ティーダさんは俺の側に近寄り話しかける。
「いやあ、あの時の子供が魔法使いになるだなんてビックリしたよ。ただ今にして思えば、あの時雄太君が僕の前に現れてくれたことに本当に感謝しているよ。あのことがなければ、こうしてアースラで働くなんて貴重な経験は体験できなかったと思うからね」
俺の心とは真逆な明るい笑顔のティーダさんを死んだ目で見て、俺は言う。
「そうですか、それは良かったです。俺も今回の件で大切なことに気付けました」
一拍置いてから、俺は呟くように
「やっぱり、世界って優しくないんですね」
ティーダさん再登場