死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

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連続投稿はできなかったー


1.4 大切なものは見えにくい

「何を言ってんだ、てめえ」

 

プレシアは雄太が何を言っているのか分からず、尋ねる。プレシアだけでなく、なのはもクロノも雄太が何を言っているのか理解できず、困惑している。しかし雄太は、全く構わずに話を続ける。

 

「何を黙ってんだ。聞こえてんだろ?殻に閉じこもってねーで、出てきやがれ」

 

プレシアはようやく雄太の言いたいことに気付き、鼻で笑う。

 

「はっ。何を言うかと思えば。あいつはもう死んでんだよ。アリシアが死んだあの日にな」

 

「お前こそ何言ってんだよ。お前こそ、プレシアがまだ生きているってことを知っているはずだろうが」

 

プレシアの言葉を雄太は完璧に否定する。普通ならば戯言だと無視してしまえば良い話なのだが、雄太の言い方には確信が感じられた。実際には、この時点で雄太の話に証拠などない。しかし雄太はハッタリと挑発で自らの話に信憑性があるように感じさせた。ある意味凄い才能である。

 

「…てめえ、このピンチに頭がイカれたんじゃねーだろうな。そんな訳ないだろうが」

 

「じゃあ、何でフェイトは生きてるんだ?お前は出てきてからずっと殺傷設定で戦ってただろーが」

 

言われてみればとクロノとなのはは、フェイトを凝視する。そう。もし本当のプレシアがもう死んでいるのであれば、あいつがフェイトを殺さない理由はない。まだ本当のプレシアが生きているからこそ、その思考が邪魔をしてフェイトを殺すことを咄嗟に躊躇ってしまったのだ。

 

「ふん。今更フェイトと対面する勇気もない。かと言ってフェイトを殺したくもない。そんなところだろ?お前の考えは。甘えんな。自分にとって都合の良いことばっかり選びやがって。引きこもりですか、この野郎」

 

なのはもクロノもユーノも気絶から目覚めたアルフも思う。

 

(この人一体何目線で喋ってるんだろう)

 

どう贔屓目に見たみたところで、雄太はそれほど他人に誇れるような生き方はしていない。基本的に自分がしたくないことはしないダメ人間だ。そんな自分の事を顧みず、良くそんなことが言えるものだと一周回って感心してしまう。

 

「アリシアを失っただと?世の中に家族を亡くした人がどれだけいると思っていやがる。自分一人だけ悲劇のヒロイン気取ってるんじゃねえ」

 

「失ったこともないガキに何が分かる。そんな簡単に割り切れるほど世界は簡単じゃねえんだよ」

 

「らしくない言葉だな、プレシア。偽りの人格じゃなくお前の人格が出てきてるぞ」

 

雄太のその言葉に初めてプレシアの表情が変わる。本人も無意識だったのだろう。

 

「それにガキだって色々あるんだよ。俺だって、あんたと同じだ。全てを、大事なもの全部失ったことがある」

 

雄太にはこの世界で生まれてくる前の記憶がある。大好きだった人がいた。お気に入りの居場所があった。帰ることができる場所があった。もう一度会いたい人がいた。それらを全部・・・奪われた。

 

「最初は、この理不尽に怒ったさ。何で俺がこんな目に会わなきゃならないんだ。昨日までは普通だったじゃないか。毎日そんなことばっかり考えてたよ」

 

これはまぎれもない雄太の本音である。今までの人生を勝手にリセットさせられたのだ。怒るなという方に無理がある。しかし同時に、雄太には救いもあった。

 

「だが皮肉なことにな、失ったからこそ出会えた人もいるんだ」

 

そう。雄太は失ったからこそ今の雄太の両親に、なのはに、ユーノに、クロノに出会うことができた。雄太の両親は子供らしい子供ではなかったであろう雄太にも、普通の子供のように愛情を注いで育ててくれた。それが雄太にとってどれだけ救いだったか。

 

「馬鹿な俺でも気付けたんだ。あんたならこんなこと、とっくに気づいていたはずだろーが」

 

「・・黙れ」

 

「いつまでも失ったものばかり見てるんじゃねえ。目を開けて前を見れば残った大切なものが見えてくるはずなんだよ」

 

 

「黙れっつってんだろうが!」

 

雄太の言葉にいら立ちを覚えたのか、プレシアは目の前の雄太に雷の剣を振り下ろす。しかし

 

「ようやくだ。隙ができたね」

 

「しまっ!?」

 

雄太の言葉に耐えきれなくなったプレシアは雄太を黙らせようと攻撃をしかけるが、その前にユーノのバインドを発動させた。雄太がプレシアを挑発することにより、プレシアの隙を生じさせ、その隙を見つけてユーノがプレシアにバインドを仕掛ける。これこそが、雄太の作戦だったのだ。

 

そしてその作戦のとどめはもちろん

 

「「なのは!! 頼む!!」」

 

「うん!任せて!!おっきいのいきます!! ディバイーーーーン」

 

「この糞ガキどもがぁぁ!!」

 

プレシアは自らの危機を悟り、必死にバインドを解除しようとするが、焦るあまり解除できそうもない。

 

そして

 

「バスターーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

桃色の閃光がプレシアの視界を覆った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きてるのか、あれ?」

 

「非殺傷設定だから大丈夫だよ・・・多分きっと」

 

なのはの攻撃の余波によって生じた爆風や粉塵から思わずそんな感想が出てきてしまう雄太。ユーノの口調からするとユーノも確信はできないらしい。まあ、無理もない。目の前のちょっとした災害が通り過ぎたような跡を見て、人の生存を信じることは難しいだろう。絶対になのはを本気で怒らせることは止めようと心に誓った雄太だった。

 

まあ、これで終わっただろと一安心した雄太だが、全く安心できない状況であることに気付く。時の庭園全体が大きく揺れる。前のプレシアがジュエルシードを暴走させたことにより、崩壊しかけている時の庭園の崩壊のスピードが一段と早まったのだ。

 

「うおお!?」

 

「ゆーた君!こっち!」

 

衝撃により地下に落ちかけた雄太だが、助けに来てくれたなのはの手を掴むことで事なきを得た。

 

「サンキュー、なのは」

 

「えへへ。良いよ、これくらい」

 

そう言うと、なのはは雄太を抱えて空を飛ぶ。周りを見てみるとある程度回復したアルフがフェイトを背負い、ユーノとクロノと一緒にひとまず安全な所に避難している。

 

「おい、クロノ!どう考えてもヤバいぞ!何で逃げないんだよ!」

 

「逃げられるなら、とっくに逃げている!だが、ジュエルシードの暴走のせいで僕たちが入ってきた入り口はもう瓦礫で塞がれている!しかも電波障害まで発生したせいでアースラに連絡もつかない!こうなったら自分たちで新たな逃げ道を作る以外に方法がない」

 

「じゃあ作れ!今すぐに!」

 

「だから、その為の方法を今考えているんだ!」

 

「もー、二人共!こんな時にまで喧嘩しないでよ!」

 

雄太もクロノも切羽詰まった状況に焦りの色を隠せない。それは他のメンバーも一緒だ。

 

「とにかくまずはこの部屋から脱出することを考えるべきだ。不幸中の幸いと言うべきか、この部屋はほとんど崩壊している。ここまで壊れていれば新たな出入り口ができているかも・・皆避けろ!」

 

クロノが話している最中に側にあった石柱が倒れて雄太たちを押しつぶさんと迫ってくる。クロノは何とかその寸前に気付いたが、それでも遅すぎた。皆は避けることもできずに目をつぶる。

 

しかしいつまで経っても、来るはずの痛みが襲ってこない。雄太たちは誰にともなしに目を開いた。そこには誰にも想像できない光景が待っていた。

 

「ぐぐっ」

 

「「「「「プレシア(さん)!!!」」」」」

 

プレシアが雄太たちを石柱から守っていたのだ。

 

「全く・・私にあんな説教を叩いた癖にだらしないわね」

 

「プレシア・・あんたまさか」

 

「そんなことはどうでもいいわ。早く行きなさい」

 

雄太は何かに気付いたが、プレシアはその雄太の言葉を遮り、顔で石柱の奥を指し示す。

 

「この石柱が倒れたことで新たな出入り口ができたわ。ここをまっすぐ行けばあなたたちが最初に来た場所に出られるはずよ」

 

「あんたはどーすんだ?」

 

「私の事を気にしている場合?急がないと崩壊に巻き込まれるわよ」

 

しかし雄太たちの誰もそこから動かない。そのことにプレシアはフッと笑い

 

「本当に私の事はいいのよ。どの道病気で長くないわ。後一年も生きられないわ」

 

そのプレシアの言葉になのはとアルフは衝撃を受けたが、雄太とユーノとクロノは「やはりか」といった顔をしていた。前のプレシアの言葉から、うすうすは感づいていたらしい。

 

「だから私の事は置いていきなさい。遅いか早いかの違いよ。悔いはないわ」

 

「そんな・・」

 

「だけど、一つだけお願いがあるの。雄太となのは・・だったかしら?」

 

「・・なんだ?」「何ですか?」

 

「フェイトを・・私の娘を・・守ってあげてほしいの・・私が守ることのできなかった、私の大切な娘を」

 

プレシアは自嘲するように笑うと続ける。

 

「アリシアが死んだ日から私の時間は止まった。世界から色が消えた。こんな世界なんてどうでもいいと思った」

 

ドォーンという音を立てて天井が崩れるが、雄太たちはプレシアの話を聞き続ける。

 

「でも違ったのね・・私はただ見ようとしなかっただけ・・大切なものはすぐ傍にあったのにね」

 

プレシアはアルフに背負われているフェイトを見る。

 

「皮肉よね。なくしそうになった時に初めて大切なものに気付くなんて」

 

石柱の重さに負けてプレシアの膝が地面に着く。

 

「もう私には守ることはできないけどあなたたちなら・・フェイトの為に勝てるはずもない敵に挑めるあなたなら・・何度負けても、拒絶されてもフェイトから逃げなかったあなたなら・・きっと私にはできなかったことを」

 

プレシアは雄太となのはの目を見て、最後の時間を振り絞って地面に着いた膝を再び持ち上げる。

 

「さあ!早く行って!本当に時間が」

 

「悪いんだけど、俺たちにあんたを置いていくって選択肢はないんだわ」

 

雄太はそう言うとなのはの背から降りて、石柱を支える。雄太だけではない。気絶しているフェイト以外の全員が石柱を支える。

 

「何してるの、あなたたち!早くしないと」

 

「何してるのはこっちのセリフだっつーの。勝手にお願いしてんじゃねーよ、聞き入れたつもりもないっつーんだ。俺は自分の身を守るだけで精一杯だ。他の奴を守る余裕なんかあるか」

 

「僕は執務官だ。そしてあなたは罪を犯した。僕にはあなたを殺さずに連行する義務がある。勝手に死んでもらっては困る」

 

「えっとね、プレシアさん。ゆーた君とクロノ君が言っていることを簡単に言うと」

 

満面の笑顔でなのはは続ける。

 

「生きてフェイトちゃんに会ってあげてってこと。フェイトちゃんきっとすっごく喜ぶと思うから」

 

「そんなこと俺は言ってないけどな。とりあえず、ユーノ先生。この石柱どっちに動かしたら良い?」

 

「左側に弾き飛ばして!全員で力を合わせればきっとできるよ」

 

この状況で皆で助かることを全く諦めていない雄太たちにプレシアは呆れたように言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く。馬鹿ばっかりね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど、考えていることを文章にするのって難しいですね

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