「フェイト!無茶しちゃダメだ!」
フェイトを心配したアルフがフェイトを呼び止めるが、怒りのあまり聞こえていないのかフェイトは弾丸のようなスピードでプレシアの元に飛んでいきプレシアに斬りかかる。しかし、プレシアは余裕の表情で魔法陣を展開し、受け止める。
ギシギシと魔法陣は嫌な音を立てるが、破れることはない。
「おいおい、なかなか強いじゃねーか。大したもんだ」
「うるさい!母さんの身体から出ていけ!」
「できねー相談だ」
プレシアはバックステップをし、フェイトから距離を取り、そのまま回転することで回し蹴りを放つ。その回し蹴りはフェイトに直撃し、大きく後退する。
「くそっ」
「何か勘違いしてるようだがフェイトよお」
ポリポリと頭を掻きながらプレシアは言う。
「さっきも言ったように俺たちはプレシアが自分の中に誕生させた人格だ。外から憑依してるとかそんな話じゃねえ。だから出ていくとかいうのは、そもそも無理なんだよ」
「だから、うるさいって言ってるだろ!」
懲りずに再びプレシアに斬りかかるフェイトだが、今度はプレシアが出した雷の剣によって止められる。それでも諦めずに何度も斬りかかるが結果は同じ。クロノ達もフェイトに加勢をしたいのだが、フェイトが周りのことを考えずに攻撃しているので加勢できないでいる。
「ゆーた君、さっきプレシアさんが言ってたことは本当なの?」
さっきのプレシアの言葉を聞いたなのはが不安そうな顔で自らが背負っている雄太に問いかける。
「・・・多分本当だろうな。あいつが言う言葉を全て信じる訳じゃないが、今んとこあいつが言っている話は筋が通っている。とはいえ、普通ならありえない話だが」
ちらりとフェイトとアリシアを見て雄太は続ける。
「自分の娘が死んだショックでクローンまで作っちまうような人間だ。普通何て言葉は通用しねーよ」
しかしこの状況は不味いと雄太は思う。フェイトは完全に頭に血が上っていてチームプレーを取れるような心理状態にない。しかし、あの如何にも攻撃型の人格がS級魔導士であるプレシアの身体を使っているとなると、この場の全員で協力しない限り勝てる気がしない。事実、今までのフェイトの攻撃は全て凌がれてしまっている。なので
『アルフ。聞こえるか?』
『雄太かい?聞こえてるよ』
アルフにフェイトを止めてもらうことにした。来る前に結んだ契約がこんな形で役に立つとは。
『フェイトを止めてくれ。このままじゃ俺たち全滅するぞ。フェイトを一度下がらせて、数の利を生かすべきだ』
『それは私も分かってるんだけど』
アルフはプレシアと戦っているフェイトの姿を見て答える。
『ダメだ。あんな怒ってるフェイトは初めて見た。私が何を言ったって止まらないよ』
『やっぱり?』
雄太から見ても完全にフェイトはプレシアのことしか見ていない。こんな状態の人に何を言っても届きはしないだろう。
『ならば、強引に割って入るだけだ』
『って、クロノ何で俺とアルフの念話が聞こえてんだよ』
『君の念話が雑だからだ。距離的にフェイトとプレシアには届いていないだろうが、僕たちには丸聞こえだ。帰ったら練習しておけ』
『にゃはは』
『大丈夫だよ、雄太。慣れたらそんなに難しくないから』
いつの間にか、なのはとユーノまで念話に入っていることに軽く落ち込む雄太。どんだけ俺の念話は雑なんだよ。
『ほのぼのしている所悪いが余裕がない。見ろ。あんな、がむしゃらに攻撃しているからフェイトの攻撃が雑になってきた。次に奴とフェイトの距離が空いたら行くぞ。僕の合図で突撃だ。突撃したら、アルフは羽交い絞めにしてフェイトを落ち着かせろ。その間は僕が奴を抑え込む。なのは。ユーノ。援護を頼んだぞ』
『ああ。分かったよ』
『うん』
『任せといて』
『クロノ俺は?』
『腹に穴が二つも空いているやつが使えるか。じっとしておけ』
『そーだよ、ゆーた君』
『・・・へーい』
軽く戦力外通告されたことに凹む雄太。だが、クロノの言っていることは事実だし、俺の実力ではそもそも役に立たない。加えて、実際になのはが俺を睨んでくるもんだから、肯定しか道はない。
「じゃあ、行ってくるね。ゆーた君はここでじっとしてて。動いちゃだめだよ?ユーノ君はできるだけゆーた君のこと守ってあげてね」
「分かってるよ」
「うん分かった。任せて」
部屋の隅で雄太を下ろして出撃の準備をするなのは。
そして
「振りが大きいんだよ!隙だらけだ」
「かはっ」
攻撃後の隙を突かれたフェイトがプレシアの蹴りをモロに喰らい、うずくまる。
しかしこれによってプレシアとフェイトの距離が大きく開いた。
『行くぞ!』
クロノから合図の念話が届いた。
なのは達は、それぞれの役割を全うするために出撃する。
「フェイト!少し落ち着きなよ!」
「アルフ!どいて!離して!」
「もう少し落ち着けば離してやる。だから今は頭を冷やせ」
「そうだよ。フェイトちゃん。フェイトちゃんは一人じゃない。私たちがいる。だから一人で戦おうとしないで」
倒れたフェイトをアルフがしっかりと掴んでフェイトを落ち着かせようとする。最初は抵抗したフェイトだが、クロノとなのはも冷静になるように言うことで、フェイトは少し冷静になることができた。
「なんだ?選手交代か?」
「交代も何もない。これは僕たち全員とお前との戦いだ」
「はっ。ちげーねー。こちとら久し振りの暇潰しなんだ。期待を裏切ってくれるなよ」
「ほざけ!」
フェイトと入れ替わりクロノがプレシアに接近する。そしてクロノは杖をフェイントに使い、蹴りを放つ。だが
「くっ⁉︎」
プレシアは片方の腕を盾代わりにし、クロノの蹴りを受け止めるだけでなく、雷の剣でクロノの肩を突く。
「なるほど。流石は執務官様だ。フェイトより大分上だな」
その年で大したもんだとプレシアは笑う。
「だが俺には届かねーよ!」
プレシアは刺した雷の剣でクロノを切り裂く。クロノは身を捻って急所は躱したが、肩の辺りを大きく斬られる。
「クロノ君!」
「問題ない。かすり傷だ」
周りから見れば、そんな軽い傷ではないのは一目瞭然だが、どうやら動くことには支障はないらしい。
しかし問題はそれよりも
「あの野郎。殺傷設定で戦ってやがる」
雄太が言うようにプレシアは殺傷設定で戦っていることだ。その証拠にクロノの肩は血が滲んでいる。
「さっきのプレシアに雄太が殺傷設定で刺しちゃったからね。意趣返しかも」
「バカ野郎。あんな化物と俺みたいな一般市民を一緒にするな。俺は、あれしか手がなかっただけだ」
ユーノと雄太は落ち着いて会話をしているように見えるが、内面は両者とも非常に焦っている。なのは・ユーノ・クロノ・フェイト・アルフの五人がかりでかかっても倒せない程の化物だとは流石に思わなかったのだ。
「アルフ!」
「分かってるよ、フェイト!」
「ほう、同時攻撃か」
フェイトとアルフは普通の魔法使いから見ても、とてつもない速さでプレシアに近づき、フェイトは右から斬撃を、アルフは左から爪で攻撃をする。それは長年一緒に行動してきた二人だからこそ出せる完ぺきな連携。その連携攻撃をプレシアは飛んで躱す。
「「「なっ!?」」」
今の攻撃は繰り出したフェイト達からしても、傍で見ていたクロノからしても完ぺきな連撃だった。それを受け止めるどころか躱したことに驚愕する。
「だから、言ってんだろーが。いちいち止まんじゃねーよ」
「フェイト危ない!」
空中から雷の剣を鞭に変えたプレシアはアルフとフェイト目がけて思い切り振る。せめてフェイトだけでも助けようとしたアルフは射程範囲外にフェイトを押し出す。
「きゃああ!!」
「アルフ!くっ!よくも!」
プレシアからの攻撃が直撃したアルフは弾き飛ばされて動かない。アルフがやられたことに更に怒ったフェイトは、体勢を立て直したクロノと接近戦をしかけるが、プレシアの防御が崩せない。
「フェイトちゃん!クロノ君!どいて!接近戦で勝てないなら遠距離戦で!ディバイン」
「「「「なのは!上だ!」」」」
「え!?」
「おいおい、とんでもない女だな。確か魔法覚えたてのはずだろ?」
接近戦で無類の強さを誇り、大抵の遠距離魔法を魔法陣で受け止めるプレシアに最大火力の砲撃魔法を放とうとしていたなのはだが、先程までクロノ達と戦っていたプレシアが背後に現れることで放つことができなくなる。
「10年後なら負けてたかもな。だが今は俺の敵じゃねえ」
「なのは!」
なのはを攻撃しようとしたプレシアの雷の剣は間一髪ユーノの魔法陣で食い止める。その間になのははプレシアから距離を取ることに成功する。
「ありがとう、ユーノ君」
「これくらい当たり前だよ、なのは」
「照れてる場合じゃねーぞユーノ!バインドとかで援護できないのか!?」
「て、照れてないから!それにできたらとっくにやってるよ!けど、あいつの動きが速すぎて捉えきれないんだ」
接近戦では勝てない。スピードが速すぎてバインドも砲撃魔法も当たらない。こんな奴にどうしたら良いってんだと雄太は舌打ちする。その上、更に面倒な事態が雄太たちを襲う。
時の庭園に巨大な地震が起こったのだ。
「きゃあ!」
「「今度は何だ!」」
なのはは単純に驚いたようだが、ユーノと雄太は次々と予想だにしない事態が起きるせいで、誰にともなく八つ当たりをする。それを質問だと捉えたのかプレシアは答えを返す。
「なんだ?お前ら知らなかったのか?時の庭園はもうすぐ崩壊するぞ」
「「「「はあ!?」」」」
とんでもないことを普通に言うプレシアに驚く一同。
「ちょっと待て!!そんな事態に何でお前は落ち着いてるんだ!?」
「決まってんだろ。俺は暴れられればそれでいいんだよ。それに俺は、どのみち長くないしな」
この戦闘凶がと脳内で罵る雄太だが、そんなことをしても何も変わらない。ならばせめてと、倒れているアルフの治療をするためにアルフの所に駆け寄るが
「外野が入ってくんじゃねーよ」
「ゆーた君!逃げて!
「え?」
雄太が顔を上げると辺り一面に雷の矢。雄太が考える間もなく、それは雄太目がけて落ちてくる。
しかし
「かはっ!」
フェイトは雷の矢から雄太を身を挺して庇った。
「「「フェイト!!!」」」
「フェイトちゃん!!!」
慌てて雄太はフェイトの呼吸を確かめる。それは、しっかりと動いていた
(良かった。生きてる)
胸を撫で下ろす雄太だが、そこでおかしなことに気が付く。
(ちょっと待て。何でフェイトは生きているんだ?)
フェイトが生きていたことは大変嬉しいが、どう考えても、さっきの攻撃でフェイトは死んでいなければならない。
(もしかしてあいつ・・・)
雄太は一つの仮説を立てた。
『ユーノ先生。ちょっと確認したいんだが』
『・・・うん。僕も雄太と同じことを思ったよ』
流石はユーノ先生。言わずとも分かるとは。しかし、この仮説が正しいとするならば
『ユーノ。さっきユーノはあいつの動きが速すぎるからバインドを当てられないって言ったよな』
『うん。言ったよ』
『じゃあ、作戦があるんだけど・・・・・てな作戦はどうだろう?』
『・・その作戦が上手くいけば確かにプレシアは倒せる。でも失敗すれば雄太は死ぬよ』
それでもいいの?とユーノは目で問いかける。
『いいわけねーだろ。だが、どのみちこのままじゃ皆死ぬ。だったら、やるしかねえだろ』
『だったら、その役は僕が』
『ダメだ、ユーノはあんまりこういうことはやったことがないだろ』
雄太は念話をやめ、恐怖を意地で押し殺し、自信満々の声で言う。
「任せろ。ハッタリと挑発は得意分野だ。フェイトを頼んだぜ?」
フェイトをユーノに預け、ゆっくりとプレシアに近づいていく。そんな雄太になのはとクロノは慌てて声をかける。
「馬鹿!何やってるんだ!戻れ!」
「ゆーた君!だめ!」
「大丈夫、だいじょーぶ」
雄太はクロノとなのはに手を振りながら更にプレシアに近づく。
「なんだ?おい、ゴミ死にてえのか」
「無様だな、プレシア・テスタロッサ」
雄太のその言葉に、一瞬戸惑ったが直ぐに大笑いするプレシア
「はっ!俺が無様だと?ゴミが粋がるんじゃねえよ」
「てめーには言ってねーよ」
雄太は心底馬鹿にした目をプレシアに向けて続ける。
「あんたが無様だって言ってんだよ。プレシア・テスタロッサ」
闇の書編やるのどうしよう