「DV?何の話をしているのかしら?」
「あんたとフェイトの話に決まってるだろ」
「私とアレが家族だとでも?冗談にしても面白くないわね」
「そりゃそうだ。冗談を言っているつもりないからな」
しかし同じ親子で、ここまで拗れるもんかねと俺はため息を吐く。原作知識として知ってはいたが、実際に喋ってみると実感する。プレシアは本気でフェイトのことを憎んでいる。確かにプレシアの境遇は同情するが、何故ここまで憎めるんだ?
「わかんねーな。何でフェイトのことをそこまで憎めるんだ?俺はあいつと肉まんを一緒に食べたくらいの関係でしかないが、あんだけ良いやつも、そうそういないと思うがね」
「アレがアリシアと同じ外見の偽物だからよ」
きっぱりとプレシアは断言する。
「でもね。違うのよ。似ているだけで全然違う。声が違う。性格が違う。匂いが違う。喋り方が違う。身長が違う。体重が違う。何もかも違う。にも関わらず容姿だけ似ていて私のアリシアがいた場所を奪っていく。こんなことに耐えられるわけないでしょ」
「んなの当たり前だっつの。クローンはあくまでもクローンだ。本人じゃない。そんなこと、あんたほどの科学者なら、最初から分かってたことだろーが」
「・・・ええ、そうね。分かっていたわ。一縷の望みをかけてやったことだけど、あんな失敗作しか出来なかったわ」
その言葉に額から青筋が浮かんだが、ここで話を止めるわけにはいかないので口をつぐんだ。
「でも今の私にはこれがある!ジュエルシードさえあれば、アリシアを!私のアリシアを生き返らせることができる!!」
やべーな、眼が完全にイっている。前世含めて色んな人間と会ってきたが、此処まで狂気染みた人間には会ったことがない。この狂気はS級魔導士としての実力とか関係なしに、人間としての根源的恐怖に働きかけてくる。良く原作でこんなのと相対できたな、なのはの奴。もし俺がただの小学生だったら、絶対に逃げ出している自信がある。
「でもあなた一体何しにこんな所まで来たの?見たところ吹けば飛ぶような実力しかないようだけど」
かなり失礼なことを言われているが、事実なので仕方がない。
「決まってんだろ」
俺は当たり前のことを言うかのように続ける。
「あんたをフェイトに謝らせるために、此処まで来たんだよ」
プレシアは俺の言葉に一瞬ポカンとするが、直ぐに馬鹿にしたように笑いながら言う。
「随分と面白い事を言う少年ね。しかし、さっきの話を聞く限りあなたにあの偽物のために戦う理由はないように思えるけど?」
「ああ。ねーよ」
一度会っただけの少女を命がけで助ける理由なんてあるはずなかろう。何度も言っているように、俺は正義の味方でも何でもない。
「なら、何故?」
「借りを返しに来ただけだ」
「借り?」
「そーだよ。まあ、もっとも」
あの日のフェイトの言葉を思い出す。
『もしかしたら、5が出たら、3よりもいい結果が待っているかもしれないよ』
「フェイトはそんなこと思ってないだろーけどな」
だとしても
「俺はあいつの言葉のおかげでサイコロを振る勇気が湧いたんだ」
それに何より
「女の子が悲しんでる」
「男が戦う理由何て、それだけで充分だろ」
俺とプレシアの間に沈黙が流れる。
「そう。じゃあ、さしずめあなたはあの偽物を守るナイトってところね」
「冗談だろ。俺なんてナイトどころかポーンが精々だ。それにナイトなら後で現れるさ」
こわーい白い悪魔がな。
「ただよ」
俺は、ニヤリと笑い
「ポーンがキングに勝てないなんて誰が決めたんだ?」
そんな俺をプレシアは路傍の石を見るかのような目で見る。
「なら、良いことを教えてあげるわ」
プレシアの周りに魔力光が輝く
「なぜ駒がポーンとキングに別れているのか。それは」
魔力光は更に激しくなり、俺の危険を知らせる本能の警鐘が最大限に鳴り響く。
「そこに絶対的な力の差があるからよ」
魔力光は雷の矢へと変わり、真っすぐに俺の方へと飛んでくる。
いきなりかよと文句を言いつつ回避するために横に飛ぶ。その瞬間俺の隣で発生した爆風により吹き飛ばされる。壁に打ち付けられた俺が周りを見ると、先程まで俺がいた場所が見るも無残な姿に変わっていた。
「あぶねぇだろ!!素人相手に本気出してんじゃねえ!!」
「本気?そんな訳ないでしょ。私が本気を出せばあなたごとき一瞬でバラバラよ。しかし困ったわね」
にやぁとプレシアは見るものが嫌悪感を感じる笑みを浮かべ
「虫けらを殺さないように踏みつけるのって難しいのね」
「この、どS女め」
吐き捨てるように俺が言うと、プレシアは先程の倍以上の雷の矢を出現させる。
「簡単に壊れてくれないでよ。私のイライラをあなたで発散させるって決めたんだから」
「悪いが、俺の予定にそれは入ってねぇ」
「なら、私が書き加えてあげるわ」
圧倒的な暴力が俺を襲う。止まっていれば、ただの的なので少しでも回避できる可能性を上げるために、ひたすら走る。しかし、そんな俺の努力をあざ笑うかのように雷は方向を変え、俺を追う。回避は不可能。5,6本の雷の矢が俺に直撃した。
しかし
「随分と手癖の悪い子ね。それを何処で?」
「言い方が悪いんだよ。ちゃっかりしてると言ってくれ」
黒いバリアジャケットで身を包んだ俺は、雷の矢を完全にガードした。
「それに何処でも糞もねーだろうが。このインテリジェントデバイスは、ここで見つけたんだからな」
大体30分くらい前
「よし、着いたよ。大丈夫かい?」
「大丈夫だよ。むしろ調子が良いくらいだ」
美人に抱きかかえられるとか完全に役得です。男として、できれば逆が良かったが、それは望みすぎだろう。
「じゃ、私はこっち行くから雄太はそっちに行って。フェイトを見つけたらお互い即連絡だ」
「おっけーだ。んじゃな」
アルフと一緒にプレシアの所に行った俺は、途中の分かれ道で二手に分かれた。
「しかし何処にフェイトはいるんだよ」
ぶつぶつ独り言を言いながら、時の庭園でフェイトを探す俺。こんな広い場所で見つかる訳ねーだろ。ヒント出せ、ヒント。
「ここは・・いそうにねーな」
扉を開けたら、倉庫っぽい場所だった。まあ、ここにはいないな。かなり長い間使われていないのか、至る所に蜘蛛の巣が張り巡らされている。まあ、いないなら行くだけ・・ん?
「何だこりゃ?」
暗闇の中に、きらりと光る何かを見つけた。これは
「インテリジェントデバイス?」
「んで、実際に使ってみたら使えたんでな。俺はデバイス持ってなかったし、せっかくだから貰っていこうと思ったんだが、不味かったか?」
「いいえ別に問題ないわ。そのデバイスは私が昔使っていたものだけど、今となっては、もう要らないしね」
「そうなのか?そりゃ、良いもん貰ったわ」
S級魔導士が使っていた物なら、超一級品だろう・・俺には分不相応な気もするが。
「ただ、あなたにとって残念なお知らせがあるわ」
「そりゃ何だ?」
ある程度予想はついたが、一応聞く。
「決まってるでしょ?」
プレシアの周りに雷の矢が出現する。
「あなたが、そのデバイスを付けていられる時間はほとんど無いってことよ」
再び雨あられのように雷の矢が俺に迫る。俺は自らに身体強化をし、プレシアとの距離を詰めることで雷の矢を躱す。そして出現させた剣でプレシアを攻撃するが
「残念だったわね」
俺の剣はプレシアの魔法陣によって完全に防がれた。この攻撃は俺の全力だぞ!?分かってはいたが、普通にやっては俺ではプレシアに勝つどころか一撃を入れることすら無理らしい。
「考えている暇なんて無いんじゃない?」
「しまっ!?」
俺が止まっている隙をついて、プレシアが魔力を込めた掌底を俺の腹にぶち込む。衝撃で吹き飛んだ俺は、壁にぶち当たり、その衝撃の強さで呼吸が一瞬出来なくなる。
「がっ!!」
くそっ超いてえ。アバライったんじゃねえか?
しかし、プレシアはそんな俺にツカツカと近寄り、俺の首根っこを捕まえて持ち上げる。
「ぐぐ」
「口ほどにもなかったわ。さっきあなたは自分でポーンとか言ってたけど、これじゃあ、ネズミもいい所ね」
つまらなそうに言うプレシア。マジでこの状況は不味い。詰みだ。
「さあ、これで」
「そこまでだ!時空管理局だ。プレシア・テスタロッサ!そいつを離して投降しろ!」
このタイミングで現れてくれるクロノ。メッチャ嬉しいけど、できればもう少しだけ早く来て欲しかった。
「あら時空管理局?随分と早かったわね。ここにジュエルシードを持ってきなさい。このネズミを殺されたくなかったらね」
プレシアは俺の首根っこを掴んだままクロノに話しかける。こいつクロノが来たってのに全く動揺してねえ。まあ、当然と言えば当然か。なぜなら人質(俺)がいる。俺がいる以上クロノが攻撃してくることはないだろう。しかし、これは不味い。完全に足手まといだ。このままだとプレシアを倒せない。しかし、俺にはどうしようもない・・こともない。しかし、これはやりたくない。確実にプレシアの意表を突けるだろうが、俺も絶対に痛い。
だが、他に方法がない。クロノも手がないらしく悔しそうにこちらを見ているだけだ。くそっ、やりたくないが、こーなったのは完全に俺の責任だ。俺は覚悟を決めてクロノに念話を送る。
『クロノ。俺がプレシアから隙を作る。その隙を突いてお前はプレシアに攻撃しろ』
『何!?どうやって』
クロノの念話の声を無視して俺はプレシアに話しかける。
「なあ、あんたさっき俺のことをネズミって言ったけど」
プレシアは一瞬俺を見る。
「知ってるか?窮鼠猫を噛むんだぞ」
「何をぉ!?」
俺はデバイスから発生させた剣を自らの腹ごとプレシアに突き刺した。
「この糞ガキ!」
流石に予想外だったらしく、プレシアは咄嗟に俺を放り投げる。そして
「今だ!!」
溜めていたクロノの魔法がプレシアを捉えた。
戦闘描写を上手く書ける人って凄いと思います。