「あれ・・ここは?」
「ようアルフ。気が付いたか」
「誰よあんた!!私をどうするつもり!」
「命の恩人に対して凄い口の利き方だな」
まあ、実際に助けたのはアリサだけど。
今俺たちはアリサの家にいる。アルフはアリサが呼んだ獣医さんに治療をしてもらってからゲージの中でずっと眠っていた。相当疲れが溜まっていたのだろう。
ちなみに今この場には俺とアルフしかいない。アルフの傷の治療が終わったらアリサは「後はあんたの好きにしなさい」と言って、そのまま月村と一緒に何処かに出かけてしまった。イケメン過ぎるだろあいつ。
「何で私の事を助けたのかは知らないけど、私の事を知っていることに加えて魔力も感じられるってことは・・・あんた管理局の人間か?」
「残念、はずれだ。俺は関係のない一般人だ。一応自己紹介をしとくか。俺は長峰雄太。あんたたちと戦ったなのはの友達にして、フェイトと肉まんを食った男だ」
しかし肩書が弱いな俺と呟いているとアルフが俺の言葉に反応する。
「肉まん?・・・あ!もしかしてあんたがフェイトが言ってた変な人!」
「・・・・・そーだよ。俺がその変な人だよ」
もう少し良いこと言えってのとフェイトに文句を言いたくなったが、あの時俺が取った行動は変な人そのものだったので止めておいた。・・・やっぱり、ノリで行動しすぎると碌なことがないな、うん。
「・・やっぱり、フェイトが言っていたように変な子みたいだねぇ」
「おい止めろ、まだ何もやってないだろ」
あの時は変な行動をしていた自覚はあるが、今は文字通りただ立っていただけだ。これだけで変な人扱いされるのは甚だ心外である。
「んで?いつも一緒にいるフェイトはどーしたんだ?」
「あ!!そーだよ、フェイトだ!!!あのクソ婆、っっく!」
「急に動くな。まだお前の怪我表面上しか塞がってないんだぞ」
怒ったように立ち上がったアルフの傷がまた開きだしたので、何とか宥める。この状態で暴れるのは自殺行為だ。
「こんなことやってる場合じゃないんだよ!管理局はフェイトが自分の意思でジュエルシードを集めてるって思ってるだろうけど、実は」
「分かってるよ。プレシア・テスタロッサだろ?管理局だって馬鹿じゃない、それぐらいのことは掴んでるさ」
実際は俺が教えたんだけど、まあ俺が教えずともクロノ達ならプレシアまで辿り着いただろう。実際、原作では、そうなんだし。
「そうだったのか…なら、話は早いよ!フェイトが大変なんだ!」
「大変?どういうことなんだ?」
「あのクソ婆、フェイトが集めたジュエルシードが目標の数じゃないからって、フェイトを虐待してるんだよ!ふざけんじゃないよ、フェイトがあの婆のために、どれだけ尽くしたと思っているんだい!」
「なるほどな。じゃあ、その傷はそのことに対して怒ったアルフがプレシアに立ち向かって返り討ちにあった時の傷ってことか?」
「…あー、そーだよ!あのクソ婆無駄に力だけはありやがって!」
自分の無力を悔いるかのように歯をくいしばるアルフ。俺から見ればアルフも充分に力があると思うけどな。
「こんなことしてる場合じゃない!早くここから出しておくれ!私がいなかったらプレシアがフェイトに何をするか分からない!早く食い止めないと!フェイトの味方は私だけなんだ!」
「その傷で行ってもフェイトを助けられるとは思えないぞ」
「関係ないよ!例え助けられなかったとしてもフェイトの盾になるくらいのことはできる!」
「…そんなに大切なのか?フェイトのことが?」
「当たり前じゃないか!」
迷いなくフェイトのことを大切だと言いきったアルフの言葉と瞳の、真っ直ぐさに俺は思わず目をそらす。
何で俺の周りにはこんなに格好良い奴が多いんだよ…
まあ、俺としても出すのは吝かではないが…原作的にどうなんだ?恐らくアルフが此処にいるのは原作通りなんだろうが、間違いなく原作では俺という存在はいない。しかし最終決戦では確かアルフはフェイトと一緒に時の庭園にいたはずなので、出しても問題ないだろうが…俺がいない原作では一体誰がアルフを此処から出したんだ?
どうやら、俺の知らぬ間に原作から微妙にズレてしまったらしい。俺が頭を抱えていると怒ったようにアルフが俺に声をかけてくる。
「何をグズグズしてんだい!早くしてよ!」
「分かった、分かった。ちょっと待て」
このままだと、どのみちアルフはゲージをこじ開けそうなので、結果は同じだと思い開けることにした。ゲージから出たアルフは犬型から人型に姿を変えた。
「ふう。確か…雄太だっけ?ありがとう、助かったよ…て、何で顔を赤くしてるんだい?」
「…いや、別に」
こいつ自分のルックス自覚しろよ。アルフほどの美人が笑顔で顔を近づけて来てドキドキしない男がいるだろうか?…いや、いない(確信)
「?よくわからないけどありがとうね。じゃあ、私は!?」
「ほーれ、見ろ。言わんこっちゃない。大体今のアルフは戦うどころか動くのもやっとだろうがよ」
「ぐ…うるさいねぇ」
悔しそうに文句を言うアルフ。てか、これじゃあ戦うどころかプレシアの元に行くのも無理じゃないか?
「何か簡単に傷を治す方法とかないのか?」
「あるにはあるけど、難しいね」
「何でだ?」
あるならすればいいだろう
「普通は、これだけの傷だと主からの魔力供給が必要なんだ。でも主であるフェイトは此処にいないだろ?だから難しいんだよ」
「そりゃ難しいな」
フェイトの所に行きたいが傷だらけで行けないので、その傷を治したい。しかし、その傷を早く治すにはフェイトの魔力が必要と。詰みですね、分かります。
「何か他に方法がないのか?」
「なくもないけど、それには私の新しい二人目の主が必要になる。でも誰でも良い訳じゃない。そいつが私の主になるには、私がそいつを主認定して、そいつも私を使い魔認定しなくちゃいけないんだよ。しかもそいつにはある程度魔力がなくちゃいけない。自分で言うのも何だけど、私はそこそこ良い使い魔だからね。だから、私の傷を治すにはこれらの条件を全部満たす主じゃなきゃならない。そんな都合の良い奴がそんな簡単に見つかるわけが…」
そこでアルフは俺のことをガン見してくる。え?何?俺何かした?
そしてアルフは無言で俺の肩を掴んでくる。おい、止めろドキドキするだろ。
「そーだよ!あんたがいるじゃないか!」
「は!?」
「少し話しただけだけど、あんたが結構信頼できそうな奴だってことは分かった!全然強そうな気配はしないけど、魔力はそこそこあるみたいだし。あんたならさっき私が言ってた条件を全部満たせる!」
「ちょっと待て!少し落ち着け!」
話が急激におかしな方向に向かっている。
「俺がアルフの主に何てなれるわけがないだろうが!?さっきアルフも言ってたけど俺はメチャクチャ弱いんだぞ!」
「弱くたって別に良いんだよ。プレシアの所に行くのは私一人で良いんだからね。あんたは、ここで私に魔力供給をしてくれるだけで良いんだ」
まあ、そういうことなら・・・良いのか?俺のこの行為は100%原作にはない。俺のこの行動が後々どういう結果に繋がるか分からん。
うーんと悩んでいると、アルフはとんでもない行動を取りだした。
「頼むよ!この通りだ!」
「ちょ!?」
何とアルフはその場で土下座をした。何だこの絵面。何も知らない人がこの現場を見たら完璧に俺は有罪だ。
どうしよう。俺がアルフの主人になるのは不味いが、断ったところでアルフはプレシアの所に行くのは止められないだろう。その結果、アルフが死ぬことになればもっと最悪だ。原作以前に罪悪感で俺は死ぬ。
ええい。こうなりゃやけだ。
「分かったよ。俺がアルフの主になってやる。どうすれば良いんだ?」
「本当かい!?ありがとう!本当にありがとう!」
アルフが満面の笑顔で俺にお礼を言ってくる。・・ヤバい結婚したい。
「んじゃ、契約をするよ。ちょっとじっとしててね。細かい所は私がやるから」
「おー、頼むわ」
俺が契約のやり方を知るわけもないのでアルフに任せる。しかし一体どんな方法なんだろうか。
「・・・よし、終わったよ」
「早いな!?」
手軽過ぎだろ。ちょっと心構えをしていた俺がバカみたいじゃないか。
「何か私とパスが繋がった感覚はあるかい?」
「・・言われてみれば何となく」
眼を閉じて体の内部に集中してみると確かに何か繋がっている感がある。
「じゃあ、そのパスに向かって魔力を送り出してくれるかい?」
「できるか」
いきなり難易度が上がりすぎだ。
「何となくの感覚で良いんだよ。自分の力を私に送るイメージさ」
「なるほどな」
・・・こんな感じか?と思ってやっているとアルフの体が光り出した。すげぇ。
「お!来たね!・・・良し全快だ!」
本当にあっという間にアルフの怪我が治った。凄いな魔法みたいだ。魔法だった。
「ありがとうね、雄太!助かったよ!」
「どーいたしまして」
大したことはしていないが、美人にお礼を言われて悪い気はしない。
「んじゃ、私はもう行くよ」
「おー、気を付けてな」
何かゲートっぽいものを作り出し始めたアルフ。そーやって行くんだなと思いつつ、俺は別のことを考えていた。
アルフのことは心配だが、なのはたちが何とかするだろう。俺ができるのはここまでだ。
『私はゆーた君の言葉で元気を貰えたんだよ?』
俺みたいな凡人が行っても邪魔になるだけだ。
『1番大事なのは自分がどうしたいかじゃないかな?』
俺が何もしないでも問題は解決する。
『雄太は雄太にできることをやればいいんだよ』
俺は別に正義の味方になりたいわけじゃない。
『あんたも今抱えている問題に死ぬ気で取り掛かりなさい。その結果死んでも安心して。骨くらい拾ってあげるわ』
俺は将来普通に可愛い女の子と結婚して、ダラダラと過ごしたい。
『らしくないことをすることによって見えてくる景色もあると思いますよ』
俺は痛いことが嫌いなんだよ。
『長峰君は自分を守りながら、なのはちゃんも守ってあげてね』
あーあ。たく馬鹿だな俺は。
いつの間にか行かない理由を探してやがる。
「アルフー。やっぱり俺も行くわ」
「はあ!?あんた弱いんだろ?それに行きたくないみたいなこと言ってたじゃないか」
「うっせ。そんなこと俺が一番良く知ってるってんだよ」
はあ、とため息をつきながら
「問題ねーよ。死んでも骨は拾ってくれるらしいからな」
「フェイト・・・あなたはもういらないわ。どこへなりと・・・消えなさいっ!」
「お願いっ!もう、やめてぇ!」
どうしてフェイトちゃんのお母さんなのに、フェイトちゃんにこんな酷いことを言うの?
フェイトちゃんはプレシアさんのために、ボロボロになるまで頑張ってきたのに。
今、私たちはジュエルシードを賭けて勝負してきたフェイトちゃんを倒して、プレシアさんを捕まえるはずだったんだけど、乗り込んだ武装局員さんはプレシアさんにやられちゃった。通信機器だけは壊れなかったんだけど、その通信機器からプレシアさんはとんでもないことを言っている。アリシアちゃんのこと。フェイトちゃんがアリシアちゃんのクローンだったこと。もう、やめて!フェイトちゃんが可哀想過ぎるよ!
「良いことを教えてあげるわ。あなたを作り出してから私はずっとね、あなたが・・・」
「やめてって言ってるでしょ!!」
「大嫌いだったのよっ!」
プレシアさんのその言葉にフェイトちゃんは手に持っていたバルディッシュを手放した。
フェイトちゃんはショックが大きすぎたのか呆然としている。
私がそんなフェイトちゃんに声をかけようとした瞬間に
「たく、子があんなに素直で優しいのに親がこれとはね」
やれやれと言う感じで、最近私が仲良くなった男の子の声が通信機器から聞こえた。
え?でもまさか?
クロノ君やユーノ君たちも驚いたようで全員が驚愕の表情でモニターを見つめる。
プレシアさんは知っていたのか、ゆっくりと背後を振り返る。
「また、客人かしら?呼んだ覚えはないのだけど」
「安心しろ。俺も招かれた覚えはねーから」
その男の子はなのはがいつも見ているふてぶてしい表情で、ふふんと笑い
「どーも。何かDVしてる親がいるって通報があったんでやって来ちゃいました。」
「「雄太君!?」」 「ゆーた君!?」 「「雄太!?」」
そして事件は最終局面へ向かう
ようやく戦う主人公