死にたくない凡人の物語   作:はないちもんめ

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そろそろジュエルシード編終わらせたいな


0.9 小学生にだって大人と一緒で悩むことがあるんだよ

「だから大丈夫か?って言ったじゃん」

 

「うるさいな。プレシアの魔法の威力が想像を完全に超えていたんだよ」

 

1人の魔導師がアースラの対魔力防御を貫通できると誰が思うんだ、とブツブツ言っているクロノ。俺は運良く怪我をしなくて済んだが、S級魔導士であるプレシアの攻撃はアースラの防御網を突き破りアースラにダメージを与えただけでなく、アースラのクルーの何人かに怪我を負わせたことに加えてフェイトとアルフを連れ去られてしまった。要は完全敗北である。まあ、俺としては、今んとこプレシアはどうでもいい。それよりも今の問題は

 

「ユーノ。なのはの様子はどうだ?」

 

俺は気絶しているなのはの側で見守っているユーノに近づき、問いかける。なのはは先ほどのアースラとなのは達を襲うプレシアの攻撃でフェイトを庇ってダメージを受けてしまった。落下するなのはをユーノが必死に助けたことで致命傷は避けられたらしい。しかし、だとしても自分より小さい子供が傷ついている姿を見るのは辛い。

 

「うん、大丈夫。今は眠ってるけど脈は安定しているし、直ぐに眼を覚ますよ」

 

俺に心配をかけまいとしているのか明るい口調で答えるユーノ。俺は「そっか」とだけ答えて、帰り支度を始める。

 

「あれ?雄太どこ行くの?」

 

「けーるんだよ。ここにいたって邪魔になるだけだしな」

 

「そっか。気を付けてね」

 

「気を付けなきゃならんのは、俺じゃなくお前らだ」

 

やれやれと思いつつ、俺は続ける。

 

「お前もなのはももうちょっと自分の心配しろっての。少しは俺を見習え。俺はいつでも自分のことを第一に考えた行動しかしてないぞ」

 

「いや、それはそれで問題だと思うんだけど・・・」

 

呆れた目を俺に向けてくるユーノ。何て言い草だ。

 

「お前らはそれくらいで丁度いいんだよ。それと、その眠ってる姫さんにも言っとけ。無茶して自分がボロボロになってたら世話ねーぞってな」

 

「自分で言ってあげればいいのに」

 

「いや、だって何かハズイじゃん」

 

その俺の返答に、はーっとため息を吐くユーノ。

 

「余計なことはペラペラ喋る癖に。大切なことは言わないんだから」

 

「いいんだよ、これが俺流だ」

 

じゃーなと言って転送ポッドに向かう俺。「あ、雄太言い忘れてたけど」「何だよ」

 

首だけ振り返る。

 

「さっき雄太はここにいたって邪魔になるだけだって言ってたけど、そんなことないよ。雄太は迷っていたなのはの背中を押してあげたじゃない。なのはから聞いたけど、とっても喜んでたよ。僕だっていつも平常運転の雄太を見てるとどんな事態だって何とかなるんじゃないかって勇気が沸いてくる。戦えなくたって、できることは沢山ある。雄太は雄太にできることをやればいいんだよ」

 

俺を励ますための嘘ではなく、正真正銘の自分の思いを言葉に乗せて言うユーノ。その真摯な思いに、俺は何も返せず頭を掻きながらユーノに背を向け、リンディさんとクロノに挨拶をしてからアースラを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後何となく家に帰る気分になれなかった俺は、気分を変えるために山中に来ていた。何度考えても俺は間違った行動を取っていない。俺があそこにいてもできることは何もないし、余計な足手まといが増えるだけだろう。それに何度も言っているように結果は間違いなくハッピーエンドなのだ。細かい過程は忘れたが、フェイトとアルフは管理局の味方になり、プレシアは死ぬ。これは間違いない。なのは達が傷つくことには心が痛むが、命があるなら大丈夫だろう。なのに

 

「何でこんなにモヤモヤしてるかなー」

 

はーっとため息をつきながら近くの草むらに横になる。俺ってこんなに馬鹿だったっけ?と自問していると目の端で何かの物体が動く。

 

「何だ?」

 

気になったので近づくとボロボロになった大型犬が横たわっていた。

 

「何でこんな山の中で大型犬がボロボロで放置されてるんだ?」

 

よくよく見れば、ボロボロだが毛並みも良い。元は綺麗な犬だったのだろう。てか、気のせいかもしれんが、この犬どっかで見たような。まあいい。とにかく、どうするか。この場に放置していくのは流石に後味が悪すぎる。では、持ち上げて動物病院にでも連れていくかと思ったが、直ぐに思いとどまった。何処の世界に自分の体重よりありそうな大型犬を持って移動する小学生がいるだろうか。魔法を使って身体強化をすれば勿論可能だろうが、身体とのギャップは消えないので周囲の人からの眼が凄いことになる。さて、どうするかと考えていると、背後から車の音が近づいてくる。おや、あの車は

 

「あんた、こんな所で何してんのよ」

 

「長峰君?どうしたの?」

 

「見ての通りだ。丁度良い所に来た。二人ともちょっとこの犬を運ぶのを手伝ってくれ」

 

アリサと月村が鮫島さんの運転する車に乗って現れた。何て良いタイミングで来てくれるんだ。思わず惚れそうになる。

 

「犬って・・・うわ、傷だらけじゃない!これあんたの犬なの?」

 

「ちゃうわ。でもこのまま放っておくのは流石にな。だから二人が丁度来てくれて助かった。動物病院に運ぶの手伝ってくれ」

 

「別に手当てくらいなら私の家でしてあげるわよ。鮫島」

 

「はい、お嬢様」

 

言うが早いか鮫島さんは、すぐさま大型犬を抱きかかえてアリサの車に乗せる。

 

「ありがとな。んじゃ、俺はここで」

 

「何言ってんのよあんたも乗りなさいよ」

 

「へ?」

 

予想外のアリサの提案に変な声が出る。

 

「あんたが見つけた犬でしょーが。最後まで責任を持ちなさい」

 

ぐうの音も出ない正論である。まあ、しょうがないか。

 

「分かったよ。鮫島さんお願いします。月村隣失礼するぞ」

 

「ええ。どうぞ」

 

「うん。いいよ」

 

「って!何で私には何も言わないのよ!!」

 

「乗れって言ったのがお前でしょーが」

 

ぐぬぬと悔しそうな声を出すアリサとそれを宥める月村と微笑ましそうに見る鮫島さん。何か日常に戻ってきた感じがするな。俺がそんなことを考えていると突然誰かの声がする。

 

『・・・』

 

「ん?誰か呼んだか?」

 

「何よ、突然。何も聞こえなかったわよ?」

 

アリサの言葉に気のせいかと納得しかかった俺だが

 

『・・フェ・・イト・・・』

 

やはり気のせいではなかったらしい。てかこれ念話だな。でも一体誰がと思っていると、傷だらけの犬が目に入る。いやいやまさかと即座に否定する俺だが、なぜか先ほどこの犬を見たときに感じた既視感を思い出す。そして点と点が繋がるような不思議な感覚を感じる。何だ?俺は何を気になっている?山中にボロボロになっていた犬・・何故か俺はこの犬を知っている・・毛並みが良い・・念話・・フェイト・・そしてこのタイミング・・・あ!?

 

俺の頭を電流が走った。

 

「アルフ!!!???」

 

「な、なに!?急にどーしたの!?」

 

「どうしたんですか、長峰さん」

 

「どうしたの!?長峰君」

 

「あ、いや、この犬の名前アルフってどーかなと思ってさ」

 

はははと誤魔化すように笑うと疑わしい目で見てくるちびっ子二人。しかし、俺はそんなことに構っている場合ではない。そーだよ、アルフだよこの犬。何で思い出さなかった俺。てか、これがアルフなのだとしたら、あの場に主人公であるなのはの親友のアリサ達が現れたのは偶然じゃなくて必然だ。そしてこの必然が意味するものは

 

『これも原作イベントかよ』

 

原作イベントから逃げたはずなのにまた関わってしまうとは。今週の羊座の運勢は最下位だな、こんちくせう。

 

「やっぱりあんたこの犬知ってるでしょ」

 

「だから知らんて」

 

「・・・もしかして、最近なのはの様子がおかしかったことと、その犬って関係あるの?」

 

何だこのお嬢様。勘が鋭いとかそんなレベルじゃないぞ。

 

「・・やっぱり、そうなのね」

 

「だーから、知らんて言ってるだろ?そもそも何で俺がなのはの様子がおかしいことと関係してんだよ」

 

「誤魔化したって無駄よ。すずかならともかく、なのはとあんたって名前呼びするほど仲良くなかったじゃない。それが急に仲良くなって、それが偶然なのはの様子が変になったタイミングが重なるとなったら関係を疑わない方が変だわ。この前は、ずーっと元気なかったなのはがあんたと喋っただけで元気になったしね。加えて言えば、最近なのはの学校を休む日とあんたが休むが被りすぎよ。隠すなら、もっと上手にやりなさい」

 

ふん、とでも言うような顔でアリサは言う。

 

あー、これ無理なやつだわ。言い逃れができる気がしない。鮫島さんは分からないけど、月村は横から無言で俺のことを見てくるし。もう知らん。どうにでもなれ。俺は諦めのため息を吐きながら

 

「関係があるっちゃある。だけど本当の原因じゃない。後、確かに俺は最近なのはの様子が変なことの原因に関わっているが、ほんの少しだけだ。主役はほとんどなのはだよ」

 

「・・その原因については私たちには言えないの?」

 

「悪いが言えん。言うのは簡単だが、それは俺の役目じゃない。それはお前らの親友であるなのはがお前らに直接言わなきゃならんことだからな」

 

「何よそれ」

 

「だから言えんって。まあ、唯一俺に言えることがあるとすれば」

 

「あるとすれば?」

 

「なのはを信じてやれってことだな。お前らの親友はお前らにずっと隠し事をするような奴じゃないだろ?」

 

俺のこの言葉にアリサは顔を隠しながら「分かってるわよ、そんなこと」とボソッと呟く。俺とアリサのやり取りに月村の表情も明るくなる。

 

「とゆーか、何であんたはほとんど関わってないのよ?」

 

恥ずかしいのか急に別の質問をしてくるアリサ。まあ、顔が赤い段階でバレバレだが。

 

「単純に実力不足ってだけだ。俺がなのはの役に立とうとしたところで足手まといにしかならん」

 

きっぱりと俺が言うとアリサがジト目で俺を見てくる。

 

「な、なんだよ」

 

「あんたって、いっつもそうよね。すかしてるというか格好つけているというか。結果がダメだとしても偶には玉砕するぐらいの気概を見せなさいよ」

 

何この幼女怖い。俺が慄いていると月村と鮫島さんが通訳してくる。

 

「長峰君。アリサちゃんが言いたいのはね。長峰君は頑張ればできるってことを言いたいんだよ」

 

「良くお嬢様が言っておられますからな。学校に本気を出せばもっとできるのに、いつもやる気を出さないもったいない人がいると」

 

「ちょっとすずか!?鮫島まで!!私はそんなこと言ってないでしょ!!!」

 

急いで反論するアリサ。ツンデレも大変だな。てか、そんなこと思ってたのか、こいつ。はっきり言って買い被りにも程があるぞ。確かに今のところ学校の勉強はできているが、それは俺の頭が良いとか努力してるとかじゃなく、前世の知識のおかげだ。なので、今のところアリサに近い点数が取れているが、それが今後も続けていけるかは怪しい所だ。

 

「とにかく!!」

 

話を強引に引き戻したアリサ。

 

「できることしかやらないんじゃ成長はないわ。私にあんだけ偉そうなこと言ったんだからあんたも今抱えている問題に死ぬ気で取り掛かりなさい。その結果死んでも安心して。骨くらい拾ってあげるわ」

 

言っていることは酷いものだが、凛とした雰囲気で迷いない瞳で発言したアリサはとんでもなく男らしかった。もうこいつがヒーローで、なのはがヒロインの設定で良くね?

 

「お嬢様の言っていることは少々極端ですが」

 

さっきから黙って会話を聞いていた鮫島さんも会話に参加する。

 

「私も長峰さんは、時にはらしくないことをしてもよろしいかと思います。長峰さんの冷静に状況を分析し、自分のできることをしっかりとやる姿勢は素晴らしいと思います。しかし、そればかりでは、いつも見える景色は同じです。らしくないことをすることによって見えてくる景色もあると思いますよ」

 

・・・何かすげぇ格好良い鮫島さん。俺なんかに与える評価としては高すぎる気もするが、鮫島さんが本気で言っていることが伝わってくる。これが大人の男かと感動していると横から袖を引っ張る感触が

 

「月村も俺に要望か?」

 

「ううん。私はアリサちゃんや鮫島さんみたいに格好良いこと言えないし、あんまり無茶なことして欲しくもないから特にないよ」

 

そーかい、と俺が言うと「ただ」と月村が続ける。

 

「来月私の家でお茶会をしたいな。私とアリサちゃんとなのはちゃんと長峰君の四人で。だから」

 

月村は一泊置いた後

 

「長峰君は自分を守りながら、なのはちゃんも守ってあげてね。なのはちゃん直ぐに無茶しちゃうから」

 

と笑顔で言う月村。普通の男なら間違いなく惚れてしまう笑顔ではあるのだが、内容が鬼畜過ぎてそれどころではない。この子優しそうに見えるけど、三人娘の中で一番イイ性格をしているんじゃないだろうか。しかし、それよりも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆俺に期待しすぎだっての」

 

吐き出された俺の言葉に三人は笑うだけで何も言わなかった。




なかなかヒーローになれない主人公です

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