新月は機甲兵を照らすか   作:大空飛男
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初月、ラバウルへ

ラバウルは、パプアニューギニア領のニューブリテン島最大の都市である。一九四二年に、帝国軍はオーストラリア軍を退き占領。ソロモン諸島方面進出への拠点とされた場所であり、連合軍からはラバウル要塞と呼ばれていた。

大規模な基地であったが一九四三年の夏以降に連合軍はラバウルの補給線を切断。度重なる連合軍の攻撃を帝国軍は試行錯誤し耐えつつ偵察活動を行っていたが、一九四四年に米国機動部隊の攻撃を受け、航空隊はほぼ全滅。そのまま終戦を迎える事となる。戦後はオーストラリアの統治下となったが一九七五年にパプアニューギニアとして独立。一九九四年には火山被害にあうも、現在は復興をしている。

日ノ本にとっては多くの思いが渦巻くこの場所も、現在ではWW2の再来と思えるほど、激戦区と化してしまっている。現在はブイン基地、ショートランド泊地と共にソロモン諸島近海を守る要となっており、事実上はラバウル要塞復活ともいえるであろう。

そして今日も、その激戦区を臭わせる、戦いが繰り広げられていた。

『ポセイドンから各マーメイドへ。作戦は先にも伝えた通り、敵勢力の目的は不明。最低限の働きをしてもらう。通信終わり』

ノイズ交じりの通信機からコードネームを呼ぶしゃがれた耳障りな声。そんな声を、ラバウル基地の長門型戦艦一番艦の長門は、内心舌打ちをして、聞いていた。

「マーメイド1から各員へ。聞いたか?隊列を組むぞ!」

長門の言葉と共にコールサイン、マーメイド2から6までの艦娘たちは隊列を組む。海を自由に動き回る彼女らにつけられた「マーメイド」のコールサインは、どこか固く聞こえるだろう。

ところで敵性艦は偵察をしに来たのか、果たしてその知性を持っているのかわからないが、はぐれの駆逐艦―雑魚どもが相手となる。だが、ここは腐っても激戦区。個体はすべて、紅に怪しく輝くエリート共であった。

しかしまた、長門率いるラバウル基地マーメイド艦隊も、たたき上げのエリート集団だ。多くの戦闘を経験してきた彼女たちにとっては、所詮エリート駆逐など赤子の手をひねるごとく、屠るのは簡単であった。

「発砲始め!撃てェ!」

長門がそう叫ぶと同時に、四一㎝砲の轟音が海上に響き渡る。それに続き、長門を筆頭とした艦たちもほぼ同時に発砲を開始した。
いうなれば、それは虐殺ともいえるべき状況だろう。単縦に並んだ隊列から放たれる砲弾は、降りしきる雨のごとく駆逐エリート共に直撃し、無残に劣悪な装甲をぶち抜いていく。駆逐エリート共はそこから青き液体をまき散らし、海面へと引きずりこまれていった。

「グガアァ!」

残る駆逐たちも懸命に砲撃を行うが、刹那。駆逐艦の横腹に水柱が立つ。水煙が晴れるころには、その駆逐艦は右翼に大穴を開け、また沈んでいった。

「よし!まだまだ!」

そうハキハキとした口調で、阿賀野型軽巡二番艦能代は得意げに言うと、さらに魚雷発射管から雷撃を行う。彼女は阿賀野型だけあって新しい艦種ではあるが、このラバウルで鍛え上げられ、すっかりベテランの顔となっていた。

『こちらマーメイド4!敵駆逐艦撃破!引き続き殲滅に当たります』

このように、マーメイド艦隊は至極優勢であった。事実、すでに6機目のエリート駆逐艦はマーメイド6である阿賀野型軽巡四番艦酒匂が雷撃を直撃させ、海の藻屑となっている。

「敵勢力見えず…か。終わったな」

長門がそう呟くと同時に、周りには一瞬の安堵がよぎる。
だが、それは視野外から飛んできた数本の雷撃により、一瞬にして凍りついた。

「ッ!?全艦回避行動ッ!」

後方に位置する隊員の声に、全員は反射的に回避行動を取る。だが回避行動は遅すぎた。階段状に放たれた雷撃はたとえ一本や二本は回避できるとしても、まるで誘導するが如く進行上へと追従し、一人の艦娘へと襲い掛かった。

「わぁぁ!こちらマーメイド3!被弾しました!損傷率中破!」

阿賀野型軽巡のネームシップ、阿賀野の叫びが聞こえると、全艦はさらに周囲警戒を始める。マーメイド5である阿賀野型軽巡三番艦矢矧も偵察機を飛ばし、さらに索敵範囲を広げた。

「くっ…どうやら奴らはおとりだったようですね」

長門の隣で、視界からの偵察行動を行うマーメイド2―高雄型重巡のネームシップ高雄は、苦い声でそう漏らした。長門も言葉を返そうとしたその刹那。

「偵察機、撃墜されました!おそらくこれは…!」

焦り混じりで矢矧が叫んだと同時に、ふと上空に黒い影がぽつぽつと数点見えた。間違いないあれは―

「敵艦載機発見!くっ…あの役立たずめ、見抜いていたとでもいうのか!?」

悔しさをにじみだしたような顔で、長門はそう吐き捨てた。出撃前、あの男は確かに言っていたのだ、敵艦載機の可能性を。

もっともその言葉を、妄言だと長門は突っぱねていた。そもそも今回の作戦は、あくまでも近海に出現したはぐれ駆逐艦隊の討伐であり、会敵率は限りなく低いはずであったのだ。偵察任務を行っていた艦隊の報告でも、敵空母の存在は確認できてはおらず、どこから来たのか、まさか敵艦載機による奇襲攻撃が行われるなど、予想できなかったのである。

「対空警戒用意!」

高雄がそう叫びをあげた同時の事だった。動きが鈍くなっている阿賀野へ、さらに水中で描く白い線―雷撃が襲いかかってきた。

「阿賀野ねぇ!」

能代はそう叫びながら、阿賀野の前に立ち受け身を取る。そして着弾後水柱が上がり、水霧が晴れる頃には能代が姿を現した。受身を取ったらしく轟沈までにはいかずとも、艤装服装共にぼろぼろ―大破した様子だった。

「うぐっ…ぐう…」

大破した以上、ダメージが大きいことは火を見るよりも明らかだ。能代はふらりと片膝を海上へと付き、苦痛の声を漏らす。たとえ艤装を装着した艦娘が纏う『加護壁』があっても、肉体的ダメージはそれを貫通し、相応の痛覚を感じさせるのだ。

「能代!くっ…このままじゃ能代が…!マーメイド1!一度戦線離脱を提案します!」

若干の焦りを交えた声で阿賀野はそうは言うが、大破した能代と中破の阿賀野では、速力はかなり落ちる。故にしんがりを務める艦が、必要となるだろう。

「任せて姉さん達!マーメイド6!私たちで抑えるわよ!いや、一掃してやるわ!」

負傷した二人の前に率先して出たのは矢矧と酒匂であった。二人は対空攻撃を始め、敵艦載機を威圧し、その背中は阿賀野と能代にとって大きく見えた。

「了解。申請を許可する。マーメイド5と6は時間を稼いくれ!マーメイド3、マーメイド4には、私とマーメイド2が肩を貸す!」

長門はそう答え高雄に視線を送ると、二人は阿賀野と能代へ寄り添い、肩を貸した。
流石に攻撃態勢へと入ることができないのか、敵艦載機は矢矧と酒匂の対空攻撃をかいくぐり、ふらふらと上空を逃げ惑う。

負傷者を保護した長門と高雄は、矢矧と酒匂に背中を任せ、徐々に戦線から離脱を図った。遠のく長門たちの為にも、ここである程度は敵艦載機を落としておきたいと、矢矧が思考を巡らせる。

「侮らないで!そこぉ!」

矢矧はそう叫びながら、視線に一瞬入った黒い影に機銃掃射をする。進行方向に置く形で放たれた連なる弾丸は、見事に敵艦載機の胴体を打ち抜き、木端微塵に砕いて見せた。

「よし!この調子で…!」

回避パターンを把握し始めた矢矧は、確かな手ごたえを感じ始め、次々と艦載機を落としていく。だが、まるで空中を飛び回る蠅のように、巧みに攻撃をよける艦載機も存在した。

「この羽虫ども…ッ!」

矢矧がそう毒吐き、ふと目に入った艦載機をピンポイントに撃ち落した刹那だった。

「ぴゃあぁあ!?」

酒匂が声を上げたと同時に、爆発音が矢矧の耳に入る。瞬間的に矢矧が振り返るとそこには、艤装炎上をした酒匂が目に映った。

「酒匂っ!」

「うぐ…ううう!」

だが、酒匂の心は折れていない。艤装が炎上してもなお、酒匂は対空攻撃を行い続ける。幸いにも損害状況は小破であり、次第に艤装で燃え上がる炎は、弱まっていった。
二人は背中を合わせ、時には敵機の爆撃を避けるべく、同じ極が向き合った磁石のように瞬発的に離れ、次第に敵機の数を減らしていく。

だが、敵機の数を減らせば減らすほど、当然残弾も少なくなっていく。矢矧の頭の中で表示されている残弾数は、残り僅かと赤く点滅をしていた。

「くっ…キリが無い」

苦い顔つきで、矢矧は言葉を漏らす。恐らく酒匂も同じ気持ちなのだろう。横目で彼女を見ると、焦りと不安が入り混じった表情に変わっている。

そしてついに、矢矧の対空機銃は一門、また一門と乾いた音でカカカと響かせ、弾数が空になったと伝えてくる。また、背中を合わせた酒匂の対空機銃も、数門乾いた音を鳴らしていた。

それでも、まだ諦めるわけにはいかない。矢矧は最後の機銃が切れると、仰角いっぱいっぱいに上空へ主砲を向け、受けて立とうとした。

だが、酒匂の落とした一機を境に、敵機は回避行動をとりつつ、徐々に上空へと昇っていく。そして隊列を取り直すと、撤退を始めた。

「…逃げていった。助かったの?」

上空へ消えゆく敵機を見ながら、矢矧は若干の安堵を入り交えた声で、そう呟いたのだった。





初月がラバウルへたどり着いたのは、舞鶴を出発して3日後の事だった。

C—2輸送機は台北を経由し、パプアニューギニアへ到着。その後は定期巡回の輸送船でラバウルへと向かい、目的地へたどり着いたのは昼過ぎであった。

なお、彼女たちがパプアニューギニアに到着した際、何故偽装を使わず定期輸送船を使いラバウルへ向かったのかは、慣れない海域の事を踏まえて、疲労蓄積を抑えるためであった。

やはり艦娘は特別な存在であり、最高のコンディションで戦場に赴かなければならない。これは彼女が勝手に取り決めた訳ではなく、軍の取り決めである。過去のように精神論だけでは、現在の戦争で勝利を掴むことはできないのだ。

さて、話を戻すが上陸した初月達を待っていたのは、ギラギラと照らしつける太陽と、日ノ本とは違う独特な匂いを始め、軍用車の駐車場に、物資などの積荷が入ったコンテナ群だった。コンテナ群においては人々が忙しそうに駆け回り、中にはフォークリフトを使い物資を移動、搬送している者も見える。

ちなみに現ラバウルは、第二次世界大戦時に使用された基地をそのまま利用しているわけではなく、むしろ現代に即した鉄筋コンクリートなどの建物で組織された軍港となっている。もともとオーストラリア軍が深海棲艦の出現前に、パプアニューギニア政府と共に修復改造した港であったが、深海棲艦が出現した事で有効的な戦力を保有していないオーストラリアは、手放すことを余儀なくされた。そこで現在は今戦争に優位な立場にある日ノ本に貸し出され、こうして運用をされている。艦娘運用のほかにも、設営や憲兵などの陸においての業務を熟す一般兵、また単に艦娘を使用しない作戦行動に従事する陸戦隊なども存在し、それは大規模なものであった。

「やっとついたー。あー、やっぱりあっついねぇ…」

船から降りてすぐに発言したのは、照月であった。制服の襟元をつかみ、ぱたぱたと手首を動かして風を送ろうとする。確かに何処か蒸し暑く、初月も滲み出る汗を拭った。

「ところでさ。迎えの人とかいないのかな?」

秋月の不思議そうに言う言葉に、二人はそういえばと、秋月と同じく辺りを見渡した。舞鶴鎮守府に着任する際は、初めて軍属になる為でもあっただろうが、数人の迎えが門の前で待っていた。故に広い敷地内の舞鶴でも迷わず庁舎まで辿り着けたのだが、今回は違うのだろうか。そう、三人は頭で思い描いていた。

「…どこの鎮守府―もとい基地だと勝手が違うのかもしれないな」

どことなく把握した初月は頷くと、ちょうど手前を通ろうとした、何も荷物を持っていないフォークリフトの運転手に目を付ける。そして、秋月たちに目線で聞いてくると合図すると、小走りで後を追った。

「そこの男性の方、仕事中すまない!ちょっといいか?」

初月の声に、フォークリフトの男は感づいたのか、停車すると振り返る。

「あ、はい…って、艦娘の方ですか?」

「ああ、僕は初月。本日付でこちらに転属することになったのだが…庁舎はどこにあるんだい?」

迎えがいない以上、おそらくは自主的に庁舎まで向かわなければならないだろう。故に、初月は何のためらいもなく、男にそれを聞いた。

しかし、その問いかけに男は「え」と言葉を漏らすと、首を横にしかしげた。

「えっと、庁舎はこの先をまっすぐ行って突き当りを右に行けばありますけど…。何も聞いていませんか?」

思ってもみないことを言われると、初月もまた、凛とした表情を若干崩し、困惑した顔色になる。

「あ、ああ。すまない、何も聞いてなくてね。だからこうして…お前に聞いているのだが?」

すると、男は「あー」と納得したようにうなると、言葉をつづけた。

「なら、司令代理の長門さんが帰港するまで待っていた方がいいですよ。おそらくあの人なら、何か知っているはずですから」

男の口走った司令代理という言葉に、初月は疑問が過ぎる。司令代理とはどういうことなのだろう。

「司令代理?」

「ええ、司令代理の長門さんです。現在このラバウルは、長門さんが取り仕切ってますからね」

「すまない。そういう話は聞いていないんだ。提督はどうした?どこか出かけているのか?」

おそらく、普通の艦娘であればだれもがこう問いかけるだろう。だが、何も知らない初月に、男は苦い顔をする。

「まあ提督自体はいます。ですがアレは名ばかりのものですかね。ここじゃ何の役にも立たない、クズ同然のやつです」

どこか男は、口に出すだけでも苛立ちを覚えるかのように言う。しかし、初月もまた、そんな男に若干苛立ちを孕むと、腕組をした。

「おかしいな。上官に対して、その口のきき方は感心できない。見たところ君は一等陸士だろう?おそらく提督は、君以上だと思うのだが」

すると、男は乾いた笑を漏らし「いや、ですけどもね…」とつぶやくと、言葉をつづけた。

「奴は…奴は岬守なんですわ。はい、あの岬守です。だから、たとえ彼奴が将官だとしても、軽蔑しますよ。あなたもそうでしょう?」

その、忌々しく言葉を並べる男を見て、初月は納得し、同時に理解をした。ここでも岬守は、忌み嫌われている存在なのだろう。

もっとも、内地から離れたからと言って、岬守の待遇が変わるというわけではない。そもそも岬守を含む、『機甲兵』として位置づけされる兵士たちはどの国でも大抵、こうした扱いを受けるのだ。世論で言う機甲兵は、クズや負け犬など、散々の罵倒で表現をされる。

「…あ、ああ。理解した。ありがとう」

初月はそういうと、男に対しもう行って構わないと告げ、秋月たちの元へと転身をする。
今でこそ反論なく、聞き分けよく身を引いた初月であったが、内心には悔しさと悲しさの入り混じった気持ちを抱いた。それは表面上でしか物事を見ることしかできない、世の中に対して、そして恩を仇で返している、世論に対してである。

「おかえりー。どうだった?」

戻れば、秋月と照月が結果を聞いてくる。おそらく二人も、このことを聞けば顔をゆがめるだろう。彼女らもまた、そうなのだから。

それでも初月はいつもの凛々しい顔つきで、何事もなく彼女らにこういった。

「ここはどうやら、他の基地とは根本的に勝手が違うようだね。現在出撃中の、長門型戦艦一番艦の長門が、色々と熟してくれるようだ。一応僕は、提督のいる庁舎へ向かってみる。ついて来るかい?提督は、岬守だそうだが」



連日投稿3日目です。どうも、飛男です。

今回は戦闘シーンが冒頭にありました。艦これ小説において戦闘シーンはそのまま艦娘が戦う、某漫画のように生体ユニットとして戦うなどがありますが、今回は前者を採用―すなわちそのまま艦娘が戦っております。今後もそうしたことを前提に置き執筆していきますので、どうかよろしくお願いします。

次に岬守のことに少し触れましたね。いわゆるオリジナル設定の一つでありますが、簡単に述べるとパワードスーツをまとった兵士だと思ってもらって構わないです。とはいってもすらっとしたMGSシリーズのようなものではなく、ゴツゴツとした鎧のようなものであります。後日知り合いに頼んだ立絵が届くと思いますので、届き次第挿絵にこっそりと入れておきます。

では、今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう