遅れて本当にすみません!
ちょっと忙しく、執筆する暇がありませんでした、申し訳ありません。
なお、これからも投稿が遅くなるかもしれません。どうかご理解をお願いします。
それでは、本編どうぞ
――――――――フフッ。
流れる夜風。
色とりどりの光に包まれる彩南町をゆったりと通り過ぎるそれには、楽しげ――いや、愉しげな笑い声が混じっていた。何かを嘲笑うかのような、そしてこれからどうなるかを純粋に愉しむかのような、そんな笑い声。過ぎ行く風はその声と混ざり合い、虚空へと運び、やがて誰の耳にも入らぬまま、スッと。まるで元からそこになかったように闇へと溶け込んだ。
「あはっ♪ マスター、今日は何か愉しそうですね?」
とあるビルの屋上。
光源がなく、闇に紛れるその場所は月の淡い光に照らされているからか、どこか怪しげだった。そんな場所、それも地面が遥か遠くに見える屋上の端。そこには腰を下ろし、空中へと足を投げ出している少女の姿。漆黒の
先ほど風に運ばれた笑い声の持ち主ではない彼女は、彼女自身がマスターと呼び慕う、相手へと質問を投げかける。――どうして今日はそんなに愉しそうなのか、と。いつもはどこまでも暗く深く、寒気がするほどに冷徹なのに。
――フッ、何……少し面白そうな
ふーん、と赤髪の少女はあまり興味がなさそうに相槌を打った。それ以上詮索はしないし、するつもりもない。それにどうせ聞いたところで上手くはぐらかされるか、お前には関係ないとバッサリ言われるかのどちらかだ。
――そういうお前も愉しそうだな。
次に問うたのは、相手だった。しかし、その場に赤髪の少女以外は存在しない。それ以外にいるのは、やけに大人しい真っ黒なカラスだけ。
「聞いてください、マスター! 私、今日初めて
いかにも嬉しい……というほどに喜色の浮かぶその声に合わせ、その表情もまた喜色を示す。吊り上がった口角は彼女の整った容姿も相まって、何処か妖艶な雰囲気を醸し出していた。
――……まさか、お前まで温かい生活で本来の目的を忘れてはいないだろうな?
まっさかー、と明るく、まるで意に介していないように少女は嗤う。
「ちゃーんと覚えてますよ。――ヤミお姉ちゃんを元に戻す……そうでしょ?」
――そうだ。……今の金色の闇では、私の目的を果たす役には立たない。本来の彼女に戻って貰う必要がある。
冷徹に発せられたその声は、禍々しさを伴い、闇夜に木霊した。まるで目的を果たすためなら、どんなことだろうとやる。そう、言うように。
――そのための方法は一つ。
「わかってますって。せんぱいを殺せばいいんですよね、ヤミお姉ちゃんが♪」
――フッ、わかっているなら問題はない。
「じゃあじゃあ、学校では自由にしていいですよね!」
ああ、とその声は肯定する。それに「やった♪」と少女も続いて喜びの声を上げた。
――ああ、そうだ。メア
「? どうしました?」
メアと呼ばれた赤髪の少女は、今思い出したように言う相手に、首を傾げながら問いかける。
――お前の、最初の友達とやらは元気か?
「ユウキくんのことですか? 元気ですよ! 今日も授業中、面白くって――」
明るく、楽しげにメアは昼の出来事について語り始めた。本当に楽しそうに、普通の一人の少女のように、一つ一つ今日の出来事を思い出しながら。
――そうか。……それなら、いい。
フッ、と再度笑い声。未だ語り尽きないと言う風に饒舌に自分の友達について話しているメアを見ながら、その相手は愉快そうに嗤った。
それはまた同じように風と混ざり合い、同じように虚空へと溶け込む。
一人の少女と一羽のカラスを、淡く光る月だけが、ただただ映していた。
*****
「ユウキ」
呼ばれた声に振り返ると、突然腕を掴まれ、半強制的に引き摺られるようにその後ろをついて来させられる。
放課後の、それも帰り間際。
そんな時間帯ということもあり、昇降口に向かう途中だったので帰り支度は済んでいる。……が、今日はこの後予定があるのだ。用事があるのなら、手短に済ませてもらいたい。それなのに目の前の金髪は何を考えているのか。訳も言わないまま、ズンズンといつもの漆黒の
「ちょっ、金色さん!? いきなりどうしたんだよ!」
ハッと放心状態から抜け出し、叫ぶように出した焦る声は、どうやらちゃんと届いたらしい。階段を降りる一歩手前。相手が歩みを止め、手を離し、振り返る。金髪がやや激しく揺れた。
「……突然引っ張ってしまったことは謝ります。ですが、今は急いでいるので、手短に用件だけ」
そういうヤミは表情を変えていない。いつもの無表情だ。だというのに優稀にはそれが、どこか楽しそうに、ワクワクしているように見えた。
「――私の信頼する友達にあなたを紹介すると約束しました。それを破るわけにはいきません。今は何も言わず、ただ私について来てください。……どうせ暇でしょう」
どうせ暇。
そう言われたことに「今日は暇じゃないんだよ!」と返答したかった。しかし結局何も言うことはできず、また腕を取られ、優稀は歩き出す。ヤミに引っ張られる形で歩き出す。制止の声はかけられない。というか、かけても反応してもらえない。それにいつも、程度の違いはあれど暇ではあるので、彼女の言葉はあながち間違っていない。だから否定もできない。よって、優稀が出来た行動は。
――あらやだ、漢らしい……。
と心の中で呟きながら、ズボンのポケットから携帯を取り出し、よく知る買い物仲間へ、
『ごめん美柑ちゃん、今日行けそうにない。ほんとごめん。理由は後で連絡す』
というメールを送ることだけだった。
……やや最後の文字が足りなくなってしまったのは仕方がないことだろう。気にしてはいけない。
*****
そんな感じで優稀が強制連行される少し前。
彩南高校よりも早くに放課後を迎えた彩南第一小学校。その通学路。
最高学年、六年生ということもあり大詰めとなってきた委員会の仕事、そして日直の仕事をクラスメイトや友人達がやや引くほどの早さでこなし、たったの15分で片付けたスーパー小学生、結城美柑は一人で帰路についていた。
仲良し三人組と評される彼女達の中の二人、
大体、このスーパー小学生が異常なのだ。他を寄せ付けないほどに要領が良いとはいえ、委員会に所属する他の生徒達がまだ三割しか終わっていない仕事を、日直の仕事と並行してこなしていたにも関わらず、完璧に片付けたその手腕はもはや達人級。神業と言ってもいい。日頃の家事など全てをほぼ一人で担当していることもあるだろう。しかし、今日に限ってはそれだけではなかった。
「ヤミさんと葵さんが来るんだから、腕に縒りを掛けて夕飯作らないと……! ヤミさんとは、料理を教える約束してるしね!」
彼女が仕事を早く終わらせることができた最大の要因。
それはヤミと優稀が今日、お泊まりしに来ることにあった。
「そうだ! 葵さんにどこで待ち合わせするか、聞いておかないと!」
彼女のテンションは普段の二、いや三倍といったところか。スキップしそうなほど軽々とした足取りで、自宅へ向かって歩く美柑はポケットから携帯を取り出し、
「あ、電源消したままだった……」
画面が暗いままだったそれの電源をつけて、再びポケットへと戻した。携帯は電源がつくまでに少し時間がかかる。その間に少しでも家までの距離を縮めようと、美柑はやや小走り気味に、ダークブラウンの髪を揺らしながら、明るい笑顔で前へ前へと進んでいく。
ヤミには今日はお味噌汁の作り方を教えようとか、ヤミと優稀は仲良くなってくれるだろうか、なってくれるといいなとか、優稀は学校でどんな感じなんだろうとか。そんなことを考えていたら、美柑の進むスピードはさらに上がっていた。本人は全くそれに気づいていないが。
やがて自宅までもう少しというところで、一度スピードを落とし、ポケットから電源がついただろう携帯を取り出す。慣れた様子で起動させると、画面には。
『ごめん美柑ちゃん、今日』
ごめん、その一言は謝罪を意味する。そして、後半の『今日』だ。最悪の事態……とは言わないまでも、明らかに予想することができる、その続き。
「……まさか」
美柑は焦る様子で、設定しているパスワードを入力し、メールを確認する。そして全文を表示。
『ごめん美柑ちゃん、今日行けそうにない。ほんとごめん。理由は後で連絡す』
予想通りの続き。
しかし、不自然なところで文章が切れていた。
残り一文字を打ち忘れるような人ではない。余程急いでメールをうったのか、それとも――何か事件に巻き込まれたのか。後で連絡する、とある以上、連絡してくれるとは思うがやはり心配だ。
そして分かることは、今日は優稀は来ない、ということ。
「……葵さんのバカ」
不貞腐れたように、そう呟いた。
わかってはいるのだ、仕方がないことくらい。そのくらい理解している。ただ理解してはいるが、納得はできない。
再度ポケットへと携帯を放り込み、進み出す。携帯を放り込む際、やや乱暴になってしまったのは仕方がないこと。
来れない理由はわからないが、今電話しても急ぎの用事なら出ることはできないし、メールをして邪魔になっても悪い。だから美柑は大人しく、連絡を待つことに決めた。同時に今日中に連絡がなかったら、一週間くらい口を聞いてやらない、とも。
再び美柑は小走りで自宅へと向かう。
優稀は来なくても、ヤミは来るのだ。どちらにしても、急いで準備をしよう、と。やはり美柑の進むスピードは上がる。
ただ、上がったはずのスピードは、メールを確認する前に比べると、明らかに半減していた。
*****
ピンポーン、と。
よく言えば聞き慣れた、悪く言えば聞き飽きたほどに聞いたことのあるインターホンの音。綺麗で耳に入ると心地良いそれは、それぞれの家ごとに多少の違いがある。二回鳴ったり、ピンポンと伸びなかったり、逆に長く伸びたり。本当に多種多様。それぞれ風情があり、どれも違ってどれもいい――なんて思うのは昔の詩人だけだ。
しかし、やはり一番良いのは自分の家のインターホンだろう。それこそ聞き慣れているので、耳に入りやすく、入っても違和感がない。……うん、やはり自宅が一番だ。
…………とまあ、ありきたりな結論に至ったが、インターホンについて語ったのは一種の現実逃避である。
「はーい!」
もちろん、目的地――どちら様かも知らない、ヤミの唯一の友達の家に連れて来られた優稀の、だ。
そんな彼など御構い無しにガチャッと、扉が開かれる。扉の前に位置取っていたヤミはその先にいる人物に向けて、普段はしないような優しい笑みを浮かべた。……口元が緩むだけの些細な変化ではあるが。
しかし、そんなヤミの友達のものだろう声に優稀は何故か聞き覚えがあった。というか、つい昨日聞いた声だった。
「ヤミさん、いらっしゃい!」
「こんにちは、美柑。今日はよろしくお願いします」
そして、ヤミの発した相手の名前。――『美柑』。
声といい、名前といい、もう確定だった。
「ヤミさん! そちらの方がヤミさんの友達の……!?」
「はい、紹介しますね。私の友達のユウキです」
つい先日、聞いた紹介の仕方と似たようなそれに、僅かながら苦笑する――余裕は優稀にはなかった。なぜなら目の前にいる少女が、先程ドタキャンを食らわせたばかりの女子小学生だったから。目の前の相手も予想できていなかったのか、目を見開き、あんぐりと口を開いている。
――どうやら、世間は狭かったらしい。
二人が声を上げたのは同時だった。
「あ、葵さん!?」
「美柑ちゃん!?」
驚愕の声。
それを発したのは、約束が破綻したはずの二人。美柑にとっては買い物仲間で仲の良い、お兄さん兼友達。優稀にとっては買い物仲間で仲の良い、妹的存在兼友達。その二人が偶然、約束の日、約束通りにその場所に居合わせた。二人の時間が止まる――。
「?」
唯一動いていたのは、この状況を作り出した張本人。
優稀と美柑の約束を破綻させ、守らせた金髪の少女。
ヤミは驚きの表情で固まる二人を他所に、その小さな口をへの字に曲げ、その細い首を可愛らしく傾げ、理解できないとばかりに、頭の上にはてなが浮かんでいるのがわかるような、そんな不思議そうな雰囲気で、ただただ二人の間に佇んでいた。
第五話でした。どうだったでしょうか?
今回はモモの出番なし。ヤミと美柑がメインでした。
よくわからないところがあれば、遠慮なく聞いてください。
……ちなみに本編では触れてませんが、前回の終わり際の里紗との絡みについて。活動報告にて、アンケートを行おうと思います。
・番外編として書いて欲しい
・別に書かなくて良い
的な感じで笑
次回はお泊まり会!
読んでいただきありがとうございました!
感想、評価遠慮なくお願いします!
それでは、また次回。