そしてキャラ崩壊感があると思います。苦手な方はすいません。
それと作者的にここ違うな、と思ったら修正していくので、把握よろしくお願いします。
それでは、本編どうぞ。
――――あなたを殺しましょうか?
その言葉と同時に空気が変わった。……気がした。
別に空気の温度とか湿度とかが変わったわけではない。……そのはずなのにたった今感じる空気は酷く冷たく――重かった。
……これ、は――
感じられるのは言い知れぬ不安感と焦燥感。さらには、見つめてくる無感情な紅色の瞳に宿るどこかドロっとした禍々しい雰囲気、突きつけられた刃の先から感じられる恐怖。
知っている。
この様々な負の感情を表に引き出してくるような、その感覚を優稀は確かに知っている。……その正体が俗に言う『殺気』だということを――。
今にも逃げ出したくなるような威圧感があるのに、なぜかそこから指一本たりとも動かせない。手や背中は汗でしっとりと湿って、シャツが肌に張り付く。
そんな謎の感覚に優稀が押しつぶされそうになる直前――フッ、と。全身から力が抜けるほどに空気が軽くなった。
「嘘ですよ」
まるで何事もなかったかのように。いつもの無表情で。
再び彼女は本に目を向ける。
――正直、怖かった。
先程までとは比べ物にならないくらい柔らかな、いつも通りの空気に優稀は呆気に取られる。
突然変わった空気もそうだが、普段通りの態度から先程の行動。その切り替えを即座にやってのける彼女に、優稀が不安と恐怖を抱いたのは紛れもない事実だ。
ヤミは『普通』じゃない。この普通とは、いわゆる通常の地球人ということ。通常の人間が、先程のヤミを目の当たりにして恐怖しないわけがない。もちろん、特殊な訓練受けた者や環境で育ったものならば別だが。
(でも、"あの人"に比べれば――)
「ユウキ、これは何と読むのですか?」
その声でふと我に戻る。
隣で、本の一部を指差しながら聞いてくる、彼女の目は無表情で。何事もなかったかのようにいつも通りに。そんな彼女からしたらやはり先程の変貌は日常茶飯事なのだろう。きっとそうだ。何せ、似たような人物を優稀は知っている。だから、優稀もいつも通りに。そして、少しのわがままも添えて。
「これは『
自分から質問して来たのに、一瞬ハッとしたような表情をして小さく「……どうぞ」と言う彼女にユウキはクスッと笑い、たい焼きを手に取った。
*****
――そこに居合わせたのは、本当に偶然だった。
昼休みになり、適当に言い訳をつけてクラスメイトからの質問の嵐を潜り抜け、渡り廊下を『ある人』を求めて歩いていたモモ・ベリア・デビルーク。クラスメイトの下心ありありな質問攻めにうんざりして、愚痴をこぼしていた彼女の目に止まったのは、結城リトを
な、何なのあのただならない雰囲気は……!
本を読んでいたり、たい焼きを一緒に食べていたり……までは普通だった。まだ少し関わりがあるのかな、くらいだった。しかしそこから、彼女が"
ま、まさかあの二人って、そういう関係なの……!?
モモがそんな風に勘違いをしても、おかしくはない。しかし、そうなってくるとモモとしては、面白くない。彼女はヤミも『ハーレム計画』の候補に入れていたのだ。そんな彼女からしてみれば、すでにそんな関係になっていれば非常に都合が悪い。
よって彼女は作戦を変えることにした。
ヤミさんとあの人が一緒にいる時間が減れば、きっとその間にリトさんが頑張ってくれるはず……!
あのリトさんの神業もあることだし、と頭の中で付け足して、モモはたった今脳内で形成した謎計画を実行に移す。
まずは第一段階……あの人と仲良くなるところから!
自分が仲良くなり一緒に行動すれば、ヤミとの遭遇率を大幅に減少させることができる。その思考の元、モモはできるだけ愛想良く接することに決めた。
葵優稀の性格や素性は大体、クラスメイトの方々から情報を収集済み。『基本的に話しかければ、普通に返事をしてくれる』、『優しくて温厚だけど、休み時間と昼休みは全然教室にいない』などなど。意外と情報が多いことにモモは少しだけ驚き、そしてありがたいと思った。……よし!
「ヤーミさんっ」
ゆっくりと落ち着いて、比較的親しみやすい笑顔でモモは金色の殺し屋――金色の闇こと、ヤミに声をかけた。
「……」
「…………あれ? あのー、ヤミさーん」
おかしい。返事がない。
どうしてか、とヤミを観察してみると、彼女はたい焼き片手に本を読んでいる。その顔はいつもの無表情で、しかし本に集中しているのか、その視線は文章に固定され、その他をまるで映してはいなかった。
「……」
「おーい、ヤミさーん……たい焼き勝手に食べちゃいますよー」
「……」
「あ、あんな所にリトさんが!」
「……」
「あ、あのヤミさん? そろそろ返事してくれてもいいかなー、なんて……」
これもダメ。
その後、何度か試したがどれもこれもダメ。完全無視な彼女の対応に、モモが若干涙目になりかけた時――
「なあ、モモ・ベリア・デビルークさん」
救いの手が伸ばされた。
パァと音が出てそうなほどモモは表情を明るくし、まるで神様が舞い降りたかのような、そんな嬉しさを含む笑顔を優稀に向けた。それは間違いなく、仮面を被った表情ではなく、仮面などついていない素の表情で、自分でも気づかないままモモは他人にそれを晒していた。……どれだけ救いが欲しかったのか。
「もう少しで読み終わるだろうから、待っててあげてくれない?」
「……えっと、ですがもう少しで昼休み終わっちゃいますよ?」
お願い、と頭を下げる優稀に「わかりました……」と言って、モモはとりあえず待つことにした。
でも、これはチャンスかもしれないわ……ヤミさんは話を聞いてないみたいだし、今なら彼と仲良くなれるかもしれない!
今がチャンス。
逆にヤミが聞いていない今がチャンスなのでは、と考えたモモは早速行動に移る、
「初めまして、私はモモ・ベリア・デビルークです♡ これからよろしくお願いしますね?」
精一杯の愛想笑いと若干の猫なで声とともにモモは優稀の懐に入ろうと、まずは自己紹介。これで好印象ならば、このまま行くだけで仲良くできるはず。しかしモモのそんな考えは次の一言で、打ち砕かれることになる。
「初めまして、葵 優稀です。ただ、ごめんけど、あまりよろしくはしたくないかな」
「……へ?」
思わず間抜けな声が出た。
しかしすぐに我に帰り、いけないいけない、とモモははしたない今の返事を取り繕うように咳払いを一つ。まずは理由を聞かなくては。
「……理由を聞いても?」
「理由というか……まあ、そもそも進んで関わる気は無かったし。それに俺、猫撫で声とか好きじゃないし」
主に隣人のせいだけど、と付け足す優稀の声はすでにモモの耳には入っていなかった。
な、なんなのこの人、偉そうに……! 何が『進んで関わる気は無かった』よ! 私だって、リトさんのためじゃなければ、こんな……
先程までクラスメイト達からの質問攻めにあっていたストレスがここに来て一気に押し寄せてくる。予想以上に彼女はうちに溜め込んでいたらしい。
「だから、あんまり仲良くはしたくないな。クラスメイトとしてはよろしく」
よろしくと言いながらも彼は握手する手を出そうとはしない。
優稀は日頃の秋穂に似たものをモモに感じていた。そして、そんな秋穂への対応を朝からしてきたのだ。それで疲れている所にモモの登場。一目見た瞬間、彼はモモが秋穂にどこか似ていると感じてしまった。だから、優稀がこんな態度になってしまっても誰も文句を言うことはできない。しかし……しかし、だ。そんなことなどモモは知らないし、モモには関係ない。だから――
「何ですか、あなた。人が折角仲良くしてほしいとお願いしているのにその態度は。もう少し礼儀というものを知ったらどうなんです?」
ここでモモがつい言い返してしまっても、これにも誰も文句は言えないのだ。それに悪い状況も重なっていた。優稀の方は朝からの秋穂への対応。モモの方は下心丸出しなクラスメイト達への対応。しかも優稀は少し毒舌でもある。それがさらに拍車をかけてしまった。
そして、そこまで言われて言い返さない優稀ではない。
「猫被りに礼儀がどうのとか言われたくないな。それに別に俺が誰と仲良くしようがアンタには関係ないだろ……自分の都合押し付けんなよ、腹黒王女」
「――っ! 腹黒王女ですって……! 私はリトさんのために――っ……と、とにかく! あなたには私と友好的な関係を築いてもらいますからねっ!!」
「はあ……? それはどう考えても横暴だろ。自分の言ってること理解してる?」
ああ言えばこう言う。
まさにその言葉が合うように、二人は口論を激化する。モモは嫌悪感丸出しの表情で、優稀は冷静な表情で。
「あなたこそ、その足りない脳みそで考えたらどうなんですか? どれだけ私と仲良くなった方が利益があるか。あ、所詮は地球人。思考力から身体能力まで私達デビルーク星人にはまるで歯が立ちませんものね?」
「それは地球人全員に喧嘩売ってると言われても文句言えないからな……? それに友達になるのに利益を考えるとか……アンタ、友達いないだろ」
「――友達くらいいますよっ!! たくさん、あなたの考えられないくらい! たくさんね!」
「へぇ……それは是非会ってみたいな。そのた・く・さ・ん・の友達様方に」
ニヤニヤと悪戯っ子のように笑う優稀にぐぬぬ、と言いながらモモはすでに悟っていた。この人ともう友好的な関係は築けないだろう、と。ここまで言われては、流石にもう言い返すしかないし、いくらモモでもここまでくれば、何か特別なきっかけがない限り、関係修復は不可能。
しかし、『ハーレム計画』を円滑に進めるためには、自分以外にもう一人協力者がいた方が確実だ。そこまでしてまで、必要なのかとも思うが、モモには確実性が欲しいのだ。自分も愛されるために――
「……あの、そろそろ昼休みも終わりですよ。ユウキ、プリンセス・モモ」
そんな雰囲気を破ったのは、本を閉じて正論を言ったヤミだった。彼女は若干、怪訝そうに目を細め
「あなたが声を荒げる所なんて初めて見ましたよ、プリンセス・モモ。裏で色々考えていても、所詮はまだまだ子供ですね」
「……あの、ヤミさん? 私は子供ではありませんよ?」
「いや十分子供だろ」
「何処がですか!?」
わざわざ、胸もちゃんとありますよ、と付け足して、両手で胸を寄せるモモは完全に我を忘れてしまっている。普段からナナに『はしたない行動は慎みなさい』と言っているが、今は本当にそれが彼女に言えるのか、不思議なところだ。
バチバチッ、と。
視線を交差させるモモと優稀にヤミは自分の知らない二人を見て、やや驚きを含んだ表情で、たい焼きの最後の一欠片をその小さな口に頬張った。そこへ――
「モモ!」
「リトさん?」
狐色のツンツンヘアーを風に靡かせながら走ってきたのは、モモの『ハーレム計画』の中心人物にして、ヤミ曰く『えっちぃ人』、彩南高校二年の結城リト。彼は何処か焦った様子で、後ろを振り返りながら、モモの横で足を止める。
「どうかなされたんですか?」
「あ、あいつらが……!」
そんなリトの言葉足らずの説明に困惑しながらも、モモは彼の指差す方向へと視線を移す。同じくその場にいた優稀とヤミも同様に。そこにいたのは。
「見つけたぞ……金色の闇」
「何ですか、あなた達!」
「猿山達、さっきまでは普通に話してたのに……」
彩南高校の制服を着た七人の男子生徒達だった。
しかし、普通ではない。――涎を垂らし、白目をむいたその姿は明らかに異常だ。
狙いは……ヤミさん?
モモはいつもの如く頭の中で考えを巡らし、咄嗟にリトの前に彼を守るように立った。同じようにヤミも優稀の一歩前へ。
「オレ達と……遊ぼうぜぇ!!」
*****
襲撃者の中の一人が声と同時に右手伸ばしながら、ヤミに向かって突貫する。両手を合わせ、上から下へ。そんな単調な攻撃をヤミは空中に跳び上がることで回避。脇に優稀を抱えながらも、彼女が空中で体勢を崩すことはない。
――速い……!
凄まじい音を立てて真っ二つになるベンチを見ながら、ヤミはそれを破壊した張本人に視線を向ける。明らかに人間ではありえない力。それに白目をむいて涎を垂らした顔。どう考えても――
「何者かに操られているようですね……」
「おい、金色さん!」
着地した直後に目の前に迫る手を優稀の声がすると同時に回避し、その先で後ろから襲ってきた一人もまた回避する。危なげなく回避しているようだが、実際にはヤミもギリギリだった。
……いや、私が鈍っているのか――
「――っ!?」
「捕まえタァ!」
そしてとうとう左手を取られ――ヤミは巻き込まないように優稀を少し強めに投げ飛ばす。直後、そんな彼女の心情など露知らず、残りの男子達が集まってきて、ヤミの腕や足を拘束した。
「金色さん!?」
「ヤミ! 今助けるからな!」
リトが威勢良く声を上げるが……
「っ!」
今ヤミは拘束されている。それも足や手を広げられた状態で。
つまりリトからは、拘束されたヤミのむき出しになった胸や太腿、そして清純な白色の――
「――っ! 見ないでくださいッ!」
「う、うわぁぁぁあ!?」
「り、リトさーん……!」
リトが金色に巻かれて、駒のように飛ばされる。それを追いかけるように、モモがあわあわとしながら駆けて行った。優稀はそれを見て、戦場ながら、ポカーンと口を開け呆然と。いやいや、と首を振り、再びヤミの方を向く。
襲撃者の一人、最初に襲ってきた男がヤミに手を伸ばし、その身体に触れようと迫り――。それを見た瞬間、優稀は地面を蹴っていた。足元に運良く落ちていた
「やあっ!」
ゴフッと口から漏らし、男子生徒が少し後退してその場に倒れる。突然目の前から迫っていた人物が消えたヤミは驚愕しながら、優稀に視線を向けた。そこには手に少し長めの木の棒を握り、身体はたった今視界から消えた男子生徒の方を向き、静かに息を整えている優稀の姿。――『突き』を勢い良くはなった彼は次の標的に視線を向け、木の棒を構える。
「金色さん、今のうちに……!」
そう言いながらまた一人に『突き』を放ち、その鳩尾を捉えた。その声にヤミはハッと我に帰り、自分を拘束する者達を"変身"能力で弾き飛ばし、気絶させる。
「えっちぃのは、嫌いです……!」
頬を染め、怒りの表情を浮かべたヤミは倒れた者達にそう放った。
*****
「ヤミさん! 大丈夫でしたか? …………あと葵さんも」
そちらも終わったのか、モモはやや焦った表情で、リトと一緒にこちらに走ってきた。……最後に優稀を付け足して。しかし、モモ達の後ろに巨大な花が見えるが、あれはなんなのだろうか。優稀は疑問に思いながらも、モモの言動への反論を優先した。
「大丈夫です」
「俺はついでっすか……」
「そうですが、何か問題でも?」
くっ、と悔しそうに声を上げる優稀を見て、ヤミはホッと息を吐く。
それにしても、ユウキには戦闘の経験が……?
先程のまるで洗練されたような『突き』を見て、ヤミはそんな疑問を持った。しかしそんな疑問は記憶の彼方へと飛ばされることになる。
――やはり、誰一人息の根を止めてはいないか。
それは襲撃者である男子生徒の一人から発せられた声。
しかし、何処か誰かの声が混じったようなノイズが入った声だった。
――地球で牙を抜かれたという情報は、本当だったらしいな。
「……何者ですか」
――本当の君を知る者だよ。……目を覚ませ、金色の闇。
冷徹でありながら何処か面白がるような、そんな声がその場にいる全員の耳に響く。
――ここは君のいるべき場所じゃない。
優稀は無意識のうちにヤミの隣に立っていた。
――君の『本質』は、闇。殺戮以外に生きる価値のない存在。
「……」
――甘い夢などもう終わらせるべきだ。
ヤミはゆっくりと後ろを振り向く。
その視線の先には、モモの後ろに庇われるように立っている結城リトの姿。
――すぐそこにいるのだから。
その声は何処までも暗く、まるでヤミをその暗闇の中へと誘いこむような、禍々しさを持っていた。
重苦しいほどの沈黙。
それは草木などにも影響を及ぼし、染み渡る。風が止み、草木が鳴らす音も聞こえず、また学校から響く生徒達の声すらも――止んでいた。そんな雰囲気、誰も何も言葉を発しない……いや、発せない空気の中。それはリトの、モモの、見えない敵の、そしてヤミの。それぞれの耳に響き渡る。
「……バカだろ」
こんな状況だというのに何故かいつもの調子で、しかししっかりと相手にその意図を伝えるように。優稀の声が、響く。それは何故か。もちろん、決まっている。優稀の中で、ヤミは心のない殺戮兵器などではなく。変えようのない、かけがえのない、一人の友人だから。
――……何?
その禍々しさの混じる声が、若干だが揺れた。
「金色さんはもう人を殺したりしない」
――ほう。
「いや、俺が絶対に殺させたりしない。何ができるかわかったもんじゃないけど、俺は今の金色さんのほうが良いと思うから」
ま、昔の金色さんを知ってるわけじゃないけど、と。
「……!」
ヤミの無表情な瞳が大きく見開かれた。それは光を伴い、移り、そして一人の少年を映し出す。
――ははっ、なるほど。言うな地球人。そうか、それなら……
心底面白がるように、嘲笑うかのように。楽しさ――いや、愉しさを含んで。
――まず最初にお前を殺してやろう。
一羽のカラスが屋上から飛び立った。
第二話でした。
やはり今回はモモのキャラ崩壊感が……まあでも、彼女はこんな感じで進めていきます。
続いて、三話でこのシリアス感……今後どうしよう。
質問やアドバイス、ヒロインリクエストなどは、活動報告の方にお願いしますね!
読んでいただきありがとうございました。
感想、評価よろしくお願いします。
それでは、また次回。