ToLOVEる 彼女達との奇妙な関係   作:ichizyo

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ちょっとした息抜きのつもりで書きます。
よろしくお願いします。



プロローグ

 突然だが、平和という言葉を知っているだろうか。

 

 調べてみると、一つは戦争や紛争がなく世の中が穏やかな状態にあること、もう一つは心配や揉め事がなく穏やかなこと、という意味がある。

 一つ目は、国の法律で定められているので問題ないだろう。しかし、二つ目を考えた時、それは程度の違いはあれど、日常の中に確かに潜むものだ。心配といえば、誰か知り合いが病気になった時や家族と離れて暮らし始めた時、または進級してクラス替えになった時など。揉め事といえば、人間誰しもが同じ考え方をしているわけではないので、些細なことでもぶつかり合ったり、口論になったりと様々だ。

 そうやって考えてみると国としては平和だが、人間関係や置かれた状況によって、平和とは言えない場面が多々存在している。

 

 しかし、現在の状況や場面よりもさらに状況が悪化したり、急変したりした場合にはどうだろうか。そんな時こう思うかもしれない。『まだ前の方が平和だった』、『今の状況になるくらいなら、前のままでいたかった』などなど。

 それよりも悪い状態、危険な状態に陥ると以前の生活に戻りたいと思ってしまうこともある。

 

 それは一人の少年、優稀にももちろん当てはまるものだ。

 正反対姉妹の隣人、傍迷惑な従姉、少し変わった転入生、異星人、図書室にいる宇宙一の殺し屋、買い物仲間の友人、やたら自分の部に勧誘してくる先輩、そして双子の転入生。

 個性豊かな人達に囲まれた生活の中で、彼の生活は一変することになる。

 

 平和から、慌しく過酷な日常へと――

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

「ふぁあああぁぁ……ねむい」

 

 ゆっくりとベッドから起き上がり、まだ重たい瞼を薄っすらと開いて目を擦る。カーテン越しの外からは忌々しいまでの太陽がその存在を主張し、皮膚ガンの原因となる紫外線を存分に発射している夏の今日この頃。今日も今日とて平和で安全な一日の始まりである。

 たった今、外の太陽に恨みがましく視線を送る彼の名前は(あおい) 優稀(ゆうき)。ピカピカの高校一年生で、放課後長く学校に居られるからと図書委員に志願した少年だ。総勢七名の志願者とジャンケンという名の戦争を繰り広げ、それに見事勝利したのは記憶に新しい。実を言うと、今通っている高校の図書室は彼の唯一と言って良いほどの憩いの場なのだ。理由は……まあ後々話すが、それはもう入学する三年くらい前から受験勉強期間終了まで。そんな図書室(楽園)をそう簡単に手放すわけにはいかないと、全神経を右手に集中した結果が今の立ち位置である。

 それに加えて――

 

「一人暮らしにも慣れてきた……かな」

 

 優稀は現在高校一年にして自立している。正確には単身赴任中の両親から生活費を払ってもらっているわけなので、完全な自立というわけではない。まあ自炊などしているため、自立(仮)くらいが妥当なところだ。

 優稀は寝癖を直すために洗面所へと向かう。別に姉や妹はいないので、何の気負いもなく扉を開き鏡の前に立った。

 

「うわっ、寝癖すご……」

 

 そんなことを呟きながらも手慣れた様子でそれを直した優稀は顔も洗い、朝食を作るためにリビングに向かう。その最中何故か味噌汁のいい匂いがしたのが気になったが、昨夜はしっかり戸締りをして寝たので、きっと気のせいのはず。というか、戸締りしてても入ってこられていたら、さすがにもう対処の仕様がない。だから大丈夫。そう自分に言い聞かせ、優稀はキッチンのあるリビングの扉を開き――。

 

「あら、おはよう優稀君。今日も暑いね、ホント嫌になっちゃう。あ、ご飯できてるよー。早く椅子に座ってくださいね? あ・な・た♡――」

 

 そこには青紫色の髪の隣人(悪魔)が。

 バタンッ!

 と、壊れるほどの勢いで扉を閉めた。扉さんごめんなさい。

 

 こうして、平和で安全という言葉とは程遠い、慌しく大変な優稀な一日が幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

「もー、ひどいなー優稀君は。朝からご飯まで作って驚かせようとしたのに……」

 

 両手でその端正な顔を覆って、泣いたフリをする彼女の名前は西連寺 秋穂。二十二歳で、職業はファッション雑誌の編集者である彼女は、突然部屋に入ってきて、ご飯作ったの何だのと言っているが、なんだかんだで社会人だ。

 

「ひどいとかどの口が言うんですか社会人。まず常識を知ってくださいよ。不法侵入は立派な犯罪です。あとその泣き真似も詐欺師の手口ですから、やめてください。もう一度中学……いや小学校からやり直した方がいいんじゃないですか、バカ穂さん。それと聞き逃してないですからね。俺は貴方の夫ではありません」

 

「そんなに真顔で言わなくても……」

 

 全く優稀君はつれないなー、などと意味のわからないことをのたまう彼女に舌打ちで返事をして、優稀は春菜の(・・・)作った朝食に手をつけた。ちなみに春菜というのは、この非常識人西連寺秋穂の妹であるにも関わらず、常識人な西連寺春菜のことだ。お隣さんで、たまに夕飯などをお裾分けしてくれる優しい優しい一つ上の先輩。間違ってもこの非常識社会人と同じにしてはいけない。絶対にだ。

 

「……あの、優稀君。舌打ちは流石にひどすぎじゃない……? あとバカも」

 

 不満そうに優稀を見つめる秋穂は少しずつ椅子を近づけ、距離を縮めてくる。まあ優稀はその度に椅子を倍遠ざけているので、むしろ距離は離れて行っているのだが。

 

「あーすいません、バカはひどかったですね。というか、何が『朝食できてるよー』ですか。これ全部春菜さんが作ったものですよね? 秋穂さん略してアホ」

 

「ば、バレた……? ――っていうか、アホ!?」

 

 何やらガヤガヤ言っているが、優稀はすでに朝食を食べ終えているので制服に着替えるために自室に戻る。皿は……というか、並んでいる食べ物が全部タッパーに入っているんだから、秋穂が作ったものではないとこの部屋の住人である優稀にはわかってしまうのだ。

 

「……それで?」

 

「それで、何?」

 

「いや、何で普通について来てるんですかね? 俺今から着替えるんですけど」

 

 制服に着替えるために戻るのに何故、秋穂がついて来るのか。というかいつ食べ終わったんだろう。……って、おいこら何でいきなり恥ずかしそうに顔を赤くする?

 

「それ……私の口から言わせるの?」

 

「言ってください」

 

「……まさかホントにわからない?」

 

「わかりませんよ。わかりたくもありません。わかってたまるか」

 

「えー、そんなに全力で嫌がらなくても……もう、照れ屋さんなんだからっ!」

 

「いや、照れてません。お願いですから出て行ってくださいこの部屋というより、家から。そして二度とこの家に足を踏み入れないでください。『朝食ありがとうございます』とだけ春菜さんに伝えてもらえれば……いややっぱいいです。自分で言いますから」

 

 バタンッと扉を閉め、鍵をかける。

 ドンドンとノックではなく、ドアを殴打する音が聞こえるが、ドアには耐えてもらう他ない。主に彼の尊厳のために。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

「……朝から疲れた」

 

 朝は忌々しく感じた日光すら励ましてくれているように感じてしまっている優稀はすでに末期なのかもしれない。

 あの後、優稀が普通に着替え部屋を出ると秋穂は何を血迷ったか、突然抱きついてきたのだ。それを丁寧に引き離し、何事もなかったかのように玄関に向かい靴を履いたが、速攻で復活した彼女は今度は後ろから抱きついて来ようとしたので、上手く躱しデコピンをお見舞い。「あうっ」と声をあげた彼女に最初から気になっていた『どうやって部屋に入ったのか』について聞いたら、

 

『あ、そうだった! 優稀君、春菜にだけ合鍵渡したでしょ? 私がどれだけショックだったかわかる? それがなんか気に食わなかったから、春菜の部屋に忍び込んで、合鍵借りちゃった☆』

 

 と、ご丁寧に最後にテヘッと言って舌を出してくれたので、立派な窃盗罪ですと罪状を突きつけてやった。そして、これが優稀が鍵を変えようと決意した瞬間でもある。

 

「全く何がしたかったのやら……あっ、あの人今日仕事なかったのかな」

 

 なんとなく推理しながら、通学路をゆったりと歩いていると。

 

「あ、優稀君おはよう」

 

 後ろから声を掛けられた。

 声に少し驚きながら、振り向いてみるとそこには黒髪の少女が走ってこっちに来ている姿が。

 

「おはようございます、春菜さん」

 

 笑顔で優稀を見ている彼女は、朝の厄災の元凶でもある秋穂の妹の春菜だ。この姉妹は本当に正反対な性格をしているので、なかなか珍しいと優稀は思う。姉は時々意味がわからない行動を起こすが、明るい性格で、妹は少し引っ込み思案なところがあり、大人しめな性格だ。正直、優稀にとって春菜だけが頼れる隣人である。

 

「ごめんね。朝からお姉ちゃんがそっちに行ってたでしょ?」

 

「はい、来てやがりましたよ。ご丁寧に合鍵を持って」

 

 皮肉を込めて優稀がそういうと春菜は少しだけ目を伏せ、

 

「うぅ……本当にごめんなさい。朝から合鍵がないのに気づいて……あれでも悪い人じゃないの。だから、お姉ちゃんを許してあげて」

 

「別に春菜さんが謝る事じゃないですよ。それに怒ってるわけでもありません。俺が単にあの人のこと苦手なだけですし……あ、そうだ。朝食ありがとうございました。美味しかったです」

 

「……優稀君の優しさが痛いよ、お姉ちゃん」

 

 結構本気で涙目の春菜を宥めながら。優稀達は学校への道を歩く。もう慣れ親しんだ道を歩くのに迷うことは一切ない。実質もう三年とちょっとこの道を歩いているのだ。そんな優稀は高校一年だが、堂々とその道を歩く。

 

「なんであの人はモテるんだろう」

 

「うん、すごく唐突だね。でも普通に綺麗だからじゃないかな?」

 

「確かに綺麗ではあるんですけど……でもあれですよ? 朝から人の家に不法侵入したり、時には覗き魔だったり、朝からベッドに潜り込んできたり、鍵かけてたはずなのに起きたら膝枕されてたり……はぁ」

 

「そ、そんな重苦しいため息、朝から聞きたくなかったよ……でも私のお姉ちゃんってそんなことしてたんだ……ごめんね」

 

 実の妹に謝らせる姉とはこれいかに。優稀はとりあえず、

 

「だから、春菜さんは悪くないですって。全てはあの常識外れなアホ……違った。秋穂さんが悪いんですよ」

 

「今さらっと、お姉ちゃんのことアホ呼ばわりしたよね」

 

 普段はそんな行動なんてしないくらい大人なのにな、と本気で考え始める春菜。優稀はそんな彼女に「ただからかってるだけだと思いますけど」とあまり深く考えないように促し、とりあえずこの話題から別の話題に変えることにした。

 

「まあそれは良いとして。そういえば、春菜さん。例の好きな人とはどうなったんですか?」

 

 直後、春菜が盛大に吹き出した。どうやら別の話題のチョイスが悪かったらしい。

 そんな吹き出すほど衝撃的な質問だったのか。優稀は心の中で少し反省する。しかし、ここまで反応が大きいとなると何か進展か、または後退かのどちらかがあったのかもしれない。

 

「ど、どうって……?」

 

「いやだからどこまでいった、とか……告白した、とかですよ」

 

 うーん、と。

 そう聞くと春菜は顔を真っ赤にし、小さく唸り声をあげた。この反応だとおそらく、『小さなことは結構あったが、決定的なことはなかった』的な感じかな、と優稀は勝手に予想を立てる。

 

「……ララさんのおかげで普通に話せるようにはなった、かな。それでもやっぱり顔を合わせると恥ずかしいけど」

 

「そうなんですか……。俺はそういう経験がないから、詳しくはわからないけど、話せるようになったのは良かったじゃないですか。俺は春菜さんらしくて良いと思いますよ。その代わりまだまだ先が長そうだけど」

 

「うぅ……」とまたしても涙目になる春菜に癒されながら、先ほどの彼女の発言で気になった点が一つ。

 

「それと確かその『ララさん』っていう人が宇宙人なんでしたっけ?」

 

「そうだよ。デビルーク星のお姫様でね、 すごく明るくて優しい友達なの。優稀君は見たことない?」

 

「いや、流石にあれだけ目立つ容姿なので、何度かはありますよ」

 

 ララ――フルネームはララ・サタリン・デビルーク。春菜が一年生の時の転入生で、明るく活発な印象を与える少女だ。しかし、その正体は外国人などという安易なものではなく、広大な宇宙にある惑星の一つ、デビルーク星からやって来た異星人。さらには他にも宇宙人が今二人が向かっている彩南高校にいるのだから、彩南高校の生徒達は適応能力に異常なまでの適性を持っていると言っても過言ではない。

 春菜は笑顔で彼女の特徴であるピンク色の髪、緑色の瞳、そして悪魔のような尻尾などを挙げていく。それも全て褒めながら。しかしその紫の瞳は嬉しそうに輝いており、何だか優稀にはとても眩しく感じられた。

 

「あとララさんには、二人の妹がいるの」

 

「へぇ、そうなんですか」

 

 まあでも別に関わる機会はなさそうだ、と優稀は春菜の言葉に素っ気なく返答する。しかしそれがいけなかった。視線を感じ隣を見てみると不満に感じたのか、少しムッとした表情を浮かべた春菜が視界に入った。それを見た優稀がとった行動は、

 

「も、もう学校着きますね。――あ、そういえば俺今日日直だった。すいません春菜さん、お先に!」

 

 戦略的撤退だ。

 言い終わる前に走り出したので最後まで伝わったかは定かではないが、優稀の今日日直という発言は実は嘘ではない。嘘ではないのだが、朝からの仕事といえば、学級日誌を職員室から持ってくるだけしかないので、別に急ぐ必要もない。つまり簡単に言うと、優稀は春菜の視線に耐えられず戦略的撤退という名の逃亡を図った、ということだ。

 

「あ、優稀君――って、もう背中見えないし……」

 

 優稀は足が速い。

 よって撤退を選択した。靴箱に入り靴を上履きに履き替え、職員室へ走る。階段に差し掛かったところで、茶髪の少年が厳しそうな黒髪の少女のスカートの中に顔を突っ込んでいるのが横目で確認できたが、厄介事は勘弁なので、見なかったことにした。その際、階段の中盤くらいで止まってその光景を眺めていたピンク髪の少女がおそらく春菜の言っていた『ララさん』なのだろうと優稀は確信を持って予想し、再び職員室へ走り出す。

 

「あ、別に走る必要なかった……」

 

 春菜から逃げることを考えていたためか、そんなに急ぐ必要がないことを忘れていたらしい。優稀はその場で一度止まり、今度はゆっくり歩き出す。まずは職員室へ。それから教室へ。

 

 この時、優稀は知る由もなかった。

 まさか、こんな日々が優稀にとって平和であったとは。そしてこれからが本当の混沌の始まりだったとは。

 彼は全く考えていなかったのだった。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 学級日誌を職員室で回収し、ゆっくりめに自分のクラスに入った優稀が感じたのは、少し浮かれたクラスメイト達の姿だった。事情を聞こうとも思ったが、扉を閉めた途端に朝礼開始前五分のチャイムが鳴ったので、敢え無く自分の席に座ることにする。その際、隣の赤髪おさげに挨拶をし、返ってきたのを確認して前を向いた。

 しかし、何故クラスメイト達がそんな風に浮かれていたのか、優稀は直後に知ることになる。

 

「……は?」

 

 もうすでに見慣れた担任教師を先頭に3人が教室に入ってきた。いつもは担任だけなので、必然的に転入生か教育実習生ということになる。しかしこの場合は明らかに後者ではなかった。

 何故か。それは担任に続いて入ってきた二人の特徴にある。ピンク色の髪に紫色の瞳。それに加えて、後ろに見える悪魔のような尻尾。片方はツインテールで、もう片方は肩にかかるかどうかくらいのショートヘア。髪型は聞いてなかったが、まさにその特徴は優稀が朝から春菜に聞いて、『関わることはない』と判断したララの妹達のもので。

 だから優稀が素っ頓狂な声をあげて、まるで『鳩が豆鉄砲を食ったよう』という言葉を体現したかのような表情で固まってしまっていても、それは普通の反応で、何らおかしくはなかった。

 

「ナナ・アスタ・デビルークだ」

 

「モモ・ベリア・デビルークです」

 

「よろしくな!」

 

「よろしくお願いします」

 

 担任からの紹介、そして彼女達自身からの自己紹介が終わる。目の前の現状を見ながら、朝から春菜さんが言っていたララさんの妹とは彼女達のことか、と優稀は冷静に考察していた。特徴的なピンク色の髪に、瞳の色は違うが尻尾があるので、ほぼというか間違いはないはずだ。……なんて言ってる場合じゃない。どうして転入してきたのか。どうしてこのクラスなのか。優稀は追いつかない思考にうんざりしながら、とうとう考えるのをやめた。やや逃避気味に窓の外の空を見る。その際隣の席の赤髪おさげが目に入ったが、彼女は我関せずというより、元から何も聞いていないような感じだったので、少しだけ羨ましく思った。

 さて、もう一度この状況を見てみよう。

 

 異星人なピンク髪の双子が、他人からクラスメイトにジョブチェンジしました。

 

 

 ……どうしてこうなった。いやホントに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、プロローグでした。
息抜きも兼ねているので、不定期更新です。ご了承ください。
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読んでいただきありがとうございました!
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それでは、また。

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