彼女の秘密を知った俺は逃げられない   作:whiterain

1 / 14
挿絵機能を使ったのが初めてなため、上手く表示されてない場合、何とか直しますので
ご容赦ください

画力の向上、そして私の文章力の向上を祈って温かい目で見てあげてくださいm(_ _)m


【挿絵表示】


今回はマフラー少女です

11月16日変更点
松木絵里香→悠木陽詩の呼び方を陽詩さんに
松木絵里香→杉谷正紀の呼び方を正紀くんに
悠木陽詩→松木絵里香の呼び方を絵里香に
杉谷正紀の一人称を俺に変更



1話 オタクなマフラー少女

『俺は、今年恋をする』

 

俺、悠木陽詩(ゆうきひなた)はスポーツが人より得意なだけの高校生だ。

勉強も人並み、彼女もいない、強いていえば少し・・・いや結構な隠れオタクであるだけの普通の高校2年生。

 

今年の目標は好きな人を見つける、そして、彼女を作ることだ。

何故、こんな目標を建てたかと言えば、それは今手の中にあるおみくじが関係している。

 

お気に入りのライトノベルに影響され、神社に来た俺は記念におみくじを引いていた。

その結果が、奇跡の大吉。

これは、運命に違いない!と自分に物語を感じた俺は・・・

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『とは言ったが、そう簡単に出来るなら苦労しないよな・・・』

 

あの宣言から時は流れ、季節は春に移り変わっていた。

自分がした恋人を作る宣言を思い出す。

 

気づけば、春休みも残りわずかとなっていた。

家では集中出来ないと、春休みの課題を手に図書館へ行き、さっさと終わらせて帰ろうと意気込んでいた。

 

図書館に入ると、春の陽気を通り越し、夏と変わらない外の暑さとは違い、クーラーの効いた快適な空間だった。

これなら、ずっと居ても良いなぁと先ほどのやる気が嘘のように削がれていた。

 

「あれ、陽詩くんじゃないですか!」

 

ふと、聞き慣れた声が耳元に届く。

 

『あぁ、小豆か』

 

「はい、私ですよ」

 

彼女は柏田小豆(かしわだあずき)

小さい頃から、近所に住んでいて、これまで共に育ってきた幼なじみだ。

 

恋人を作ると誓って、幼なじみがいるなら、話は早いのではないか?

と考えた人もいるかも知れない。

しかし、今までそういう対象に見てこなかっただけに、

そう簡単に切り替えられるもではない。

むしろ、逆に気まずくなりそうだ。

 

「陽詩くんはどうしてここに?」

 

『課題が終わって無くてな・・・小豆は?』

 

「私は、本を借りたくて」

 

確かにそういう小豆の手には何冊かの本が抱えられていた。

 

『あいかわらず、真面目だな』

 

「陽詩くんだって、昔から課題!ギリギリでしょ?」

 

そう言われるとこちらも立つ瀬が無くなってしまう。

昔からの付き合いだからこそ、わかってしまう。

 

やっぱり、小豆は恋人ってイメージがしない。

 

『ちゃんと、当日までに終わらせるから良いんだよ』

 

「ちゃんとだよ?」

 

『わかってるよ』

 

「それじゃあ、陽詩くんまたね」

 

『あぁ、またな』

 

小豆が本を袋に入れると、入り口の方へ歩いていった。

 

『さて、俺もやるか』

 

このままダラダラとしていても、課題は無くならない。

今日のノルマを終わらせて、家で漫画・ライトノベル・ゲームやりたいことはいっぱいある。

 

そのために、目の前の難敵に挑もう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今日のノルマである課題を終わらせ、俺は本屋に来ていた。

 

『途中で気づけて良かった』

 

宿題を片づけることに気を取られすぎていた俺は今日がライトノベルの新刊の発売日であることを忘れてしまっていた。

図書館というあれだけの本に囲まれた場所にいながら、新刊の発売日を忘れてしまったらオタクの名が廃ると言う物だ。

 

学校でオタクであることを隠している俺は、帽子を目深に被り、今日発売した新刊をスマホで確認しつつ、

ライトノベルのコーナーに向かう。

 

ドンッ

 

『痛っ・・・』

 

スマホの画面を見るのに夢中になっていた俺は、前方不注意で誰かにぶつかってしまった。

 

「痛いなぁ・・・・」

 

自分の前で尻餅をついた、声から恐らく少女だろう人が居た。

何故、恐らくなのかというと・・・

 

『すごい格好だな・・・』

 

帽子を目深に被り、サングラス、マスク着用、更にこの真夏に長いコート着ていて、どう考えても不審者だ。

更にその中に転んだためかコートが乱れ首もとと足下に近いところが捲れたことで見えたがマフラーを巻いていた。

 

「何を、見てるんですか」

 

『不審者?』

 

思ったことがそのまま口から出てしまってた。

 

「誰が不審者ですか! それにぶつかってきておいて謝罪があっても良いと思うのですが!?」

 

散らばった本を拾わずに、こちらに詰め寄ってくる少女(不審者)

 

『あ、あぁ、ごめん・・・・って確かに俺も悪いが、俺だけか!?』

 

いま通っていた通路は人が楽に行き違えるほど広い。

スマホを見て、前を見なかった俺も確かに悪いが、前を見て、俺を認識していたのなら歩きスマホに気づいて

避けて行くだろう。

我ながら、酷い擦り付けだ。

 

「貴方が悪いんです!」

 

取り付く島もなかった。

 

『あ、はい・・・』

 

擦り付けが失敗した以上、散らばった本を拾おうと手を伸ばした。

 

「あっ!ちょっと待ってくだ」

 

『ん?』

 

勇者がクラスでぼっちになっている

 

この美しき世界に祝福を

 

俺の彼女が異世界から来るそうです

 

どう見ても、何度瞬きしてもライトノベルだった。

 

「返してください!」

 

表情は掴めないが、焦っていることだけは明白だった。

 

『いや、何というか・・これは不可抗力で・・・

  もう会うことも無いと思いますし・・』

 

「良いから返してください!!」

 

手からラノベを引ったくられると、彼女は足早に去っていった。

 

『凄かったな・・・なんていうか衝撃的

  でも、あのマフラーどっかで見た気がするんだよなぁ・・・』

 

どこで見たのかは思い出せない。

だが、思い出せないのなら恐らく気にしなくても良いのだろう

俺がこの時、マフラーのことを思い出せていたのなら、未来は変わっていたのかもしれないという事態にならなければいいが。

 

『今は、ラノベラノベと』

 

俺はラノベの新刊を手に意気揚々と帰路を急いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『これは春休みを無駄に使った人間の典型的な姿ではなかろうか?』

 

家に帰ってきた俺は買ってきたライトノベルを読んでいた。

それだけなら、別に特段普通の光景だと思う。

 

だが、気付けば時計はPM10時を差していた。

 

『春休みの記憶が、同じ光景しか思い出せない・・・』

 

ラノベを読み、漫画を読み、ゲームに興じる。

これは典型的な引きこもりの駄目人間の姿だ。

 

『俺も異世界に行けたらなぁ・・・チートもらったり、ハーレム作ったり出来るかも知れないのに』

 

彼女を作ると目標を建ててから、漫画、ライトノベルを読んでいても、ゲームをしていても恋愛方面が

気になって読んでしまうようになった。

 

こんなことが現実に無いとはわかっていても願わずにはいられない。

 

『こんなこと考え出したら末期なのかも』

 

コンコン

 

ふと、窓を叩くような音がした。

 

『おっと、お呼び出しかな』

 

窓に近づきカーテンを空け、窓を開ける。

そこには、窓越しに長い棒を使って俺の部屋の窓をつつく小豆の姿があった。

 

「こんばんは、陽詩くん」

 

『あぁ、こんばんは小豆』

 

俺と小豆の家は隣同士だ。

更に、俺と小豆の部屋はお互いに窓から見える位置にある。

そのため、俺と小豆は習慣的にこうやって窓越しに話しているため、もはや日常だ。

 

『今日はどうしたんだ?』

 

「陽詩くん課題をちゃんと終わらせたのかなと思いまして」

 

『今日のノルマはな、ちゃんと新学期までには終わらせるさ』

 

「陽詩くんいつもギリギリなんだから、今度から計画的にしなきゃ駄目だよ」

 

小学校の時はそこまででも無かったのだが、中学に入ってからは毎回のように言われてきた言葉。

言われたところで直そうとも思ってもいないのだが。

 

『わかったわかった、今度から気を付けるって』

 

「そう言っていつも直さないでしょ?だから」

 

『もう聞き飽きたって、それより今日何の本借りてきたんだ?』

 

無理にでも話を変えなければ、このまま延々とこのことについて言われ続ける。

そんなことはゴメンなので、早々に話を逸らさなければならない。

 

真面目な小豆のことだろうから何かの参考書とかかライトノベルでは無い一般的な小説かだと思う

意表を突いてエッセイという線もあるかもしれない。

 

「今回は詩集と、刺繍の本です?」

 

『分かり難い! 文字ならともかく、音声にしたらわからんって』

 

「はい、狙ってみたんです」

 

口に手をあてて笑う小豆。

 

『微妙なことをするなよ・・・』

 

少し呆れたようにやれやれと手を振る。

話が途切れたと思ったとき、ふと聞きたいことを思い出した。

 

『なぁ、小豆はさマフラー少女と言われて思い浮かぶ人がいるか?』

 

もしかしたらマフラー少女の心当たり事態が気のせいなのかも知れない可能性もあれば、

あれが只の顔を隠す目的でマフラーを着けていたでけの可能性もあるのだが・・・

 

「マフラー少女ですか?」

 

『あぁ、こんな気温でもマフラー着けてた』

 

小豆は少し、考え

 

「それって、宮瀬祈(みやせいのり)さんじゃないですか?」

 

『宮瀬祈?』

 

「はい、同じ学校の人で、私たちと同じ学年の人ですよ」

 

『・・・・・・あぁ!』

 

聞いたことがある。

容姿端麗才色兼備で立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花と称されているらしい女の子だ。

この娘の話しで1年中マフラーは外さないと誰かが言ったのを聞いたような気がする。

 

今まで、興味を持ってこなかったがだから、自分もあまり思い出せないのかと納得する。

 

「素敵な人らしいですね」

 

『良くは知らんがそうなのか?』

 

自分の知っているのはライトノベルを買っている不審者の姿でしか無いのだが

 

「はい、品行方正なお嬢様を絵にしたような人らしいですよ

   陽詩くん興味あるんですか?」

 

『いや、そういうわけじゃないけど』

 

同じ学校だからって向こうからこっちに関わってくるとも思えないし、向こうが自分のことを分かっているとも思えない。

なら、これ以上聞いても仕方ない。

マフラー少女の謎が解けただけでも充分だろう。

 

「ふふ、そうですか」

 

『あぁ、もう遅いから今日はここまでじゃないか?』

 

「そうですね、もうすぐ新年度ですし、生活リズムを戻さないと

   また同じクラスになれると良いですね」

 

『今までずっと同じクラスだったんだ、一回くらい離れてみたい気もするが・・・』

 

「えぇ・・・私は嫌です、また今度も同じクラスになりたいなぁ」

 

『いや、俺もそう思ってるよ』

 

「なら嬉しいです、おやすみなさい」

 

小豆はこちらに満面の笑みを見せ、手を振った。

 

『おやすみ』

 

小豆に手を振って別れを告げ。カーテンを閉めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『気付けば、もう新学期か・・・』

 

あれから、毎日を同じように過ごせばあっという間に新学期の朝を迎えてしまった。

マフラー少女たる宮瀬祈に会うことを除けば、図書館で課題を終わらせ、家に帰ってくると趣味に没頭する。

そんな生活を送っていたと思うと、我ながら堕落してると思う

 

「陽詩くんー!新学期ですよ、学校行きましょう」

 

学校が始まれば、いつものように小豆が家に迎えに来る。

 

『今行く』

 

家を出れば、制服に身を包んだ小豆がいる。

 

「おはよう、陽詩くん」

 

『おはよう小豆』

 

「今日から2年生だね」

 

『そうだな、新しい1年生も入ってくるわけだ』

 

といっても帰宅部の自分にはそんなに大した変わりがあるわけではないのだが。

歩いていれば、自分より年下がいる程度のものだ。

 

「私も陽詩くんも部活やってないけどね」

 

そう、俺だけでなく小豆も部活をやっていない。

小豆は幼なじみの贔屓見を無くしても可愛いから勧誘だったりマネージャーのお願いだったりとあったらしいが

理由は分からないが、俺と同じ帰宅部となっている。

 

『まぁ、新クラスになるだけでも気分が変わるだろ?』

 

「私は陽詩くんと同じクラスなら良いなぁ」

 

『昨日寝る前も言ってただろ?』

 

「それだけ、同じクラスになりたいってことです」

 

「よう、ご両人今日も仲良いねー」

 

「なんだ、アホか」

 

「おはよう、水田くん」

 

「おはよう柏田さん、そして誰がアホだ陽詩」

 

「お前だミスター、ちゃんと進級できたのか?」

 

水多翔一(みずたしょういち)

1年で同じクラスになり、名字から俺はミスターと呼んでいる友人で、小豆を除けば学校で唯一俺のオタク趣味を知っている。

バドミントン部に属して結構活躍しているらしいが、頭が残念過ぎたため留年の危機に晒されていた。

 

「当たり前じゃないか、勘は人間の全てだ!」

 

そう、勉強にしろスポーツにしろ本能に身を任せた勘で生きているのがこの男の欠点。

部活ではこの勘も役に立っているようだが、勉強ではありえない回答がしょっちゅうだ出ている。

 

『そんなだから、留年しかけるんだよ』

 

「何を言う、俺はいまこの時間に出たら会えるんじゃないかと勘で出てきたんだぞ?」

 

「あはは・・・」

 

さすがのミスターに小豆も苦笑せざる追えなかった。

 

そんなミスターの留年危機の話しをしていれば、学院にたどり着いていた。

 

桜風学院

 

この辺りでは有名な進学校であり、部活動の成績も悪くないことから毎年入学希望が多く倍率も高くなっている。

 

そして、桜風学園にミスターが合格したことがこの学院の七不思議となっている。

 

『さて、クラスはどこかな』

 

「あ、あったよ」

 

小豆の指さす2年B組に3人の名前が集結していた。

 

『また同じクラスだな』

 

「そんなに俺と同じクラスなのが嬉しいのか?

 俺も嬉しいぞ!」

 

『お前じゃねぇよ!というかお前とはまたって言うほどの付き合いはまだ無いぞ』

 

「私は嬉しいよ、それに美夏ちゃんもいるし」

 

『・・・・・あぁ』

 

江崎美夏(えざきみなつ)は小豆の親友で、俺もそこそこ付き合いは長い。

さばさばした性格で、どっちかといえば引っ込み思案の小豆とは対照的なやつだ。

でも、だからこそ2人は仲が良いのかも知れない。

 

「相変わらず、バカをやっている」

 

クラスを見て、人がごった返すクラス表の前から離れると一組の男女が近づいてくる。

 

『なんだ、正紀か』

 

「おはよう杉谷くん、絵里香ちゃん」

 

「おはようございます、陽詩さん、小豆さん、水田さん」

 

男の方は杉谷正紀(すぎやまさき)

成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗、社長ご子息、変人ということを除けば間違いなく完璧な人間だろう。

俺とミスターと正紀の3人で3バカと不本意な呼ばれ方をすることもある。

 

女の方は松木絵里香(まつきえりか)

正紀の許嫁で、こちらも良いとこのお嬢様だ。

気品のある振る舞いからも、育ちの良さがわかる。

 

『2人も同じクラスか?』

 

「俺はな・・・絵里香は」

 

「残念ながら私は別のクラスとなってしまいました・・・」

 

松木さんがしょぼんと肩を落とす。

 

「あぁ・・・」

 

なんとも言えない空気が広がる。

ここに5人中4人が同じクラスで1人だけ違うクラス。

 

「お前の権力でどうにかならなかったのか?」

 

「何を言っているんだ全く・・・あとちょっとのところだったんだ・・・」

 

何が?と聞くときっと後悔することなる気がする。

この2人は親が決めた許嫁という関係ながらも、2人の中は良好でお互いに結婚には前向きだ。

 

『絵里香、1人で大丈夫なのか?』

 

「新しい友人もすぐに出来ると良いのですか・・・」

 

「絵里香ちゃんならすぐに出来るよ!」

 

小豆が心配そうにしている松木を励ますように明るく声をかける。

 

実際、全く知ってる人がいないクラスというのは苦痛だと思う。

毎年、同じクラスに小豆がいた俺としては経験したことはないため気持ちは想像しがたい。

 

「心配するな絵里香、1人が辛いならすぐに俺が行く」

 

「正紀さん」

 

『おい、こいつら自分たちの世界に入ったぞ』

 

「いつものことだろ?」

 

「あはは・・・」

 

俺たちには見慣れた正紀と絵里香のラブラブ空間。

漫画だったらあの部分だけがピンク色になっているだろう。

 

『先に行くか?』

 

「まだ、続きそうだもんね」

 

俺たち3人は自分たちの空間を作り続ける2人を放置し、自分たちのこれから厄介になるクラスに向かった。

 

 

「B組ですか・・・悠木陽詩も同じクラス」

 

その近くでは首にマフラーを巻いた少女がクラス表を見ていた。

その少女は未だ自分達の世界を続ける2人に目をくれることもなく自分のクラスへ向かい歩いていった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

自分のクラスに着きすぐに机に突っ伏していた。

 

『眠い・・・生活リズムが治ってないからか?』

 

休み期間夜遅くまで起きて、昼近くまで寝ている生活をずっと続けていたためこの時間に起きていることが辛い。

 

ボーッとしていると少しして教師が来て、自己紹介が始まったため、顔だけ上げた。

普通始業式が終わってからではないのか?と思ったため、予想が外れたが、始業式の準備が終わるまでまだ時間がかかるらしい。

 

「江崎美夏、みんなこれからよろしくねー」

 

初期の五十音で並べられた席順。

そのため美夏は早い段階で順番が回ってくる。

 

「柏田小豆です、趣味は読書です、よろしくお願いします」

 

当たり障りのない普通の自己紹介。

 

実際、こんな自己紹介をしたところで、本当の自分なんて話さないため意味何てない気もするのだが。

 

「杉谷正紀です。去年から知っている人は改めまして、新しく知り合った人はこれからよろしくお願いします」

 

相変わらず優等生のような奴だと思う。

これが仲良くなれば崩してくるのだが・・・

 

「水田翔一、信じているものは己が勘だ!」

 

頭に指を差し、決め顔を作り、大きく声が響いた。

去年と変わらない勘アピール。

いつになったら、こいつは治るのだろうか

 

「宮瀬祈です、これから1年よろしくお願いします」

 

ボーッとしていた頭が一気に水を掛けられたかのように醒めていった。

 

『マジかよ・・・・・』

 

同じクラスにいたのに気が付かなかった。

だが、きっと俺のことは気づいていないだろう。

別に彼女と違って有名人でも無いのだから

 

「陽詩・・・陽詩!」

 

考えごとをしている俺の頭にミスターの呼びかける声が届いた。

 

『何だ?』

 

「いや、お前の番だぜ」

 

『あっ』

 

言われて周りを見れば、みんなが自分のことを見ていた。

 

「悠木君の番なんだけど・・・」

 

教師も困ったようにこちらを見ている。

こんな形で目立ってしまうなんて・・・

 

目立てば目立つほどバレる危険性があるじゃないか

 

『あぁ・・その、悠木陽詩です、これから1年よろしくお願します』

 

自己紹介を終わらせ、周りの目は違う人に移る。

1人を除いて・・・

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

入学式も無事に終わり、今日は解散と放課後になった。

 

『さて、俺も早々に帰るかな』

 

小豆は今日は美夏と遊びに行くらしく早々に下校していた。、ミスターは入学式の手伝いをさせられると面倒そうに去っていった。

 

「悠木さん、少しよろしいでしょうか?」

 

『うん・・・っ!』

 

振り返ればぶつかったマフラー少女の宮瀬祈がいた。

まさか、話しかけられるとは思っても見なかった。

ライトノベルは恐らく、彼女の人には知られたくない部分なのだろうが。

 

俺が話さなければ、彼女のそれは広まることが無い。

そして、俺も絶対の自信がないし、彼女の人柄を知る人ならそんなことは信じはしないだろう。

それなら、来るとしてももう少し様子を見てから来るんじゃないかと考えていた。

 

『わかった・・・何の話しだ?』

 

何故今呼ばれたのか考えが回らないが、変な考えばかりが浮かぶ。

 

「ここでは話しにくいのでこちらへ来てください」

 

宮瀬に言われて着いて行けば、空き教室に来た。

暗殺フラグか! それとも脅迫フラグか!

頭の中にまともな展開が浮かばない。

 

こんなとき、現実的に考えられない二次元脳が悲しくなる。

 

『それで、話しとは?』

 

「いえ、前に私が参考書を買ってるときにお会いしたので改めて挨拶をと思いまして」

 

『ん?いやお前が買ったのはラノベじゃ?』

 

「やっぱり、貴方ですか」

 

『あ・・・』

 

何も考えずにすぐに正直に話してしまうこの口が恨めしい。

 

「あなたのことは調べました、悠木陽詩」

 

『調べた?』

 

弱みを握って、脅してくる作戦か?

中学の時のことか・・・?

 

「貴方も私と同じオタクであるはずです」

 

『は?』

 

「貴方とぶつかった後、貴方がライトノベルを買うとこまで見させてもらいました」

 

それを聞いて、思わず調べてないじゃんと思った俺は悪くないはずだ。

だが、確かにオタクであることを学校中に広められるのはあまり芳しく無い。

 

しかし、それは彼女も同じはずだ。

 

『俺が仮にオタクだとして、それが何か?』

 

「それに私と同じでオタクであることを隠している」

 

『そんな証拠がどこに?』

 

「別に隠すなら隠しても良いですよ 

  ただ、私が悠木に空き教室に連れ込まれて変なことされたと広めます」

 

ただ、人目に付きたくないからだと思っていたこの空き教室。

それ自体が罠だとは思っても見なかった。

 

というより、この問いかけにもう逃げようが無い。

 

俺が、彼女がオタクであることを糾弾したところで信じてもらえず終わり、俺が空き教室に連れ込んだことが

知られれば、もうクラスで生きていけないかも知れない。

 

『わかった・・・俺にどうして欲しいんだ?』

 

「認めるんですねオタクであることを」

 

『あんたも、性格が悪いな、こんなの認めないわけにはいかないだろ』

 

「良いじゃない?別に私もバラす気はないし 

  良い協力関係築きましょ」

 

『話し方が変わったな』

 

「あまり、堅い言葉は疲れるの」

 

『まぁ、良いけどさ・・協力関係って何をするんだ?』

 

「それは追々、これから」

 

『適当な協力関係も良いとこだな』

 

まぁ、決めていないのも仕方ないのかもしれない。

今日、初めてしっかりとお互いを認識して話して、宮瀬だって上手く行く保証は無かったのだろう。

 

最も、罠にかかったのは俺が気付いていながら相手のステージに立ってしまったことが悪いのだが。

ここまでだと情けなくてため息が出てくる。

 

ただ、わかるのは俺の高校生活が音を立てて崩れていくような錯覚に襲われた。

 




そんなことやってるなら、他の小説もあんだろ?
書けよ?

と言われそうなwhiterainです。

友人keyさんのコメントもここで載せておきたいと思います。

まだまだ下手ですけど、これから頑張って挿絵描いていきます!

だそうです!

これから彼女の秘密を知った俺は逃げられない
僕らの中で、通称は彼逃(かのにげ)をよろしくお願いします


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。