イリヤさんの魔法少女戦記   作:イリヤスフィール親衛隊

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今年のハロウィンは二連続エリちゃんで大忙しです。それにしても勇者エリちゃんのあの格好は流石にスゴすぎやしませんかね……(困惑。


【イリヤ】「よーし、ソイツ殺すわ♪」

 

 

 

∇∇∇本編∇∇∇

 

 

 

大聖杯のある龍洞を後に、帰路に着く【イリヤ】。しかし、その表情は決して明るいものではなく、ムスッと可愛く頬を膨らませている。明らかに拗ねていた。

 

原因は楽しみにしていた実験が出鼻を挫かれるような形で頓挫してしまったことにある。

 

結論から言えば、【イリヤ】の発案したクラスカードを利用した英霊召喚は夢と消えてしまったのだ。

 

それというのもだ、何者かが大聖杯の術式に手を入れていることがわかったのだ。散々に大聖杯への接続を試みてはみたものの、残念なことに全てエラー。

 

詳しく解析すれば、大元はアインツベルンの術式で相違なかったが、要所要所のシステムが半ば強引に改竄されていた。それにより、大聖杯のシステムの大部分がひどく歪んでしまっていたのだ。

 

それは英霊召喚システムについても例外ではなく。一応、機能はするようであるのだが、歪みが召喚に一体どのように作用するのか未知数である以上は不用意に起動することは憚られた。

 

下手に藪をつついて、出てくるのが蛇ぐらいであるならば可愛いものだが、鬼が出てしまっては堪ったものではない。冷静にそう判断を下した【イリヤ】は志半ばにして実験を断念せざるを得なかった。

 

結果、現在【イリヤ】は非常に不機嫌である。

 

「これまでのクラスカードの英霊は、どうしてか第五次聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントたちと同じ顔ぶれだったわ……」

 

街灯も疎らな住宅街をとぼとぼと歩いていた【イリヤ】はくるりとスカートを翻すように振り向いて、後ろから着いてきていた【ルビー】と向き合う。

 

「つまり、バーサーカーは」

 

『ええ、狂戦士のクラスは間違いなく【イリヤ】さんが使役していたかの大英雄ヘラクレスでしょう~!』

 

「わたしは、クラスカードと大聖杯を利用して、わたしのバーサーカーと感動の再会を果たすつもりだったわ」

 

『ええ、ええ、存じておりますとも~!』

 

「ねぇ、これってつまり、わたしとバーサーカーのせっかくの再会をジャマした者が居るってことよね?とてもひどいことだとは思わない?」

 

『そうですね~!ひどいですね~?』

 

「そうよね?」

 

よーし、と明るい声音で気合いを入れながら【イリヤ】はもう一度くるりと体を反転させて前を向いた。

 

「ソイツ殺すわ♪」

 

唐突な【イリヤ】のガチトーンでの殺害予告に【ルビー】がすかさず突っ込みを入れる。

 

『え~っと、【イリヤ】さん~?今のアナタは魔法少女なのですから、言動にはもう少し気をつけてくださいね~?』

 

「ああ、そうだったわね。じゃあ……」

 

うーん、と少しばかり考えた後に【イリヤ】は満面の笑みを浮かべて台詞を紡いだ。

 

「この魔法少女イリヤスフィールに楯突く者は、たとえ肉親であろうとも月に代わってコロコロしちゃうぞ♪」

 

きゃるーん、などと擬音が聞こえてきそうな猫撫で声で宣言し直されたファンシーな殺害予告。内容自体も心なしか先程よりひどくなっていた。

 

『ウハー!コワカワイイですね~!【ルビー】ちゃん結構雑食ですから~そういうのも全然アリですよ~?』

 

どうやら【ルビー】としては今のは許容範囲内だったらしい。

 

現在時刻は午前二時過ぎ。【イリヤ】はとっくに眠気のピークを過ぎており、頭が冴え渡っている代わりに瞳は暗く濁りきり、妙なハイテンションであった。

 

完全に深夜のノリ、もしくは深夜テンションと呼ばれるそれである。先程からの可笑しな言動はそのためであろうか。

 

もっとも、それは【イリヤ】に限っての話であって、【ルビー】の方はわりかし平常運転なのだが。

 

 

 

∇∇∇

 

 

 

鏡面界での第二戦。イリヤの魔術障壁は容易く突破され、反撃に放った美遊の砲撃すらも魔力指向制御平面により弾かれ、為す術もなく撤退していくカレイドライナーたちを一瞥し、【イリヤ】は今回の敵であるローブを纏い、フードで顔を隠した女性、キャスターのサーヴァントへと目を向ける。

 

「流石は神代の魔女といったところね……」

 

ギリシャ神話より、コルキスの王女であり裏切りの魔女。その真名はメディア。裏切りと名のつく通り、その本質はライダー・メドゥーサ同様に反英雄。

 

たかが魔術師と侮ることなかれ。魔法に近しいレベルの神代の超高等魔術を平然と扱い、その魔術師としての能力は魔法使いと同等、もしくは上回っているともされる。

 

その技量は最高位であり、キャスタークラスの英霊の中でも純粋な魔術師のキャスターとしては最強クラスの英霊。いくら狂っていて理性がなかろうと、それで甘くみてかかれば先程の魔法少女二人の二の舞になるだけだ。

 

ローブを蝶の羽のように変化させて、浮遊しているキャスターの眼前へと、仮面を着けた【イリヤ】は隠行により消していた姿を現し着地する。こちらに注意を向けて警戒心を高めたキャスターへと【ルビー】を構える。

 

「さて、【ルビー】。今回はユダンせずに行きましょうか」

 

『最初からクライマックスってやつですね~?フルスロットルで行きましょう~!』

 

先に動いたのはキャスターである。一瞬にして虚空に複数の魔方陣を展開し、弾幕の雨を降らせる。【イリヤ】もそれに対抗するように【ルビー】を振るって弾幕を張る。

 

撃ち漏らすことなく全てを相殺した【イリヤ】は瞬時に魔力を集束させた極大の砲撃を放つ。しかし、並みのサーヴァントであるならば一撃で掻き消せるだけの威力を有する魔砲でも、キャスターは容易く防ぎきってしまった。

 

概ね予想通りだが、出来れば今の攻撃である程度優位に立ちたかった【イリヤ】は悔しげに表情を歪める。

 

ライダーに使用した二色構成の爆散弾をキャスターを囲うように展開するも、反則的な転移魔術で容易に回避される。

 

キャスターが再び弾幕を張る。数はざっと目算したところ先程の倍。これは捌ききれないと踏んだ【イリヤ】は魔術と物理保護の二重障壁へと可能な限りの魔力を回す。

 

「くぅっ……!?」

 

ダメージは完全に殺せているが、物理保護障壁をもってしても凄まじい衝撃が【イリヤ】の小さな体躯を襲う。

 

なんとか全て防ぎきった。痛みはないものの、やはり衝撃による揺れの余韻はまだ幾ばくか残っている。【イリヤ】は乱れた息を整え、【ルビー】へと声をかける。

 

「フゥ……【ルビー】、まだいける?」

 

『【ルビー】ちゃんはまだまだ平気ですよー?【イリヤ】さんこそ、大丈夫ですかー?』

 

「えぇ、問題ないわ。それとね、ひとつ試したいことがあるの。付き合ってくれるかしら?」

 

『当然。地獄の果てまでもってヤツですよー?マイマスター?』

 

「フフッ、ありがと……」

 

【ルビー】と短いやりとりを交わした【イリヤ】は弾幕により巻き上がった爆煙の中を、空へと向かって飛翔した。その背中には魔力で編まれた一対の大きな翼が。

 

【ルビー】を振るって今度は魔力弾ではなく斬撃を放つ。翼をはためかせて空中を自由自在に飛び回りながら続けざまに斬撃を叩き込んでいく。キャスターが魔力弾で斬撃を撃ち落としていくも、【イリヤ】はそれを想定内であるとばかりに斬撃を、今度は魔力弾と織り交ぜながらキャスターを撹乱するように放ち、徐々に距離を縮めていく。そして。

 

「はぁーッ!!」

 

再び二色爆散弾を構成してキャスターの懐へと飛び込んだ。しかし、キャスターは前面のみに規模を抑えることでより強力な障壁を部分展開し、飛び込んでくる【イリヤ】を魔力砲で迎え撃つ。

 

だが、魔力砲が【イリヤ】に当たることはなかった。何故なら、魔力砲を前にして【イリヤ】の姿が虚空に溶けるようにして消えてしまったからである。

 

次の瞬間、【イリヤ】の姿はキャスターのすぐ背後にあった。行使したのは先程キャスターの使用したのと同様に転移の魔術。

 

【イリヤ】の持つ、願望機たる小聖杯としての機能。過程を省略して結果だけを現出するという小規模な奇跡を扱うことにより、【イリヤ】は理論を知らずとも魔力さえあれば大抵の魔術を実現することができるのだ。

 

つまり、【ルビー】による無限の魔力供給を受けている今の【イリヤ】はまさに水を得た魚なのである。

 

完全にがら空きの背後から、魔力の量と密度を高めることで更に威力の増した爆散弾を叩き込むように浴びせた。

 

不意の一撃を浴びて墜落していくキャスターに追い打ちをかけようとした【イリヤ】は、しかし、その手を止めた。否、止めざるを得なかった。強化された【イリヤ】の視力がその視界の端に捉えたのは黒い騎士甲冑に身を包んだ女性。

 

「セイバー……」

 

黒く輝く聖剣を携えたセイバーのサーヴァント。しかし、その姿は【イリヤ】の知るそれとはかなりかけ離れていた。

 

『【イリヤ】さん、差し出がましいかもしれませんが~、流石に現状での二体一はやはり厳しいものがあるかと~……』

 

「……ええ、私もそう思うわ。どうやらここは退いた方がよさそうね」

 

随分と距離は離れてはいるがあのセイバーの機動力ならば一瞬で戦闘に移行できる距離である。いくら弱体化しているとはいえども、前衛であるセイバーと後衛であるキャスターの組み合わせは相手取るにはまず最悪だ。【イリヤ】は渋々ながらキャスターへの追撃を諦め、セイバーを警戒しながら鏡面界より身を退いた。

 

 

 

∇∇∇解説∇∇∇

 

 

 

*深夜テンションな【イリヤ】さん

 

ご乱心のよう。むきになって大聖杯を弄っていたら夜中になっていた。ハイテンションで言動はあれだが、殺意は本物。

 

 

*魔術師としての能力は魔法使いと同等、もしくは上回っているともされる。

 

奈須きのこ氏曰く、本気になったキャスターには、第五魔法の使い手である蒼崎青子ですら敵わないとのこと。

 

 

*過程を省略して結果だけを現出する

 

【イリヤ】さんは魔術師としての腕は未熟らしいが、小聖杯により、魔力さえあれば大抵の魔術を扱えるというチートっぷり。これは【ルビー】の無限魔力供給と組み合わせることで色々と悪さが出来そう。

 

 

*二色構成の魔力弾

 

ライダー戦に引き続き使用。本来なら纏まらずに霧散してしまうような膨大な量の魔力を、イリヤ自前の魔力を編み込むことで高密度まで圧縮、球形にとどめることに成功した超威力の魔力爆弾。基本、細かい制御には向いていないため牽制として放つか、接近してから至近距離で放つくらいにしか使い道はない。

 

 

*黒い騎士甲冑に身を包んだ女性

 

一体どこのナニトリアさんなんだ……?(棒)

 

 

 




イリヤ「問題ありませーん!これはぁ、愛情の裏返しによるキュートでポップなジェノサイドなのだー!」

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