イリヤさんの魔法少女戦記 作:イリヤスフィール親衛隊
※11/6 感想を受けて修正 メデューサ→メドゥーサ
∇∇∇本編∇∇∇
―――騎英の……
「宝具が来るわ!逃げなさいッ!」
「え?なに?なんなの?」
凛が焦ったような叫びに、状況をいまいち呑み込めないイリヤは混乱し戸惑うばかりである。
『全ての魔力を魔術障壁と物理保護障壁に回します!耐えてくださいイリヤさん!』
「な、なにを!?」
雰囲気から危険が迫っていることはわかる。だが、戦いなど知らないイリヤには次にどう行動すればいいかなどまったくもってわからなかった。焦りと恐怖だけが募る。
英雄を英雄たらしめる切り札。サーヴァントの保有する宝具と呼ばれるそれは絶大な威力を持ってしてイリヤを灰塵に帰さんと放たれる……筈であった。
流星群が降った。否、それは魔力塊の雨である。ひとつひとつが超高密度に圧縮された魔力の塊が隕石の如く降り注ぐ。それらはすべて一体のサーヴァントを狙って落ちて行き、対象を捕捉すると魔力を解き放ち次々と爆発を巻き起こす。
「きゃあ!?」
イリヤは爆風に吹かれ尻餅を着いてしまう。そして、そんなイリヤの前に黒紫のゴシックドレスに身を包んだ仮面の少女が静かに降り立つ。
「あ、あなたは……?」
「……」
イリヤが思わず漏らしたそんな問いかけに、仮面の少女は振り返るが返答はない。
そして、次の瞬間には逆巻く爆煙の中へと飛び込むようにしてイリヤの視界から消えてしまった。
『むむむ……あのキューティーでファンシーでラブリーな装飾のステッキは……いや、ですが、だとすれば……』
ルビーがブツブツと何事かを呟く隣で、へたりと地面に座り込んだままのイリヤは仮面の少女が消えた煙の中を惚けたように見つめていた。
颯爽と現れて自らのピンチを救い、何も告げずに戦闘を続行する正体不明な謎の仮面魔法少女。
「かっこいいかも……」
色々な意味でイリヤにはドストライクであった。
∇∇∇
イリヤのピンチを救った謎の仮面魔法少女こと【イリヤ】は舞い上がる煙の中で、眼帯に黒を基調としたボディコン服を纏い、鎖のついた杭のような短剣を武器とするサーヴァント・ライダーへと肉薄していた。
「眼帯を外されたら厄介。早々にケリを着けないと……」
煙が段々と晴れていく中を、小柄な体格と【ルビー】による身体強化の恩恵を最大限に活用した機動力でライダーの懐へと潜り込み、【ルビー】により平行世界から無限に流用可能な魔力と、魔力を塊として固定化するための繋ぎとして【イリヤ】自身の魔力を混ぜ込んで編みあげた二色構成の魔力弾を至近距離からその腹部へと撃ち込む。強靭な肉体を持つサーヴァントすらも爆炎が容易く吹き飛ばす。そして、高位の障壁によって【イリヤ】への被害はゼロである。
これがシングルアクションであるとは到底思いたくない威力だ。やはり魔法使いが手掛けた礼装は基本的な仕様からして隔絶していると【イリヤ】は内心で舌を巻く。これでまだ機能の一割にも満たないというのだから尚更だ。まあ、一体どういう原理でライダーの対魔力スキルを突破できているのかは【イリヤ】にもさっぱりであるが。
それにしても、初撃による上空からの面制圧で既にかなりの深傷を負っているのか、ありえないほど簡単に、【イリヤ】からしたら拍子抜けしてしまうくらい綺麗に第二撃が決まってしまったものだ。
そのことに、仮面の内で怪訝な表情を浮かべた【イリヤ】は複数の魔力弾で牽制しながら一度距離を置く。
『さすイリです!物理保護障壁と魔術障壁を前提とした至近距離からの魔力弾爆散とか、思いついたところで実行する度胸なんて普通ないですよ~?』
【ルビー】が大袈裟に誉め称えるも、残念ながらその賛辞はまったく別の考え事をしていた【イリヤ】の耳には届いていなかった。眉をひそめて【イリヤ】は呟く。
「弱い……?」
弱い。【イリヤ】はこのライダーを知っている。その真名をメドゥーサ。英雄というよりは反英雄と呼ばれるべき存在。両の目を覆うようにつけられた眼帯の下には石化の魔眼と呼ばれる神秘を持つ。ギリシャ神話に伝えられる、ゴルゴン三姉妹の三女にして、ステンノ・エウリュアレと呼ばれる二柱の女神を姉に持つ、正真正銘の伝説の怪物。
第五次聖杯戦争においては、【イリヤ】の天敵たる間桐桜のサーヴァントとして参戦していた。故に、その能力は多少なりとも把握している。そして、【イリヤ】の持つ情報の中のライダー・メドゥーサよりも、目前のライダーの能力は、【ルビー】という強力無比な礼装の存在を考慮したところで、やはり明らかに劣っていた。
そんな【イリヤ】の思考をパスを通して拾ったのか【ルビー】が口を開いた。
『【ルビー】ちゃんはあまり露骨なネタばらしは嫌いなのですが~、これに関してはひとつだけ。【イリヤ】さんたちの世界のサーヴァントと、この世界のサーヴァントとでは、召喚された目的こそ同じですが、目的に到達するための課程が異なってるんですよ~。故にこそ、この劣化は必然と言いますか……』
「フーン、なんかいまいちヨウリョウを得ないけど……。まあ、いいわ。ゲームでも序盤からナゾが解けちゃったらオモシロくないし。ストーリーを進めながら気長に待ちましょう」
【イリヤ】は思考を切り替え、戦闘へと意識を引き戻す。ボロボロで、もはや満身創痍とでも言うべきなライダーを瞳に捉える。
そして、【ルビー】を上段へと構えて、魔力を運用するためのイメージを固め。
「じゃあ、これで最後よ……」
天を裂くような無慈悲なる光の斬撃を振り下ろした。
∇∇∇
手元へと降ってきたライダーのカードを、【イリヤ】は手の中で弄ぶ。【ルビー】によればこれはクラスカードと呼ばれる英霊を宿したアイテムであるらしい。
ふと、とあるアイデアが【イリヤ】の脳裏に浮かぶ。カードを触媒にきちんとした手順を踏んで英霊召喚を行えば、弱体化していない状態のサーヴァントを呼べるのではないだろうか。
大聖杯によるアシストを受けられずとも、今の【イリヤ】には【ルビー】という魔力の半永久機関が居るので魔力に不足はない。あとは、人の身で放てる魔力の出力の限界だ。召喚には一度で大量の魔力を消費することになる。出力、例えるなら水の出る蛇口の大きさの問題だ。大量の水を一度に放出するにはそれだけ大きな蛇口が必要となる。それさえなんとかなればおそらく不可能ではないだろう。
そこまで考えたところで、【イリヤ】ははたと気づく。この世界の冬木にも、もしかすると大聖杯があるのではないだろうか。仮にあるならば話は簡単だ。大聖杯自体があるのなら、魔力は此方で用意して、その召喚機能だけを借りて行使すればいい。
【イリヤ】は仮面の内で薄く笑みを浮かべ、大聖杯を探索するべく鏡面界から撤退しようと【ルビー】へと指示を出さんとする。が、残念ながらそれは叶わなかった。
薄紫色の衣装に身を包んだ魔法少女が、【イリヤ】の後頭部へとステッキを突き付ける。
少女はその琥珀色の瞳にたしかな意思を込めて言葉を放つ。
「カードを渡してください」
「……」
突きつけられたステッキに物怖じせず【イリヤ】は振り返り、少女へと問う。
「どうしてこのカードを欲するの?」
人の獲物を横取りしようというのだからそれなりの理由はあるのだろう、と言外に【イリヤ】は言っているのだ。仮面越しに、【イリヤ】のルビーの瞳が少女の琥珀色の瞳を見据える。
「……ッ。それは…………」
【イリヤ】に気圧され、一瞬たじろいだ少女だったがすぐに再び口を開いた。
「必要だから、です」
思わず脱力してしまった。答えになっていない、と【イリヤ】は苦笑する。だが、この少女はどうやらこれでも本気のようだ。
ふむ、としばし考えるのような素振りを見せた【イリヤ】は。
「いいわ。どちらにせよ、これはわたしにはヒツヨウないもの」
そう言って少女の方へとカードを放り投げる。
カードを触媒にした英霊召喚を行いたいのはたしかであるのだが、【イリヤ】が呼び出したいのは決してメデューサではないのだ。だからライダーのカードは【イリヤ】には必要ない。
放り投げられたカードを、少女が慌ててキャッチしようと突きつけたステッキを離した隙に、【イリヤ】は今度こそ【ルビー】を使って鏡面界より跳躍した。
∇∇∇解説∇∇∇
*騎英の手綱・ベルレフォーン
ランクにしてA+。種別は対軍宝具。 騎乗できるものなら幻想種をも御し、その能力を向上させる対軍宝具。 基本的にライダー・メデューサさんの仔とも言える天馬を血の魔法陣から召喚して使用する。残念なことに、イリヤさんの上空からの魔力弾グミ撃ちにより、最後まで言わせてもらえなかった。
*シングルアクション
魔力を通すだけで魔術を起動させる一工程のこと。他にも一つの事柄を自身の中で固定化する一小節、十以上の小節を以って簡易的な儀式と為す瞬間契約・テンカウントがある。
*一体どういう原理でライダーの対魔力スキルを突破できているのかは【イリヤ】にもさっぱりであるが。
ライダーさんの対魔力はランクB。これは三小節以下の詠唱による魔術を無効化し、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術を持ってしても傷付けるのは困難なレベルらしい。プリヤの魔術は大体シングルアクションの気がする。宝石魔術のように何らかの媒体を使用することでほぼ一小節の詠唱でAランクの魔術行使もできるとされるが、指定がランクではなく三小節以下の詠唱による魔術なので……。これ以上は考えないようにしよう。
*【イリヤ】の天敵たる間桐桜
聖杯の器という、同じ宿命を背負った者で、個人的には親しみを感じているが、しかし、オセロの表裏の様に決して白と黒は相容れることは出来ないらしい。
イリヤ「こんばんはー!みんな元気?わたしがいない間にシロウと仲良くしてる?え、してる?うんうん、良きかな良きかな。―――殺すわ」