イリヤさんの魔法少女戦記   作:イリヤスフィール親衛隊

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完全にホロウではなく、ホロウ的なハッピーエンドを迎えた世界線のその後のお話し。ダメットさんとアヴェンジャーの繰り返される四日間なんてなかったんや……。


プリズマ☆イリヤ編
【ルビー】『【ルビー】ちゃんと契約して魔法少女になっちゃってください!』


 

 

 

∇∇∇本編∇∇∇

 

 

 

世界と世界の狭間に存在しているある種の歪み。一部からは鏡面界と称される空間。

 

可愛らしい桃色の魔法少女と黒い人型の影が戦闘を行っている様子を、中空に立ち、姿を消した状態で静観しているひとりの少女。

 

雪のような白い肌と白銀の髪に、ルビー色の瞳と黒紫のゴシックドレスがよく映えている。

 

傍らで浮遊していた五芒星の装飾に鳥のような羽を生やしたステッキが少女へと話しかける。

 

『あちゃ~……魔法少女として外見の完成度は認めますが、戦闘はからっきしといった感じですねー?そこのところどう思います?ご自分がやられている姿を見るのは【イリヤ】さん的にはどうなんですかねー?』

 

【イリヤ】と呼ばれた少女はその言葉に眉をひそめて返事を返す。

 

「……【ルビー】、アナタの今の発言でひとつテイセイをさせて。あれは決してわたしではないわ。あの子はただの一般人。一方のわたしは魔術師。わたしたちは歩んできた人生も、培ってきた価値観も、物事の考え方も、きっとなにもかも違う。そういうのって、他人っていうんじゃないかしら?」

 

【イリヤ】の射竦めるような視線を華麗にスルーしつつ、【ルビー】と呼ばれたステッキは宙を舞うように飛び回る。

 

『他人ですかー?【イリヤ】さん意外とばっさりですねー?此方の世界のイリヤさんにはなにも思うところはないとおっしゃりますか~?』

 

【イリヤ】は深く嘆息した。そして、飛び回っていた【ルビー】の柄を掴んで胸元に引き寄せる。

 

「思うところがないわけないじゃない。この光景はなんというか、そう、フユカイね。とても見ていられたものじゃないわ」

 

静かなる感情の昂りに、【イリヤ】の内に秘められた莫大な魔力が波を立て始める。完全なる臨戦態勢だ。

 

『おおう、【イリヤ】さんはフェイスはクールなのにハートはホットですねー?とうとう介入しちゃうんですか~?』

 

その問いかけに【イリヤ】は不敵な笑みを称えた。

 

「無論よ。だって、その方がアナタとしてはオモシロイのでしょう?」

 

『Exactly~♪』

 

弾むような声音で返答する【ルビー】。

 

「じゃあ、仮面をお願い」

 

『おや?正体をお隠しになるので?』

 

「だってメンドーなことになるのはイヤだし。それに、まだ序盤なんでしょう?正体バレはおあずけにしてた方が展開的にオイシイとは思わない?」

 

『流石【イリヤ】さん!さすイリ!さすイリです!ルビーちゃんは確信しました!イリヤさんこそ過去現在未来全ての時間軸をして最高のマスターです!いやぁ、話のわかるマスターに巡り会えて【ルビー】ちゃんは本当に幸せですよ~!』

 

「大袈裟ね。おだてたってなにも出ないわよ?」

 

『オモシオカシイことを提供していただければ【ルビー】ちゃんはそれで構いませんよ~?元よりそういう契約ですからね~!』

 

「フフッ、そうだったわね。じゃあ、アナタがお望みのオモシロオカシイを始めましょうか?」

 

『是非もありません!さあ、わたしたちの魔法少女を始めましょう!』

 

その言葉を合図として、【イリヤ】はステッキ・【ルビー】を構えて宙を蹴り、戦闘の最中へとその身を投じた。

 

 

 

∇∇∇

 

 

 

すべての始まりは。

 

西日本のどこかにある冬木と名付けられた街。一時期は魔術師たちによる血で血を洗うような争いの体を為した聖杯戦争と呼ばれる儀式の舞台ともなった街は、今ではすっかり元の静けさを取り戻していた。

 

そんな冬木の外れに位置する森の中に佇む、日本という国には不釣り合いな洋風のお城。名をアインツベルン城。

 

城の主である【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン】。冬木で起こった聖杯戦争に参加した魔術師のひとりであり、紆余曲折あって生き残った少女は、今日も今日とて特にすることはなく、その身を退屈に任せるように、まさに徒然なるままに、フカフカのソファに座って地に着かない足をブラブラとさせながら日課のテレビゲームに興じていた。

 

呆っとゲーム画面を眺めながら忙しなくコントローラーを弄り続ける。

 

と、突然に画面が静止してコントローラーの電池切れの表示があらわれる。

 

「……」

 

しばらく、画面と連動したようにそのまま静止していた【イリヤ】は、次にはコントローラーを放り投げて、傍らにあったクッションを抱き抱えゴロンとソファに寝転がる。

 

「エネループゥゥ……」

 

愛用している電池の名前を恨めしげに呟く。城にストックしてある分はとうに使い切ってしまった。誰かに買いに行かせるにしても、使用人であるセラは食材の買い足しに出てしまっているし、もうひとりのリーゼリットも【イリヤ】の命により今やほぼ無人となった衛宮邸の掃除に赴いている。

 

足は愛車のメルセデス・ベンツェがあるのだし、自分で運転して買いに行けば済む話なのだが、今日の【イリヤ】はどうしてもそういう気分にはなれないで居た。

 

「…………次にシロウが帰って来るのは年末だったかしら?あーあ、わたしも時計塔行けばよかったかなぁ……」

 

壁にかかったカレンダーを見ながらそうやって心にもないことをぼやいてみる。

 

たしかに【イリヤ】が弟であり唯一の家族である士郎とできるだけ共に居たいというのは本音なのだが、そこは物分かりもいいし空気も読めるというものだ。凛とセイバーの邪魔をしてやる気はない。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られてなんとやら。それに時計塔に行ったところで【イリヤ】には今更学ぶことなどなにもないし、そもそも【イリヤ】には学ぶ時間などないのだ。

 

「ハァ……」

 

静かな空間にひとりで居ると思考とはどうしてもネガティブになっていく。

 

「一体いつまで保つものかしらね……」

 

怠惰な日常が、なにも起こらない平穏で安寧の世界が、果たしていつまで続いていくものなのか。そして、自分はいつまで日常を謳歌し、享受し続けることができるのか。願わくば最後の時まで何事もないままに……。目を閉じようとしたその時。

 

「……ッ!?」

 

大気中のマナが一瞬だけ波紋が拡がったように揺らいだ。魔力の波を肌で感じとった【イリヤ】は閉じていた目を見開き、横になっていた身体を起こして周囲への警戒を高める。

 

魔力感知をはたらかせながら揺らぎの元を辿る。

 

それは【イリヤ】のすぐ頭上であった。

 

【イリヤ】が天井を仰ぎ見るのと同時に空間に孔が開いた。そこからは明らかに質の違うマナが溢れだしている。

 

解析した【イリヤ】はその孔の正体に至り、驚愕に冷や汗を流した。

 

「第二魔法……」

 

『正解!正解!大正解~!』

 

声と共に、孔からは五芒星の装飾に鳥のような羽を生やしたステッキが飛び出してきた。

 

そして、ステッキは呆然としているイリヤを尻目に声高々と名乗り向上をあげる。

 

『数多の世界を飛び越えて、マジカルルビーちゃんただいま参上ー!』

 

【マジカルルビー】と名乗ったステッキは【イリヤ】の目前へと降り立ち更に言葉を続けた。

 

『おはようございます魔術師さん!今はお昼かもしれませんが、業界はいつでもおはようが基本ですよー!さてさて、さっそくなんですけども、アナタの願いを叶えて差し上げますから、その対価として……』

 

―――魔法少女やりませんかー?

 

すべての始まりは、邂逅から。

 

 

 

∇∇∇解説∇∇∇

 

 

 

*マジカルルビー

 

魔法少女・凛を生み出し友人に距離を置かれるというトラウマを凛に植え付けてゼルレッチの宝箱へと封印されたカレイドステッキ……ではなく、フェイト/タイガーころしあむ アッパー等にて登場した、別の世界からやってきた別のカレイドステッキ。平行世界間を移動したり、ステッキ単体で行動可能な上にマジカルアンバーという人間形態をとったり、既に亡くなっているはずの衛宮切嗣やアイリスフィール・フォン・アインツベルンなどといった人物たちを他世界から招いたりと、ほぼ第二魔法そのものを行使できる力を有している。

 

 

*エネループ

 

商品名・単3電池。イリヤの愛用品らしい。とあるカーニバルなファンタズムでは、バーサーカーはじめてのおつかいにて、イリヤがバサクレスに買いに行かせたこともある。時代を越えた友情宝具『回転して突撃する蒼い槍兵・ブーメランサー』が生まれた、作者の個人的には伝説の回。

 

 

*メルセデス・ベンツェ

 

メルセデス・ベンツェ300SLクーペ。ベンツじゃなくてベンツェ。ここ重要。エンジンは排気量2966cc、直列六気筒SOHCのM198エンジン。最高時速は260キロ。ガルウィングのドアが特徴的。ボディカラーはやはりというか白銀。そのエンジン音はセラを陶酔させた。元は第四次聖杯戦争時に切嗣が、アイリスフィールとセイバーの冬木における足として運び込んでおいた物。本国のアインツベルン城にあった、アイリスフィール曰く「切嗣が持ち込んできてくれた玩具」のひとつ。アイリスフィールの一番のお気に入りで、お城の中庭をぐるぐる回っていたという。現在はアインツベルンが所有するイリヤ送迎用の車両である。一応セラが使用を許されているが、イリヤがひとりで城を飛び出して来た場合は彼女が自分で運転して来ているとの事。あのちみっこが一体どうやって運転するんだ、なんてつっこみはするだけ野暮というものである。

 

 

 

 




ダメット「じゃんけん、死ねぇ!」

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