この作品は、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。のifストーリーになります。
さて、このプロローグは自分が書きたい話を書くために、原作とのギャップを埋める目的で書きました。
なので今回いろはは出てきませんが、次回からバンバン出していくつもりです!
無理やりいろはルートに持っていくために話を作ったので
原作の解釈は甘々ですが、どうかご容赦を。
※バレンタインイベント後、雪ノ下と由比ヶ浜の二人が八幡をデートに連れ出して、二人同時に告白した。という設定で、それに対する八幡の返答シーンから始まります
冬の灰色の分厚い雲が頭上を覆っている。
雪で軽く湿った、それでいてどこか春の訪れを予感させる、そんな二月の地面をばつが悪そうに見つめ、言った。
「俺は今のこの二人に対する気持ちに……いや、そうじゃない。俺を見てくれる、…本当の意味で俺を見てくれる人たちへの気持ちに、名前を付けられないんだ」
いるはずがない。あるはずがない。と決めつけていた。
俺をちゃんと見てくれている人も、愛も、友情も。
“本物”と呼べるものなんて存在しない、と。
そんなものはすべて上辺だけのやり取りで、いつかは剥がれ、失ってしまう。
そう思っていた。
いや、そう思うことで目を逸らしてきた。
あの日、それを欲しいと願ったというのに、結局はまた目を逸らしている。
この一年ほどの間ですっかり広くなってしまった自分の人間関係の輪をぐるりと俯瞰するように、これまでに関わった人たちのことを思い起こす。
こんなにも自然に他人のことが思い起こせることに自分でも驚きつつ、自分の変化の源とも言えるその人たちの記憶を一巡りする。
そして…
改めてその“目を逸らしてきた”人たちのうちの二人である彼女らを、俺が次の言葉を紡ぐのを黙って待っていてくれる彼女らを、今度はしっかりと見据える。
「二人に対してだけじゃない、ここ最近で関わりが深くなった人たちに対しての気持ちが、今感じているこの気持ちがいったいどういうものなのか。俺にはまだわからないんだ。信頼感なのか、友情なのか、責任感なのか、嫌悪なのか。それとも、その……愛情…なのか、とか…」
そこまで言って自分でとんでもなく恥ずかしいことを口走っていることに気付き、いっきに顔を背けたくなる。
無意識に自ら羞恥プレイに身を投じるとかもしかしなくても俺ってMなのん?
しかしここで視線を外せば、きっともう俺のこの思いは言葉にならない。俺が欲した“本物”は、手に入らない。
「大切だってのは、はっきりとわかる」
そのことに嘘偽りはない。
誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだ。と、カッコつけた大人が言っていたように、俺は今目の前にいる大切な人を傷つけたくないがために、傷つけようとしている。
「でもその大切が、どういった類の大切なのかは、まだ判断できないんだ」
我ながらひどい言い草だと思う。
泣きそうになりながら自分の想いを言葉にし、ぶつけてくれた少女たちに対して、どちらを選ぶでもなく、ただわからないと、それだけを告げたのだ。
軽蔑されたって仕方がない。怒られたって文句は言えない。
だが、目は逸らさない。
それでもこれが、今の俺の、比企谷八幡の本心なのだから。
「だからその…今二人とそういう関係になることはできないし、この先もどうなるかは…その…はっきり言ってわからん」
そんなヘタレ腐ったセリフを吐く俺を、目の前の二人はただじっと見つめ返している。
そしてそのまま、誰も沈黙を破らない時間がしばし続く。
雪の降る中、野外で立ち話をしているのだ。当然手足は凍えるほど冷たいし、吐く息はことごとく小さな水滴に変えられ、白みがかって虚空へ消える。
でもそんな沈黙を俺は、どこか心地良いとさえ思ってしまう。
二人の少女が同じ男に同時に告白し、その両方を断った。という傍から見ればとんだハーレ…じゃなくて修羅場のはずなのだが、俺たちにとっては少し意味合いが違う。
二つの恋が終わった、というのではなく、何とも言い難い、そんなはっきりとしない何かが今始まろうとしているのだ。
お互いが今まで押し殺してきた“本物”をぶつけ合って、“本物”の端を捕まえようとしている、そんなひと時だった。
「そっか…」
強めの北風が吹き、枯葉と同時に頭上の雲を少し押し流していったのとほぼ同時に、三人の間に落ちた沈黙を破る声が聞こえた。
その暗くも明るくもない、ただまっすぐな声は、たった一言の中にいろいろな葛藤が詰められているようで、真正面でそれを受けた俺は内心で少したじろいでしまう。
強いな…と思う。
きっと彼女は今の一言に、全てを吐き出したのだ。先の数瞬の間に巡らせたであろうさまざまな思考を、その一言に。
そしてすぐに、いつも通りの底抜けに明るい声音で、笑顔で、彼女は…由比ヶ浜結衣は続ける。
「なーんかあたしたち、結局ヒッキーに上手いこと丸め込まれちゃったなぁ…ねー、ゆきのん?」
その隣に並ぶ同意を求められた彼女———雪ノ下雪乃は、これまで湛えていた僅かな微笑みをいっそう綻ばせ、慈愛に満ちた表情で相槌を打つ。
「そうね、まったくこの男は…まぁ、比企谷くんらしいといえばそうなのだけれど」
そう言った雪ノ下はどこかホッとしたような表情を浮かべていた。
「その…なんか、すまん」
うまく言葉が見当たらず、とりあえず謝罪する形になった。
とりあえず謝罪とかなにそれ超社畜スキルたけぇじゃん。まぁ実際は対妹スキルだったりするのはまた別の話。
すると由比ヶ浜が、すこし怒ったようにぷくーっと頬を膨らませて言った。
「もー、ヒッキーに謝られたらなんかこっちがつらいしっ!」
…謝罪したのに怒られました。
そして雪ノ下もそんな由比ヶ浜に賛同するように、
「まったくね。あなたの同情を買うなんて、一生の恥だわ」
…謝罪したのに罵られました。
仮にも今しがた告白した相手に対してその言い草はないんじゃないですかね…それ言っていいのは罰ゲームで告白して振られた時だけだろ。
え、もしかしてこれもそうなのん?
言葉にしたなら雪ノ下に永遠に口をきいてもらえなくなりそうな考えが浮かんだが、さすがにこの状況で本当にそう思うバカもいるまい。
「ぷっ」
さっきまで修羅場を演じていた後だというのに、こんな日常の一コマのような雰囲気で会話を進めていることに、なんだか不思議な感覚がして、つい吹き出してしまった。
「怒られて喜んでるとか…ヒッキーちょーキモい」
「ごめんなさい。わたしもそこまでだとは思わなかったわ…マゾ谷くん」
二人してゴミを見るようなジト目でこちらを見ていらっしゃる…
でも、そんな二人の反応がどこか懐かしくて、暖かくて、長い間冬の冷気に晒されているにもかかわらず、ずいぶんと気持ちがよかった。
あれ?今ので気持ちいいってのはちょっとヤバくないですか?
「いやその…なんだ。随分懐かしい気がしてな」
がしがしと頭を掻きながら、照れ隠しと同時に率直な感想を言う。
すると目の前の二人は一瞬キョトンと目を丸め、互いに顔を見合わせた。
しかしすぐに、どちらともなく
「そうね…」
「うん、なんか長かったなぁー」
と、感慨深げにこぼした。
そんな二人を見て、俺も改めて今回のことを振り返った。
今回のこと。と割り切ってしまうには幾分、いろんなことがありすぎたし、これはそもそもそんな一過性のものではなく、この二人と奉仕部という場所で出会ってから今までにあった色々なことが重なり合った結果なのだと思う。
そしてあの日、“本物”が欲しい。と二人に告げてから今日までの間に感じていた長い長い違和感のようなものに、俺達三人が抱えていた問題に、ようやく少し向き合えたような気がした。
これからその問題にどう答えを出していくかは、今の俺には、というか経験のない俺には、予測もつかないのだが。
依然として、手探りで“本物”を探し続ける俺たちに問題は山積みではあるのだが、それでも、今までのようにぬかるみの中で空回りしているような見苦しいもがき方ではなく、一つの解に向かってゆっくりとではあるが歯車が回り始めたのだという実感は、しっかりとこの胸を満たしていた。
あいつにも礼を言っとかないとな…
ふと、最近すっかり奉仕部の一員のように部室に居着いてしまっている困った生徒会長のことを思い出す。
彼女も彼女で、ここ最近の俺たちの空気感にだいぶ気を使ってくれてたみたいだしな。
と、そんなことを考えていると
「ヒッキー何してんのー!おいてくよー!」
「早く来なさい比企谷くん。今日はあなたの奢りなのだから」
いつの間にやら歩き始めていた二人からお呼びがかかった。
問答無用で俺の奢りが決定してるんですけど。俺の発言権はないんですかね?まぁないですよね、ごめんなさい。また謝っちゃったよ…。
「おう」
ぶっきらぼうに返事をして踏み出した俺の足元の脇の花壇には、いつの間にか顔をのぞかせていた太陽の光に当てられて雪解け水を滴らせた、真っ白なアザレアが咲いていた。
いかがだったでしょうか!
原作とは違って、かなりあっさりとこの大事なシーンを終わらせてしまいましたが、これも次回から心置きなくいろはを書くため...笑
感想、ご指摘などなどお待ちしております!