#1 Idol meets cars 〜ニュージェネレーションの場合〜
今日は休日ですが、我々の業界ではカレンダー通りの休みなど殆どありません。
朝からテレビ局に向かい、ニュージェネレーションの3人の収録を見届けてから事務所に向かう予定なので、久しぶりに私の車にアイドルを乗せる事になります。
率直に言うと、私の車は私自身の見た目も相まってあまり評判がいいとは言えません。
ニュージェネレーションの3人から言わせれば、島村さん曰く「プロデューサーさんみたいで、いいと思います」
渋谷さん曰く「プロデューサーみたいに強面で、いいんじゃない?」
本田さんに至っては「プロデューサーみたいに強面だし、よく似合ってると思うよ。日比谷Pみたいにカッコつけてスポーツカー乗ってそうなキャラでもないしね」と。
私もスポーツカーを所有したいものですが、そう言われてしまうとどこかブレーキがかかってしまいます。
日比谷さんがカッコつけてスポーツカーに乗ってる、と思われていることは私の心の中に仕舞っておきますが、この通りの評判なので、収録を終えた3人を駐車場に案内すると島村さんの笑顔は少し引きつり、渋谷さんや本田さんは目に見えて残念な顔をしました。
「今日は事務所の車じゃないんだね」
「ええ、私も自宅から直接入ったものですので。荷物はトランクにいれてしまってください」
スマートキーも慣れてしまえば良いもので、ボタン一つでトランクを開けられるのは便利なものです。
そのまま私のカバンもトランクに入れ、3人の衣装なども丁寧にしまいこんでネットで固定すると気がつけば渋谷さんが助手席に座っていました。心なしか本田さんの視線がキツい気がするのですが……
高めのサイドサポートは不評のようですが、3人のユニットが多いため必然的に誰か助手席に座ることになることが多いのです。ですが、なぜか嬉々として助手席に座りたがる方がいるのもまた事実。渋谷さんなどはその典型ですね。
「さ、行こ、プロデューサー」
「はい。お二人もシートベルトは締めましたか?」
「言われずとも準備完了です、サー!」
「未央ちゃん、収録のあとなのに元気ですね。私は早く事務所でゆっくりしたいです」
「残念ですが、午後は渋谷さんはトライアドプリムスの方でボーカルレッスン、島村さんと本田さんはダンスレッスンが入っています。ですが、体調も勘案して……」
「い、いえ! そんなに疲れてるわけじゃないので! お昼ごはん食べて少し休めば大丈夫です」
「そうですか。無理はしないでください」
我ながらあまり口が回る方ではないのは自覚して居ますが、できるだけ彼女たちの味方であり続けようとは思います。
体が資本であり、悪い言い方をすれば商品である彼女たちの体調管理も私達プロデューサーの仕事ですから。
「にしても、プロデューサーの車ってマニュアルだっけ? がちゃがちゃするやつなんだね。日比谷Pは『マニュアル車は男のロマンなんだよ』とか言ってたけど、やっぱわかんないなぁ」
「彼らしいですね。言いたいことはわかりますが」
「プロデューサーさんも車好きなんですか?」
「はい。よく日比谷さんと車の話をしたりしますね。車好きの方も事務所には居ますし」
「美世さんとかですかね? よく日比谷プロデューサーとお昼に車の雑誌一緒に読んでますし」
「そうですね。原田さんも先日車を拝見しましたが、いい車に乗ってますよ」
本田さんが日比谷さんの真似がよく似ていて面白いですが、思ったよりも食いつきが良いですね。クルマやバイクは女性から敬遠されがちと思っていましたが、やはり一概には言えませんね。
「車かぁ。やっぱり免許は取ったほうがいいんですかね?」
「そっか、卯月は来年取れるんだ」
「そうですね。一概には言えませんが、あったほうが便利だとは思います。費用も時間もかかりますが……」
「しまむーが車乗ってる想像ができない……」
「ごめん、卯月、わたしも……」
「二人共ひどいですっ!」
島村さんは17才。確かに来年から免許の取得が可能ですね。丸いデザインのコンパクトカーなんか似合いそうですね。現行車なら、マーチでしょうか? ピンク色のマーチなんてぴったりだと思いますね。
本田さんと渋谷さんはまだ時間はかかりますが、来年には普通二輪の免許が取れる年齢です。アイドルのプロデューサーとしては怪我の可能性が高いバイクは避けて欲しいところですが、向井さんなどはバイクで事務所に来られますし……
本田さんはグロムのようなバイクが似合いそうだとは思いますが、渋谷さんは…… ロードバイク? エンジン付きの乗り物に乗るイメージが湧きませんね。
「プロデューサーさんはもし免許取りたい、って言ったら反対しますか?」
「もちろんしません。バイクもクルマも。ただ、普段から乗るとなると話は変わりますが……」
「プロデューサーと安全運転教室かな?」
「その場合、先生役は千川さんでしょうね」
「ちひろさん…… ですか?」
千川さんは物腰低く、丁寧な方ですが、クルマはチューンドGT-R、バイクは最新のYZF- R1に乗る方です。正直に言ってしまうと、私や日比谷さんとは次元が違います。普段は電車で通勤しているそうですが、時折日比谷さんとドライビングテクニックの話をしているのを聞くと、かなりの凄腕と見受けられます。
噂ですが、国際ライセンスを持っているとか。流石に競技の結果が必要になるので嘘だとは思いますが、国内Aライセンスは持っていそうです。冗談ではなく。
「千川さんも社用車をよく乗られますしね。片桐さんも元警官ですし、指導役をお願いできそうですね」
「早苗さんは納得だね。日比谷プロデューサーがよく怒られてるし」
「ホント、日比谷プロデューサーは……」
「日比谷プロデューサーも運転上手いんですか?」
「ええ、18歳になってすぐ免許を取ったと言っていましたね」
「想像通りかも。なんか簡単にスピード違反とかで捕まってそう」
「彼の免許はゴールドです。最短ルートのゴールドですから、相当気を使ったはずです」
「うっそ、意外」
「未央ちゃん」
意外でしょうが、日比谷プロデューサーはゴールド免許です。クルマで遊ぶのは夜中の警察が来ないポイントで。友人のネットワークで警察の巡回やネズミ取りのポイントを見極め安全運転。私はクルマで遊ぶことをしなかったので無縁ですが、彼らしいと言えば彼らしいですね。
「まぁ、でもやっぱり車に乗るなら助手席が良いな」
「しぶりん、それってプロデューサーの隣だからじゃないのぉ?」
「ちょっ、未央!」
「本田さん、それは洒落にならないので……」
ニュージェネレーションに限りませんが、アイドルの皆さんを乗せると賑やかで良いですね。
一人で淡々と走るのも好きですが、こういった賑やかな空気も良いものです。
日比谷さんのZは2シーターなので殆どアイドルを乗せることが無いそうですが、社用車に小学生のアイドルを乗せて帰ってきた時などはいい笑顔をしています。疲れが見え隠れしていますがね。
#2 Idol meets cars 〜川島瑞樹の場合〜
正直に言おう。俺はこの人が苦手だ。
人当たりも良く、スタイル抜群、美人で教養もある。そして家事も上手いらしい。ただし、やたらと俺にグイグイ来なければ最高の女性だろう。俺にグイグイ来なければ。
「悠人くぅん? 今日はZなのね」
「は、はい? えぇ、自宅から直接来たので。あと、名前で呼ばないでくださいと何度も……」
「それくらいいいじゃない、もうスタジオな訳じゃないし。その時はちゃんと責任とってくれるでしょ?」
「そうなる可能性を摘んで欲しいんですけど……」
どうも気に入られてしまったようで、いつの間にか名前で呼ばれるし、気がつくと手を取られてるし、本当にやめて欲しい。俺のクビが飛ぶ……
武内さんを慕うアイドルも多いが、彼は主に学生アイドルから慕われているし、両者ともちゃんと距離の取り方を心得ている。だが、川島さんはどうだろう?
俺は全力で距離を置き、仕事の時は社員証を胸ポケットにクリップで留めてパパラッチされた時の言い訳を用意し、彼女のものを持つのも衣装や仕事関連の物だけ。それ以外は手を貸さない。自ら両手を塞ぎ、手を取らせない。なんでこんなに気を使わないといけないのか……
「川島さん、トランク開けてもらえますか?」
「そうなるなら両手塞がなければいいのに」
そう言いながら慣れた手つきでトランクを開ける川島さん。彼女もまたZオーナーだ。シルバーのZで、オートマ。俺に合わせて買った、と楓さんから聞いた。俺が川島さんを苗字で呼んで楓さんを名前呼びする理由? 年齢に決まってんだろ、いわせんな。ちなみにウサミンは…… いや、その時はその時だ。
「川島さんがちゃんと一線引いてくれれば俺だってこんなに逃げなくて済むんですけどね……」
「あら、おねーさんはダメなの?」
「ダメです。アイドルとプロデューサーです。仕事仲間です」
「楓ちゃんとは仲良いじゃない? 早苗ちゃんとも近いし」
「ちゃんと距離を心得てますからね、2人は。川島さんは俺のどこが良いんですか?」
そう言いながらエンジンを掛け、駐車場を出る。一旦路上に出てしまえば少しは気が緩む。ネクタイを緩め、第1ボタンを外す。
「それを聞く? 全く、日比谷君も女慣れしてそうでそういう所がなってないわねぇ」
「全くそういう気がないからバッサリ聞くんですよ。これが学生の時に好きな子だったらもっと遠回しな物言いしますし」
「あら残念。近くに男っ気もないし、武内君も堅苦しいしね。日比谷君くらいの『ちゃんとした男性』な感じが良いのよ。仕事とプライベートで分別がついて、趣味も仕事も全力で」
「はぁ、そうですかね? 川島さんだって素敵な方なんですから事務所以外でも出会いなんていくらでもあるでしょう?」
「全く魅力を感じないわ。言っておくけど、私は本気よ?」
「勘弁してください」
ギアを一つ下げ、快音を響かせながら一気に高速道路本線へ合流すると、追い越し車線を白と緑の車が走り去るのが見えた。
方向と時間的にほぼ間違いなく楓さんだろう。ちょっとお巡りさんに見つかるとアウトなスピードな気がしなくもないが、後を追うと、後ろに黒いセダンがつけてくるのが見えた。
「前は楓ちゃん。後ろは武内君ね。偶然って怖いわ」
「武内さんはニュージェネを拾ってきてるはずですから、フル乗車でアレですか。車内はブーイングの嵐でしょうね」
「そうかも。楓ちゃんの隣は誰かしら?」
「さぁ? 昨日誰かと飲んだ、とか聞いてないんですか?」
「誘われたけど、誰が一緒とは聞いてないわ。まぁ、菜々ちゃんとか早苗ちゃんあたりじゃないかしら?」
そのまま3台連なって346プロの駐車場に入ると横並びに止めて一斉に車から降りた。
「おはようございます」
「おはようございます。高垣さんは安部さんとご一緒でしたか」
「ええ、昨日は家で飲んでいたので。瑞樹さんは相変わらず日比谷プロデューサーにべったりですね」
「羨ましい? 悠人くんの隣は譲らないわよ」
「ふふっ、これ以上迷惑かけるわけにもいかないので。ほら、プロデューサーも困ってますし。菜々さん? ウーサミン?」
「ふえぇ…… どれだけかっ飛ばせば気がすむんですか、湾岸ミッド○イトですかぁ?」
わざとらしく俺の腕を取る川島さんに辟易しつつ、武内さんから哀れみの視線をもらい、目線で助けを求めるも、それは隣の未央から却下された。
「瑞樹さん、日比谷プロデューサーとあんなに…… 私ももっと……」
「流石に武内プロデューサーにそれはやめたほうが……」
まだ昼前なのにドッと疲れが来てる気がするが、荷物を抱えて事務所に向かうアイドル達の後を追うことにした。
4thお疲れ様でした!
感想書いてたら1本書けそうなくらい様々な感情がくるくるしましたが、今回の登場人物に絡めるなら、2日目のサプライズで楓さんと瑞樹さんは堪りませんでしたね!
TP→こいかぜ→Nocturneで死にましたよ、ええ。
泣きながらペンラを全力で色変えて振りましたわ