#1 Idols meet motorsport
さて、皆さんはオートテスト、という競技をご存知だろうか?
ヨーロッパ、特にイギリスで盛んに行われているもので、簡単に言えば車庫入れ切り返しありのジムカーナ。日本ではパイロンを目印に、車庫入れやスラロームなどを混ぜ合わせたショートコースを走ってタイムを競うものだ。
コースをコンパクトに収められるので、広い駐車場などでも開催できるとあって、近年イベントが増えているらしい。
それに、競技スピードが遅く、ノーヘルノーライセンスでも参加できるのが特徴。車だって軽トラミニバン、挙句の果てにはマイクロバスだって出られるとあれば門戸の広さはモータースポーツの中でもトップクラスだろう。
そんなオートテストに、今週のDriveWeekでは参加しに行こうというのだ。346レーシング企画第……何弾だろうか。けど多分番組では初の競技企画。はりきって行ってみよう!
「プロデューサーさん。何度めかの富士スピードウェイですけど、どうしてまたここに?」
「今日は、346レーシングとして、JAF格式のレースに出ようかと思いまして」
「ほほう。見た感じフルコースを使う感じはしませんね。駐車場にパイロンおいてありますけど、ジムカーナですか?」
「それも含めて後で説明しよう。それじゃ始めましょう」
「美世のDriveWeek」
「「スタートユアエンジン!」」
と言うわけで舞台は富士スピードウェイ、の駐車場。関東近郊と言うこともあり、参加台数はかなりのもの。って言うか単純にモータースポーツイベントの併催だし、当日エントリーも化と言うオープンっぷりがこの台数の訳だろう。
その一角で公開収録も兼ねてブースを出す我々も、ぜひとも参加しちまおうと言うわけなのだ。
けど、今日はゲストが多い! 5人ユニット全員呼べばそうなるよね。
後ろに並ぶ車も多種多様。でかいの小さいの派手なの地味なの。なんでこの5人でユニット組んでうまく回るんだろう。
「今週は後ろに並ぶ車の多さが物語ってますけど、ゲストをいっぱいお呼びしています! 炎陣の5人です!」
「いやぁ、マジで呼んじゃったよ……」
「んだよ、悪りぃか」
というわけで今日のゲストは炎陣の5人。里奈以外は車で来てもらった。里奈は5人の車を休憩ごとに乗り換えて来たそうな。
端から拓海のRX-7、涼のスイスポ、夏樹の124スパイダー、亜季のF-150ラプター。迫力がすごい。
この後も何事もなく、時折拓海をイジりつつ収録は進み、エントリーを済ませに行くとゼッケンを貰って走行前の準備だ。
「プロデューサーの車はズリぃだろ」
「自分の車なんだからいいだろー」
「里奈殿、手を貸してほしいであります!」
「おけぽよ〜」
なんて調子でワイワイとゼッケンを貼り、灯火類にテープを貼ってカバーをするとドライバーミーティングが始まる。
基本的なルールやマナー、今日のコース説明を現役のプロドライバーが行い、トークスキルも相まって笑いもありながら進んだ。
ミーティングが終わるとコースの下見。実際に歩きながらコースを覚えていく。
アタックは2回しかないからミスコースは致命的だが、そんなに難しいコースではなさそうだ。
「スタートしてからパイロンで180度ターン、もう一度180度ターンして、それから90度右に曲がって枠の中で車を止める」
「それからバックで車庫入れでありますな。これは手強そうであります」
「それは亜季の車がデカいからだろ。それで、スラロームからの270度ターンか。目が回りそうだ」
「ゴールも枠内に車を止めてゴールですね。サイドブレーキの使い方がカギかな」
基本はジムカーナ。小さなターンが多いから亜季のフォードみたいな大きな車は不利になりがちだ。それに、最近の車の電気式サイドブレーキは、サイドブレーキターンができないから気合で回るしかない。
「おやおや、プロデューサーさんの車はサイドブレーキターンできましたっけ?」
「できない」
「まじかよ、サイドブレーキターンも出来ねぇなんてモテねえぞ」
「おい、そのネタ
まぁ、そのかわりに有り余るパワーがあるのだから、いい勝負が出来るんじゃないかな?
回れないならパワースライドで回せばいいし。
そんなことを言いながらプロドライバーの模範走行を一度見てから競技開始だ。我らが346レーシングのトップドライバーは美世。模範走行のタイムが86で1分5秒だったから、10秒オチくらいが目安だろうか。
数台の車を見てからなんとなくタイムの目安を出し、いい感じに感覚を慣らしたところで美世のスタートだ。ロードスターの参加者も居て、いい目標になっているみたいだし、ここで下位に沈んでは車番組のMCとしていかがなものだろうか。
「一個目のサイドブレーキターンはバッチリだな」
「見たか! パイロンギリギリだったぜ!」
「2つめも綺麗だ」
「ここからが難所であります」
それなりに車速が乗ったところからフルブレーキで枠の中ぴったりに収めてバック。こういう時に小さい車は身軽そうだ。さっきの軽トラとかとんでもなく速かったし。
車庫入れも難なくこなすとスラローム。すでに経験があるからパイロンスレスレをアクセルワークでくるくると向きを変えながら進むと3/4回転。サイドブレーキからのアクセルでリアを滑らせる。
「おぉ〜カッコイイ〜 美世ちゃんすごすぎかも」
「流石美世サン。最後までバッチリだね」
「4番手タイムだ。さっきのランエボより速いなんてね。パワーが全てじゃないってことかな」
美世の次はまた間をおいてから俺の番だ。一応ヘルメットとネックサポートを付けてから車に乗り込み、エンジンをかけるとドライブモードをトラックに。ESCはオフ。
スーツにドライビングシューズとヘルメットなんて意味不明な出で立ちもこの瞬間だけは俺の戦闘服になるわけだ。
スタートラインに車を止めて、ローンチコントロールをオン。ブレーキを踏みながらアクセルを全開。
フラッグが振られると同時にブレーキを離せば一瞬でレブリミットまで吹け上がり、バイロンが迫る。すぐさまブレーキからターン。アクセルを踏み込むと軽くリアが流れるが猛然と加速。そしてまたターン。切り返して枠の中でストップ。
ギアセレクターのボタンを押してからモニターを見つつバック。またギアをドライブに入れてからスラローム。
低い重心とクイックなステアリングレシオが活きる。からのパワーに物を言わせてくるりと回ればゴールの枠に車を収めた。
「ローンチコントロールはズルいです!」
「ギャラリーと実況は盛り上がってたけど、参加者としては冷めるね……」
「ぶっちぎりの1番であります! 流石プロデューサー殿!」
「あんなの馬力に物言わせただけだ! オレがまたぶっちぎってやるからな!」
夏樹と涼が『フラグだな』と言う目でヘルメットを被る拓海を見つめ、里奈は里奈でなぜか両手にソーセージとコーラを持って現れ、亜季は一人で盛り上がりながら拓海の出番を見守ることになった。
当のたくみん7だって軽の5倍はパワーがあることは忘れてはならない。炎陣の4人の車のうち、2番目のパワーだ。
「おっ、スタートはうまく行ったみたいだな」
「パイロンも…… おいおいウソだろ、拓海がサイドブレーキターンしてる!」
「たくみんじゃ、んぐっ、ないみた〜い」
「ホントだぜ……」
拓海がまるで別人のような走りを披露し、車庫入れスラロームもバッチリこなすとまさかまさかの上から1桁順位。プロドライバーの模範走行より数秒速いタイムを叩き出してきた。
里奈、食べながらしゃべらない。
「どうだ見たか!」
「どこでそんな技覚えてきたんだ?」
「ドリフト講習会に行ってきたんだよ。できたらカッケーと思ってさ」
と言って自慢げにBライを見せつけてきたからまたひと盛り上がり。さらにはこの車で親と買い物にまで行くと言うから、色んな意味でたくみん△と言ったところか。
と騒いでる間にも大和軍曹が支度を済ませてスタートラインに。一際デカイ車だからギャラリーの注目度も抜群。走りが付いてきてくれればいいが。
V6にエンジンが変わった新型だが、パワーは10%近く上がり、ターボも合わさって先代以上のパフォーマンスを発揮する。さらに、先代比-200kgという大幅な軽量化だ(それでも2トンオーバーではあるが)、速くないわけない。
「やっぱり迫力ありますねぇ! 最初のターンは…… 大きく回りましたけど、軽くテール流れてますよ!」
「次のターンもいい感じだな」
「車庫入れって…… 枠に収まんのか?」
「平気っぽくない? 旗上がったし。はい、たくみん、あーん」
「ん? あーん……」
上屋をフワッフワさせながらスラロームを抜けてぐるりと最後のパイロンを回り込むとストップ。ギリギリで枠内に収めてタイムは上々。参加者の真ん中あたりにいる。
夏樹と涼が2人続けてスタートラインに並べるとまずは涼。
キュキュっとタイヤを鳴らしながらスタートするとまずは華麗にサイドターン。
「やっぱ涼はソツなくこなすな」
「りょーちゃはスイッチ入るとすごいもんねー。なっつも焦ってるんじゃない?」
「凄いな、枠の中でもできるだけ手前に寄せてるんだ。バックも速いし」
スラロームからの270度もきっちりこなして上位タイム。今回はかなりの成績が期待できるんじゃないか?
涼のゴールから間もなく夏樹のスタート。最初のパイロンのところ、よく見るとブラックマークが見えるから、タイミングを合わせてやってやれば。今みたいにバッチリキマる。
「美世より速えーんじゃねぇの?」
「そそそ、そんなこと無いですよ! アタシの方がきっと速いです!」
「焦りまくってんじゃねーか」
何をぉ! と追いかけっこ始めた2人を横目に夏樹の走りを観察すると、先人達が残したブラックマークであったり、他の人の走りを観察して覚えたであろう最速のタイミングを見事になぞる走り。
つまるところ、めっちゃ速い。ゴールタイムも最初の方だった美世より2秒速く、クラスでも3番目のタイムだそうだ。
だけどまだもう1本アタックを残しているからまだ挽回のチャンスはある。
「里奈、隣乗りな」
「まじで? いいの!?」
「メット被って、首にサポーター付けな。頭吹っ飛びそうになるぞ」
美世の2本目のアタックを見届けると俺は隣に里奈を乗せて行くことに。もちろん、見ているだけだとつまらないだろうから。こういう同乗ができるのもオートテストの珍しいところだろう。
今回は車庫入れなど、枠の中に止めるポイントには審査員が居て、車が枠に入っていれば旗が上がるが、居ないイベントもあるらしい。その時は自分の勘もそうだが、同乗者に見てきてもらうのもアリだそうだから(タイム的には美味しくないが)、みんなで楽しむことができるモータースポーツなわけだ。
「よし、行くぞ。口閉じてろ。舌噛むぞ」
「へっ? んぐっ!」
ローンチコントロールで570馬力を地面に叩きつける。V8が甲高い音を奏でながらパイロンに迫り、一度反対にハンドルを切ってから反動を付けて頭をねじこむと一気にアクセルオン。派手にリアをスライドさせながら立ち上がる。
「無理無理無理! ヤバイって! くぁwせdrftgyふじこlp」
里奈の悲鳴を聞きながら、フルブレーキ。内臓が前にスライドしそうな減速Gも一瞬。即座にリバースに入れると車庫入れだ。
落ち着きも一瞬で、またゼロ加速なわけだから、今度はタイム無視の魅せる走り。白煙を立ててダッシュを決めればスラローム。
ふわっふわっとしたアクセルとハンドルのリンクでリズムよく抜けるが、隣で「うわっ、うわっ」とカエルを絞めたような声も聞こえる。
「よし、ゴールだ。里奈、生きてるか?」
「死んでる……」
少しげっそりした里奈にお詫びがてら甘いものを餌付けしつつ、残る4人のアタックを見届けるといよいよ結果発表だ。
今回はオープンなイベントだけあって、細かいクラス分けでできるだけ多くの人にトロフィーを持って帰ってもらおうというのが伝わってくる。
それでも美世や涼、夏樹の車のようなライトウェイトやホットハッチのクラスは母数が多いから激戦区ではあるが。
まずは上のクラスから。S-1と名付けられたこのクラスはスーパーカー揃い踏みなクラスだ。俺はココ。
参加車両の殆どはGT-Rで、カリッカリにいじられたR34なんかもココのクラスだ。
まずは3位。俺。うーん?
表彰台の一番低いところに立つと2位1位が呼ばれ、両方共GT-Rの人。四駆はズルいって。はえーもん。
ささやかなトロフィーと記念品を貰ってから次のクラス。S-2。
このクラスは86からフェアレディZまで、おおよそ200〜300馬力程度のスポーツカーのクラス。車のバリエーションが一番多く、国内外のスポーツカーが次々と出てくるから見ていて楽しかった。
このクラスは拓海が参加していたが、ポディウムならず。参加賞のタオルとステッカーを貰って帰ってきた。
「んあー! あと0.5秒で3位だったんだってよ! クラス7位だったぜ」
「だいぶ速かったように見えたけど、残念だったな」
「リベンジマッチだな。そんときは付き合えよ、プロデューサー」
「武内さんに言え」
続いてS-3クラス。美世や涼、夏樹のアンダー200馬力クラスだ。ロードスターとスイスポが新旧問わず揃い踏みで、そこにアバルト500やヴィッツRSなんかがちらほらといった感じ。参加台数も最多で、1クラスで30台を超えるエントリーがあった。そりゃ朝から夕方までかかるよねぇ。
表彰台に呼ばれたのは美世。クラス2位に付け、夏樹が7位に。涼も12位で十分速いところだ。
「流石美世、おめでとう」
「夏樹ちゃんにタイム抜かれたときにはどうしようかと思ったけど、挽回できてよかったぁ……」
「負けてたら次からMC交代だったかもな」
「涼ちゃん!」
楽しそうな3人の写真も撮って、軽クラスを飛ばし、ファミリーカーのクラス。ここは我らが大和軍曹が圧倒的パワーで他をねじ伏せ勝利。総合順位もS-2の中盤に位置する速さを見せつけた。
面白いことに2位には元走り屋パパのトヨタ シエナ、3位はお好み焼き屋さんの女将がぶっ飛ばすジープ ラングラーと、フルサイズのアメ車が上位独占という結果になり実況と解説をしていたプロドライバーの方々も「予想外ですねぇ」と言葉を無くしていた。
「やりました! 私の全力、見てくれたでありますか!?」
「すげーじゃねぇか、亜季!」
「あっきーすっごーい!」
ラプターのボンネットをバンバンと叩いてから撫で回す亜季と、その亜季を撫で回す炎陣のメンバーを遠巻きに皆がらMC2人。
「いやー、青春ですねぇ」
「お前も歳変わらんだろ」
「いやだって、炎陣みたいにいつも一緒にお仕事するユニットないですし。アタシもユニットのお仕事したいなー」
「考えておきます」
「そんな武内プロデューサーみたいなこと言わないでよ!」
エコカークラスの結果発表を終え、その他ブービー賞や、各自のベストタイムの下3桁(小数点以下だ)を使った宝くじなんかもあり、大いに盛り上がったオートテスト。かくいう俺も宝くじで全合成オイル5リットルを当て、ホクホクでイベントを終えると、346プロのブースに戻り、番組も〆よう。
「1日お疲れさま。楽しかったろ」
「もちろん。普段はアクセル全開、ブレーキ全開みたいな走りはしないから、それだけでもいい経験だったよ」
「やっぱ順位が付くってのがいいんだよな。次こそ負けねぇ! って思ったら車庫入れの練習しなきゃいけねぇわけだし、運転もうまくなるだろ。悪い事ねぇじゃん」
「ふふっ、そうだね。パイロンぴったり寄せるには車の感覚も必要だし、その感覚は狭い道を走ったりするときに使えるよね」
オートテストの良いところは普段の運転に役立つテクニックが必要になるところだと思う。
サーキットのライン取りなんてそのサーキット以外ではあまり役に立たないが、車庫入れやモノに寄せる感覚っていうのは日常の運転で必ず必要になるテクニックだし、その精度を高めることは安全運転に繋がることだろう。
オートテストのコースは主催者が決めるから毎回変わるから必要になるのは応用力。そのためには基本的な走る曲がる止まるをしっかりできるようにならないといけない。珍しく拓海がいいこと言ったな。
「里奈も俺の隣だったけど、どうだ、車買ったら出てみるか」
「プロデューサーの隣はもう勘弁してほしいけど、みんなでやってみたいかも!」
「じゃ、こんど里奈の車選びに行こうか」
「ナイスアイデアでありますな。では事前情報は私が調べておきましょう」
「あっきーみたいな大きい車はむりぽよ〜」
番組収録を終え、ブースの撤収もみんなでさっさと終わらせると女性陣は温泉に寄って帰るそうで、みんなで美世のスマホを覗き込んで作戦会議をしていた。
「いやー、あの子達見てると若い頃思い出すわ」
「みんなでつるんで走ったり。日比谷さんもそういうのありました?」
「ありましたよもちろん。夜な夜なコンビニで駄弁って走って。警察来たら帰って」
「くーっ、車じゃなければ飲んで帰るかってなんだけどなぁ!」
「仕方ないっすよ。彼女たちに気使わせる前に俺らも撤収しますか」
監督や番組Pなど、いつもの野郎どもは悲しく車に乗り込み一路自宅を目指すのだった。