【改稿版】 やはり俺の灰色の脳細胞は腐っている【一時凍結】   作:近所の戦闘狂

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今話は少し初心に戻り、少しハチャメチャな感じで書いてみました!

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それでは、どうぞ




第四話 姉の弟―第一部+テニスの王子さま―第一部

 さて、もう五月の中旬に差し掛かろうとしているこの時期。紳士淑女の諸君はさぞ憂鬱な時期に差し掛かっていることだろう。

 一学期中間試験だ。

 

毎日部活に専念していたり、カラオケ・ゲームセンター等々で時間を潰したりするような者たちにとってみれば地獄のような時期だ。学校によっては夏休みが消える要因になり得るし、さらに言えば高校で留年をしてしまう要因にすらなり得る。

 だが、学力が一定以上の者たちにとって、この定期テストは殆ど意味をなさない。常日頃からコツコツと勉強をしているものや元々の学力レベルが高校のそれを超えている場合、殆んど小テストとの違いを感じない。このような者たちは予想に違わず少数派だ。

 そして、その少数枠に俺も入っていた。

 ぶっちゃけバイト、防衛活動と勉強以外にすることが殆どない。べ……別に友達がいないわけじゃないんだからね!

 

 そして、その少数派の者たちは試験の直前に頼られることが多いが、不思議と頼られた経験が一度もない。不思議だなぁ!

 はてさて、ここまでグダグダと述べてきたが、結局何が言いたいか。

 

「比企谷君、ここちょっといい?」

 

 

 俺が綾辻に勉強を二人きりで教えるのは間違っているだろうか?

 

 

  ☆

 

 

 事の始まりは一昨日の夜。

 

 俺は書類を忍田さんに提出するために顔を出していた。

 防衛任務が終わってからで、時間は午後六時過ぎ。人も疎らになり始めていた。もう食事時なので腹が空腹を訴えかけて来る。

 これはもう早くに帰るしかない。というか何故俺は締め切り前日までグダグダしていた。とっとと用事を済ませて帰ろうと決心して前を向いたとき、偶々視線を向けた先にいた人物と視線が合った。

 

「あ」

「お」

 

 タタタッとその場から小走りで駆け寄ってきたのは綾辻だった。

 少し走ったせいか頬が上気しているが、わざわざ走って来てまで話す事でもあるのだろうか?

 

「比企谷君! 久しぶり! 元気にしてた?」

「いやおまえは俺の親か。まぁいろいろあったけど何とか」

「いろいろって学校の部活の事?」

 

 いや待て綾辻さんよ。何故にその情報を持っている?

 

「迅さんに聞いたんだけどね」

「……」

 

 ある意味予想通り過ぎて困る。

 

「で、なんて聞いたんだ?」

「比企谷君がすっごい美人のいる奉仕部って部活に入部したって」

 

 なんだそれ。全く事実とかけ離れているわけでもないのに、凄い悪意を感じる。何故奉仕部の名称をそのまま伝える? 他に『ボランティア系』とかの言い方があっただろ……。

 

 と、ここで「そういえば……」と綾辻が尋ねて来た。

 

「そろそろどこの学校でも中間試験だったよね? 比企谷君は大丈夫?」

「まぁ何とか今年も特待生でいたいし、少し頑張らないと不味いけどな」

 

 一応綾辻は俺が特待生であることは、以前俺の家庭の話で学費をどうしているのかを尋ねられた時に話してある。

 

「そういえば首席だったよね? それだったら今度勉強教えてくれない?」

「おう、いいぞ――って、え?」

 

二人きりなの? 勉強会って? 他に誰もいないの? いやまぁ確かに俺は勉強できる方ではあるけれども、それは流石に社会倫理的にアウトじゃ……。

 そんな疑問を聞こうとしたが、綾辻はスルースキルを発動した。

 

「よし、きまり! それじゃあ今週末バイトなかったよね? 千葉駅前のサイゼに日曜の10時集合で!」

「いやっちょっと待て――」

「それじゃあねー!」

 

 お待ちください綾辻様。なぜあなたが私のバイト先のシフトを把握しておられるのです。

 

 

  ☆

 

 

 時は現在に戻り。

 と、ここまでが勉強会が開催されることになった下りだ。

 以前から勉強会は行ったことはあるが、いずれもバカ3人組に教えないといけなくなったので、それの手伝いを綾辻に依頼したのが理由だ。

 しかし、二人きりで勉強会となると話は別だ。

 

「で、ここなんだけどさ……」

「えぇっと……?」

 

 と、聞かれた場所を見やる。

 内容を見てみると、なるほど難しい。普段バカ3人組に教えているのもあり、学力はそこそこの綾辻でも分からないのも無理はないと納得し、ふと身を乗り出し教えていく。

 

「で、ここでこの公式を使うと――」

 

 綾辻が説明を聞きながら筆跡を目で追いかけていくのを見て、ふと顔と顔が近づいていることに気付く。

 麻栗色の艶がかった髪。ぱっちりとした瞳に長い睫毛。桜色の唇に彩られた端正な顏。

 今更になってしまうが、やはり彼女は美人なんだなと意識させられてしまう。

 

「――あれ、比企谷君どうしたの?」

 

 思わず呆けてしまっているところに声を掛けられ、そういえば教えていたんだったと意識を覚醒させる。

 

「悪い――」

 

 と、謝って綾辻の方を見ると、その顔が目と鼻の先に在った。

 元々俺も綾辻も向かいの席に座っていたとはいえ、お互い身を乗り出していたのだ。そりゃあお互いの顔の距離も縮まるわけでして。

 

「ぁ――いや、何でもない。ちょっとボケーっと……って綾辻?」

「………」

 

 よく見たら綾辻さんもボケーっとしてらっしゃる。どうなすった。

 

「おーい、綾辻さんや?」

 

 呼びかけても返事がない。タダノシカバネノヨウダ……。

 って何故か凍結してしまったので、目の前で手を振ってみる。

 

「おーい」

「――!」

 

 声を掛けたところでハッとするや否や、顔が急に真っ赤に染まるや目を白黒させ、そしたら片手にペンを持ったまま「わー!!」と叫んで両手をブンブンと振り回しだす。

 綾辻さんが壊れた……。

 と、ふざけたことを考えていたが、だんだん収集が付かなくなってきたので、肩を抑えて落ち着かせる。

 

「落ち着けって!」

「あぅ……。ごめん……」

 

 そこで一旦は落ち着いてくれたけど、また顔を真っ赤にさせて顔を逸らしてしまった。どうしたのか不思議に思ったが、ふと俺の手が肩に置かれている――実際には俺が置いたのだが――に気付いた。

 

「――わ、悪い……」

「う、うん……」

 

 そこから暫らく。気まずい時間が――それはもう、尋常じゃないくらい気まずい時間が流れた。

 早く話題を切り出すべきではあるんだろうけど、残念ながら俺にはそんなコミュ力はない! こんな時ほどボッチであることを恨んだことはない。

 

 周囲の席から聞こえてくる喧噪が嫌に耳に入る。時折耳に入るソネット君の「ピンポーン」という音が頭に響く。

 それから何分経ってからだろうか。いや、実際には数十秒しかたっていないかもしれないが、座っている席の通路側から唐突に声が聞こえた。

 

「あれ、ハル先輩……に、比企谷先輩?」

「あかねちゃん? やっはろー!」

「やっはろーです!」

「おう」

 

 少なくともこの雰囲気になってしまったこちらとしては有り難いんだが……。やっはろーって何? 流行ってんの?

 そんなこっちの疑問は意味を持たずに話だけが進んでいっていた。

 

「えっとですね……」

「どうしたのあかねちゃん?」

「友達から相談を受けまして……」

 

 ふと彼女の隣を見れば、同い年くらいの男の子がいた。その少年は深刻に悩んでいるのか、表情に影を落としていた。

 

「話だけでも聞いてあげようと思ったんですけど、ちょっと私じゃ話にならなかったんで……。できれば先輩方にも聞いていただければと思いまして……」

 

 その表情には陰りが刺しており、深刻さを物語っていた。

 綾辻も流石に放っておけないと思ったのか、その少年に話しかけた。

 

「よかったら話だけでも聞くよ?」

 

 その少年は影を落としたままではあったが、ゆっくりと頷いた。

 

 

  ☆

 

 

 四人ともか席について、漸く話は始まった。

 俺と綾辻は勉強道具を片づけて片側に座り、

 

「それじゃあ、先ずは自己紹介からだね。私は綾辻遥。一応ボーダーでオペレーターをしています。あかねちゃんとはボーダーで仲良くなったの。で、そっちが……」

 

 と、綾辻が話し終えたところで俺に視線を流してくる。つまり彼女は俺にこう言いたいのだ。

 俺に自己紹介しろと。俺に自己紹介しろとォォオオオオ!?

 

 テンション間違えた。

 それは置いておいても、これは深刻な問題だ。ここでの第一印象は今後の関係に置いて多大な影響を及ぼす。それは最低でも半年は続くと言われている。それは人間関係の間柄において非常に長いと言える。

 いかに舌を噛まずに自己紹介するか。言う内容をあらかじめ考えておかなければいけないだろう。

 

 仕方ない。

 

 ――SE発動。

 

 頭の中でそう唱えると、いつもの様に世界が灰色に染まっていく。それと同時に何を自己紹介するべきかを考えていく。

 ここで求められるのは俺個人の主要な情報。しかし、それを求められている情報を絞り込み一つの紹介文を完成させなければならない。

 

 名前以外に於いて身体的な情報は目以外はいらないだろう。あと部活の話か。いや、これは相手に期待させ過ぎてしまう可能性をはらんでしまうからパスだ。となるとあとはボーダーでの綾辻との関係か――。

 

 と、ここまでの時間およそ0.1秒。

 

 こんなSEの使い方絶対に間違っていると頭の片隅で思いながらも文章を構成する。だって仕方ないじゃん。ボーダーだよ? だって綾辻と日浦だぞ? 日浦なんて特だ。だって那須隊であいつらに言ってみろ。翌日には迅さんに俺が自己紹介で噛んだって揶揄われる図が簡単に浮かぶ。

 

 と、無駄なことを考えながら文章を構成し――結果、0.2秒で終わり。

 ここでSEを切り、素面のまま自己紹介を始める。

 

「比企谷八幡だ。日浦とはボーダーでよく絡むな。こいつとはまぁ、腐れ縁みたいなもんだ。ボーダーではソロでシューターをしている。まぁ、よろしく頼んッ」

 

 噛んだ。

 

 やべぇぇええ! やらかした! てか最後だしバレてないよな? いやバレたか!?

 得意のポーカーフェイスと共に頭の中で絶叫し尽くす。それはもう、盛大に。

 

「川崎大志です。三雲第一中三年です」

 

 だが、俺の思考とは裏腹に、自己紹介は淡々と進んでいった。

 あれ? これ恥ずかしがってた俺バッカみたいじゃん。ヤバい、悶えて死にそう。

 

「それで、相談っていうのは?」

 

 ここで話を進めるべく、綾辻が切り出した。良かった。このままだと俺一人で勝手に暴走するところだった。

 と、ここから真面目になろうと思う。

 

 心労が重なったせいか、やはり表情は暗い。しかし、他人に相談しないと話が進まないことを察しているのか、ポツリポツリと話しだした。

 

「最近俺のねぇちゃんの様子がおかしくって――」

 

 

  ☆

 

 

 それから五分ほどかけて、じっくりと彼の姉の現状を聞き出した。

 この少年――川崎――からの話をまとめると、四月ごろから彼の姉が朝帰りするようになった。総武校に通えるほどまじめだったにも拘らず、だ。何をしているのか聞いても「あんたには関係ない」の一点張りで教えてくれない。「エンジェルなんとか」という店から姉あてに電話が来た。

 

 なるほど、これは酷い。

 

 何が酷いって。弟がだ。

 姉がなんで「あんたには関係ない」の一点張りで教えないのか考えないのか。と言ってもまぁ、俺自身憶測の域を出ないが。

 確かにこれだけの情報だとまだわからない事の方が多い。その「姉」が水商売をしているという根拠にはまだ足りない。だから酷い。

 

「比企谷君はどう思う?」

 

 ずっと黙っていた俺に、漸くというより不意に話を振ってきた。

 

「――現時点ではまだ何とも言えん。その川崎の姉が水商売やらをしている可能性も否定はできんが、まだ何の情報もない以上結論を出すには早すぎる」

「――でもッ!」

 

 そこまで俺が言っても下を向いていた川崎が、それに反論するように鋭く叫ぶ。だけどな川崎。それは姉弟としてだめだ。

 

「でもじゃない。確かにお前の言う通り、お前の姉はグレてしまったかもしれない」

「じゃあ早くどうにかしないと――」

「弟なら信じてやれよ」

 

 それを言うと、川崎は口を噤んだ。

 弟だからこそ姉を救いたい。その想いだけは決して間違ってなんかいない。

 だからこそ俺は続けた。

 

「――それが、兄妹ってもんだからな」

 

 

  ☆

 

 

 結果、俺と綾辻でこの話を受けることになった。

 とはいえ、川崎の姉は総武校らしいから、俺が実行班で綾辻がサポートに回る形となった。まぁ当然の帰結ではあるが。

 

 先ずすべきことは二つ。

 その川崎の姉を特定する事。そして、姉のバイト先を特定する事。この二つはそこまで難しいことではない。

 一応綾辻にはバイト先であろう候補の絞り込みを行って貰っている。と言ってもやることは「エンジェル」の付く店の名前をリストアップするだけだが。

 

 さて。

 そんなこんなでその日はお開きになった。

 一応連絡先だけは交換して置き、川崎には短絡的な行動には陥らないよう十分に言い聞かせた上で姉に関する情報を持ってくるように依頼した。ついでに四月頃に何があったかについても同様だ。

 

 敵を知り、己を知れば百戦危うからずとはよく言ったものだと思う。

 何事においても実際に一番大事なのは情報だ。だから今回はゆっくり動くことにした。

 

 ――この姉弟が、間違えないように。

 

 

 ☆

 

 

 そしてやってきました。月曜日。

 俺は予め川崎――これからは大志と呼ぶ――から姉の情報は預かっていた。

『姉の名前は川崎沙希。高校二年で俺と同期。だけどクラスは分からない(安定)。身長は女子にしては高め。ポニーテールが標準。髪は大志と同じで若干青みがかかっている。』

 と、ここまでが彼女の姉に関する情報だ。

 ここまでそろっているなら、探すのは難しくなさそうだと思い、奉仕部にこの話を通すのはやめておいた。

 

 ところで諸君。話は唐突に変わるが、体育の授業というものをご存じだろうか?

 いや、誰でも知っていることを聞いているわけではないのだ。そう、俺がこの場で聞いているのは、体育の授業という名前に隠された本性という意味においてだ。体育の授業の中では、ふとこんな言葉が流れる。

 

「よし、じゃあお前等二人組作れ~」

 

 ボッチに二人組は作れません。何故ならボッチだから。QED(証明終了)。

 

 ……。

 という訳で、ボッチには特に居づらい環境と化すのだ! 

 

 だが先日、俺はついに究極技を編み出した。

 俺は漸く、この地獄の五十分から解放される術を見出したのだ!

 それは――。

 

「せんせー。体調が優れないんで壁打ちしてていいですか?」

 

 この言葉のすごい所は、先ず第一点に「体調が悪い」と明言をしていないことにある。そして日本語の妙かな、この言葉だけだと大多数の人が「体調が悪い」と錯覚してしまうことにある。こうなってしまっては相手も強く出ることが出来なくなる。

 そして第二点に壁打ちしていていいですかと言うことで、「見学する手段があるにも関わらず敢えて授業参加することでやる気を見せる」ことが出来るのだ。

 そして最後に先生が返事をする前にその場を立ち去るという点だ。ここで先生に余計なことを言われる前に壁打ちを始めれば、先生も特に何も言わずに流すだろう。これを考えた時にはもう飛び上がって三周回って踊ったものだった。

 これを考えた俺マジでボッチの鑑。……今度義輝にも教えてやるか。

 

 壁際に行き、テニスラケットを構え、壁打ちをし始める。

 この壁打ちで奥が深いのは、如何に回転を掛けて返すかだ。回転を掛けたボールはその壁で衝突する時、どうしても違う方向に跳ね返ってしまう。だからいかにして回転を掛けてボールを打ち出すか。

 これが案外楽しいのだ。

 

 本来的に比企谷八幡という人間はアウトドアな人間なのだ。それが何故かインドアになってしまっただけで、身体能力はそこまで悪くない――はずだ。

 

 一人ラリーをこうして二三回続けていると、ふと後ろから声が聞こえた。

 

「あの……。比企谷君。ちょっといいかな?」

 

 名前で呼ばれてしまっては仕方ない。っていうか学校で名前呼ばれたの久しぶりな気がする。どんだけ俺って。学校に認識されていないんだろうか……。

 跳ね返ってきたボールを掴み、後ろを振り返った。

 

 と、そこにいたのはショートカットに髪を切った女の子がいた。あれ? ここって男子のスペースだったよな? 端っこに行こうとし過ぎて女子側に行ってしまったか?

 

「今日ね、いつもペアを組んでいる人が休んじゃったからさ。ペア……組んでくれないかな?」

 

 上目遣いでこっちを見て来る。何この可愛い生き物。ヤバい目が浄化されていく……! 目が……! 目がァァアア!!

 そんなアホみたいなことを思いながらも、女の子とペアを組むにも少し問題だ。流石に。

 

「いや、女子は別の所じゃなかったか?」

「……僕、男の子だよ?」

 

 ……うそーん。

 

「やっぱり僕、女の子に見えちゃうのかな?」

 

 本人は少し困ったような表情で「アハハ……」と笑うが、まちがっている。何がって? 性別だよ! 性別!

 仕事しろよ女性ホルモン! あ、逆か。

 じゃなくて。

 

「いや、ペアを組むのはいいんだが――」

「あぁ、自己紹介がまだだったかな? 戸塚彩加です。一応同じクラスなんだけどな……」

 

 嘘だろ……。

 同じクラスに居ながらこの天使の存在を見逃していた……だと!?

 

 勝手に落ち込んでしまったが、取り敢えず授業中で先生に目を付けられたくなかったから二人でラリーを始めた。

 

「行くぞ!」

「うん!」

 

 お互いになるべく打ちやすい所に打ち込んでいく。あらやだ、顔がにやけるのが止まんない。

 汗が飛び交いながら、二人の間をボールが行きかう。こうして二人でラリーをするのがこんなに楽しかったなんて! ヤバい、俺今リア充してるぞ! 目を濁らせたままの青春だ! 何それキモイ! 玄冬は終わったのだ!!

 こうして俺たちは、テンションがおかしくなりながらもラリーを続けていった。

 そして。

 

「あ、ごめん!」

 

 戸塚が返球を誤り、大きく右にずれたボールを打ち出してしまった。

 オーケー、問題ない!

 などとふざけてしまったが、俺はラケットを左に持ち替えてスライスをかまして返球する。

 回転が勢いよくかかったボールは、戸塚の足下でバウンドし、抜けていった。

 

「あ、わりぃ。強く打ち過ぎたか?」

「……すごい」

「すごいよ比企谷君! 今のスライス! すごい回転掛かってたよ!?」

 

 それはもう天使か? あ、違う。救世主だった。

 表情には一切出していないが、心の中ではもうにやけたい放題だ。なんなら今から便器の中に顔を突っ込めるまである(錯乱)。

 

 それから幾何か時間が経ってから、俺たちは一旦休憩を挟むことにした。

 

「比企谷君、テニス上手だね!」

 

 席に座り一息ついてから、戸塚はそんなことを聞いてくる。やだなぁ! そんなことないって!

 内心すごく照れ隠しをしながらも。

 

「まぁ、運動はできる方だしな」

 

 不思議と口から出てくる言葉は、若干ぶっきらぼうになってしまう。腐れ落ちろ! この目と一緒に!

 

「比企谷君ってどこか運動部に所属してるの?」

「いや、そこまで頑張って運動はしたくないからな。どこにも属してないな」

 

 とは言うものの。真面目な話、俺には部活動に所属できるだけの余力がそこまでないのだ。本来は所属もしたくない奉仕部だが、限定的にアルバイトと防衛任務の日程の空いた日に限り参加しているのだ。だからそこまで回す余裕もない。

 俺が発した言葉を皮切りに戸塚が真面目な表情に切り替わった。

 

「良かったらさ……。硬式テニス部に入らない?」

「……」

「実はね……。うちのテニス部弱くてさ。今度の大会で三年生は引退するし、一年生は初心者さんが多くて必然的に僕たち二年生が頑張らなきゃいけないんだけど。二年生もそんなにうまいとは言えないんだ。だからか分からないけど、みんなのモチベーションも低くなってるって言うか。なんかこう、皆がぶつかり合う雰囲気がないんだ」

 

 言っていることは理解した。要は三年生が引退すると、ただでさえ弱いテニス部がモチベーションの低下によって練習の質が下がり、さらに弱くなってしまう。しかも競い合う空気がないためにさらに拍車を掛けてしまっているということか。

 

「だから……。比企谷君が良ければなんだけど、テニス部に入ってくれないかな?」

 

 ……その涙で俺の腐りきった目も心も洗い流してくれ。

 

「さっきのラリーを見て思ったんだ。比企谷君は練習すればきっとうまくなると思うんだ。それに1人上手い人がいればみんなのモチベーションも上がると思うし」

 

 その言葉を発した戸塚の目は何処までも真っ直ぐで。穢れを知らない純真で無垢で。

 

「悪いな戸塚。俺じゃあ無理だ」

 

 なるべく傷つけないように。それでいて、気付かせないように。

 

「そもそも俺じゃ部活をする余裕もないしな。俺んち貧乏だから、俺も家に金を入れなきゃいけなくてな。わりぃ」

「いや、大丈夫だよ! むしろこっちも急に変なお願いしてごめんね?」

 

 その場で結局話は終わってしまった。

 

 俺としては、出来ることなら助けてやりたい。しかしそれはただのエゴだ。そんな事じゃあ彼女の希望に沿うことはない。

 正直心配ではあるが、ここは本人で頑張ってほしい。

 

 ……あ、違った彼だった(泣)。

 

 

 




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