Fate/Grand Order 正義の味方の物語   作:なんでさ

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皆さんお待たせしました。ようやっとオルレアン編投稿です。
投稿までに色々とイベントが来ましたね。サヴァフェスにAZO復刻にネロ祭ならぬギル祭にと、大忙しです。
特に面白かったのはやっぱりサヴァフェスですかね。もう始まりからしてぶっ飛んでました。まさかね、ハワイとホノルルを合体させた挙句、そこでコ◯ケやるとは思わないじゃないですか。ストーリーとしてはぶっちぎりに馬鹿(天才)な濃密さでした。同人誌も本当に読んでみたいものばかり。個人的には『拉麺好き好きアナスタシアさん』とか「悪役令嬢は悪女をぶち抜きたい!」とか読んでみたいです。それとは別枠に、キアラ本はあれで全年齢版というから信じられない。
AZOも交換ショップでケイネス先生が楽しそうにしてたのが地味に嬉しかったり。
ギル祭はもうすぐ終わりますが、次は(見た目において)ぶっちぎりに頭の悪いビルドクライマーが復刻。あれを超えるものが果たして来るのか、復刻ともども楽しみです。
拙作も、この勢いが消えないうちに進めていきたいです。

それでは19話目、どうぞお楽しみください。


竜の魔女の名の下に

 第一特異点へのレイシフト実行から1日が経過した。

 カルデアの管制室では常に士郎達を観測し続け、彼らの意味消失を防いでいる。

 

「・・・・・ドクター、本当に良かったんですか・・・・・? 」

 

 そんな、僅かな気の緩みが命取りとなる最中、一人のオペレーターが堪えきれないとばかりに抗議の声を挙げた。

 

「今は作戦中だよ。ほんの小さなミスが彼らの消滅に繋がるんだ。目の前の仕事に集中してくれ」

「それは、分かってます。けど、“アレ”は--」

「マスターである士郎くん本人の要請だ。僕らが口出すことじゃないよ」

 

 事務的に、淡々とロマニは答えを返す。

 その分かりきっていた結果に、予測できた返答に声を上げた当人はやはり、納得できないと顔を歪める。

 彼女の言葉が指し示すものとは、レイシフト実行までに士郎が用意した人理修復を成し遂げる為の一手であり。

 その実態を知るのは、要求した当人と管制室に詰める人間だけだ。

 使用すれば戦況を覆しうる可能性を秘めている。だが、それを使えば衛宮士郎は--

 

「--直に士郎君がラ・シャリテに到着する。話はここまでにしよう」

 

 その言葉につられて視線を向けた先、士郎が今まさにラ・シャリテへ足を踏みいれようとしていた。

 

 

 ◆

 

 

「存外、活気付いてるんだな」

 

 フランス中央部、ジュラの森より東方に位置するラ・シャリテ。

 全身をマントで覆い、市井の様子を伺う姿があった。

 名を衛宮士郎。仲間と別れ単独行動をする人類最後のマスターだ。彼は極力目立たぬようにしながら、街の様子をくまなく観察する。

 

「アロワさんからフランス全土が襲われていると聞いていたが、この様子では微塵も感じられないな」

 

 彼の言う通り、市場には活気があり行き交う人々も生きる気力に満ち溢れている。

 広場では多くの人々が集い、子供が辺りを走り回っている。路地の裏に目を移せば柄の悪そうな悪漢や、昼間から酔い潰れる者など。

 どこにでもある、真っ当な都市の形だ。とてもではないが、未知の脅威に脅かされているとは思えない。

 

「やはり、噂は真実だと考えるべきか」

 

 アロワから聞き及んだ惨状が嘘だとは考えづらい。

 敵がフランス全土を標的とするのなら、この街だけを見逃す道理はない。となれば、襲われなかったのではなく、襲撃者を撃退したと考えるのが自然だ。

 問題はそれがこの街が保有する自衛能力か、はたまた別のナニカによるものなのか、だ。

 死亡したシャルル7世に使えていた騎士団が苦戦を強いられたワイバーンを、一都市に過ぎないラ・シャリテで凌ぎ切れるとは思えない。

 よって、考えられるのは後者。フランス軍ではない別のナニカ--即ち、サーヴァントによる守護と考えるのが妥当だろう。

 

「そこのにいちゃん。ここいらじゃ見ない顔だな」

 

 そこまで考えた士郎に、見知らぬ声がかけられた。振り向いた先には、露天商を営んでいるらしき男がこちらを見据えている。

 異様な風体の男に興味を示したのか、それとも単純に商品を売りつけるためか。

 どちらにせよ、街の詳しい状況を知りたい士郎にとっては好都合だった。

 

「ええ。遠方より旅をしてきて、ついさっきこの街についたところです」

「旅人か。道理で珍しい形をしてるわけだ。この辺りには何か探し物が?」

「まあ、そんなところです」

 

 適当に話を合わせる。

 実際、ここには噂のサーヴァントを探しにきたのだから嘘にはならない。

 

「そうかそうか。いやしかし、この街に来るなんて、あんた運がいいな」

「というと?」

「あんたも聞いたことがあるだろう。復活した聖女の噂を」

「確か、処刑された聖女が竜の魔女として蘇り、フランス中を襲っているという、あの?」

「そう、それだ。あんたも耳にした通り、今この国は得体の知れない化け物どもに襲われてる。実際、ここも襲われたことがあるんだ」

「たまに見かける崩れた家なんかはその時に?」

「ああ。あの時は酷かった。あの化け物ども、手当たり次第襲ってきやがるんだ。かく言う俺も喰われそうになったんだが--」

 

 最初、怒りとも恐怖とも取れぬ表情を浮かべた男はしかし、一度言葉を区切りその顔にニヤリとした笑みを見せた。

 

「だが、俺達は神に見放されなかった。あの連中を倒せる“騎士様”が現れたんだよ」

 

 男はその時の様子を思い出したのか、嬉々として語る。

 

「あれは爽快だった。それまで俺達を喰おうとしてた化け物どもが、たった一人に蹴散らされていくんだからな。今じゃここの噂を聞いて、他所の街から避難して来るやつもいるぐらいだ」

 

 その言葉を聞いて、道理で人が多いわけだ、と納得する。

 いくら活気があるとはいえ、そう大きい街でもない。住んでいる人間も街の規模に見合った人数の筈だ。

 だが、別の街から移ってきたというのなら、この様子にも頷ける。

 もっとも、大量の移住者がやって来ると都市の循環が滞るのが常だが、今は街の至る箇所が破壊されていたり防備を固めたりで人出は足りないぐらいだろう。

 多くの人が移り住んでいるならその課題はクリアできるし、移住者も職をすぐに得られる。

 非常事態下ではあるが、都市システムは滞りなく運営されているようだ。

 そして、その立役者はやはり、件の騎士。

 

・・・・・頃合いか。

 

 相手がこちらに対して不信感を抱いている様子はない。

 本題に入るなら、この辺りだろう。

 

「その騎士というのは、今どこに?」

「なんだ。あの人に会いたくなったのか」

「今の話を聞いて、気にならない人間はいませんよ」

 

 果たして、男が騎士の居場所を知っているかは不明だが、なんらかの情報は得られるだろうという期待はあった。

 

「知ってるには知ってるんだが。・・・・・生憎、今は会えないぞ」

 

 だが、帰ってきた答えは予想外のものだった。

 

・・・・・会わないではなく、()()()()・・・・・?

 

 それは一体、どういう事なのか。

 何らかのトラブルを抱えているのか、それとも既にこの街を離れてしまったのか。

 ともかく、話の続きを聞くしかない。

 

「今朝早くに出かけていったんだ。行き先はリヨンらしい」

「リヨンに?」

 

 返答に対し、士郎は驚きを隠せなかった。

 リヨンといえば、マシュとジャンヌがもう一騎のサーヴァントに接触するために向かった街だ。

 

 ・・・・・偶然、とは言い難いか。

 

 サーヴァントが、別のサーヴァントがいる街に向かったというのだ。目的は限られてくる。

 現状を省みるに、狙いは士郎達と同じと見るべきだろう。

 

「何時ごろ帰って来るか分かりますか?」

「あー。出た時間を考えたら、あと一、二時間ぐらいか」

「一、二時間・・・・・」

 

 時間としては誤差の範囲だ。

 その程度ならここで待機した方が効率的だろう、と士郎は判断した。

 

「色々と教えてもらってありがとうございました」

「なに。別に礼を言われるようなことじゃないさ。・・・・・それよりも、旅をしてるっていうなら色々と入り用だろ? ウチで買い溜めていかないか?」

 

 士郎としては、礼を言ってこの場を離れるつもりだったのだが、男の方はこれで終わらせる気はないらしい。

 もともとこっちが本題なのだろう。声をかけてきたのはやはり、商売のためだったようだ。

 

「・・・・・それじゃあ、これとこれ、あとそれもください」

 

 士郎もここまで話を聞いて何も買わないでは筋が通らないと思っていたため、すんなりと男の提案を受け入れた。

 幸いにして、男の取り扱う商品は食料品。

 ジュラの森で色々と手に入れたが、その内容は偏ったもの。ここでバランスを取るのも悪くはない。

 ただ、一つだけ問題があるとすれば、士郎はこの時代の通貨など持ち合わせていないことだ。

 無論、代金は投影で用意できるため窃盗、なんて事にはならない。贋作とはいえ、通貨程度ならその中身は本物と寸分違わぬ精度を保てる。

 とはいうものの偽金であることには変わりなく、それを渡す士郎の胸中は穏やかではなかった

 

「それじゃ、俺はこれで」

 

 胸に燻る罪悪感を(後で絶対に返礼すると誓い)なんとか押し殺し、その場を立ち去る。

 そのまま人気の無い路地裏に入り、周囲に誰もいないことを確かめた彼は、

 

「トレース・オン」

 

 その一言を以って、自己を変革させる。

 紡がれた言霊が染み渡り、この一時のみ彼の周囲を世界より隔絶させる。

 人払いの結界。

 

「ドクター、聞こえるか」

『ああ。ちゃんと聞こえてるよ』

 

 結界が効果を発揮しているのを確認した後、虚空へと呼びかける

 誰も答えぬ筈の問いかけは、確かな声を以って返答がなされた。

 そして、間を置かずして士郎の眼の前に立体映像<ヴィジョン>が展開される。

 

・・・・・やっぱり、まだ慣れないな。

 

 何日か経過したとはいえ、こんな風にいきなり映像が写しだされる光景は、士郎には馴染みの浅い事柄だった。

 もっとも、最初の頃は間抜けな声を上げたり臨戦態勢を取ったりと、あまりにも酷い状況だったので、マシになったといえばマシになったのだろう。

 

『それで、調査の方はどうだった』

 

 そんな士郎の考えなど露知らず、ロマニは早速本題へと入った。

 

「街の人間に話を聞いたが、やっぱりサーヴァントの噂は真実みたいだ」

『それは僥倖だ。それで、もう接触できたのかい?』

「いや。どうやら、今朝早くにリヨンに向かったそうで、今はここにはいない」

「リヨンに? それって--」

「十中八九、俺達と同じだろうな」

 

 経緯を考慮すれば、この街の護りを放棄したとは考えられない。

 竜の魔女と戦うサーヴァント同士、有事に備えて共同戦線を張るために交渉に向かった、と考えるべきだ。

 

『それじゃあ、これから士郎君はどうする?』

「暫くはこの街で待機だな。例のサーヴァントがリヨンに向かった以上、交渉はマシュ達に任せるしかない」

『やっぱりそうなるかな。となると、マシュ達の報告待ちになるけど--待った。今、彼女達から連絡があったみたい」

 

 そう言って、ロマニはモニターから姿を消した。

 何度か他のスタッフらしきやり取りをした後、マシュ達との会話を始めたように聞こえる。

 そうして一分ほど経った頃、再びモニターに姿を現した。

 

『どうやら、彼女達は無事にリヨンのサーヴァントと接触できたみたいだ。ラ・シャリテのサーヴァントも一緒にいるらしい』

「それは重畳。それで、向こうはなんて言ってるんだ」

『サーヴァント両名とも協力することは吝かではないって。ただ・・・・・』

「何か問題が?」

『問題ってわけじゃないけど。どうやら彼らは、協力する前に君に会いたいって言っているらしい』

「・・・・・なるほど。つまり、共に戦う者が仕えるに値するか。その是非を問いたい、と?」

『簡単に言えば、そうなるね』

 

 道理だな、と提示された条件に納得する。

 彼らはサーヴァントであり、かつて数多の偉業を打ち立てた英霊の写し身だ。

 仕える者は清廉である方が好ましいだろう。相手が魔術師ともなれば直接確かめたくもなる。

 

「わかった。俺はどうすればいい?」

『今、そこにいたサーヴァントが戻っているから、接触次第話をしてくれ。もしその人物が君を認めてくれたなら、リヨンのサーヴァントも全面的に協力してくれるそうだ』

「・・・・・責任重大だな」

 

 おそらく、サーヴァントは士郎の人間性を以って判断するのだろうが、果たしてお眼鏡に叶うか。

 士郎はお世辞にも高潔な人間とは呼べず、誰彼構わず好かれるような人格を持ち合わせていない。

 気難しい性格のサーヴァントであれば、話は難航するだろう。

 

・・・・・どこぞの金ピカみたいな奴だけは勘弁願いたいな・・・・・。

 

 そんな、切実な願いを胸中で呟き、

 

「なんだ・・・・・?」

 

 そこでふと、違和感に気づいた。

 街の様子が慌ただしい。

 訪れた当初から賑わってはいたが、これは別種のものだ。

 そう、これではまるで、敵襲を受けているような--

 

『士郎君、今すぐそこを離れてくれ!』

「っ・・・・・! ドクター、何があった?」

 

 先程とは打って変わった様子で、ロマニが士郎へと退避を促す。

 その表情から、彼がいかに切迫しているか如実に示している。

 彼が、ここまで焦りを見せる事柄とは即ち、

 

『大量のエネミー反応がそこに向かってる。地上と空を合わせて、総数三百以上。とても捌き切れる数じゃない、今すぐ避難してくれ!』

 

 悲痛な叫びが響いた直後--巨大な影が、士郎の頭上を横切った。

 

 

 ◆

 

 

「現れますでしょうか? 例のサーヴァント」

 

 ラ・シャリテから少し離れた小高い丘。

 街を見下ろせる位置に、二人の男女が陣取っていた。

 片や特殊な形状の槍を携えた、幽鬼の如き貴族服の男。

 片や顔の半分を金属製の仮面で隠し、全身にも茨を模したと思しき金属を施したドレス姿の女。

 常軌を逸した気配を放つ二人は、無数の化け物に襲われる街を他所に言葉を交わす。

 

「出て来るとも。無辜の民が惨殺される様を見過ごす事などできまいよ。アレはそういう英霊だ」

 

 確信を伴った言葉。

 それが意外だったのか、女は驚いた様子を見せた。

 

「随分と詳しいのですね。もしかして、ご友人かしら?」

「なに。以前、異なる地で共に戦ったことがあるというだけだ。今ここにある我が身とは、何ら関係の無い奇縁だよ」

 

 もともとあまり興味はなかったのか。

 女は男の答えに、そうですか、とだけ返して街に視線を下ろす。

 街では既に化け物達が住民に襲いかかっており、その刃を次々と突き立てている。

 未だサーヴァントが姿を見せる気配はないが、男の言を信じるならば直に出て来るだろう。

 その時こそ、その者の終わりだ、と女は笑みを見せ、

 

「--言っておきますが、くれぐれも手心など加えませぬよう。取り逃せば面倒ですから」

 

 思い出したように、男へ忠告を投げかけた。

 見知った相手と敵対した時、意図せぬ内に手を抜いてしまうというのは人間の心理として真っ当なものだ。

 故に、間違っても男が誤りなど起こさぬよう、女は釘を刺して--

 

「それは浅慮というものだぞ、“血の伯爵夫人”。我が異名、よもや忘れたとは言うまい」

 

 男の凄惨な笑みが、それより先を女に言わせなかった。

 全身を刺し貫く殺気。同じ陣営に属しながら、次の瞬間には血塗れにされているかのような錯覚。

 悪寒は止まず、否応無しに女の認識は改められた。

 

--知己であれ手を抜くな? 見誤っている。この男にその様な温情はない。

 

--取り逃せば厄介? 馬鹿な。そんな無様な醜態を晒すわけがない。

 

 投げかけた諫言のどれもが的を外している。

 何故なら、彼は--

 

「--そうでしたわね。貴方こそは串刺し公<カズィクル・ベイ>。彼のオスマン帝国を震撼せしめた、苛烈なるワラキアの王」

 

 告げられた言葉が、男の全てを物語っている。

 古今東西、カズィクル・ベイの異名を取るのはこの男のみであり。

 故に、その名は--

 

「どうやらあちらも動いたようだな」

 

 男の翳した腕に従い、二頭の黒竜が空より舞い降りた。

 騎馬ならぬ、騎竜ということか。

 街で起こる戦闘の空気を確かに感じ取った男は、その身を翻し竜の背に跨る。

 経験など皆無であろう竜の騎乗を易々とこなし、その顔に笑みを貼り付け。

 

「ゆくぞ。この槍を以って、抗う悉くを串刺そう」

 

--男の号令の下、黒竜がラ・シャリテへと羽ばたく。

 

 

 ◆

 

 

「っ・・・・・遅かったか!」

 

 路地裏から出て初めて視界に映り込んだ光景は、逃げ惑う人々と、その人達を襲う無数の骸骨。空からはワイバーンが手当たり次第に人間を喰らっていく。

 僅かに抗おうとする者もいるが、物量差と強力な竜種を前に手も足も出ない。

 

--地獄絵図。

 

 そう呼ぶに相応しい惨状が、眼前に繰り広げられている。

 

「ドクター、マシュ達に連絡して街の人の保護に向かわせてくれ! 俺がリヨンに向かうように誘導する!」

『今、二人に向かうように連絡した。だから君も--』

「い、いやぁ----ッ!!」

「っ・・・・・!」

 

 一際、大きな悲鳴が上がった。

 その方向を見れば幼い少女とその母親らしき女性が倒れている。

 恐らくは、地面に散乱する物で挫いたのだろうが、そのような格好の獲物を骸骨どもが見逃すはずもなく、既に二人の周りにワラワラと群がっている。

 数秒と経たず、彼女達は無残にも切り刻まれるだろう。

 

「これ以上、やらせるかよッ・・・・・!」

 

 僅かな逡巡もなく駆け出す。

 初速から一気にトップスピードへギアを叩き上げ、同時に懐から武器を抜き放つ。

 黒い銃身が露わになりずしりとした重量感が腕全体に伝わったる。

 

・・・・・敵数七、障害物なし、射撃時の反動は・・・・・!

 

 弾丸の威力と軌道を想定、並列して庇護対象に及びうる影響を確認。

 

・・・・・問題ない。この銃の性能であれば、想定通りに事を為せる。

 

 確信を持って標準を標的へと定め、銃爪を引き絞り、

 

「----散れ」

 

 銃口から発火炎<マズルフラッシュ>が漏れ出し、断続した発砲音が鳴り響く。

 頭部を狙って横薙ぎに放った弾丸は一本の線として骸骨を薙ぎ払い、連中を過たず穿った。

 

「怪我はありませんか--ッ!」

 

 敵の完全停止を確認し、女性と少女へ近づきと声をかける。

 対する彼女は恐怖で声が出ないのか、口をパクパクさせるだけで肝心の音が出てこない。

 それでも、首を縦に振りなんとか自身の無事を伝えてきた。

 少女の方も精神面を考慮しなければ目立った外傷はない。

 

「掴まって。他の人のところまで連れて行きます」

 

 まだ上手く立ち上がれない女性を支え、女の子を抱き上げ投影した布で自分に結びつける。

 そのまま街の外縁部を目指す。

 

「いったい、どれだけ入り込んだんだよっ」

 

 その間にも無数の骸骨やワイバーンが人々に襲いかかる

 人々はこの状況でどこに逃げればいいのかわからず、右往左往する者も珍しくない。

 

・・・・・誘導しようにも、俺一人じゃ全体を収められない・・・・・っ!

 

 そうしてる間にも敵が背後から迫っていて、それらの迎撃を余儀なくされる。

 二人を支えた状態では激しい動きもできず、当然動きも停滞する。

 

・・・・・どうにかして、リヨンに向かうよう伝播しないと。

 

 全てはそこだ。

 この混乱を沈静化させるには、人々を共通の目的で統一しなければならない。

 それも狂乱のままではなく、確かな理性を持った行動でなくては。

 果たして、それができるか--

 

「リヨンだ、全員リヨンに迎え! 俺たちの騎士様はリヨンにいるぞぉ!」

 

 唐突に、怒声が人々の間に響く。

 驚いて振り向くと、そこで声を張り上げるのは先ほどの露天商だった。

 

「なんであの人が・・・・・いや、そうか!」

 

 彼は件のサーヴァントがリヨンに向かったことを知っていた。

 それに加えて、一度目の襲撃を生き延びている。

 この二つの要素が、彼の冷静さを保ち最適な判断を下している。

 そして、彼だけではない。

 他にも骸骨と戦いながら声を張り上げる人々がいる。

 その瞳に決して負けぬと意思を乗せ、惑う人々を先導する。

 そして、騎士という言葉に希望を見出し、少しずつ人々が冷静さを取り戻していく。

 

「おい、そこのにいちゃん! あんたも無事だったか」

 

 これならば、あるいは。そう思っていた矢先に露天商の男がこちらに気付き声をかけてきた。

 なんとかして二人を他の人に預けたかったこちらとしては願っても無いことだ。

 本当にタイミングのいい人だ。

 

「俺は大丈夫です。それよりこの二人を外に連れて行ってください。彼女、どうやら足を挫いたみたいなんです」

「ちょっと待て。そりゃ構わねえが、あんたはどうする気だ?」

「俺は--」

 

 振り向き、迫っていた四体の骸骨を撃ち抜く。

 骸骨がその体を粉々にし、白粉を地に落とす。

 

「--俺は、こいつらを食い止めます」

 

 男に背を向け、銃を構える。

 混乱が収まりつつあるとはいえ、必ずどこかに遅れが生じる。

 そうなれば、連中は容易く人々に追い付くだろう。

 だからこそ俺が敵を引き付け、街の人が逃げ出すのに十分な時間を稼ぐ。

 

「・・・・・分かった。二人は俺が責任を持って連れてってやる」

 

 彼は、それ以上何かを言うことはなかった。

 本当は聞きたいことなどいくらでもあるだろうに、それを無視して頼みを聞いてくれた。

 

・・・・・ありがたい。

 

 この街で最初に出会ったのが彼で良かった。

 彼のお陰で、こうして動くことができる。

 自分自身、運は無い方だと思っているが、人との巡り合わせだけはこの上ないほど恵まれている。

 

「ご無事で--っ!」

 

 声に振り返れば、女性が男の肩に掴まりながら、こちらを心配そうな目で見つめていた。

 少女も声こそないものの、不安そうにしている。

 

「----」

 

 だからこそ、彼女達に笑みを見せる。

 大丈夫だ、と。

 彼女達が立ち止まらずにいられるように。

 それを見てどう思ったか、一度だけ頭を下げて三人は今度こそリヨンに向かった。

 

「--さて」

 

 避難する人々を背に、無数の敵に向き直る。

 既に前方には無数の骸骨とワイバーンが集っており、こちらを排除すべき対象として殺意をみなぎらせている。

 

「傀儡や獣に明確な意思があるとは思えん。おそらく、指示を出している者がいるな」

 

 散発的に襲うのではなく戦力を集中させた上で蹂躙する。

 とても自我なき人形の所業とは思えない。

 思えば、ヴォークルールの時もそうだった。

 統制された兵士の如き行軍。隊列を組みこちらを襲ってきた。

 駒は駒でも、頭がいればそれなりの動きはするということか。

 

「構わん。なんであれ、人々を殺戮せんというのなら--来い。貴様らの牙、その悉くを打ち砕こう!」

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️------ッ!!!!」

 

 

 開戦の合図などなく。

 無数の怪物が一斉に咆哮し迫り来る。

 

「同調開始<トレース・オン>」

 

 弾丸をばら撒くと同時に魔力を流す。

 もともと特殊な加工がなされた銃弾がさらに威力を上げ、一体の敵を穿つに留まらず貫通して後方の骸骨を砕いていく。

 その間にも弾丸は放たれ、骸骨の数を着実に減らしていく。

 

--その銃に、明確な名称はない。

 

 武器庫管理人、ランディ・スミスが士郎の要望に応えるべく製作したソレは、異色極まる代物だった。

 米国の銃器メイカー、コルト・ファイヤーアームズによって製造されたM4カービンをベースとし、弾倉には100連装サドル型ドラムマガジンを採用。これにより高い継戦能力という要望はクリアした。

 だが、問題は銃本体にあった。

 士郎が求めたのは取り回しのいいマシンピストルの様な銃。M4は所謂アサルトライフルに分類される銃器だが、士郎の望みとは合致しない。

 だが驚いた事に、ランディはM4のストックを取り外し銃身を切り詰め極端に短くする事で、強引にマシンピストル並みの全長に縮小したのだった。

 さらにはランディのアイディアにより銃口下部にナイフを取り付け、近距離戦にも対応可能となった。

 結果、生まれたのがこの銃。

 アサルトライフルでありながら拳銃並みのハンドリングを実現した、士郎専用の突撃銃である。

 

・・・・・排出率問題無し、残弾40、再装填<リロード>に要する時間はおよそ二秒。

 

 現状、戦況はこちらに有利。

 何者かの命令があるとはいえ、アレらの骸骨兵では細かな行動はできない。

 強大な敵が在るとすれば、そちらに向かうしかないし、指揮官もそう入力している筈だ。

 こちらの目的は市民の退避完了、連中がこちらに向き続ける以上、勝利条件は満たしているも同然だ。

 問題があるとすれば、それは、

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️------ッ!!!!」

 

 咆哮に反応し、咄嗟にその場を飛び退く。

 一瞬遅れて、さっきまでいた場所にワイバーンが降り立つ。

 凄まじきはその脚部。

 煉瓦の地面をただ踏みつけただけで砕く脚力。

 一撃を受ければそこで終わりだ。おまけに、

 

「----チ」

 

 舌打ち、屈んだ直後、頭上を複数の火球が通り過ぎる。

 標的を外した火球が、背後の瓦礫を吹き飛ばし爆ぜる気配を背に感じる。

 

・・・・・これだ。近距離だけでなく遠距離攻撃も備えてる。

 

 攻撃自体は直線的かつ単調なため、回避するのはさして難しくはない。

 だが一度に複数、それも他の敵を捌きながらとなると、些か苦しいものがある。

 火球の威力も無視できない。それ自体が高熱の塊だ、擦れば身を焼かれるのは明白だ。

 骸骨に比べ数が少ないのが唯一の救いだが・・・・・

 

「やはり抜けんか」

 

 最も厄介なのは、その堅牢な甲殻だろう。

 魔力強化を施した5.56mm弾を受け付けないのは、さすがの竜種といったところか。

 もっとも、これはこちらにも問題がある。

 M4に独自カスタムを施したこの突撃銃だが、本来ある銃身を無理やり切り詰めたため、弾丸に十分な加速と回転を加えられていない。

 その結果、弾丸は真っ直ぐ飛ばず横方向に回転しながら放出されるため、威力が原型のそれより落ちている。

 ワイバーンの外殻を貫通するには、さらに強力な攻撃でなければならない。

 

「となれば、こちらか」

 

 空いた左手に、新たな銃を握りこむ。

 独特なフォルムと白銀の銃身に刻印されたRAGING BULL (猛牛)の一字。

 トーラス・レイジングブル model 500。

 ブラジルはトーラスによって開発された大型リボルバー、その最大モデル。

 使用弾薬は.500S&W。マグナム弾としては最大級の弾丸だ。

 その高い破壊力に伴い反動が大きく扱いの難しい代物だが、魔術使いである俺にはその制約は無視できるものだ。

 そして、これらにもまたM4と同様の魔術加工が施してある。

 如何な竜種といえど受ければ無傷では済まない。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️------ッ!!!!」

 

 そんな思考など気にも留めず、ワイバーンが再び突撃してくる。

 正面からの低空飛行による突貫。

 こちらの攻撃は驚異に値しない、と考えたのか。

 回避することを初めから捨てきった大質量の暴力だ。

 しかし、その浅慮さこそ命取りだ。

 

「----穿て」

 

 どん、と轟音が銃口より吐き出される。

 眼球より侵入した弾丸は脳髄を蹂躙し、過たずワイバーンの命を奪った。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️------ッ!!!!」

 

 再度の咆哮。

 死した味方など意に介さず、さらに敵が押し寄せる。

 時に火炎、時に爪牙、時に白色の波となって。

 骸骨兵とワイバーン、様々な威力と性質を持った攻撃が絶え間なく続く。

 その全てを躱し、受け流し、反撃に繋げていく。

 そんな攻防をどれほど続けたか。

 敵はその数を大幅に減らし、襲撃時の三分の一にまでなっていた。

 

・・・・・大体、十分ぐらいか。

 

 太陽の傾き具合から、経過時間に当たりをつける。

 既に住民はこの街を抜け出したらしく、俺と目の前の連中以外には他の気配を感じられない。

 時間を考えれば、マシュ達が先頭集団に合流してもおかしくない頃合いだが--

 

「なんだ?」

 

 それは、唐突に起こった。

 さっきまであれほど苛烈に攻め立てていた敵が、その動きを止めたのだ。よもや魔力切れというわけでもないだろう。

 あり得ざる現象に、こちらも思わず動きを止める。

 いったい何故、この局面で止まったのか。

 その答えは、すぐに目の前で披露された。

 

「退いていく・・・・・?」

 

 撤退した。

 生きる全てを侵さんとする異形の軍勢が、一斉に街を離れていった。

 連中の判断ではない。間違い無く、あれらを操る指揮官によるものだろう。

 これ以上は無駄と判断したのか、或いは別所でさらに戦力が必要となったのか。

 その是非を判断する術を持たない身では、ただ事実を受け止めるしかない。

 

「消耗を抑えられる、っていう意味なら好都合だけどな」

 

 戦闘時間、約二十分。相対した敵戦力、三百以上。

 消費した弾薬は決して少なくはない。空間を歪めた特殊な袋に包んでいるとはいえ、その総量にも限度がある。

 物資は使えば使うだけ数は減っていき、補充にもいくつかの制限がある。

 住民を逃がしきった俺からすればあれ以上は無駄な戦いだったため、退いてくれたのは嬉しい誤算だ。

 

「とにかく、俺もマシュ達に合流しなきゃな」

 

 街の人たちの安否も気になる。

 敵は全て惹きつけたと思うが、取り零しが無かったとは言い切れない。

 彼女達であれば間に合うとは思うが、あの混乱であれば負傷者も少なくないだろう。

 全員をリヨンにまで連れて行くには、人では一人でも多い方がいい。

 まずはドクターに連絡を取って、状況を把握しよう。

 

『士郎くん、また終わってない!』

「ドクター?」

 

 今まさに通信を開こうとした直前、先じて相手から連絡が送られてきた。

 その表情は先ほどより切迫していて--

 

「戦場での気の緩みは死に繋がる--その程度は心得ていそうなものだがな」

「っ----!?」

 

 ドクターの発言から、まだ敵がいるのかと思案した瞬間。

 足元から迫る無数の魔力に気づき、回避に全神経を傾ける。

 

「ぐっ--!?」

 

 だが僅かに遅く、躱しきれなかった魔力の一筋が、腰部を傷つける。

 聖骸布が斬り裂かれ、血が滴り落ちるのを感じる。

 

「アレは----」

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 問題は、自分を襲ったモノの正体。

 

--それは、杭だった。

 

 大地より突き出た幾本もの切っ先。古くは、犯罪者を罰する手法の一つとして、多くの人々に恐れられた。

 しかしその杭は決して、真っ当な常識の範疇に収まるものではない。

 恐るべきことに、それらの杭は一本一本が神秘を纏っている。

 個別に見れば大したものではないが、総合すれば一級の魔術礼装であるマグダラの聖骸布すら凌駕している。

 単なる概念武装ではない。これはただの魔術師に生み出せる代物ではない。

 これほどの神秘を纏った現象、その本質を俺は知っている。

 人々の幻想を骨子として組み上げられた武装。

 それは科学ではなく、技術ではなく、“概念”という在り方。即ち--

 

「余の“宝具”を凌ぐか。流石に、あの軍勢を退けただけはある」

 

 戦場に、男の声が響く。

 感心し、こちらを讃えるような言葉。

 ともすれば穏やかとも取れるそれは--されど、明瞭な“王”の風格を湛えている。

 

・・・・・一人--いや、もう一人いるか。

 

 体勢を整え、声の方向に視線を向ければ、一組の男女がこちらへと向かっている

 両者共に尋常ならざる気配を漂わせており、付け加えれば、男の方はアロワさんの部隊を壊滅させた者の特徴に合致している。

 先の攻撃を男が放った物だとすれば、彼らの正体は明白。

 かつて在りし英雄が昇華された存在。

 世界の守護者たる英霊の写し身--サーヴァント。

 

「背を向け疲弊した者に槍を向けるのがそちらの流儀かね? 誇りある英雄の振る舞いとは、到底思えんな」

 

 いま一度敵に向き直り、意識を変革させる。

 これより刃を交えるのは、先ほどまでの雑兵とは比較にならない強敵。

 初撃を躱せたのは、攻撃した本人が手を抜いていたからに他ならない。

 僅かでも隙を見せれば、その瞬間にこの身は串刺されている。

 故に、この戦いの第一歩は相手に付け入る余分を見せないことにある

 

「--ク。我らが何者かを知ってなお挑発を投げかける気概があるとは。--或いは、理解するが故か」

「----」

 

 しかし、敵はこちらの思考を過たず見抜いてきた。

 一言、言葉を受けただけ。たったそれだけのことで、胸中を暴かれたようだ。

 先の挑発もまるで気にも留めていない。あの程度はそよ風も同然ということか。

 

・・・・・流石に、一筋縄ではいかないか。

 

 相対するのは二騎のサーヴァント。

 疲弊した現状では、勝利するのは厳しい難敵だ。

 特に男の方が問題だ。

 先の攻撃を彼の宝具と仮定するならば、その真名は間違いなく“あの英雄”。

 

・・・・・どうする。

 

 双方の優劣は明らか。

 数の差に加えて、あちらは万全の状態だ。

 叶うものならば、撤退したいところだが・・・・・

 

・・・・・果たして、逃してくれるか。

 

 引き離してしまえば、姿隠しの宝具で逃げ切れる。

 しかし、それを許すほど彼らも甘くはないだろう。

 なんとか隙を作り出せば可能だが--

 

「そう気を張るな。この状況は我らとしても予想外のものなのだ。なにせこちらは“ライダー”を討ちに来たというのに、蓋を開けてみれば魔術師が単騎でこちらの軍勢を相手取っている。余の方も困惑するというものだろう」

 

 今の所、相手は敵意を見せていない。

 男は変わらず鋭くも穏やかに語りかけてくる。

 女の方は興味なさげに一歩引いている。

 撤退する機会があるとすれば、おそらくはここだけだろう。

 故に俺は、なんとか絶対の間隙を生み出す必要がある。

 そのためにも、まずは相手の言葉に応じる。

 

「生憎と、君達の探すサーヴァントはこの街にはいない。今朝早くに、この街を出て行ったそうだ」

「ほう。それは初耳だ。なるほど、それでは“ライダー”が出て来るはずもない。初めから居ないのだから当然ではあるが・・・・・まったく、これでは無駄骨もいいところだ」

 

 やれやれ、といった風体で男が嘆息する。

 目当ての人物はおらず、全く別の存在に軍の三分の一も削られたとあれば、無理からぬことか。

 そのまま退いてくれれば良かったのだが、彼らはこの場に残るという選択をした。

 あまつさえ、俺を試すように攻撃を仕掛け、今はこうして言葉を交わしている。

 相手の目的がまるで見えてこない。

 

「・・・・・何故、俺に興味を」

「--はて。余は単に、我が軍勢を退けた者を仕留めに来ただけだが?」

「その割には敵意が薄いように感じるが? 完全な奇襲に成功しておきながら手加減したのがいい証拠だろう」

「--フ。いや失礼。そちらががあまりにも身構えるのでな、つい遊びたくなった」

 

 どこまで本気かもわからない事をのたまう。

 こちらの反応を楽しんでいる、というのも事実だろうが、俺が言葉を違えればその瞬間に戦闘に入ると予測できるだけの気配は感じられる。

 

「さて。余が何故、お前に興味を持ったかだったか。簡単なことだ。何の得にもならない人助けに奔走する魔術師が、いったいどんな人間なのか知りたくなったのだよ」

 

 こともなげに告げられた真意は、あまりにも拍子抜けするものだった。

 いや、魔術師が人助けをするというのが如何にあり得ざる例外かは語るまでもないことだが。

 わざわざ、そんなことを確かめに--?

 

「無論、それだけではないよ。お前には一つ、聞きたいことがある。しかし、その前に個人的な興味を満たしたいと思ったのだが、どうかね?

 

 俺の人間性はおまけ。

 この接触は、あくまでもう一方を確かめるため、ということか。

 だが、望む答えを得られねば、彼はこちらを敵とみなすだろう。

 できれば穏便に済ませたい身としては、質問などいくらでも答える。

 

「別に理由などない。ただ、目の前で死んでいく命を見過ごせなかった。それだけのことだ」

「--なるほど。ただ救うために、か」

 

 答えを受けた男は数瞬、神妙な顔を見せこちらの眼を見据えてきた。

 だが、それも僅かなこと。

 すぐに元の笑みを浮かべていた。

 

「お前の人柄はよく分かった。よもやただの善意で他者を救う魔術師がいて、それがサーヴァントを欠いた街に現れるとはな。まったく--これだから運命とは悪戯好きだ」

「--本命はそちらではないのだろう。さっさと要件を言ったらどうだ」

 

 くつくつ、と笑う男の真意は分からないが、言葉を繋ぐ。

 次の問いがこの場に残った真の目的とするならば、その回答を得れば彼らはここを離れるだろう。

 こちらへの戦意がないのなら、戦いに発展することもないはずだ。

 故に、速やかに問いに答えマシュ達に合流する必要がある。

 だから俺は、男に先を促し--

 

「いや。そちらはもういい。もう望む答えは得たのでね」

「なに・・・・・?」

 

 予想に反して、男は最も重要であろう問いを取り下げた。

 

・・・・・なんだ・・・・・?

 

 理解できない。

 何故、急に予定を変更した。

 彼らにとって、それは重要な目的のはずだ。

 その証拠に先ほどまで黙り込んでいた女が驚いた表情を見せている。

 男の選択が予定外のものであることは明らかだ。

 

・・・・・嫌な予感がする。

 

 いきなり変わった男の態度に不穏なものを感じる。

 じとりとした嫌な汗が浮かび、粘ついた悪寒が全身に絡みつく

 このままではいけない、と。

 今すぐここを離れて、マシュ達と合流しろと、体のどこかで警鐘がなっている。

 だが、そんな俺を嘲笑うかのように、男は言葉を重ねていく。

 

「お前には“ライダー”の行方を聞きたかったのだが、そちらの反応と近くにリヨンがあることを踏まえれば、答えは自ずと出てくる」

「っ----!」

 

 男の言葉に、苦虫を噛み潰したような心持ちになる。

 初めから、予測はしていた。

 この場に残り、わざわざ面倒な問答を持ちかけた理由は、彼らの目的を考えれば容易に思い至った。

 だからこそサーヴァントに関して聞かれた時も話を濁し、彼らとリヨンを結ぶ直線上に立った。

 

・・・・・まさか、それが仇になるとはっ・・・・・!

 

 考えるべきだった。

 相手は一度言葉を交えただけで、こちらの思考を見抜いてきた男だ。

 どれだけ自然な風体を装っても、欠片でも違和があれば見逃すはずがない。

 目標の位置を知った彼らは、俺を無視してリヨンに向かうだろう。そして二人共をこの場に釘付けにすることはできず、彼らが離れてしまえばリヨンにいるサーヴァントが勝利することを祈るしかない。

 救いようのない失態、己の不甲斐なさに歯噛みするしか他なく--

 

・・・・・違う。それだけじゃない。

 

 いまだ、違和感が残ることに疑問を感じた。

 敵の狙いは分かった。

 彼らが目標の位置を知ったことも理解できた。

 だが、それならば何故--何故、まだこの場に留まっているのか。

 ここでの目的は既に達成したのではないか。

 もはや、俺は用済みではないのか。

 当初の狙いを捨ててまで、この場所にいる意味が、まだあるというのか。

 焦りを抑え、思考を巡らせる。

 竜の魔女。サーヴァント。ワイバーンの群れ。避難した人々。奴らの目的は。

 

 異形の軍勢はあらゆるフランスの人々を襲っている。

 

「っ--!? まさかラ・シャリテの人々を・・・・・!」

「マスターからの命令でな。フランスに生きる者すべてを殺戮せねばならん。この街の住人だけを見逃す道理はあるまいよ。--いずれ、別働隊が彼らを喰らい尽くす」

「貴様--ッ!」

 

 最悪の展開だ。

 なんの護りもない人間がワイバーンに襲われればどうなるかなど、火を見るより明らかだ。

 遅れてマシュ達も到達しているのだろうが、あの数の住人を守りきるのは至難の業だ。

 一刻も早く駆けつけ加勢する必要がある。だが--

 

「無論。“貴様”をむざむざ逃す義理も、我々にはない」

「っ・・・・・!?」

 

 男が腕を振り翳し、それに伴い先の攻撃と同様の魔力が背後で隆起する。

 男から目を逸らせば、その瞬間に刺し貫かれていると分かりきっているため振り返ることはできない。

 だが、確認するまでもなく、背後にはあの杭が展開されているのだろう--俺の退路を、断つために。

 

「名乗りをあげるとしよう。余は竜の魔女に仕えしサーヴァントが一騎。バーサーク・ランサー」

 

 俺に、或いはフランスという国に告げるように。

 威厳に満ちた声で、男が名乗りをあげる。

 

「さあ、侵略の時だ! 人々を守らんとする魔術師よ。その矮小な力を以って見事、我が“杭”より逃れて見せるがいい!」

 

 開戦の合図は高らかに。

 男が踏み込むと同時、無数の“杭”が顕れた。

 

 

 ◆

 

 

 初撃は男--ランサーによる槍の袈裟斬り。

 対する士郎は、攻撃の対処法として回避を選択。斬撃を正面から受けることはせず、バックステップでその場を退避する。

 その工程で、ランサーへの銃撃も忘れない。決して高密度の神秘を纏うわけではないが、魔力が通っている以上、サーヴァントにも十分に通用する。

 急所に当たれば、如何なランサーといえど致命は免れない--もっとも、当たれば、の話だが。

 

「----壁よ」

 

 主の命を受け、無数の“杭”が銃弾を遮る壁となって顕れる。

 衝突した弾丸は“杭”と相打つ形で砕け散っていく。

 

「--なるほど。小物にしては悪くない威力だ。この程度では拮抗すると」

 

 ランサーは壁となる杭を目前に展開し、放たれる攻撃を冷静に分析する。

 士郎が主武装とする武器、それはランサーが生きた時代には存在しなかったものだが、記録として情報は知っている。

 銃と呼ばれる、火薬を用いて鉛の弾を吐き出す武器。かつてあった大砲のような武器を個人が携帯できる規模まで縮小したもの、それが彼の銃に対する認識だ。

 だが、目前の魔術師が扱う物は通常の物ではない。魔力が通り、自身の杭を破壊された事実から、サーヴァントにとっても脅威足り得ると判断した。

 

「しかし、どうであろうな」

「ッ----!?」

 

 ランサーの呟きに呼応するが如く、新たな杭が士郎の進行方向に生み出される。

 遠・中距離の得物が不得手とするのは、言うまでもなく近距離戦だ。

 絶え間無く銃撃を続ける士郎に、突然顕れた杭の群れを銃で対処することはできない。

 もはや回避できない距離、無数の杭は波濤となって士郎を串刺さんと襲いかかる。

 

「----ほう」

 

 ザン、という音が鳴り、次いで展開された杭がバラバラと崩れ落ちる。

 ランサーはその結末を齎した存在を見やる。

 そこにあったのは、銀色の刃。銃工下部に取り付けられた魔力強化済みのナイフだ。

 

「予め魔力を通し、自身の魔力を浪費せず、その上で遠近ともに一つの武器で両立させるか。--実に効率のいい、対魔の兵装だ」

 

 驚きはランサーのもの。

 いかに実力を備えているとはいえ、所詮は魔術師だ。一合保てば大金星。

 それがランサーが下した士郎の戦力評価。

 だが、その予測を覆して敵は今なお、冷静にこちらへの戦意を滾らせている。

 英霊を相手取って生存する姿とその武具は、称賛を送るに相応しい奮闘であり、

 

「--侮られたものだ。英霊<われわれ>はその程度で降せる存在かね?」

「ッ----!?」

 

 士郎が驚愕に目を見開く。

 杭と拮抗していた銃弾が、ここに来て一方的に砕かれてしまった。

 その強度、先の杭とは一線を画している。

 それだけではない。今まで一方向でしか現出しなかった杭が、士郎を包囲する形で一斉に迫って来るのだ。

 

「くっ----!」

 

 咄嗟の判断で士郎は、空への退避を選択。

 杭が地中より顕れるというなら、その脅威は空にまでは及ばないはず。

 上空への退避により、その攻撃は不発に終わる。

 

--そのはずだった。

 

「なっ--!?」

 

 宙に舞う士郎が見たのは、自身に迫る無数の“杭”。

 地表どころか地上10mまで伸長し、己が敵に喰らい付かんとする切っ先だ。

 当初の予測は外れ、回避の儘ならぬ状態で無防備な姿を晒すこととなった。

 

「生憎、我が宝具は宙にも及ぶ」

「っ----!」

 

 身動きの取れない空中で、銃剣を振るい杭を払い除ける。たとえ破壊できずとも、その狙いをそらすことは可能だ。

 さらに激突の衝撃を利用し大地に向けて加速を行う。

 杭が空にまで届くと分かった以上、長く留まるのは危険だ。

 新たに襲い来る追撃を紙一重で凌ぎ、なんとか大地に降り立つ。

 

「あの状態でよくも動くものだ。--だが、いつまで耐えられるかな?」

 

 ランサーの言う通り、地に足をつけたところで大勢に変わりはない。

 杭の総数は未知数であり、その勢いが衰えることはない。

 凌げば凌ぐほど、杭の質も量も上がっていく。

 戦いは、ランサーが一方的に攻める形となった。

 攻撃が許されたのは、最初の一手のみ。際限なく現出する杭の対処で士郎は手一杯だ。

 対してランサーはまだ余力を残している。限界はまだまだ先だ。

 ランサーが攻め、士郎が防ぐ。これはその繰り返しだ。

 苛烈極まるランサーの攻めに、士郎は反撃に移れない。

 この時点で、どうしようもなく士郎の敗北は決まっている。

 しかし--

 

・・・・・妙だな・・・・・。

 

 ランサーは違和感に気づいた。

 この戦い、既に勝敗は見えている。

 敵が凌ぐ度に杭の展開数、展開速度は上がっている。

 現段階でギリギリの対処をする魔術師に、次の攻勢は耐えられない。

 がん。

 耐えられない、はずだというのに。

 がん。がん。がん。

 防いでいる。対処はギリギリで、余裕なんてものは欠片もない。

 防げないはずの杭を、幾度も乗り切る。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 ランサーは杭の規模を二段飛ばしで上げた。

 士郎の周囲をびっしりと埋め尽くすソレは、もはや剣山の如し様相だ。

 今の戦い方では、絶対に耐えられない。

 そんなランサーの思考は、迫る杭の悉くを払う士郎の姿に真っ向から否定される。

 

・・・・・何故、防げる・・・・・?

 

 加減をしているわけではない。

 戦場に立った彼に、そのような余分はない。

 冷静に正確無比に敵の能力を分析し、確実に勝利できるだけの杭を展開している。

 だというのに、ランサーは未だ、己が敵を串刺せずにいる。

 いったい、何故。

 その疑問が、一瞬の隙を生んだ。

 

「はぁ--!!」

「っ----!?」

 

 無数の杭、その群れの僅かな間隙を縫って、士郎がランサーに肉薄する。

 自身を切り裂かんとする刃を、ランサーはギリギリのところで槍を手元に戻し防いだ。

 追撃を防ぐため、ランサーはその場を後退する。

 士郎からの追撃はない。

 腕をだらりと下げたまま、不動。

 あれだけの攻防を経ておきながら、息一つ荒げていない。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 事ここに至りランサーの違和感は確信に変わった。

 偶然などではない。

 目の前の敵は確かに己が宝具を凌いだ。

 己を遥かに上回る格上を相手にして、“霊長最強”の存在であるサーヴァントと相対して、事もあろうにこの魔術師は対等の戦いを繰り広げている。

 

「所詮は魔術師風情と思ったのだがな--なるほど。どうやら侮りが過ぎたようだ」

 

 小さく息を漏らすランサー。

 愚かしい、と。敵の力量を見誤った己を嘆くように。

 しかし、それも無理からぬことだろう。

 サーヴァントである彼に対し、目の前に立つ少年は魔術師であり、ただの人間でしかない。

 魔性の血を引く訳でも、人外に成り果てるでもない。

 そのような存在を敵と認識することなど、サーヴァントにとってはあり得ざることだろう。

 両者の間には明確な強弱があり、実力の差は覆しようがない。

 それは絶対的な事実であり、双方が理解していることだ。

 これが他のサーヴァントであれば健闘する敵を讃えながら、次の瞬間には加減したままその命を刈り取っていただろう。

 彼らにとって現代の魔術師など、路傍の石に等しいのだから。

 

「--度し難い。こうまで醜く腐り果てたか」

 

 だがランサーは、それを由とはしなかった。

 敵対者には憤怒の刃を以って徹底的に殺し尽くし、恐怖に陥れた。

 敵にかける情けも慈悲もない。ただ無情にその身を血に濡らしてきた。

 そんな悪魔<ドラクル>の如き殺戮者が、いまさら、手加減を?

 あり得ない。そんな怠惰、あってはならない。

 そんな余分を本来、ランサーという英霊は持ち合わせていない。

 初めから彼に備わったものでないとすれば、それは--

 

「あの魔女めに付与された特性故か。或いは--余がこちら”側に居るからか」

 

 周囲を軋ませるような怒りが込められた、ランサーの皮肉げな笑い声。

 その真意が、士郎には分からない。

 相対してからほんの数分では、目の前のサーヴァントの全てを悟ることはできない。

 

「--謝罪しよう。少し、手を抜いていた」

 

 一つだけわかるのは、並々ならぬ闘志を灯したランサーの瞳であり--

 

「故に、その肢体--今度こそ串刺そう」

 

 宣誓は穏やかに。凍てつく殺意を伴って告げられた。

 先とは一線を画すランサーの気配--それが何を意味するかなど、分かりきっている。

 ランサーは今度こそ士郎を敵と見定め、全霊を以って殺しにかかる。

 もはや士郎に、撤退の二文字は消え去った。

 サーヴァント中、最速のクラスに収まるランサーが全力で殺しに来るというのなら、背を見せ逃げることは不可能だ。

 選べる策は、徹底抗戦のみ。

 衛宮士郎が生還するには、正面から目の前のサーヴァントを打ち破るほかない。

 故に、両者の戦いは、これより真の始まりを告げる。

 ランサーはその宝具を全力で解放し、士郎もまた自身の本来の戦い--“剣製”を以ってそれを凌駕する。

 まだ見ぬ敵の本領を、己が全てを投じ犯し尽くす。

 再び激闘が始まろうとする中、違いに一秒先の衝突に備えて--

 

「ねえ、ランサー。サーヴァントも相手にせず、魔術師一人にいつまで時間をかける気ですか?」

 

 

--女の声が、戦場を停止させた。

 

 

 ◆

 

 

 その声は空から降り注がれた。

 互いに気勢を削がれ、声の主を見やる。

 白色の短髪に燻んだ金の瞳、黒の甲冑に身を包んだ女は、天上より戦場の全てを見下していた。

 汚らわしい、と。この世の全てを蔑むように。

 あるいは、彼女そのものが憎悪で形成されているかのような、熱を湛えた声だった。

 その顔を、俺は知っている。このフランスに生きる多くの人間が、彼女という存在を記憶している。

 オルレアンの乙女。救国の英雄。

 誰よりも荒廃する祖国を憂い多くを守りながら、誰からも救われなかった非業の聖女。

 黒色のジャンヌ・ダルクこそが、今まさに嘲笑を投げかけた者の正体だった。

 

・・・・・なるほど。これが竜の魔女か。

 

 現れた黒いジャンヌを見て再度、その異名に得心した。

 ジャンヌと変わらぬ容姿も、身に纏う気配も地獄から蘇った魔女と呼ぶに相応しいものだろう。

 だが、俺が真に注目したのは、それらの要素ではない。

 初めから疑問があったのだ。彼女が何故、竜の魔女と呼ばれているのか。

 彼女は確かに、竜種たるワイバーンを操っているのだろう。

 だが、ワイバーンは少なくともこの時代の人間でも抵抗できる存在であり、真実脅威となったのはサーヴァント達だ。シャルル7世に仕えていたアロワもそのように語った。

 ならばこそ、彼女が真に従えているのはそちらの方だと言っていい。

 ワイバーンへの指示は他のサーヴァントも可能としているなら、彼女とワイバーンを結びつける要因は弱い。

 にもかかわらず、人々は彼女を竜の魔女と呼称した--その真意を、黒いジャンヌの足元に見る。

 街に影を落とす巨体。世界を闇で包み込んでしまいそうな夜の帳の如き翼。

 ただ一息で膨大な魔力を生成するその生命はまさしくドラゴンの名に相応しく--彼女が従えるあの巨竜こそ、竜の魔女と呼ばれる所以だ。

 

「まったく。いつまで経っても戦果を上げないから様子を見に来てみれば、そんなちっぽけな虫ケラを相手にはしゃいで。やはりあなたたちは遊びが過ぎるようですね」

「さて。その指摘は的を得ているが、そのように仕向けたのはマスターの意向ではなかったかね?」

「勘違いしているようですが、私はあなたの怪物としての側面を付与させただけで、獲物を前に舌舐めずりするような獣に作ったわけではありません。慢心や油断があるのなら、それは初めからあなたが持つもの。責任の所在する測れないようでは串刺し公の程度もたかがしれていますね」

「--よく回る舌だ。マスターでなければ貴様を何より先に殺していたところだぞ」

 

 言葉を交わす黒いジャンヌとランサーの様子は、マスターとサーヴァントの関係にありながら険悪だ。

 黒いジャンヌはランサーへの敬意など一切無く、ランサーも主への殺気をまるで隠そうとしない。

 そのように契約を結んだから、形だけは守っている。

 ほんの少し何かが食い違えば、それだけで簡単に破綻することだろう。

 

『うわぁ。味方同士で笑いながら殺意を向けるとか、どれだけギスギスした職場なんだ、あっちは。僕なら一日で胃が壊れそうだよ・・・・・』

「同感だな」

 

 殺伐としているどころではない。

 魔術師だって身内には基本的に甘いというのに。

 彼らは言葉を交わすこの瞬間も相手を殺す隙を伺い、実際に実行に移す一歩手前だ。

 まさに一触即発の状態がそれ以上悪化しないのは、ひとえにそれぞれに果たすべき目的があるからだろう。

 サーヴァントである以上、何らかの願いを持って現界しているはずだ。

 少なくともそれが成就するまでは互いに利用し尽くすべきだと、残った理性が断崖の手前で衝動を抑えている。

 きっと、ギリギリのところで同士討ちには発展しない。

 そうなってくれればと願っていた身としては、落胆せざるを得ない。

 

・・・・・ともかく、この状況を何とか切り抜かないと。

 

 今のところ、俺が置かれた状況は限りなく“詰み”に等しい。

 俺をただの魔術師と侮ることをやめ、街全体を射程に収めているであろうランサー。

 この街をただ一息で消し飛ばし、空を行く事を可能とする巨竜を使役する黒いジャンヌ。

 ランサーの背後で沈黙を保っていた女サーヴァントも、この状況では重い腰を上げるしか無いだろう。

 地上を上空も塞がれ、退路は今度こそ完全に途絶えた。

・・・・・とはいえ、方法が全く無いわけではない。

 古今東西、無数の時代の宝具・概念礼装を行使可能な俺であれば、微かながらに活路を開くことは出来るかもしれない。

 例えば、対軍級の宝具を放ち、敵がその対処は気を向ける間に姿隠しなりの宝具で身を潜めることも可能だ。

 だが、それもリスクが無い訳ではない。

 ランサーの宝具は、広範囲を同時攻撃可能な対軍宝具に類似するものであることは察しがつく。

 だが、それが果たして攻撃にのみ効果を発揮するのか、それとも他の特殊な効果があるのか。それらの詳細が知れるまで、迂闊な行動はできない。

 仮に攻撃範囲内に存在する者を感知するような能力があれば、その時こそ衛宮士郎はあの杭に穿たれているだろう。

 また、対軍宝具を真名解放する以上、魔力の大幅な消費は免れない。敵に追撃された時、まともな抵抗は出来そうもない。

 分の悪い賭けだ。リスクとリターンの収支がまるで合ってない。

 

・・・・・どうする・・・・・。

 

 選べる方法は少なく、どれも多大な危険を伴う。

 確実に生還できると言えるだけの手札が、今の俺には無い。

 無論、正面から全ての敵を打倒することも不可能に等しい。

 ・・・・・そこまで考えて、右手に宿った令呪に視線を落とす。

 マスターが有するサーヴァントへの命令権。

 これを用いマシュをこの場へ強制転移させる。

 彼女の位置をこの街とリヨンの中間付近と考えて、その距離なら俺の魔力を上乗せすれば不可能では無い。

 二人であれば、この状況から生還できる可能性も格段に上がる。

 或いは、敵の首魁を討ち取ることも視野に入ってくる。しかし--

 

「ドクター。あのジャンヌ・ダルクは聖杯を持っているか?」

『・・・・・いや。彼女からはその反応は感知できない』

「やっぱりか・・・・・」

 

 僅かに期待を抱いていたけど、そう思い通りにはならないようだ。

 先ほどの彼女の言動からして己の絶対性を信じて疑わないように感じたが、存外に用心深いようだ。

 戦いの場にわざわざ自身の心臓とも言える存在を持ち込む愚は犯さないということか。

 

「となると、やっぱり単独での突破しかないか」

 

 もともと、この遭遇は不慮のものだ。

 貴重な令呪を消費してまで無理に戦いを仕掛ける必要はない。

 そもそも、ラ・シャリテの人々の救助に向かっている彼女を呼び出せば、街の人々が更なる被害を被ることになる。

 それだけは、絶対に避けなくてはならない。

 故に、この場で俺が取れる方法に変わりはない。

 目の前の強大な敵達から追撃の意思を奪い、その上でマシュ達に合流する。それがこの場での絶対条件だ。

 いざとなれば、予め用意していた切り札、を・・・・・?

 

「----」

 

 視線。

 冷えた思考が、それまで気付かなかった異変を捉えさせる。

 出会ってからずっと罵り合っていた黒いジャンヌとランサーが、今はその口を閉ざしている。

 正しくは、黒いジャンヌが()()()()()()()()ランサーが渋々、停戦したようだった。

 その金の瞳は他のナニにでもなく、ただ俺にのみ注がれていた。

 

「--馬鹿みたいに真っ直ぐな眼。この状況でまだ勝利を諦めていない。そのくせ自分の命を全く省みてない。--吐き気がするわ。まるでどこかの聖女サマみたい」

 

 その声には。その瞳には。決して一言では表せない、饒舌に尽くしがたい感情が込められていた。

 俺に対する侮蔑のようにも思えるし、別の誰かに向けられた憎悪かもしれない。

 矮小な魔術師への嘲りとも取れるし、決して届かない領域への劣等感にも感じられた。

 分からない。

 彼女が何故、俺に向かってそんな意思を叩きつけてくるのか、皆目見当もつかない。

 分かるのは精々、そこに宿るものが決して友好的なものではなく--ドス黒いまでの殺意に染まりきっていることだろう。

 故に、その結論も必然。

 

「気が変わりました。ランサー、“アサシン”。この男はここで殺します。あなたたち二人も加勢しなさい」

「・・・・・マスターの命令でしたら仕方ないですわね。まるで気乗りしないけれど、せめて道化のように演じてもらいましょう」

「余は初めからそのつもりではあるが。・・・・・ふむ。あの少年に何か気になることでも?」

「--別に。ただ気に食わないだけ。他の連中と同じよ」

「フ、なるほど。では、そういうことにしておこう--さて、魔術師よ。聞いての通りだ。これより先は我ら全員が相手となる。先程は見事な健闘であったが、此度も同じように凌ぎきれるかな?」

 

 ランサーの試すような、期待するような言葉に俺が返せる言葉はない。

 いまだ彼らを突破するだけの確固とした道程は組み上がっていない。

 このまま戦えば、敗北は必至だ。けれど--

 

・・・・・諦めるわけには、いかない。

 

 ここで俺が死ねば、本当に全てが台無しになる。

 今までの歴史も、礎となった人々の想いも、多くの日常も。

 たとえここが、俺が生きていた世界ではなかったとしても。

 ここに生きる人々を無為に奪わせることは、させるわけにはいかない。

 

「--こちらのセリフだよ、ランサー。君の杭もそこの巨竜も、我が無限の剣が打ち砕こう」

 

 思考をフルスロットルに回転させ、活路を構築していく。

 絶体絶命の修羅場なぞ、数え切れないほどくぐっている。

 衛宮士郎の戦いとは、常に死と隣り合わせ。

 自身よりはるかに強大な敵と戦うなんて、日常茶飯事だ。

 

--この程度の死地、覆せずして何が正義の味方。

 

 決意を固く。

 全霊を以って、この局面に抗おう。

 

 

 ◆

 

 

 特異点における様々な情報。

 それらを観測・分析する管制室に駆け巡るそれらは現在、そのほとんどが戦闘に関するもので占められている。

 

「マスターエミヤ、敵性サーヴァントとの戦闘を再開! 撤退を諦め、巨竜達の足止めを行うようです!」

「マシュたちは!? まだ援護に行けないのか!」

「駄目です! 民間人の保護に手一杯で、応答不可!」

「保護が完了次第、すぐに繋いでくれ! いくら士郎くんでも、あれだけの敵を一人で相手にするのは無理だ!」

 

 互いに本領を発揮していなかったとはいえ、ランサー一騎に苦戦していた士郎に、傍に控えていたアサシンや巨竜を率いた黒いジャンヌ・ダルクに対応するのは不可能に等しい。

 戦うにしろ逃げるにしろ、他の誰かの手が必要だ。

 

・・・・・けど、たとえマシュ達が加わったとしても--

 

 難しいか、と表情にはおくびも出さず内心で不安を零した。

 一見して、敵の力は明らかだ。

 戦闘慣れし、攻防一体の杭を宝具とするランサー。神話に語られる幻想種とすら思われる竜を使役する黒いジャンヌ。アサシンも未だ宝具を見せていない。

 対するカルデアが現地に保有する戦力は衛宮士郎を除いて、マシュもジャンヌも共に完全な力を発揮できているとは言えない。

 彼女たちがこのまま援護に駆けつけたところで、果たして事態を覆せるか。

 

「どうする、ロマニ? このままだと遅かれ早かれ人類の滅亡が確定するけど?」

「分かってる。けど今のところ、僕らに切れるカードは無い。士郎くんが自力で切り抜けることを祈るしかないよ」

 

 壊滅寸前からたったの四日で主要機関を復旧させ、新たなマスターのバックアップ態勢を整え、可能な限り物資を揃えた。

 自分たちにできることはレイシフト実行までに全て済ませている。今更、カルデアから行える支援などあるはずもない。

 

「じゃあ、どうするんだ? これ以上手はないっていうなら本当に終わりだけど」

「・・・・・確かに、()()()()やれることは無い。けど、それなら他の方法を模索する」

 

 カルデアに策は無い。打てる手は全て出し尽くした。

 それでも、まだ出来ることはある。

 支援とは、何も直接的な介入を行うだけではない。

 現場では知り得ぬ情報、前線の者が持ち得ない視点から事態を俯瞰することも、後方支援の一つだ。

 

「そう言うと思って、使えそうなデータは纏めといた」

「・・・・・君には敵わないな」

 

 ロマニ・アーキマンという人間をよく理解しているからこそ、ダ・ヴィンチの行動は誰よりも迅速で正確に彼の思考に沿っていた。

 管制室に飛び交う様々な情報。

 玉石混淆のそれらから最適解をいち早く探り当て、新たな打開策を講ずる。

 現場を見守る誰もが驚愕し、焦燥する中、彼女はどこまでも冷静だった。

 或いは、窮地においても崩れない自我こそ、彼女が天才たる所以なのかもしれない。

 

「確かに。これならなんとかなる。けど・・・・・」

 

 提示されたデータを繋ぎ合わせ、一つの形に落とし込んだ結果、ある解答が完成した。

 それは確かに最善の策と言えるもので、今も戦い続けるマスターを生還させ、サーヴァントによる彼や一般人の追撃を封じることも可能だ。

 第三者の協力を取り付けなければならないが、この期に及んで拒むこともないだろう。

 故に、問題となるのは一つ。当事者である士郎の負担が大きすぎることだ。

 状況が整うまでは現状維持--つまり、士郎が三騎のサーヴァントを一人で相手取るのは避けようがない。

 

「一応聞いておくけど、他に案は?」

「そんなの、あるに決まってるだろ。わざわざ聞くことか?」

「だから、一応って言っただろ」

 

 あっけらかんと返される返答と知っていたと言わんばかりの応答。

 あまりにも当然のよう告げられた言葉は一つの真実だ。

 あくまで士郎の生還が困難であるのは、彼の背後にラ・シャリテやリヨンの人々がいることをも前提としている。

 それらを“切り捨てれば”いくらでも方法はある。

 

「けど、そういうのに意味は無い。そもそも、他人を見捨てて逃げ出せるような“まとも”な人間なら、はじめからあいつらを相手にしてないだろ」

「まあ、そうなるよね・・・・・」

 

 何が衛宮士郎をそうさせるのかは分からない。

 だが、彼が自分より他者の命に重きを置いているのは、既に知れていることだ。

 今更、他者を担保に生き延びろと言って聞き分けるはずもない。

 

「その場合、連中と街を守っていたサーヴァントがぶつかって期待していた戦力が失われる可能性もあるから、どのみち他は論外なんだけど」

 

 そうでなくとも無辜の民を見捨てた魔術師にサーヴァントが協力してくれるかは不明だ。

 後の事を考えれば、人々を守ることはマイナスではない。

 

「まあ、彼はそんな打算は考えてないだろうけど--」

「ドクター!マシュ達がワイバーンを撃退、市民の保護を完了しました!」

 

 新たに入った情報に、管制室が僅かに沸く。

 マシュ達の勝利によって、ようやく士郎へ援護が送れるようになった。

 これで後は、士郎に作戦の概要伝えられれば作戦を開始出来る。

 それまでどうか無事であってくれ、と祈りながらロマニは新たな指示を出した。

 

 

 ◆

 

 

 守る、という思考は最初の交差で捨てた。

 放たれる業火、街を埋め尽くす杭の津波、間隙を縫って襲いくる魔弾、その全てに対応するためには足を止めて亀になっているだけでは足りない。

 止まることなく走り続け、攻撃を行い、敵の連携を崩す。

 決して攻めの手を緩めないことが、最も有効な手段だと判断した。

 焼き尽くさんと追いすがる火炎を、行く手を阻む杭を盾にし、急所を狙った無数の魔弾を竜の咆哮に打ち消させる。

 一つ受ければそれだけで死に直結する波濤を紙一重で躱しきる。

 

・・・・・いけるか。

 

 望みはある。

 敵の攻撃と連携は、完璧ではない。

 理由は定かでは無いが、あの巨竜は本来の性能を出し切れていない。街一つ蒸発させる業火は、家屋一つを全焼させる程度の出力に留まっている。

 女サーヴァントの放つ攻撃も単調な魔力弾でしかない。

 唯一厄介なのはランサーが繰る杭だが、他の二人がタイミングも合わせずに無駄撃ちするから、結果的に味方同士で相殺させることも多々ある。

 ランサーがこちらの動きを読み、回避先を予測して杭を配置しても、連携を得意としない味方が悉く無駄にする。

 当初から感じていた予感が確信に変わる。

 単純な戦闘力はともかく、戦慣れしているのはランサーのみだ。

 多対一の戦闘において味方との連携不足は致命的だ。

 多数で少数を囲む以上、相互の立ち位置や行動を正確に把握しなければならない。無闇矢鱈に乱発しては同士討ちを誘発する恐れがある。

 さらにその性質上、数の上で優位に立っているという油断と慢心が否応無しに生まれる。相手が格下となればなおのことだろう。

 それらの隙を上手く突ければ、勝ちの目も見えてくるのだが--

 

・・・・・やはり、一筋縄ではいかんか。

 

 当初に比べ同士討ち一歩手前の相殺が減少している。

 おそらく、幾許の攻防で味方の癖を把握したランサーが調整を図ったのだろう。

 初めから連携を諦め、彼が他の二人に合わせることで欠落を埋めてきた。

 そう遠くない内に、こちらが反撃するだけの隙を無くしてしまうだろう。

 それまでにせめて一騎、敵を行動不能にしたい。

 それが出来なければ、今度こそ俺の敗北だ。衛宮士郎は敵の刃に貫かれ、無様に死体を晒す。

 それを防ぐには--

 

「っ--! 通信・・・・・!?」

 

 信じられないことに、このタイミングでカルデアから通信が送られてきた。

 こちらの状況はモニターしているだろうに、一体どういう了見だ。

 

「ぬぅっ--!」

 

 その一瞬の内に、五発の魔力弾が目の前に迫っていた。

 ギリギリで干将・莫耶を滑り込ませ、直撃だけはなんとか防ぐ。

 しかし衝撃までは殺しきれず体勢を崩された。

 想定していた行動を破棄、次ぐ一手を再構築する。

 息つく間すら無い現状で通信を開いている暇など微塵もない。

 

・・・・・けど・・・・・。

 

 敵の対処に専念する傍ら、その意味を思考する。

 彼らが何の考えも無しに通信を寄越したとは考えづらい。

 これが危険を承知した上での事というのなら。

 

・・・・・なんとか、身を隠さないと。

 

 一瞬でいい。

 連中の視界を塞ぎ、その間に通信を行う。

 おそらく、話していられる時間は一分にも満たないだろうが、それでなんとか要件を聞き取るしかない。

 その思考を実現するために、すぐさま行動する。

 

「装填完了<トリガー・オフ>。凍結解除<フリーズ・アウト>ッ!!」

 

 待機させていた設計図より新たに剣弾を展開。数にして15本。

 三つの敵にそれぞれ5本ずつ放つこれらは、宝具に及ばずともサーヴァントを屠るには十分な神秘と威力を誇る。故に--

 

「見くびったな、魔術師・・・・・!」

 

 当然のように、ランサーの杭に阻まれる。

 直線にしか進まない単調な攻撃は容易く絡め取られ、その勢いを減じた。

 初見の攻撃にも僅かな戸惑いもなく対処してきた。

 流石は三騎士の一角。その対応、まさに歴戦の戦士と呼ぶに相応しく--故にこそ、その行動は想定内。

 

「壊れた幻想<ブロークン・ファンタズム>」

「っ--!?」

 

 笑みを浮かべていたはずのランサーの表情が、その結果に驚愕へと変じる。

 彼の杭によって確かに動きを止められた無数の剣は、されど周囲を巻き込みながら爆炎を撒き散らした。

 投じた武器をすぐさま爆破させるとは流石に予想しなかったのか、巨竜に守られた黒いジャンヌを除き、ランサーも女サーヴァントもそれぞれに傷を負った。さらに--

 

「っ・・・・・! 目眩しか・・・・・!」

 

 剣や杭だけでなく、瓦礫など諸共に起こった爆発は、爆破による黒煙と巻き上げられた粉塵によってランサー達から確かに視界を奪っていた。否、視界だけでは無い。

 ぶつかり合い、砕け散った二つは、それぞれが内包する膨大な神秘と魔力を周囲に散布させた。

 魔力の感知も索敵法方の一つとして数えられるサーヴァントにとって、それは一種の撹乱機能<ジャミング>となり、こちらの魔力を見失わせることに成功した。

 

・・・・・これで連中の眼は封じた。あとは--

 

 敵から少し離れ物陰に移動し、一本の大剣を投影し待機させる。

 ランサーの宝具に索敵能力があった場合、地に足を付けているよりは、空中にいる方が感知される可能性は少ないだろう、と考えてのことだ。

 幅広の刀身に上がり、寄越される通信に応答する。

 

『ようやく繋がった!もしもし、士郎くん! 聞こえてるかい!』

 

 画面が開いた瞬間、切羽詰ったドクターの顔が映り込んできた。

 まあ、この状況では是非もないが、こちらも時間がないのさっさと落ち着いて本題に入って欲しい。

 

「聞こえてるよ、ドクター。こっちの状況は知ってるだろ。用があるなら、手短に頼む」

『う、すまない。少し取り乱した。それじゃあ要点だけ伝えるから、聞き漏らさないようによく聞いてくれ。実は--』

 

 話の内容はやはり、この状況を挽回するための策だった。

 上手くいけば、敵を振り切りながらも連中を退却させることも可能だ。

 

「--了解した。タイミングはそちらに任せる。一分前に合図を」

 

 簡潔に返答し、自身もまた準備に入る。

 提示された作戦で最も重要となるのは位置だ。

 俺に注意を引きつけた上で、敵を一箇所に集め可能な限り回避も防御もできない状態に誘導する。

 真っ当に戦えばまず不可能だが、立ち回り次第でどうとでもなる。

 しかし、厄介なのはやはり--

 

「とうに立ち去ったものと思っていたが、存外に自信家のようだな、魔術師よ」

「・・・・・っ!」

 

 前方に転がり込み、地中からの攻撃を躱す。

 だが攻勢は止まず飛び込んだ先に包み込む形で四方より杭が飛び出す。

 離脱は不可能と判断し迎撃する。

 両手の陰陽剣を手中で回転させその場で一転。

 干将・莫耶に個の神秘と強度で劣る杭は粉砕機に投げ込まれたように粉微塵と化した。

 だが、一瞬遅れて二発の魔力弾が迫っている。振り切った双剣では間に合わない。

 

「ふ--ッ!」

 

 故に、脚部と聖骸布に強化を施し一発の魔力弾を蹴り飛ばす。

 飛ばされた方向にはもう一発。敵の攻撃は外部からの進路変更によって相殺される。

 そのまま、予想もしていなかった一連の動作に戸惑うアサシンを狙いを定め--

 

「見事な立ち回りだ。だが、足を止めれば瞬く間に串刺しだぞ?」

 

 その穴を埋めるべく、杭が襲い来る。

 敵への攻撃を中断し、再び回避に移る。

 

・・・・・やはり、彼が最大の脅威だな。

 

 ランサーの攻撃には一切の溜めも間もない。

 彼が指揮を執り意思を伝達させる。

 たったそれだけの事で無数の杭が敵対者に突き立てられる刃として、凶刃を防ぐ盾として顕現する。

 まともに反撃することもできない。そんな事をしている内に杭は地中から顕れる。

 彼を倒すには純粋な力技で彼を凌駕するか、彼の射程外から強力無比な一撃を叩き込む他ない。

 

「うろちょろうろちょろと鬱陶しいっ。いい加減、目障りよ--ッ!!」

 

 苛立つ声は上空から。

 黒いジャンヌの指示を受け巨竜が息<ブレス>を吐き出してきた。

 街の一角を焼き払うほどの広範囲に広がる業火を、杭に追われる途中で躱せるはずがない。

 故に判断は一瞬。

 手にする双剣を炎に向けて投擲。二対の刃はクルクルと回転しながら炎に飲み込まれ、

 

「壊れた幻想<ブロークン・ファンタズム>--ッ!!」

 

 その只中で内包する神秘と魔力をまき散らした。

 炎は内側で起こった爆発によって押し広げられ、周囲に拡散する。

 

「ぐっ--!」

 

 とはいえ完全に相殺できたわけではない。

 散らしきれなかった炎が表皮をチリチリと焼き付け、爆風に全身が煽られる。

 

「が、ぁ--!?」

 

 鋭い痛みが走る。次いで吐血。

 飛ばされた体は止まったものの、方向が悪かったようだ。

 瓦礫に打ち付けられた背中は切り傷と打撲痕に塗れている。

 おまけに、受け身も取れないままぶつかった事もあって衝撃がモロに伝わってきた。

 解析するまでもなく、伝達部となった内蔵のいくつかは損傷しているだろう。

 全身の至る所が悲鳴を上げ、これ以上は危険だと警告音<アラート>を鳴らす。

 

「っ--!」

 

 その全てを力づくで捩じ伏せる。

 痛みはまるで引かないが、そんな事を気にしている余裕なんてない。

 敵はこちらの都合などお構いなしなのだ。コンマ一秒の硬直さえ命取りになる。

 生還し街の人々を守るためにも、この程度で止まってなどいられない。

 ・・・・・それでも、限界は着実に近づいている。

 今受けた傷はもとより、これまでに蓄積された無数のダメージ。

 どれも致命傷には至らずとも、長く放置したことで出血量が多い。

 魔力消費も馬鹿にならない。肉体への強化魔術、宝具に準ずる刀剣類の多数投影、このまま戦い続ければガス欠に陥るのが目に見えている。

 

・・・・・あと二分。それが限度か。

 

 果たして、それまでに間に合うか。そうでなければいよいよ切り札を切るべきか。

 痛みで鈍る思考を無理矢理に回転させていき--

 

プププ プププ プププ

 

 規則的な電子音は胸元より。

 ペンダントの形を取った通信機から発せられたそれは、カルデアからの合図であり。

 竜の魔女への反撃の狼煙であった。

 

 

 ◆

 

 

「あの男、いつまでも虫みたいに隠れ回ってっ・・・・・! それならそれらしく、さっさと叩き潰されなさいよ--ッ!」

 

 彼女--黒いジャンヌ・ダルクは酷くイラついていた。

 サーヴァント三騎と伝説の邪竜が総出で掛かっているにもかかわらず、たかが魔術師一匹を仕留められないことが不甲斐なければ。

 この戦力差を前に未だ戦い続ける男の瞳が、何より癇に障った。

 

--何故、あの男は生きている?

 

--何故、あの男は諦めない?

 

 疑問は湯水の如く溢れ出てくる。

 そのくせまるで答えは浮かばず、ただ言い知れぬ怒りが募っていくばかりだ。

 

「どうしたマスター。何も無いと言う割には、あの魔術師に随分と執心なようだが?」

 

 不意にかけられた言葉はランサーから。

 見失った敵を探すために杭を操る彼は視線を彼女に向けることはなく、それでも作業に没頭するままその問いを発した。

 

「・・・・・くどいですよ、ランサー。私はあの男に対して、なんら思うところはありません。串刺し公は同じ問いを繰り返すほど愚かなのですか?それでよくも政が成り立ったものですね」

「いや。耳が痛い言葉だ。生前の余の政策は確かに苦渋のそれであったが・・・・・だが、愚者というならそちらも負けてはいまい」

「・・・・・それは、どういう意味ですか」

「簡単なことだ。出された答えに対し変わらぬ問いを垂れ流す者が愚鈍だとすれば、自らの疑問から目を逸らす者も同じ痴れ者と呼べるだろうよ」

「・・・・・・・・・・」

 

 その指摘に、黒いジャンヌは押し黙った。

 普段の彼女であればランサーの言を鼻で笑い飛ばしとことだろう。

 だが、今回は勝手が違った。

 紡ごうとした反論の言葉は声にならないまま喉の奥に消えていき、その代価と言わんばかりに偽りの心臓が早鐘を打つ。

 ランサーの言葉に強制力があるわけでもないのに、否定の言葉がまるで出てこない。

 

「--無駄話が過ぎたようだ。あやつが動いたぞ」

 

 その声にはっとすれば、ランサーの示した先に確かにあの魔術師がいる。

 その目はやはり、異様なまでに真っ直ぐで--

 

「逸るな。下手に動けばそれだけ相手に付け入る隙を与えるぞ」

「っ・・・・・。言われずとも分かっています」

「今にも飛びかかって焼き殺しそうな貌をしているが・・・・・まあいい。それよりも油断はするな。どうやらあの男、我々に一矢報いる気だぞ」

「ふん。あっちから来るならむしろ好都合よ。今度こそ骨の髄まで焼き尽くしてやるわ」

「意気込みは結構だが、今までの様子を見るにそう上手くはいかんだろう」

 

 猛る黒いジャンヌとは裏腹に、ランサーはどこまでも冷静だ。

 彼は自身より劣る疲弊した魔術師一人に、油断も慢心も無い。

 このまま長引けばいずれは自分達が奪われるのだと、自らの敵に対するある種の信頼を抱いていた。

 故に、彼が望むのは短期決戦。

 これ以上、敵に何らかの準備をする間も無く殺し尽くす。

 それがこの場における最適解だと理解するが故に。

 

「散々理屈をこねた割には結局、変わらないじゃない」

「同じにするな。ただ脇目も振らずに駆けることと、道を探り最短距離を選ぶのでは勝手が違う」

「・・・・・それは私を猪みたいな突進馬鹿とでも言いたいのかしら」

「いや? 別にお前を侮辱したわけではない。場合によってはあらゆる障害をねじ伏せて突き進む事も必要だろうさ。ついでに言えば猪というのは存外慎重だぞ」

 

 最後に軽口を付け加えながら、ランサーは語る。

 これは単にどちらが優れている、という話ではない。

 どちらにも理があり、それを分けるのはあくまで現状に適するか否かだ。

 そして、ランサーはただ力任せの暴力ではあの魔術師は斃せないと断じた。

 少なくとも彼らが“本当の全力”を出せなければ、半端な強引さは身を危ぶめる。

 

「それで、実際にはどうするのです? 私の攻撃では、どうあっても彼を仕留められそうにないのですけど」

 

 それまで口を噤んでいたアサシンだが、いい加減に面倒だと声を上げた。

 もともと標的でもない相手にいつまでも労力を割くのは、彼女にとっては不本意極まりないのだろう。

 

「余の宝具でやつを誘導する。アサシンは動きが止まったところを狙え。マスターは連携を崩さぬ程度に空から蹂躙しろ」

「それは今までと何が違うのです?」

「基本的な動きは変わらん。ただし、今度は空に誘導する。あやつは器用な事に剣を足場にする事で宙でも動くが、地上に比べて機動力は落ちる。余とアサシンで動きを封じ、そこをマスターが仕留めろ」

 

 力押し、というのはあながち間違いではない。

 敵との戦力比で大幅に上回る以上、それを活かさないのは愚策だ。

 膨大な火力と物量で圧倒し、選びうる手段を削る。追い詰められた敵は自ずと彼の術中に嵌っていく。

 サーヴァント三騎と竜種の一斉攻勢は、必勝の策となるだろう。

 

「いちいち御託が長いのよ。私は先に仕掛けるわよ」

 

 言うが早いか、巨竜は主の命に従い再び空を舞い敵対者へと獄炎を飛ばす。

 

「まったく。我がマスターながら気の短い」

 

 ある程度予測はしていたのか、己がマスターの行動にアサシンを伴ってすぐさま追従する。

 その移動方は先ほどとは一線を画していた。

 彼らは自ら動くことはなく、されど伸張する杭に乗り高速移動を行う。

 

「--征け」

 

 それと同時に、ランサーは杭に指示を伝達。彼の宝具が主の意思を受けて彼の敵に迫る。

 正面より噴出する杭に、対象は後退を余儀なくされる。

 ・・・・・だが、その後退はランサーの意図によるもの。

 後方にのみ退路を用意し、壁際まで追い詰める。最後に残される逃げ道は空にしかない。

 

・・・・・そのことに、気づいているか。

 

 ランサーの攻勢には後方へ誘導しようとする意図があからさまに見て取れる。

 だがそれを理解できたとしても、無数の杭から逃れる事は至難だ。

 どうあれ彼の思惑に乗らねばならない。

 

・・・・・ならばこそ、あれが動くのは最後の一瞬。

 

 こちらの狙いに気づいているという前提のもと、ランサーは油断なく敵を見据える。

 既に誘導は八割が完了。苛烈にすぎる竜のブレスが、敵の動きを大幅に制限していることが大きい。

 

「アサシン、準備はいいな」

「ええ。狙いは外さないわ」

 

 ランサーの確認に即座に返答が返される。

 それに頷き、ランサーが仕上げに入る。

 壁際まで追い込まれ、狙い通り空に退避した敵を杭がどこまでも追い縋る。

 それと同時に、ランサーたちが乗る杭も空めがけて上昇する。

 既に彼のマスターは準備を終えている。

 巨竜の口腔部に集った魔力はこれまでの比ではない。文字通り必殺の一撃を以って片をつけるつもりだ。

 

「凍結解除<フリーズアウト>」

 

 だがそのまま焼かれることを由とするほど、彼らの敵は物分かりのいい人間ではない。

 周囲に現れるは三十近い刀剣。

 先ほど放たれた十五の剣弾と同等--否、それを上回る魔力を内包した刃が巨竜を包囲し--

 

「--全投影連続層写<ソードバレルフルオープン>ッ--!!」

 

 赤の号令の下、剣群が一斉に投じられる。

 狙いは黒いジャンヌ・ダルク。

 差し迫るそれらは距離を縮めるごとに密度を上げ、刃を敷き詰めた棺桶を連想させる。

 黒いジャンヌは防げない。

 巨竜に咆哮の準備をさせた彼女には、もはや竜による守護はない。

 そして、彼女自身に全ての剣を捌くだけの余裕も技巧もない。

 絶対の自信を以って用意された一撃は、されど見透かされていたが故に自らの首を晒すこととなった。

 そう。全ては、赤の魔術師の想定内。この結末は初めから確定していた。

 

「--ああ。貴様ならそう来ると、理解っていたぞ」

 

 されど、起死回生の一手は赤の魔術師だけの手中にあらず。

 地中より噴き出た無数の杭が天へ登り、さらには枝分かれし樹状となって空を覆う。

 蜘蛛の巣を彷彿させるそれは無数の剣群と衝突し、互いに砕け散っていく。

 バラバラになった刃は敵を貫くことも爆発による攻撃もできない。

 その采配、決して瞬時に間に合わせられるものではなく--故にこそ、ランサーもまたこの最後を予見していた。

 これで勝負は決まった。

 逆転の一手を覆された赤の魔術師にここから脱する方法は無く、十二分に溜められた巨竜の咆哮を止める手立てはない。

 完全な詰み。

 故にランサーは、その顔に勝利の笑みを浮かべ--

 

--赤の魔術師も、“同じ笑み”を浮かべていることに気づいた。

 

「・・・・・っ!?」

 

 ランサーが息を呑む。

 余りにも状況にそぐわない魔術師の表情が、彼の思考を一瞬停止させる。

 ありえない。敵は完全に詰みのはず。これ以上できることなどない。

 だというのに、何故そんな表情ができるのか。

 わからない。敵の意図がまるで理解できない。ただ--

 

・・・・・危険だ・・・・・ッ!!

 

 一つだけ直感していた。吸血鬼<バケモノ>としての性が告げている。

 絶体絶命。生還など叶わぬ窮地においてなお諦めず。

 あまつさえ笑みを浮かべることのできる人間こそが、自分たちのような存在にとって最大の天敵なのだと理解している。

 かつて己がそうであったが故に。死後、恐ろしき怪物に変生させられたが故に。

 彼は、ニンゲンという生命の強さを知っている。

 

「撃て、マスター-ッ!!」

 

 その笑みが何を意味するのか、ランサーには分からない。

 だがそれが決してはったりの類ではなく、自分達を打倒する可能性を残しているが故だと判断した。

 既に竜は咆哮の準備を終えている。あとは、彼の主である黒いジャンヌが指示を下せばそれで終わる。

 故に、敵から一切の猶予を奪うべく杭を向かわせると同時、ランサーは己がマスターに怒号を上げ、

 

『全員、その魔力を防御に回したほうが身のためだぞ』

 

 頭に直接響く声にその動きを停止させる。

 ここにはいない誰かが発した念話、その意味を理解する前に。

 

--彼方より、膨大な魔力が放たれた。

 

 

 ◆

 

 

 その光景を、衛宮士郎は“空”から見ていた。

 黒いジャンヌ・ダルクと、彼女が従える巨竜、サーヴァント。

 それらを街ごと貫いたのは黄昏の魔力光。

 最低でもAランクに到達する、対軍宝具級の一撃だった。

 

「なんとか上手くいったか」

 

 ドクター・ロマンから提示された、或いはダ・ヴィンチが立案したであろう作戦は、随分と無茶苦茶なモノだった。

 内容はマスターである士郎を囮とし、彼に敵の意識が集中している間に街の外から宝具を叩き込む。

 なんとも突飛な内容だ。

 士郎を生還させるための作戦であるというのに、その士郎を囮にしては本末転倒だ。

 無論、士郎への負担は尋常ではなく、タイミングを合わせる前に彼が潰れる可能性の方が高かった。

 作戦の決め手である宝具も、視認すら難しい距離から放ったのでは威力が減衰し決め手に欠ける恐れがあった。

 結果として、その不安は杞憂となり、例の宝具は英雄の象徴に相応しい働きをしてくれた。

 しかしながら、これが多大な危険を伴うものであったのは確かだ。

 それも分の悪い賭けどころではなく、九分九厘失敗するであろう確率だったと言える。

 ギャンブルであればいくつか負けを重ねても挽回の余地があるが、あの場における敗北は士郎の死だ。次なんてあるわけがない。

 生き残れたのは単に運が良かっただけだろう、士郎は先の戦闘をそのように判断した。

 もしも、あの巨竜が万全の状態であったならば。もしも、ランサー以外に戦慣れしたサーヴァントがいれば。もしも、宝具の発動までに退避が完了しなければ。

 仮定を数えだしたらキリがなく、そのどれか一つでも違っていれば、衛宮士郎はここにはいなかっただろう。

 いくつもの偶然と幸運が積み重なった果てがこの結末だ。

 

「助かったよ、“ライダー”。君が来てくれなかったら、危うく骨まで消し炭だった」

「どういたしまして。ボクのほうこそありがとう。君のおかげで町のみんなを助けることができた」

 

 ライダーと呼ばれ返答したのは、薄桃色の長髪を後ろに纏めた可憐な騎士だった。

 外見は愛らしい少女に見紛うが、一人称と身体構造から判断するに、少年騎士と呼称する方が適切だろう。

 先の一瞬。極大の魔力が街を焼き払う直前、空へ逃げ込んだ士郎を己が騎馬を駆って救い出したのがこのライダーだ。

 彼こそが、ラ・シャリテのサーヴァントであり、撤退する士郎の迎え<ポーター>になってくれたのだ

 

「それにしても。セイバーの宝具、やっぱりすごいなー。ボクだったら絶対死んでるね!」

 

 遠ざかる街を見やりながら、ライダーは感心の声を上げる。

 釣られて士郎も同じ方向を向く。

 ラ・シャリテ--の名残を残す廃墟--には先ほどまで死闘を繰り広げた黒いジャンヌをはじめとした強敵が佇んでおり、その誰もが満身創痍だ。

 特に酷いのはあの巨竜。

 もとより黒い甲殻は炭化しさらに黒ずみ、その両翼は所々欠けている。

 全身の至る所に魔力の紫電が走り、攻撃が終わったにもかかわらず、今も巨竜を苦しめ続けている。

 あの様子では暫くまともに動くことすらかなわないだろう。

 

「凄まじいな。直前でブレスと杭で威力を減衰されたっていうのに、それでも致命傷を与えるんだから」

「なんたって伝説のバルム--っと。危なかった。うっかり真名バラしちゃうところだった」

 

 どうやらライダーは先の一撃の主を知っているらしく、その威力を賛称した士郎の言に気分を良くしたようだ。

 もっとも、それで宝具の真名を暴露されたら、そのサーヴァントも迷惑千万というものだろう。

 

・・・・・いやまあ、今のでだいたい絞れたけど。

 

 彼の言いかけた言葉と、あれだけの威力を誇り特に竜種へ絶大なダメージを負わせる宝具と来れば答えは自ずと見えてくる。

 とはいえ、だ。

 宝具の真名というのは存外に奇天烈なもので、宝具の真名がそのままサーヴァントの真名に繋がるとは限らない。

 例えば、破戒すべき全ての符<ルールブレイカー>。

 その名称と英語が用いられることから、英語圏における秩序を乱した者の宝具にも思えるが、実態はギリシャ神話にて語られるコルキスの女王が有する対魔術宝具だ。

 連想どころか、そもそも言語圏すら違う。

 唯一それらしいのが名称と効果の結びつきだが、それもあまり魔術的とは言えず、やはり想起するのは難しい。

 そう考えると、先ほどライダーが言いかけた真名も士郎の予想とは全く関係のないものかもしれないのだ。

 無闇矢鱈に憶測を重ねねるべきではないだろう。

 それに、これから当人と会うことになっているのだから、答えはすぐに知れる。

 

「ともかく、まずはリヨンに向かおう。連中の増援が来ないとも限らない」

「そうだね。君の仲間も心配してたし、早く帰ろっか」

 

 士郎の提案を快諾したライダーは、自身の宝具たる騎馬に速度を上げさせる。

 鷲の上半身と馬の下半身を持ち『あり得ざるもの』の意を冠する彼の幻獣は主の意思に従い、一層その翼に力を込める。

 高速で風を切りながら両者は一路、リヨンへと向かった。




今回は色々とやらかした感がありますが、一番やべーのは士郎の新装備ですかね。分かる人には分かる、どう考えてもまともに使えそうもない浪漫武器。自分はこいつで『歩く平和』とやりあったことがあります(笑
そのほか現地の様子が本編と異なっていますが、オリジナル要素としてお楽しみいただければ幸いです。
それから、投稿までに召喚した方達をご紹介します。
以下、新規サーヴァント。

バーサーカー・アタランテ(カリュドーンの毛皮には豊胸効果でも付いているのか・・・・・?)

ワルキューレ(再臨ごとに人物が変わる上に、宝具で他の姉妹も登場とか、製作陣を殺す気か。あと、彼女達って武内さんの・・・・・)

スカサハ=スカディ(スカサハが可愛いとかいうパワーワードが生まれちまったぜ・・・・・)

シグルド(津田さんを起用したことに拍手喝采を送りたい。社長のイメージが強いだけに、マイルームで優しげな声出されたらとろけてまう)

水着ジャンヌ(イベントで最もネタが詰まっいるであろうサーヴァント。姉なるものにファミパンにアクア団に。ちなみに再臨は二臨固定です)

水着ジャンヌ・オルタ(オリジナルと違った意味で色々とあったサーヴァント。某型月サイトではサヴァフェス人気投票一位を獲得。凄まじく厨二のかほりがする。刀の下りはいつか士郎と語らせたい)

水着牛若丸(もともとあったワンコ属性がマシマシに。PU1ではジャンヌ以上に欲しかったので、来てくれて嬉しい)

水着BB(乗っ取られてるのか混ざってるのか乗っ取ったのかよく分からないが、強化は優しく、されど霊衣で素材を搾り取るあたり、やっぱりBBちゃんはBBちゃんなのであった)

鈴鹿御前(英霊旅装が可愛かったJK狐(耳と尻尾は自作です)孔明PUすり抜け召喚。しかも呼符。何故だか呼符が強い作者でございます。星5を今まで計四騎ほど呼符で召喚)

セイバー・ディルムッド(ようやくディルbotの人が浄化されたと思ったら、引けてなくてやっぱり呪い垂れ流してた)

以蔵さん(帝都PUで逃したんでマジありがてぇ)

近年稀に見る大勝利でした。それもこれも三周年記念石のおかげ。
皆さんのカルデアでは、いかがでしたでしょうか。良い結果であることを願います。


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