モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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後日談─その後の物語
それからと青年のこれから


 夢を見た。

 真っ暗な世界で、赤い目をした竜が俺を見ている。

 

 恐ろしい姿の筈なのに、俺は恐怖を感じなかった。

 だけどその竜に手を伸ばそうとしたが、肝心の腕がなくなっている事に気がつく。

 

 

「……そうだったな」

 反対の腕を伸ばすと、竜は俺に背中を向けてゆっくりと離れていった。

 

 

 まだそっちに行くのには早い。

 俺はもう少しだけ、この世界を生きようと思う。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 二ヶ月が経った。

 俺が怒隻慧と戦い、ミズキがあの竜を倒してから長かったような短かったような。

 

 

 モガの村はナバルデウスが起こした地震の影響が少しはあったが、特に大きな被害もなく今日も穏やかな日々が続いている。

 

 海風が心地いいこの村の懐かしさにも慣れてきて、ずっとここに住んでいたような気分だ。

 

 

「ただいま、アラン」

 昼過ぎになってそんな言葉と共に()()の家に帰って来たのは、金髪を海風に揺らす一人の少女。

 いや、少女というのも失礼だろうか。まだ十九歳だが、彼女はもう立派な狩人であり女性である。

 

「お帰り、ミズキ。長かったな……大丈夫か? 怪我はしてないな?」

 そんな彼女───ミズキが帰ってくるやいなや俺は彼女に駆け寄ってその身体を抱き締めた。

 少し砂のついた髪の毛を払ってから、防具を眺めながら怪我がないか確かめる。

 

「あっはは、心配しすぎだよ」

 ミズキはそう笑って俺から少し離れると、今度は彼女から抱擁をして再び「ただいま」と声を漏らした。

 俺も「おかえり」と彼女の頭を撫でてから、唇を重ねる。後ろから「昼間からやめてくれニャ」と声が聞こえて、我に返った。

 

 

「……すまない」

「寂しがり屋が過ぎるニャ」

 ミズキの後ろから半目で声を漏らす黒毛の獣人族───メラルーのムツキは、ミズキの尻を叩くと「それじゃ、僕は戻るニャ」と家を出ていく。

 俺達は少しの間固まって、頭を掻きながら苦笑した。

 

 

 俺とミズキは今、モガの村で二人暮らしをしている。

 

 怒隻慧との戦いから二ヶ月。俺とミズキが出会ってから四年にも及ぶ長い戦いが終わって、得た物と亡くした物を噛みしめながら生きて来た。

 モガの森は怒隻慧とナバルデウスの影響で少し生態系がおかしくなっているが、今はミズキがそれを少しずつ調べている。

 

 モガの村の専属ハンターはどうしたのかというと、撃退したナバルデウスを追ってまた旅に出てしまったらしい。あの人らしいといえばあの人らしいか。

 

 

「それで、どうだった?」

「丘の方にブラキディオスが居たのがちょっと気になったから、少しちょっかいを掛けて丘から離した……かな。やっぱりリオレウスが居なくなったのが生態系が崩れてる要因だと思うんだけど」

 思い出すように顎に指を当てながらそう言うミズキ。

 ブラキディオスに()()ちょっかいを掛けて無傷で帰ってくるのだから、彼女のハンターとしての腕は疑いようがない。

 

 怒隻慧を倒したのも、結局は彼女なのだから。本当に強くなったなとしみじみ思った。

 

 

「アランはどう思う?」

「お前の言う通りだろうな。モガの森の主だったリオレウスが怒隻慧に殺された事で、生態系のバランスが崩れている。リオレウスの縄張りだった場所が空いたから、他のモンスターがそこを狙っているんだろ」

 俺がそう言うと、ミズキは「そっか、縄張りを広げようとしてたんだ」と感心して言葉を漏らす。

 今の俺が彼女に出来るのは、こうやって自分の知識を教えていく事くらいだ。

 

 いつか本当に俺の力なんて要らなくなるだろう。その時、俺はどうしてるだろうか。

 

 

「ブラキディオスが縄張りを広げてモガの森の主になろうとしてるなら……うーん、どうしたら良いんだろ」

 困った様子で頭を突っつくミズキは首を横に傾けて唸った。

 

 あの日以来、ミズキはモガの森の生態系をなんとかしようと必死になっている。

 一緒に暮らすと約束をした場所だ。俺も大切にしたいから、出来るだけ協力したい。

 

 

 だが、今の俺に何が出来るのか。

 失った右腕を見て、左手を強く握る。

 

 

「……とりあえず、リオレウスの縄張りだった場所を少し調べてみるか。四年前、火竜の巣に行ったことを覚えてるか?」

「え、あ……うん。覚えてるよ」

「死んだリオレウスはあの時子育てをしていた奴だ。まずはあの辺りが今どうなってるか調べて、少しずつでも今のモガの森の状態を掴んでいけば良い」

「なるほど……。それなら、これからの方針も決めやすくなるもんね!」

 俺が少しだけアドバイスをすると、ミズキは手を叩いて嬉しそうに声を上げた。

 吸収や理解も早い。俺の事が必要なくなる時も、直ぐに来てしまうだろう。

 

 

 その時、俺は───

 

 

「アラン、大丈夫?」

 ふと、彼女が俺の顔を覗き込んでそう聞いてきた。

 心配そうなその視線はゆっくりと俺の右肩に向かっていく。

 

 

「大丈夫だ。お前こそ、心配し過ぎだろう」

 あの日から二ヶ月。

 当時は生きるか死ぬかと言われている状態だったが、今はこの通り普通に話せる程までには回復した。

 まだ安静にとは言われたいるが、右腕が無い事以外特に問題はないだろう。俺は大丈夫だ。

 

 

 

「だって、アランの事が大切だから」

 そう言うミズキは少しだけ俯いて手を握る。その手が震えているのを見て、俺は申し訳なくなって彼女の手を掴んだ。

 

「俺はもう、どこにも行かない」

 本当に心配を掛けてしまったのだろう。

 

 

 お互いにだが、心配性だから。

 

 

 

「……そういえば、遅れてなければもう少しで船が着くと思うぞ」

 話を逸らすように、俺は思い出した要件を口にしながら家の外に視線を向けた。

 緩やかな波を立てる海の向こうに大きめの船が見える。噂をすればというか、丁度到着したようだ。

 

 

「シノアさん達が乗った船?」

 俺の視線を追って振り向いたミズキは、嬉しそうな声を上げて防具姿のまま扉を開く。

 せめて着替えていけと言いたいが、それだけ楽しみにしていたのだから何も言えない。

 

 二ヶ月間、俺の治療の事やモガの森の事もあり俺達はモガの村に住み始めて島の外には出ていなかった。

 当たり前だがシノア達やアザミ達には会えなくなり、文通のみで連絡をしていたから寂しかったのだろう。

 

 こちらもそうだが、あいつらだって忙しい身だ。性に合わないが、俺も心のどこかに穴が空いたような寂しさを感じている。

 アキラさんの事もあるしな。

 

 

 

 俺も彼女の後を追って村に出ると、船がしっかりと視界に入るほど大きくなっていた。

 甲板には懐かしい姿が二人見える。黒色のギルドナイトスーツに白髪の女と、ベージュ色のスーツに憎たらしい童顔の男が手を振っている姿が視界に映った。

 

 

「はいどうもお久しぶりです、皆さんの親友ウェイン・シルヴェスタですよ。え? 遠路遥々どうもお疲れ様ですって? はっはっはっ、何を照れくさい! 僕らは親友じゃないですかアランさん! いや、本当。血と血で刻んだ絆というか? 遠く離れていても魂で繋がっているという───」

「話が長い。鬱陶しい。血と血だけになるまで刻むぞ」

「普通に酷い」

 相変わらずのウェインをよそに、ミズキはシノアと抱き合って瞳を濡らす。

 色々積もる話もあるだろうし、ここではなんだ。俺達はミズキの実家であるビストロ・モガへと足を進める。

 

 

 俺とミズキが今暮らしているのは、ビストロ・モガの真隣に新しく作って貰った家だ。

 その隣であるビストロ・モガはムツキと、ミズキ達の育ての親であるさすらいのコックが経営する食事場である。

 

 

「今日は豪華なメンバーですニャ」

「お父さん、ご飯お願いしても良い?」

「勿論ですニャ」

 ミズキのお願いを心良く聴いてくれたお義父(とう)さんがキッチンに向かうと、俺達はそれぞれ席に座ってお冷やを口にした。

 

 

「いや、でも本当に無事で何よりですよ」

 ウェインがそう呟いて、シノアが「本当だよ」と続ける。

 思えばあの日は色々と勝手な行動をして迷惑を掛けてしまったか。

 

「ミズキちゃんまで飛び出していった時は本当にどうしたものかと……」

 口を尖らせてそういうシノアを見て、俺達二人は苦笑いを溢す事しか出来なかった。

 二人やアザミ達に掛けた心配や迷惑は謝っても許されるものじゃないかもしれない。

 

 

「近況は、手紙に書かれたいた通りですか?」

「あぁ。怒隻慧はミズキが討伐して、俺はこのザマだ。……後はモガの森の生態系が少しおかしくなっているくらいだな」

 ウェインの問い掛けに俺がそう返事をする。

 

「怒隻慧の討伐は調査隊からの報告で確認済みです。言っておきますが、クエスト以外での討伐なので緊急時とはいえギルドから正当な報酬は出ませんからね。なんなら罰せられる所を僕があの手この手で誤魔化してですね!」

「まぁまぁまぁ、アンタは黙る。……それでも、村の人達やこの島の生態系は貴方達が守ったのは事実だよ」

 うるさいウェインを黙らせたシノアはそう言ってから「それで」と話を切り替えた。

 

 

「私達ギルドナイト的な問題の話をすると、一番気になるのはリーゲルさんの動向なんだよね。事の発端である彼を裁かない事には、この事件は終わらない。……ミズキちゃんには悪いけれど」

「お父さんは……」

「リーゲルさんは亡くなった。間違いなくな」

 ミズキが何かを言う前に、俺がそう返事をする。半目で「証拠は?」と問うウェインはどうも俺達を信用していないようだ。

 

 

「怒隻慧の腹の中から彼の絆石が見付かった。……証拠はそれだけで充分だろう」

 リーゲルさんは怒隻慧にその命を与えたのだろう。遺跡平原から孤島までの間でその身体は怒隻慧の血と肉になった。

 

 それでも絆石だけが腹の中から見付かったのは───

 

 

 

「……まぁ、そういう事にしておきますか」

「それにな……あの人は別に怒隻慧を操っていた訳じゃない。お前達の言う事件なんてものじゃないんだ」

 怒隻慧という一匹の竜が生きた道。そこに俺達が巻き込まれただけで、その命に悪意や企みは無かったのだろう。

 

 確かに俺は怒隻慧に沢山の物を奪われたし、今でもアイツを憎んでいないのかと言われれば首を縦には触れない。

 それでも怒隻慧はただのモンスターだ。俺達と同じように、この世界を必死に生きようとした一つの生命。

 

 

「アラン……」

「俺の戦いは終わった」

 ミズキの頭を撫でながら、俺はそう言葉を落とした。

 これからは彼女の為に生きよう。そう思える事が、今は嬉しい。

 

 

「まぁ、そういう事ならこの話は終わりにしましょう。……こちらの近況報告ですが、アキラさんの遺体はユクモ村でヨゾラさんと同じ墓に埋葬しました。タンジアに連れて帰るとヨゾラさんと離れ離れになっちゃいますし、これで良かったと思います。それとシノアさんが今回の騒動の活躍を評価されてG級ハンターに昇格しましたね。アザミちゃんは弟君の事もあるので一旦ベルナ村に帰った事は多分手紙で伝わってると思いますが。ユクモもベルナもそうですけど、落ち着いたらタンジアにも顔を出しに来て下さいね。アランさんの家とかそのままなので。後はそうだな……僕達結婚します」

「話が長───ん?」

 いつも通りのマシンガントークの最後に放たれた言葉に俺は目を丸くして固まった。

 

 当たり前のように言葉を並べたウェインはシノアの肩を叩きながら、憎たらしい笑顔を俺に向ける。

 当のシノアはというと少し顔を赤くして恥ずかしそうに俯いていた。おい、嘘だろ。

 

 

「本当ですか!?」

 そう驚いた声を出したのはミズキで、彼女は立ち上がってシノアに詰め寄る。

 シノアは否定せずにまたら顔を赤くして「ま、まぁ」とだけ答えた。

 

 

「お、おめでとうございます! た、大変だよ大変。お父さん! ご飯パーティ! 私も手伝うから今日はパーティ!!」

 それはもう子供のようなはしゃぎっぷりで、ミズキはキッチンの方に向かって料理を豪華にしようと張り切り出す。

 そんな彼女を他所にシノアは「……なんで言ったの。言わないでって言ったのに」と頭を机にぶつけていた。机にひびが入っているのは気のせいだろう。

 

「……おめでとう」

「どうもどうも。ちなみにプロポーズしたのは僕からなんですけど、アキラさんが亡くなって心に穴が空いたシノアさんはちょろかったですよ」

「良い話かと思っていたが訂正する。今すぐ死ね、この屑」

「酷ーい」

 ウェインが変わらないでいてくれて安心すれば良いのか、この屑にシノアを任せるのを嘆けば良いのか分からない。

 

 

「でも、まぁ……僕らも寂しいんですよ。だから、落ち着いたらで良いんでアキラさんの所にも挨拶しにいってあげて下さい。二人の結婚報告とか」

「……そうだな」

 まぁ、根は良い奴なんだ。どうしようもなく屑だが。

 

 それに二人やアザミ達には手紙で俺達の事も伝えてあるが、アキラさんにはちゃんと伝えられなかったからな。

 

 

「それはそうと」

 隣で机に頭を埋めているシノアを他所に、ウェインはそうやって話を切り替える。

 俺はお前達の事も気になるが、それは後でも良いか。

 

 

「アランさんはちゃんとプロポーズしたんですか? それと、今後の活動はどうするつもりで?」

「……ん?」

 そんな問い掛けに、俺は回答が浮かばなくて固まった。

 

 

 プロポーズ。

 怒隻慧と戦う前、タンジアの海を見ながらした約束を思い出す。

 

 

 ──全部終わったら、私と結婚して欲しい。……そして、一緒にモガの村に住んで欲しいです──

 

 

「……タンジアでミズキにプロポーズされたな」

「アランさんらしいですけど流石にダサ過ぎでは? ちゃんとプロポーズし返したんですか?」

 返事が出来ない。コイツに正論を言われると間違っていなくても腹が立つが、本当に何も言い返せない。

 

「まぁ、ミズキちゃんはアランの事大好きだからなぁ。……それで、流石にハンターは続けられないと思うけどアランはどうするの?」

 復活したシノアは半目で俺にそう問いかけた。

 

 

 どうするの? 

 そう言われて、俺はふと未来の事を考える。

 

 

 確かに今は安静状態で何もしてないが、いつかはミズキの為に働かなければならない。

 ミズキだけにハンターの仕事をさせて俺が家で何もしないなんて事はあってはならないからだ。

 

 しかし俺に家事だのなんだのは出来ない。やはり働くしかないのだが、働くといっても俺はこれまでハンター業以外の事をした事がないのである。

 

 

「な……あぁ……」

 俺は重大な事実に気が付いてしまった。

 

 

「……まさか、何も考えていなかった訳」

「……アランさん、確か家事炊事チンカスでしたよね。もしかしてミズキちゃんのヒモにでもなる気ですか?」

 ウェインの言葉に俺は何も返せない。ふと冷たい視線を感じて振り向くと、そこいたムツキが白い目を俺に向けてくる。

 

 

「ボクはヒモにミズキをやるとは言ってないニャ」

「待ってくれムツキ! いや、お義兄(にい)さん!!」

「ならどうする気だニャ」

 自分も話に加わると、椅子に座ったムツキは辛辣な表情で俺を睨んでいた。返す言葉がない。

 

 

「アランって、ハンターの活動以外なんの趣味もなかったって感じだもんね」

「引退したハンターの仕事といえば教官とかですけどね。ほら、丁度ドンドルマにも片腕無くした教官が居ますし。しかしモガの村で教官と言っても人が集まりませんからねー。やはりアランさんはヒモ」

「待ってくれ……」

 我ながら情けない声しか出てこないが、本当に何も出てこないのである。

 

 俺の人生は一体なんだったのだろうか。

 怒隻慧への復讐。結局のところ、俺はそれにとらわれて未来を捨ててしまっていたのかもしれない。

 

 

「はー、残念だなー。これでアランさんもめでたしめでたし幸せになる事が出来ると思っていたんですけどね。流石のミズキちゃんもヒモになる気満々の野郎と一緒になんて嫌でしょう。あー、これはアレですねー、バッドエンド的な? 見えてきましたよ。アランさんがミズキちゃんに捨てられて泣きべそかく姿が」

「ちょ、おま、やめて……」

 少しだけ想像して、心臓に杭を刺されたような痛みが走った。ダメだ、吐きそう。

 

 

「えー、アラン私のヒモになるのー、最低。もうアランの事なんて知らなーい。バイバーイ」

 ウェインの気色悪い裏声が本当にミズキに言われているような気がして、俺はもう倒れた。本当にそんな事を言われたら俺はもうショックで死ぬかもしれない。というか死ぬ。

 

 俺に生きている価値なんてない。

 

 

「……ウェイン、やり過ぎ」

「過去最高に楽しい。僕はこの日の為に生きてき───痛い」

 シノアに殴られるウェインだが、結局のところ悪いのは俺なのだろう。本当に、この先の未来が見えないのだから。

 

 

「まぁ、無難な所で言うと農場とかビストロ・モガとか漁を手伝うとかじゃないかニャ?」

「アランさんが農家! シェフ、漁師! ブフッ、ブッハッハッハッ、ヒーッ、アッハッハ、ギャーッハッヒッヒッヒッ、似合わねぇ! ブヒ、フー、ヒーッヒッヒッヒ、アハ、ブハッハッハッ、ダメだ、笑いが、止まらない、腹が捩れる、ヒー、アッハッハッハ、ヒアッ、ブヒ、ヒッヒッヒッ、アーハッハッハッ!」

「死ね」

 もう帰れお前。

 

 

「ウェイン」

「いや、だって、アッハッハッ───ダメだ、マジで殺意を感じる」

 ウェインは俺の顔を見た途端に凍り付いたように固まった。そうだ、一生そのまま凍っていろ。

 

 

「でも、真剣に考えないとダメだよ」

「そうだニャ。本気でヒモになる気なら、ボクは絶対に許さないニャ」

 ウェインの事はともかく、このままではいけない事は確かだろう。だけど、俺にはこの先の道が見えなかった。

 

 

「ウェインさん楽しそうに笑ってたけど、何の話をしてたのー?」

 そんな事を思っていると、タイミング悪くミズキがキッチンから帰ってくる。ウェインが余計な事を言いそうで怖い。

 

「あ、いやー。アランさんはこの先どうするのかなって」

 俺が睨むと、ウェインはミズキから視線を逸らしながらそう答えた。そうだ、それで良い。

 

 

 良いという訳でもないが。

 

 

「アランが?」

「ほら、流石にハンターは続けられないじゃない?」

 続くシノアの言葉に、ミズキはキョトンとした顔で首を横に傾ける。

 

 何も考えていなかったといった顔だ。

 今後の俺が何も出来ないヒモだと気が付いたら、彼女はどんな反応をするのだろうか。俺は怖くなって視線を落とす。床の染みが俺を笑っているような気がした。

 

 

「だから、この先アランさんは何をするのかって話をしてましてね」

「え?」

 ウェインの言葉にミズキは再び不思議そうな声を漏らす。彼女の純粋さが今は怖い。

 

 

 

 

 

「アランはライダーになるんじゃないの?」

 ただ、続くミズキの言葉に俺は頭の中にあった靄が全て晴れたような気がした。

 胸元の絆石を握る。一度ミズキに渡してから、あの日そのまま俺がずっと持っていたお守りだ。

 

「ライダー、モンスターライダー?」

「うん。アランは世界中のモンスターと絆を結ぶライダーになるって言ってたよ」

 そんな夢を見ていた気がする。

 

 それは、いつか復讐にとらわれて何もかも忘れてしまった夢の一つだった。

 

 

 

「世界中旅されるのはちょっと困るけど、それは置いといて。アランは怪我が治ったらライダーになって、ミカヅキとその道を歩く。私は私でハンターを続けるけど、ハンターもライダーもいのちと向き合う仕事っていうのは変わらないと思う。……だから、私はアランと一緒にいたいしアランが好き」

 そんな事を真顔で言う彼女を俺達は直視する事が出来なくて、その場を沈黙が襲う。

 

「……。……あ、あれ? 私……何か変な事言ったかな?」

 そうして焦ったような声を出すミズキを見て、シノアやウェインが笑い出した。

 

 

 そうだ、そうだよな。

 

 

「あっはは。そっかー、なるほどね」

「僕らや本人よりミズキちゃんの方がアランさんを理解しているって事ですね。あんやー、羨ましいというかなんというか」

「えーと、え? ど、どういうことですか? えぇ……」

 俺は───

 

 

「ミズキ」

「アラン……?」

「───俺は、ライダーになるよ」

 胸元の絆石を握って、俺は彼女に決意を語る。

 

 

 竜と絆を結ぶ存在。モンスターライダー。

 

 

 俺が目指す道、俺が新たに歩き出す道。

 

 

 彼女との道は違えど、その道はきっと繋がっている筈だ。

 

 

「うん、知ってる」

「そうか」

 だからきっと、この先もずっと俺達は一緒に居れる。

 

 

「ご飯が出来ましたニャ」

「なんだか今日は賑やかですね! 私も混ぜてくださーい!」

「アイシャは働けニャ!」

「皆で食べた方が美味しいよ、ムツキ」

「ニャ……ミズキがそういうなら。モモナ達も連れて来るニャ」

 

 

 

「アランも、それで良いよね!」

「……あぁ。そうだな」

 

 

 

 そんな道を、歩いていくんだ。




あけましておめでとうございます!
去年の10月に本編が完結したという事で、お待たせしました後日談になります。後日談は八話構成で、本編と合わせて全百話になる予定。
更新頻度はかなり遅めになりますが、どうか最後まで読んで頂けると幸いです。それでは、また次回もお楽しみに。


何かイラストをと思っていたので置いていきます。去年のクリスマスに描いた絵です。たまにはウルク装備以外もね!

【挿絵表示】


読了ありがとうございました!

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