モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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命と向き合う彼女達の先に

 暗い場所。

 

 

 赤い光がゆっくりと近付いてきて、私に語り掛けてくる。

 

 でも、その光がなんて言ってるのか私は分らなくて。

 それを伝えようとするんだけど、私の言葉が届く事はなかった。

 

 

 きっと私達は相容れない。

 

 

 だからこそ向き合いたいから、私は胸の前で手を握る。

 竜とこころを通わせて。いのちと向き合って。

 

 手を伸ばした先にあるのは───

 

 

 

「───っ?! は……ぁ、はぁ……はぁ。……ゆ、夢?」

 ───赤だった。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 モスの肉を使ったベーコンと、ガーグァの卵で作った目玉焼き。

 その二つを挟んだパンを、私の歯が挟む。

 

 

 柔らかい食感のパンに続き、目玉焼きとベーコンの食感がそれぞれ別の食感を楽しませてくれた。

 そんなベーコンを噛み切って、私は口の中でそれらを転がす。

 

 ガーグァやモス、それにパンの原料の小麦だって生きていて。

 私達はその命を頂いて生きていた。

 

 

 それがダメだなんて事は決してなくて、その命と真剣に向き合わないといけないなんて事もきっとない。

 それは人それぞれの答えがある筈だと思う。勿論、真剣に向き合う事だって間違ってない筈。

 

 

「……ふぅ。ごちそうさまでした」

 残りのサンドイッチを頬張ってから、私は両手を合わせて呟いた。

 

 

 糧にした命に感謝を。

 ただそれだけの、当たり前みたいな事に真剣に向き合う。

 

 それが、私の答え。

 

 

「お粗末様ニャ。皿は置いといて良いニャ」

「私洗うよ?」

「俺も何かするか?」

 私とアランがそう言うと、ムツキは目を細めてから私達の顔に肉球を当ててきました。

 

 プニプニ。

 

 

「怪我人や体調が悪い奴は黙って寝てろニャ」

 そう言って、彼は私達をベッドに向かわせる。

 

 

「むぅ……」

「まだ頭痛いニャ?」

「え、えーと、ちょっとだよ。ちょっと」

 ムツキの唐突な質問に、私はそう答えた。

 

 

 ティガレックスの討伐から一週間。

 アランは耳を怪我してしまって、療養中。

 一方で私も、あの日からちょっと頭が痛かったりでダウンしてます。

 

 満身創痍って感じだけど、それくらいティガレックスが強かったって事だよね。

 

 

「洗い物終わったら買い物でもしてくるから、二人は寝てろニャ」

「わ、私も着いてくよ?」

「寝ろニャ」

 ごめんなさい。

 

 

 うぅ……。でも最近ムツキにずっとお世話になっていて申し訳ないんだよね。

 

 

「妹は黙ってお兄ちゃんに甘えとけば良いのニャ」

 ムツキはそう言うと、黙ってお皿を洗い出した。

 

 せっかくだから、今は甘える事にします。

 いつかちゃんとお礼をしなきゃね。

 

 

「ベッドは使って良いからな」

「だ、ダメだよ。アランの方が重症なんだから」

 私は疲れちゃってるだけだし。というか、ただの体力不足だよねこれ。反省だ。

 

 

「……。……なら、一緒に寝るか?」

「……良いの?」

 いつもなら、なんでか嫌がるのに。

 

 

「俺を落とすなよ」

「お、落とさないよぉ……っ」

 言いながらアランはベッドの端に寝転がって、私に背中を向ける。

 

 私はそんな大きな背中を見ながら転がってみた。

 ただ隣にいるだけなのに、どうしてか暖かくって。ちょっと嬉しくて、彼の服をぎゅっと掴む。

 

 

「……どうした?」

「なんでもないよ。……おやすみ、アラン」

「……。……あぁ、おやすみ」

 安心するからか、私の瞼は直ぐに重くなった。

 

 ムツキが布団を掛けてくれた所までは覚えていて、ただゆっくりと闇に堕ちていく。

 

 

 

 赤い光が見えたのが怖くて、私は手を強く握った。

 

 

 

 あなたは誰?

 

 

 

 どうしてそこにいるの?

 

 

 

 怖い。

 

 

 

 ただ、ふとした時に身体が暖かくなって。そんな感情はゆっくりと溶けていく。

 包み込まれるような暖かい感触が心地良くて、気が付いたら赤い光は消えていた。

 

 

 

 

 ───あなたは誰?

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 白い髪が揺れる。

 

 

「何か言い残す事は?」

 光の消えた瞳でアランを見下ろしてそう言うのは、タンジアで私達と同じくハンターをしているシノアさんだ。

 

 アランはそんな彼女の前でなぜか正座をしていて、ムツキはシノアさんの友人であるアーシェさんにモフられている。

 

 どうしてこんな事に。

 

 

 ムツキが帰って来たのは昼過ぎの時間だったらしい。

 

 買い物の途中でシノアさん達と会ったらしくて、私達の事を話したら心配して来てくれたんだって。

 それで、私とアランが一緒に寝ていたのを見てシノアさんがアランに怒ってるんだけど。……どうして?

 

 

「誤解だ」

「本当……?」

「まーまー、シノア。年頃の女の子と男の人が一緒に住んでるんだから、する事なんて一つだよ。むしろ私達ハンターなんてやってるせいで取り残されてるっていうか?」

 アランをジト目で見ていたシノアさんに、ムツキをモフりながらアーシェさんがそう言った。

 

 

 する事?

 

 

「み、ミズキちゃんにはまだ早い! て、ていうか、私だってまだ早くない?!」

「もう二十歳だぜ……私達。ピンク色の話が一つもないのはむしろ悲しいよ。ピンクなのはシノアのイメージだけで良いよ」

「誰がババコンガだ?!」

 どうしてババコンガ。

 

「助けろニャ」

 あはは。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「まぁ、つまり。二人共療養中って事?」

「お恥ずかしながら……」

 シノアさんにティガレックスとの事を話すと、彼女は少し考えてから私達を見比べて驚いたような表情をする。

 

 曰く、やっぱり極限化モンスターと戦って五体満足で帰って来た事自体が奇跡みたいらしかった。

 というか本当は下位ハンターの私が戦って良い相手じゃないだとか、そろそろギルドに上位ハンターへの昇格をお願いしても良いだとか、そんな話をしてくれる。

 

 

 上位ハンターかぁ……アランやシノアさん達と同じって事だよね。

 私なんかがその資格あるのかな、なんて思ったり。

 

 

「だけど、今はちょっとタンジア周囲の狩場の環境が不安定だから。ギルドにその手の話をするのはオススメしないかな。……どんなクエストやらされるか分かった物じゃないし」

「狩場の環境が不安定……?」

 シノアさんの言葉に私は首を横に傾けた。

 

 どういう事だろう。

 

 

「あ、そっか。ここ一週間集会所行ってないんだっけ?」

「お恥ずかしながら……」

 そろそろ復帰しなきゃとは思ってるんだけどね。

 

 

「ここ最近ねー、付近の生態系が荒れてるみたいなんだってさ。モンスターが暴れてたり、縄張り関係がめちゃくちゃになってるだとか」

 お餅みたいになってしまったムツキを床に置きながら、アーシェさんがそう説明してくれた。

 そんな事になってるなんて知らなかったけど、理由が分からない。

 

 アランなら分かるかな?

 そんな事を思ったけど、アーシェさんが続けて補足をしてくれる。

 

「なんでも、タンジアの付近にイビルジョーが居るみたいなんだよね。目撃情報がいくつもあって、そりゃ生態系も荒れるって訳。……もう少し調査が進んだら、討伐依頼が出ると思うよ?」

 イビルジョー。

 思い出すのは、一週間前のシオちゃんの言葉だった。

 

 

 ──君達の探してるイビルジョーは狂竜化していて、タンジアの近くにいるよ──

 

 

 まさか……。

 

 

「まぁ、そうなれば我等がシノアがぶっ倒してこの問題もおしまいだけどねー」

「なんで私がクエストを受けるのが前提になってる訳」

「私がサポートして、きっと高いクエスト報酬を山分けする為?」

「おい。……いや、まぁ、アーシェが来るなら付き合うけど」

 もしそのイビルジョーが怒隻慧なら。

 

 そんな事を考えると、複雑な気持ちになる。

 

 

 シノアさん達が心配なのもあるし、それでもシノアさんは強いから倒してしまうかもしれなかった。

 もし怒隻慧が知らない所で倒されてしまったら、アランは怒隻慧と向き合う事が出来なくなってしまう。

 

 それは私も同じ事で。

 

 

 だから、とても複雑な気分だ。

 

 

 

「……顔色が良くないけど、やっぱり体調悪いの? 邪魔してごめんね。直ぐに帰るよ」

「あ、いえ。そういう事じゃなくて……」

 ただ、私の悩みをシノアさんに言っても困らせてしまうだけだと思う。

 もしクエストで怒隻慧の討伐になったとして、私はともかくアランは狩りに行けないし。

 

 

 ただ、この事は後でアランとちゃんと話してみよう───そう思った矢先だった。

 

 

「おーい二人共居るか───って、お客さんが居たのか。悪い。ただ、急用だから上がらせて貰うぜ」

 突然家にやって来たのは、焦った様子のアルディスさん。

 

 突然の来客に家にいる皆が驚いて、それも気にせずにアルディスさんはアランの近くまで歩いてくる。

 

 

「お、イケメン。シノア、狙ったら?」

「意味の分からん事言うな」

 弟のエル君もだけど、兄弟揃って整った顔だからやっぱりモテるのかな?

 アランも格好良いけど。……アランもモテるのかな?

 

 

「集会所に行ってみろ。ヤバい事になってる」

 私がそんな事を考えていると、アルディスさんはアランや私にそんな言葉を落とした。

 

 

 私達は顔を見合わせて、シノアさん達も何があったか察したのか表情を引き締める。

 

 

 

 きっと考える時間もなくて、その時は刻々と近付いてきていた。

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「イビルジョーの大量発生?!」

 思わずといった感じでシノアさんが声を上げる。

 集会所に来た私達が知らされた事実は、予想を超えた事態だった。

 

 

「そうなんです。タンジア付近の狩場に、同時の目撃情報だけでも五頭。流石に異常な状態でギルドもパニックなんですよ……っ」

 涙目で説明してくれたのは、タンジアギルドの受付嬢であるキャシーさん。

 

 イビルジョーは常に捕食を続けるモンスターで、周りにいる生き物はなんでも襲ってしまう。

 アーシェさんが言っていた生態系の乱れ。その原因はきっとそのイビルジョーなんだけど、それが五頭も居るなんて信じられなかった。

 

 

 イビルジョーは同種のモンスターすら捕食対象にしてしまうモンスターだし、そんなイビルジョーが五頭も居たら生態系は簡単におかしくなってしまう。

 それにその中に怒隻慧がいるかもしれない。そんな可能性まで考えると、また少し頭が痛くなってきた。

 

 

「と、とにかく上位ハンターの皆さんにはいつでも狩りに出る準備をしておいて欲しいんです! まだ情報も纏まってなくて迷惑を掛けるかもしれないんですけど……」

「まぁ、モンスターが相手ならそういう事もあるよ。大丈夫、我らがシノアがなんとかする!」

「アーシェも手伝ってよ?」

「勿論」

 今はギルドが情報を纏めている状態らしいけれど、きっと討伐依頼が出されるまで時間はないと思う。

 

 

 アランの怪我が治るまでは、きっと待ってくれない。

 

 

 

「それじゃ、私達は準備に戻るから。ミズキちゃん達はちゃんと休んでてね」

「何かあったらまた教えて、キャシー。ほいじゃ、私等は戻ろうかな」

 キャシーさんの返事を聞いてから、二人は自宅に戻っていった。

 

 私達は何も出来ないのかな……?

 

 

 

「アラン、どう思う?」

 ただ漠然と立っているのに耐えられなくて、私はアランにそう聞いてみる。

 自分の答えを出したからといって、私はやっぱりまだまだ未熟だから。

 

 

「分からない。……怒隻慧が一個体じゃないという可能性が捨てきれなくなったか、単に怒隻慧の他にもイビルジョーが集まっているだけか。だが、そんな異常な事態は普通ありえない。どちらにせよ、何かイビルジョーが大量に現れた理由がある筈だ」

 分からない、とは言いつつも自分の考えを淡々と呟くアラン。

 私にはそんな考えは浮かばなかったから、やっぱりまだまだ未熟だなって。

 

 

「理由……かぁ」

 でもイビルジョーが集まる理由なんて、私には想像も付かなかった。

 

 

「美味いモンスターが沢山現れた、とかニャ?」

「そんな事で集まるかなぁ……?」

「バカには出来ない考えだぞ」

「ぇ」

 ドユコト?

 

 

「例えばガーグァの好物は雷光虫だ。雷光虫が増えれば、その場には自然とガーグァが集まって来る。そして、ジンオウガもな」

「イビルジョーの好物は分からないけれど、例えばモンスターが増えればイビルジョーが集まる可能性もあるって事?」

「そうだな。ただ、やはりイビルジョーに限ってはその可能性は低いだろうが」

 クンチュウが大量発生して、イャンクックがさらに大量発生したって話なら納得するかもしれないけれど。

 イビルジョーに関してはやっぱりそういう理由は考えにくい。

 

 

 ただ、やっぱり何か理由がある筈。

 私とアランはその場で考え込んでみる。でも、やっぱりそれらしい答えは見付からなかった。

 

 

 

「やーやーアランさん。お久しぶりでーす」

 そんな時に、突然アランの背後からベージュ色のスーツを着た男の人が声を掛けてくる。

 羽帽子を手に持った彼は、アランの友人でありギルドナイト───ウェイン・シルヴェスタさんだ。

 

「……うるさい奴が来たな」

 辛辣。

 

 

「そんな酷い事言わないで下さいよぉ、アランさんの知りたそうな情報を集めてきたってんですからねぇ。療養中なのに集会所(ここ)に居るって事は、気になってるんですよね? イビルジョーの大量発生の事が。もしかしたらその中に怒隻慧がなんて───」

「居るんだろ?」

 アランに言葉を遮られたウェインさんは、なんで知ってるんだって表情で口を開けて固まってしまう。

 

 その後「アッキーもアランさんには話してないって言っていたのに……」と呟くと、ウェインさんは一度手を叩いて間を空けてからまた口を開いた。

 

 

「居ます。なんたってアッキーが目撃してますから、間違いはないでしょう。勿論アッキーは無事ですよ、一人だったので戦わずに逃げたみたいですね。いや、賢い判断だ。……さて、しかし怒隻慧が現れただけならともかく、その周りでイビルジョーが大量発生。理由もなくそんな事がある訳がない、あってはいけない。しかしその理由はギルドが幾ら調べても出て来ません。アランさん達も見た所分かっていない感じですよね? 所で僕は一つだけ仮説を立ててみたんですけど、聞きたいですか? いや、聞いてください。そしてアランさんの意見が聞きたい」

 饒舌にそう話すと、ウェインさんはアランの正面に立って真剣な表情で彼を見る。

 

 

 ウェインさんの仮説……?

 イビルジョーが大量に発生した理由が、彼には分かるのかな?

 

 

「……聞かせろ」

「そもそも大量発生と言いますが、発生ってなんですかね。同時に生まれたって事ですか? 怒隻慧の子供が大量に生まれた? そんな訳がない。こんな短期間でイビルジョーの成体がポンポン発生する訳ないんですよ。モンスターは生き物だ、成長の過程って物がある」

 確かに、成長の早いモンスターならともかくイビルジョーが大量発生なんておかしいよね。

 だからこそ理由が分からなくて、困ってるんだけど。

 

 

「ではここは言い替えて、イビルジョーの大量出現としましょうか。しかしそれこそありえない。イビルジョーの世界的個体数から見てもコレは異常です。同時に同じ場所に現れるなんて何か理由がなければありえない。しかしその理由が分からない。理由が考えられない。結果には理由がある筈だ。その理由が分からない場合、どうすれば良いか? 簡単です、結果を見れば良い。……例えばある狩場にガーグァが大量発生したとします。理由不明なまま、しかし結果が訪れました。今度はジンオウガの大量発生。すると、理由が見えてきます。あぁ、ガーグァの好物でありジンオウガの共存相手である雷光虫が大量発生していたんだなって」

 さっきアランが話に上げた事と似たような事を話すウェインさん。もうこの時点で私は意味が分からない。

 

 

「つまり、今回は結果を想定してみる。イビルジョーの大量出現で何が起きると思いますか? はい、ミズキちゃん」

「え、えーと……生態系が壊れちゃう、かな?」

「はい、大正解。イビルジョーが一匹現れるだけでも生態系は大きく崩れます。二年前のモガの森のようにね」

 そう言われて、私はあの時の事を思い出した。

 

 

 たった一匹のモンスターによって崩れた生態系。

 

 

 イビルジョーの怖さは私も知っている。

 

 

 

「二年前のモガの森……。まさか……」

 私がそんな事を考えていると、アランは何かに気が付いたみたいなハッとした表情をしていた。

 

 まさか?

 

 

「気付きましたかね。……そう、例えばその結果こそが理由だとしたら? 生態系を破壊する為にイビルジョーが集められたのだとしたら?」

 ウェインさんの言葉で、やっと私は理解する。

 

 

 

 思い出すのは二年前の、モガの森に来た密猟者さん。

 そして雪山でイビルジョーを飼っていた(・・・・・)人達の事だった。

 

 

 

「……意図的にイビルジョーを集めた?」

「はい。それが僕の仮説です。雪山の件のハンターや、ディアブロスの密猟、モガの森での事件。……何かしら理由があって、組織的にモンスターを殺している連中が居る事だけは確実でしょう。それが今回大きく動き出した」

 

 

 ──そうさ。まぁ、見ているが良いよ。我々は近々革命を起こす。これはその一歩に過ぎないんだ──

 

 雪山で一人のハンターさんが言っていた事を思い出す。

 コレが彼の言っていた革命(・・)だとして、その意味が分からなかった。

 

 

 モンスターの生態系を壊す事になんの意味があるのか、私には分からない。

 

 

 

「勿論、仮説の域を出ませんが。聴いて欲しいのはここからです。……アランさん、もし僕の仮説が当たっていたとして───怒隻慧はその組織に飼われたモンスターという可能性はありますか? そして、その場合怒隻慧は単一個体ではなく、組織によって改造又は変化させられたイビルジョー()という可能性はありますか? そうなれば、怒隻慧の不特定な出現情報も頷けます」

 ウェインさんの言う通り、イビルジョーが集まっている理由が結果であり、イビルジョー達は密猟者の人達によって飼われていたとして。

 怒隻慧がその密猟者の飼っているモンスターかもしれない。そんな可能性を、ウェインさんはアランに伝える。

 

 

「……それだけは、多分ありえない」

 ただ、アランの答えはそんな返事だった。

 

 

「……根拠は?」

「もしそんな組織があるとしたら、その主犯はカルラだろう。アイツだって怒隻慧を憎んでいる筈だ。怒隻慧も、リーゲルさんごと船に乗って居た密猟者を襲っている。それに俺がアイツと同じ立場なら、それだけはしない」

 モガの村に来たギルドナイト、カルラさん。

 

 

 今思えば彼はライダーだったんだと思う。

 

 アランが話してくれた昔の話。

 きっと、カルラさんもアランと同じで怒隻慧に大切な物を奪われた。

 

 

 だから、カルラさんが中心になってモンスターを密猟している?

 

 

 

 私には分からない事だらけです。

 

 

 

 ただ、それはなんだかとても寂しいなって、そう思った。

 

 

 

「……分かりました、ありがとうございます。参考にします」

 そう言ってウェインさんは私達に背中を向ける。

 

 彼はギルドナイトだから、この異常事態の収拾の為に動いている筈だ。

 

 

 だったら───

 

 

「───ウェインさん!」

 ───今しかない。

 

 

「ど、どうしました? ミズキちゃん」

「もしイビルジョーの討伐クエストがあるなら、私達も参加したいです……っ!」

 振り向いたウェインさんに向かって、私はそう口を開く。

 

 

 もしウェインさんの仮説が当たっていなくても当たっていても、アランの言う通りでもそうでなくても。

 怒隻慧が近くにいるという事は、きっと誰かが怒隻慧と戦う事になる。私は───私達は、怒隻慧と向き合いたいんだ。

 

 だから、それだけは譲れない。

 

 

 

「……。……いずれにせよ、イビルジョーの討伐クエストは上位ハンター限定で解禁予定です」

「上位ハンター……」

 それはちょっと……なんというか。

 

 

「それじゃ、今からミズキちゃんの上位ハンター昇格試験をします」

「ぇ」

 ドユコト?

 

 

「試験は簡単。僕にじゃんけんで勝ってください。因みに僕はチョキしか出しません」

「ぇ」

 ドユコト?!

 

 

「はいそれじゃ、じゃんけんポン!」

「う、うわわぁ?! ぽん?!」

 私は訳も分からず、咄嗟にグーで手を突き出す。

 

 じゃんけんには勝ったけど。まったく意味が分からなかった。

 

 

「おめでとう! これでミズキちゃんは上位ハンターだ! 僕がアッキーやギルドの偉い人にいっぱい怒られるけど、とりあえずミズキちゃんは上位ハンターに昇格です。やったね」

「ちょ、え、えぇ?! 大丈夫なんですかウェインさん?!」

「大丈夫じゃないです。下手したら僕の首がリアルで飛びます」

 リアルで。

 

「でも、ほら……アランさんを宜しくお願いしますって事で。まだ療養中ってのも目を瞑りましょう。ミズキちゃんの昇格クエストも目を瞑りましょう。……だからアランさん。ファイトです」

「……分かった」

 ウェインさんは、どうしてそこまでしてくれるのかな……?

 

 

「どうしてそこまでって、思ってる?」

 読心術?!

 

 

「僕はアランさんのお友達ですから。……なーんて。昔の恩を返してるだけですよ。それじゃ、頑張って下さいね」

 背中を向けたウェインさんは、片手を振って集会所の奥に戻っていく。

 

 

「ギルドナイトはヤバイ奴しか居ないニャ……」

 でも、優しいよね。

 

 

 

「……アラン、大丈夫?」

「この機を逃す事は出来ない。……やるしかないさ」

「……。……そうだね」

 怒隻慧のいのちと向き合うんだ。

 

 

 

 私達は、前に進む。

 

 

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

 タンジアギルドでイビルジョーの討伐クエストが依頼されたのは、翌日の事だった。

 

 

 特別依頼。イビルジョーの狩猟。

 付近森林にて活動中のイビルジョー、その全ての討伐。

 四人以内のパーティが複数同時に受注可能。

 

 ギルドが気球で観測したイビルジョーの討伐が完了次第クエストクリアとして、以降ギルドが再び警戒を数日間維持する事とする。

 

 

 

 アランとムツキと私はこのクエストを受けて、今はその出発準備中。

 

 本当はもう一人仲間が居ると良いんだけど、難しいよね。

 

 

 

 シノアさんはアーシェさんと二人パーティだし、エル君はギルドの支援で観測気球。

 シオちゃんはあんなに強かったのに上位ハンターじゃないらしい。詐欺だ。

 

 ウェインさんやアキラさん達ギルドナイトの人達は他の事で忙しいらしいです。

 曰く「ミズキちゃんは知らなくていい世界もあるんだよ」との事。よく分からない。

 

 

 そんな訳で、私達は三人パーティだ。

 怒隻慧と戦うなら、丁度いいのかもしれない。

 

 

 

 上位クエストになると、安全面も考慮して気球船からパラシュートで降下してクエストを開始する。

 狩場が危険で、気球船が着陸出来ないからなんだけど。私は上位クエストなんて初めてだから、パラシュートで降りるのも初めてだ。

 

 めちゃくちゃ怖いです。

 

 

 

「よぅ、二人共。ついに決戦か?」

 私達が船に乗り込もうとしていた時に話しかけて来たのは、ジルソンさんでした。

 傍らにいたシオちゃんが、私にアイテムの入ったポーチを手渡してくる。

 

「これは?」

「……ウチケシの実と、抗竜石」

 ウチケシの実は私がバルバレに居た頃に食べた事があるから覚えていた。ケチャワチャさんに貰って、食べた事があるだけだけど。

 確か身体の異常を治す力があるんだっけ。

 

 

 それと、もう一つはなんだろう。

 

 

「抗竜石は狂竜ウイルスを鎮静化させる力がある。可能性は低いが、もし怒隻慧がこの前のティガレックスみたいに極限化でもしたらたまったもんじゃないだろうからな。持ってけ。剣に砥石みたいに使えばいい」

 そう言って、ジルソンさんは私とアランに一つずつ砥石のような物を渡してくれた。

 

 

「……べらぼうに高いから、大切に」

「え、高いんですか?!」

「アホ、言うなよ」

「……ふんだくる気じゃなかったの?」

 ジルソンさんならやりかねない……。

 

 

「ば、馬鹿野郎そんな訳ねーだろ。こりゃ善意だ。マジで」

「何が欲しいんだ?」

「お前もかよアラン!」

「信用皆無ニャ」

 あはは。でも、それがジルソンさんの良い所だと思うなって。

 

 

「……無事に帰ってこいよ。そしたらまたお前らから色々ふんだくる」

「……あぁ。期待してろ、面白い話をきかせてやる」

 ジルソンさんとアランはお互いに拳を付き合わせて、言葉を交わす。

 また色々お話したいもんね。

 

 

「……えーと、君」

「そろそろミズキって呼んで欲しいなぁ」

「……。……み、ミズキ」

 シオちゃん可愛い……。

 

「……獣宿しはあまり長い事使わない事。き───ミズキの、大切な時に」

「うん。ありがとう、シオちゃん」

 きっとこの力は、怒隻慧と戦う時の為にあるんだ。

 

 

 その時までは使わない。

 

 ……疲れちゃうし。

 

 

 

 挨拶を済ませて、私達は気球船に乗り込む。

 

 

 中には偶々エル君が乗っていて、現場の色々な状況を教えてくれた。

 

 

「モンスターの死体が彼方此方に転がってるし、木々が薙ぎ倒されて視界が悪いです。パラシュートで降りた先にイビルジョーがいる可能性もありますから、本当に気を付けて」

 被害はとても広がっているみたいで、一刻も早くイビルジョーを倒さないといけない。

 

 

 

 私達も、モンスターも、生きる為に奪う。

 

 

 きっとそれは、どちらも間違いじゃないし、殺さない事だって間違いじゃない。

 

 

 なら私達はどうして戦うのかな。

 

 

 

 高め合う為? お互いを知る為? 相手が憎いから?

 

 

 

 私は、いのちと向き合う為に戦うよ。

 

 

 

 

「行こう、ムツキ。アラン!」

「ガッテンニャ」

「……行くぞ!」

 ───それじゃ、一狩り行こうか……っ!




さて、四章もクライマックスです。どうなってしまうのか、楽しみにして頂けると幸いに思います。

さて、なんとこのお話でモンスターハンターRe:ストーリーズは六十話目の更新になりました。応援してくださる皆様のおかげです。誠にありがとうございます。
そんな訳でお礼に一枚イラストを描いてきました。

【挿絵表示】

夏なので、ミズキちゃん水着仕様です。
最近バカみたいに暑いですよね。熱中症にはお気をつけて。


それでは、次回も楽しんで頂けると幸いです。
読了ありがとうございました!

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