モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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棘竜とそれぞれの考え

「……なんだその格好は」

 クエストに行く為の準備が終わり集会所に向かおうとしたのだが、ミズキの格好がおかしい。

 

 

「えへへー、似合うかな?」

 防具は着ないで、白いワンピースにお気に入りの麦わら帽子。

 ピクニックにでも行くかのような格好だ。今日はクエストだぞ、寝惚けているのか。

 

 

「いや、そういう問題じゃなくてな?」

「だって! 今日の依頼主さんはその……同年代の男の人だから?」

 ……は?

 

「ほら! わ、私も一応女の子だからね?! 可愛いとか思われたい年頃なんだよ! あの娘可愛いねとか言われたいんだよ! それに……同年代の男の人って村にはあんまり居なかったから」

「それでおめかしって訳かニャ。……許さんニャ」

「なんで?!」

 ミズキも年頃という訳か。いや、むしろこれまで同年代の異性と関わる事がほとんどなかったから、表に出さなかっただけなのだろう。

 年頃な少女のありふれた気持ちなんだ。この歳ならこのくらいで当たり前。そういえば、あいつも同じような事を言っていた気がする。

 

 

 ……俺はそういう対象ではないらしい。

 

 

 ……そうか。いや、良いんだ。あぁ、良いんだ。

 

 

 ……。

 

 

 

「……防具を着ろ。クエストは遊びじゃない」

「うー、ケチ」

 はぁ……。

 

 

「ミズキ」

「んぇ?」

 ……ミズキがその気なら、か。

 

 確かに年頃だからそういう感情もあるんだろうが、俺はリーゲルさんにミズキを任された責任がある。

 

 しかし───

 

 

「防具を着た姿も、その……似合ってるぞ?」

「……どしたのアラン」

 ───本当に、どうしたんだろうな。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 場所と日付が変わり、狩場───樹海。

 

 

 見上げる程の高さがある巨木を中心に、その名の通り一面を森林に覆われた場所だ。

 今回ムツキは留守番をしている。何やらおめかしをするミズキを見て頭痛が来たらしい。

 

 出発の時に「ミズキに言い寄る奴の排除は頼むニャ」と、言っていた。……任せろ。

 

 

「それじゃ、もう一度説明するぜ。今回のクエストはこの樹海を根城にしている一匹のモンスターの調査だ。名を棘竜(いばらりゅう)───エスピナス」

 竜車を牽引するアプトノスに指示を出しながら、依頼主の一人がそう告げる。

 

 エスピナスはその異名の通り外殻に鋭い棘を持つ飛竜で、飛竜でありながらも古龍と渡り合う力を持つと言われているモンスターだ。

 古龍級の力を持ってはいるが、生態的に人間とぶつかり合う事が少なく狩猟依頼は滅多に出されない。知名度も低いだろう。

 

 だからこその調査で、エスピナスの生態も加えてこのクエストの難易度が低くミズキでも受注する事が出来た。

 勿論ミズキは何も知らずに護衛クエストだから受けたらしいがな。何にせよ珍しいモンスターと関われるクエストだ。ミズキには良い刺激になるだろう。

 

 

「生態の調査が目的なので狩猟はしません。お二人には道中の護衛と、いざとなった時のお仕事を手伝ってもらう事になります」

 もう一人の依頼主は、雌火竜の素材で作られたヘビィボウガン───妃竜砲の手入れをしながらクエストの内容を確認した。

 装備している防具はミズキと同じウルク装備。男性用で帽子や細部は異なるが、大体似たようなデザインの防具である。

 

 

「そのエスピナスってどんなモンスターなんですか?」

「大人しくて優しいモンスターなんですよ。触っても怒られないみたいです」

 ミズキの質問にそう答えた、髪の長いウルク装備の少年。確か名前は───エルディア。

 彼がミズキの言っていた同い年の少年で、もう一人の依頼人の弟らしい。

 

「本当ですか?!」

「本当だとも。俺の前回の調査では確かにこの手でエスピナスに触れたからな! まぁ、途中で他のモンスターの邪魔が入って背中に乗るとかは出来なかったけどよ」

 そのもう一人の依頼主。ミズキとエルディアの二つ上の青年は、後ろに流した髪を掻きながらそう言った。

 

 アルディス・ラウナー。王立古生物書士隊に所属し、弟のエルディアと共にモンスターの調査を行なっているらしい。

 

 

 

 しかしエスピナスとお友達(・・・)か……。考えが甘いな。

 

「他のモンスターにアル兄の邪魔をさせないのが僕たちの主な仕事ですね」

「他のモンスターって、どんなモンスターなんですか? えーと、エルディア……くん」

 何故赤くなる。

 

「ふふ、エルで良いですよ。同い年ですし」

「それじゃ、エル君だね!」

 嬉しそうだな……。

 

「ありがとう、ミズキちゃん。えーと、前回はイャンクックに邪魔されちゃいました。僕がもう少し上手くやれれば良かったんですけどね」

「まぁ、今回は三人もハンターが居るんだ。上手く追っ払って、今日こそエスピナスの背中に乗ってやるぜ!」

 背中に乗る事に拘ってるのか……?

 

「モンスターの背中に乗る……。しかも飛竜に……?」

 何か既視感でも感じるのか、明後日の方向を見ながら考え込むミズキ。

 

 

 もし、ミズキがライダーを目指すと言ったら俺はどうするのだろうか。

 それが怖くてこれまでライダーの事は話さなかった。そうでなくても、ライダーの存在は秘匿だがな。

 

 

「とある文献によれば、竜と絆を結び共に生活するライダーって存在が世界のどこかで密かに暮らしているらしい」

 しかし、アルディスは突然そんな事を言う。きっと信憑性のない話だろうが……。

 

「共に生活する……? それ本当ですか?! アルディスさん!」

 ……やっぱり食い付いたか。

 

 

「俺もアルで良いぜ? ライダーって存在は所々噂はあれど根拠のある話はねぇ。……でもな、俺はいると思ってる」

「僕達はそんなライダーに憧れてモンスターの調査をしてるんです。そしていずれは、僕達も竜と共に生きる道を歩きたい……なんて、夢のようなお話ですけどね」

 そうだな。そんなのは夢だ。

 

 

「そんな人達が居たら本当に凄いし、素敵だねアラン! でも、ライダーって何処かで聞いたような……?」

「そんなバカな存在が居てたまるか」

「アラン……?」

 なんで俺は否定しているのだろうか。

 

 

 事実、ミズキが最終的に目指したいのはライダーなんじゃないのか……?

 

 俺はまた彼女の邪魔をしているのか……?

 

 

「おぉおぉ、依頼主の夢を全否定とは中々度胸あるじゃねぇかいあんちゃんよぉ」

「俺の仕事はお前達の護衛だからな。そんなおとぎ話に興味はない」

「んだとぉ?!」

「ま、まぁまぁ二人共! 人には人の考え方があるという事で!」

「ど、どうしたのアラン……?」

 ライダーなんて存在しない。人と竜に絆なんてものは繋がらない。

 

 

 この考えは、ミズキにとって邪魔なのだろうか……。

 

 

「……まぁ、確かにハンター様にゃ信じられねぇ話だろうな。だが俺は信じるぜ! 人と竜は共に生きていける……。嬢ちゃんはそこの所理解ありそうだな!」

「え? あ、えーと……私は」

 ミズキは俺とアルディスを交互に見比べる。彼女の進みたい道はどちらにあるのだろうか。

 

 

 俺は邪魔なのか……? それとも───

 

 

 

「アル兄、そろそろ着きます」

「よーし言い争いは終わりだ。あんたの言う通りこれは仕事だ、だからしっかりと護衛してくれよハンター様(・・・・・)やい」

 樹海の中心にある巨大樹の近くに竜車を停め、徒歩でその内部に入っていく。

 

 この巨木の中は大型モンスターが飛行できる程の空間が広がっており、とある竜の根城になっているらしい。

 

 

 

「木の中なのに凄く広い……。あのモンスターは?」

「クンチュウですね。腐葉土等が餌なのでこの木の中は彼等にとっても居心地が良いんでしょう」

 

 クンチュウは背面全体を非常に硬い甲殻で覆い、非常時には身体を丸めて身を守るモンスターだ。

 そしてイャンクックの好物でもある。……なるほど、だからイャンクックか。

 

 

 

「怒ると丸くなって転がってきたりするので、怒らせないように通り抜けましょう」

「あの体が丸くなるんだ……凄い。エル君はハンターなのに物知りだね!」

「あはは、書士隊のアル兄とずっと一緒に居るからだと思います。むしろハンターとしては大型モンスターの討伐経験なしなのでダメダメです」

 大丈夫かこのクエスト……。

 

 

「あんな小さいのは無視無視。目指すは大型モンスターよ。俺はいつかモンスター博士になるんだからな!」

「うん、頑張ろうねアル兄」

「おうよ」

 その態度でモンスター博士、か。

 

 

「さて、それじゃ僕はこの辺で別れますね。二人にアル兄を任せます」

「どう言う事だ?」

 他の仕事でもあるのだろうか?

 

 

「モンスターを観察する位置は僕の距離じゃないですから。前回はそれで撤退せざるを得なくなって失敗しましたし……。今回は頑張ります」

 そう言いながら自分のヘビィボウガンを撫でるエルディア。ヘビィボウガンだと対象に近付くより離れた方が良いからか、成る程な。

 

 

「大丈夫なんですか?」

「勿論! アル兄をよろしくお願いしますね」

 笑顔で手を振って、太い木の枝を登って行くエルディア。少ししてから光の点滅で合図があり、俺達三人は巨木の中心に向かった。

 

 

 

 そこに鎮座する一匹の竜。

 

 

 緑色の外殻に赤い棘を並べる飛竜が、体を丸めて瞳を閉じている。

 鼻先に特徴的な赤い角を持つこの竜こそ樹海の主とも呼ばれている飛竜───エスピナスだ。

 

 

「ね、寝てるの?」

「あれは寝てるというよりは───」

「俺達が近付いてもこうやって動き出さないって事は、俺達に気を許してるって証拠だ! 思う存分調べさせて貰うぜ」

 俺の言葉を遮ってそう言ったアルディスは、何も警戒せずにエスピナスに駆け寄って行く。

 

 

「お、おい!」

「へっ! ビビっちゃってんのか?! こんなに大人しいモンスターなのによ!」

 寝ているエスピナスの頭を叩きながら振り返り、大声を上げるアルディス。

 本当にあいつは書士隊なのか……。知識面で不安があり過ぎる。

 

 

「あ、アラン……あんな事して大丈夫なの?」

「エスピナスは小さな人間なんて眼中にないんだ。並みの飛竜とは比べ物にならない程強固な甲殻で身を守り、縄張りに侵入されようが相手が諦めるまでこうやって待つ」

「それじゃ、本当に大人しいモンスターなんだね!」

 そう言われると少し違うか。

 

「いや、好戦的ではないだけで一度戦うと決めた相手は古龍と同等の力で葬る。……それにこうやって大人しくしている間も、腹が減っていれば知らずに近付いてきたアプトノスを襲う。これは、覚えておいて損はない」

「書士隊の人が知らない事をなんでアランは知ってるの……」

「……逆に書士隊でエスピナスを調べるなら知っていて当然だ」

「そうなの?」

 ライダーを目指していた時に、モンスターの知識は知られている限り叩き込んだ───なんて、そんな事は言えない。

 

 

「……初めに走って行った時は流石に肝が冷えたが、あの調子なら腹が減っている訳じゃないだろう。エスピナスはアイツが諦めるまで黙って丸くなっている筈だ」

 屈強なハンターが攻撃を仕掛けても無視するようなモンスターだ。

 ハンターではない一般人が何をしたって奴の怒りに触れる事はないだろう。

 

 

「おぉおぉ! やっぱり硬いなお前の身体は。この赤い棘の数々は痺れるほど格好良いぜ!」

 おいエスピナスを叩くな、撫でるな、匂いを嗅ぐな。……だ、大丈夫なのか?

 

「さて、どうやって背中に乗るか……前回は棘がズボンを突き破って俺のケツが大惨事だったからな、今回は場所を選ばないと」

 大丈夫なのか……?

 

 

「あのモンスターとは本当の意味では仲良くなれないのかな?」

「お前はどう思う?」

 寂しそうな表情をするミズキに、俺はそう問いかけた。

 その解答によっては俺は邪魔なのかもしれない。いや、俺はライダーという存在と向き合わなくてはならない。

 

 いつかはこうなると分かっていた筈だ。

 

「私は───」

「やっべ、嘘だろまた来やがった!!」

 ミズキの言葉を遮るアルディス。何か来たのか?

 気になって周りを見渡すと、光で信号を送るエルディアの姿が見える。近付いてくるモンスターを見つけたという事だろうか。

 

 

「どうする? ここは依頼人の指示に出来る限り従うつもりだが」

「悪いが俺はモンスターを殺したくない主義なんでね。少しばかり無茶を承知で付き合って貰うぜ」

 ほぅ……。

 

 

「その為にエルを持ち場に着かせたしな。二人とも、エスピナスの陰に隠れてくれ!」

 は?

 

「な、おま……」

「早くしろ! 奴に見つかる」

 ……無茶苦茶な事をするな。

 

「悪いなエスピナス。ちょっと失礼するぜ」

「こ、こ、こ、こんにちは。お邪魔します」

 アルディスの考えは分からないが、とりあえずは彼の言葉に従う事にする。

 エスピナスの怒りを買わない事を願うしかないか……。

 

 

 アルディスは「また」と言っていた。つまり上で見張りをしているエルディアが見付けたのは飛んで来るイャンクックだろう。

 大方そこら辺にいるクンチュウを食べに来たといった所か。エスピナスはイャンクックが縄張りに来ようと受け身で襲う事もない。

 

 イャンクックがエスピナスを襲う理由もなく、ただただクンチュウを腹一杯食べ終わった後飛んで行くのが理想だが───そうはいかない筈だ。

 

 

 エスピナスがどうかは知らないが、イャンクックは俺達を見付け次第襲ってくる。そしたら巻き込まれたエスピナスだって黙っていないだろう。

 エスピナスの陰に隠れただけで、匂いの対策も何も出来てない俺達はいつ見つかってもおかしくない。

 

 

 ……さて、どうする。

 

 

 

「クェェァッ」

 地に降り立ち翼を降ろすイャンクック。少しの間だけエスピナスに視線を向けたが、動く気配がないのを確認してから周りを歩き出した。

 そんなイャンクックを見付けると丸まったり、地面に潜っていくクンチュウ達。

 

 しかしそんな事は意味もなく、イャンクックは地面をその嘴で掘り起こして潜っていたクンチュウを嘴に加える。

 こうなってしまうと後は丸呑みにされるだけだ。硬い甲殻も意味がない。

 

 

 そしてイャンクックが首を持ち上げ、クンチュウを飲み込もうとしたその時だった。

 

 突然発砲音が空間に響き渡り、イャンクックが咥えていたクンチュウが嘴から弾き出される。

 転がっていくクンチュウ。イャンクックは何が起きたのか分からないといった感じて辺りを見渡した。

 

 

 

「え? 何が起きたの?」

「まさか……あの距離から?」

 上を見上げると、エルディアが展開するヘビィボウガンの銃口から煙が上がっているのが見える。

 

 俺でもここからイャンクックが加えたクンチュウだけを狙い撃つのは難しいだろう。良くて頭部だ。

 それを彼は俺とイャンクックの三倍の距離を離れた所から狙撃したのか。狙ってやったのだとしたら相当な腕だな。

 

 

「グェァッ?」

 そして当のイャンクックは何が起きたか分からぬまま、転がっていくクンチュウを追いかけて歩いていく。

 だがどうする気だ? イャンクックの食事の邪魔をしたところで奴がここに居座る時間が増えるだけだろう。

 

 

 しかし、その問いの答えは直ぐに放たれた。

 

 

 もう一度その嘴でクンチュウを捉えようとするイャンクックの鼻先を銃弾がかすめる。

 その弾は今まさに捕まる寸前のクンチュウを弾き飛ばしイャンクックから遠ざけた。

 

 イャンクックは首を傾げるも、クンチュウを追いかけていきその度にクンチュウはボウガンの弾に弾かれて───イャンクックは俺達から離れていく。

 

 

 

「……成る程な」

「凄い。クンチュウを遠ざけて、それに吊られてイャンクックが離れてる」

「ふ、俺のいも───ぁ、じゃなかった。弟は狙撃の名手よ。この腕でこれまでモンスターを殺さずに調査してきたからな! 前回はエルが近過ぎてイャンクックにバレちまったが、あれだけ離れてればエルに気が付かれずに追い払えるだろ」

 それで二手に分かれたのか。

 

 

 これが上手くいけばエスピナスの調査を続行出来る訳だ。───が、モンスターはそんなに甘くない。

 

 

 

「は?! クンチュウ達なんで?!」

 仲間がイャンクックに襲われている事に気が付いたクンチュウ達は、ある場所に集まってくる。

 一斉に丸くなって転がってくるクンチュウは見ているだけなら面白い光景だ。状況は冗談じゃないが。

 

 

 クンチュウには自らの身を守る為、外敵よりもより強力なモンスターの身体に張り付く習性がある。

 つまり、クンチュウが集まってくる場所は必然的に俺達が隠れている───エスピナスの身体だ。

 

 それ以外にもクンチュウはモンスターの身体に付着した老廃物を摂取したりする。

 この辺りの事は後でミズキの為にも教えておこう。このモンスターの事を何も分かっていない依頼主にもな。

 

 

 

 エルディアの狙撃能力は確かなもので、集まってくるクンチュウ達を見事に弾いていたが、ついに手が回らなくなって俺達はクンチュウに囲まれてしまった。

 クンチュウ達は俺達の事など無視して、ぞろぞろとエスピナスの体表に登って行く。その光景は虫が苦手な奴からすれば絶句物の光景だろう。

 

 だが問題はそこではない。獲物がエスピナスに張り付いたことで近付いてくるイャンクックでもない。

 

 

「イャンクック来ちゃうよ?!」

「くっそ、なんだってこいつら態々エスピナスに集まってくるんだよ!」

「それは後で教えてやる。今は逃げるぞ」

 今の声でイャンクックに俺達の存在もバレたかもしれない。こうなってくればイャンクックは俺達という外敵を葬る為、クンチュウという餌をエスピナスから離す為に攻撃を仕掛けてくるだろう。

 

 

 ───そうなればいくらエスピナスでも黙って見ていてはくれない。

 

 

「馬鹿野郎、ここでまた逃げたら調査が進まないじゃねぇか! 大丈夫、エスピナスが俺達を守ってくれる」

「そんなおとぎ話を言っている場合か!」

「おとぎ話じゃねぇ! 現に俺は竜に救ってもらったんだ。人と竜は一緒に生きていける筈だ!!」

 そんなのは幻だ。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

「く、クック先生……こんにちは」

「グェェァッ!!」

 首を振り、その大きな嘴から火炎を吐き出すイャンクック。

 

「伏せろ!!」

 火炎は弧を描きエスピナスに直撃する。散らばるクンチュウ達。エスピナスは動かない。

 それでも、それが続けば───

 

 

「グェェァッ!!」

 業火がエスピナスの背甲を焼く。火に強いエスピナスだが、それと無条件にその攻撃を受け続けて大人しくしているかは逆だ。

 

 

「グェェァ」

「グォァァ───」

 飛竜は突如立ち上がる。翼を広げゆっくりと、しかしハッキリとした覇気を漏らすその竜は───

 

 

「───グォァァォアアアアッ!!!」

 ───吠えた(怒った)

 

 

「……っ?!」

「……言わんこっちゃない」

 流石に付き合ってられないぞ。

 

「な、なんだぁ?!」

 幸いエスピナスの眼中に俺達は居ない。イャンクックを襲っている間に逃げるが吉だ。

 エスピナスは古龍とすら張り合うモンスター。そんな奴と態々戦う必要は俺達にはない。

 

 

 

「クェェァッ?!」

「グォァァアアアッ!!」

 突然の動きに驚いて距離を取るイャンクック。しかしその動きはエスピナスにとって鈍足で、一瞬で間合いを詰めて強靭な肉体でイャンクックに体当たりをお見舞いした。

 横倒しになるイャンクック。そこに放たれるのはエスピナスが吐き出した火球だ。麻痺毒と出血性毒の混合物を燃焼させたブレスはイャンクックに手傷を負わせるのに十分だろう。時間はない。

 

 

「今のうちに逃げるぞ!」

「バカ言うんじゃねぇよ! エスピナスは俺達を守る為に戦ってくれたんだぜ?」

「まだ言ってるのか! そんな事はあり得ない。現実を見ろ!!」

「ん、だとぉ……? 現実を見るのはテメェだぜすっとこどっこい! 現にエスピナスは俺達を助け───」

 そんなのはおとぎ話だ。

 

 

 人と竜が共に生きる事なんてありえない。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

 

「グェェァ……ッ!!」

 堪らずにその場から逃げていくイャンクック。エスピナスはそれを無駄に追いかけはしない。

 縄張りさえ静かになれば、それで良いのだろう。その為に普段は温存している体力を使って立ち上がったんだ。

 

「……グルルォォァゥ」

 そして、まだ縄張りには小うるさい虫ケラが居座っている。

 

 

「ど、どうしたんだよエスピナス。俺達を助けてくれたんだよな? イャンクックを追い払ってくれたんだよな?!」

「グォオオァァァアアアアッ!!!」

 ───その小さな虫ケラはクンチュウではない。俺達だ。

 

 

「アレを見てまだそれが言えるならとんだ幸せ者だな!」

 言いながら俺は閃光玉を投げる。弾けたソレは次の瞬間強烈な閃光を放ち、辺りを一面白色に塗り替えた。

 ミズキは自分で伏せて、俺がアルディスを押し倒し俺達は閃光から逃れる。次の瞬間、エスピナスの短い悲鳴が聞こえた。

 

 

「な、何しやがる!」

「良く見ろ。あれが俺達を助ける為にイャンクックを追い払った奴の行動か?」

「は?! 何言って───……っ」

 エスピナスを見たアルディスは、驚愕して口を開けたまま固まる。

 それもそうだろう。エスピナスは───

 

 

「グルルォォァゥ……グォァァアアアッ!!!」

 ───怒りの形相で咆哮を上げながら暴れまわっていたのだから。

 

 

「な……ぁ」

「アレと仲良しごっこがしたいならここに残るんだな。ミズキ、エルディアを回収しに行くぞ」

「え、ぁ、う、うん……」

 こんな危険な奴が居るところからはさっさと立ち去るに限る。

 

 ───それが分からない奴は死ぬだけだ。

 

 

「さて、お前はどうする」

「俺は……」

「行こう、アル兄」

 木の上から滑ってきたエルディアが彼を諭す。

 アルディスは黙って俯いて俺達に従った。

 

 

 人と竜は相容れない。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 移動に時間がかかり、その日の夜は樹海に設置されたベースキャンプで夜を越す。

 

 

 ベースキャンプは比較的安全な箇所に設置されてはいるが、万が一の事を考えてハンター二人体制で見張りをする事になった。

 俺は最初に休みを取る事になり、今はキャンプの外で残りの三人が反省会を行なっている。

 

 

「そりゃ、俺が悪かったさ。クンチュウだって生きてるモンスターだ、それを蔑ろにした俺のミス」

 キャンプに帰ってくるまでに俺はクンチュウの生態を教え、どうしてあの結果になったかを突き付けた。

 そんな甘い考えのままなら、いつか命を落とす。こう付け加え、二度と馬鹿な事を考えないように。

 

「でも俺の考えを全否定する事ぁないだろ? 確かにエスピナスとは仲良く出来ない。でもいつかは共に生きる事が出来るモンスターだって見付けてみせる! お前は分かってくれるよな? 嬢ちゃん」

「え、えーと……私は」

「意見の押し付けはダメですよアル兄」

 だが、ミズキが本当に望む道はどちらなのだろうか?

 

 

 俺の考えよりも、彼らの考えの方がミズキの理想なら───

 

 そんな事を考えてしまう。

 

 

 

「いや、でもよぉ……?」

 だからか、俺はミズキの言葉が気になって聞き耳を立てた。

 ミズキが望むなら……俺は───

 

 

「私はアラン───」

 彼女の言葉は途中で誰かの足音に掻き消されてしまう。

 おい、聞こえないだろ誰だ。

 

「───が好きだから」

 ……ん?

 

 

 なんて言った……?

 

 

 

 ん???

 

 

「は?」

 い、いや、は?

 落ち着け俺。途中が聞こえてないだろう。勘違いだ。中に何か入ってんだから。

 

 だがなんだこの気持ちは……。

 

 

 俺は───

 

 

「盗み聞きとは意外です」

 俺が頭を抱えていると、エルディアがテントの中に入ってくる。……見られた。

 

「な、何のことだ」

「ふふ、案外可愛いところもあるんですね」

 童顔の小さい敬語の男はウェインが被って───ムカつくな。

 

 

「大丈夫ですよ、ミズキちゃんはあなたの虜のようです。ふふ、羨ましい」

 ど、どういう意味だ……。

 

 

「突然ですが!」

 エルディアは言いながら俺に近付いて、ウルク装備の帽子を脱ぐ。

 隠れていた長い髪が揺れて、そこには綺麗にまとまったポニーテルがぶら下がっていた。

 

 

 ん???

 

 

「あっはは、僕はこれでも一応女の子なので。心配しなくてもミズキちゃんを奪ったりなんてしませんよ」

「な、なん、なんの話だか。別に俺は───……というか、なんで男の装備なんか着て性別を偽ったりしてる」

 こいつ……俺がミズキに想いを寄せてるとでも思っているのか。

 

 

 ……どうなんだ、実際。

 

 

「んー、例えばあなたは僕が女って分かって書士隊の兄とハンターの僕をどう思います?」

「……別に大した事は思わない。男装する理由が分からん」

「ふふ、そう言ってくれると嬉しいです」

 なんなんだこいつは……?

 

 

「書士隊の先輩方はこう言ってくる事があったんです。……妹に守られてよく書士隊が務まるな、恥ずかしくないのか───なんて」

 そういう大人は一定数いるからな。仕方ないといえば仕方ないか……。

 

 

「あなたみたいな人もいれば、そういう人もいるんですよ」

 成る程、それでか。兄想いなんだな。

 

 

「僕は人によって色んな考えがあると思うんです。あなたみたいに人とモンスターの共存の境目をしっかり持った人や、アル兄みたいに踏み込んだ共存の形を信じてる人、普通のハンターさんはそんな事考えてもない人が多いでしょうし、モンスターを恨んでる人もいると思う。……そんな色んな考えがあって、でもそのどれも間違ってないって信じてます」

 そのどれも間違ってない……。

 

 

 それは、ライダーの存在を肯定する事になる。

 

 

 ミズキが進みたい道は───

 

 

「そしてどんな考えにも答えがある。だから僕はアル兄を信じて一緒に進みます。……女の子に守られるのが恥ずかしい事だって言うのがまた正しい事なら、僕は男になってでもアル兄を守るんだって決めてるんです」

 それがお前の答えか。

 

 

「信じられないかもしれないですけど、アル兄と僕は小さな頃モンスターに助けられた事があるんですよ。それは本当にたまたま偶然だったのかもしれない。……でもソレが偶然じゃなかったら、素敵だと思いません?」

 言い方があいつに似てるな。

 

「……お前は少しだけ、ミズキに似てるな」

「ふふ、そうでしょうか? 確かに僕もモンスターとは仲良くしたいですけど、ミズキちゃんはきっと───」

 ミズキにとって、彼女の進みたい道の答えは───正解はなんなのだろうか?

 

 その先にあるものがライダーなのだとしたら、俺はどうするのだろうか。

 

 

 ただ、エルディアという少年───いや少女は笑顔でポニーテルを風になびかせながらこう口を開いた。

 

 

「───きっと、あなたと同じ考え方ですよ」

 

 

   ◇ ◇ ◇

 

「そりゃ、俺が悪かったさ。クンチュウだって生きてるモンスターだ、それを蔑ろにした俺のミス」

 今回のクエストはアルさんとエル君、書士隊と護衛のハンターさんの二人に同行してエスピナスというモンスターの調査です。

 結果だけ言ってしまえばエスピナスが暴れ出し撤退を余儀なくされ、私達は今夜樹海のベースキャンプで過ごす事になりました。

 

 モンスターと仲良くしたいと言いながらクンチュウをイャンクックの餌としか見てなかったアルさんに、アランは怒っていたみたいで。

 ベースキャンプに着いてからちょっと長い間、私にもあまりしないような長い時間お説教をしていた。

 

 

 ちょっと怖かったのは内緒です。

 でも、アランの気持ちは少し分かっちゃった。

 

 クンチュウだって生きているモンスターだから、その命を蔑ろにするのは少し違うと思ったの。

 なによりアルさんの考え方はとっても素敵だから、余計にそんな風に思って欲しくなかったかな。

 

 

「でも俺の考えを全否定する事ぁないだろ? 確かにエスピナスとは仲良く出来ない。でもいつかは共に生きる事が出来るモンスターだって見付けてみせる! お前は分かってくれるよな? 嬢ちゃん」

「え、えーと……私は」

 うーん、どうなんだろう。

 

 

 とっても素敵な考えだと思う。

 

 モンスターと共に生きる。そんな事が出来たら、凄く素敵だって思う。

 

 

 でも、私が目指しているのはちょっと違うのかもしれない。

 

 

 確かにモンスターと共に生きてみたいとは思うけれど、私はハンターとして、自然の一部としてモンスターと触れ合いたいと思ってる。

 考えてみるとよく分からないんだけどね。違うように思ってるけど、別に大した差はなかったりするのかな。

 

 

「意見の押し付けはダメですよアル兄」

「いや、でもよぉ……?」

 でも私は───

 

 

「───私はアランの考え方が好きだから」

 ふと何も意識せずに口から出たのはそんな言葉だった。

 

 

 そっか、私はアランみたいになりたかったんだもんね。

 

 モガの村を出たのだって、アランの考え方がとても素敵だと思ったから。彼のようにモンスターと関わっていけるハンターになりたいと思ったから。

 

 

 ───私はアランの考え方が好きなんだ。

 

 

 

「……なるほどねぇ」

「あ、その、ごめんなさい! 別にアルさんの考えを否定してる訳じゃないんです。むしろ素敵な考えだと思いますし……」

 人と竜が共に生きていけるのなら、本当に素敵だと思う。それが出来るかどうかは別としてだけど。

 アランはそんなのは夢物語だと言っていた。私はアランの考え方が好きだけど、それはなんだか違う気がする。

 

 完全に否定できるものじゃないと思うんだ。それだって、モンスターとの付き合い方の一つだと思うから。

 

 

「そっか……。まぁ、そうだな。考え方は人それぞれだ。だから俺もお前やあのいけすかねぇハンター様の考えを否定するつもりはねぇよ。人にされて嫌な事はするなってな。……それじゃよ、一つだけ質問してもいいか?」

「はい。えーと、何ですか?」

 考え方は人それぞれ、か。

 

 ふふ、それこそ素敵な考え方ですね。

 

 

「ライダーっていう───竜と絆を結んで共に生きる存在は実在すると思うか?」

 竜と絆を結んで共に生きる存在。

 

 

 そんな人達が本当にいるなら、いたなら、私はどうするだろうか?

 

 いや、きっと───

 

 

「もしかしたら、そんな素敵な人達もいるかもしれませんね。───私はハンターだから、なれないと思いますけど」

 ───きっと、そんな存在が実在していたとしても。私はアランの考えに着いて行くと思う。

 

 

 

 だって私は、アランの考え方が大好きだから。




スナイパーライフルって格好良いよね()

どうも、直ぐに色んなものに影響される人です。最近アニメが面白いですね!
突然なのですが、申し訳ないです。次回の更新だけ普段より一週間遅れて投稿する事になりました。次回だけ普段の間隔での更新になりませんが、ご了承下さい。

次回の更新は12月24日になります。クリスマスですね!


それでは、本日もここまでで。またお会い出来る事を楽しみにしております。
感想評価お待ちしております(`・ω・´)

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