モンスターハンター Re:ストーリーズ【完結】   作:皇我リキ

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助っ人と異変の答え

 船を迎える。

 

 

 帽子を押さえながら船から降りたウェインは、逆の手を挙げて俺の名前を読んだ。

 

 

「どもー、アランさん。こんにちは」

「お前だけか?」

「シノアさんは忙しいので。別にパワーが欲しい訳じゃないでしょ? 適任だと思いますけど。それとも僕の事が必要ではないと申せられるのなら踵を返して帰らせて頂──冗談ですよ」

「すまない」

 素直に謝ると、ウェインは罰が悪そうな表情で両手を上げる。

 

 

「シノアさんが忙しいのは本当ですが、僕の分の仕事をなんとかすると言ってまで僕を送ってくれたので気を悪くしてあげないで欲しいですね」

「いや、助かる。俺も焦っているんだ。……すまない」

「そんなに謝られるとやりにくいなぁ。とにかく、現場に行きましょうか」

 ウェインを呼んだのは他でもない。洞窟に閉じ込められたミズキを助け為だ。

 

 

 

 アレから六ヶ月。

 俺達はゆっくりと洞窟の穴を広げようとしていたが、作業は難航していた。

 

 先月は作業中のムツキが軽い怪我をする事故もあり、最近では近くでモンスター達の動きが活発になって来ている。

 

 

 ミズキの体調も悪くなっていた。

 

 もう悠長にはしていられない。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 火竜の子育ては雄火竜が縄張りの巡回、雌火竜が巣の守りと育児の為の狩りというのが一般的だろう。

 

 

 

「──そうなると、これはどういう事だ」

「──アランさん、僕は今から死ぬんでしょうか」

 眼前の雌火竜──リオレイアに片手を上げて攻撃の意思がない事を伝えるが、リオレイアは口から炎を漏らして俺達を睨んだ。

 

 場所はモガの森のすぐ近く。

 ミカヅキとこのリオレイアはミズキが埋まっている洞窟の近くで巣を作っていた筈だ。

 

 

 それがなんで、こんなに巣から離れた餌になる草食獣も居ない場所で遭遇する。

 刺激を与えない為に巣には近付かないようにしていたが、何かあったのか。

 

 

「あまりミカヅキを怒らせたくないからな。コイツに攻撃したくない」

「そんな事言ってもアッチには伝わってないでしょうよ……」

「いや……」

 俺はライダーだ。

 

 この気持ちは伝わる筈。

 

 

 絆石を握って、リオレイアの目を真っ直ぐに見る。

 

 

 口から漏れる炎を揺らしながら、リオレイアは俺の目を見ていた。

 

 

 

「大丈夫だ。俺は敵じゃない」

 リオレイアは一瞬視線を揺らし、一声鳴いてから翼を広げる。

 悲鳴をあげそうになったウェインの口を押さえると、リオレイアはそのまま羽ばたいて島の中心に向かって飛び去っていった。

 

 

「今から僕達も向かう訳ですけど……」

「ウェイン」

「なんですか」

「頼む、着いてきてくれ」

「あーもう。分かってますよ。はいはい……」

 ミズキの事は当たり前だが、ミカヅキ達の事も気になる。

 

 

 俺はどうしたら良い。

 

 良くも悪くも道を示してくれたヨゾラもアキラさんも、居なくなってしまった。

 ミズキだけが俺の道標で──いや、違う。俺の大切なものだ。

 

 

 

 

「──アラン?」

 か細い声が洞窟の中から聞こえる。

 

 閉じ込められて六ヶ月。食事は渡せるし、ムツキ達は中に入って話す事も出来るが、それでも疲弊しているのは当たり前だった。

 

 

 一刻も早くここからミズキを出して、温かい食事と風呂、布団に。

 半年の間、俺は何も出来なかった。

 

 

「身体は大丈夫か?」

「……うん。大丈夫だよ」

 ゆっくりと口を開く。

 

 

 大丈夫ではない事くらい分かっていた。

 

 

 

「絶対に大丈夫。私、諦めないから」

「そうだな。少し待ってろ」

 そう言って、洞窟から離れる。ある程度離れてから、黙っているようにと言っておいたウェインに話しかけた。

 

 

「どうだ?」

「黙ってろって言われた意味だけは分かりましたよ。だいぶ衰弱してるので、アランさんが態々僕を呼んだって事実を知られたらミズキちゃんは心配しちゃうと思いますしね」

「そうじゃなくてな」

「だから言ったでしょ。その意味だけは分かったって。……正直、思っていたより面倒ですよアレ」

 そう言って、ウェインはミズキが閉じ込められている洞窟を指差す。

 

 

「モガの地形が理由なのか分かりませんけど、地盤とか諸々柔らかいんですよね。思っていたより崩れやすい感じなので、正攻法でやっても無駄でしょう」

「それじゃ──」

「落ち着いてください。僕がまだ喋ってます。焦り過ぎ」

 目を細めるウェイン。

 

 人の話を聞かないのは俺の悪い癖だという自覚はあるが、今の俺は客観的に見ても焦っていたらしい。

 

 

 

「逆に言えば、猫でも掘れるくらい柔らかい場所だということ。大タル爆弾でも置いてやれば、簡単に吹き飛ばせると思いますよ」

「ふざけて言ってるのか?」

「勿論そんな事したらミズキちゃんも一緒に吹き飛ぶか、良くて生き埋めです──そんな睨まないでくださいよ。まだ話してるんですから。僕が言いたいのは、力さえあれば簡単に退かせる障壁だという事です。まぁ、退かすのは簡単ですが問題はミズキちゃんが中にいるという事。ミズキちゃんが居る場所まで外からは三メートルくらいでしたっけ。人間にとってはちょっと長い距離です。手を伸ばしても届かない。……ですが、モンスターならどうでしょうか?」

 不敵な顔でそう言って、ウェインはいつもの長いお喋りを一旦区切った。

 

 

「モンスターなら?」

「はい。あの壁を吹き飛ばして中に居るミズキちゃんに直ぐに覆い被っても無事でいられるような強靭な生き物──モンスターならそのくらい出来るんじゃないですか?」

「出来るのとやれるのは違う」

「それはそう。でも、あなたはそれが出来る筈ですアランさん」

 真っ直ぐに俺の目を見る。

 

 

 

「でもそれは……」

「自信がないですか? まぁ、そうですよね。僕は他人事なので簡単に言いましたが、一歩間違えればミズキちゃんは死にます。そうでなくても上手くいく保証もないですし、当たり前ですがどう転んでもミズキちゃんは危険です。……それにアランさんは今ミカヅキに振られてますしね。出来る筈なんて言いましたが、僕の買い被り過ぎでしたか? であればミズキちゃんを救う事は不可能です。赤ちゃんだけ無事に産まれてくれたら? 赤ちゃんだけならネコみたいに出入りできるかもしれないですけどね。そもそもこのままいけば近い内にミズキちゃんは──」

「分かってる」

 俺が短くそう言うと、ウェインは少しだけ目を丸くした。

 

 

「怒ると思ったんですけどね」

「お前の言い方が悪いのがわざとやってるなんてのも、分かってる。……それ以上に俺は自分で思ったいた以上に怖かったんだな。分かってるなんて言ったが、分かってなかった。ありがとう、ウェイン。俺はバカだ」

 ウェインは正しい。

 

 

 

 俺は何処かでミカヅキから逃げていたのだろう。

 

 

 

 どう考えたって、俺達だけでミズキを助ける事は出来ない。そんな事は分かっていた。俺にはミカヅキの力が必要だ。

 

 それなのに、そうしようとしなかったのは何故か。

 

 

 

 怖かったんだろう。

 ミカヅキにまた拒絶されるのが。ミズキがこんなに苦しい思いをしているのに、俺はまた逃げていた。

 

 

 

「ありがとうウェイン。お前を呼んで正解だった」

「アランさん……なんか少し変わりましたね。気持ち悪い」

「お前は変わらないな」

 ウェインを殴り飛ばして、俺はミズキの元に駆け寄る。

 

 

「ミズキ!!」

「……あ、アラン? どうしたの?」

「お前を助ける。……これまですまなかった」

「ぇ、本当にどうしたの? 大丈夫?」

「大丈夫だ。だから、もう少しだけ待っていてくれないか」

「……うん。待ってる」

 強い意志の籠った言葉が聞こえてきた。

 

 

 

「……でも、どうするつもりなの?」

「ミカヅキに頼んでお前を助けてもらう。ちょっと荒技になるがら俺とミカヅキと……ミズキなら大丈夫だ」

「……そっか。うん、アランなら出来るよね」

「出来る。……そうだな。だから、もう少しだけ待っていてくれ。俺はミカヅキの問題を解決してやらないといけない。目を逸らしていたアイツと、もう一度向き合わないといけない」

「うん」

 アイツと向き合って、もう一度絆を結ぶ。

 

 

 

 ミズキの為は勿論、ミカヅキの為なのもそうだが──自分の為にも。

 

 

 

「信じてる」

 そんなミズキの言葉を聞いて、俺は一度その場を離れた。

 

 ミズキにはムツキ達が着いている。だから、俺は俺のやらなければいけない事に目を向けた。

 

 

 

「何を寝てる、ウェイン。起きろ」

「いやアンタがぶん殴ったんでしょ」

「お前が悪い」

「それはそう」

「頼む、お前の力も借りたい」

 そう言って、ミカヅキ達の巣に向かって歩く。

 

 

 ウェインは死ぬ程嫌そうな顔をしてから、黙って着いて来てくれた。なんだかんだで、コイツは頼りになる親の大切な()()である。

 

 

 

 

 ミズキが閉じ込められた洞窟の近くに高い丘があって、ミカヅキとモガの森に住んでいた雌狩人はそんな垢の上に巣を作っていた。

 

 以前確認した時には既に卵が出来ていたから、もう子供は産まれている筈だが。

 

 

 

 そんな事を考えながら巣に近付こうとすると、小さな紫が俺達の目の前を横切る。

 

 

「……思っていたより厄介な奴が相手だったな」

「大丈夫ですかこれ? 僕達囲まれてません?」

 森に小さく響く鳴き声が周囲から均等に聞こえてきた。

 

 

「囲まれてるな」

「終わった」

「終わってない」

 周りの気配に気を配る。

 

 

「ジャギィか……因縁だな」

 狗竜──ジャギィ。首周りの襟巻きが特徴的な小型の鳥竜種。

 

 

 ミズキや俺にとっては馴染み深いモンスターだ。

 

 

 まずは目の前に一匹。

 コイツに攻撃の意思はない。それどころか此方の様子を伺っているようにも見える。

 

 ただ、姿を見せてない奴が何を考えているのかまでは分からない。俺達を狙っているのか、それとも──

 

 

 

 

「ボスが居ませんね」

 辺りを見渡しながら、ウェインがそう言った。

 

 

「これだけの数がまとまってるなら、ボスが動かしてる群れなのかも思ったんですけど」

「ウェインの言う通り。統率が取れた動きをする小型モンスターは近くにボスが彷徨いてる可能性が高い。……ただコイツら、何かまとまっているようで動きがまとまってないな」

 ウェインと話している内に、周りにいた気配が消える。

 

 目の前で首を傾げていたジャギィも、俺を少し眺めた後真っ直ぐに()()()()()()()へと歩み始めた。

 

 

「目的地は一緒か」

「ジャギィがリオレウスの巣に用があるなんておかしいでしょうよ」

「さて、どうだろうな」

 おかしいから、おかしい事になっている。

 

 

 リオレイアが巣から離れた場所にいた理由と、何か関係があると考えた方が自然だ。

 

 

 

「何か理由があるとでも?」

「それを探りに行く」

 ゆっくりと進む。

 

 道中ジャギィ達をまばらに見掛けた。そのどれもが、ミカヅキ達の巣に向かっている。

 

 

 

 そして、空気が揺れた。

 火竜──ミカヅキの鳴き声。威嚇している。

 

 

「ミカヅキ……!!」

「ちょ、アランさん!! 置いてかないで!!」

 背負っているライトボウガンに手を掛けながら走った。

 

 今の俺は狩りになれば半人前だろう。

 けれど、ライダーとして生きるつもりでもハンターを辞めたつもりはない。慎重に、急いで走った。

 

 

 

「ミカヅキ……!!」

 草木を掻き分ける。

 

 視界に映ったのは、尻尾でジャギィ達を薙ぎ払い、火炎で焼くミカヅキの姿だった。

 

 

 

 その背後には幼体が三匹程見える巣がある。

 そしてその隣に、リオレイアとアプトノスの死体。

 

 

 

「どういう状態だ……」

 ジャギィがミカヅキ達の子供を狙っているのか。いや、違うな。そんな事をする理由はない。

 

 考えられるのは一つか。

 

 

 

 

 ミカヅキを囲むように集まるジャギィ達。

 ボスはいないようだが、目的の一致で固まっているように見えた。

 

 

 しかし、ボスの適確な指示があってこそジャギィの力は真価を発揮する。

 闇雲に動いた所で飛竜に勝てる道理はなかった。

 

 

 ただ、それでも立ち向かわなければならない理由がある。

 だとすれば、その理由は一つだ。

 

 

 

「あのジャギィ達は何をしてるんですかね? 死にに来てるんですか?」

「逆だ。生きる為にここに来てる」

「生きる為?」

「ジャギィ達の狙いはミカヅキの子供じゃない。……あのアプトノスだ」

 言いながら、俺はリオレイアが狩ってきたアプトノスを指差す。

 

 

 

「餌の横取り? なんで」

「ボスがいないから、だな」

「なるほど。このジャギィ達、何処かで群れだったけどボスが何らかの理由で居なくなった。……そうなると、出来なくなる事がある」

「仮説だが、俺はそう思う」

 本来ならボスと行動するのがジャギィ達だ。

 

 

 けれど、こんな無謀な事をしているのに周りにボスの気配もない。

 

 

 

 ジャギィ達はボスであるドスジャギィの指示で適確に動いて狩りを有利に進められるモンスターである。

 元々居た優秀なボスが消えた群れは、そのボスが居なくなった途端狩りに失敗し始める可能性も低くはない。

 

 

 そうなって、ジャギィ達は別の方法で餌を獲得しようとした。

 それが、他のモンスターが狩った獲物を奪う行為なのだろう。

 

 

 

「リオレイアが変な場所にいたのも何か関係がありますかね?」

「ジャギィ達がこんな事を他の場所でもしなければいけないような状態になっている程に、モガの森の草食獣の数が減っているという事か。ボスが居ないというのも気になるが、それだけじゃない気もする」

 ともあれ餌を取ってもこうしてジャギィ達に奪われる環境が続いて、ミカヅキだけでなく森の他のモンスター達もイラついているのか。

 

 そうすると草食獣達も敏感になって狩りが失敗しやすくなるという悪循環が回り始める訳だ。

 

 

 

「まだ何か引っ掛かるが……」

「相当賢いボスが居たんでしょうね、この群れ。残党とはいえちょっと面倒な感じありますけど」

「そうだな……」

 モガの森で出会ったドスジャギィの事を思い出す。

 

 あの時のミズキの反応が懐かしい。

 それに、あのドスジャギィには世話になったしな。居なくなった事を知ったら、ミズキも悲しんでくれるだろうか。

 

 俺は、この事を悲しいと思えるようになったんだな。

 

 

 

「……まったく、俺は結構お前に振り回されたよ」

「なんの話ですか?」

「こっちの話だ。ただ、思っていたよりも問題は面倒だな。深刻ではないが」

 言いながらミカヅキに視線を向けると、一瞬だけミカヅキと目があった気がした。

 

 

 

「待ってろ。俺がなんとかする」

 そう言って、ミカヅキに背中を向ける。

 

「アランさん? そのまま帰って良いんですか?」

「ミカヅキの心配をする必要はないからな。俺は俺のやるべき事を考える必要がある」

「信頼してるんですね」

「当たり前だ」

 ミカヅキの咆哮と、ジャギィ達の悲鳴が背後から聞こえる。

 

 

 逃げるジャギィ達に追い越されながら、俺は絆石を握りしめた。

 

 

 

「ちゃんとライダーにならないとな、俺は」

 これは目を背け続けていた俺の責任でもある。

 

 

 

 俺はもっとモガの森のモンスター達に目を向けなければいけなかったんだ。

 

 ミカヅキから逃げて、ミズキを言い訳にして、ライダーとしての自分を見失っていたのだろう。

 

 

 

 

「どうするつもりですか?」

「モガの森を全部調べる。この場所のモンスター達が今どうなっているのか、俺はちゃんと理解しないといけない。……モンスター達と絆を結んで、分かりあう。それが俺達モンスターライダーだからな」

「へぇ……。本当に、変わったんですね」

 怒隻慧を追っていた俺にこんな言葉を聞かせたら、どんな反応をするだろうか。いや、今はそんな事はどうでも良い。

 

 

「これで良いんだろ、ヨゾラ」

 森を歩いた。

 

 

 

 このモガの森は、様々な生命が絶妙なバランスの中で共存しあっている。

 

 ミズキの大切な場所。

 それは、俺にとっても大切な場所になっていた。

 

 

 

 モガの森の水辺にはロアルドロス、ダイミョウザザミ、ラギアクルス。森にはジャギィ、アオアシラ、草食獣達。

 丘には火竜、ホロロホルル。他にも様々な生き物が生態系を作り上げている。

 

 

 それは少しでもバランスを崩せば、数年前にイビルジョーが現れた時のように崩壊していく程に繊細な環境だ。

 

 

 

 俺やミズキが見逃していた、何か新しい問題がこの島にはある。

 

 それはミカヅキ達の繁殖でも、ドスジャギィが居なくなった事だけでもない。

 もっと大きな、何かこの島を揺るがすような──

 

 

 

「──そうか」

「何か分かったんですか?」

 モガの森をしばらく歩いて、ようやく気が付いた。

 

 

 

「……そんな事が出来るモンスターはこの島にアイツしかいない」

「アイツ?」

 この島の生態系は三つの()が一番上に立って、それに連なっている。

 

 

 海の王者ラギアクルス、陸の女王リオレイア、空の王リオレウス。

 

 その三種がこのモガの森の生態系の頂点に立つ存在であり、それは()()()()()()でもない限り覆らない。

 

 

 

「この島にあった元からある火竜の巣は、何者かに襲われてもぬけの殼だった。冷静に考えればすぐ分かる事だが……そんな事が出来るモンスターはそうはいない」

「一応流し見た半年前の報告書にそんな事書いてありましたね。ミズキちゃんが洞窟に閉じ込められる前でしたっけ? モガの森の生態系がおかしくて、調べていたらリオレイアが元居た場所から居なくなっていた」

 ミズキの事でそれどころでなくなっていたのはあるが、俺達がモガの村に戻ってからずっとこの島の生態系はおかしかった。その時点である程度気を付けていなければいけなかったのだろう。

 

 

 

「何が生命と向き合うだ。……俺はまだ()()()としっかり向き合えて居なかったって事じゃないか」

 怒隻慧がこの島の王だったリオレウスを殺した事で起きた生態系のパワーバランスの影響だと、俺はその程度にしか考えていなかった。

 

 

 

「どういう事ですか?」

「この島には居るんだ。ラギアクルスよりも、リオレイアよりも……リオレウスよりも力が強く、生態系を狂わせる事が出来るモンスターがな」

「まさか──」

 そう、一匹だけ。

 

 

 一匹だけ、この島には以前()()()()()()が存在していた事がある。

 

 

 

 ソレそのものはミズキが倒した。

 

 

 

 だけど、ソレがもし──()()()()()()()()()()()()()

 

 そしてその血を注いでいるなら、全ての納得がいく。

 

 

 

 

 

「……やっぱりか」

 以前、火竜の巣だった場所に走って、俺はその痕跡を見付けた。

 

 

 

 鋭く、恐ろしい程に大きな牙。

 俺の大切な物を何度も奪ったものが脳裏を過る。

 

 

 

「「──イビルジョー」」

 俺とウェインは、この島の異変の正体を突き止めた。


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