MADMAX Fury of ArmoredCore -V-alhalla 作:ティーラ
かわりに地獄がここにある。
ヒト、水、食料、燃料だってある。
そんな世にあと何が足りない…?
協力し合って生きていこうという絆か?
死んでも死にきれない者が集う
『煉獄』だ。
さぁ、一緒に煉獄を作ろうじゃないか――。
荒んだウェイストランドにそびえ立つ3つの巨大な岩山。この巨岩こそ最後の安住の地、シタデル砦。生き延び、生き残るために人々は今日もやってくる。
「この20年、無駄にしない。絶対に成功してみせる。母さん…」
その中にひっそりと設けられた薄暗い一時待機所。擦り傷だらけの鏡を見ながら、女は黒色のグリースを塗る。「良し」、と鏡に映る自分に覚悟を決めた女は、待機所を出る。薄暗い部屋から一転、目潰しの如く差し掛かる太陽光線に半眼になる。
外では民衆が騒がしくしている。目から額にかけてグリースを塗った女はそんな情景を目にしながら歩を進める。丸刈りにした時の多少残った頭髪とグリースが見事に黒で統一されている。うなじには焼き印、左腕は血が通うことのない義腕。片腕がない分の力をハーネスとコルセット、そしてショルダーパッドで補う。どれも皮製でしなやかな代物、女性が使うには十分だ。
水と食料と救いを求めてやってきた者たち、腕なし脚なし目なしなど体の一部が欠損した者たちの総称。
知っているだけで約5000以上はいる彼らが行く先はある紋章が浮き出た岩山のふもと。
岩肌を削って作り出した巨大な円形シンボル。燃えるハンドル、その中央部は
6人ほどのリフト係が合図を送る、踏み車が起動しリフトが降下する。10人ほどの人力で動く4つの踏み車で降ろされる昇降機には超大型輸送車両。ガラガラと堅い音を発し、重々しく動く滑車と踏み車。地面に接地した途端耳をつんざく爆音を出す。輸送車両の重量がその音の大きさを物語る。
女は持ってきたハンドルをステアリングへ差し込み、ロック確認。ハンドルを軽く左右へ傾け動作確認。スイッチを4、5回ほど押し、イグニッション開始。短い煙突から黒煙を周囲に吐き出し、エンジンが唸る。
「俺たちはウォーボーイズ!」
《ウォーボーイズッ!》
「俺たちは死を恐れない!」
《ウォーボーイズッ!》
「俺たちは死んで、よみがえる!」
《ウォーボーイズッ!!》
掛け声と共に女はトレーラーヘッドをバックし、大型輸送車両を連結させる。
「連結完了オォ!!」
またその総称を
このシタデル砦の戦士たちは基本全員白塗り、頭髪体毛は禁じられている。上流階級の者は白塗りにする必要はない。エンジン機構やアーマードコア(AC)のパーツ類を模倣した刺青を体中に施すことで一人前の戦士として認められる。
いつにも増してウォーボーイズの数が多い気がする、アタシにも監視の目がきたか。
彼らは一体いつ
一歩二歩と重心を変えない歩き方を披露するACが一機、運転席に座る女を通り過ぎる。輸送車両の積み荷スペースへ乗車、8輪輸送車両が弾む。ACは機能を停止させ、圧縮エアの排気音と共にハッチをスライド。ACから降りたウォーボーイが乗車確認をした。もう一機、砦の上空から舞い降りるAC。コアパーツに取り付けられた4つのノズルスカートからはブースター特有の白い炎。ガス切断機のような閃光を放つジェット噴射はACをゆっくりと降下させ、車両の空きスペースにぴったりと脚を着かせた。総合計14輪、大型タイヤの弾みに女は「もっと丁寧に乗れよ」と吐き捨てる。ACが2機乗車後、Z字状のクレーンでそのACを固定、蜘蛛の巣にも似た入り組んだフルトレーラーと化した。
車両の後部、ガソリンタンクを連結すると、掛け声の続きに入る。
「俺たちはガスタウンに向かうッ」
《
「水をたっぷり用意したァ」
《
「作物とミルクもたっぷりある!」
《
「巨人も二人用意した!」
《
このような掛け声は飽きるほど聞いてきた。だからといってそれを止める権利はないし、止めるつもりもない。
一定のリズムで行う
アクセルペダルを軽く踏み、トレーラーは大きく唸る。エンジンの振動が地面と空気をビリビリと震えさせる。いつでも発進できるようにとエンジンを温める。
一方、シタデル紋章の口の奥。白塗りの子供、戦士見習いのウォー・パプスが白塗りの粉を吹きかけている。
「っご、ゴォホ、グッ…く……」
ある男の太った背中、潰れた腫瘤や浮腫が広がる背面は咳き込みで波打つように揺れる。
不衛生な体を白塗りの粉である程度清潔であるように見せ、防弾ガラス製ボディアーマーとシンボルベルトを白塗りしていない上級ウォーボーイが装着させる。スカルを模したマスクを自身の口へ運ぶ。首の後ろにかけてチューブに繋がれた折り畳み式生命維持装置と空気タンクを背負う。呼吸をし始めると膨らみ縮小、肺としての機能を開始する。
呼吸困難を患う男にとって、汚染されていない正常な空気が吸える生命維持装置は必要不可欠である。また蝕まれた体を外気から守るアーマーも必要不可欠な存在だ。だがそれは基盤や勲章、銅銀金メダルをこれでもかと装飾したボディアーマー。上顎骨と下顎骨、人間の顎を模した特製マスク。そして白塗り。ここまでデコレーションをする必要はあるのかと思うが、それはこの呼吸困難な男にとっては
男は2人の上級ウォーボーイの手を借りて立ち上がり、噴水の如く無限に湧き出る水を背にシタデル紋章の口へ歩く。口から外の景色を伺うと、その男を一目観よう惨めな人達がふもとに集っていた。惨めな人達は大衆となり、装飾された男を視認すると歓声が上がった。
「ジョーさまぁ、おめぐみをぉぉ!!」
「ジョー!ジョー!イモータン・ジョー!」
「イモータン・ジョーッ!」
「ジョー様を称えよォーッ!」
「ジョー!ジョー!イモータン・ジョー!」
「ジョー!ジョー!イモータン・ジョー!」
「ジョー!ジョー!イモータン・ジョー!」
その歓声は大衆だけでなくウォーボーイズも共鳴し、砦の下層部は歓喜に包まれた。上級ウォーボーイが下にいる者たちへ大号令をかける。
「皆の者ォ、不死身のイモータン・ジョー様がお見えになられた!ジョー様称えよォォ!!」
シタデル砦の首領、圧制者にして神格的象徴。
恐ろしいまでの装飾はこの
2つの岩山に設置された集光鏡群が紋章を照らす。強烈な日の光を当てた紋章はジョーをより神の姿へ変えさせる。その横にいくつもの人形の首を繋げた異様なネックレスをかけた、長身で筋肉質の男がマイクを持って現れる。
ジョーの息子、筋骨隆々の赤ん坊。
マイクを不器用に弄り、ようやく電源を付けてジョーの口元へ届ける。
「我々はァ、ウォー・タンクを走らせガスタウンとバレットファームへ向かう。ガソリンと弾薬、巨人を補充。これを任せるのは、我らが
「諸君らの魂はァ我が魂と共に、英雄の館へと導かれるッ!」
《V8!V8!V8!V8!》
《V8!V8!V8!V8!》
《V8!V8!V8!V8!》
ジョーの演説が岩肌に反響し砦を巡る。ウォーボーイズ全員、大衆も手指をクロスさてV8エンジンを模した合掌をジョーにさらしては『V8』と声を合わせ皆叫ぶ。巨人を器用に操作するウォーボーイ、硬質な10本の指をクロスさせる。
これがジョーの教える教義。
魂はヤツと永遠に?英雄の館へ招かれる?
「我こそはァ偉大なる救世主イモータン・ジョー!この不死身の力で惨めなお前たちはァ不死鳥の如くゥ、よみがえるッ!」
……。
先ほどの大歓声が嘘のように静まり返る。すると大衆は何かを求めるようにシタデル紋章へ駆け寄る。
「さ、いこう」
「やっと、やっとなのね」
「いよいよだぁ、お水がやっとぉ」
うわ言を漏らす者が大半、乾ききってしまった惨めな人達はジョーの真下へ歩を進める。黄ばんだ皿にコップとさらには浴槽。器ならばなんでも良かれと皆器を掲げ、シンボルへまっしぐらに向かう。もうすぐで水が飲めるのだから。
ジョーは紋章の牙部分、銀のレバーをそっと握り、一気に前へ倒す。厚い地面の下から何かが湧き上がるような震動が足に伝わる。紋章の下部に備え付けられた3つの巨大出水パイプ、シタデル紋章から汚れ無き神聖な地下水が湧き、ごうごうと滝の如く水が噴き出す。滅多にお目にかかれない虹が地下水を歓迎するかのように架かる。
数日ぶりの水に歓喜する惨めな人たち。我先我先と水を求め大衆も湧き出る。紋章から地上までは相当な落差、水は途中から霧状になり大衆が集う地上へ降り注ぐ。その結果掲げる器は湿らせる程度、一滴一滴と集めるのがやっとのこと。
ジョーはここでレバーを引き、水の出を止める。出水パイプから水の勢いが即座に収まり、排水管からは寂しく数滴垂らす。今回はたったこれだけ。たったこれだけの水のためにジョーを称えなければならない。「水が必要だ、飲ませろ」と水の取り合いが始まり、悲鳴絶叫が飛び交う。
信仰すれば生き永らえる。水がもらえる。イモータン・ジョーを称えれば生きられるという教えをこのような形で叩きこむ。
フュリオサは、トレーラーからその情景をただじっと見る。これが最後の光景だと言わんばかりに。
「いいかよく聞け、水に心を奪われてはいけない。禁断症状で生ける屍と化してしまうぞォ…」
ジョーはリクタスからマイクを奪い、惨めな人たちに忠告する。だが地上は思ったよりひどく、わずかな水の取り合いのためにジョーのありがたいお言葉を聞く耳など持つはずもない。ジョーはシタデル紋章を後にする。
「これからいく。ガスタウン、伝えろ」
リクタスが区切りながら上級ウォーボーイに命令し、父であるジョーの後を追う。
超大型攻撃輸送車両ウォー・タンク、発進。フュリオサが運転する一方でウォーボーイズたちは手指をクロスしたまま、砦から出るまで止めない。
踏み車は逆回転し、昇降機が上昇する。群衆は清浄な砦の上層区で暮らしたいとリフト係にお願いをする。惨めな人たちは知っているのだ、この上こそが救いなのだと。無断で上がろうとする者にはリフト係の制裁が。それでも上へ行きたいという者は自分の体と引き換えにしてもらおうとしてくる。救済のためとあらば平気で体を差し出す。気に入られた者が上へ上がれる。ある種、惨めな人たちの選定だ。だが上へ行ける者はジョーが必要とする者だけと決まっている。
「あ、あたし、ミルク、ミルク出る」
「オレ、兵士として戦いたいッ!」
「この娘は子供が産める。上へ行かせてあげてっお願い!!」
親が子供だけでもとリフト係に懇願する。それを聞いた一人が「よぉし、お前だけ上がれぇ。他は駄目だぁ」幼い少女の腕を掴みリフト台の中心へ連れて行く。これに乗じた大勢の者が上がろうとする。既にリフトは数十メートルまで上昇していた。許可なくリフトに乗ってしまった者はそこから突き落とされ、血の海を作り出す。
「…………」
男はそんな大勢の狂気の叫びを聞いていた。その狂暴さ故にウォーボーイズによって幽閉される羽目になってしまった彼は吊り下げた鳥かご状の檻の中でどうやって逃げようか、この危機からどう脱しようかと試行錯誤している。自然と視線は小窓の方へ。外の大騒動を耳にしながらまたしても、ぼうとしていた。
外に比べ陰気な場所。じめじめとした、瀕死のウォーボーイが数十人と横に並べられているこの場所は採決区画。唯一小窓から差し出す日の光が瀕死状態の彼らを救済するように照らしている。
「ガス欠のウォーボーイか?」
「ハイオクを輸血してやれ」
狂気の医者、
新品と聞いて自分だと思った男は檻の格子にしがみつく。若い兵士が男を降ろそうとするが、しがみついたまま動かない。突き棒で電気ショックを与える、男は必死に電撃に耐えるが強引に降ろさせる。
「おいおい大事にしろ、貴重なんだからぁハハハッ!」
重量二脚ACを先導にウォー・タンクは橙の道を真っ直ぐ進む。フュリオサはサイドミラーに目をやる。武装バイク2台、武装四輪駆動車1台、さらに中量
すべて乗り物は2人乗りで運用・運転するようになっている。1人が運転、もう1人がサンダースティックでの戦闘と割り振られている。このご時世、バイクも車も貴重品なのだ。それはACであっても同様である。
ACでさえも2人乗り。1人が操縦・戦闘。もう1人が『目』としての役割を果たす。基本ACは1人乗りだ。ならば何故2人乗りでなければならないのか。理由は至ってシンプルだ。ウォー・タンクの前を先導するACには『頭』がないから。ハッチから上のパーツが一切ないのだ。
アーマードコア――。
かつて…この世界の戦争で用いられたとされる普及兵器、を発掘・再生したもの。過去の大量殺戮戦争で使われていたのか、そのACの残骸が世界各地に散らばっている。世界も人間も崩壊した今となっては、この巨人を生産する力などほぼないに等しい。そのためバイクや車のような戦力になる物体を見つけては可動できるように改造している。それでもウェイストランド周辺で見つけられるACは僅かばかり、AC用兵装にも同じことが言える。ACに全パーツが揃っているケースなど到底あり得ないことだ。あったとしても今積み荷スペースに積んでいるあのAC2機だけ。
出力不足なジェネレータ、半分イカれたお飾り用頭部パーツ、どこに当たるか分からないKEミサイル、エトセトラエトセトラ……。砦にはそんな不完全なパーツやACが山ほどある。勿論不完全であっても操縦することは可能だ。まともに戦うことができない人形なだけ。
その対策としてACにも2人乗りが採用されている。1人が操縦・戦闘、そしてもう1人がサポートに入る。でなければ本当に人形という的と化してしまう。
フュリオサ率いるウォー・タンク一行はまず先にガスタウンへ。ガソリンを補給し、さらにそのままバレットファームにも行き弾薬を補充。簡単なミッションだ。
縦長のサイドミラーから砦を見る。信号灯が点滅していることから、ガスタウンへのシグナル・ライトだろう。
砦から出発してずいぶん経つはず。そろそろだ……やろう。
ギアをひとつ下げ、減速チェンジ。エンジン音はひとつ低く唸る。ガクッと揺れるウォー・タンクは大きく弧を描きながら曲がり、ピッタリ90°の左方向へ進路変更。追走する守備部隊も後を追う。先行する
咄嗟のことで戸惑うウォーボーイズたち。自分たちは兵士、戦うことしかできない。ガスタウンに行かない理由を知りたくてウズウズしている。そこで機転を利かせたエースがフュリオサの所へ向かう。ゴーグルのブラックレンズを光らせながらクレーン、AC、その他諸々のパーツを横切り、トレーラーヘッドの左ドアに取り付く。運転中の大隊長フュリオサに問いかける。
「ガスタウンが先なのでは?」
「・・・・・」
「…バレットファーム、ですか?」
「……
「――みんなに知らせます」
この問いに正確な答えを出さないフュリオサ大隊長。エースは疑問を持つも一端その疑問を飲み込み、深くは追及せずに後部車両へ向かい、伝令をする。
「作戦変更ォ!サンダーアップだ、陣形サンダーアップ!巨人前へッ」
ウォーボーイズ総員戦闘
「おいエース、どういうこった!!?」
「いいから、大隊長の命令だ!」
大隊長からの命令は絶対厳守。事実、女だからといってその命令を無視・嘲笑した者は数多い。だがあのモーター付き義腕によって何本もの首をへし折ってきたのも、また事実。そして大隊長が持つ優れた統率能力は白塗りの兵士たちを信頼させるほどの代物であることも、これまた事実。それゆえエースであっても、その命令に逆らうなど考えもしない。そうはいうものの、白塗りの兵士たちは戸惑いを隠せないでいる。なぜならこの先は……。
砦の一角、外の世界が見渡せる展望区画。そこには『超』が付くほどの肥満体女性が敷き詰められた場所。
あることに失敗してしまった女性達。砦と外部施設との主要取引物資であるマザーズ・ミルク、所謂母乳を絞り出すための家畜。
膨張し垂れ下がった両方の乳房に搾乳機を付けられている。手元には赤子の人形。本物の赤子のようになだめながら、あたかも乳牛の扱いをされている。牛乳ビンに入ったミルクをジョーがリクタスに渡す。クリーム色の母乳をひと口、滑らかな味に舌づつみを打つ。
「んん~、んまいぃ」
「ねぇパパ、コレ見てよ」
野太く、それでいて赤子口調のリクタスとは対照的に声のトーンが少し高めの小人がジョーに呼びかかける。その間リクタスは牛乳ビン並々の母乳を飲み干している。
子供の身体に入った大人。
赤子用の椅子に鎮座し、望遠鏡に望遠鏡を足したような超倍率望遠鏡を覗くコーパス。そこを入れ変わりジョーが覗く。
砦からガスタウンまでは掘りも塀もない砂漠の一本道。これを真っ直ぐに進めばいいだけ。だが大隊長ことフュリオサが率いるウォー・タンク部隊はその一本道を外れて東へと向かっている。
「あっちは、敵の土地だよ…?」
砦から少し離れた東には自分たちと同じく皮膚病に侵された盗賊一味が待ち構えている。彼らもこちらと同じように武装駆動車や不恰好なACといった戦力が確実にある。
ジョーは理由が分からなかった。ガスタウンでガソリンを補充、その先のバレットファームで弾薬を補充。それ以外に、なにが……。
「
はっとしたようにジョーは望遠鏡から離れ慌てた様子でその場を後にする。リクタスの素っ気ない発言がジョーを動かした。そこを見逃さなかったコーパスは望遠鏡に興味がいったリクタスを我に返そうとする。
「リクタス」
「俺にも、俺にも見せろって」
「リクタス、リクタスッ!」
リクタスは望遠鏡を覗こうとする。リクタスは子供だ、体は大人でも中身はまるっきし赤ん坊そのもの。それをよく理解しているコーパスは望遠鏡への興味を完全に逸らそうと小さい手でリクタスの顎を掴む。
「リクタス、ぼくはこんな体だ。だからお前はパパと付いてろ、ほら行けッ」
望遠鏡、コーパス、望遠鏡、コーパスと交互に見やる。それでも望遠鏡を見たいという子供心を押さえ、ジョーの元へ走り、すっ飛んで行った。
直立したら60cmもないコーパスのことをよく理解しているのはリクタスだ。だから代わりに自分が父の所へ行かなくては、という正論を突きつければ。屈強な兄を相手にするとはいえ、コーパスにとって赤子なリクタスの扱いは慣れたものだ。
ジョーは恐れていた。自分の老いよって、今まで築き上げてきたものすべてを台無しにしまう日が……必ずやってくる。自らの老齢で死神を引き寄せてしまう前に、なにか考えねばと。そして見つけた。
『育種プログラム』。不死身の血を受け継ぐことができる優秀な子孫を見つけ、未来永劫その名を残す。ジョーが考えた歪んだ計画。
だが…初めて産んだ子は、ただの肉塊。その次の女からも肉塊。その次の女からも、その次も、その次も――。失敗した6人の女たちはミルクを出すための道具として。何度も何度も続けていって、ようやく原型を留めて生まれた血の繋がらない3人兄弟。だがそれはジョーが持つ歪んだ心が子にまで感染する結果となってしまった。
兄のリクタス・エレクタス。
次男のコーパス・コロッサス。
そして三男、精神異常者にして殺人狂。
ジョーは正直言ってあの兄弟たちに不死身の座を渡すつもりはなかった。リクタスは
もっと素晴らしい子ができるはず。
あの5人の子産み女たちならば。
失敗したら、ミルクになるだけ。
ここ最近、反抗的になってきた女たち。
何故?何故なんだ一体…?
あともう少しだ、あと少しなんだ。
分かってくれスプレンディド。
もう少しで産まれるんだ。
私の可愛いスプレンディド。
私の愛しい赤ん坊―――。
耕作室。作物が青々と実り、水が霧となって降りつける。まさしく天国の憩いの場をドスドスと走るジョー。この先はジョー以外入ることが許されない(余程のことがない限り)場所。故にリクタスも何も言わず耕作室の一歩手前で足を止めるが、どうしていいか分からず挙動不審になる。
ジョーの丈の2倍はある丸型扉、頑丈な金庫扉の鍵を回す。音は出さずに重々しく動くマンモス扉の先へ足早に進む。
「スプレンディドォ!!?」
痰がらみの声が清らかな部屋に響く。綺麗な酸素、空気タンクが不要でもいいほどに清浄なドーム空間。隔離されたこの部屋はそんな素晴らしい女のために作られたオーダーメイド。ここで抱き、ここで産む。失敗したらミルクになるだけ。
「スプレンディドォ?」
「どこに行った…?スプレンディドォ!!」
木霊するジョーの声。だが反応する者は……やはりいない。彼女だけでなく、他の女たちまでも。
地面に塗られた文字、5人の女たちは文字が書けない。書ける者としたら、女たちの教育係――。
「あのコたちはモノじゃあないッ!」
ジョーがいる数十メートル右、土の壁をえぐり削って設置した子産み部屋に白髪で全身に刺青を入れた老婆がショットガンを突きつけ怒号する。
「あの娘たちは立派な人間だッッ!!」
「ミス・ギティ……なんのマネだァ!!?」
歴史の語り部。
ジョーが作り出した、歪んだ産物のひとつ。世界崩壊前の記憶を刺青として記した人間歴史辞書。
「老いぼれヒストリーメンの分際でェェ」
「アンタも似たようなモンだろうサ!」
ギティは二連ショットガンをジョーに向ける。このために用意していたとで言わんばかりに構える。敵対心の塊と化したギティにジョーは鬼の形相を浮かばせ突っ走る。
「貴゛様゛アァ!」
「ざまァないよ当然の報いだ」
ギティのしわしわな指がトリガーに、大ブレだが確実にジョーへ照準を合わせる。
「どこだァ!!どこに連れていったァ!!?」
「連れていかれたんじゃない。自分たちの意志で逃げたのサァ!」
発射、銃声が轟く。だが弾丸はジョーに当たらず真上の岩肌を削らせた。一歩早く銃身を鷲掴み、上へ持ち上げていた。削り落ちる砂と一緒に胸倉をたぐり寄せ、脱力したギティに再び問う。
「どこに連れていきやがったァ!!?」
ギティは笑う。
「手の届かないところサ」
シタデル砦は一気に騒然となる。ジョーの子産み女が全員奪われたとなれば事態は急を要する。戦力のすべてを投入、ウォーボーイズ総出で向かうことになった。相手はあのウォー・タンクだ、必要とあらばガスタウンとバレットファームへ応援要請もありえる。
ドラムの地鳴りが砦を揺らす。ウォーボーイズを最大限に高ぶらせる、それは耳に入っただけでハイテンションと化すほどに。
病に苦しみ息切れをしているウォーボーイでさえ、ボルテージが上がるのだから。
次回、ニュークスきゅん回です。
1か月以上遅れます確実ですぅぅ(怒)
全然関係ない話なんですが、ニュークスと妖怪首置いてけは同じ声優だなって思った。
でもウチはMXが見れない(´;ω;)
そんでこれも関係ない話なんだけど、リクタスのシーン書いていたらあのスイーツプロレスラーが出てきた。リクタス役だったとはいえ母乳飲んでるシーンを思い返してたら笑っちまった。
いいからリクタスは大リバースだッッ!
アンタ水どうのびっくり人間でしょ!!?(違う)