いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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世界は、どんどんおかしくなっていきました。


フォーチュンカップ騒動
異邪神


異邪神

 

「というわけで、今回のフォーチュンカップに参加していただけますね? 山崎恵一さん」

 

「…、えぇ、分かりましたよ…」

 

「フフ、その時には是非、そのデッキにある深き闇を解放してくださいね」

 

「………」

 

夕暮れ時、治安維持局、最上階。

そこで僕はある指令を言い渡された。

指令というか、命令だけど。

 

目の前で、依頼人であるゴドウィン長官さんが、ニンマリと笑ってこちらを見ている。

明らかに友好のソレではない。

くそ、どうしてこうなった。

こんな紙切れごときのために、皆なんでここまで躍起になるんだ。

 

今までもそうだ。

グールズとかいう連中も、このカード達が欲しいと言って襲ってきた。

セブンスターや光の結社とかいう奴らも、皆口を開けばコイツラの事ばかり。

そして武藤や遊城たちも、このカードには気を付けろ、って言うばかり。

欲しかったらカードショップ行けや、多分あるだろ。

 

いったいなんなんだよ。

なんでこのカードばっかり。

確かに、この世界に来てからなぜかコイツらは強くなった。

コイツらを使っていれば負ける事はほとんどなかった。

でも、コイツらにだって穴はある。

絶対はない。

 

そこらへんにあるカードと同じ、ちょっと名前が仰々しいだけじゃないか。

それがなんで、こんなことに…。

 

 

 

 

 

なぜ、僕がこんな状況に陥っているかというと、事は数日か前にさかのぼる。

 

あの廃遊園地で行われたショーの後、灰村さんが首に痛みを感じたと言った瞬間、倒れたんだ。

原因は分からない。

いきなり呻き出したかと思うと、音も無く倒れてしまった。

 

すぐに救急車を呼んで、病院まで運ばれたんだけど、未だ意識は戻らない。

何なんだ…、いったい何が原因で…。

かつての生徒が苦しんでいるというのに、何もできない事がもどかしかった。

あとで灰村さんのご両親が来て、思いっきり殴られた。

当たり前だよな、娘をあんな目にあわせたんだから。

 

でも、いつまでもイジイジしていられない。

このままでは、彼女が起きた時にまた蹴られてしまう。

僕は彼女に何が起きたのか調べていった。

 

彼女の症状からいろんな病気を調べ、現場であるあの廃遊園地にも何度か行ってみた。

しかし、分からない。

熱も無い。

大した外傷も無い。

本当に、眠っているだけだ。

なのに、起きない。

 

 

 

何が、どうして…。

 

 

 

 

 

 

それから数週間が経った。

全く突破口が見出せず、完全にお先真っ暗になってしまっていた時、ある人から呼び出しを受けた。

その人が、あのレクス・ゴドウィン長官だったんだ。

 

意味が分からなかった。

管理局の、警察の人が来たのならまだ分かる。

不正にネオドミノに来たんだからな。

だが、逃亡者の逮捕など下っ端がすればいい。

なぜ長官自ら、しかも管理局に招待されるのか。

それが分からなかった。

 

でも、拒否はできなかった。

仕様も無い。

ピエロみたいな人、イェーガーって人は任意で構わないと言っていたが、実際は黒い服来た怖いお兄さんに腕組まれてルンルンで連れてたんだから。

なんだ!?

別にヤーさんとかには引っかかってないぞ!?

そんな事を考えて、とにかく僕は混乱していたんだ。

 

 

 

そして、長官殿の部屋についた時、そこには優雅に外を眺める長官がいた。

遠くから見るのとでは、威圧感が全然違う。

彼は振り返り僕を見ると、信じられないことを言った。

 

「ようこそ、山本恵介殿。 いえ、山崎恵一殿、と呼んだ方がいいでしょうか?」

 

頭の中が真っ白になったよ。

は?

なんで、この人は、僕の事を、知っている?

今まで守り通して来た、誰にも知られていないはずの事。

それがなんで、この人は、知っている?

 

「不思議にお思いでしょう。 何故、私が貴方の事を知っているのか。 簡単ですよ、ある女性からお聞きしたのです。 貴方がどんな人物なのかを」

 

…、何を、言っている?

 

「山崎恵一。 出生は旧ネオドミノシティである童実野町。 かつてのデュエルキングの旧友であり唯一互角に渡り合えた存在。 多くの修羅場を仲間達とともに乗り越え、不死の体現者となる。 その後、デュエルアカデミアに入学し、ヒーローの申し子である遊城十代達ととも知り合いになり、数々の危機から世界を守った英雄…。 以上で間違いないですか?」

 

「…、英雄ってところはよく分かんないけど、不死なのは合ってますよ」

 

今更ごまかしてもしょうがないので、そのまま応えた。

 

「…此処まで来てまだ誤摩化しますか。 フフ、まったく、貴方は本当に面白い人だ。 未だ私に本性を見せてくれないとは…」

 

本性?

何のことを言っている。

僕は僕だ。

本性なんて無い。

 

「まぁ、いいでしょう。 問題なのは、貴方が持っているその三枚のカードです。 一度、見せては頂けませんか?」

 

「三枚の…、まさか、こいつらの事ですか? そんなに見せるものでもないんですけど」

 

おそらく、長官が言ってるのは僕の切り札の事だろう。

今まで絡んで来た連中も、大抵がそれに関連してる。

僕はデッキからカードを取り出すと、長官に見せた。

すると長官は目を見開くと満面の笑みを浮かべて手を振るわせていた。

 

「………、すばらしい…。 それが、闇を統べるものたちの姿ですか。 なんとも、おぞましくも神々しい姿だ…」

 

確かにかっこいいが、この人は何を言ってるんだ?

だめだ、いまいち状況がつかめない。

 

「さて、ここに来ていただいた理由は二つあります。 まずは、これを見ていただきたい。」

 

切り返し早いなこの人。

そう言って長官は手を叩くと、部屋の様子が一変した。

なんだこれ、祭壇か?

目の前には、大きな祭壇がそびえ立ち、何かよく分からない絵が上空に描かれていた。

ソリッドヴィジョンの応用なのだろうが、なにか、様子がおかしい。

とても幻とは思えない。

神々しい何かを、持っていた。

 

「お教えしましょう、今、この世界で何が起ころうとしているのかを。 赤き龍の伝説を」

 

 

 

その内容は、とても信じられるものではなかった。

なんだよそれ、完全にオカルトじゃん。

冥界の王?

シグナー?

なんだよ、それ。

 

「貴方なら、大抵の事はすでにお見通しなのでしょう。 まったく、私達も貴方が収容所で問題を起こすまで、どこで何をしていたのかまるで分からなかったというのに、すでに調査済みだったとは…」

 

わけ分からん。

新しい催し物の企画か?

そうとしか思えない。

こんな訳の分からん話、あってたまるか。

しかも別に調べてないし。

此処で知ったし。

 

しかし、ゴドウィンさんの顔は真剣そのものだし、余計混乱して来た。

こんな夢物語あるはず無い。

だが、こんな大掛かりな事をしてまで僕にこの事を教えた理由が分からない。

…まさか、本当なのか?

くそ、全然分からん。

頭痛くなって来た。

 

「さて、一つ目の目的は果たしました。 次の事なのですが…、貴方には今度行われるフォーチュンカップに出ていただきたいのです。 シグナー達の力を解放するために、ね」

 

ん?

今なんて言った?

フォーチュンカップに出れるのか!?

そりゃ願っても無い事だ!

さっきまでの意味不明話はとりあえず置いといて、あの大会に出れるのは普通に嬉しいぞ。

 

「あ、あの大会に出れるんですか!? いやぁ、なんでか知りませんが出させていただけるんなら喜んで「ええ、もちろん。 貴方が拒否する事は分かっていましたよ」」

 

おい、話聞いてよ。

拒否なんてしてないよ。

行きますよー?

僕めっちゃ行きますよー?

 

「ですので、貴方には少し特別な賞品をプレゼントしました。 こちらを」

 

え?

なに、特別賞品まであるの?

マジですか嬉しいなー、お兄さん張り切っちゃいますよ!

だから話を…

 

「こちらの薬品、この薬は貴方の大切な方を助ける事ができるものです。 これさえあれば、彼女の病気もすぐに治りますよ」

 

…え?

今なんて言った?

病気が、治る?

 

「あの、それって…、もしかして灰村さんのことですか…?」

 

「えぇ、もとから知っていますよ。 彼女を救いたいならば、この薬を与えるしかありません」

 

まさか、そこまでやっていてくれたのか、長官。

嬉しいな、やっぱり管理局ってのは市民の味方なんだな。

プライバシーとかガン無視の調査されたけど、まさか灰村さんの病気を治す薬まで用意してくれたなんて。

年甲斐も無く泣けてきましたよ。

もう、断る理由なんてないな。

 

「はい、そう言う事でしたら是非さん「騙されるな、恵介!」」

 

僕が大会参加を決意表明しようとした瞬間、誰かに遮られた。

見ると、不動がドアの前に立っていた。

ん?

マーカーついてる。

そうか、キミも何かで捕まったんだね。

 

「ゴドウィン、アンタのやった事はもう分かってる。 ジャッカル岬に特別な毒薬を打ち込み、その解薬と引き替えに恵介を大会に出させようとしているんだろ」

 

 

 

は?

何?

どういう事?

いやいや、ゴドウィンさんは彼女のために薬を用意してくれたんだよ?

 

「そうでしょ? ゴドウィ…」

 

その時、僕は言葉を失った。

僕が確かめるようにゴドウィンさんを見た時、彼はさっきまでの柔和な笑みではなく、他人を騙す詐欺師の様な、薄っぺらい笑みを浮かべていたんだ。

 

「ご、ゴドウィンさん?」

 

「フ…、不動遊星。 貴方がその事を彼に言う必要はありませんよ。 彼はすでにこの事は把握済みです。 そうでしょう? 山崎恵一殿」

 

いや、知らないよ?

何言ってんのアンタ。

つまり何か、灰村さんが苦しんでるのは、アンタが仕向けたことだってのか…?

 

「…おや、まさかこの事は知らなかったのですか? だとしたら、少し墓穴を掘ってしまいましたか。 まぁいいでしょう。 それで、どうしますか? 彼女を救うために、大会に参加しますか?」

 

…コイツ。

くそ、どういうことだ。

全く状況に追いつけない。

とりあえず、灰村さんが倒れている原因はこの人にある事は分かった。

でも、それ以外が分からない。

そもそもなんで、ゴドウィン長官は俺なんかを大会出させるために灰村さんにあんな事をした?

別に出ろと言ったら喜んで出るぞ?

それなのに、なんで彼女を巻き込んだ?

 

信じろって言うのか?

さっきの夢物語を。

シグナー、赤き龍、ダークシグナー、冥界の王。

世界をかけた、神々の闘争。

そんなこと、本当にあるのか…?

 

 

 

ワケが…分からない…。

 

 

 

「では、もっと端的に言いましょう。 貴方が大会で勝ち進まなければ、灰村岬は助かりません。 どうです?」

 

「く、ゴドウィン…!」

 

不動は、悔しそうにゴドウィンを睨んでいる。

ゴドウィンは、勝ち誇った表情で僕を見ている。

 

やめろ…、何見てんだよ…。

くそ…。

 

 

 

 

 

そして、話は冒頭に戻るってわけだ。

 

「…というわけで、今回のフォーチュンカップに参加していただけますね? 山崎恵一さん」

 

「…、えぇ、分かりましたよ…」

 

「フフ、その時には是非、そのデッキにある深き闇を解放してくださいね」

 

「………」

 

…闇?

……あぁ、コイツらの事か。

…いいとも。

いいともさ。

使いましょうとも、このカード達を。

 

こんな紙切れ達のために人の事を痛めつけて…、何が目的なのか知らんが、そっちがその気ならこっちにも考えがある。

手加減なんて、しないからな。

 

「…いいでしょう。 僕の邪神をお見せします…」

 

苦し紛れに、睨みながらそう言った。

もっと気の利いたこと言えんもんかね、僕は。

でも、しょうがない。

今の僕にはどうすることもできない。

最大権力を前にして、目に見える程に悪態をつくのが、せめてもの反撃だった。

 

「……………えぇ、楽しみに、…してますよ」

 

「………恵介…お前…」

 

不動が何か言い足そうな顔をしているが無視した。

ごめん、今は話とかできないわ。

僕は管理局から逃げるように立ち去ると、ある場所に向かった。

そこは病室。

灰村さんが寝ているところである。

 

 

 

「…やぁ、灰村さん。 元気にしてた?」

 

彼女しかいない病室。

目を覚まさない彼女に、話しかけた。

 

「まったく、いつまでもこんな所で寝てちゃ、体も弱っちゃうよ。 さっさと体治さないとね…」

 

何を言っても反応しない灰村さんを見て、胸が苦しくなった。

 

「…絶対に、助けるからね……」

 

そう言って、僕は病室を出た。

大会は、一週間後だ。

特に準備する事は無いが、心構えだけはしておこう。

絶対に、彼女は助ける。

だからゴドウィン、アンタの口車に乗らせてもらうよ。

 

でも、覚悟していてね。

知ってるかい、ゴドウィンさんよ。

ゾンビって、しぶとさだけなら神レベルなんだよ。

 

不死者を舐めるなよ。

 

 

 

 

 

 

『エブリバディ、リッスン! 待ちに待ったフォーチュンカップ、ついに開幕だぁー!!』

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

そして、とうとう大会がやってきた。

やっぱりかなりの人が来ているな。

でも、そんなこと気にする事ができない。

本当なら、僕は観客として、灰村さんと此処にいたはずだ。

 

だが、僕は選手としてここにいる。

望んでいたのに、全く望まない形で、ここにいる。

ダメだ、全然嬉しくない。

周りを見る事ができない。

 

早く、早くデュエルをしなくちゃ。

さっさと終わらせて、薬を貰わないと。

その一心だった。

不動や他の出場選手に話しかけられても、相手にする事ができなかった。

 

 

 

「ふん、最初の相手は誰かと思えば、マーカーだらけの犯罪者か。 この騎士たる我がお前に裁きの鉄槌をくれてやるわ!」

 

そして、遂にデュエルの時が来た。

相手は、変な鎧を着た、ジルなんとかって人。

エンターテイメントのためにあんなの着てるみたいだけど、付き合う気はない。

こんな形で参加させられたんだ。

引き立ても何もなしに、ぶっ潰させてもらうよ、ごめんね。

 

『さぁ、お互いが全力を出し、最高のデュエルを見せてくれぇー!!』

 

「行くぞぉ! デュエルだぁ!!」

 

「……デュエル」

 

ジル・ド・ランスボウ LP4000

 

山崎恵一 LP4000

 

「我のせんこ「僕からいく、ドロー」…くそ!」

 

さっさと行くか、どうせ次のターンには来るだろう。

…今思えば、あいつらを召喚する事を最初から考えていれば、これほどやりやすいデッキは無いな。

 

「…僕はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

『おぉー!? 山崎選手! モンスターを召喚せずにターンエンドだぁー! どういう事だ!? まさかの手札事故かぁー!!!』

 

…、五月蝿いなあの人、まぁいいか。

 

「ふん、何もしないのなら、こちらから行くぞ! 我のターン」

 

「………」

 

「黙りか、愚か者め! 行くぞ、我はマスクドナイトLv3を召喚!」

 

マスクド・ナイト LV3

ATK1500 DEF800

自分のターンのスタンバイフェイズ時、

フィールド上に表側表示で存在するこのカードを墓地に送る事で、

自分の手札またはデッキから「マスクド・ナイト LV5」1体を 特殊召喚する。

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に相手ライフに

400ポイントのダメージを与える事ができる。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃する事ができない。

 

 

相手のフィールドに、小さなかわいい騎士が現れた。

…なんだあれ、見た事無いな。

 

「行くぞぉ! マスクドナイトLv3の効果発動! 相手に400ポイントのダメージを与える!」

 

すると、可愛い騎士の兜から光が生じ、僕めがけてやって来た。

…ここで普通なら、苦しむようにするべきなんだろうけど、別にいいか。

付き合う必要はない。

 

「く、何だその目は! 気に食わん! まぁいい、すぐに目の色を変えさせてやる。 いくぞ、魔法発動、レベルアップ!」

 

レベルアップ!

フィールド上に表側表示で存在する「LV」を持つ

モンスター1体を墓地へ送り発動する。

そのカードに記されているモンスターを、

召喚条件を無視して手札またはデッキから特殊召喚する。

 

『来たぁー! ジル選手、ここでレベルアップを発動! ということはぁー!!?』

 

「いくぞ、出よ! マスクドナイトLv5!」

 

マスクドナイト LV5

ATK2300 DEF1300

自分のターンのスタンバイフェイズ時、表側表示のこのカードを墓地に送る事で

「マスクド・ナイト LV7」1体を手札またはデッキから特殊召喚する。

1ターンに1度、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える事ができる。

この効果を発動したターン、このカードは攻撃できない。

 

おや、進化した。

なんかグロイな。

ベキベキっていってるし。

 

「さらに行くぞ! Lv5の効果発動、貴様に1000ポイントのダメージだ!」

 

はぁ、またバーンか。

 

山崎恵一 LP2600

 

「ふふ、苦しかろう。 恐らくその伏せカードは攻撃へのカウンターだろうが、我が騎士はただ敵に突撃するだけの能無しではないわぁ!!」

 

はーん、一応考えてるんだ、あの騎士さん。

まぁ、違うけどね。

 

「効果を発動したターン、マスクドナイトは攻撃できない。 我はカードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

『さぁ、これでジル選手のターンは終了だ! 山崎選手、ここからどうやって逆転するんだぁー!?』

 

周りの観客達はすでにあきらめムードである。

早く次のデュエルを見せてくれ。

そう言ってる人もいた。

大丈夫、すぐ交代するから。

 

「…、僕のターン、ドロー」

 

引いたカードは、見る必要も無いな。

この局面、そして手札の内容。

来るのはあいつだろう。

 

今まで我慢させてごめんね。

すぐに、出してあげるから。

 

リシドさん、力を借ります。

 

「僕は伏せカード、アポピスの化身を二枚とも発動する」

 

アポピスの化神

このカードは自分または相手のメインフェイズにしか発動できない。

このカードは発動後モンスターカード(爬虫類族・地・星4・攻1600/守1800)となり、自分のモンスターカードゾーンに特殊召喚する。

このカードは罠カードとしても扱う。

 

僕はフィールドに、リシドさんから貰ったカード、アポピスを二体召喚した。

その異様な姿に、観客は騒然となっていた。

…、こんなんで騒いでいたら、これからヤバいんじゃなかろうか。

まぁいいか。

 

「さらに手札より、デビルズ・サンクチュアリを発動」

 

デビルズ・サンクチュアリ

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を

自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、

かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

「ふん、壁を増やした所でなんになる。 その程度しかできんのか! 貴様はぁ!!」

 

今までならね、でももう手加減する必要ない。

 

「…、フィールド上の三体のモンスターを生け贄にする…」

 

「は? 生け贄? リリースではないのか…?」

 

うっさい。

コイツら出すときは生け贄って言葉がしっくりくるんだよ。

 

さぁ、久々のお披露目だ。

気張っていくぞ。

 

 

 

「開け、漆黒の劇場! 暴虐の惨劇を今此処に!!」

 

 

 

僕のかけ声とともに、足下に一直線上に太い黒線が広がり、歪な光を発しながら徐々に広がっていく。

おぉー、このエフェクト超久しぶり。

 

「な、なんだ!? この光は! うぐぅ!?」

 

おぉ、びっくりしてるびっくりしてる。

まぁ、コイツら専用の特殊エフェクトだかんね。

早々見れるものじゃないな。

 

「邪炎のもとに現れよ、覇に生きる者。 汝が前にあるは塵芥のみ!」

 

周り見ると、観客達は何かを叫んでいたりする。

やっぱ興奮するよね、かっこいいもん。

あ、雨雲が掛かって来た。

これもエフェクトの一つなんだよね。

よかった、何年も使ってなかったからどっかおかしくなってないか心配してたんだよね。

 

「剛来せよ、邪神 ドレッド・ルート!!!」

 

邪神ドレッド・ルート

ATK4000 DEF4000

このカードは特殊召喚できない(変更対象)。

自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

 

久々にその姿を見た。

あまりにも大きいその巨人は、持ち主である僕ですら若干怖く感じる。

久しく感じてなかった、この高揚感。

うわ、だめだ、テンション上がって来た。

 

「な、なんだ! この化け物は! お前は、お前は一体なんなんだ!!?」

 

「山崎恵一だよ、知ってるはずだよね」

 

もう自分を隠す必要も無い。

あー、でも変な人に捕まったらやだなぁー。

マッドな科学者とか。

いや、変な人にならもう捕まってるか。

 

「ドレッド・ルートの効果、このカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力は半減する。 フィアーズ・ゲイン・パワー」

 

ドレッド・ルートが大きな雄叫びを上げると、相手のフィールドにいたマスクドナイトは膝を抱え、うずくまってしまった。

 

「な!? ま、マスクドナイト!」

 

「まだ終わりじゃない。 僕は魔法カード巨大化を発動。 これにより僕の邪神は強さが倍になる」

 

巨大化

自分のライフポイントが相手より下の場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を倍にした数値になる。

自分のライフポイントが相手より上の場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力を半分にした数値になる。

 

今まででも十分怖かったドレッド・ルートがさらに大きく、歪なモノになっていく。

これを敵として見たら、どんな気持ちなんだろう。

考えたくもない。

 

「こうげ…! はっせ…ん…!? ヒッ、ヒィッ!」

 

あー、ジルさんおびえちゃった。

仕方ないね、これは逃げてもいいレベルだ。

 

「行くぞ、どこまでも堕ちていけ。 ドレッド・ルートの攻撃」

 

「! は、ハハッ! この時を待っていたのだ。 トラップ発動炸裂装甲! これで貴様の仰々しいモンスターは墓地送りだぁ!」

 

炸裂装甲

相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。

その攻撃モンスター1体を破壊する。

 

あぁ、やっぱりカウンター系だったか。

なんかあの人、怯えながらドヤ顔してるな。

正直よく分からん。

まぁ、前の世界でなら此処で終わりだったけど…残念。

 

「…残念だけど、神にトラップは効かないよ。 砕け、ドレッド・ルート」

 

僕がそう言うと、まずドレッド・ルートは軽くマスクドナイトを叩くと、相手がまとっていた炸裂装甲を粉々に砕いた。

 

「な、は、ひ………! な、なんだ、なんだなんだなんだなんだなんだ!! なんなんだ、そのモンスターは! お前は!?」

 

「邪神だよ、知ってるだろ?」

 

「知らん、そんな化け物、我は知らんぞ!」

 

おや、邪神シリーズを知らないと。

Vジャン買ってないのか。

まぁいいか。

 

「行くぞドレッド・ルート、再び攻撃だ」

 

「ひ、ヒィイイ!!?」

 

ドレッド・ルートの目が怪しく光ると、暴風を巻き上げながら振りかぶる構えをした。

ほんと、昔から変わらないわ、コイツら。

いっつも来んでもいいのに手札に来て。

そのせいでいっつも負けて。

ずいぶんと不自由な思いをさせてしまったね。

ごめん、これから思いっきり頑張ろう。

 

「フィアーズ」

 

「ま、まて…」

 

「ノック」

 

「待ってくれ…」

 

「ダウン」

 

「やめろぉぉぉぉ!!!」

 

遥か上空から、怒りの鉄槌が叩き込まれた。

大きな地割れが生じ、足場が少し不安定になる。

…ここまでリアルにする必要あるのかな。

恐るべしソリッドヴィジョン。

マスクドナイトは欠片も残らず粉砕され、その衝撃でジルさんは吹っ飛んでいった。

 

「ひ、ぎ…ぎゃああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

ジル・ド・ランスボウ LP0

 

これで僕の勝ちだ。

もう、此処にいる必要は無い。

 

僕は歓声とどよめきの止まらない中、自分の控え室に戻っていった。

 

 

 

 

 

その時、世界には大きな異変が起きていた。

初めは気象局、管理室。

そこに勤める局員達は、いつものように変わらない地球を見守っていると、いきなり大きな異変が起きた。

 

「な、なんだこれは!? こんなもの、今まで見た事が無い!」

 

けたたましいサイレンが鳴り響く中、異変の中心部が赤く染まっていく。

 

「どうした、一体なんだと言うのだ!」

 

「せ、先輩! これを! く、雲の流れが、風を無視して大きく変動しています」

 

それはあり得ない光景だった。

本来風とともに流れるはずの雲が、その流れに逆流してある一点に向かっていたのである。

しかも、その雲は只の雲ではない。

大きな嵐を起こす程の密度の濃い凶悪な雲になっていた。

 

「ば、場所は! これはどこに向かっているんだ!」

 

「分かりません! 現在もものすごい勢いで移動して「く、雲が動きを止めました!」」

 

監視をしていた局員が大声を上げ、全員が地図を見る。

その雷雲は、ある町にぴたりと止まっていた。

町だと!?

 

「ふざけるな! あれほどの大きな雲が町に止まったりしたら、どれだけの被害が出るか分からんぞ!」

 

本来、雲は常に移動するものだ。

台風もしかり。

常にそこに留まらないからこそ、災害が延々と続いたりはしない。

しかし、この雲は違う。

全く動かない。

まるで自分のものだと言っているように、静かに町の真上に止まっていたのだ。

 

「こ。この町では何が起きている! 被害の方は!?」

 

「いえ、かなりの暴風が吹いているようですが、未だ被害はゼロです。 ただ、この町では大きなデュエル大会が行われており、人が多くいます!」

 

「な、なんだと!?」

 

最悪だ。

今はまだ何も無くても、これから何が起きるか分からない。

 

今すぐ避難勧告を、そう思った時に、今度はモニターに異変が起きた。

 

「ひ! き、局長! モニターが何者かにジャックされました。 光景が変化します!」

 

最悪に、最悪が続く中、モニターは黒い何かを映し出した。

 

「だ、誰だ!? この重大な時に、遊びに付き合ってる暇は『まぁーそう言うなや、お偉いさんよ』ッッ!?」

 

モニター越しに、何かがしゃべり出した。

おかしい、このモニターにはスピーカーなどついていない。

音声が出てくるなど、ありえない。

 

『ちょーっと黙ってくれりゃいいんだよ、アッチで王様が久々に本気を出していてな。 邪魔が入ったら困るんだよ』

 

黒いそれは徐々に形を作っていき、歪んだ瞳でこちらを見て来た。

いや、あれは目なのか?

分からない、全てが。

大きな竜の様な口の下には、人の顔の様な何かがついている。

 

異形。

言い表すならば、それしかなかった。

 

「お、お前は…。 何者だ! 何故こんな事をする!!」

 

『あ? だから言ってんだろ。 王様が頑張ってんのさ。 サポートすんのが俺たちの仕事なんだよ。 っと、あっちは終わったか。 …さて、証拠は消さなくちゃな』

 

そう言うと、異形はこちらを見据え何かをしだした。

それが意味する事はわからない。

ただ、本能が逃げろと告げていた。

此処にいてはいけない。

早く、早く逃げるんだ。

 

部下をそこに置き、局長はすぐさま部屋から出て行った。

部下達の静止の呼びかけにも応じず、ただ走り続ける。

 

そして管理室の部屋を出た瞬間、後ろから大きな悲鳴がこだましていった。

先程まで元気に働いていた部下達が、今までに聞いた事の無い様な声を上げている。

 

「局長! 助けてください! きょくちょぉぉぉおおお!!」

 

その言葉を、局長は無視した。

ただただ、己が助かる事を祈って。

 

そうして走り続け、管理局の出口を開けた瞬間…

 

『はい、ざーんねーん』

 

局長の意識は、失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…うりゅー……

 

あら、どうしたの? こんなに怯えちゃって…

 

うりゅ、りゅりゅー!

 

…そう、あのばか先生、遂にあのカード使ったんだ。

 

うりゅー…

 

大丈夫、何があっても私が守ってあげるから、ディレ家の人間は、必ず約束は守るんだから。

 

 

 

 

 

ヴァ!? ヴァーイ!!

 

うん、分かってる。 やっと力を使った。 これで任務を再開できる。

 

ヴァーイ!

 

大丈夫、闇に飲まれたりはしない。 絶対に。

 

…ヴァー……

 

うん、問題ない。 これより標的の監視を再開する。

 

 

 

 

 

あら、この感じ…。

 

ビィ、ラビィ!!

 

えぇ、分かってますわ。 あの人、やっと全力を出したのね。

 

ビビッ! ラァービィ!

 

ふーん、やはり簡単には行かないのね。 …まぁいいわ、難しければ難しい程燃え上がるもの。

 

ラヴィ!

 

フフ、待ってなさい先生。 私、欲しいものは絶対に手に入れますの。

 

 

 

 

 

……!? ねぇ、今のって!

 

シズカ!

 

うん…。 アは、アはは! やっと見つけた! 今度こそ、逃がさない!

 

うわぁーやる気だねシズカ。

 

そりゃそうよ、彼をモノにするために私達と契約までしたんだから。

 

そうね、姉様。 それにしてもこの子、あの時は本当に怖かったわ。 捕らえる側の筈の私達ですら、恐怖を感じた程ですもの。

 

フフ、でもそのおかげで、私達は新しい家族を手に入れたのよ。 彼女というね。

 

うん、そのおかげで毎日が楽しいもん!

 

アはは、フフ…待っててくださいね、恵一さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………!! おい、今の!

 

あぁ、きっと恵一のヤツが邪神を使ったんだ。

 

どういう事だ、あいつはあのエセ貴族との約束で化け物どもは使わないんじゃないのか?

 

事情は分からない。 だが、あいつがその約束を破ってまでも使ったという事は、そうしなきゃいけない状況だってことだ。

 

ならば、行くのか?

 

あぁ、きっとあいつは困ってる。 すぐに行くぞ! ユベル!!

 

十代、行くのはいいがどこに行くんだ。 場所は分かるのかい?

 

アイツは確か今もアカデミアにいるはずだ、行くのはネオドミノシティだぜ!

 

ニャー…、一体何が起こっているのニャー………。

 

 

 

異邪神の名のもとに、かつての真なる英雄は集う。

 

 

 

 




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