いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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少年は、本当の自分を見せたかった。


少年

少年

 

俺の名前はラリー、ラリー・ドーソンだよ。

生まれも育ちもサテライト、生粋のサテライト人間ってわけだ。

親の顔は覚えていない、物心着いた時にはもう孤児園にいたんだ。

 

友達はいないって訳じゃない。

むしろ多い方だ。

昼間には皆とサッカーをして、夜は皆でご飯を食べた。

 

何年か前に遊星たちと出会って、ジャックたちと一緒に遊んだりした。

遊星は理想のDホイールを作るために毎日頑張っているし、ジャックや皆はソレを満足そうに眺めたり、手伝うために部品集めをしていたりした。

俺も、遊星の助けになりたくって、いろんな部品を集めた。

時には闇市から部品をかっぱらって、バレて追われたりもした。

そんな時は、いつもジャックや遊星がデュエルで追っ払っていった。

 

贅沢はできないけど、毎日が楽しかった。

ハラハラして、危険なことも一杯したけど、それも全部ひっくるめて、俺は楽しかった。

 

 

 

でも、何か足りなかった。

いくら仲間と話したり、笑いあったりしても、何かが足りない。

ポッカリと胸の中に穴が空いているように感じた。

 

原因は分からない。

どれだけ考えても、よく分からない。

相談しようと考えたこともあったけど、ブリッツたちにバカにされると思って、言えなかった。

結局、誰にも言えずに一人で抱え込んでしまっていた。

 

 

 

そんな感じで、いつものようにフラフラと外を歩いていたら、いきなり警察の人に腕を掴まれた。

隣には、昔Dホイールの部品を盗んだ店の主人がいた。

あぁ、俺捕まっちゃったんだ。

 

なにくそって振り切って逃げようとしたけど、相手はバイクに乗っていて、また直ぐに捕まった。

遊星は、さすがに間に合わなかった。

 

ていうか、その時はちょうどジャックにDホイールを奪われてすぐだから、どうしようもなかったんだ。

まぁ、自分が蒔いた種なんだから、自分で償わなくちゃ。

いつかこうなることは分かってたんだから、しょうがないか。

そう思った。

 

 

 

捕まった後、すぐにマーカーを付けられた。

顔を焼かれる痛みに耐え切れず、ギャーギャー泣きわめいちゃったよ。

だってすっごく痛いんだよ、アレ。

正直何度も受けれるものじゃないさ。

 

それから収容される期間が言い渡された。

2週間か、まぁ妥当だよね。

あー、くそ、今から退屈だなー。

遊星たちとも会えないし、暇つぶしもないし、どうしよっかなー…。

 

で、自由時間にプラプラ歩いていたら、誰かとぶつかって転んだ。

見ると、いかにもって奴がすごい顔してこっちを見てきた。

あー、ついてない。

めんどくさいなー、って思っていたら、いきなり頬を殴られた。

めちゃくちゃ痛かった。

ジンジンと痛む頬を撫でながら茫然としていると、急に変な気分になった。

なんというか、焦りに似ているんだけど、なんていうか、一番嫌な感覚だった。

 

それで、自覚したんだ。

俺は一人だ。

一人なんだ。

どれだけ友達を作っても、一人なんだ。

なんだか、すごく乾いた気分になってしまった。

足りない、欲しい、いつも一緒にいてくれる、いつでも弱い自分を出せる、そんな存在。

皆に弱いところを見せたくなくて、ずっと虚勢を張って生きてきたんだ。

 

俺は、皆より小さくて、弱くって、勉強もそんなにできない。

だから、ちょっとでも変に思われたら、すぐに一人に戻ってしまう気がした。

違う、遊星たちはそんなこと絶対にしない。

分かってるけど、想像してしまうんだ。

俺は、俺が思っている以上に弱い人間だったんだ。

 

俺だけが特別なんかじゃない、それも分かってる。

でも、耐えられなかった。

寂しかった。

俺が足りないと思っていたのは、家族だったんだ。

はは、むなしいな。

欲しいものは、もうないのに。

どうすりゃいいんだよ。

 

急に自分が情けなくなって、嫌になった。

悪い考えが、どんどん生まれてくる。

どうして俺には家族がいないんだ。

どうして俺はサテライトになんているんだ。

どうして俺はこんなに弱いんだ。

 

どうして…「僕」は…

 

 

 

「ヴぁ? ちょっと、キミらその子になにしてんのよ?」

 

…だれ?

 

知らない声、でもなぜか落ち着く。

よく分からないけど、気持ちが安らぐ。

まるで真っ暗な部屋の中で、ふかふかの布団にくるまっているような。

いや、それ以上の、感じたことのない幸福感。

でも知っている。

この優しく包まれるような感覚を、僕は知っている。

 

恐る恐る前を見てみると、そこにはマーカーだらけの男がいた。

マーカーの数は、犯した犯罪の数。

それが顔中にあるということは、この男は今までにいろんな事件を起こした極悪人であるということだ。

 

でも、その人はそんなひどい人には見えなかった。

極悪人?

違う。

そんなんじゃない、この人は犯罪者ですらない。

そう思えた。

まとっている感じが悪人のそれではない。

証拠はないけど、そう思った。

 

その人は、僕を殴った人たちを追っ払うと、僕のもとに来てくれた。

そしてそのまま、僕を彼の部屋に連れて行ってくれた。

男、けーすけの部屋は、はっきり言って最悪だった。

環境がじゃない。

住んでる人間がだ。

 

皆見覚えがある。

放火や薬、最悪殺人をしたような奴らばっかりだ。

けーすけがいた部屋は、不幸にもそんな本物の極悪人たちが同居する部屋だったんだ。

 

でも、様子がおかしい。

皆けーすけを避けている。

それどころか、目を合わせるだけで部屋の隅でおびえてしまっていた。

なんなんだろ、この部屋で何が起こったんだ?

疑問が絶えなかった。

そんな僕をおかまいなしに、けーすけは僕の腫れた頬に優しくガーゼを張って、治療してくれた。

なんで医療具を持ってるんだろ?

駄目だ、分からな過ぎて混乱してきた。

 

 

 

でも、その理由がすぐにわかった。

ある日、僕はいつものようにけーすけのベッドに腰掛けて遊んでいた。

なんか、けーすけの臭いがすると、すっごく落ち着くからだ。

 

そこで、アイツのズボンを見つけた。

アイツは今風呂に入っていて、配布されているパジャマに着替えて行っていた。

風呂から出てから着替える方がいいと思うんだけど…。

 

いや、問題はそこじゃない。

気になったのは、アイツのズボンのふくらみ。

詳しく言うとズボンの後ろポケット。

露骨に何か入っていた。

…、よく看守も見逃してるな、これ。

仕事しろよ。

 

まぁいいか。

そう思って、片づけてあげようとズボンを持った時、間違ってカードが何枚か落ちてしまった。

 

あわてて戻そうとしたときに、あるカードが目に映った。

裏側に落ちてしまっているカードは、一見何の変哲もないカードである。

 

いや、なんか違う。

なんだろ、言葉で言い表せれない。

なんというか、怖かった。

 

見なければよかった。

別に表を見ないでそのままズボンに戻してしまえばよかったんだ。

でも、見てしまった。

手が止まらなかった。

本当に勝手に、考えてもいなかったのに自分の手は動きだし、そのカードを表にした。

 

 

 

俺が手に持ったのは、緑色の巨人が描いてあるカードだった。

どんなカードか調べたかったけど、字が読めなかった。

なんだこの字、見たことない。

こういうのを象形文字っていうのかな?

 

 

 

そんなことを思っていた時、持っていたカードに異変が起きた。

突然それは鈍く光り出すと、それはみるみる形をゆがませ、黑いナニカを出し始めた。

 

こわい、純粋に思った。

周りを見ると、さっきまで普通に過ごしていた囚人たちが絶望しきった表情をして部屋の隅で震えていた。

あぁ、皆これにおびえていたんだ。

分かるよ、こんな得体のしれない何か、怖い以外の何物でもない。

 

見ているとそれはみるみる内に形を変えていき、腕になった。

緑色の肌、何かの骨を思わせる手甲。

思っていたよりも小さい。

そこらの大人の腕が一回りくらい大きくなった程度の大きさだった。

いや、もしかして俺に合わせたのか?

 

いきなり起きた現象についていけずに唖然としていると、唐突に腕が動き出した。

それも尋常じゃないほどのスピードで。

避けないと、そう思う余裕すらなかった。

そしてその腕は殴りつぶさんばかりの勢いで俺の前まで来て…

 

「やめろ」

 

あとちょっと、というところでビタァッ、と止まった。

僕はやっと体が反応して、後ろの壁まで後ずさりした。

正直、あの時ほど速い動きをしたのは生まれて初めてだった。

 

でも、なんで止めたんだ?

ふと前を見ると、そこには見知った顔があった。

 

「やめろと言ったのだ、ルート。 その男は、殺してはならぬ」

 

一緒にいて一番落ち着く人。

いつも優しい笑みを浮かべて、俺を見つめてくれる人。

ただ一人、いつか「僕」を見せると心に決めた人。

 

けーすけが、入り口で立っていた。

 

(けー…すけ…?)

 

様子がおかしい。

目の前いるのは確かにけーすけなのに、けーすけじゃない。

こんなけーすけ、知らない。

 

何かが違う。

あそこまで他人を威圧するような態度はとらない。

口調も違っていた。

そして、目。

けーすけの眼は、真っ黒で、とにかく真っ黒で、白目と黒目という概念が存在しない、黒だけのものになっていた。

何処を見ているのかすら分からない。

 

「けーすけ…。 どうし…たの…?」

 

なんとか勇気を振り絞って、けーすけでないけーすけに話しかけた。

 

「…、小僧。 我が王に何要だ」

 

けーすけは僕を見つめてそう言った。

凍りつくような、冷たい声。

意識が軽く飛びそうになってしまったくらいだ。

 

「それにしても…、あ奴も…あ奴もそうか…。 全く、運のいい連中ばかりだな、この部屋の者たちは」

 

けーすけは俺から視線を変え、周りで縮こまっている人たちを見てそう言った。

誰なんだ、コイツは。

顔の知れた犯罪者たちを恐怖で震え上がらせる、コイツは…。

 

「まぁ、いい。 して小僧、我が王に何要だ」

 

そう考えていると、奴は視線を俺に戻し、また同じことを聞いてきた。

 

「王…って…、けーすけのこと…? けーすけは…どうしたんだよ…」

 

とぎれとぎれに言うのが精いっぱいだった。

まともに話すことなどできなかった。

するとアイツは、

 

「ふむ………。 我が王は今眠っておられる。 というよりも、私が眠らせた。 王では少し心許なかったのでな、出過ぎた真似ではあるが媒介としてお借りしている。 今この御体を動かしているのは私だ」

 

そういってきやがった。

まさか、じゃあけーすけは此奴に操られているのか?

訳わかんない、なんなんだ、コイツ。

いきなり現れたと思ったら、勝手にけーすけの体を奪って、けーすけを動けなくして、けーすけを奪いやがって…。

 

どんどん思考がヒートアップしていき、俺はこの化け物に恐れより、怒りを覚えるようになった。

けーすけの体…、あの優しい瞳…、温かい手…、全部全部、奪いやがったのか!

 

「返せ、返せよ!」

 

気づいたら、俺は怒鳴っていた。

周りで囚人が「ヒィッ」とか言ってビビッていたけど、どうでもいい。

化け物は、僕の方をまっすぐに見据えてくる。

 

「けーすけを返せ! 僕から奪うなよ! 勝手に出てきやがって、どうしてけーすけを操るんだ! 体が欲しいなら僕のをやる! だから、だからけーすけを、取らないでよ!!」

 

そう言ってやった。

此奴の事が許せなかった。

後先の事なんて考えていない。

いつも気を付けていたのに、「僕」って自分のこと言っちゃってた。

でも、気にしてられない。

大切な、大好きなけーすけを、取られてたまるかよ!

 

ジッと化け物を睨みつけていると、アイツは考えるような素振りをして…、

 

「…まさかとは思うが小僧。 貴様王の事を憎からず思っているのか? しかも、友としてではなく、伴侶として…」

 

って言ってきた。

ん…ん!?

 

「な…何言ってんでゃ! 俺がけーしゅけのこと好きっちぇのは…! えっと…、えっと…。 と、友達としてで… 別に男の事をしゅきになってなんか…」

 

いきなりの言葉に顔が一気に熱くなった。

一瞬で思考回路がおかしいことになった。

噛みまくっちゃたし。

何言ってんだよコイツは!

俺は男なんだぞ!

けーすけの事好きになるんて。

そんなの可笑しいだろ!

けーすけだって気味悪がるだろ!

そんなことになってみろ、もうけーすけと一緒になんていられなくなるんだ!

けーすけのことなんて、好きだなんて思ってない!

 

高速でいろんなことを考えまくったせいか、頭がクラクラしてきた。

意識が朦朧とする。

だから気づかなかった。

 

アイツは、あろうことかけーすけの体で俺に密着してきて、抱き着いてきやがったんだ。

 

「~~~!? ~!! ~~~~~~!!!!」

体で口をふさがれていて、何にも言えない。

いや、ふさがれてなくても、きっとまともな事なんて言えない。

もっともっと顔が熱くなる。

理性が切れる寸前にまでイッてしまっていた。

 

「ふむ…、小僧、汝が我が王をどのように想うが汝の勝手。 しかし、王の心が揺らぎし時には覚悟せよ。 その時は永遠に王との謁見は許さぬ」

 

「! ブハッ! そ、そんなのお前に決められる筋合いはない! それに僕はけーすけを傷つけたりなんてしない!」

 

また口調が「僕」になっちゃってた。

でも、気になんてしない。

本心だったから。

いつまでもけーすけと一緒にいたい。

そう思えた。

れ、恋愛かどうかは知らないけど…!

 

「ほぉ…、まぁいい。 ゆめ、忘れるなよ、小僧…」

 

アイツはそういうと、黑い煙をまき散らして出て行った。

たぶん、けーすけを解放したんだろう。

あれはなんだったんだろう。

今も、よく分からない。

 

その場には、倒れたけーすけと、黑いナニカが描かれたカードが落ちていた。

 

 

 




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