いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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騎士達は、抗い続けました。


「闇」の射す方へ

「闇」の射す方へ

 

ここは、闇。

覚悟を決めた異形の居場所。

 

そこには三つの台座があり、そのうちの一つに赤髪の少年が足を組んで座っていた。

 

「………」

 

少年は目を閉じ、頬杖をついて何かを考えていた。

少年の名はイレイザー。

異形の竜として恐れられる、狡猾な邪神である。

普段は本来の姿であるおぞましい竜の姿をしているのだが、今は子供の姿をしている。

特に理由はない。

なんとなく、である。

 

いや、強いて言えば「昔」を思い出していたからか。

 

「………はぁ」

 

そんな邪神は小さくため息をつくと席を立ち、後ろを向いた。

 

刹那、振り向いた先から無数の闇が砂塵のように巻き上がり、その中央より見慣れた球体が姿を現した。

漆黒の太陽、アバターである。

 

「…お疲れ様ッス」

 

「………あぁ」

 

簡単なあいさつを済ませ、太陽はその姿を変える。

真っ黒な短髪、黒いシャツ、黒いズボン。

すべてが黒一色でまとめられている。

そんな少年が、その場にいた。

 

「…それにしても、まさかアバター様が負けるとは思わなかったですよ」

 

「………」

 

「まさかエクシーズの一端をあの野郎が持ってたなんて、…予想なんて出来ないッスよ」

 

「………そうだな…」

 

竜は嫌に弁が立っていたが、太陽はそうではなかった。

目を細め、竜の言葉もあまり聞いていないようだ。

 

いや、違う。

しっかりと聞いているのだろう。

だが、その姿はまるで、今まで自分の部屋でこっそりと飼っていた猫を両親に見つけられた子供の用な…、そんな様子だった。

それが意味するのは…。

 

 

 

「…なぁ、アバター様。 あの騎士ってさ…、最近までここにいた奴だよな」

 

 

 

「………」

 

「可笑しいとは思ってたんだ。 他の侵入を極端に嫌うアンタが、なんであの騎士だけは受け入れたんだ? それに、あのガキたちも」

 

「それは…」

 

「それだけじゃねぇ。 あの騎士のエクシーズ、どうやらアンタが入手させたって言うじゃねぇか。 こりゃどういうことなんだよ?」

 

竜は、そう言い切って太陽をジッと睨み付けた。

太陽は、何も答えず瞳を閉じる。

 

そう、竜は知らなかった。

太陽の行動の意義を。

 

彼とドレッドルートは、王である山崎恵一の守護やそれに関することをアバターから言われて行動しているだけに過ぎない。

何をするにしても、王のため。

そのシンプルな目的が明確に表れているために、竜たちは自分の行動に疑問を持ったことはない。

 

「まだ匿うだけだったら黙ってられたさ。 だけどよ、今回ばかりは異常だ」

 

しかし、司令塔たる太陽は違う。

竜と魔人は、太陽の行動の意義を知らない。

いつ行くかは伝えるが、何をしに行くかは全く教えてもらっていない。

その意義など、分かるはずもない。

 

竜は常々知りたかったのだ。

数十年前に、武藤遊戯と会合したあの時から太陽は何をしていたのか。

不満があったわけではない。

王の敗北は今まで一度もないのだから、問題があるわけではない。

 

それゆえに怖い。

いつも、気付けばすべてが大団円で終わっているのだ。

太陽が「何か」をすることによって。

 

故に、知りたかった。

信じたかった。

暗いところが多すぎる、頼れるはずの太陽が何を隠しているのか。

 

だが。

 

「…教えることは、何もない」

 

返ってくる言葉は、実に明確で歯痒いものであった。

そして竜は、その言葉にまたため息をつく。

 

「…アバター様、俺たちの何がいけないんですか?」

 

「………すまない」

 

「謝るくらいなら…言ってくださいよ…。 少なくとも、俺やルートはアンタを心底信頼している。 裏切ることなんて、無いッスよ」

 

「………」

 

「それでも、ダメですか? 何時になったら教えてくれるんですか? …もしかして」

 

竜は不満を言い続けているうちに、何かに気付いた。

いつも不可解なことを言う、太陽の一言。

これだけがいつも、頭に引っかかっていた。

 

 

 

「アバター様が昔っから言っていた…「あの者」ってのが原因で…ッ!?」

 

 

 

途端、竜は言葉を詰まらせた。

太陽が本気の殺気を、竜に向けたのである。

全身が闇に飲まれ、一切の自由が効かなくなる。

呼吸が不規則となり、平静を保てない。

 

「…それ以上は、詮索するな」

 

太陽はそう言い捨てると、殺気を引っ込めた。

体中から汗が止まらない。

このような感覚は、久方ぶりであった。

 

「…アバター様…」

 

「…すまない、イレイザー。 まだお前やルートに、伝えることはできぬ。 これは、私の贖罪だ」

 

そう言って、太陽は闇の淵に姿を消した。

もう、何も聞けないのだろう。

止まらない汗に不快感を感じながら、竜は何も聞けなかった自分が情けなかった。

 

「クソ…なんだってんだ。 なんで俺たちにまで何も話さねぇ…、俺だけならまだわかる。 だが、ルートにまで言わないってことは…」

 

やはり、何か裏がある。

太陽自身のことか、それとも…。

 

「…この世界のことか…、わからねぇが…今は王様のことが第一…か…」

 

そうつぶやくと、竜は外の映像を映し出す。

見ると、王様はターンが回り、カードをドローするところだ。

 

と、ここで。

 

 

 

「ンあアー。タダいまダド、レイザー」

 

 

 

暴虐の邪神である魔人が地鳴りを上げて帰還した。

魔人は全身をうねらせ、緑髪の少年の姿に変わった。

 

「おう、どうだった?あいつらは」

 

「とグに気にズルこトは無がったダ」

 

「そうか…ちょうどいい。 おいルート、ちょっと屈伸してろ」

 

「んガ?」

 

竜は悩むのを、とりあえずやめた。

全ては王のため。

それだけを考えて、これからの事に思考を巡らせた。

必要ならば、殺すことさえも考え。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンド。 さぁ、貴方のターンだ、邪神の王」

 

「あ、はい。 分かりました」

 

途方もなく長く感じたターンが終わり、僕のターンが回ってきた。

それにしても驚いたなぁ…。

さっきまでサイキック族のカードを使ってたのに、いきなり聖騎士のカードを出してくるんだもん。

そのせいでアバターが墓地におかれちゃったし…、こんなの初めてだよ。

 

「僕のターン、ドロー…よし」

 

しかし、挽回はできる。

先ほどディヴァインさんが発動した天からの宝札。

あれは彼だけに作用するものではない。

自分と相手、両者に効果があるんだ。

 

つまり、今の僕の手札は新しく入った6枚と、今しがたドローした1枚、計7枚なんだ。

戦略を練るのには十分すぎる。

このターン我慢をすれば、次のターンで逆転できるだろう。

 

ていうか、なんで今になって僕のこと優しく呼ぶようになったんだ?

まぁ、ずっと化け物と呼ばれるよりいいけどさ。

邪神の王ってのは…、こいつら使ってるからかな?

…悪くないな…。

 

いや、そんなことはどうでもいい。

とりあえず下準備だ。

 

「僕はまずサイクロンを発動、その生贄封じを破壊させてもらう。さらにゾンビマスターを召喚」

 

サイクロン

フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 

ゾンビ・マスター

ATK1800 DEF0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

「そしてゾンビマスターの効果を発動し、墓地よりゴブリンゾンビを特殊召喚する」

 

ゴブリンゾンビ

ATK1100 DEF1050

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

「…サイクロン、そしてまた二体のモンスターを出した」

 

『しかし、まだ三体のモンスターはおらず、彼はすでに召喚を終えている。勝負は次のターンです!』

 

「あぁ、分かっている!」

 

なんかあのモンスター、ディヴァインさんと意思疎通している。

あーいいなー、ディレさんもそうだけど、僕もお話しできるモンスターが欲しい。

どうせプログラムでしかないんだけど、いるだけでなんか楽しそうだ。

しかも、まるで生きてるようだし。

 

「っといけない。 僕はカードを二枚伏せエンドです」

 

「よし、行くぞ邪神の王! この勝負勝たせてもらう、私のターンドロー!」

 

どうくるかな、ディヴァインさん。

 

 

 

『お兄ちゃん!』

 

ん、なんだあれ?

 

「リサ!?お前が来てくれたのか!」

 

『うん、私だってお兄ちゃんのために頑張るもん!』

 

なんかすごい見覚えがあるな、なんだっけか…。

…あ、そうだそうだ、「薄幸の美少女」だあの子。

確か戦闘ダメージが無くなるとか無くならないとか…どんな効果だったっけか。

 

いや、どうでもいいか。

なんで場に出てもいないのにあのモンスターが出ているんだ?

 

「そうか…分かった、力を貸してくれリサ!」

 

『うんっ!!』

 

そんなやりとりをすると、ディヴァインさんは今しがたドローしたカードを天に掲げた。

そのカードはやっぱり薄幸の美少女である。

 

「お見せしよう、我が妹であるリサの真の姿を!」

 

ん、なんだ?

ディヴァインさんがよくわからないことを言うと、そのカードはいきなり光り輝き、輪郭だけ残して四方に弾け飛んだ。

 

「清廉なる思いと共に、在るべき姿に昇華せよ! リユニオン・ナイツ!」

 

そして飛んで行った破片が戻っていくと、全く違うカードに変わっていた。

…なんだあのカード、見たことないな。

 

「現れよ、湖に住まう少女Lady of the Lake!!」

 

Lady of the Lake

ATK 200 DEF 1800

このカードは戦士族モンスター以外のシンクロモンスターのシンクロ召喚には使用できない。

このカードをシンクロ素材としてシンクロ召喚に成功した場合、このカードをゲームから除外する。

このカードが召喚に成功した場合、自分の墓地の「聖騎士」と名のついた通常モンスターを1体選択して発動できる。選択したモンスターを特殊召喚する。

このモンスターが墓地に存在する場合、自分フィールド上のレベル5の「聖騎士」と名のつくモンスターを選択して発動できる。選択したモンスターのレベルを1つ下げ、このカードを墓地から特殊召喚する。

 

てっきり薄幸の美少女が出るのかと思っていたら、全く知らないモンスターが出てきた。

なんだろう、どういうトリックなんだ?

 

「リサの召喚に成功した時、自分の墓地に存在する聖騎士と名のついた通常モンスターをを特殊召喚できる。 私は先ほど、アルの効果発動のために墓地へ送った聖騎士アルトリウスを特殊召喚!」

 

あー、なるほど。

聖騎士専用のカードってことか。

聖騎士ってあんまり勉強しなかったからなー…あんなカードがあるんだ。

 

『リサ殿、共に王のために!』

 

『うん、力を合わせよっ!』

 

「よし、頼むぞ二人とも。 私はレベル4のアルに、レベル1のリサをチューニング!」

 

え、あの子チューナーなの!?

ていうか聖騎士にシンクロモンスターなんているっけ?

もしかして他の汎用モンスターかな…ダメだ分からん。

 

そんなことを考えてると、彼の場にいる少女が輝く星となってもう一方のモンスターに入り込んでいった。

そしてそこから真っ黒な何かが噴き出し始め、モンスターを埋め尽くしていった。

 

「失意を抱き闇に堕ちた半身よ、その怒り、その無念、今こそ全て晴らせ! シンクロ召喚、舞い降りろランスロット!」

 

Ignoble Knight of High Laundsallyn

ATK 2100 DEF 900

チューナー+チューナー以外の「聖騎士」と名のついたモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、デッキから「聖剣」と名のついた装備魔法カード1枚をこのカードに装備できる。

このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送ったバトルフェイズ終了時、デッキから「聖騎士」または「聖剣」と名のついたカード1枚を手札に加える事ができる。

「Ignoble Knight of High Laundsallyn」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

闇が晴れると、そこには赤黒い不気味なオーラを放つ騎士がいた。

…あれってランスロットだよな、ディヴァインさんも言ってたし。

ランスロットって効果モンスターじゃなかったっけ?

ダメだ、さっきから記憶がおかしいな。

 

『…ようやく戻られたか、王よ…』

 

「あぁ、長らく待たせたな」

 

『如何でしたかな、真っ黒な闇に堕ちた気分は?』

 

「…できれば、もう二度と戻りたくないさ」

 

『フフ…私も願い下げです。 貴方に相応しいのは光…闇は心地がいいのでね、私だけで独占したいのです』

 

「…すまない、お前にも心配をかけたな」

 

『…ならば、もう二度と我らを見捨てなさるな。 我等は常に、貴方のお傍にいる』

 

「あぁ、共に行こうランスロット。 私はランスロットの効果を発動する!」

 

また意味深なやりとりをしてるな、あの人たち…。

はぁ、いい加減終わらせてサテライトに戻りたいなぁ…。

確かに劇としては面白いけど、僕にもやることがあるんだからさ。

ホント、目的を見失いそうで怖い。

 

「ランスロットは召喚成功時、デッキより聖剣を選択して装備できる。 出でよ伝説の剣、聖剣エクスカリバー!!」

 

聖剣エクスカリバー

「聖騎士」と名のついたモンスターにのみ装備可能。

装備モンスターは相手のカードの効果の対象にならない。

また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上の「聖騎士」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。

選択したモンスターとカード名が異なる「聖騎士」と名のついたエクシーズモンスター1体を、選択した自分の「聖騎士」と名のついたモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

「聖剣エクスカリバー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できず、このカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「そしてアルの効果を発動する。 残りの同胞を墓地へ送り、貴方の伏せカードをすべて墓地へ送らさせてもらう! 行け、ライト・リベレイション!!」

 

うお、やっぱり来ると思ってたよ!

ディヴァインさんの聖騎士王は先ほどと同じく斬撃を繰り出し、僕の伏せカードをすべて破壊した。

 

…だけど、ちょっと甘かったね。

 

「貴方が破壊したカードは、どちらも黄金の邪神像です。 このカードの効果でトークンを二体特殊召喚する!」

 

黄金の邪神像

セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分フィールド上に「邪神トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守1000)1体を特殊召喚する。

 

「ッ!? なるほど、私がアルの効果を発動すると見越してのトラップか…しかし、それで私の騎士たちを止めることはできない。 行けっ、アル、ランスロット!」

 

彼の掛け声とともに、二体のモンスターが僕のフィールドまでやってきた。

 

「まずはアルの攻撃、王壁の剣ブレイバースラッシュ! そしてランスロットの攻撃、決意の剣カーレジスプレッド!」

 

そしてそのまま僕のゾンビマスターとゴブリンゾンビを破壊し、僕のライフをゴリゴリと削っていく。

 

山崎恵一 LP 600

 

「くぅ…僕はゴブリンゾンビの効果でもう一枚のゴブリンゾンビを手札に加えます」

 

ふぅ、とりあえず凌げたか。

 

「よし、これで次のターンでトドメをさせる。 私はカードを一枚伏せターンを終了する!」

 

お、何にも伏せないんだ。

よし、これなら何も心配せずに仕掛けられる。

 

(悪いけどディヴァインさん、次のターンは来ないよ…)

 

「僕のターン、ドロー!!」

 

引いたカードは…、見なくても良いね。

来てくれてありがとう。

 

「僕はデビルズサンクチュアリを発動!」

 

デビルズ・サンクチュアリ

「メタルデビル・トークン」(悪魔族・闇・星1・攻/守0)を自分のフィールド上に1体特殊召喚する。

このトークンは攻撃をする事ができない。

「メタルデビル・トークン」の戦闘によるコントローラーへの超過ダメージは、かわりに相手プレイヤーが受ける。

自分のスタンバイフェイズ毎に1000ライフポイントを払う。

払わなければ、「メタルデビル・トークン」を破壊する。

 

「なっ、ここでトークン召喚だと!? …だが甘い! 魔宮の賄賂を発動する!」

 

「ヴぇ!?」

 

魔宮の賄賂

相手の魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。

相手はデッキからカードを1枚ドローする。

 

「………」

 

「邪神の王、貴方のデッキにトークンを召喚させるカードが多々あることは知っていた。 しかし、貴方のフィールドにはセットされたカードはなく、故に心配するべきなのは魔法カードのみだった!」

 

「………」

 

「しかしそれも今防いだ。 そして馬頭鬼の効果も使われた後である今、もうモンスターを特殊召喚させる方法はないはずだ!」

 

勝利を確信したかのような目でこちらを向き、ディヴァインさんはそう言い切った。

…してやったりとはこのことかな…。

 

「……ふ」

 

「…どうしたのだ、邪神の王」

 

「ふ、ふふ…アハハハァー!! 残念だけどそれは間違ってるよ!」

 

「な、何!?」

 

『ランスロット、邪神の王はいったい何を…』

 

『…分かりませぬ、ただ、我らは大きな勘違いをしていたようだ…』

 

ディヴァインさんたちは各々驚いている。

まぁ確かに、僕の手札には特殊召喚させるカードは存在しないし、唯一の墓地利用「だった」馬頭鬼ももういない。

そう、「だった」んだよ。

 

「僕は墓地からゾンビキャリアの効果を発動!」

 

「ッ!? なんだそのカードは!」

 

ゾンビ・キャリア

ATK 400 DEF 200

手札を1枚デッキの一番上に戻して発動できる。

このカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。

 

「このモンスターは手札を一枚デッキの一番上に戻すことで、墓地から特殊召喚ができるんだよ!」

 

「なんだと!? しかし、そんなカードを一体どこで………ッ!! ゾンビマスターの効果発動時か!」

 

悔しがるディヴァインさんを尻目に、僕は三体目の生贄要員をフィールドに出した。

 

「…さて、やっと揃ったよ」

 

神の生贄が。

 

「ッ! しまっ…」

 

「もう遅いよ! 開け、漆黒の劇場! 暴虐の惨劇を今ここに!!」

 

焦っているディヴァインさんの言葉を遮るように、僕は邪神の召喚準備を始めた。

窓の外を見ると、立ち込めてきた暗雲によってあたりは真っ暗になり、強烈な地鳴りが響き始めた。

 

そして目の前に光り輝く闇の門が開き、その淵から暴力の権化が現れた。

 

「邪炎のもとに現れよ、覇に生きる者。 汝が前にあるは塵芥のみ…剛来せよ、邪神 ドレッドルートォッ!!!」

 

邪神ドレッド・ルート

ATK4000 DEF4000

このカードは特殊召喚できない(変更対象)。

自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、このカード以外のフィールド上のモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。

 

暴風が吹き荒れる中、敵を蹂躙すべくドレッドルートが降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…あぁ…」

 

『これが…暴虐の邪神…』

 

『何と、強靭な…闇だ…!』

 

ディヴァインとアルトリウス、そしてランスロットは、その強大すぎる力を前に震えが止まらなかった。

今目の前にいる邪神、ドレッドルート。

ソレは太陽や竜のようにこれといった特殊な能力を持っているわけではない。

相手の力をコピーできなければ、敵を道連れにすることもできない。

ただ攻撃力が高いだけ、普通ならそれで済むだろう。

 

だが、ドレッドルートにはそのマイナスを超える力がある。

純粋な力、他者を寄せ付けぬ覇。

魔法などなくともその腕を振るえば敵は吹き飛び、知略がなくともその眼光で敵を動けなくさせる。

そう、彼がフィールドにて放つ威圧は、彼の純粋なパワーからくるものなのである。

 

暴力。

 

人間だけでなく生物すべてが感じる、恐怖の1つ。

それは明確であるがために強烈で、本能に叩きつけられる。

ドレッドルートはまさしく「暴力」を体現した邪神。

 

そこから放たれる「生物本能的な恐怖」は、太陽の威圧でさえも凌駕する。

純粋であるがために分け隔てなく、感じるものは並ではない。

 

『王…よ…』

 

「ッ! 臆するな二人とも! 恐怖を払え!!」

 

『分かって…おります…!』

 

『これは…これほどとは…』

 

ディヴァインは仲間である騎士達を奮い立たせるが、当の騎士達は全く別のことを考えていた。

 

王の安否。

 

自らが消滅した後、王に残りのダメージが叩きつけられる。

そうなったら、主はどうなるのか。

想像するまでもなく、破滅だ。

 

(ならない…、それだけは…ならない!!)

 

(どうしたら、あの攻撃を防げる…!?)

 

「…そろそろ、行きますよ」

 

しかし、無情な宣告が言い渡された。

山崎の攻撃宣言。

それはつまり、相手であるディヴァインの…。

 

「ドレッドルートの攻撃…!」

 

 

 

再起不能。

 

 

 

まさしくそれであった。

 

『ッ!? お、おぉぉぉおおオオ!!!』

 

『ッ! 聖騎士王!? くッ…カああアァァぁッっ!!!』

 

その最悪な未来が頭に浮かび、騎士王は震える体に喝を入れる。

もう一方の騎士も、己の内にある闇の波導を全開にし、敵である邪神を睨み付ける。

目の前の恐怖に勝つために、剣を構えて睨み付ける。

 

「フィアーズノックダウン!!」

 

放たれる一撃。

それはアルトリウスをめがけて一直線に突き進み、さながら巨大な隕石のごとく降り注いだ。

 

逃げるすべなどない。

 

『ぐ、ぎ…!? ガアァァぁあああ!!』

 

「アルトリウス!!」

 

『ッ!? ハァァッ!』

 

アルトリウスはなんとか耐えようと歯を食いしばり、全身に極限まで力を入れる。

その合間にランスロットも加わり、二人で邪神の攻撃を防ごうとする。

 

しかし、奇跡は起こらず次第にその体は押されていき、遂に膝をついてしまう。

足元に地割れが生じ、全身が砕けてしまったかのような激痛が襲った。

だが、騎士達はそれでも抵抗をやめない。

 

『ぎ…ぎ、ぎ…が…!!』

 

『か、はぁ…ガアァァァッ!!』

 

圧力に耐え切れずに額から、目から、口から血が流れ、手が震え始めても騎士達は守りをやめない。

それをディヴァインが見逃すはずがない。

 

「お前達、何をやっているんだ!?」

 

『が、ぁ…!』

 

「よせ! お前達はもう限界だろう! それ以上攻撃を受ければ存在が消えてしまう!」

 

ディヴァインは二人に叫ぶが、騎士達はそんなこと聞きもしない。

ただ、攻撃を防ぎ続けている。

 

『ぐっ、ランスロット…王の言う通り…だ…お前は早く…実体化を…解け…!』

 

そんな中、アルトリウスはランスロットまで犠牲にさせはしないと考え、彼だけ消えるように促す。

しかし。

 

『フ…フフ…バカな…ことを、言うな…聖騎士王殿…』

 

全身から血を流しながら、ランスロットはそれを拒否する。

 

『私は嬉しいのだ…王が…また光に戻った…。 私と違い…、正しき道を選べた…グ…』

 

『ランスロット…!』

 

その赤く鋭く光る眼には、嘗ての彼の優しい瞳があった。

王が離れる前、正しき道を行こうとした一人の騎士の眼であった。

 

『私は、諦めてしまった…光の研磨を辞め、闇へと…堕ちた…愚者…だ…』

 

『………』

 

『私を見た時…、王は……驚いただ…ろう。 こんな醜い、姿に堕ちたのだ…からな…。 しかし、王は私を見てくれた…。 それだけで…十分だ…』

 

今一度命を捧げる価値がある。

そう言った。

 

 

 

しかし、だからこそ。

 

 

 

『…お前は生きろ、ランスロットォッ!!』

 

『グアァッ! 聖騎士王ッ、どうし…!?』

 

アルトリウスは剣から片手を放してランスロットの首を掴むと、その力を吸い取り強制的に実体化を解かせた。

その後、瞬時にその手を剣に戻すと、再び邪神を睨み付ける。

 

その暴力に、全く衰えはない。

 

 

 

「…あれ? かなり時間がかかるなぁ…、普通ならもう破壊されているはずだけど…。何か他の効果があったっけ?」

 

対して相手の山崎は、未だフィールドに残り続けているモンスターを見て、不思議そうにそうつぶやいていた。

特に何の意味もなく、単純にそうつぶやいていた。

 

『くぅ…ふ、フフ…なぜ消えないか分からないか? 暴邪殿…』

 

「え? また喋った…、ていうか暴邪って僕んこと? なんかしょっちゅう言い方変わるなぁ…」

 

子供のように純粋で、しかしその淵より膨大な闇を呼び出す男。

純粋に見えるがゆえに、そこが知れず恐怖を抱かざるを得ない男。

傍から見ればそんな風に見える山崎を前に、騎士はボロボロになりながら不敵に笑った。

 

『貴方は…何にもわかっていない…』

 

「………え?」

 

『闘いとは、信念のもと果たされる…。ただの暴力で…わた…しを…、潰せると…思うなぁっ!!!』

 

バキンという轟音が鳴り響き、騎士はドレッドルートの一撃をいなした。

強烈な破壊音とともに、ドレッドルートの拳が騎士から逸れ、近くの壁を貫く。

 

『ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ…!』

 

「アル…アル!」

 

ディヴァインは騎士を見てまた絶叫する。

騎士はすでに満身創痍であった。

右足は折れ、両腕は痙攣し、武器はもう粉々になってしまっている。

しかし、その眼だけは未だ光っている。

 

『ガギャアアアアアアァァァァアアア!!! ガァァァァアアアアアアア!!!!』

 

そんなまだ消えていない騎士を見て、ドレッドルートは雄たけびをあげさらなる一撃を加えようとする。

 

『ッ!? くっ…王オオォォッッ!』

 

「ぐあっ!? アル、何を…!?」

 

それを察知し、騎士はディヴァインを突き飛ばした。

 

『王!早く!少しでも遠くへ行って下され!!』

 

「何を言っているんだ!お前こそ早く実体化を解け!殺されるぞ!!」

 

『…言いです…か…王よ…。あの邪神のいちげ…き…、あんなものを受け…ては…もう二度と…ぐっ…』

 

「アルトリウス!私の命令が聞けないのか!?」

 

『早く…早くどこかへ…!』

 

周りから見れば滑稽に見えただろう。

それもそのはず、彼らがやっていることは無駄でしかないのだ。

聖騎士王の言うとおりに逃げたとしても、邪神から逃げられるはずもない。

それでも、聖騎士王はディヴァインを逃がそうとする。

 

ただ王の事だけを考えて、だ。

 

「アルッ!!」

 

『…来い、暴虐の化身! 主だけは殺させん!!!』

 

そして審判の時が来た。

ドレッドルートの二発目の攻撃が聖騎士王に直撃した。

 

防ぐ剣も、鎧も、腕すらなく、その体は直にその一撃を喰らった。

痛みを感じる時間すらない。

一瞬で全身の感覚が無くなり、あたりは暗闇に沈んでいってしまった。

 

 

 

 

 

だが、その中で未だ聖騎士王の意識はあった。

その中で騎士は思う。

 

(…悔いは、無い…。守れたのだ…、それで…)

 

意識が薄れていく中、彼の頭には今までのことが駆け巡っていた。

初めて王と会ったあの日。

彼と修業をした日々。

そして捨てられたあの日。

 

全てが彼の中でめぐり、聖騎士王はそれが走馬灯だと自覚する。

 

(そうか、いよいよ私は死ぬのか…)

 

そう思うと、彼の中に何かが生まれた。

彼自身、それが何かは分からない。

焦りとも、悲しみとも言いきれず。

憎しみでも怒りでもない。

 

だが、その何かは形となって彼の中で成長し、それは願いという確かなものになった。

なってしまった。

 

 

 

『あぁ、嫌だなぁ…。まだ、生きていたかった』

 

 

 

つい、そう呟いてしまった。

騎士としてではなく、つい出してしまった自分の本音。

そんな思いを、死の淵で抱いてしまった。

それはもう叶わないものであり、決してたどり着けない未来である。

そしてそれを自覚している彼は、静かに涙を流した。

 

だが、闇を相手にその涙は意味を為さず、彼の体を蝕み続ける。

誰にも見られることもなく、彼は闇の淵に沈んでいこうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその涙は、その呟きは、大きな奇跡を呼び起こす。

 

 

 

『…ゾンな二生ギたいダか?』

 

 

 

真っ暗な闇の中で不意に聞こえたそれは、冷たくも暖かい声色で、聖騎士王の体をフワリと包み込んだ。

 

(…一体、誰なんだ…? 聞き覚えは…、全くないな…)

 

その瞬間、何故か消える寸前であった彼の意識ははっきりとしたものに戻り、声の主に問いかけることができた。

 

『…あなたは?』

 

弱弱しいが、確かな声で聖騎士王はその声に言った。

 

『ソレは言えナ゛いダ。オマエは、どうジタイダ?』

 

考える必要はなかった。

 

『…あぁ、できればまだ生きたかった』

 

『ゾれは、何デダド?』

 

なぜか?

決まっている。

 

『王を…今一度守るため…共に歩む…ため…』

 

『デも、オ゛マエ達ハア゛ノ人ヲ守レ゛なガったダ。 ゾンなオ゛マエ達が、ヂャんド守レ゛ルダカ?』

 

…愚問だ。

 

『守る、守り切って見せるさ。 もう、絶対に…あの顔を曇らせはしない…。 …今一度、王を守れれば…な…』

 

そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

『…わがったダ。 …モう、悪イ事さゼヂャダメだド』

 

すると突然、彼の目の前に光が現れた。

フワリフワリと舞い降りるそれは聖騎士王の体に落ちると、その体の傷を瞬く間に癒していった。

聖騎士王はその光に驚き、心地よさを感じながらも、なぜか懐かしさを感じた。

 

(この「光の羽」は…、ボール…アバター殿が…)

 

そう思った時、彼の意識は今度こそ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ッ…ここ、は…?』

 

「!?アル、起きたのか!!」

 

『良かった、アルッ!!』

 

『聖騎士王殿ッ!』

 

目を覚ますと、彼は見覚えのある場所にいた。

先ほどまで邪神の王と戦っていた場所である。

 

周りは邪神の強烈な攻撃で凄惨な有様になっていたが、ビルそのものは崩壊していないようであった。

 

『…王、私は…』

 

「…なぜ私が、お前が生きているのかは分からない。だが…あの邪神は、私たちを許してくれたのだ」

 

『許し?』

 

「お前も聞いたのだろう、闇の中であの声を」

 

ディヴァインの言葉にアルトリウスは驚いた。

王もまた、あの声を聴いていたのだ。

 

『王、あの声は…』

 

「さて、誰かは教えてくれなかった。だが、薄々お前も感づいているのだろう?」

 

『…はい、あの声は…』

 

そういうと、彼らはひとつの方向に視線を移した。

そこには、未だ姿を消さず威圧を放ち続けるドレッドルートの姿があった。

 

「…ありがとう、邪悪な神よ。私はもう、悪しき道は歩まない」

 

そう言って、彼は恐怖を振りまく邪神に向かい頭を垂れた。

 

 

 

 

 

(…ヤッばり、気付がれタダ)

 

一方ドレットルート、彼は目の前の光景を見て内心ため息をついていた。

彼はディヴァインたちの過去を知っていた。

イレイザーからは彼らを殺せと言われていたが、故にどうにも彼にソレはできなかった。

 

故に、彼が選んだ道はひとつ。

 

(…後でレイザーにマダ殴らレるダケド…ゴれでよがったダ)

 

彼は表情を変えることができない。

しかし、その内は喜びに満ち、達成感にあふれていた。

 

と、そこに。

 

 

 

「へへっ、おーいドレッドルート!久しぶりだなぁー!」

 

 

 

『んガ…?ゲッ…!』

 

彼が一番苦手とする人間の声が聞こえた。

 

『ユーギ…ジューダイ…』

 

「おっ、名前覚えててくれたか。嬉しいぜドレッドルート!」

 

「じゅ、十代さん!いきなり何を…!?」

 

「そうだよ十代のにーちゃん!あんなのに話しかけてどうするんだよ!!」

 

ドレッドルートの目の前に現れたのは、かつて彼を色んな意味で苦しめた遊城十代であった。

かつて、遊城たちがモンスターの世界に迷い込んだとき、彼は人間の姿で遊城たちを助けたことがあった。

その時にうっかり自分の正体をばらしてしまい、以後彼に何かと話しかけられることがあったのだ。

 

殺せば話は早いのだが、それだけの理由で殺すのは忍びないし、第一アバターから止められていたのだ。

余計にたちが悪い。

 

『………』

 

「ん?おーい、どうして黙るんだよ! どうせこの人たちが生きてるのも、お前が助けたからなんだろ?いい加減話をしようぜ!」

 

そんな彼を見ずに、ドレッドルートは腕組みをしながら唸り声をあげた。

 

『わ…我ハハガイの邪神ダ…お前たぢに言うこどなど…ナイ…』

 

「今更変なキャラつくんなって! お前には聞きたいことが一杯あるんだからさー!」

 

そう言って遊城は彼に向かって歩き出した。

普通の人なら裸足で逃げ出すほどの恐怖であるのに、この少年(?)は歩みを続ける。

満面の笑みでだ。

それに合わせてドレッドルートは彼から離れていく。

 

(ヤバいダ…ナンでコンナとこにユーギがいるダ…。ナンとか誤魔化さないトヤバいダ…)

 

普通に消えてしまえばすべて済むのだが、如何せん彼には頭が足りなかった。

律儀に対応しようとしていたのである。

 

今まで人間には怖がられるだけであったために、遊城という存在は彼にとってイレギュラーすぎた。

 

「へへっ、ほら、こっちを見てくれよ」

 

『…は、早グ消えるダ』

 

「おいおい訛りが出てきてるぜ?キャラ作るならしっかりしねーと」

 

『うグぅ!?』

 

的確な突込みを受け、ドレッドルートは混乱してしまった。

この場をどう乗り切るか、それだけを考える。

 

故に、目の前にいた「トドメ」に気付かなかった。

 

「…透君?」

 

『んガ?…ゲゲッ!?』

 

それは見覚えのある少女だった。

彼女は邪神の姿である自分を見ても恐れず、ジッと自分を見続けていた。

 

「その声…喋り方…透君だよね?」

 

『ウグゥ!?』

 

「ん?あゆみ、こいつのこと知ってるのか?」

 

「はい、たぶんですけど…私を助けてくれた…人?なのかな…」

 

「おっ?なんだドレッドルート。お前やっぱり良い奴じゃねーか!」

 

「邪神がこの子を助けた…?確かにドレッドルートには不可解なトコが多かったが…」

 

「え?遊星何かあったのかよ?」

 

「…もしかしたら、イレイザーも本当は…ねぇドレッドルート、貴方に聞きたいことが…」

 

『う…グ…!?』

 

矢継ぎ早に様々なことを言われ、最早彼に直すことはできなくなってしまっていた。

そして、彼はやっと自分がすべきことに気付いた。

 

『………』スゥー…

 

「あっ、コラ逃げるな!話をしろ!」

 

「待って透君! ていうか貴方はホントに透君なの!?」

 

「ドレッドルート! 待て、お前に確かめたいことが!」

 

遊城、瀬良、そして不動が静止を呼びかけるが、ドレッドルートは何も答えずスゥーッと姿と薄めていき、遂には完全に消えてしまった。

 

「…そういや、アイツって困るといつも消えちまうんだったな…」

 

そう言いながら、遊城はフロアの端で気絶している山崎を抱え、皆とともに外へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

『…まぁ、なんだ。お疲れ』

 

闇の中に帰ってきた魔人を見て、魔竜は慰めの言葉をかけた。

正直罵倒の1つでも飛ばしたかったが、ここまで精神的に疲れ切った彼を見るのは久しぶりだったのである。

 

『………』

 

『王様のことは任せろ、お前はとりあえず休め』

 

『御免ダ、レイザー…』

 

『おう』

 

簡単な会話をして、魔人はそこらへんに寝そべった。

そして気付いた。

 

『………んガ?』

 

 

 

 

何かいる。

 

 

 

 

自分たち以外に誰もいないはずのこの空間に、何者かが隠れている。

 

『…レイザー…』

 

『…おう』

 

どうやら魔竜も気付いたようだった。

その長い尻尾をシュルシュルと巻きながら、その異物がどこにいるかを探し出す。

 

数秒後、彼の目が怪しく光った。

そして魔人にアイコンタクトを取ると、尻尾の先をある方向に向けた。

 

その先には自分たちの玉座があった。

正確には、太陽がいつも使う席。

その後ろに、三匹ほど存在を感じた。

 

『………』

 

疲れていた様子をなくし、魔人はその精神を研ぎ澄ます。

太陽からこの異物の報告は受けていない。

つまり、勝手にやってきた敵ということだ。

 

『…今だ、イケ!』

 

『…ンダ!』

 

その刹那、ドレッドルートは目にもとまらぬ神速で異物のもとへと飛び立った。

突然のことで異物たちはそれに対応できず、簡単に彼に捕まってしまう。

異物たちはかなり小さく、故に彼は爪の先で異物たちが着ていた「服」の先をつまんで持ち上げようとする。

 

その際に三匹のうち二匹は逃げてしまったが、一匹だけは捕まえることに成功した。

 

『サテ、捕まエタダ…サぁ、オマエ達ハ誰…ダ…ド…?』

 

そしてその正体を見ようとして、魔人の動きが固まった。

予想外すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー捕まったー!はなせぇーうりゅー!」

 

「ヴぁー!ウリュが捕まったー!はなせーこらー!」

 

「こらー…ふあぁー…」

 

「…なんだこいつら?」

 

「…オラも知らないダ」

 

魔人が捕まえたのは、真紅の髪を二つにまとめた褐色肌の子供であり、他の二匹はそれぞれ金色、青色の髪をしたこれまた子供であった。

 

闇の中、外とは違う混乱が彼らを襲っていた。

 

 




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