いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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男は、復讐に目を眩まし、かつての約束を守れなかった。


復讐者

復讐者

 

私は、目の前のこの化け物が許せなかった。

 

私の生き甲斐。

全てを失い、奪われた私にとって復讐こそが生き甲斐であった。

そのためになら、何でも利用して来た。

必要ならば殺し、権力を着実に手にして来たのだ。

 

その過程は、決して楽なものではない。

時には失敗し、死んでしまうかと思ったときもあった。

泥水をすすり、惨めな思いをした時もあった。

 

しかし、それでも自分はあきらめなかった。

今は亡き者達の無念、それを晴らすため。

それが間違ってると分かっていても、止まらなかった。

この狂った世界をあるべきものに戻すため、戦い続けていたのだ。

 

 

 

その行為を、この男は「劇」と言い切った。

嘲る事もなく、哀れみを向ける事も無く、さも当然のようにそう言ったのだ。

 

そうだろうな。

貴様のように力を持つ者からしてみれば、私の行いなど無様で滑稽なのだろう。

もはや気にする事すら無い、無意味な事だと思っているのだろう。

 

しかし聞け、邪神の王よ。

世界にはな、絶対というものはないんだ。

いかにお前が最強だろうと、その傲慢が永遠に続く事は無い。

いつかその玉座を崩され、地に伏すときが来る。

 

今がその時だ。

我が野望を侮辱した今、貴様を生かして返しはしない。

アキはお前にご執心のようだったが、関係ない。

 

礎となってもらおう、我が軌跡の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ、邪神の王!」

 

そう言うと、ディヴァインさんはいきなり鬼の形相になって僕にデュエルを申し込んで来た。

正直、理解ができていなかった。

 

なぜ、会社に出向いただけでデュエルが必要なのだろうか。

この世界ではデュエルが全てだとしても、さすがにこれは理不尽ではなかろうか。

しかし相手はやる気満々。

話も聞いてくれなさそうな勢いだ。

 

だったら理由は分からないが、とりあえずデュエルをした後で話をしよう。

 

「分かりました、よく分かりませんがお相手致します」

 

そう言って、僕は自分のディスクを起動させた。

ていうか、あの人なんであんなに怒ってるんだ?

僕なんかマナー違反でもしたのかな…。

まぁ、それも後で聞けばいいか。

 

「「デュエル!!」」

 

山崎恵一 LP4000

 

ディヴァイン LP4000

 

「行くぞ化け物! 私のターン!」

 

え、なんで化け物?

僕何かしたのかな…。

 

………あ、もしかして、お芝居の一つ?

そうかそうか、たぶんそうだな。

ここは十六夜さんも所属する超大きな劇団グループ。

そして彼はその座長。

 

多分いきなり入って来た自分をもてなすために、寸劇でこんな事をしてくれてるのだろう。

彼は基地かなにかを守るリーダー、そして僕は侵略者ってことかな。

 

うーん、一流の劇団の芝居に参加できるなんて、なんか嬉しいな。

 

よし、じゃあこっちも本気で行かないと失礼だね。

 

「…フン、先手はくれてやる」

 

こんな感じでいいのかな?

 

「クッ、どこまでも…。 その余裕、すぐに崩してくれる!」

 

おぉ、返してくれた。

こんな感じでいいのか。

それにしても本物は凄いな、まるで本気で怒っているようだ。

やっぱり本業は違うね。

 

「私はクレボンスを召喚! さらにカードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

クレボンス

ATK1200 DEF400

このカードが攻撃対象に選択された時、800ライフポイントを払って発動できる。

その攻撃を無効にする。

 

ほほぉー、サイキックか。

僕の目の前に機械仕掛けのピエロの様な何かが出て来た。

電脳世界に生きる様なその様相は、まさしくサイキック。

 

…ていうかヤバい、僕サイキック族相手にデュエルした事無かった。

どうやって倒したらいいのかわかんねぇ…。

まぁいいか、やる事同じだし。

 

「僕のターン、…お」

 

手札に来てる、最初から。

しかも出せるし。

んー、悪者が勝つってのはいいのかな、しょうがないか。

 

「…僕は手札よりおろかな埋葬を発動。 馬頭鬼を捨てます」

 

おろかな埋葬

自分のデッキからモンスター1体を選択して墓地へ送る。

 

馬頭鬼

ATK 1700 DEF 800

墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、自分の墓地からアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

此処まではいつもと一緒。

しかしここからちょっと違うんだよね。

 

「さらに手札断殺を発動。 カードを二枚捨て、同時に二枚ドロー…よし。 僕はゾンビマスターを召喚し、さらに墓地の馬頭鬼の効果でゴブリンゾンビを特殊召喚する!」

 

手札断殺

お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。
その後、それぞれ自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

ゾンビ・マスター

ATK1800 DEF0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスター1体を墓地へ送る事で、自分または相手の墓地のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を選択して特殊召喚する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

ゴブリンゾンビ

ATK1100 DEF1050

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、

相手はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、

自分のデッキから守備力1200以下の

アンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

そう、僕は手札断殺の効果でゴブリンゾンビを墓地に捨てていた。

そして、馬頭鬼の効果で復活させたんだ。

 

「そしてゾンビマスターの効果…二枚は要らないしこっちでいいか…、墓地にモンスターを送りピラミッドタートルを召喚!」

 

ピラミッドタートル

ATK1200 DEF1400

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

「…あっという間に三体…。 しかし、既に貴様はモンスターを召喚している、どうやっても邪神は召喚できないぞ?」

 

確かに、普通ならそうだろう。

僕は召喚権を失ってる、だったらもう一度得るまでだ。

 

「僕は魔法カード、二重召喚を発動!」

 

「な、なんだと!?」

 

二重召喚

このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

 

おぉ、驚いてる驚いてる。

手札は一枚無くなっちゃったけど、これがあればもう一度モンスターを召喚できる。

 

そして、僕の手札には暴力の権化ドレッドルートが手札にある…。

 

よし、これで後は召喚するだけ「リバースカード、オープン!」

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!? マズい、王よ! このままでは負けてしまう!!』

 

『うおぉ!? な、なんだってんだアバター様! いきなり大きな声を出して!』

 

『ルートは…いないか! ならば我らだけで…イレイザー!』

 

『は、はいぃ!?』

 

『緊急指令だ! この場に来る予定の「あの者達」を導き、予定より早く連れてこい! なるべく早くだ!』

 

『は? いや、なんでですか? 「アイツら」は負けた後に会わせるんじゃ…』

 

『何も申すな! 急げぇッ!!!』

 

『ヴェ!? しょ、承知ぃ!!』

 

『クッ! 何が起きている! これが修正力というものか…巫山戯るな! 王よ! 貴方を敗北させたりはせぬぞぉぉお!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディヴァインさんが出したカードを見て、僕は愕然とした。

彼が出したカードは、僕のデッキが一番嫌うカードだったんだ。

 

生贄封じの仮面

このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーはカードをリリースできない。

 

「う、うわー…」

 

「フフ、どうだい。 このカードが、貴様を地の底にたたき落とす!」

 

得意気な顔をして僕にそう言って来た。

うーん、正義側のはずなのに相手が敵っぽい。

 

でもなんだろ?

なんかあの人、得意気だけど雰囲気が違う様な気がする。

なんか、申し訳なさそうな…。

…まぁ、別にいいか。

 

しかし、彼の言った通りだ。

 

あの仮面相手にどうやって戦うか…。

確か、昔も似た様な事があった様な…。

あ、そうそう。

確か変な仮面をかぶった人とやり合ったときだ。

 

確か武藤と海馬がタッグデュエルした人達の片割れが後で挑んで来たんだっけ?

「これで負けたら…、俺は、俺は…!」ってな感じでかなり切羽詰まった様子をしてたけどなぁ。

ま、勝ったけどさ。

 

あの時は確か…、何かデッキがブワァーって黒くなっていって、よく分からない煙が出て来た様な…。

それからなぜか引きが滅茶苦茶よくなって…、サイクロンとか出たんだよな…。

邪神も余裕で出す事ができたし。

 

ていうか、何か手札も変わってたし。

あれはなんだったのだろう。

 

ブワァー…

 

そうそう、こんな感じ…ヴェ!?

 

「な、おぉ!?」

 

「そ、そのデッキのオーラ…まさかここで何かを!?」

 

ディヴァインさんものっそいテンパッてるし、ていうか僕もこんなの予知してなかったし。

ていうか何これ、どういう仕組み?

黒い煙は僕のデッキにまとわりつき、そのままデッキの中に入り込み、消えていった。

どういうこと?

どういうエフェクトだよこれ。

ダメだ、訳が分からん…。

 

…まぁ、なんとかなるか。

別にこのデュエルで負けたら死ぬ訳じゃないし。

気楽に行こー。

 

「ふ、クフフ…。 フハハハハハァァアアアアアッッッ!!」

 

え、なんなのもう。

今度はディヴァインさんがおかしくなった。

貴方そんな高笑いするキャラなの?

正義のメッキ剥がれちゃってるよ?

 

「貴様が邪神の力を使う事は予想していた! だからこそ、私も最高の準備をしていたのだ! 二枚目のリバースカード、魔封じの芳香!!」

 

魔封じの芳香

このカードがフィールド上に存在する限り、お互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、セットしたプレイヤーから見て次の自分のターンが来るまで発動する事はできない。

 

え、ちょマジでですか?

魔封じの芳香は魔法の使用を制限するカード、つまり頼みのサイクロンが止められるんだ。

その間にディヴァインさんにやられたら終わりだ。

 

ヤバい、マジでどうしようどうしよう…。

焦って来たここでできる事、できる事、できる事…。

 

…ま、焦ってもしょうがないか。

あー、でも手札は召喚できない邪神しかいないし、どうし………あれ?

 

 

 

 

 

なんかカードが違う。

 

 

 

 

 

なんだこれ、ドレッドさんじゃなかったっけ?

んー…、なんか違う様な…。

 

 

 

いやいや、やっぱりおかしいよなこれ。

さすがにおかしいだろ、うん。

なんで手札が変わってんだよ。

 

大体さっきからおかしい事だらけだ。

僕はこんなに冷静に物事を考える事なんてできない。

絶対に焦って悪手をする。

それなのに、なんだこの冷静さは。

 

挙げ句の果てにはこのデッキのオーラ。

こんなのあるわけないだろーが。

なんだこれ、どうなってる?

あ、なんか頭が痛くなってきた。

どうしたんだろ、僕いつもだったら吐き気がするだけなのに…。

 

 

 

「俺」に、一体何が………。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………ヴェーイ…』

 

 

 

 

 

………まぁ、考えてもしょうがないか。

実際手札にあるのはこのカードなんだし、多分ドレッドルートがいたのは夢かなんかだろう。

この手札のカードがどういう風に戦局を変えるか分からないけど、今は信じよう。

うん、今の僕にできる事はこれしか無い。

…、とりあえず、ちょっと耐えるか。

 

「それでは、僕は今フィールドにあるモンスターで総攻撃します。 まずはゾンビマスターの攻撃、パペットマペット!」

 

僕はゾンビマスターに命令して、クレボンスを破壊しようとした。

しかし。

 

「フン、甘いぞ化け物。 トラップカードオープン、攻撃の無力化ぁ!」

 

攻撃の無力化

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。

 

うわー、対策ばっちりじゃん…。

もし邪神を出せてたらあんなもの簡単に無力化できたんだけど…。

 

まぁ、やられたのならしょうがない。

 

「僕は一枚伏せ、ターンエンドです」

 

「フフ…全くなにもできず、お手上げという様だな化け物! 私のターン!」

 

いや、だから化け物は止めてくれないかな。

ちょっと傷つくんだけどなー。

 

「私はメンタルプロテクターを召喚する。 さらに、レベル3のメンタルプロテクターに、レベル2のクレボンスをチューニング!!」

 

メンタルプロテクター

 

ATK0 DEF2200

このカードのコントローラーは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払う。
この時に500ライフポイント払えない場合はこのカードを破壊する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、サイキック族モンスター以外の攻撃力2000以下のモンスターは攻撃宣言をする事ができない。

 

うお、何か出てくるのか。

 

「心の深淵に燃え上がる、我が憎しみの炎よ! 黒き怒濤となりてこの世界を蹂躙せよ! シンクロ召喚! 現れろ! マジカル・アンドロイド!」

 

マジカル・アンドロイド

ATK2400 DEF1700

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
自分のエンドフェイズ時、自分フィールド上のサイキック族モンスター1体につき、自分は600ライフポイント回復する。

 

お、マジカルさんだ。

サイキック族だし予測できたけど、ちょっと厄介だなー。

 

「行くぞ化け物、マジカルアンドロイドの攻撃! サイコショック!!」

 

マジカルアンドロイドは持っていた杖から謎の雷を出し、ゾンビマスターに向かって放った。

マスターさんは耐える事もできず、跡形も無く崩れていってしまったよ。

 

山崎恵一 LP3400

 

「よし、これで三体分の生け贄はいなくなった。 もはや貴様に邪神を出す方法は無い! 私はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!! さらに、ターン終了時にマジカルアンドロイドの効果でライフを回復する」

 

ディヴァイン LP4600

 

確かに、僕は既に生け贄用のモンスターを無くしてしまっている。

ていうか、生け贄封じのおかげで出す事なんて不可能だ。

どうしようか、あぁ、こうなるのならエクシーズでもそろえておけば良かった…。

 

しかし、本当にどうしよう。

僕の手札はゼロ。

しかも伏せてあるのはあのどうしようもない………あ。

 

そうだ、あのカードがあるじゃんか。

あれが手札にくれば、僕は神を召喚できる。

よーし、それなら神頼みだ。

 

お願いだから来てください来てください来てください………。

 

「僕のターン、ドロー!! 来たぁ、ッシャアオラァァ!! 一枚伏せてぇ、タァーンエンドォオオオ!!」

 

いかん、嬉しすぎてテンション上がってしまった。

しかし、これで「相手の」ターンに邪神を召喚できる。

そうすれば相手の攻撃も止めれるし、何とかなる!!

 

「………なんだ、いきなり様子が…だが、私の勝利に間違いは無い。 下手な小細工は通じないぞ、化け物! 私のターン!」

 

余裕な顔をして、彼はカードを引いた。

んー、あの人は正義側より悪役の方が似合う様な…ん?

なんか様子が?

 

「………なんだ、こんな時に! …なに? 確かに召喚は可能だが…、待て、ここでお前を出しても…。 ………あぁ、そうだな、分かった」

 

え、誰と話してるの?

まさかカードと?

まっさかぁ。

 

「………化け物、私の復讐の炎はお前の完全な敗北を求めている。 だからこそ見せてやろう。 お前を殺す、最悪の悪魔をな! 私は伏せていたカード、サイクロンを発動! 魔封じの芳香を破壊する!」

 

サイクロン

フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

 

…ここでサイクロン。

仕掛けてくるかな。

 

「さらに私は緊急テレポートを発動! これによりサイココマンダーを特殊召喚する!」

 

緊急テレポート

自分の手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズ時にゲームから除外される。

 

サイコ・コマンダー

ATK1400 DEF800

自分フィールド上のサイキック族モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ時に1度だけ、100の倍数のライフポイントを払って発動できる(最大500まで)。
このターンのエンドフェイズ時まで、戦闘を行う相手モンスター1体の攻撃力・守備力は払った数値分ダウンする。

 

「レベル5のマジカルアンドロイドに、レベル3のサイココマンダーをチューニング!」

 

突然、彼のフィールドに巨大な雷がやって来た。

雷は床を裂き、地割れを起こす。

そして、その中から何かが出て来た。

 

「逆巻け、我が復讐の黒炎! シンクロ召喚! 来い!メンタルスフィア・デーモン!」

 

メンタルスフィア・デーモン

ATK2700 DEF2300

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上


このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの元々の攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。
また、サイキック族モンスター1体を対象にする魔法・罠カードが発動した時、1000ライフポイントを払って発動できる。
その発動を無効にし破壊する。

 

め、メンタルスフィア…。

正直、邪神が出せない今ではアレを倒す術は無い。

ていうか、マジカルアンドロイドだけでも四苦八苦してたのに、こんなの出てこないでよ。

 

「メンタルスフィアデーモンで、その邪魔なモンスターを蹴散らしてやろう。 ゆけ、ゴブリンゾンビを攻撃だ! サイコエナジースラッシュ!!」

 

山崎恵一 LP1800

 

メンタルスフィアは不気味な笑い声を上げ、僕のゴブリンさんに向かって飛んで来た。

そして容赦なくその鋭い爪でゴブリンさんを引き裂くと、相手のフィールドに戻っていった。

 

「スフィアの効果、破壊したゴブリンゾンビの攻撃力分ライフを回復する」

 

ディヴァイン LP5700

 

『キヒヒ…ダカラ言ッタダロウガヨ、コウスレバ楽ニアイツヲ倒セルッテ…。 マッタク、無駄ナ騎士道トヤラヲ未ダニ持ッテルカラコウイウ事ニナルンダ』

 

え、しゃべった。

 

「…黙っていろ。 お前はそのままフィールドにいればいい。 無駄な事は喋るな!」

 

『アーハイハイ。 ソウサセテモラウヨ、ゴ主人様ァ』

 

…なんかあのメンタルスフィアはやさぐれてるな。

すっごいぐーたれてる。

ああいうキャラもあるんだな…。

 

…うぷ、また吐き気が…。

 

「う、ぐぅ…我慢我慢。 とりあえず、ゴブリンゾンビの効果発動。 デッキよりカメさんを手札に加えます」

 

僕はゴブリンゾンビが破壊された時に発動するサーチ能力を使い、デッキからピラミッドタートルの二体目を手札に加えた。

…このバトルフェイズ、もう何もしてこないかな?

 

よし、見せ場だ。

 

「ここで僕は速攻魔法、コードチェンジを発動します!」

 

コード・チェンジ(アニメ限定改訂)

このカードを発動後、ターン終了時までの間に1度だけ、モンスターの種族を自分の選択した種族に変更する事ができる。

 

「…コードチェンジ?」

 

『ア? 今更ナンデアノカードヲ使ウンダ? 気ガ狂ッタノカ?』

 

メンタルさんもディヴァインさんも、僕がなんでここでこのカードを使うのか理解できていない様だ。

無理も無い。

このカードは一枚だけでは効果が無く、しかも大抵の場合使っても意味が無い。

良くて援軍とかを作用させるために使用できるけど、そんなタイミング滅多に無いだろう。

 

ところがどっこい、このカード。

実は僕のデッキでは最高のカードになるんだ。

 

「僕はさらにリビングデッドの呼び声を発動します!」

 

リビングデッドの呼び声

自分の墓地のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

「り、リビングデッドだと?」

 

『…ドウイウ事ダ? ヤツノ墓地ニハクズカードシカ無イハズ…マサカ!?』

 

お、メンタルさん気付いたかな?

そう、お気づきだろうか。

僕がゾンビマスターの効果を発動しようとしたときの言葉を。

 

 

 

 

 

〜二枚は要らないしこっちでいいか…〜

 

 

 

 

 

二枚は要らない。

 

そう、ここで言っていた二枚とは、アイツらの事だ。

そしてその一枚は、僕の墓地にある。

 

邪神の最高神である、ヤツが!

 

「僕は墓地にあるカード一枚の種族を…なんでもいいか、悪魔族に変更! そしてリビングデッドの効果で特殊召喚!」

 

「な、なんだこの威圧感は…まさか!? そんな、神にはトラップが効かないはずじゃあ!?」

 

そう、本来ならばね。

しかし、今の邪神にはトラップが効く。

 

なぜならば、「神の力」が「神」にあるからだ。

 

…いや、多分言葉だけなら意味が分からないだろう。

簡単にするとこうだ。

まず神と言う存在は、幻獣神族という種族である。

そして神の力は、その種族である事に依存しているんだ。

 

例を挙げれば、前の世界にあった邪神がいい例だ。

アイツらは前の世界では悪魔族だった。

そのせいかどうかは定かじゃないけれど、前の世界ではトラップにもバンバンに引っかかってた。

 

ならば、神がトラップに効かないのは種族に起因するのでは?

 

僕はそう思ったんだ。

そして、試しに武藤とのデュエルで、ドレッドルートをわざと悪魔族にしてみた。

その結果、ミラフォに引っかかったんだ。

 

その時に結論が出た。

神の力は、「神」という種族であるからこそ在るもので、その座から引きずり降ろせば、神はトラップや魔法が効くんだ。

 

分かっただろうか、つまり今種族を変えられた墓地の邪神は、トラップが効くんだよ!

あぁ、このコンボ出すの久しぶり。

確か遊城との最後のデュエルの時に使ったかな。

あの子「遊戯さんと同じ戦法…やっぱりお前は最高だぜ、恵一!」とか言ってたけど、武藤と知り合いだったのかな、遊城。

 

まぁ、どうでもいいか。

とりあえず、呼び出すか。

 

「…歌は止んだ。 土は腐り、水は乾き、風は嗤う。 天、闇に染まりし時、世界を照らす日輪を仰ぐ…舞台は幕を引き、終焉の劇場が開く! 照来せよ、邪神アバター!!」

 

邪神アバター

ATK? DEF?

このカードは特殊召喚できない(修正対象)。

自分フィールド上に存在するモンスター3体を

生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。

このカードが召喚に成功した場合、相手ターンで数えて2ターンの間、

相手は魔法・罠カードを発動できない。

このカードの攻撃力・守備力は、フィールド上に表側表示で存在する

「邪神アバター」を除く、攻撃力が一番高いモンスターの

攻撃力+100ポイントの数値になる。

 

僕の長ったるい詠唱の後、闇の扉の先にある光より邪神のトップが降臨した。

ホント、雰囲気だけはピカイチだなコイツ。

 

「あ、あぁ…そん、な…」

 

『バカナ!? 最善ノ手ヲ打ッタハズダ! ナンダソノコンボハ、ソンナ方法ナンテ俺ハシラネェゾ!! ヤベェ、コノママジャ「アノ方」カラノ命令ガ…!』

 

ほら、ディヴァインさん達怯えてるよ。

ていうか、メンタルさん「あの方」って誰?

この寸劇まだ誰か出てくるの?

いい加減早くして欲しいんだけど…。

 

『ソ、ソウダ! コードチェンジハ効果ガ1ターンシカ持タネェ! 別ニコノターン何モシナケリャ勝手ニ死ヌジャネェカ! オラ、諦メテンジャネェウスノロ! テメェニハマダ働イテ貰ワナキャナンネーンダヨ!!』

 

あれ、なんかメンタルさんディヴァインさんの扱いが変になってませんか?

頭ベシベシ殴ってるし。

どういう事?

どういう設定?

まぁ、どうでもいいけど、間違いは修正するか。

 

「残念だけど、アバターは1ターン経っても残るよ」

 

「ッ!?」

 

『ナ、ナンダト!? デタラメ言ッテンジャネーゾガキガァ!!』

 

え、僕に対しても変な扱い…いや敵だしいいのか。

ていうか、ホントに正義側じゃないよな、あの人達…。

 

「確かに1ターン経てば神の種族は戻る。 そして同時に、神のトラップ無効能力が出るんだ。 だけど、その時に無効化されるのは「神に戻った後の効果」だけなんだ。 蘇生効果そのものが果たされた今、リビングデッドに残っている効果は対象モンスターか自身のどちらかが破壊されるまで永遠に残る効果だけだ。 つまり、後に無効化されるのは破壊効果だけ。 よって…」

 

「このターンが終われば…」

 

『邪神ハ、完全復活…スルッテノカヨ………ハハ…』

 

人造人間サイコショッカー、というカードがある。

 

あのカードは、フィールド上に在る限りトラップの発動を許さない。

だが、すでに発動されている場合はどうだろう。

しかも、永続的に続く効果ならともかく、すでに終えている効果ならば?

 

そう、リビングデッドがすでに発動されてしまっている時、サイコショッカーを召喚してもリビングデッドのカードと対象モンスターは残るんだ。

 

今がそれに該当する。

邪神の自身へのトラップ無効能力は、神に戻った時から始まる。

ならば、無効化されるのは「すでに作用した」蘇生効果ではなく、「これから作用する破壊効果」なのだ。

 

ディヴァインさんはそれがようやく分かったのか、今度こそ膝をついてしまった。

恐らく、彼の手札にはもう対処する手段はないのだろうな。

 

さぁ、これからデュエルという名のいじめがはじま…

 

『ハ、ハハハハハハハ…ふざっけんじゃねぇぞゴミクズがぁ!!』

 

!!!!?

な、なんだ?

メンタルさんいきなりキレたぞ!?

まぁ、こんなこと滅多に無いし怒るとは思うけど。

 

ていうか、訛りが無くなってますよ?

今までの芝居だったんですか?

 

『くそ、くそ、くそぉ!! 俺が、こんな所で終わる訳ネェンだ! 俺は、「あの方」に選ばれた、選ばれた者なんだよぉ! 神になる事を許された存在なんだ! それを、こんな所でぇ…オラ、人間! 何へこたれてんださっさと起きろぉ!! 俺がいなけりゃ何にもできねぇクズ野郎ガぁ!!』

 

…なんかさっきより悪態が目立つな…。

多分こっちが本性なんだろうけど、これはどうなんだろうか。

 

 

 

「………はは…、やはり、最後はこうなったか…」

 

 

 

そんな事を考えていると、今度はディヴァインさんが話し出した。

震える足で立ち上がり、情けなく笑っている。

ちょ、貴方もどうしたんですか。

 

「あの、大丈夫ですか…?」

 

「…覚悟はしていたさ、さんざん人を騙して、殺して来たんだ…。 いや、復讐なんてことを考えた時から、こうなると決まっていたんだろうな…」

 

…なんだろう、これどういうことだ?

なんで正義の役をしているこの人が、復讐なんて物騒な事を言ってるんだ?

まぁ、最近じゃダークヒーローなんてものも在るけどさ、これはよく分からんぞ?

 

「でもな、邪神の王よ。 私でも、自分を止められなかったんだ。 お前も分かるだろう、大切なものを奪われた時の無念が、どれほど苦しく辛いものか…」

 

『おい…、オイ! なにワケの分からねぇ事言ってんだ!! テメェはただアイツを殺せばいいんだよ! それだけでいいんだ、さっさと動けやゴラァッ!!』

 

「だが、結果はこれだ…。 もっと早く、終わらせるべきだったんだ…」

 

あっちはあっちで何か言ってるし。

…僕、どうすりゃいいんだ?

 

『ヴェエエエエエアアアアァァアアアア!!!!』

 

うお!?

お前も喋るんかい!!

 

今度はアバターさんも喋り出した。

ていうか、唸り出した。

 

しかも何か地震が…って、あれ崩れないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、私を裁いて下さるのか、邪神よ…」

 

 

 

突然アバターが叫び出した直後、大きな地震が発生した。

正直、立つ事もできない程の大きなヤツだ。

僕はその場に座り込んでしまい、ディヴァインさんが大丈夫か見てみた。

 

だが、それよりも彼のいる場所の天井が崩れそうな事に気が向いた。

ヤバい、アレほんとにグラついてるぞ!?

ていうかもう落ちそ…あ!!

 

「に、逃げて下さいディヴァインさん!!」

 

危なげだった天井は遂に崩れ始め、大きな瓦礫がディヴァインさんに落ちていった。

僕はディヴァインさんに逃げるように行ったが、なぜかディヴァインさんは目から涙を流すだけで動かない。

それどころか、瓦礫を受け入れるかのように両手を天に掲げ始めた。

 

そんなことしてる暇無いでしょ!

早く逃げてよ!!

 

「すまない…。 結局私は、復讐を果たすどころか、お前との約束も守れなかった。 …だが………もう、疲れてしまったよ」

 

(何ワケ分かんない事言ってんだよ! いいから逃げろよ! くそ、体が動けば………誰か、誰か来てくれ!!)

 

そう思ったとき、後ろのエレベーターの扉が吹っ飛んだ。

 

依然地震が続く中、その粉塵より二つの影が現れ、一直線にディヴァインさんの所へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『王ぉぉォォォォオオオオオオオオオオ!!!!』

 

『お兄ちゃんッ!!!!』

 

 

 




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