いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

2 / 31
山崎は、先生になっちゃってました。


始動
山崎恵一


山崎恵一

 

「はい逝くよー、僕はゾンビマスターを攻撃表示で召喚します」

 

僕、山本恵一は転生者である。

 

いや、正直転生なのかどうか分からない。

ある日、僕は友人の紹介でカードゲームを始めるようになり、そのデッキを買いにショップに出掛けていた。

買うカードは事前に決めていたやつだ。

 

友達には「絶対にやめとけ」って言われたけど、一目惚れしたんだからしょうがない。

あのカードをフィールドに出したい一心でデッキを作るんだから文句言わないでほしい。

 

「ゾンビマスターの効果発動! 手札からモンスターを捨てて墓地からアンデットを特殊召喚します。 いらっしゃい、ピラミッドタートル」

 

ショップに着くと、大抵のパーツはそろっていた。

それにしても遊戯王ってすごいんだな。

それ専用のカード置き場があるし、ケースの中のカードは紙とは思えない高さだった。

さすが、大人も楽しめるカードってことか。

 

「ピラミッドタートルでその伏せカードを攻撃します。 カメぇビーム」

 

…っと、あのカードもあった。

さっさと買っちゃお。

えーと、いくら…総計5900円か。

ちょっと高いな。

でも、まぁこれっきりだし別にいいか。

 

「いきます先生! トラップカード攻撃の無力化! 先生の攻撃は無効にします!」

 

そうして、僕はデッキを完成させた。

なかなか火力はあるんだけど、このデッキのコンセプトはいかにあのカードを召喚できるかだ。

逆を言えばあのカードが来なければ何の意味もない。

友達からもらえた封印の黄金櫃を使ったとしても、やや遅い。

ここぞという時に出で来ないと、そのまま相手にゴリ押しされて負けてしまうんだ。

 

「あらま、じゃあカードを二枚伏せて終わりまーす」

 

なんとか、ならないかなぁー…

 

「よし、私のターン! フィールドのモンスターを一体リリース! 出てきて、復讐のソードストーカー!!」

 

気が付くと僕は遊戯王にはまっていた。

どんなカードがあるのか、どういったシナジーを有するのか、弱点は何か、ほとんどのカードの事を調べ上げた。

そして、自分の切り札の事も知った。

 

あんま強くないなー、こいつら…

出すのはまだ何とかなるけど、トラップや魔法、効果で瞬殺だ。

リスクが高すぎる。

友人がやめとけって言ったのは、こういうことか…

 

「先生のピラミッドタートルに攻撃! ギルティスラッシュ!」

 

落胆していると、ネットであるカードを見つけた。

体中に電流が走った。

これだ、これがあれば弱点を補正できる!

そう思って、ネットで即購入した。

 

「おや、かっこいい必殺技。 ところがどっこいピラミッドタートルの効果発動。 デッキからアンデットを一体特殊召喚します。 いらっしゃい、ピラミッドカメ二号」

 

それから数日後、買ったカードが家に届き、ワクワクしながら中身を見ようとした瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

「う、これじゃ攻撃した意味ない… うー…、これでターン終了だよ!」

 

気づいたら知らない家のベッドで寝ていて、知らない学校に行って、知らない人に絡まれて、年を重ねていった。

今は遊戯王カード専用の学校であるここで先生をやっている。

 

今までいろんなことがあった。

武藤達と友達になっていろんなとこに行った。

 

「うい、僕のターン。 あー…、まずゾンビマスターの効果でモンスターを捨て、ピラミッドタートルを特殊召喚する。 あとはー…、まぁいいか。 ターンエンドです」

 

ペガサスさんはおかしな人だったなぁ。

片目光ってたし。

なんか言うたびに髪が靡いて目がキラーンってしてた。

ちょっと面白かった。

そういや、ペガサスさんって一杯人に迷惑かけたとか言ってたけど、何したんだろ。

よくわかんなくって、あの時は場の空気に合わせたけど。

 

「フフ、ピンチだね先生! でも手加減なんてしないよ! 私のターン! いけ、ソードストーカー!!」

 

あー、バトルシティってイベントを海馬が始めたこともあったなぁ…

ていうか、童実野町って治安すごい悪かったんだな。

あんなに目の死んでる犯罪者っぽい人がいるとは思わなかった。

どこに行っても必ずいたし。

目を合わせるとデュエルさせられたし。

ポケモンかよ。

しかも「お前のカードをよこせー」とか言って襲ってくるし。

訳わかんないよ、けたぐり仕掛けちゃったよ。

 

飛行機に乗ってたエジプトの人たちも変な人たちだった。

でも褐色好きなんでイシズさんと話せてよかったと思う。

川井さんがその度にものっそい目で睨んできたけど。

 

「デュエル教訓2の4 相手に伏せカードがある場合はどんな時も油断するな。 速攻魔法、収縮です。」

 

あー、あとエジプト旅行もしたなー。

あの時はすごくいい体験をさせてもらえた。

古代エジプト時代の服に着替えて街歩いたし。

王様ごっこしたかったけど、武藤に取られちゃったし。

なぜか双六さんや海馬、イシズさんもコスプレしてるのを見たときは驚いた。

ノリいいな、アンタら。

でも一番驚いたのは獏良君だわ、やっぱ。

日焼けのし過ぎで肌黑かったし。

性格変わってたし。

役者魂か、すごいな。

 

「え!? きゃ、ソードストーカーが!?」

 

んで、エジプト旅行の最後、武藤が二人になるマジックと寸劇を見た後に家に帰って、なんか体に違和感を覚えた。

背が伸びない。

怪我が一瞬で治る。

数百メートル先の人が持ってる本が読める。

どういうことなの。

調べたら、なんか死なない体になってた。

どういうことなの…

多分ファラオかなんかの恨みでも買ったかな?

って感じでしょうがなく受け入れた。

 

「慢心しちゃいけないよ、これで君のフィールドにカードはなくなった。 なんか伏せないと、次が危ないよ?」

 

そんでもって、何年経っても高校生であるこの体を利用して、デュエルアカデミアに入学してみた。

デュエルだけの学校とかおもしろすぎる。

そのくらいになって気づいたけど、なんかこの世界は遊戯王カードゲームが世界の競技になるくらい大きなものになっていたらしい。

テンションあがってきた。

 

「うぅー…、モンスターをセットして、カードを二枚伏せる、これでエンドです…」

 

そのアカデミアでもいろいろあった。

僕が作るのを断念した三幻魔を使うおじいちゃん(マッチョ)や、アルカナシリーズを使う白い人(怖い)とデュエルした。

勝った後、相手の顔を見るとすごい清々しそうな顔をしていた。

そりゃ競技になるくらいだもんね。

スポーツマンシップもあるわな。

いや意味分かんねえよ。

 

「ん、おっけ。 僕のターン、またゾンビマスターの効果発動、ゴブリンゾンビを特殊召喚します。 こうげ「かかった、いくよ先生! 激流葬!!」えぇー…」

 

最後に驚いたのはあれだね、骨の人。

厚底靴を履いてるわけでもないのに2メートル以上身長があった。

本当にでかくてびっくりしたよ。

あの人も僕のカードにご執心だったけど、なんなんだろ。

 

「あちゃー、先生手札にモンスターいないな… ターンエンドです」

 

そんでもって卒業後、どっかの研究所に拉致されることを恐れた僕は、クロノス先生に学校を隠れ蓑にできないか相談した。

先生は終始静かに涙を流して聞いてくれた。

先生はいい人だなぁ…

使命とかよく分からなくて聞いてなかったけど。

と、言うわけで私は今、デュエルアカデミアで先生をしています。

偽名、山本恵介として。

 

「やった!! いくよ先生! さっき私が激流葬で墓地に捨てた光属性モンスターと墓地のシャインエンジェルを除外して、神聖なる魂を特殊召喚! 出てこい、神聖なる魂!!」

 

現在、デュエルアカデミアは三階級制度を無くし、小中高の一貫校となっている。

私の担当は高等部と初等部。

なんでこんな極端な…。

そして今は初等部の生徒に対して実技テストを行っている。

相手の子には支給されているデッキを使わせ、カードの組み合わせを考えさせている。

その点では、あの子はかなり優秀だ。

先程の激流葬から聖なる魂召喚までの流れはなかなかどうしてすばらしい。

 

「聖なる魂で攻撃! ホーリーショック!」

 

「ぬぉおおお!? これはひどい!!!」

 

そして私は、あろうことかダイレクトに攻撃を受けてしまった。

初等部の子相手にこれは恥ずかしい。

あ、教頭めっちゃ睨んでくる。

やめてよ、わざとじゃないよ。

いや、わざとだけど。

子供相手に本気出しちゃあかんでしょうが。

 

「やった! 私のターンはこれで終わりだよ! 先生、形勢逆転だね!!」

 

あーもう満面の笑みでこっち見ちゃって、かわいいなぁもう。

正直子供の笑顔ほど嬉しいものはない。

教職は自分にとって天職なのかもしれない。

 

「ヴぇぇ…。 なんとかなるかな…? 僕のター…」

 

「? 先生、どうしたの?」

 

さて、そんな自分にも悩みはある。

 

例えば、不死である事。

これはもうどうしようもない。

直し方もわからなければ、理由もわからない。

今の自分にできることは、マッドなサイエンティストさんに自分の事を知らせないことである。

そうすることで、とりあえず自分を守ることはできる。

 

例えば、友人である城之内の妹である川井静香さん。

彼女は、腹痛で病院に行った時に偶然出会った。

いろいろ話しているうちに、彼女は城之内の妹であることが分かり、さらに話が弾んだ。

彼女は目が見えない病気だったらしい。

そのせいか、いつも笑っていたけど妙に痛々しく感じた。

だから通院していた間はいつも彼女に接すようにした。

なんか見捨てれなかったんだよね、きっと友達の妹だからだろう。

 

それから何年か経って、目の下が真っ黒になるほど寝てない状態であった城之内を相手にデュエルした時に彼女と再会した。

その時の城之内は、本当に寝不足で意識が朦朧としていたのか、禁止にされてたバーンカードをめっちゃ入れてたなぁ…。

んで、それでもまぁいいかー、ってデュエってたら川井さんの眼の包帯が取れて目が露わになっていた。

…思っていた以上に綺麗な目だった。

ついつい言ってしまうほどだった。

 

まぁ、そのデュエルは勝つことができて、その後も彼女との交流は何度かあったんだけど、エジプトに旅行しに行ってから会わなくなった。

理由はもちろん死ななくなったから。

信用はしてるけど、なかなか会いに行く勇気がない。

迷惑かけるかもしれないし。

メアドも変えて、住所も変えた。

 

武藤や城之内、海馬たちともあれから話してないなー。

ま、意図的にしたんだから当たり前だけど。

ただここからが問題なんだ。

ほとんどの人ともう会うことはないと思っていたのに、なぜか川井さんとは要所要所で会うことがあった。

しかもあの子、僕を見つけるたびにものすごい勢いでコッチに来るから正直怖い。

何回かメアドを変更した今でも、どこから知ったのか偶にメールをよこしてくる。

当然返せないけど、怖くて。

そんなこんなで彼女も僕にとって困った存在である。

 

そして最後…

 

(うわー、また来たよ…)

 

僕のカードの事である。

主に僕の切り札的カード。

この世界に来てからコイツらの様子がおかしい。

 

まずドローするタイミング。

あー、この局面ならアイツ来てほしいなー、って思うとまず間違いなく来る。

しかもそのターンで召喚できるように、他の手札もいい感じにそろっている。

もちろん最初に手札に来て邪魔になることもない。

ていうか、1ターンで出せる時もあった。

確か万丈目との時だ。

あの子泣いてたな、無理もないわ。

 

次に効果。

この世界に来てから改めてテキストを見たとき、正直愕然とした。

読めるんだけど、読めない。

ていうか、知らない。

訳分からない文字になっていた。

英語でもないし、フランス語でも、韓国語でもない。

だから、最初のころは全く使えないでいた。

 

んで、ペガサスさんに偶然このカードを見つけられて、詳細を教えてもらえた。

まずコイツら、トラップが効かない。

ミラフォとかワンパンで砕いてた。

そして魔法。

魔法は1ターンしか効かないようになっていた。

例えば、死者蘇生で甦らしても、エンドフェイズには墓地に戻る。

装備カードとかも、1ターンで効果を失ってしまった。

そうそう、死者蘇生のくだりで分かったと思うけど、特殊召喚もある程度解禁になっていた。

基準が今もわからないけど。

他にも色々あるんだけど…、まぁ要は武藤が持ってたヤツとほとんど同じになったそうだ。

しかも、違う人間が蘇生しようとしたり召喚しようとしてもされなかった。

なんだこれ。

あ、そうだ。

ついでに後でペガサスさんから、専用のカードを作ってもらえた。

もとの世界にはなかったカードだったから、覚えるのが大変で正直焦った。

 

…、とまぁ。

パッと見かなり強化されて最強になってしまっているわけなんですけども、今の自分にはかなり困る一品になっている。

どうしてかというと、そのめちゃ強いカードの使用禁止が言い渡されていたからである。

しかも、その相手は自分を教職に就かしてくれたクロノス先生だったから断るにも断れない。

さらに自分は初等部の指導を行う身である。

あんなもの出して子供にトラウマ植え付けでもしたら大変だ。

正直、ソリッドヴィジョンのおかげでかなりリアルに出てきてたし。

 

てなわけで、ピンチの時に必ず「来てしまう」このカード達が、今の自分にとってどうしようもない物であるわけでして…

そして、残りの手札だけでは逆転のしようもなくて…

 

つまり…

 

「…んあー… なんでもないよ。 えー…ターンエンドで」

 

先生になってから今まで、私は生徒にほとんど勝ったことがない、勝率1割のカモネギ先生になってしまっていたのである。

おかげで昇級テストのときは生徒に引っ張りだこである。

 

あの先生なら大丈夫だよ!

滅多なことがなければ負けないよ!!

 

素で生徒たちにこう言われてるんだ。

しょげるよ、全く。

 

「え? じゃ、じゃあ、私は聖なる魂で最後の攻撃です」

 

教頭はいっつも怒ってくるし、同僚はバカにしてくるし、生徒には舐められるし。

正直今すぐにでも辞めたい。

かろうじて、クロノス先生のメンツのために頑張り続けている。

教職が天職と言ったな、無理だ。

さすがに無理がある。

 

ただまぁ、そんな最悪の環境下でも、やっぱり癒しはいる。

例えば…

 

「せ、先生! 大丈夫ですか!?」

 

今テストをしていた女の子。

そろそろ中等部に上がる女の子である。

中等部は自分の担当ではないので、ちょっとさみしい。

どうでもいいか。

 

とにかくこの女の子。

なんか他の子に嫌われていて、いつも一人ぼっちだった。

まさかデュエル世界でもいじめが!?

と思って絶対にそんなことはさせないために、ほとんど付きっ切りであの子と接していた時があった。

最初はあの子も戸惑ったみたいで、「私といると先生も不幸になるよ」って言っていたけど、何のことない、別に何も問題なんてないじゃないか。

 

体にも変わったところはない。

あえて言えば、彼女とデュエルすると、昔感じた強烈な吐き気を感じるってだけだ。

でもこれは自分の自己管理のせいだし、彼女のせいではない。

だから、言ってやったよ。

 

「心配すんな! 先生別に不幸なんてないし、大抵の事は平気だから! 先生キミを絶対守ってあげるから、安心してってね!!」

 

ってね!

そしたらあの子ったらいじめから解放されて安心したのか、ものすごい勢いで泣いて僕に抱き着いてきたんだよ。

先生、先生って何度も叫んで、つよーく抱きしめてきたから、コッチも負けじと抱きしめてあげたよ。

あの時は嬉しかったね。

先生やってて良かったって、本気で思ったね。

 

で、そんな女の子。

いじめが無くなってもまだ友達を作りづらいのか、いつも私のそばにいるようになっていた。

職員室にいても校庭にいても、挙句の果てには住んでるアパートにいても自分のもとに来る彼女は、なんだか川井さんに雰囲気がすごく似ていた。

 

今も、デュエルに負けて情けなくなって座り込んじゃった私に近づいてきてくれた。

 

「あぁ、大丈夫だよ。 君は心配性だなぁ…よしよし。 とりあえず、試験合格です。 おめでとさん」

 

んで、近づく彼女に僕はいつも頭をなでることで応える。

別に少女だし、いいだろ、セクハラじゃねぇだろ…。

 

「ん… ありがと、先生。 えっと…、先生、あの約束って覚えてる?」

 

? 約束…?

…! あぁ、勝ったら休日にどっか行くってやつか。

 

「うぇい、覚えてますよ。 またあとで詳しいお話をしましょうね」

 

「本当!? ありがとう、先生! じゃあまたあとでねー!」

 

そう言うと、彼女は嬉しそうに走って行った。

ホントに嬉しそうだったなぁ…。

先生と休日にどっか行くって、僕が逆の立場だったら罰ゲームなんだけどな、補習的な意味で。

でもまぁ、彼女は優秀だし、どっか行ってアイスでも奢ってあげれば喜ぶでしょう。

よし、とりあえず今日のテストは終わったし、初等部の子相手に全敗してしまった始末書を教頭に出しに行きますか。

 

それにしても、あの子は本当に素直でいい子だ。

確か名前は 十六夜 アキ っていったっけ?

なんかどっかで聞いた名前なんだけど、どこだっけ…?

確か毎週どっかの日の夕方で聞いた気がするんだけど…

んぁー…、…まあいいか。

 




ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。