いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

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英雄は、大きな疑問を抱いていた。


英雄

英雄

 

「よっ、っと…」

 

白い戦士に肩に担がれ、彼女たちの攻撃を消した者がその場に降り立った。

その眼は燦々と輝いており、全身から正義の波動を放っている。

 

「…誰ですか、貴方は? できれば、何もせずに立ち去って欲しいのですが…」

 

まず口を開いたのは川井静香であった。

彼女は自分の攻撃を邪魔したその者を、まるでゴミに集るハエを見るような目つきで睨んでいた。

 

「…部外者は、消えなさい」

 

次いで十六夜アキが男に話しかけ次いで川井に仕掛けていた攻撃を繰り出す。

しかし男はその攻撃に臆することもなく、再び白い戦士に攻撃を遮断させた。

 

「おいおい、随分歓迎されてないみたいだな…」

 

『それはそうだろう あの女たちから見れば、僕たちは恋路を邪魔する邪魔者だからね』

 

男は後ろにいる黑い何かに指摘され、眉間にしわを寄せてそれを見た。

 

「いや恋路って…、アイツら殺し合いしようとしてたじゃないかよ」

 

『ふふん、まぁキミに恋愛なんてもの言っても仕方ないか 絵にかいたような鈍感だからな』

 

「………なんかすごいバカにされた気がする」

 

傍から見たら男がバカみたいに独り言をしているように見える風景。

しかし川井と十六夜はうかつに動けずにいた。

 

二人は「力」を持つからこそ分かる。

目の前の男の持つ強靭なる精神、そしてそれを包む優しき闇が。

その存在が、二人の攻撃を妨げる。

 

「…貴方は…、何者ですか?」

 

その言葉に、言い争いをしていた男は川井に目を合わせ、高らかに宣言する。

その瞳は、決して衰えぬ少年のような熱い闘志と、永遠に尽きぬ覇王の持つ決意が映っていた。

 

 

 

「おっと、自己紹介がまだだったな 俺の名前は遊城 十代、そこで気絶してる恵一と元クラスメイトで、仲間だ」

 

 

 

「クラスメイト? …あぁ、デュエルアカデミアにいらした方ですか その制服は、かなり古いものみたいですが…」

 

「おう、なんてったってアカデミア創設時の一番古いやつだからな マニアに売れば相当の価格になるぜ!」

 

『…十代、僕達は世間話に来たんじゃないだろう さっさと用を済ませなよ』

 

話の脱線を感じたのか、黑のツッコミが入った。

彼は話の邪魔をされて若干不機嫌になったが、気を引き締めなおして先程まで気絶「していた」何かに話しかけた。

 

「ちぇっ、分かったよ… そんじゃ、久しぶりだな恵一 …いや、今はアバターか…」

 

「ッ!? アバターですって!?」

 

「…、先生…じゃない…」

 

遊城の言葉に二人は驚いたように振り向き、気絶している筈の愛しの彼を見る。

しかし、そこには情けなく目を回して仰向けに倒れている彼の姿はなく…

 

 

 

「…ふむ、久しいな英雄の稚児よ」

 

 

 

眼を真っ黒にした、山崎で無い闇がその場にいた。

 

 

 

 

 

 

「…その稚児ってのいい加減辞めてくれないか? 俺もいい加減、いい年なんだけど…」

 

「何を言うか 私から見れば貴様など永遠に稚児のままよ 覇王の力を完全に制御し、その溢れ出る力を我が物にしようとも、未だ私には及ばぬ…」

 

「……はぁー、なんでいきなり隠し玉がバレてるんだよ…っと!」

 

「「!!?」」

 

その瞬間、遊城の纏う雰囲気が変わる。

遊城の周りには竜巻のような風が逆巻き、その中心から怒涛の力が溢れだす。

その力に一切の容赦はなく、慈悲に満ちた愛を孕んでいた。

 

その力を前に、川井と十六夜は驚きすぐさま攻撃した。

山崎の体を乗っ取った憎き邪神も気になるが、今相手にするべきなのはこの男だ。

ここでコイツは殺す。

山崎と自分の世界のために、コイツは絶対に邪魔になる!

 

それに至るまで、ほぼ一瞬。

彼女たちは彼の力を視認したとともに自分の凶器を彼に向ける。

確実に殺し、磨り潰す暴力。

常人ならば見る間もなく気がふれるほどの狂気を纏わせ、殺しにかかる。

 

しかし。

 

「そ…そんなっ!?」

 

「…ふーん やっぱり、そんなに簡単には死んでくれませんか」

 

暴風が止んだ後、現れたのは正義の闇を携えた男だった。

その眼は緑と黄色のオッドアイとなっており、強い光を放っている。

 

「…ふー、一応しっかり使えるが、いきなりの全開はまだまだ疲れるな」

 

『だが生徒であった時と比べたら雲泥の差だよ あの時はまだ能力にムラがあったからね 一応褒めてあげるよ十代』

 

「ハハ、ありがとよ」

 

そんな軽口を黑と飛ばしあい、覇王となった遊城はアバターと向き合った。

それに対して山崎の体を使う太陽は、一歩も動かずに遊城を見つめる。

 

「さて…、次はお前の番だぜアバター」

 

「…なんのことだ?」

 

「とぼけんなよ、お前には聞きたいことが山ほどあるんだから…ッ!?」

 

太陽に近寄ろうとした瞬間、遊城は強烈な殺気を感じ、その場を離れる。

殺気の正体は、もちろん川井と十六夜である。

二人は無表情であり静かな雰囲気を放っているが、実際は怒りを通り越して理性を保つのも精一杯な状況であった。

 

「…一人で話を進めないでください。 それと、私の恵一さんから離れてください。 それ以上近づいたら今度こそ殺しますよ」

 

「お前は…危険よ… 先生の為にも…ここで殺す…!」

 

川井はその内に宿す強力な何かのおかげか、まだ知的な対応ができている。

しかし十六夜の方はすでに我慢の限界だった。

 

当然だろう。

あれだけ欲した先生を一度その手に戻すことができたというのに邪神のせいで逃げられ、意を決して再度見つけた時には見慣れない女と共に幸せそうにしていた。

さらに今、目の前で全く知らない赤の他人にお預けを喰らっているのだ。

 

世界に、そして邪神に振り回された彼女にとって、今の状況は許せるものではない。

一分一秒が惜しい時なのである。

 

「先生、待ってて… あとちょっと、あとちょっとだから…」

 

「…おいユベル、この子なんかおかしくないか? なんかアイツらと雰囲気が似てるんだけど?」

 

『アイツら? …あぁ、金髪娘とチビか 当然だろう、キミだってあの女たちの事を蔑にして好き勝手してるんだからね 似たところは多すぎるよ』

 

「な、何言ってんだよ! 俺は明日香やレイを放ったりなんてしてないぞ!?」

 

『…はぁー、このバカは筋金入りかい… まぁ、受け入れてもボクが許さないけど』

 

「ホント何言ってんだお前!?」

 

気づけば振出し。

遊城と彼の持つ黑、ユベルは最初に出てきたころと同じく漫才をしていた。

その様子に、川井と十六夜のイライラはさらに増す。

 

もはや手加減などしない。

そう思いカードに手を掛けた瞬間、その空気を破る声が聞こえた。

 

「いい加減話を進めよ、稚児よ」

 

ソレは太陽であった。

太陽は無表情であったが、少し苛立っているのは見て取れた。

 

「稚児よ、貴様の事は分かっている 覇王の力、次いでネオスペースの力を完全に宿すことで常人以上の寿命を持っているのだろうのだろう? その波動と若すぎる容姿を見れば、聞かずとも分かる なればこそ、私が邪神に関して言うことは何もない 早々に去れ」

 

その言葉を聞き、遊城は頭を掻いて悔しそうに顔を歪ませた。

それに対してユベルは「ヤレヤレ、やっぱりか」とため息をつき、もう一人の人格は「そう落ち込まないで、相手が邪神ならだニャ」と遊城を慰めた。

 

「ちぇっ、全く面白くない…もうちょっとくらい驚いてもいいのによ… だが、その考えはちょっとお門違いだぜ」

 

「…なに?」

 

その言葉に反応し、太陽は困惑する。

遊城は体の関節をコキコキと鳴らすと…

 

 

 

「俺が聞きたいのはお前の事じゃない、恵一の事だよ」

 

 

 

そう言った。

その瞬間、その場にいる誰もが空気が凍りついたように感じた。

正体は、太陽である。

 

「………」

 

「俺はこの数年間、力を得るためだけに世界を飛び回っていたんじゃないんだぜ? 俺は旅の中で、ある仮説を立ててその調査をしていた。 そして、その仮説は正しいものだったんだ」

 

ピクリ、と。

わずか、ほんの少し、太陽の表情が崩れた。

 

「何を…、何を言っている…」

 

しかし、少年は止まらない。

神を恐れぬ青年は、太陽に対してもその態度を変えない。

 

純粋に、愚直に…

 

 

 

「その仮説は…、闇の等価召喚の条件だ」

 

 

 

真っ直ぐに太陽を捕らえ、遊城はそう言った。

 

その直後、太陽に異変が起きた。

 

大きくその眼を見開き、地鳴りと共に周りに闇を凝縮させていく。

額には血管が浮き出ており、怒りの形相を露わにする。

その豹変ぶりを見て遊城は満足した表情を浮かべ、川井と十六夜は驚き、困惑した。

 

(…なぜ、ここまで邪神が…?)

 

(先生の事…どうして…どういうこと…?)

 

二人の困惑をよそに、太陽は常人を一瞬で廃人にする程の殺気を放つ。

先程の威圧とは違う。

絶対的な破滅を呼ぶ、大いなる邪神の純粋な殺気であった。

 

「…小僧、過ぎた好奇心は身を滅ぼすぞ…」

 

そう答えた。

しかし、それは太陽にとって数少ない失言となった。

 

「…へへっ、やっぱりか… そこまで俺の言葉を止まらせるってことは…核心に迫っているって事だな…」

 

その言葉にハッとして、憎々しげに太陽は遊城を睨む。

遊城も十六夜も、最年長である川井ですらも、山崎に憑依する太陽がここまで表情を崩すのを見たことがなかった。

 

「…なんなの? その等価召喚というのは…」

 

次いで口を開いたのは十六夜だった。

先程までの激情はある程度おさまり、遊城の言葉が気になったのである。

先生の事と知り、少しでも知りたくなったのである。

 

「あぁ、闇の等価召喚ってのはな…、えーと… だ、大徳寺先生、後まかした!」

 

『にゃ!? じゅ、十代君それはひどいニャー!!』

 

遊城はバッグの中からおもむろに猫を取りだし、その口の中から光の球体を出させた。

所謂魂だけの存在であるソレは、かつて遊城、そして山崎の教師であった大徳寺であった。

 

「頼むって先生! 俺難しい事説明できねーんだよ」

 

『はぁー、この仮説を立てたのはキミだろうに…しょうがないニャー…』

 

深くため息をつき、全員を見据える。

その眼は、かつての情けない教師のものでなく、それよりも昔の錬金術師として生きていた時のものであった。

 

『それでは、まずは初めまして こうして話をするのは初めてですな 幸運に思いますよ、邪神アバター殿 私はかつて、錬金術を極めようとしていた者、だいとく…いや、アムナエルと申します』

 

「紛い物の研究者か。 今も研究をしていたとはな…」

 

『いやはや、私も足を洗おうと思っていたのですがね 十代君がどうしても調べてほしい、と言いまして…』

 

「………」

 

『ハハ、そう殺気を向けないでいただきたい こう見えて、かなり精神にくるものがありますから…』

 

両手を上げてニコリと笑う錬金術師を見て、太陽は表情を変えずに敵意のみを引かした。

 

「…聞いてやる、疾く応えろ」

 

『感謝の至り』

 

錬金術師は片腕を腹部にあて、仰々しく礼をした。

静かに、ただ静かに周りは錬金術師と太陽の会話を耳にする。

息をする音すら煩く感じるほどであった。

 

『さて、どこから話そうか… まず、貴方たち「闇の存在」に関してです』

 

永遠に感じるほどの数秒が過ぎ、ようやく錬金術師は口を開いた。

 

『闇の能力というものは光の能力と比べ、かなり使い勝手が良いものだ 契約さえすれば、誰でも行使する事だけはできるようになる』

 

「…それがどうした」

 

『話は終わりではありません 問題はその能力行使に対する対価です 闇の力は誰でも使える代わりに、誰にでも等しく対価を求めるものだ 現実においても、そしてデュエルにおいても召喚、発動するだけでその者の精神を蝕む 違いますか?』

 

その言葉に、川井と十六夜は驚愕し、邪神はさらに目を細めた。

 

「なっ!? で、でしたら恵一さんは…!」

 

「邪神を召喚するたびに…!」

 

『…その精神を、すり減らしていると思われる しかも、恵一君が使っている闇は半端なものではない 当然負荷の大きさも尋常なものではないだろう…』

 

一切の淀みなく、アムナエルはそう答えた。

その事実を受け、川井は顔を険しくして怒り、十六夜は膝をついてイヤイヤと首を振って泣き始めた。

恋人がすでに手遅れであったことを知った二人の後悔は、図れるものではない。

 

「くっ、本当に害悪でしかないようですね、邪神ども…」

 

「そんな、じゃあ先生は…私は…どうすれば…」

 

しかし、違う反応を示した二人を前に、アムナエルはさらに驚かせることを話し始めた。

 

『そう、本来ならば…ね… しかし、例外は必ず存在する。 今回の場合、それは行使する者が生来持つ能力の有無だ』

 

「………」

 

その言葉に、太陽は明らかに狼狽えていた。

見た目では分からないが、先程の威圧的な雰囲気はなくなっている。

 

『例えば十代君 彼は闇の能力を使う際に自分の中の覇王の力を消費することで、自分へのデメリットを無くしている そこの薔薇を操る女性も然り』

 

全員が話を聞く中、さらに説明は続いていく。

 

『かつてデュエルキングと唄われた武藤遊戯 彼の中にいた名も無きファラオに関してもそうだ 調査の結果、彼のように内にもう一つの人格がいた人物には、例外なく多少の精霊の力があったのだ 恐らく、顕現の際にはその力を利用していたのだろう そして…』

 

「現状、恵一には特に精神的な異常は見られず、昔から全く変わっていない つまり、恵一には何かしらの力がある そう俺達は考えたんだ」

 

『…十代君、最後の最後で入ってくるのは反則だニャー…』

 

最後の一言を遊城に盗られ、アムナエルはがっくりと項垂れてしまった。

遊城はそれを見て、手を合わせて謝る。

そんな彼らに、邪神はようやく反応を返した。

 

「…随分と大層な仮説を立てたようだが…、ならばダークネスの件はどう捉えるのだ? あれはこの世に出るための媒介を必要としてないぞ?」

 

「いや、ダークネスも同じだ アイツは世界の全ての人々をミスターTによって強制的に能力者として契約させ、この世に現れたんだ だからこそ、あれだけ強力なパワーを顕現させることができた」

 

そして…

 

 

 

「そのダークネスにすら「頂点」と言わしめたお前たち邪神を、なんのデメリットも無しに何度も現実に召喚できる恵一は、明らかに異常なんだよ」

 

 

 

「「…ッッ!!!?」」

 

その言葉に、二人の少女は今までで最大の混乱を迎えた。

自分にとって障害となる邪神のみを考えていた彼女たちにとって、その言葉は意外過ぎた。

そして、その場にいる全ての者が、答えを求めて邪神の方を見る。

 

「これが、俺たちが考えた法則と、恵一に対する考えだ さぁ、どうなんだよ 恵一はいったい何を持ってるんだ?」

 

遊城の問いに対し、邪神はゆっくりと口を開く。

だが…

 

 

 

「………、身の程を弁えよ、愚か者…!!」

 

 

 

邪神が返したものは、答えではなく殺気であった。

いや、もはや殺気と表現することもできない、凶悪な何か。

 

怒涛の威圧。

本来音のする筈がない圧力が、まるで巨大な土砂崩れが起きた時の音と共に三人に降り注ぐ。

それは等しく、薔薇の力を宿す少女を、外宇宙の力を持つ少女を、覇王の力を完全にコントロールする青年を、ひれ伏させる。

平等であるからこそ、差別なく、降り注ぐ。

 

一切の安らぎも、慈悲も、許しもない。

恐怖、不安、恐れ。

絶対な存在に対する感情を、太陽は遺憾なく植え付ける。

 

「へへ…こうじゃなくっちゃな さすが、邪神の最高神だぜ…」

 

それに対して青年は強靭な敵を前に返って喜んだ。

純粋に、少年のような瞳を向け、遊城は問いを繰り返す。

 

「だが、それで誤魔化されはしないぜ? さぁ、教えてくれよ 山崎恵一とは、いったいなんなんだ?」

 

「愚かな小僧が…!」

 

全員が、答えを求める。

その答えが救いになるか破滅になるかはわからない。

しかし、それでも少年少女達は知りたかった。

太陽は、ゆっくりと瞳を閉じ、あふれ出る殺気を引っ込めて考え始めていた。

 

 

 

 

 

「…ふん、ならば答え合わせといくか」

 

数分の時が流れ遂に太陽は口を開いた。

 

「まず闇の召喚についてだが、此方は大体正解だ 我ら闇の住人は能力の執行の際に見返りを求めるものだ それに例外はない」

 

「…やっぱり…か…」

 

「ということは、やっぱり恵一さんには「小娘、勘違いをするな」」

 

川井の言葉を太陽が遮った。

 

「正解であるのはそこまでだ 我らの王は、特別な力など有していない」

 

「…なに?」

 

「どういう…こと…?」

 

 

 

「言わずとも分かるだろう 王は我らを召喚する際に、その精神を少しづつ削らしているのだ 今まで、それに例外はない」

 

 

 

「ちょっと待てよ、だったら恵一の精神の健全さはどう説明するってんだ?」

 

太陽の言葉に、遊城は疑問の言葉を投げかける。

今までデメリットを受け続けていたのならば、それはどこに行ったのだろうか。

 

「簡単だ、私たちが王の精神を支えているだけに過ぎない 我らの闇を柱として、王の精神が瓦解する事を防いでいるだけだ」

 

「支えている? そんなことが可能なの?」

 

十六夜はそう太陽に聞いた。

彼女は強力な精霊の力を有しているからこそ、ソレの難しさが分かる。

破壊はできても、癒して治すことはできない。

その力の恐ろしさを知っているからこそ、十六夜は太陽の言葉を疑問に思ったのである。

 

「ふん、世界がお前の知るだけであると思うな 我らにかかれば、精神の操作など造作もない」

 

太陽はそう言うと…

 

「我らは我らの目的のために動いている そのために山崎恵一という人物は最も利用しやすいモノだっただけのことだ 目的が達成されれば、切り捨てるのみ」

 

そう、冷徹に言い放った。

直後、その場に強烈な殺気が走る。

川井と十六夜のものだ。

二人にとって、今の言葉は看過できない。

 

「…貴方たちは…どこまで恵一さんを…!!」

 

「…この…ゲスが…!!」

 

「ふん、どうとでも言うがいい お前たちに、私たちを止めることなどできはしない」

 

悔しがる二人を見て、太陽は嘲るように笑った。

しかし…

 

「違うだろ…アバター…」

 

遊城だけは、違った反応を見せた。

その眼は先程の少年のようなものではなく、ゆっくりと子供を諭す父親のような、慈愛に満ちた眼であった。

 

「なに?」

 

「この仮説は何も恵一の異常性を説くものじゃない、お前達の無罪を証明するための物だったんだ」

 

静かに、ゆっくりと話を続ける。

ユベルが、アムナエルが、その後ろで遊城を見つめる。

 

『十代…』

 

『諦めるんだニャ、十代君 邪神はやはり悪だったんだ』

 

「違う! そんなものは俺たちが勝手に決めつけていただけだ!」

 

二人の言葉を、首を振って否定する。

声を荒げ、二人を、そして太陽を睨む。

 

「闇が悪だなんて道理はない! お前は、お前たちはその力を使って恵一のナニカを隠している、違うか!? 教えてくれ、お前の目的を! お前の心を!!」

 

叫び、訴える。

この場にいる全員が疑問に感じながら。

可笑しい話だ。

今まで邪神を敵としか思っていなかった川井と十六夜は、どうしたらいいか分からなくなっていた。

 

遊城の言うことは正しい。

しかし、邪神の言うことももっともだ。

 

愛する山崎に、いったい何があるというのだ…。

 

(恵一さん…)

 

(先生…)

 

二人は、ただただ見守る事しかできずにいた。

事の真相を、確かめたかった。

 

「…くだらん」

 

しかし、太陽は遊城の言葉を鼻で笑い切り捨てた。

 

「お前がどのような疑問を持とうが、我らに変化はない 我らはこの男を利用し、捨てるのみ お前たちの基準で見るのならば、我らはどこまでも悪なのだ…」

 

そう言って、太陽は振り返って立ち去ろうとする。

 

「! 待ちなさいアバター! 恵一さんを置いて行ってください!」

 

「先生を…連れてかないで…!」

 

「待て、アバター! お前たちの目的はなんだ! 応えろ!!」

 

 

 

「…応える道理はない 我らは我らで動くのみ…」

 

 

 

そう言うと、知らぬ間に気絶してしまっていたディレを抱えると、太陽は闇の中に消えて行った。

 

 

 

太陽が去った後、残ったものは疑問のみであった。

 

 

 

 

 




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