いや、確かに強いけど   作:ツム太郎

14 / 31
青年は、新たな邪神を出しました。


あるはずのなかった事変
異竜


異竜

 

「…そして、後で探しても岬はどこにもいなかった」

 

そう言うと、不動は僕に頭を下げてきた。

 

「すまない。 彼女を助けるどころか、逆にどこかに行かせてしまった」

 

「いや、不動が気にすることじゃないよ。 薬を取りに行ってくれただけでもうれしいんだから…」

 

「そうか…」

 

話によると、彼女は病室で目を覚ました後、訳の分からないことを言ってどこかに行ってしまったそうだ。

僕が狂ってるって…。

どういうことだってば。

んー…、ダメだ。

心当たりがまるでない。

 

あの子どこ行ったんだ?

親御さんのとこに戻ってたら多分連絡くるだろうし、違うだろう。

 

あ、多分サテライトに帰ってるのかな。

あの子相当あそこ気に入ってたし。

 

「それにしても、よく彼女を助けてくれたね。 キミもジャックって人との対戦があったんじゃないの?」

 

そう言うと、彼はコチラを一度見て、こう言ってきた。

 

「いや、ジャックとのデュエルまでまだ時間があったんだ。 それより…、恵一、お前は邪神をどう考えている? お前にとって邪神とはなんだ?」

 

…、ん?

邪神?

…あぁ、このカードか。

不動もやっぱり興味があるのかな。

 

だがすまぬ、僕は…

 

「邪神かぁ…、別にカッコいいし、いいと思うけど?」

 

これくらいしか言えない。

そういや武藤や遊城、クロノス先生たちも同じこと聞いてきたけど、別にちょっと強いカードでしかないんだから、感想を求められても困る。

 

「…実はな、俺はお前の持つ邪神、ドレッドルートの腕の形をしたナニカに岬の救出を依頼されたんだ。 そいつはお前の救出をすると言っていたんだが、心当たりはあるのか?」

 

…ドレッドルート…。

これの事か、おかしな話だな。

ただのモンスターが、人間とお話ししたっていうのか?

しかも灰村さんの薬を取りに行けと言ったって。

何を言ってるんだこの子は?

しかも僕を助けたって…。

 

「…いや、まったく。 っていうか、たかがカードが動くわけないでしょう。 きっと目の錯覚だよ」

 

「目の錯覚…か。 …、恵一、お前は何か隠していたりしないか? 俺は、お前の助けになりたいと思っている。 悩みがあるなら、話してくれないか」

 

なんか神妙な顔をして、不動はそう言ってきた。

悩みか…、そういや最近体重が増えたりはしたが、多分関係ないな。

だがなんて言おうか。

無い、って言って簡単に引き返してはくれなさそうだし。

ていうか、こうしている暇があったら灰村さん探すべきなんじゃなかろうか。

 

…、ダメだ思い浮かばん。

仕方ない、体重のことを言おうそうしよう。

 

「悩みというか、なんというか…、最近増えちゃって…」

 

「増えた? 何がだ?」

 

ちょっと、聞かないでよ。

超恥ずかしいんだから。

 

「…あんまり、言いたくないな…」

 

確かに男でこの悩みは、って思うだろうよ。

でもね、こちとら不死なんだからしんどい体になりたくないワケですよ。

ちゃんと理由もあるんだからね!

驚いた?

 

「…! 恵一………!!」

 

ん?

なんでそんな苦しそうな顔してんの?

麦茶飲んでお腹下した?

まぁ、冷たいの飲むと偶になるけどね。

 

「不動、トイレならそっ「…恵一、今から俺とデュエルしてくれ」」

 

おぉ?

 

「え、今から? それよりも灰村さんのこと警察にちゃんと言っ…、いや、トップがアイツだから言っても意味ないか…。 でもなんでまた?」

 

「お前の心を確かめさせてくれ。 お前が邪神に操られているのか、制しているのか。 その真実を知りたいんだ」

 

心…とは?

意味が分からん。

ダメだ、考えが付かない。

んー、んー、んー、んー…。

邪神、心、灰村さん、十六夜さん…。

 

…何か忘れてるような…。

 

 

 

 

 

『………』

 

 

 

 

 

…、まあいいか。

とりあえず、デュエルしたいのならするとしよう。

灰村さんも、サテライトに行けばどっかにいるだろう。

 

「いいよ、デュエルしよう」

 

「よし、なら外に出よう。 近くの広場で待っている」

 

そう言うと、不動はそのに出て行った。

ふーむ、あの子とデュエルか。

そういやあの子、ジャックさんとのデュエルはどうなったのかな?

勝てたんだったら今度お祝いしないとね!

ていうか、そうだとしたら僕あの子に勝てるのかな…。

 

そう思いながら、僕はデュエルの準備をして外に出て行った。

 

 

 

 

 

広場に向かうと、不動はすでにデュエルディスクを装備して待っていた。

 

「あ、いたいた。 おーい不動ー」

 

「お? 遊星、この人って確か大会でおっかないモンスター使ってたヤツじゃん」

 

「…邪神…、クリボンが危険って言っていた…」

 

おや、誰だろう。

見ると、薄い緑色の髪をした子が二人いた。

双子かな?

 

「不動、この子は?」

 

「あぁ、トップスに住んでいる子達なんだが、偶然会ってしまってな」

 

「なんだよ遊星、つれないなー。 デュエルするなら見せてくれたっていいじゃん」

 

「龍亜、龍可。 今からのデュエルは遊びじゃない。 もしかしたら大変なことになるかもしれない。 今すぐ遠くに行くんだ」

 

…、どうやら不動は二人をどっかに行かせたいらしい。

別にただのデュエルなんだから見せてもいいじゃないの。

 

「いーや、絶対行かないね。 あの人のデッキ見てみたいし。 それに、本当に危険なら遊星だけをそんな目に合わせられないよ!」

 

「…私も、あの人の力が見たいです。 …、もしかしたらあの怖い竜の手掛かりが見つかるかも…」

 

逆に二人はデュエルを見たいようだ。

仕方ない、助け舟を出しますか。

 

「不動、今からやるのは普通のデュエルだ。 別に死人が出るわけでもない。 二人に見せてもいいじゃないか」

 

「恵一…、このデュエルはお前の為のものなんだぞ?」

 

「気にすることないよ、僕はいつも通り全力を出す。 いや、今までは出してなかったけど、これからは出すよ」

 

そう言って、僕は自分のデュエルディスクを軽く撫でた。

このデュエルディスク。

大会でも使ったけど、教師の時から使ってたクロノス先生のやつだ。

従来の腕に固定するものではなく、肩にかけるスタイルだ。

前も言ったかな?

 

捕まった後、盗られたかと思って心配したけども、マンションに戻ったら普通にあった。

家にあってよかった。

大切なものだからね。

 

「…、分かった。 お前が言うなら…。 だが二人とも、危険を感じたらすぐに逃げるんだ、いいな?」

 

よし、これでなんとかなったな。

二人は元気よく頷いて近くのベンチに座った。

こう見るとホントにそっくりだな。

 

『クリクリー…』

 

…ん?

なんか一瞬見えたような…。

気のせいか。

 

「よし、行くぞ、恵一!」

 

「オッケ不動。 いいものにしましょうね!」

 

「「デュエル!!」」

 

不動遊星 LP4000

 

山崎恵一 LP4000

 

「うい、では僕から、ドロー」

 

一枚ひいて、手札を確認…。

…よし、それじゃあ。

 

「僕はまずゴブリンゾンビを召喚。 さらにカードを二枚伏せてターンエンドだよ」

 

ゴブリンゾンビ

ATK 1100 DEF1050

このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手はデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。

このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

よし、テンプレだがまずはこれでいい。

フィールドには、腐肉を纏ったおどろおどろしいゴブリンが細身のサーベルを持って出てきた。

…、使ってる身ながらキモイな。

 

「俺のターン、ドロー」

 

…、空気が変わった。

あの子、やっぱり強いのかな。

なんか、武藤や遊城と同じ感じがする。

 

「俺はスピードウォリアーを召喚する。 スピードウォリアーでゴブリンゾンビを攻撃、ソニックエッジ!」

 

スピード・ウォリアー

ATK 900 DEF 400

このカードの召喚に成功したターンのバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。

このカードの元々の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。

 

不動の命令のもと、スピードウォリアーがゴブリンゾンビに回し蹴りを放ち、僕のゾンビは容易く吹っ飛んだ。

 

山崎恵一 LP3300

 

「ふぬぉ。 そう言えばあのカードって攻撃するときは攻撃力倍になるんだっけ…。 僕はキモゾンビの効果でデッキから魂を削る死霊を選択して手札に加えますよ」

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

ふぃー、とりあえず凌いだか。

何をしてくるかと思ったら、至って普通の攻撃だな。

いやいや、ここで油断したらアカン。

 

「うぃ、僕のターン。 …、馬頭鬼を攻撃表示で召喚。 さらに手札より魔法カード愚かな埋葬を発動。 ゾンビマスターを墓地に送ります」

 

馬頭鬼

ATK 1700 DEF 800

墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、自分の墓地からアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

僕の目の前に、馬の頭を持った鬼が巨大な武器を肩に担いで現れた。

えーと他にすることは…、ないな。

 

「そのままスピードウォリアーに攻撃、黄泉送り一閃!」

 

馬頭鬼はブフォ、と荒い鼻息をして大きく斧を振りかざすと、そのまま不動のモンスターまで突進していった。

…が。

 

「トラップ発動、くず鉄のかかし。 このカードの効果で、お前のモンスターの攻撃を無効にさせてもらう」

 

くず鉄のかかし

相手モンスターの攻撃宣言時に発動する事ができる。

相手モンスター1体の攻撃を無効にする。発動後このカードは墓地に送らず、そのままセットする。

 

馬頭鬼の目の前にいきなり微妙な形のカカシが現れ、攻撃を阻害した。

あ、馬頭鬼ったらビックリしてオロオロしてる。

かわいいじゃない。

 

「うぇー…、僕はこのままターンエンドです」

 

「俺のターン、…! よし、俺はジャンクシンクロンを召喚」

 

ジャンク・シンクロン

ATK 1300 DEF 500

このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在するレベル2以下のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する事ができる。

この効果で特殊召喚した効果モンスターの効果は無効化される。

 

ポンっという効果音と共に、デフォ絵っぽいかわいらしいモンスターが出てきた。

いや、全然かわいくないぞあのモンスター。

めっちゃ凶悪だった覚えがある。

あれって確か…。

 

「チューナー…かー…」

 

「その通りだ。 俺はレベル2のスピードウォリアーに、レベル3のジャンクシンクロンをチューニング!」

 

ジャンクシンクロンは三つの星になって飛び回り、大きな輪となった。

さらに、その輪に向かってスピードウォリアーが飛んでいき、透明になってくぐっていく。

 

「集いし星が、新たな力を呼び起こす…。 光差す道となれ! シンクロ召喚! 出でよ、ジャンクウォリアー!!」

 

ジャンク・ウォリアー

ATK 2300 DEF 1300

「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする。

 

瞬く光を背に、紫色を基調とした機械仕掛けの戦士が降りてきた。

うおぉー、あのモンスターが出てくるの初めて見た。

かっこいいなー…。

 

「いくぞ、恵一! ジャンクウォリアーで馬頭鬼を攻撃、スクラップフィスト!」

 

うお!?

なんかあのモンスター光り出した!?

 

ジャンクウォリアーは体に大きな拳のオーラを纏わせ、馬頭鬼にぶつかって行った。

なすすべもなく馬頭鬼はその攻撃をモロに喰らい、破裂してしまった。

いやぁ、僕のお馬さんはそんなに強くないんだよねー…。

 

山崎恵一 LP2700

 

「…なぁ龍可。 あの人って本当に強いのかな…。 遊星にすっごい圧倒されてるんだけど…」

 

「ちょ、ちょっと。 失礼でしょ。 聞こえたらどうするの…」

 

なんか聞こえるし。

あぁ、この感覚久しぶり。

アカデミアにいた時以来だわ。

 

「俺はさらにカードを一枚伏せ、ターンを終了する。 どうした恵一、お前の実力はそんなものじゃないだろ」

 

不動にまで言われてしまった。

いや、まだ期待してくれてるし、いいか。

 

じゃあその期待に応えますか。

 

「うい、大丈夫でさ。 僕のターン…来たか」

 

いらっしゃい我が切り札。

…あれ?

このカードなんだ。

てっきりドレッドルートかと思ってたんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナ、何ジでるダレイザー! オウザマのデュエルを邪魔しぢゃダメだド!』

 

『いいんだよ、どうせ勝てるし! 久々に王様に召喚されるのを見たいんだよ! お前と違って俺が出れる時なんざかなり限られてるしなぁ!!』

 

『だ、ダどモごんな事しぢゃ…』

 

『やかましいわ黙っとけぇぇ!!』

 

ズバン!

 

『ウヴォぉアアああアァあアアア!! 腰ガァぁアア!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…、まぁいいか。

ていうか、あのカードを伏せてるんだからコイツが来ても可笑しくはないか。

 

えーと、あれでもないこれでもない…、あ、これこれ。

 

「リバースカード、死霊ゾーマを発動!」

 

死霊ゾーマ

このカードは発動後モンスターカード(アンデット族・闇・星4・攻1800/守500)となり、自分のモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。このカードが戦闘によって破壊された時、このカードを破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。(このカードは罠カードとしても扱う)

 

トラップの発動と同時に、骨なのかなんなのかよく分からないゾンビが出てきた。

不動は…、何もしてこないな、よし。

 

「…このタイミングでトラップモンスター…、まさか!?」

 

お、気づいたかい、だがもう遅い!

 

「墓地にある馬頭鬼の効果を発動する。 このカードをゲームから除外し、墓地からゾンビマスターを特殊召喚する」

 

ゾンビ・マスター

ATK 1800 DEF 0

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、手札のモンスターカード1枚を墓地に送る事で、自分または相手の墓地に存在するレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

出てきた出てきた。

キミはどう回しても出てくるからすっごく安心するよ、まったく。

 

「さらにゾンビマスターの効果発動! モンスターを手札から墓地へ送り、墓地のゴブリンゾンビを特殊召喚!」

 

「…三体の…モンスター…」

 

…、やっぱり何もしてこない。

多分攻撃に対するトラップか、全く違うカードか…。

まぁ、コイツを出せば何とかなるだろう。

 

「では、お待たせしました…」

 

行くよ、数年ぶりのご登場。

 

「開け、漆黒の劇場! 深潭の惨劇を今此処に!!」

 

「!? 呪文が違う…、まさか違う邪神か!?」

 

よくご存じで。

まぁ、一応有名だからね。

この世界じゃ使ってる人見たことないけど。

 

「天に居座りし傲慢なる者どもよ。 魔道書を閉じ、地に伏すその時に怯えろ!」

 

邪神特有の召喚エフェクトが始まり、地面にいつもの黒く光る線が伸び、広がっていく。

 

「キャァ! 何この風! それにこの感じ…!」

 

「な、なんかヤバいかも…」

 

見ると双子がおびえた表情でコチラを見ていた。

あー、やっぱどこかに行ってもらった方がよかったかも。

子供にはちょっと怖いわな、トラウマにならなきゃいいけど…。

 

「爆誕せよ! 邪神 イレイザー!!」

 

邪神イレイザー

ATK ? DEF ?

このカードは特殊召喚できない(変更対象)。

自分フィールド上に存在するモンスター3体を生け贄に捧げた場合のみ通常召喚する事ができる。このカードの攻撃力・守備力は、相手フィールド上に存在するカードの枚数×1000ポイントの数値になる。このカードが破壊され墓地へ送られた時、フィールド上のカードを全て破壊する。自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードを破壊する事ができる。

 

 

 

まだ昼だというのに夜のように暗くなってしまった中、邪神の一体であるイレイザーが闇の中から這い出てきた。

その大きさはドレッドルートには若干劣るが、それでも相手を圧倒させるには十分すぎるほどだ。

 

その形はただの竜とは全く違う。

竜であるのにもかかわらず装甲されているその爪は、どこまでも鋭く、鈍く光っている。

鎧で覆われていない部分は真っ黒になっており、その全容が全く分からない。

 

そして、極めつけなのがその頭部である。

竜の口を模した部分の下には、小さくてよく分からないが人の顔のようなものがある。

どちらが本当の顔なのか分からないが、少なくとも普通の竜とは違うことは分かるだろう。

 

「…これ…が…邪神…!!」

 

「で、デケェ…」

 

「…! あの竜は! やっぱり、あの人が…」

 

おぉー、子供も含め不動も言葉に詰まってるな。

仕方ないね、威圧感半端じゃないもん。

 

「イレイザーの攻撃力は相手、つまり不動、キミのフィールド上のカード一枚に1000ポイント掛けた数値になる」

 

「な、なに!?」

 

「じゃあイレイザーの攻撃力は…3000!?」

 

「うわわわわ…いきなり攻撃力3000が出てきたのかよ…!」

 

驚いてるね、いいよいいよ。

まぁ、意表を突くカードとしてならイレイザーは抜群だからね。

ただ、これじゃ終わらないんだなこれが。

 

行くよ万丈目ぇ!

 

「さらに、トラップカードおじゃまトリオを発動!」

 

おじゃまトリオ

相手フィールド上に「おジャマトークン」(獣族・光・星2・攻0/守1000)を3体守備表示で特殊召喚する(生け贄召喚のための生け贄にはできない)。

「おジャマトークン」が破壊された時、このトークンのコントローラーは1体につき300ポイントダメージを受ける。

 

「おじゃまトリオ!?」

 

発動した瞬間、不動の場には見るに堪えない格好をしたおじゃま三兄弟が現れた。

 

…うわー、久しぶりに見るけど…、なんか嫌だな。

万丈目もよくこのモンスターたちを使いこなせたものだ。

尊敬するよ、いい意味で。

僕だって、このカードもらった時には使おうか本気で悩んだからね。

 

「分かると思うけど、トークンであろうと君のフィールドが埋まっていけば、その分イレイザーの攻撃力は上がる。 つまり、イレイザーの攻撃力は…」

 

「6000…だと…!?」

 

「「そ、そんな!!」」

 

いきなりのパワーアップに双子も声を合わせて驚いていた。

あぁ、嬉しいな。

前の世界じゃ、これしても大して驚かれなかったからなー。

 

滅茶苦茶いい気分だわ、こりゃ。

イカン、またテンションあがってきた。

 

「フハ…、ハハ…、ハーッハハハハ! これこそ僕の邪神! 無限の力の持ち主だ!」

 

ふおぉ…、調子に乗って変な事口走っちゃった。

 

「け、恵一…!? どうしたんだ、恵一!! …、まさか邪神に…!」

 

「なんだろ、あの人。 急に性格が変わったような…」

 

「うん、いきなり強気になったっていうか…、でもあの竜かっこいいなー、ちょっと怖いけど」

 

おお、他の二人はよく分からないから除くとして、男の子の方がいい事言ってる。

いいね、今度パックを奢ってあげよう。

 

「さて、準備は整った。 いくよ、イレイザーの攻撃…」

 

僕の指令のもと、イレイザーは竜の口を大きく開き、そこに力を凝縮させていく…。

周りでは地鳴りが生じ、いきなり気温が下がって行く。

多分周りのエネルギーを集めてるって感じを表現したんだろな、このエフェクト。

効果が効果だもんな。

 

「ダイジェスティブ ブレス!!」

 

そしてエネルギーを貯め終え、その圧倒的なパワーを吐き出し、不動のジャンクウォリアーに叩き付けた。

ジャンクウォリアーは防御の構えを一瞬取ったが、ブレスを受けた瞬間に跡形もなくなった。

仕方ない、4000近い差があるんだもん。

 

不動遊星 LP 300

 

「ぐあああぁぁあ!!」

 

「「ゆ、遊星!」」

 

イレイザーの超過ダメージが遊星にぶつかって行った。

あ、膝着いちゃった。

すごく苦しそうだ、ソリッドヴィジョンなのに…。

いくらなんでもオーバーじゃないかなぁ…。

 

あ、そうか。

まだ負けてないとはいえ、いきなりピンチになったんだ。

耐えられるものじゃないよね、そりゃ唸りたくもなるわ。

分かるぞ不動よ。

 

「大丈夫!? 遊星!」

 

「来るな、龍亜! 巻き込まれるぞ!」

 

「! 遊星…」

 

「くっ…、くず鉄のかかしを発動したのに出てこなかった…。 やはり神にはトラップは効かない…、ということか…」

 

おや、さっきトラップ使ってたのか。

その通り、この子たちにはなぜかトラップが効かないんだよ。

悪いが、その面倒なトラップはもう意味ないよ。

 

「…、僕はカードを一枚伏せてターンエンドだよ、不動」

 

まぁ、保険は伏せとくか、これで裸にはならない。

伏せたカードは黄金の邪神像。

カードの効果で破壊されたら、フィールドにトークンを出すカードだ。

 

「…恵一、今すぐお前の呪縛を解いてやる。 俺たちの所に帰ってくるんだ、恵一! 俺のターン!!」

 

何を言ってるんだあの子。

別に一緒にいるんだから帰るも何もないのに…。

 

…あ、そうか、サテライトに戻れってことか。

そうだなー、あと数人様子を見たい生徒がいたけど、なんというか、こっちは居心地が悪いからもう帰ってもいいかな…。

サテライトの生徒たちの面倒も見ないと、マーサさんに怒られちゃうね。

 

「行くぞ! 俺はチューナーモンスター、ハイパーシンクロンを召喚!」

 

ハイパー・シンクロン

ATK 1600 DEF 800

このカードがドラゴン族モンスターのシンクロ召喚に使用され墓地へ送られた場合、このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターの攻撃力は800ポイントアップし、エンドフェイズ時にゲームから除外される。

 

あらま、これまたかわいらしいモンスター。

…あ、しまった。

トークンも素材にできるんだっけか…。

 

「俺のフィールドの二体のレベル2トークンに、レベル4のハイパーシンクロンをチューニング!」

 

うおぉ!!

やっぱりだヤバい!

8なら何が出る?

この局面…、ダメだ想像が着かん!

 

イレイザー相手にどうするっていうんだ?

確かにトークンは減るけど、出てくるモンスターも足せば攻撃力は4000だぞ?

ヤバい、すごい期待しちゃう。

 

「集いし願いが、新たに輝く星となる…。 光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、スターダストドラゴン!!」

 

スターダスト・ドラゴン

ATK 2500 DEF 2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「フィールド上のカードを破壊する効果」を持つ魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。

この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

す、スターダスト…ドラゴン…。

正直フィールドに出てくるとかなり厄介な存在だ。

 

…、だが攻撃力は2500…ん…?

 

ATK 3300

 

ちょ、なんで上がってんの!?

 

「おかし…、あ、ハイパーシンクロンの効果か」

 

「そうだ、ハイパーシンクロンはドラゴン族のシンクロモンスターの素材になった時、そのシンクロモンスターの攻撃力を800ポイント上げる!」

 

んー、考えたな不動。

だがまだ足りないね。

 

「で、でも、まだイレイザーの攻撃力の方が高いままだ!」

 

「そうよ遊星、このままじゃスターダストもイレイザーの餌食よ!」

 

そう、いかに800も攻撃力を上げようと、イレイザーの攻撃力には到底及ばない。

あと700ポイントもの差をどうするんだ?

 

「もちろん、これで終わりじゃない。 見ていろ恵一、これがお前を救うカードだ! トラップカード、シンクロバトン!!」

 

シンクロバトン(アニメ限定)

自分フィールド上に表側表示で存在するシンクロモンスター1体を選択して発動する。

選択したシンクロモンスター1体の攻撃力は、自分の墓地に存在するシンクロモンスターの数×600ポイントアップする。

 

…ん?

……………ん!!?

なんだあのカード!

あんなの見たことないぞ!?

前の世界にもなかったし…、なんだあれ?

 

「シンクロバトンの効果、それはフィールド上のシンクロモンスターの攻撃力を、自分の墓地のシンクロモンスター一体につき600ポイントアップする!」

 

「な!? ウェエエええ!!?」

 

「俺の墓地にはジャンクウォリアーが一体。 つまりスターダストドラゴンの攻撃力は600ポイントアップ!」

 

そんなカードがあるんかい!

完全な勉強不足だよ、畜生!!

えーとえーと、これでスターダストの攻撃力は3900で…。

でもまだイレイザーの攻撃力には…あ…、カード一枚減ってる…。

 

ATK 3000

 

「ノオオオォォォぉぉ!!?」

 

「行くぞ恵一、消え去れ悪しき神よ! スターダストドラゴンの攻撃、シューティングソニック!!」

 

スターダストドラゴンは、辺りから星屑のようなエネルギーを集めていき、その一撃をイレイザーにぶつけた。

その光線はキラキラしていて、まるで流星群を見ているかのように瞬いていた。

イレイザーは同じくブレスを吐いて応戦したが、徐々に押されていき、最後は光線に首元を貫かれて倒れ伏してしまった。

 

山崎恵一 LP 1800

 

「やったぁ! 遊星が邪神を倒した!」

 

「…これで、本当に終わり? ううん、まだ終わっていない…。 なにか…ある…」

 

ほぉ、あの女の子は分かっているのか。

お気づきだろうか、消滅するはずのイレイザーが、未だフィールドに残っているのを。

 

「…! な、なぜイレイザーがフィールドに残っている! 恵一、これは…!?」

 

うい、ようやく不動も気づいたようだ。

よし、知らない彼にネタばらしといくか。

 

…、ていうか、本当に邪神ってあんまり知られてないんだな。

ちょっとショックだわ。

逆に皆持ってると思ってたのに…。

 

「…イレイザーの第二の能力…。 それは、自分が墓地に置かれた時、フィールド上のカード全てを道連れにし、破壊する」

 

まぁ、ハイパーシンクロンの効果でなんにせよスターダストは除外されるんだけどね。

だが、残ったおじゃまトークンを破壊してダメージを与えれば、僕の勝ちだ。

 

…あれ?

そういやさっきの僕のターンでイレイザーを自滅させとけば、普通に勝てたんじゃ…。

 

………、まぁいいや。

 

「なんだと!?」

 

「そ、そんな効果が…!」

 

「まずいわ。 だとしたら遊星のフィールドのトークンの効果で、遊星のライフがゼロに…!」

 

イレイザーは体中からドロドロとした血のような真っ黒な液体を垂れ流し始め、ソレは辺り一面に広がっていった。

装甲していた鎧が崩れ、手が腐って落ちていき、首がダラリと下がって取れて落ちて行った。

そしてその液体は伏せてあるカードだけでなく、周りにあった自転車や街灯とかも巻き添えに飲み込んでいく。

あぁー、これはグロイな。

 

「ひっ…なに…あれ…!」

 

「あ…うあぁ…、あれが、クリボンが言ってた…闇…」

 

「…これは…!? 二人とも逃げろ! クッ、スターダストの特殊能力を発動する!」

 

あちゃー、やっぱり双子は縮こまっちゃった…。

邪神を子供に見せられないのはこういうエフェクトが多いからなんだよなー。

 

ドレッドルートは見た目から怖いし。

イレイザーはコレがあるし。

あのカードは…、絶望しちゃうって意味でアカン。

なんにせよ子供に使うカードじゃない。

 

っていうか、今スターダストの効果発動した?

んー、残念だけど多分通らないな。

 

「…、無駄だよ不動。 神の御業には何人たりとも踏む込むことはできない。 効果もまた然り…だよ…」

 

そう、邪神はとにかく万能なんだ。

邪神そのものにトラップや魔法に耐久があるだけでなく、その攻撃や効果も一切邪魔されない。

相手からしたら理不尽そのものだよな、こりゃ。

 

「…だが…、それでも、俺はあきらめない! お前をもう闇に落としたりはしない! 行け、スターダストドラゴン! ヴィクテムサンクチュアリ!!」

 

スターダストは大きな雄叫びを上げると光を纏い、そのままイレイザーの死骸に飛び込んでいった。

 

「ダメだよ。 悪いけど、どれだけ頑張ろうともこのモンスターは止められない。 どうしようもないんだよ…」

 

「そんなことは、やってみないと分からないだろう! 恵一、お前は何十年もの時を生き、その邪神の闇に耐えることができなかったのだろう! お前がどれだけ苦しみ、どれだけの者を闇に沈ませてきたのか、俺には分からない…」

 

遂に不動の体にまで闇は到達し、不動の動きを封じてしまう。

 

「その力から目をそらすな、闇から逃げるな! お前が道を踏み外そうとした時には、俺が正してやる! 行けぇ!! スターダストォォオオオ!!!」

 

彼の叫び応じるかのように、スターダストの光はさらに強くなっていき、闇を徐々に晴らしていく…。

え、まさか通るの?

まさかこんな形でイレイザーが止められるなんて。

 

なんでだ………………………。

 

 

 

そしてあたり一面が光に満ちた時、僕は意識を失った。

あとなぜか分からないけど、真っ赤な見たことがない龍が僕に近づいてくる幻覚を見た…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…』

 

『…』

 

『レイザー、負げぢゃったダナ…』

 

『…あぁ』

 

『何が言うごとはな゛いダカ?』

 

『…すまんかった』

 

『それは今度オウザマに言うダ』

 

『…あぁ』

 

『………、あ゛ぁー…、ぞうい゛えば、さっぎレイザーがら貰っだ一撃がまだ痛いだナー…。 腰がイダイだナー…』

 

『…、そこに寝ろ。 腰もんでやる』

 

『わ゛ーい、ダ』

 

 

 




ご感想、ご指摘がございましたら、よろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。