数字言語でのアンケート、人数は九人! 感想欄を見て「これでもいいじゃん!」と思う人もいるでしょう。しかしそんなにギリギリの人数しかいないのもまた現実! そして案の定「これはいけない」と忠告してくれる人もいました。
よって人参天国は雲仙冥加のヒロイン化をボツにする事に決定しました。
まあ、難しいってだけで冥加をヒロインにするのも悪くなかったんですけどね。
話は予定通りに進めさせていただきます。
期待してくださった方々、誠に申し訳ありません。
……でもハーレムタグは一応追加しちゃう人参天国です。
奏丞が中学二年生になった春。
「一年ぐらい時間が消し飛んだ様な気がするけど、我が囮学部に新しい仲間ができたぞ。三年の古賀いたみちゃんだ。ホレ、拍手」
「おっ、まるで一年間にSS一話分も使わなかった様な気がしたけど、とにかく部員が増えたのか。ようこそ囮学部へ、歓迎しますよ」
「す、すごい、こんな釈然としない気持ちで歓迎されるなんて初めて……」
パチパチパチパチ。
拍手する奏丞達に困惑顔を向ける新入部員、古賀いたみだった。
万年……ではなくまだ一年だが、部員どころか近づく生徒すらいない囮学部に三人目の部員がやって来たのだ。
「んで若い身空で人生捨てたのはどういうワケなんですか? 怖い物みたさとかなら早く退部した方がいいと思いますけど」
「おいおいおい、奏ちゃんよー、そりゃあんまりな言い種だぜ? こーんなに勉強熱心な部、他にあるか?」
「問題なのは部長の人柄だろ」
「なるほど、恐れ多いって事か。それなら仕方ねーな」
「全然ちげーよ……」
「えっと、一応わかってて……いや、あんまり詳しくは知らないんだけど、とにかくわかってやってるからいいの。えーと、君は……」
「二年の宇城奏丞です、古賀先輩」
「古賀ちゃんはスゲーぞ。なんせ転校したての今日、いきなり俺に話しかけてきたんだからな。しかも内容が『私をめちゃくちゃにして!』だ。いやーエロい子に目ぇつけられちまって困った困った」
「ちょっ、名瀬ちゃんやめてよ!? 凄く誤解を招くよその言い方!」
「……積極的ですね、古賀先輩」
「ほら誤解しちゃった! 違うからね!? そーいう意味じゃないからね!?」
大慌てしているいたみを見ながら、夭歌は覆面の下で笑っている様な気がした。
奏丞が覚えている原作知識では、いたみとの出会いを夭歌も喜んでいた筈だ。なんだかんだで根は素直な夭歌の事だから、友達ができたのが嬉しいのだろう。
「なら古賀先輩はなんで夭歌に話しかけたんですか?」
「んー、ちょっと前から悩んでる事があってね。それがどうしようもなくて困ってたんだけど、今日名瀬ちゃんを一目見て、この人ならきっとどうにでもしてくれる、って感じたの」
「どうにか、じゃなく?」
「うん。でもそれでよかった、それがよかったの。何もかもが普通の私には、ね」
代わり映えのない日常、何事にも平均をとる能力。挙げられる特徴がとにかく普通である事という程普通の人間、古賀いたみが持つ唯一の異常が『異常への憧れ』だった。
異常になりたいといういたみの願いを叶えるならば、なるほど夭歌以上の適役はいないだろう。
「まあ、何となく話はわかりました。で、夭歌。古賀先輩を……その、なんだ、めちゃくちゃにするのか?」
「古賀ちゃんがそうしてほしいって言うからな。古賀ちゃんは願いが叶ってハッピー、俺は
「なーにがハッピーだ、お前は不幸大歓迎な奴だろ」
「否定はしねーな。
おっと、あらかじめ言っておくが何をどうするかって具体的な話は教えねーぞ? なんせプライベートな問題だからな、お前には内緒だ」
「どうせ古賀先輩を強化人間にして俺にけしかけるとかだろ」
「さーて今日は何の実験するかな」
「おい、目ぇ見ろよ。おい」
もはや言い訳もしないらしかった。
しかしそんな胡乱な会話を聞いても、顔をひきつらせるだけで逃げはしないあたり、いたみも覚悟はしているらしい。だったら止める必要もないのだろう。いや、止めてはいけないのだろう。
そうは言っても、妙なちょっかいをかけて来るのは勘弁してほしいが。
「そーいや一年前に囮学部を作った時には派手に花火を上げたなー。古賀ちゃんの入部を祝して今日もパーッといくか?」
「あー、いいかもな。でもやるならグラウンド……は運動部が使ってるから、屋上でやろうぜ。こんな所でやったら片付けが大変だし」
「花火……? ね、ねえ、この囮学部? って結局どういう部なの……?」
「どういう部って……」
奏丞と夭歌は目と目を見合わせ、
「「面白化学で誘い寄って来た奴を遠目に観察しようって部活?」」
「何ソレ!?」
驚愕するいたみ。
「ええっ、どういう活動方針なのソレ!? どういうつもりで作ったの!? 二人で決めたの!?」
「あ、この部作ったのは俺じゃないですよ? 俺は夭歌が作った部に後から入ったんです」
「という事は名瀬ちゃんが……?」
「責任丸投げかよ。事実だけどな」
「まあ、普段は案外普通に活動してますよ? 言うだけあって面白い実験とかしますし、テストの為になったりしますし」
「(あっ、趣旨通りだ! 名瀬ちゃんの目論見通りだ!?)」
囮学部での経験がテストで役に立つ事は意外に多く、そういう意味でも夭歌には感謝している。
不思議な事にいたみが変な目で見てくるが、奏丞は気にしない事にした。
「……あのさ、ついでにもう一つ聞いていい?」
「「ん?」」
「(息ピッタリだ……)違ってたらゴメンね? えーっと、名瀬ちゃんと宇城くんって付き合ってるの?」
「ねーな」
「ないな」
予想できていただけに、返事も早かった。
「なんで? だって二人ともすごい息ピッタリだよ? 阿吽の呼吸だよ。むしろそういう関係が全然ないのもおかしいって!」
「古賀ちゃんよー、残念ながら俺達はそんな関係じゃねーんだぜ。確かに俺は(研究者として)奏丞の全てを知りたいぐらいだけど、こいつは昔っから重要な所で逃げ出しちまうヘタレだからな」
「宇城くんダメだよ、女の子から逃げるなんて! 君はそれでも男なの!?」
「待ってくれ古賀先輩、こいつの心の声が聞こえなかったのか。俺逃げないと物理的な意味で全て知られちまう」
ひどい誤解だった。いたみはラブコメと思っている様だが、その実態はサイコパスである。よしんばR‐18があるとしてもその後にGがつくだろう。
二度目の人生とはいえ、奏丞もまだ死にたくはない。
「ま、それに関しては古賀ちゃんも無関係じゃなくなるし、後できちんと説明してやるよ。
奏丞、棚から何気なく甘い薬品と底知れない臭気を放つ薬品とそこはかとなく危険を感じる薬品を持って来い。歓迎会は派手にいくぞ」
「へーへーわかりましたよっと……古賀先輩、あんまり暴力的な事には協力しないでくださいよ? こいつ絶対俺達を戦わせるつもりですから」
「さ、流石に力じゃ勝負にならないんだけど……」
「安心しろよ古賀ちゃん、すぐにそこらへんの男子なんかチョメチョメできる様にしてやっからよ。そんな奴軽く一捻りしてやれ」
「もはや隠すつもりもねぇなこの野郎」
「ううっ、かつてない程不安を感じるけど……宇城くん、その時はごめんね?」
「あんたはあんたで何物騒な謝罪してんだ」
やはり対決は避けられないという事か。夭歌の魔改造を止めるわけにもいかないので、その時を覚悟しておくしかない。
サイコパスもいやだがバトルパートも勘弁してほしい所だ。
「んじゃ実験は屋上するか。古賀ちゃん、荷物持ちは不出来な後輩に任せて行くぞ。転校したてで道がわかんねーだろ」
「あ、待ってよ名瀬ちゃん!」
夭歌の後を追いかけるいたみ。やろうとしている事はアレだが、ここだけ見ると普通の(と言ってはいたみに悪いか?)女子中学生という感じだ。夭歌の存在がいたみの助けになった様に、いたみの存在が夭歌にプラスに働くなら奏丞にとっても喜ばしい事だ。たとえそのしわ寄せが奏丞に来たとしても。
実験に使う薬品や器具を詰めた段ボールを持ち、奏丞も屋上に向かう。
願わくば、この中学生活がいつまでも平和なものであれと祈りながら。
……当然ながら、そうは問屋が卸さないのが現実である。
☆ ☆ ☆
某日、夭歌の
「名瀬ちゃん名瀬ちゃん」
「なんだい古賀ちゃん」
「名瀬ちゃんの目的って宇城くんだよね。今の私って結構人間離れしてると思うけど、それでも勝てないの? 男子どころか大人が三人集まっても私には勝てないんだよ」
「まったくもって無理だな」
手術台に横たわるいたみの言葉を、夭歌は呆気なく切り捨てた。
そんな夭歌にいたみは口を尖らせる。
「ちぇっ、こーんなに強くなったのに。今なら腕相撲なんて勝負にならないくらいだよ?」
「単なる力持ちが勝てる程甘くはない。しかも奏丞は兄貴の手解きを受けてたみたいだからな、素手の戦闘でもほぼ確実に負けるぜ」
「むーっ……」
ますます不満げな顔をするいたみ。
しかし無理もない、いたみはまだ奏丞と戦った事もなければ、戦っている所を見た事もないのだ。大好きな親友の改造を受けた自分より相手の方が強い、などと言われても、にわかには信じ難いだろう。
「よしんば素手で圧倒できたとしても、あいつの『能力』に対抗できなきゃやっぱり詰む。わかっている限り、現時点じゃ自慢のパワーですら『能力』に負けてるんだからな。どのみち勝負にならねー」
「その能力って前に聞いた『スキル』って奴でしょ? 宇城くんってどんなスキルを持ってるの?」
「わからん」
「……知らないの?」
一気に話が胡散臭くなり、いたみは訝しげな視線を向ける。もしかして自分の親友は謀られているだけなんじゃなかろうか、と。
「その目は心外だぜ古賀ちゃん。だけど更に悪い知らせだ、『それが本当にスキルなのかすらわからない』んだ。やれやれだぜ」
「……それってどういう事?」
夭歌はそう訊ねるいたみに背を向け、隅の机にある資料の山に手を突っ込みながら話し始める。
「俺が家出したって話は聞いたよな? 俺は家出する前、アイツが妙な事ができると知ってから、事あるごとに色々と仕掛けてきた。まあ身体を調べてみたいのもあったから、捕獲できればラッキー程度に思ってたんだけど、本当の目的は『能力を使わせる事』だった。要はデータの収集だな。
……お、あったあった」
分厚い紙束を引っ張り出して夭歌が戻って来る。
「苦労したぜ、なんせなかなか尻尾を出さねーからな。上手くやらねーと能力も使わずに逃げられちまう。
んで何年もかけてようやくわかったのが『念動力』『低温にする能力』『風を吹かせる能力』その他いくつか。ああ、そういや家出した後に調べたら、『スキルが効かない能力』と『離れた所のコンピュータをブッ壊せる能力』なんてものもわかったな」
「何それ、いくつもスキルを持ってるの!?」
「うんにゃ、こんなもん下手すりゃ『強力な念動力』ってだけで説明がつく。『スキルが効かない能力』ってのは微妙な所だけど、とりあえずそれは置いておくぜ。
だが俺が発見した中で最も問題なのは、最初に上げた『念動力』なんだ」
「『念動力のスキル』じゃないの?」
「そんな疑問を持つ古賀ちゃんに質問だ。『念動力は形があるものなのか?』」
「え、形? うーん……」
顎に手を添えて考える。
念動力、もう少しわかりやすく言うと念力、テレキネシス、サイコキネシス。いたみの頭の中ではローブを目深に被った悪い奴が念力で主人公を吹き飛ばしている姿が思い浮かんだ。
「形は、ないんじゃないかなぁ……?」
その答えに我が意を得たり、という顔をする夭歌。
「いいぜ、なら更に質問だ。
古賀ちゃんが念動力を使えるとしよう。そんな古賀ちゃんに俺が注射器を投げるとする。
さあ、どう防ぐ?」
「どうって、そりゃ念動力を」
「どう使う?」
「うーん、壁みたいにバーッてやって弾くとか?」
それを聞いて頷く夭歌。
「そうだ、誰だってそうする。俺だってそうする。飛んで来た矢を剣で切るのは漫画の中だけで、実際は盾で防ぐ方がよっぽど簡単だぜ。
そしてある時こんな事があった。俺のゲージ溜め必殺、『静脈注射乱れ打ち』! 上手く不意をついたおかげでこいつが当たりかけた事があった。当然、念動力を使う奏丞としては」
「念動力で防いだ……?」
「そう、奏丞に当たる事なく空中で弾かれたよ。ここまでは良かった。そんな芸当ができると知れただけでも収穫だった。
だが問題はここからだ。その時おかしな事を見つけたんだ。『弾かれ方がおかしい』とな」
そう言って夭歌は懐から注射器を取り出し、壁に投げつける。壁に当たった注射器は針がへし折れて、ほぼ真下に落ちた。
次に夭歌はいたみに向き直り、
「いくぞ」
「へっ!? ちょっ」
注射器を投げる。いたみは慌てながらも、ビンタをする様にそれを弾いた。注射器は明後日の方向へ飛んでいく。
「もう、名瀬ちゃん!」
「悪い悪い。とまあ、ここまで来たら何があったかわかるな」
「うん、今みたいに……」
「そう、横合いから殴られたみてーに弾かれたんだ。ついでに言うとその時は六本だったが、全部バラバラの方向に飛んでったよ」
常人ならば見逃してしまう様な些細な疑問だった。仮にそれに気付いたとしても、だからどうしたと言われる事だろう。
だが、夭歌にとってはそうではなかった。
「念動力には形がないって話だったな。だが奏丞はわざわざ壁ではなく、野球選手がボール目掛けてバットを振り抜くみてーに注射器を防いだ。
そこで俺はこう仮説したんだ。『奏丞の念動力には形があるのでは?』とな。そこらのスキルじゃ考えられない様な仮説だぜ。同時にその仮説が奏丞の能力の最大の秘密じゃないかと思ったのさ」
夭歌は持っている資料をペラペラとめくっていく。
「俺は形を取りたいと考えた。『念動力の形』って奴を知りたかった。
そこで俺は自分の実験室を改造して、とにかく形を取れる環境を作っていった。警戒してる奏丞はなかなかそこに来なかったけど、なんとか誘き出す事に成功して……」
いたみに資料を差し出してくる。夭歌は見てみろと促した。
そこにあったのは
「これって、まさか……」
「実験室の扉をぶっ飛ばした時にベッコリできた拳形、薬まみれの壁や床についた跡……解答一つを出せるだけのデータは十分に集まったぜ」
資料から顔を上げたいたみと、夭歌の視線が合う。
「次の実験で、俺はアイツの秘密を暴いてやる。だから古賀ちゃん」
「言われなくても協力するよ」
いたみはにっ、と笑って、
「だって私は名瀬ちゃんの
「……愛してるぜー古賀ちゃん」
「私も愛してるよ名瀬ちゃーん!」
……さて、夭歌といたみの二人がイチャついている頃、奏丞はというと。
「ハーックショイチクショイ! ……むぅ、なんか寒気がする。なんなんだこのイヤな予感は……というか原因はあいつらしかいねぇ。今ローリング・ストーン出したら俺の方に転がってきそうだ……」
イヤな予感こそよく当たるもので、今回も例に洩れず的中する事となる。
夭歌といたみ、中学三年生の二人が卒業する、ある春の日に――
奏丞「また時間が飛ぶのか」
夭歌「また時間が飛ぶみたいだな」
いたみ「ねぇ、だとしたら私の出番凄い少ない気がするんだけど気のせい?」
奏丞「……二年後に期待だな」
夭歌「……よかったな古賀ちゃん、大好きな異常事態だぜ」
いたみ「嬉しくない、嬉しくないよ!?」
怒江「ふーん、少なくとも二話分出番があるのにね」
奏丞&夭歌&いたみ「「「!!?」」」