目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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筆が進まぬ……すまぬ、すまぬ……

今回もなかなか無理がある話となっております。しかしこれ以外ではくじら(悪)ルートに入って奏丞(怒)になってしまうので、この話が限界であります。
人参の力不足をお許しください。

そしてこの所、『雲仙冥加』の倍プッシュを受けています。ヒロイン化の予定はありませんでしたが、最近迷いが出ているので、いっそのことアンケートで決めてしまおうと思った次第であります。
ハーレムタグを追加して雲仙冥加をヒロインに加えて欲しいという人は、感想にて数字言語で言ってください。次の話を投稿するまでに十人以上いれば、ヒロインに加えましょう。ただし話の本筋に絡ませられるとは限りませんが、あしからず。
え、ハードルが高い? だってそもそも役目がなかったから大変だしね!(ぉぃ


第八話:中学デビューと幽波紋!

 

 

 これは奏丞が小学六年生になった頃の話。

 

「はぁ、今日もくじらちゃん見つからないなぁ……」

「真黒さん、メニュー全部こなしてきました。……どうしたんですか?」

「ああ、奏丞くんか。お疲れさま」

「なんか真黒さんも疲れてるみたいですけど」

 

 奏丞がトレーニングを終わらせて来てみると、何台ものパソコンに囲まれた真黒がため息をついている所に遭遇した。

 

「うーん、今方々に手を伸ばしてくじらちゃんの居場所を探してるんだけど、なかなか見つからなくてねぇ。最近はくじらちゃんに良くない事でもあったのかって思えてきて心配で心配で……」

「……あいつの事ですから、たぶん干渉されたくないとか考えてるんですよ。見つからないうちは自分の勝手にさせてくれって事じゃないですか?」

「頼りのないのは良い頼りって事かい? わかっちゃいるんだけどねぇ……」

「退廃的な生活はしてそうですけど、きっとあいつも変わらずやってますよ。そんなに心配しなくても大丈夫ですって」

「さっすがくじらちゃんの想い人! くじらちゃんの事がよくわかってるんだね。できれば居場所も教えておくれよ」

「えっ」

「えっ?」

「…………」

「…………」

「……いや、想い人じゃないですヨ?」

「めだかちゃーん! 奏丞くん捕まえてぇー!」

 

 バンッ!(扉が開く音)

 ダッ!(奏丞が逃げる音)

 ゴスッ!!(黒神ドロップキック!)

 ギャアアアッッ!?(奏丞、再起不能)

 

「それで、何故奏丞を捕まえるのですか?」

「お前知らねぇのにドロップキックなんかすんなよ!?」

「むっ、流石だ奏丞、アレを受けてまだ喋る余裕があるとは。一体どんなトレーニングをしているのだ?」

「やかましいわっ!」

「知った手段はどうでもいい。だが奏丞くん、今すぐ治療を受けたくばくじらちゃんの居場所を話すんだ。ここにはめだかちゃんがいるから自分で治療する事はできないよ」

「? お兄様、別に私は止めませんが」

「くっ……」

 

 幼い頃からの教訓により、めだかの攻撃にはわりと容赦がない。奇襲かつギャグ補正があれば、奏丞も無傷ではいられないのだ。

 世界は奏丞に優しくなかった。

 

「奏丞くん、きっと君はくじらちゃんの意志を尊重しているんだろう。僕だってくじらちゃんがしたい事はさせてあげたいさ。でもどれだけ信じていてもやっぱり心配なんだよ。だってくじらちゃんは、世界でたった二人しかいない大切な妹なんだから」

「真黒さん……」

「頼むよ奏丞くん。僕は(・・)居場所を知ったからと言って会いに行ったりやっている事を調べたりしないから。詮索しないと誓おう。だから教えてくれ、お願いだ……」

「…………わかりました」

 

 くじらには申し訳ないが、奏丞はスタンドを使って最近探し出した居場所を真黒とめだかに話した。決してこちらからは接触しない事を約束させて。

 

「……そうか、くじらちゃんはちゃんと中学校に行ってたんだね。それを聞いてちょっぴり安心したよ」

「しかし随分遠い所にいたのだな。入学するなら私達が行く箱舟中学校に行ってくれれば良かったが、まあ、今更言った所で詮無い事か」

「そうだね、こればかりは仕方がないなぁ。でも奏丞くんはくじらちゃんと連絡はとったのかい?」

「とりましたよ」

「え、とったの?」

「はい、そん時に口止めもされました。家族の誰にも言うなって……ヤベェ、結局話しちゃったよ……」

「そう落ち込むな。そうだ、他には何か話していないのか? 学校生活がどんなものか、とか」

「んー、ボッチになってる事ぐらいしか……」

「「えっ」」

「えっ?」

「…………」

「…………」

「…………」

「……くじ姉は友達がいないのか?」

「聞いた事は……」

「話をする相手、ぐらいは……」

「めっちゃ避けられてる、としか……」

 

 三人で気まずい表情になった。真黒にいたっては何事かをブツブツと呟いている。

 

「揺籃中……確か今は共学化して……ならねじ込めば……」

「ま、真黒さん……?」

「……奏丞くん、お願いがある」

「はい?」

 

 そのお願いの内容は、奏丞が予想だにしなかった話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「…………」

「…………」

 

 ズーン。

 この場の空気を一言で表現するならまさにそれだった。

 奏丞が訪ねて来たのはとあるマンションの一部屋。住み慣れた街を離れ、電車を乗り継いでここまで来た。

 そしてこの部屋の住人が誰かと言うと……

 

「兄貴め、とんだサプライズだぞ……」

「ホントすまん、くじら……」

「今の俺は名瀬夭歌だ。呼ぶならそっちの名前で呼べ」

 

 名瀬夭歌と名前を変えた黒神くじらだった。変わったのは名前だけではなく、素顔を隠す為に紙袋を被って見た目が完全に不審者になっている。スカートを履いていなければ性別すらわからないだろう。

 

「つまりこういう事か。

 俺の居場所を知ってる事がバレて兄貴達に説得されたから接触はしないって約束させた上で話したけどついでに俺がボッチになってる事までバレちまってそれを聞いた兄貴が僕じゃ駄目だけど君ならきっとくじらちゃんも許してくれるよとか言って俺と同じ学校に行かせるよう手配してこうなったのか」

「すげぇ、一息で言い切った……その通りです、はい」

 

 申し訳なくて、この時ばかりは出された水に毒が仕込んであっても仕方ないと思う奏丞だった。それでも確認はするが。

 本来なら明日、奏丞は箱舟中学校の入学式に臨む筈だった。

 しかし現実は違う。

 

「しっかしわざわざ揺籃中に入学するとは……三年早けりゃ共学化もまだしてなかったってのに。お前も断れよ、妹達と同じ学校に行く筈だったんだろ?」

「……真黒さんにはかなりお世話になってて、頼まれると断れないんだよ。というか頼み事自体初めてだし」

「つってもなー。そもそもお前んちはこっちに通う余裕なんかあんのかよ?」

「真黒さんが学生寮を手配してくれたよ。それどころか依頼料として学費まで……なんかどんどん追い詰められてる様な……」

「たぶん気のせいじゃねーぞ、それ。ったく、そこでNOと言わずにいつ言うんだよ。今だろ!」

「いや、今じゃ遅いでしょ……でも俺も心配してたしなぁ。お前が中学デビューに失敗していじめられてないか気になってたんだよ、一応」

「……余計なお世話だよ。で、兄貴にゃ何を報告しろって言われてんだ」

「元気でやってるか教えてくれればそれでいいって言ってたよ。

 あ、あと手紙預かってたんだ」

「手紙ぃ?」

 

 夭歌は奏丞が懐から取り出した手紙を受け取り、読み始める。

 

『やあくじらちゃん、久しぶりだね! お兄ちゃんからのプレゼントを受け取ってくれたかな? 残念だけどくじらちゃんは今僕達に会うのを躊躇ってるみたいなので、代わりに奏丞くんに行ってもらう事にしました。なんだかんだ言って気にかけていた奏丞くんならきっと喜んでもらえ――』

「ムゥン! レターディバイド!!」

 

 ビリビリビリッ。

 

「何やってんのー!?」

 

 夭歌は真黒からの手紙を引き裂き、クシャクシャに丸めてゴミ箱にシュート。綺麗な軌跡を描いて紙くずは見事ゴミ箱に納まった。

 

「ど、どうした、何か変な事書いてたのか?」

「気にすんな、下世話な話だよ。クソッ、あのヤロー……」

 

 夭歌は忌々しげに呟き、テーブルに出ていたグラスを掴んで一気にあおる。

 

「……今更駄々捏ねても仕方ねーか。実に不本意だが、これ以上の干渉はないって事でヨシとしねーとな。

 奏丞、元はと言えばてめーが喋ったのがわりーんだからな。てめーは自業自得と思って諦めな」

「……わかってるよ。ま、知り合いが一人もいないよりは気が楽だしな。御指導御鞭撻の程よろしく頼むよ、夭歌先輩」

「……いや、そりゃどーだろうな」

「?」

 

 奥歯に物が挟まった様な夭歌の言葉の意味がわかるのは、翌日になっての事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

「孤立した……」

「ドンマイ☆」

「何がドンマイだコラァ!」

「まあ落ち着けよ。いいじゃねーか、実に俺好みの不幸だぜ?」

「お前今絶対笑ってるだろ。見えねぇけど絶対ニヤニヤしてるだろ!」

 

 入学式を終えた奏丞達は今、近場の喫茶店に来ていた。

 奏丞が存在する影響なのか、この世界の夭歌は原作程過酷なイジメを受けてはいない。しかし夭歌に少々の変化があったからといってイジメがゼロになるわけでもなく、実害が及ぶイジメがない代わりに……

 

「ハハハ、見事に避けられてやがる。中学デビューは大成功だな」

「大失敗じゃねぇか!? というかお前も同じだろ、優雅にコーヒー飲んでる場合か! というかなんで紙袋被ったままで飲めんの!?」

「俺はいーんだよ。ほら、俺ってアレじゃん? 週刊少年ジャンプで言う、孤高のライバルポジ」

「オメーはそんな美味しいキャラしてねーだろ」

 

 とにかく避けられている。関わったら最後、肩胛骨をブチ割って上半身を腰寛骨まで鯵の開きのように裂かれるという噂すらあるあたり、どれだけ物騒に思われているのか察しがつくだろう。それこそ、下手に関われば余程の物好きか、或いはお仲間と思われる程に。

 

「そもそもなんで新入生にまで『二年にファ〇ストみたいなヤバイ先輩がいる!』なんて噂が早くも広まってんだ? んでなんで俺に“ファ〇ストの助手”なんて不名誉なあだ名ができてんだ!?」

「俺の溢れんばかりのカリスマに当たったんじゃねーの」

「実態は大外れだけどなっ! ぐぬぬ、少し話してる所見られたぐらいで、こんな絶〇君と同類と思われるとは……」

「誰が〇望君だオラ」

 

 わりとファ〇ストより絶〇君の方が近いんじゃね? と思っている奏丞だった。

 ちなみに奏丞達は気付いていないが、時たま外を通る揺籃中の生徒達から現在の二人の逢い引き(第三者目線)も見られているので、明日からは新たな噂が広まる事も想像に難くない。

 

「ったく、それなら誤解をさっさと解きゃいーだろ。実は何の関係もありませーん、って事にしとけよ」

「それはそれでイヤだよ。今いるダチを否定してまで友達作りたくねえし。

 ……あ、ここのケーキ結構ウマい。今度別のも食ってみっか」

「……やれやれだぜ」

 

 しかしそうなると、期待していた輝かしい中学生活はもはや望めないのだろうか。

 二度目とはいえ、奏丞も中学生を楽しみたかった。友人とカラオケに行ったり、買い食いしたり、普通で可愛くて普通な女の子とお近づきになったりしたかった。……意外と後者が切実な願いだった。

 

「こうなったら部活に入って仲間を……でも動機が不純だし……」

「空気も最悪になりそうだしな。チームワークなんかボロボロになりそうだ」

「他人事みたいに言いやがって……」

「知れた事を言うなよ。第一部活なんかに入ってどーすんだ?」

「学生は部活の一つや二つぐらい入っとくもんだぞ。仲間との切磋琢磨! 深まる友情! 青春って奴じゃねーか……」

「お前はジャンプ脳か……。しっかし、部活、ねぇ……?」

 

 部活の良さを語る奏丞を見ながら、夭歌はしばし考え込んだ。

 

「……おーい、夭歌ー?」

「しゃーねーな、ここは先輩として! 俺様が一肌脱いでやるか。つー事で今日はお先」

「えっ、何で今唐突にフラグ建てたの? 待って、ちょっと待って!」

 

 引き止める奏丞を華麗にスルーしてさっさと喫茶店を後にする夭歌。

 残された奏丞はというと。

 

「あいつ、さりげなく支払い押しつけて行きやがった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、翌日の昼休み。

 

「奏丞、部活作ったぞ」

「ぶふぉっ!?」

 

 教室にやって来るや否やそう言い放った夭歌に、奏丞は思わず咀嚼していた玉子焼きを噴出した。

 

「うわ、きたねっ。何やってんだよ」

「いや待て、それよりお前今何て言った?」

「だから部活作ったんだって。んで何なんだそれ、まさか自前の弁当か? よくこんな所で一人で食えるな」

「ほっとけっ。んな事どうでもいいから……」

 

 そこではたと気付く。教室内には僅かに生徒が残っているという事を。そしてその生徒達がさっきまで以上に距離を取り、戦々恐々としながらこちらを窺っている事を。

 

「ちょ、ちょっと来い。どっか別の場所で話そうぜ」

「やんっ、強引。奏丞くん大胆なんだからっ」

 

 ざわ……ざわ……

 

「お願いだからやめて!? たとえ棒読みでもやめて!?」

「ま、丁度いいか。なら理科室に行くぞ」

 

 目的地は理科室となった。道すがら多数の生徒に凄い目で見られつつも、何とかそこにたどり着く。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛絶対また妙な噂が……」

「気にすんな。それよりさっき教室で言いかけた事だけどよ」

 

 悶々とする奏丞を放置して、さっさと本題に入る夭歌。

 

「部活作ったからお前も放課後は来な。部室はこの理科室だ」

「…………」

「…………」

「……え、終わり?」

「そーだけど?」

 

 説明するかと思いきやそんな事はなかった。

 

「いやいやいや、何を言ってんの? え、部活作った? なんで? というか俺最近疑問符多くね?」

「奏丞の疑問符頻度はさておき、誰かさんが部活は入るものって言ってたからな。かといって既存の部活に入るのもマズいだろ」

「(こいつ、他人に配慮できたのか!?)」

「てめー何となく後でブッ刺してやるからな。

 まあ話は簡単、既存のが駄目なら新しく作っちまえばいい。そう思ってできたのが我が『囮学部』だ」

「へー、案外普通のネーミングだな。あ、その()()()のどっちなんだ?」

()だけど」

「……ん?」

「ん?」

「……どういう理念に基づく部活だ」

「面白化学で誘い寄って来た奴を遠目に観察しようって部活」

「はい解散」

 

 やはりロクなもんじゃなかった。

 

「別に解散していいけどよー、もうお前の入部届は出してるからな」

「やっぱりそんな話かよ……俺達以外の部員は?」

「いるわけねーじゃん。ちなみに俺が部長でお前は雑務な」

「カースト制度も真っ青な柱形階級制度だ……顧問は」

「いねーな」

「おい」

 

 部員二人で顧問もいない。どう考えても部活の体を成していなかった。一体どうやってこの部を作ったというのか。

 

「先生に『部費はいらないんで部活作らせてください』って言ったら通ったぞ」

「もはや部活じゃねえよ、これ理科室借りただけじゃん……」

 

 しかしそうは言ってもよくこんな部活がこれほど早く通ったものだ。

 まさかあれか、教師にも煙たがられているというオチなのか。だからさっさと許可を出したという事なのか。

 

「もっとも、ここには機材がねーから大した実験はできそうにねーな。ま、せっかくの活動初日なんだ、今日は混ぜると何故か爆発するお約束な薬品でも作ってみっか」

「部長、俺今日は掃除当番なんで少し遅れて来ますけどいいですか」

「十分以内に片付けてこいよ」

 

 どんな部活かと思いきや、意外と面白そうな部だった。

 さて、もう少し話を聞いてみたかったが、時計を見てみればもう時間がない。残っている弁当は諦めて次の授業の準備をしなければならないだろう。

 

「夭歌、時間もないしそろそろ戻ろうぜ。また放課後に会おう」

「そーだな、俺も次は体育だから着替えねーと」

「体操服のお前って……うーん……」

「文句あんのかコラ」

 

 互いの教室に戻る途中、奏丞はふと思い出す。

 自分とした事が、言わなければいけない事を言ってなかった。

 

「夭歌」

「ん?」

「ありがとな、わざわざ俺の為に部活なんて作ってくれて」

 

 その言葉に、紙袋に隠された夭歌の顔がニヤリと笑った……ような気がした。

 

「貸し一だぜ、憶えとけよ」

「……お手柔らかに頼むぞ」

 

 兄の真黒と同じく、夭歌も追い詰めるのが得意なのかもしれなかった。

 




奏丞『俺も心配してたしなぁ』
奏丞『御指導御鞭撻の程よろしく頼むよ、夭歌先輩』
奏丞『今いるダチを否定してまで友達作りたくねえし』
夭歌「…………」

奏丞『学生は部活の一つや二つぐらい入っとくもんだぞ』
夭歌「……仕方ねーなぁまったく」

奏丞『ありがとな、わざわざ俺の為に部活なんて作ってくれて』
夭歌「……やれやれ、手のかかる後輩だぜ」

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