ちなみに事前に言っておきますが、中学では安心院さん遭遇ルートには入りません。やたら話使いそうなんでカットカットカットォ!!
BBA好きだ! って人、ゴメンネ!
今回の話は短いですよ~。
己の気持ちを自覚した時、女は一人の狩人となる。
性の知識もない幼女、多感な時を生きる少女、社会の一員となった淑女、生きた歴史が髪に表れてきた老女。
老若男女ならぬ老若女々。どんな女性もその感情のままに決意するのだ。
気になる彼を勝ち取る事を。
「奏丞、今日は何の日かわかるよな?」
「………………………………バレンタインデー」
「正解だ。よってこれを贈呈してやる」
「…………何、コレ」
「どう見てもチョコレートだろうが。ま、考えてる事はわかるぜ。私みたいな美少女から貰えた事が信じられないんだろ? だけど安心していい、それは
「……………………めだか、ちょっとこの仄かに酸味が香るチョコの材料を特定してみてくれ」
「構わんぞ。どれ、ペロッ……これは青酸カリ!」
「お前本当に俺を何だと思ってるんだ!」
「人の妹に毒味させんなよ」
晴れの日も。
「存分に味わいなッ!」
「くそっ、太陽を背にして注射器を!? おのれ猪口才な……!」
雨の日も。
「なに、傘がない? そりゃー大変だな、きっと誰かが間違って持って行っちまったんだろ。仕方ねーな、私の傘を貸してやるよ」
「ちょっとそれ開いてみろよ」
「…………」
「…………」
「……照れんなよ」
「善吉ー、俺も傘に入れてくれー」
風の日も。
『外は風が強いな。危ないし、今日はこっちで泊まっていかねーか?』
「だから家で大人しくしてんだろうが。なんで台風来てんのにわざわざお前んちに行くんだよ。俺んちがボロいとでも言いたいのかコラ」
雪の日も。
「わーい、雪だ雪だー。ねえねえ、皆で雪合戦しようよー!」
「おっ、いいねえ。考えてみれば僕も雪合戦なんて初めてだよ」
「結構積もったなあ。ここは広くていい庭だし、はしゃぐにはちょうどいいや」
「うむ、流石はくじ姉だ。今日はここで遊ぶといいと助言されていたが、善吉の様子を見るに正解だったらしい」
「善吉ィィィ!! ちょっとその場から動くなよぉおお!?」
「(ボンッ!)ぐあっ!?」
「真黒さーん!?」
そんな日々が続くうちに、やがて気になる彼も彼女の気持ちに気付く日が来る。
「奏丞に出会ったおかげで、くじ姉はすっかり変わったよ。以前は書庫に入り浸りだったが、最近では実験室や薬品庫にもよく行く様になってな。私はくじ姉の意志を尊重しているが、流石に前の様な生活は体に障るのではと心配もしていたのだ」
「待て、実験室? 薬品庫?」
「ああ、以前より内容も充実している様だ」
「!?」
そうなれば後はこっちのもの。男は自分を思ってくれている相手が気にならないわけがない。
今までの甘酸っぱい日々も手伝って、彼は彼女に逢わずにはいられなくなるのだ。
「オラァアアア!!(ドゴーン)」
「ようやく踏み込んだな、私の
「どういう事だ、くじらッ!」
「待ってたんだよ、私が最大限に力を発揮できるここにてめーが入って来るのをな! くらえッ! 奏丞ッ! 半径十mイソフルランスプラッシュをーーーッ!」
「マヌケがッ! 知るがいい、俺の真の能力は……まさに! 『運命を切り開く』能力だということを!」
彼らの逢瀬はまだまだ続く――
☆ ☆ ☆
「正座」
「オイオイ、落ち着けよ。んな顔しなくたって」
「正座」
「……ちっ」
くじらはしぶしぶ正座した。
ここは黒神邸の応接間。数々の道具と薬品を駆使して襲いかかるくじらを下し、ようやく落ち着いて話ができる状態になったのだ。ちなみに先の戦闘で犠牲となった真黒は、隣で尻に刺さった注射器をめだかに抜いてもらっている所だ。災難なのか役得なのかは真黒の判断に任せよう。
「で、何だあの薬品まみれの部屋は。お前は基本的に書庫から出て来ない生物だと思ってたんだが」
「んなわけねーだろ。理科生物学ならそこの妹を上回ってる私なんだぞ、自分で使う実験室の一つや二つは持ってるに決まってんだろ」
棚に近づくとセンサーが反応して容器が破裂して中身をぶっかけてくる実験室がどこにあるのか。
「そりゃあの部屋はお前を捕獲する為に改造した部屋だからな。言わせんな恥ずかしい」
「だからお前は俺を何だと思ってるんだ」
「ふふ、それも奏丞の事を買っている証拠では「俺はめだかとは違うんだぞ」待て奏丞、そこで何故私を引き合いに出す」
「そうだぞ、身体能力がバケモンのめだかと違ってお前は不思議能力を使うUMAなんだからな」
「お姉さまは何故止めを刺していくのですか」
とんだとばっちりだった。
「なぁくじら。そりゃあ、お前に能力を見せたのは俺だよ。ストーカー染みた事されるのも仕方ない。でも少しは自重しろや」
「そりゃてめーの自業自得って奴だろ。ハハハ、私の為に不幸を背負い込むなんて可愛い奴だ。ハグしちゃうぞ?」
「鯖折りすんぞ不幸メーカーが。だけど今回はお前のフィールドを乗り切ったんだからな、俺を捕まえる事はできないってわかっただろ」
「……ふむ」
その言葉には何か思う所があったらしく、くじらは何かを考え始める。しかしその表情を見れば、未だに諦めていない事はわかった。
「確かにてめーの言う通り、今の私じゃ捕獲する事は難しそうだな」
「せめて捕まえるって言ってくんね?」
「ま、いいぜ。そこまで言うならてめーに仕掛けるのはしばらく止めといてやる」
「マジで!?」
くじらにはかつてなかった譲歩が引き出された。
しかしだからと言って油断できないのがくじらの怖い所だ。
「でも何か企んでんだよな?」
「ヒデー事言うなー、まったく。ひねくれた子供に育っちまってオネーサン嬉しいぜ。だがマジな話だ。
「おいやめろよ、どう聞いてもフラグでしかねぇじゃねえか。というか実験って何だよ」
「こまけー事は気にすんな。おいめだか、お客様はお帰りだぞ。もう遅いしさっさと送ってやれ」
「おいコラ、あからさまに話逸らしてんじゃねえぞ。余計不安になるだろうが」
「奏丞、積もる話もあるだろうが、それより門限は大丈夫なのか?」
「え、今何時……げ、もうこんな時間か!?」
時計を見れば既にギリギリの時間だった。門限を破る事はお小遣いの減額に繋がる。それはつまり、手紙代が足りなくなるという事。それが意味する所は……ズバリ、ヤンデレが病む。
「くそっ、今度詳しい話を聞かせてもらうからな!? めだか、悪いけど」
「心得ている。今戦闘機を手配している所だ」
「車でいいから! そこまでは求めてないから!」
慌ただしく去って行く奏丞とめだかを見ながら、部屋に残されたくじらはポツリと呟く。
「私がいなくなってもあいつらは変わらなさそーだな」
「そうかもしれないね」
それに応えたのは、隣で尻を突き出してうつ伏せに倒れている真黒だった。力尽きた尺取り虫の様なその姿は、どことなく哀れみを誘う。
「だけど、それはくじらちゃんが居ても居なくてもどっちでもいいから、なんて理由じゃない。きっと、くじらちゃんなら大丈夫だって信頼してるからこそなんだよ」
「そりゃー嬉しいね、だったら私もやりたい事やっちゃっていいワケだ」
「あ、でもやるならやるで一言言ってね? くじらちゃんは目を離すとすぐに体に悪い事するし、危ない事企むし、奏丞くんに夢中になっちゃうし……」
「全然信頼してねーじゃねーか。大正解だぜオイ」
そう言ってくじらは立ち上がる。
「おっと、わりぃ」
「ぐぇっ……」
何気に今までずっと正座していたため、足が痺れてフラついた拍子に真黒を踏んづけてしまった。今日の真黒はつくづく運がない。
「オーケーオーケー、わかったよ。一言ぐらい大した手間でもねー。何となく気が向いたらしぶしぶ一言言ってからやってやるよ」
「め、めちゃくちゃめんどくさがってるじゃないか…………ガクッ」
力尽きた真黒を意に介さず、くじらは部屋を後にする。緻密な頭脳を持つ彼女が今、どのような計画を巡らせているのか? それを知る者はどこにもいない。
しかし、ただ一つ確かな事がある。
くじらは11歳の誕生日に、黒神家から姿を消す。
めだか「奏丞、大変だ。くじ姉が失踪した」
奏丞「……えっ、なんで?(あれ、そんなに思い詰めてたの? まさかあの、不幸じゃないからってやつか!?)」
めだか「それなんだが、くじ姉が書き置きを残していってな。これを見ろ」
奏丞「なになに……」
『奏丞がちっとも研究に協力しないから家出する。
じゃーな』
めだか「奏丞……」
奏丞「コレ俺のせいなの!?」