目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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黒神兄妹が過去回想で着ている服も……?


第五話:黒神邸と幽波紋!

 

 

「……善吉、こいつをどう思う?」

「すごく……大きいよ」

 

 エロい意味だと思った?

 

「私の実家、通称『黒神邸』。私が人を招くのは貴様達が最初になる」

「いや、それはいいんだけど……お前んちデカ過ぎだろ」

「すごいすごーい、僕の家が建てれちゃう! デパートに来たみたい!」

「広いだけだ、商店の様に目新しい物もない」

 

 残念、めだかちゃんのお家でした!

 さて、本日は奏丞と善吉が黒神家を訪れたわけだが、特に深い理由はない。きっかけはあるめだかの気付きからだった。

 

「奏丞の家も善吉の家にも行ったのに、私の家で遊んだ事はないな。よし、明日は貴様達を我が家に招待しよう」

 

 と言い始め、今日それぞれの家にリムジンで迎えに来たのだ。

 そしてそれにホイホイついて行き、めだかの家を見て出た第一声が冒頭の会話である。

 まあ、家の大きさにも驚いたんだが……

 

「めだか、この服は洗濯して返した方がいいのか……?」

「返却は不要だ。そもそもドレスコードの事を伝えていなかったこちらに落ち度がある。遠慮はいらん、迷惑料とでも思って受け取っておけ。

 では行くぞ、ついて来るがよい」

 

 車内で着せられた服、総額一千万円以上。黒神邸ではドレスコードがあり、一千万円以上の服を着なければ入れないとか何とか。どーいう事なの。

 俺の独断で日本一カレーうどんが似合わない家に認定しようと思う。

 

「んじゃ、今日は何しようか。せっかく初めてめだかんちに来たんだし、それらしい遊びでもしたいもんだけど」

「そうだな、玩具の類いは一通り揃っているが、今日はそれで遊ぶか?」

「うーん、じゃあ鬼ごっこはどう?」

「玩具があると言われて鬼ごっこを選んじゃうかー。でも善吉、人様の家で走り回っちゃ駄目なんだぞ?」

「ふーん、わかったよー」

「鬼ごっこぐらい別に構わん。迷惑をかける者もおらんしスペースも十分にある。なんなら私が鬼になってもよい。というか、私が鬼になるぞ。異存はないな、奏丞?」

「……こっち見んな」

 

 三人で執事さんが持って来たお菓子とジュースを食べながら、何をしようか話し合っていると。

 

「やあめだかちゃん、お友達かい」

 

 部屋に見知らぬ少年が入って来た。見た目からすると奏丞達よりいくつか歳上の様だ。

 

「む、お兄様ですか」

「お兄様? という事は……」

「はじめまして、僕はめだかちゃんのお兄ちゃんの黒神真黒だ。よろしくね」

「あ、どうも。自分はめだかの友達の宇城奏丞です。こっちは……」

「僕は人吉善吉だよ! めだかちゃん、お兄ちゃんがいたんだね」

「奏丞くんと善吉くんだね」

 

 実に普通の少年だった。

 奏丞の記憶では極度の妹萌えの変態だったと思い出し身構えていたが、こうして話してみるとそうでもない様に思える。

 もしかすると幼児期はそれほど変態ではなかったのかも……

 

「妹の友達って事は僕の妹も同然だね。僕の事は気軽にお兄ちゃんって呼んでよ!」

 

 訂正、既に片鱗が表れていた。

 

「……いや、俺は真黒さんって呼ばせてもらいます。善吉もそう呼ぼうな?」

「うん! よろしくね真黒さん!」

「はっはっは、二人共照れ屋さんだなぁ」

 

 照れ屋ではなく、間違っても妹と認識されたくないだけだった。

 

「しかしお兄様、私達に一体何の用ですか」

「ふふふ、だってめだかちゃんが初めて友達を連れて来たんだよ? お兄ちゃんとしては挨拶しないわけにはいかないじゃないか!」

「……それでは挨拶も終わった事ですし、もう用はありませんね。私達は今後の予定を話し合わねばならないので」

「つれない事言わないでよ! 僕も皆と一緒に遊びたいよー!」

「そんな所で駄々を捏ねないでください」

「うーん、いいんじゃないか、せっかくなんだし。ちょっとアレだけど実害はないだろうしな」

「奏丞」

「僕もいいよ! 一緒に遊ぼうよ真黒さん!」

「善吉もか……」

「おっ、二人共ありがとう! というわけで僕も一緒に遊ぶからね、めだかちゃん!」

「……二人がそう言うのなら、仕方ありません」

 

 許可を貰い、満面の笑みを見せる真黒。超人めだかも多数決には抗えなかったらしい。

 

「じゃあ何をして遊ぼうか」

「それを話し合っていた所です。今の所鬼ごっこが有力候補ですが」

「おっとここでも多数決の弊害が。真黒さん、何かいい案はありませんか? このままだと俺、ぶっ倒れるまで(めだか)に追いかけられそうなんです」

「そうだねぇ、かくれんぼなんてどうだい? この家は隠れる場所ならいっぱいあるし。それに遊びながら探検してもらえば一石二鳥!」

「かくれんぼ? いいよ、やろうやろう!」

「初めて来た家で勝手に歩き回ってもいいんだろうか。でも他にいい案ないしなぁ……」

「しかしそれならば屋敷の構造を知らない奏丞と善吉は探すのが不利になる。鬼は私かお兄様が……いや、招待した手前、私が鬼になろう」

 

 かくしてかくれんぼをする事に決まり、鬼はめだか、他三人が隠れる事となった。

 

「範囲は屋敷全体。私は貴様達がこの部屋を出て三十分後に探し始めよう」

「ちょっと待て、範囲が広すぎやしないか? この家、外から見た分だと相当でかいぞ。待ち時間もかなり長いし」

「私はこの屋敷の構造は全て把握している。貴様達を見つける事など造作ない。それに貴様達が場所を探すには、時間もそれくらいはかかるだろう。ついでに我が家の見学でもして行くといい」

「お前はホントにチートだな……」

 

 スタンドありきの奏丞とは違い、めだかは素でそんな事をやってのける。構造を把握してるぐらいじゃどうにもならんだろうと思うが、そこはめだかだからしょうがないのだろう。自分よりチートだと思うのは気のせいではない筈だ。

 

「ふっ、心配せずとも貴様もすぐに見つけてやろう。安心して隠れるがよい」

「……おーおー。好き勝手言いなさる。これにはウ〇ージさんも苦笑いだよ。ナメんなよ、俺が本気になったら帰る時間になるまで出て来ねーぜ」

「ほう、それは楽しみだ。しかし地の利はこちらにある。鬼ごっこの時とは違い、見つかった時点で貴様の敗北なのも憶えておくがよい」

「あったりめーだ」

 

 四人でやる筈のかくれんぼが、何故か奏丞とめだかの勝負を呈してきた。

 実はこの二人、ある因縁がある。

 

「……めだかちゃんが張り合う所なんて初めて見たな。善吉くんは何か理由を知ってる?」

「うん。前に皆で鬼ごっこをした時なんだけどね、最後にめだかちゃんが奏丞くんを捕まえようとしたんだけど、奏丞くんが全部避けちゃって」

「よ、避ける……?」

「そうだよー。こう、ハッ! ホッ! って」

「そ、それは凄いなあ」

 

 単に意地になった奏丞がスタンドを使っていただけである。

 この上なく大人気ない真相だった。

 

「では始めるぞ。部屋を出たら扉を閉めろ。私は扉が閉まってから1800秒カウントした後に探しに行く」

「よし、じゃあ行くか」

「うん! がんばってね、めだかちゃん!」

「お兄ちゃんもちゃんと見つけてくれよ?」

 

 いよいよかくれんぼが始まった。めだか一人を残し、三人で部屋を出て……扉を閉めた。

 

「じゃあみんな、どこに隠れよっか?」

「それなら僕に任せてよ。隠れる場所ならいっぱい知ってるよ」

「あー、それなんですけど。真黒さん、ここは二手に別れませんか? 隠れるならバラバラに隠れた方がいいですし」

「二手に? うーん、確かにその方が良さそうだね。でも誰と誰が一緒に行く?」

「真黒さんには、できれば善吉について行ってあげてほしいです。この屋敷は広いから迷っちゃいそうで。ついでに隠れるのにいい場所をアドバイスしてあげてもらえれば……」

「それはいいんだけど、奏丞くんは大丈夫かい? この家に不慣れなのは、君もおんなじだろ?」

「道はちゃんと覚えて行くんで大丈夫です。隠れ場所はわかりませんけど……まあ、なんとかします」

「……わかった、じゃあ僕は善吉くんと一緒に行くよ。奏丞くんも頑張って隠れてね」

「はい、最後まで隠れ切ってみせますよ」

「んー? 僕は真黒さんと行くの?」

「おう、ここで一旦別れよう。善吉はいい場所を教えてもらうといいよ」

「わかった! 真黒さんよろしくお願いします!」

「うん、任せて。じゃあ、そろそろ動こうか。僕達はこっちに行こう」

「なら俺はこっちですね。頑張れよ、善吉!」

「奏丞くんもね! 行こう真黒さん!」

 

 次に会うのはお互いが見つけられた時。理想の隠れ場所を求め、三人はそれぞれの方向へ走って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 別行動をした事に邪な理由はない。善吉が道に迷いかねないと思ったのは本当だし、めだかが見つけに来るまで知らない場所で一人にしておくのが心配だった事も確かだ。

 どうも善吉には過保護になりやすいが、将来があんなになるとは思えない程無垢な善吉を見ていると、過保護になってしまうのも仕方がない……と思う。なんだか弟ができた様な気分になるのだ。

 なに、めだか? いやいや、あれはないわー。

 

「さてさて、どこに隠れようか」

 

 手当たり次第扉を開け、中を確認していくが、眼鏡に適う場所は見つからない。

 屋敷の構造を全て把握していると言った以上、めだかは隠れるのに適した場所も全て知っているだろう。ぶっちゃけ、真黒が知っている場所は真っ先に狙われかねない。

 そんな考えもあって単独行動をするあたり、奏丞もめだかの事を言えないぐらいには本気だった。

 

「ん? ここは……」

 

 一際大きい扉を発見。開いてみると、天井まで伸びた巨大な本棚と、隙間なくそれに詰められた大量の本が目に飛び込んできた。流石は金持ちの書庫と言うべきか、そんじょそこらの図書館など目じゃない量の本だ。

 ……が、しかし。奏丞は知っている。ここにはヒジョーに面倒な思想を持つ少女がいる事を。

 

「誰だてめー、新手の強盗か?」

「見つかんの早えーよ……」

 

 ついつい本棚に目を奪われて気付かなかったが、部屋の隅にはこれまた大量に本が積み重なった机があり、その前には目に隈を作った少女が一人座っていた。

 恐らく彼女こそが面倒な思想を持つ少女、『黒神くじら』だ。

 

「あー、強盗じゃなくてだな。俺はめだかの友達の宇城奏丞ってもんなんだが……」

「妹の友達だと? そんな奴が私に何の用がある」

「ああ、今俺達かくれんぼしてる所で、どこかにいい隠れ場所がないかなーと……」

「…………」

「…………」

 

 苦虫を噛み潰した様な表情で沈黙するくじら。なんとも胃が痛くなってくる沈黙だ。

 しかし、どうせ出て行けと言われるだろう。そう言われる前にさっさと出て行こうと思ったが。

 

「……好きにしろ」

「…………は? それはあれか、いて良いって事か?」

「そもそもここは私の所有物じゃない。他人だろうが、家のもんが良いって言ったなら使う権利はあるんだろうよ」

 

 思わぬ返事が返って来た。てっきり有無を言わさず叩き出されるかと思っていたが。

 それからくじらは興味を失ったかの様に机に向き直った。

 

「だが邪魔はするなよ。てめーみたいなガキに構ってられる程、私は暇じゃないんだ」

「あー、念の為に聞いておくけど、何やってるんだ?」

「見てわかんねーか? 学究に打ち込んでるんだよ」

「……それにしちゃ随分薄汚れてるし、隈もひどいぞ。その巻き付いてる鎖なんか学究にはまったく関係ないだろ」

「ハッ、てめーなんかにはわかんねーだろうよ。これは私が不幸になる為に必要な事だ」

「不幸と勉強は関係なくね?」

「いいやあるね、大ありだ。何故なら『素晴らしいものは地獄からしか生まれない』!!」

 

 そう言って再びこちらを向いたくじらの顔には鬼気迫るものがあった。

 

「楽しむ事は怠ける事で! 喜ぶ事はだらける事で! 笑う事は不真面目な事だ! 歴史上の天才達が不遇な人生を送り、偉大な発見を劣等感から生み出した様に! 私も決して幸福であってはならないんだ!!」

「ギリシア人が文化を発展させられたのは奴隷に仕事与えて暇人になったからって聞いた事あんぞ」

「…………」

「ニュートンが落ちるリンゴを見るには外で散歩でもしてないと見れないだろうし、アインシュタインはモーツァルトの曲が大好きだったって聞いた事があるし、その他の偉人達だってバリバリ恋愛したり、趣味持ったりしてたと思うぞ」

「…………」

「お前が言う地獄で始終暮らしてた奴なんて、いないんじゃねえの? 苦難も幸福も全部ひっくるめた人生だったからこそ、偉人達は後で教科書に載る事ができたんだと俺は思うぞ」

「……お前なかなか台無しな事言いやがるな。つまり何が言いてーんだよ」

「べっつにー? 俺は単に地獄って所には素晴らしいものはないんじゃないかなーと思っただけだよ」

「無駄だったって言いたいのか。私のこれまでの人生が……」

「地獄じゃ何も生まれないとは言わねーよ? お前の言う素晴らしいものがもしかしたら生まれるかもしれない。だけど俺風に言えば『地獄からはおぞましいものしか生まれない』。俺はそう思っただけだ」

 

 しばし無言で見つめ合う。

 先に根負けしたのはくじらの方だった。

 

「……チッ、てめー実は兄貴に頼まれて来たとかじゃねーだろうな。要するに外に出ろって言いたいだけじゃねぇか」

「いや、ここに来たのは偶然。真黒さんからも何も聞いてないよ」

「つまり遊びでここに来たって事だな。気楽なもんだぜ、人の生き方をさんざ好き勝手に言っといてよ」

「あー、その、なんだ……悪いな」

「謝ってんじゃねーよ。てめーの言い分も間違っちゃいねーと思うしな……」

「え? なんだって?」

「難聴主人公かこの野郎……もう話は終わりだ。私は勉学に励みたいんだ、てめーは勝手に隠れて勝手に出て行け」

「……そっか、悪いな、手間とらせた」

 

 今度こそくじらは机に向き直り、ペンを動かし始めた。つまりこれで本当にこの話は終わりという事だ。

 ……流石に初対面の赤の他人が、言葉で生き方を変えるなんてのは無理があったか。普段は便利なスタンドだけど、こーいう時に限って役に立たないんだよなぁー。

 そんな事を考えながら、何となく一架の本棚を下から順に見ていってみると。

 

「(んん? あれは……)」

 

 本棚に並ぶ哲学書、思想書、数学書、医学書……そんな難解な書物の数々に紛れ、スタープラチナの目を使うぐらいに高い所にある、異色の本。

 

『赤木が教える麻雀入門書』

 

「(やだ、すごい気になる……!)」

 

 同姓の別人なのかマジモンなのか。どっちにしても中身はぶっ飛んでそうだ。だがそこがいい。異彩を放つそれを読んでみたいという欲求がふつふつと湧き上がってくる。

 

「……なあ、ここの本読ませてもらっていいか?」

「勝手に読め」

「サンキュ」

 

 許可も貰ったので、早速その本を取ってみる事にする。

 くじらがこっちを向いていないのを確認して。

 

「(行け、エコーズ)」

 

 射程距離が長いエコーズACT1を飛ばし、目的の本を取る。そして自分の下へ持って来させて――

 

「おい、高い所にある本ならそこの梯子を使って……」

「あ……」

 

 突然くじらが振り向き(・・・・・・・・・・)こちらを見た(・・・・・・)。エコーズが手を放し、トサッと本が手に落ちて来る。

 

「…………」

「…………」

「……おい」

「な、なんでしょう……」

「今、その本浮いてたよなあ……?」

 

 完全に見られていた……い、いやっ、まだわからない!

 

「は、はあ? 意味わかんねえって。本が浮くわけないだろ」

「私はよ、書庫の本の位置は全部憶えてるんだぜ……」

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛

 

「そいつは棚の一番上にあった本だ。梯子も使わずどうやって取ったんだ?」

「え、いや、その……」

「落ちて来た速度もおかしかった。あの高さからそんな分厚い本を自由落下させれば、そんな軽い音でキャッチできる筈がないしな……」

「…………」

 

 ガチャンガチャンと、拘束していた鎖を何故か外し始めたくじら。奏丞にはその音がまるで自分に近づいて来る死神の足音にも聞こえた。

 

「ちょっともう一回やってみせろよ」

「まあ待て、そして落ち着け。とりあえず話し合おう。言葉のキャッチボールにそんな鋭いシャーペンは不要だぞ?」

「いいからやれっつってんだろ!」

「のわっ!? てめっ、今足狙ったな!? 何冷静に攻撃してんだ、逆に怖いわ!」

「安心しろ、足が動かなくなってもオネーサンがなんとかしてやるからよォ!」

「動かない時点でもうアウトだよ!」

 

 くじらが突き出すシャーペンを回避しつつ、どうこの状況を打開するか考える。

 

「(俺に勝機はッ!? ぬ、ぬあああ!)」

 

 断末魔の一瞬! 奏丞の精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を産んだ!

 普通の人間は追い詰められ秘密がバレそうになれば誤魔化そうとばかり考える。

 だが奏丞は違った!

 逆に! 奏丞はなんとさらに!

 秘密を晒した!

 

 ――なに奏丞? 大晦日は紅白よりもガキ使を見せろ? 奏丞、それは意地を張るからだよ。逆に考えな。「紅白でもいいさ」と考えるんだ……

 

「……いいぜ、お望み通り見せてやる」

「おっ、話がわかるじゃねーか」

「(くじらが自ら拘束具を外した……つまり今、この瞬間は不幸よりも未知の現象に興味を示したという事……これはくじらをこの牢獄から連れ出すチャンスになるはず!)」

 

 急かすくじらを尻目に、自分の懐からセラミックスと磁石を取り出す。

 

「……お前何やってんだ?」

 

 セラミックスに手をかざし、ホワイト・アルバムで超低温にした後、その上に磁石を置けば……

 

「はい、浮き上がった」

「それは超伝導だろうが!」

 

 やっぱり怒られた。

 

「ふざけんなよ、お前さっきは本を手で触れずに…………いや、ちょっと待て」

 

 くじらは気付く、その異常に。

 

「磁石を持っていたのはいい。セラミックスを持っていたのも、まあいい。要は陶磁器やガラスだからな。だが、超伝導を起こさせる程の低温だと……? 本来液体窒素を持ち出す様な温度を、素手で発生させただと……!?」

「…………(ニヤッ)」

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛

 

「てめえ、一体何をした!?」

「はっはっは、教えるわけないだろ。お望み通り浮かべてやったんだ、これで文句はないな!」

「いーや、ますます聞きたい事が増えたね! ちょっと解剖させろ!」

「いやだね!」

「なら力ずくだ!」

 

 くじらがシャーペンを投擲してくるが、危なげなく回避する。今のは確実に目を狙っていてかなり怖かった。

 

「ケッ、お前みたいなモヤシっ子に俺が捕まるかよ! 肉喰って出直して来やがれ!」

「てめー調子にのってんじゃねーぞ! 大人しくしてやがれ!」

「ここにいたか、奏丞!」

「お?」

「ああ?」

 

 やって来たのはめだかだった。……かくれんぼの最中だった事をすっかり忘れていた。

 先に見つかったのか、その後ろには善吉と真黒を連れている。奏丞は最後に見つかったらしい。

 

「まったく、こんな所に隠れるとはな。しかしここにはくじ姉がいた筈だが……」

「いい所に来たなめだか! そいつを捕まえろ!」

「む、そいつとは奏丞の事ですか? お姉さまの頼みとあらば吝かではありませんが」

「なにぃ!? めだか、お前は俺の味方だよな!?」

「敵になるつもりはない。しかしああも生き生きしたお姉さまを見たのは初めてでな……」

「くじらちゃんどうしたんだい? 机から離れるなんて珍しいじゃないか」

「兄貴までいるのか……まあいい、とにかく全員でそいつを捕まえろ! 絶対に逃がすなよ!」

「ふむ、話は見えないが、他ならないくじ姉の頼みだ。この前の鬼ごっこのリベンジといこうではないか、奏丞」

「どうやってくじらちゃんを動かせたのか、お兄ちゃんも気になるな。奏丞くん、僕にも話を聞かせてもらうよ!」

「えっと、奏丞くんを捕まえればいいんだね? 任せてよ!」

「ええっ、何その唐突な四面楚歌!?」

 

 一気に敵が四人に増えてしまった。出入口には裏切り者が三人、傍にはマッドが一人。救援は、ない。

 

「だが、俺は絶対に逃げ切ってやるからな!」

 

 とにかくこの部屋を脱出しなくては。その為にも、まずはあの裏切り者達を突破する!

 

「勝負だ、奏丞!」

「いくよ奏丞くん!」

「ふっふっふ、愛する妹の為にもここは通さないよ!」

「……てめーはこの私が絶対に捕まえて解剖してやるからな、奏丞(・・)!」

「……ふんっ、やれるもんならやってみやがれ、くじら(・・・)!」

 

 今日を生き残るべく、奏丞はスタンドパワーを全開にしながら、出口に向かって走り出したのだった。

 

 

 ……そして最後に、彼がこの耐久鬼ごっこでなんとか生き残った事を、ここに記しておく。

 




奏丞「ドレスコードがあるって事は、お前ら家では1000万円以上もする服着てんだな」
めだか「…………」
真黒「…………」
くじら「…………」
奏丞「こっち向けよ」

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