目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

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第三話:箱庭病院と幽波紋!

 

 

 黒神めだか達に出会う三十分前。奏丞は手持ち無沙汰に診察の順番待ちをしていた。

 一緒に来ていた施設長はこの病院に知り合いが多いらしく、挨拶回りに行ってしまったので、奏丞は現在一人きりだ。診察後は迎えに来るまで託児室で待つ事になっている。

 順番を待つ間は暇だが、話し相手がおらず、しかし周りにいる子供に話しかける気にもなれず、奏丞はお呼びがかかるまでタワー・オブ・グレイを飛ばせて暇を潰していた。

 ……マイナーで特に思い入れもないスタンドなのに結構使っている気がするのは何故なのか。

 

「宇城くーん、五番検査室に入ってくれる?」

「はーい」

 

 ようやくか、と腰を上げてタワー・オブ・グレイを戻し、言われた部屋に向かう。どうやらスタンドが見えた人はいなかった様だ。

 

「(さて、担当は誰だろ。まさか『あの人』だったりしないよなぁ?)」

 

 とある合法ロリの陰を脳裏によぎらせつつ、五番検査室に入る。

 果たしてその部屋で待っていたのは……

 

「宇城奏丞くんね? 私は君の担当医になる人吉瞳! よろしくね!」

 

 予想は大当たりだった。

 椅子に座って待っていたのは小学生くらいの小さい女の子……の様に見える子持ちの人妻、人吉瞳。そのありえない若々しさはアンチエイジングどころの騒ぎではない。

 なるほど、こりゃ凄え。色んな意味で。

 奏丞はそう思った。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫! ほら、いつまでも立ってないで、座って座って」

「はぁ……」

 

 気の抜けた返事をしながら、言われた通り瞳の前の椅子に座る。

 近づいてみてもやはりロリにしか見えなかった。瞳エキス(エロくない)を抽出して売り出せば、若さを求める世の奥様方も諸手を挙げて喜ぶのではないだろうか。たぶん。

 

「君は宇城先生の子供なんだよね? 私も昔はあの人にたくさんお世話になったのよー」

「え、先生もばーちゃんに育てられたんですか?」

「……どういう意味でかな?」

「あ、あー、その……医者という意味でですね……?」

「誤魔化せてないわよ……こんななりでも結婚して子供までいるんだから。

 まあ、医者としてって言うのは正しいけどね」

「……ん? という事はばーちゃんは元医者なんですか?」

「あれ、聞いてなかった?」

「ばーちゃん、あまり昔の事話そうとしませんから。ここに知り合いがいるのも昨日初めて聞いたし」

「そうなの……」

 

 何故か物憂げな表情をする瞳。

 明らかに過去に何かあった様な顔で非常に気になったが、言われないという事は詮索すべきではないのだろうと思い深くは聞かなかった。

 

「宇城先生が言ってないなら私の口から言うわけにもいかないわね。

 ごめんね、詳しい事話せなくて」

「いえ、ばーちゃんの事が少しでも知れたんでよかったです。

 今日は本当にありがとうございました」

「どういたしまして。何かあったら遠慮なく頼ってちょうだいね」

「はい、その時はお願いします。

 じゃあさようならー」

「さよならー…………って待ちなさい!」

「……チッ」

 

 残念ながらそのまま去る事はできなかった様だ。

 

「あっ、そうか、検査の事忘れてた!」

「いやいや、さっきの舌打ち聞こえてたから」

 

 瞳は口元をひくつかせて言った。

 

「もう、なんで逃げようとするの? 検査はちゃんと受けないとダメよ」

「と言っても俺、特に悪い所とかないですし」

「今回の検査は、君が言う様な一般的な病気を調べる為の検査じゃないわ。常人とは違う能力、異常(アブノーマル)と呼ばれるモノを調べる為の検査なの」

「アブノーマル……なるほど、人吉先生の旦那さんみたいな人の為の検査ですねわかります」

「縫い付けるわよ」

「ごめんなさい」

 

 何をとは言わなかったが、恐ろしい事というのはよくわかった。

 

「それで、どうやって調べるんですか? 痛いのはあんまり……」

「しないしない。カウンセリングみたいな物だから、怖がる事もないわよ。というか、既に大体わかったし」

 

 えっ。

 

「短い間だけど、こうして話してみると、少なくとも生まれて二年の子供には似つかわしくないインテリジェンスを備えている事はわかったわ。だから常人と違うのは確かなんだけど……作ったキャラじゃないとしたら、異常(アブノーマル)と言うには普通(ノーマル)過ぎると思うのよねぇ……?」

 

 そりゃまあ、スタンド使いだけど中身は一般人ですし。

 そう思ったが、もちろん口には出さない。転生した奏丞には既に、元高校生として普通の精神が備わっているのだ。転生特典として後から与えられた異常も人格に大きな影響を及ぼす様な物ではないし、生来の強烈なキャラクターを持つ本場本物の異常達と比べれば、普通(ノーマル)寄りと思うのも当然だ。

 ……時々テンションが上がると、スタイリッシュ(笑)かつセクシー(爆)なポーズをとりたくなってしまうが、そこはスタンド能力の影響が強いのだろう。常日頃からしているわけでもない。

 ぶっちゃけ奏丞は特殊な力を持っているだけの普通(ノーマル)と言えるのだ。

 

「普通なら別に問題ないんですよね」

「普通ならね。

 そもそも私の仕事は異常の子供達が社会に馴染める様に、幸せになれる様にする事よ。その点君は少し精神が早熟なだけだから、問題なく社会に馴染めると思うわ」

「そうですか、じゃあ俺は大丈夫って事ですね。ばーちゃんに心配かけなくてよかったぁ」

「でも……なーんか隠してそうなのよねぇ? 君って」

「…………」

「具体的な事はわからないけど、この私を相手に全部を隠し通そうなんて無駄よ。異常も普通も合わせて、私がこれまで何人の人と向かい合ってきたと思う? 悪いけど、対人経験は君よりずっと豊富だし、心療外科医として相手の感情を読むのは得意分野なの」

 

 奏丞は頭をかく。どうにも相手は相当格上だった。

 重ねて言うが、奏丞はあくまで特殊な力を持つ普通で、しかも前世と合わせても二十年も生きてはいない。そんな奏丞が瞳に心理戦で勝てる道理はなかった。

 もちろん、スタンド『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』を使えば簡単に誤魔化す事はできる。しかし悪意のない相手をそうやって好き勝手に操る様な真似はしたくなかった。

 

「まあ、そこらへんは追い追い聞いていくとして、しばらくは通院してもらうけどいいかしら?」

「だが断る」

「却下よ」

「拒否権ないなら聞かないでくださいよ……」

「自己決定権って大切だと思わない?」

「パターナリズム的展開だった気がするのは気のせいですか」

「二歳なのに的確にツッコミできるのね。やっぱり通院決定」

「ひでぇ……」

 

 誘導尋問とか卑怯だと思います。

 

「まあ、特に問題はなさそうだし、通院も案外早く終わるかもね? 場合によったら入院してもらうけど」

「……しないで済むよう祈ってます」

「それはこれからの君次第ね。じゃあ今日の診察はここまで。今後の予定なんかは君のおばあちゃんに知らせておくわ。

 ……そう言えば君、しばらくおばあちゃんを待つ事になってるんだっけ?」

「そうですね、託児室で待ってろって言われてます」

「託児室の場所はわかる?」

「……まあ、探せば」

 

 病院内の構造を把握しているわけではないが、こんな時にも便利なスタンドがあるので簡単に調べられる。そうでなくても院内の地図が貼り出されていたんだから迷う事はないだろう。

 

「ならいいけど……そうだ、今託児室に私の子供がいるの。よかったら友達になってあげてくれないかしら」

「俺がですか?」

「うん、君が。あの子も一人じゃ寂しいだろうし、君も悪い子じゃなさそうだしね」

 

 原作では球磨川禊と関わらせない様に気をつけていたが、奏丞ならばいいらしい。眼鏡にかなって光栄と思うべきだろうか。

 しかし元々託児室には行くつもりだったし、せっかく親御さんに認可されたんだから会ってみるぐらいはしておこう。

 

「んじゃ早速行ってきますね。次来た時もよろしくお願いします」

「またね。あの子をよろしくー」

 

 奏丞はそう言って検査室を出る。

 結局異常ありと診断されて通院が決定してしまったが、スタンドの事をばらすわけにもいかない。いざとなったらスタンドを巧くスキルとして偽るしかないだろう。

 俺もまだまだ未熟よのう、などと考えながら、奏丞は早速託児室を探す事にする。

 その為にもまずは地図があった場所に向かおうと待合室を通り抜けようとして……

 

「『まったく』『なんのためだなんて』『みんな大人のくせに』『的外れだよねえ』」

 

 どこかで見覚えがある女の子と男の子が二人並んで座っていた。

 

「『人間は無意味に生まれて』

 『無関係に生きて』

 『無価値に死ぬに決まってるのにさ』」

 

 黒神めだかと球磨川禊で間違いなかった。

 

「(ここで介入するのは転生者、だけど自分はよく訓練された転生者。死亡フラグなんて華麗にスルーしてやるぜ――)」

「『きみたちもそう思うだろう?』

 『えーと』『めだかちゃんと』『奏丞ちゃん?』」

「…………」

 

 ……おかしいな、何か自分の名前とよく似た言葉が聞こえたぞ?

 

「『ひどいなあ』『無視しないでよ奏丞ちゃん』『きみだよきみ』」

 

 右を見る。

 左を見る。

 前後を確認してついでに上下も見る。

 奏丞という名前の人間は、いない。

 

「……俺?」

「『うん』」

「えぇー……」

 

 あれほど通行人Eの如き一般人に徹していたのに話しかけられてしまった。どうやらこの溢れんばかりの凡人オーラが目に入らないらしい。チクショウ。

 

「『めだかちゃん』『きみもきっといっぱい人を終わらせてここに来たんだよね』

 『いいんだよそれで』

 『僕たちはなにをしてもいいんだ』

 『ね』『奏丞ちゃん』」

「……いや、突然そんな哲学的な質問しないでくれ。俺はお前が期待する様な回答なんてできないぞ」

「『なんだ』『肯定してくれないの?』『まあいいけど』『でも後学のためにも』『きみの考えを聞かせてよ』」

 

 禊だけでなくめだかまで奏丞を見ている。

 まいったなー、と思いながら、奏丞は一つため息をついて話し始めた。

 

「意味も関係も価値も、そいつが人生の中で自分で見つけていくもんだろ」

「『えー』『そんなものなんてないのに?』」

「そりゃ今のお前にはそう思えるかもしれないけどよ、案外人生ってのも馬鹿にできないぞ?

 なんせカワイイ女の子と付き合えるのも、美味い料理を食えるのも、好きな漫画を読み漁るのも、全部生きてる間にしかできない超期間限定のイベントだからな。

 死んだら寝る事しかできないぞ」

「『ふーん』『きみはそんな事が人生の意味になると思うんだ?』」

「そいつがいいならそれでいいんじゃねーの?

 愛し愛されたいとか世界中の美味い物を食い尽くしたいとか人の役に立ちたいとか命がけのスリルを味わっていたいとか。人の価値観なんて人それぞれだし、そいつの人生の意味なんてそいつ自身が勝手に見つけて決めればいい。

 そうやって生き抜いて、死に際に『悪くない人生だった』って思えたなら、きっとそいつには価値のある人生だったんだろうよ」

「『ふーん』」

 

 ……さて、語りすぎて恥ずかしくなってきた。二十年も生きてないくせに、何を人生語ってんだ、と。

 

「(認めたくないものだな、若さ故の過ちというものは……)」

 

 穴があったら入りたかった。

 

「『まあ』『そんな考えもあるよねえ』『僕は愛とか美味しいものなんか興味ないけど』」

 

 意外にも禊は奏丞の意見を頭ごなしに否定するわけではなかった。

 しかし。

 

「『でもさ』『それって結局は幸福(プラス)の考え方だよね?』」

「……そう言われちゃ返す言葉がないな」

 

 この考え方は確かに禊が言う通り、幸福でポジティブな考え方だろう。

 例えばとんでもなく不運な生まれで、絶望にまみれた人生を歩んだとして、奏丞はその時でも同じセリフを言えるとは思っていない。

 しかし、厨二力を全開にしたとはいえ、奏丞はその全てが間違っているとも思わなかった。

 

「『でも面白い話だったね』『うーん』『だけど気になるなぁ』」

「……何がだ?」

「『もし幸せなきみが突然理不尽な不幸に直面した時に』『同じことが言えるのかなあ?』」

 

 ――そう言えばきみのおばあちゃんも来てるんだっけ?

 

 そう禊が言った瞬間だった。

 ゾクリ、と。

 奏丞の背中を冷たいものが走っていった。前世でもかつて感じた事のない感覚だった。

 好奇心に満ち満ちた禊の表情を見て、何が言いたいのか一瞬で理解する。

 

「(こいつ、施設の皆に何かする気か!?)」

 

 口は悪いがなんだかんだで気に掛けてくれる施設長。

 いつも遊びに誘ってくれる三人の先輩達。

 奏丞にとって彼らは大切な家族だったし、彼らに何かあったらそれはこの上なく辛い事だろう。自分のせいで巻き込まれたというなら尚更だ。

 

 ……上等だ。

 

「何が言いたいかは知らないけどよ、妙なマネはするんじゃねーぞ」

 

 これもまた、かつてない感覚。

 

『守らなければならない』

 

 その感覚が、奏丞にある決意をさせる。

 奏丞は椅子に座る禊の前まで歩いて行った。手を伸ばせば容易に届く距離まで(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「『妙な真似?』『僕には想像もつかないけど』『例えばどんな事かな?』」

「……そうだな、もし俺んとこに美味しい饅頭でも送られて来た日には怖くて夜も眠れなくなりそうだ」

「『ははっ』『面白いこと言うね』『なんだかきみと友達になりたくなってきたよ』」

「そいつは光栄だな。でもその楽しみは十年後ぐらいにとっておくとするよ」

 

 奏丞と禊がそんな事を言いあっていると。

 

「球磨川くーん、五番検査室に入ってくれるー?」

「『僕の番だ』『もう少し話してみたかったのに』『残念だなあ』」

 

 禊は椅子から降り、ぬいぐるみを引きずりながら歩き出す。

 

「『でもやっぱりなんの意味もないんだけどね』

 『だって世界には目標なんてなくて』

 『人生には目的なんてないんだから』」

「…………」

 

 そう言って去って行く禊を見送ってようやく、奏丞はスタンドを戻した(・・・・・・・・・・・)

 天国への扉(ヘブンズ・ドアー)

 相手を本に変えて過去を読み、更に命令を書き込む事ができるスタンド。

 

『宇城奏丞とその身内に攻撃する事はできない

この決まりはなくさないしなくさせない』

 

 禊に近づいた時にそう書き込んだのだ。

 操る事に罪悪感はあったものの、禊が油断ならない相手という事はよく知っていた。だからこそ、奏丞は「しておくべきだ」と判断した。

 

「……さっさと託児室に行くか」

 

 いつまでも立ち止まっていても仕方がない。

 奏丞は禊が去った方向に背を向けて歩き出そうとして――

 

「待て」

「ぐえっ」

 

 襟首を引っ張られ呻き声を出した。

 

「げほっ! げほっ! おまっ、殺す気か!?」

「あ、ああ、すまない。ちょっと貴様に聞きたい事がある」

「聞きたい事ぉ?」

 

 奏丞と禊が話している間、終始空気だっためだかだった。

 その聞きたい事とやらも、原作を読んだ奏丞には大方の予想はついた。

 

「貴様は人生の意味は自分で生きて見つけろと言っていたな。ならば私が生きている意味も見つかると言うのか?」

「見つかるんじゃね?」

「…………」

 

 あまりに投げやりでアッサリした返答に、一瞬言葉を詰まらせるめだか。

 

「……しかし私はあやつの言う通り、多くの人を終わらせてきた。そんな罪深い私が生きる事にどんな意味がある?」

「知るか」

「…………」

 

 また、絶句。

 

「いや、当たり前だろ。俺達は初対面で、俺もお前も互いの事は何にも知らないんだぞ(嘘)。仮に俺が今『お前の人生はクロッケーに捧げるべきだ』って答えたとして、その言葉にどんな説得力があるんだ? 俺はお前の運動能力どころか人柄だって知らないってのに(大嘘)」

「むしろ何故クロッケーを例にしたのかがわからない」

「……だけど、とりあえず聞いてみるって姿勢は悪くない。

 探し物ってのはそうやって探してるうちに、案外簡単に見つかっちまうもんだぜ」

 

 今ここであの言葉(・・・・)をめだかに贈る事は容易い。しかし何のやりとりもしていない奏丞が言った所で、めだかの心には響かないだろう。やはりそれを言うのは()の役目なのだ。

 そして運がいい事に、彼が今この病院にいる事が既にわかっている。

 

「よし、俺もちょうど暇だったし、お前の生きる意味って奴を探してみようぜ。まずは手始めにこの病院内からだ!」

「いや、ちょっと待て。私はこれから診察があるんだが……」

「今の診察とこれからの人生、お前はどっちが大事だ!?(どーん)」

「むぅ……! わかった、そういうことなら私も付き合おう!」

「(うわぁ、この子チョロいわぁ……)」

 

 こうして幼女をたぶらかした奏丞は、まんまと託児室まで連れて行く事に成功した。

 二人で中に入ってみれば、たくさんの玩具に囲まれた子供が一人いる。フードを被ってこちらに背を向けているので、その顔は見えなかった。

 

「先客がいたな。挨拶ぐらいはしておこうぜ」

「そうだな。

 おい、そんな単純なパズルに何をてこずっておる? 貸せ、私がやってやる」

「うん、できれば最初は『こんにちは』とか『はじめまして』って挨拶をしような」

「……? きみたち誰ー?」

 

 そんな奏丞の注意を余所に、子供がいじっていた知恵の輪を受け取っためだかは簡単にそれを解いて子供に返した。

 

「うわあっ、すごいねきみ! どうやっても解けなかったのに! ありがとう! すっごくうれしいよ!」

「……礼には及ばない。私にとっては取るに足りないことだ」

「じゃあ、じゃあさ! これも解いてよ!」

「……いいだろう」

「あ、もしかしてきみもこんなの解けるの!?」

「俺か? よし、任せとけ。たかが子供向けパズル、あっさり解いて……………………うん、今回はお兄さんじゃなくてこっちの女の子に任せてみような」

「きみはおにーさんなの?」

「細かい事は気にしない」

 

 子供と二人でパズルを解いていくめだかを見守る。簡単な物も、幼児向けとは思えない様な物も関係なく、めだかは部屋にあった知育玩具をあっという間に全て解いてしまった。

 

「早ぇー……」

「うわあああ! 全部本当に解いちゃった! すごいすごいすごい! きみはすっごくすごいや!!」

 

 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ様子をめだかは冷めた目で見る。

 

「……すごくなんかない。それにすごくたって何にもならない。

 私が生きていることに、私が生まれたことには、何の関係もないのだから」

「えー、そうかなー? そんなことないと思うけど?」

「……だったら私に教えるがよい。私は一体何のために生まれてきた?」

「あはっ! そんなことは簡単だよ。会ったばかりの僕をこんな嬉しい気持ちにしてくれたきみなんだ」

 

 子供が被っていたフードがずり落ち、花が咲く様な笑顔が見えた。

 

「きっときみはみんなを幸せにするために生まれてきたんだよ!」

「!!」

 

 雷に打たれたかの様な衝撃に、めだかは目を見開いた。多くの知識を得てなおわからなかった答えは、この少年によってアッサリと見つかってしまったのだ。

 めだかにとって、それはまさに天啓の様な言葉だった。

 

「……な? 探してみると案外簡単に見つかるもんだろ?」

「……ふふ、そうだな。まさかこんな所に転がっていたとは」

「ねえねえ、もっと一緒に遊ぼうよ!」

「おう、いいぞ。パズル系以外ならなんでもやってやんよ」

「ならばトランプでもしてみるか? パーティゲームには最適だと聞いている」

「いいよー! やろうやろう!」

 

 転生して二年、奏丞に初めての友達ができた日の話である。

 





めだか「善吉、私と結婚してくれ!」
善吉「えー、それは無理だよおー」
めだか「!? な、ならば奏丞は!?」
奏丞「寝言は寝て言え幼女」
めだか「!!?」


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