俺が転生して最初に見た物は、天井から吊り下げられたオモチャ(『メリー』とか言った気がする)と、こちらを上から覗き込む初老の……いや、中老くらいの見知らぬ女性の顔だった。
最初はかなり驚き、お前誰だよと混乱しかけたが、これまでの経緯を思い出して自分は転生したのだと思い至る。
となると俺は赤ん坊になったのかと思い、試しに声を出してみるが、「あー」とか「うー」なんて声しか出ない。たぶん喋るのは無理。
身体にかけられた毛布から手を出して掲げてみると、元の自分とは大違いな小さい手が視界の端から伸びて来た。うむ、やはり俺は赤ん坊になったらしい。
ならば目の前の女性は……まさかマイマザー? ……え、ちょっとお歳がアレ過ぎじゃない? いや、確かに3、40年前は美人だったかもしれないけどさ……うーん?
「なんかムカつく事考えてそうなガキだねぇ」
……おっと、今口汚く罵られましたよ?
驚いている俺を暫定母がヒョイと抱き上げる。
「ここが今日からあんたが暮らす場所だ。ほら、他のガキ共にも挨拶しな」
母がそう言ってしゃがみこむと、俺の目に三人の子供が映った。真下に居たのでわからなかったらしい。灯台もと暗しという奴だった。
彼らもこの女性の子供なのだろうか。しかし全員顔がまったく似ていないのは何故?
「おおー、ちっちゃいなー」
「わ、ほっぺたがすごいプニプニしてる」
「にゃあ……いい感触」
「あぶばー……(いてっ、いてっ、つつくなつつくな)」
三方向から指でドスドスとつつかれる。三人は子供だが今の俺よりはずっとでかい。しかも手加減ができていないので地味に痛かった。赤ん坊なので抗議の声も言葉にならず効果無し。
ああ、俺はこのままハゲワシに群がられる死骸の如く果ててしまうのだろうか。なんて短い新しい人生だったんだ。
「興味があるのはわかるけど落ち着きな。こいつの頬を突き破る気かい」
物騒な事を言われたが、それを聞いた子供達は渋々つつくのをやめた。
デッドエンドは回避できたらしい。
「……この子の名前、なに?」
「名前かい? そうだねえ……」
「あうー(え、決めてなかったの?)」
決まってなかったらしい。
そして黙考する事二分弱。
「よし決めた。あんたの名前は
いい名前だろう?」
「いいとおもうよ! よかったなソースケ!」
「これからよろしくね」
「……よろしく、ソースケ」
カップラーメンより早く名前ができてしまったけど、確かにいい名前だと思う。
やるじゃないか母よ。
「ばーさん、おれにも持たせてよ!」
「あんたみたいな口が悪いガキには任せられないね」
「えー、ケチ!」
「あっ、じゃああたしに持たせてよ!」
「にゃあ、わたしも……」
ここは騒がしいけど暖かいな。
転生したばかりで不安だらけだったけど、ここならきっと楽しくやっていけると思う。
こちらこそ、これからよろしくな。
…………ところでそろそろマイファーザーに挨拶したいんだけど、どこにいるんだ?
☆ ☆ ☆
俺がこの世界に生まれ、『
ハイハイしかできなかった身体は二本足で走り回れるくらいに成長したし、周囲の環境についても色々と理解できた。
これはかなり早く気付いた事だが、実は俺が暮らすここは親がいない子供を育てる、所謂児童養護施設という奴だった。そして最初に会ったあの人は母ではなく施設長で、なんと一人でここを経営していたのだ。
とにかく俺は孤児という事になる。
俺捨てられたの? と思ったが、調べてみると俺には最初から親がおらず、どうやら赤ん坊となって直接この施設の門前に送られたらしい。
これは転生と言うのか? とは思ったものの、そこはどうでもいい。
肉親だろうと肉親じゃなかろうと、もう俺にとったら皆は新しい家族だ。この境遇に文句などない。
そして能力に関してだが、貰ったスキル(厨二力全開で『
いや、存在しているのは確かなんだけど、実際に効果を確認できたわけではないのだ。
それもそのはず、そもそもこのスキルはスキルを防ぐスキルだ。つまり干渉してくるスキルが無い以上、目に見えた効果など確認のしようがないのだ。
まぁ、まさか使えないなんて事はないだろうし、追い追い確認していけばいいだろう。
さて、それよりも問題はスタンドの方だった。憧れのスタンドが本当に使えるかどうか。
結論から言おう。
めっちゃ使えた。
そりゃもう死ぬ程使えた。
スタープラチナでパラパラ(古っ)だって踊れた。
というかテンション上がり過ぎて死ぬかと思った。
なにせ好きなだけオラオラとかガオンとかできるんだ。これ以上の幸せはあるまい。
精神はともかく、流石に身体が幼過ぎたのかほとんどのスタンドが少々縮んでいたが、それでもかまわなかった。
『The Book』で自分の経歴を調べる分には問題なかったし、小さくなってますます普通のクワガタっぽくなった『
時止めも一応できたが、残念ながら止まったのはほんの一瞬だった。どうやらこれには慣れが必要らしい。どんな武器でも技でも使えるけど、熟練度は自分で上げてネ、という事だろう。
なのでこの二年間、しょっちゅうスタンドを使っていたんだけど……そのせいで新たな問題が発生してしまった。
なんとばーちゃん(施設長の事。ばーさんと言うと怒る)にスタンドを使っている所を何度も見られていたのだ。いや、スタンドは普通見えないので、正確には触らずに物を動かしている所をだけど。
しかしどっちにしても異常な事には違いない。最初のうちは錯覚かと思っていたらしいが、何度も見ているとそうも言えなくなり、この度めでたく俺は箱庭総合病院とか言う病院で検査を受ける事となった。
……完全に原作組遭遇フラグです本当にありがとうございました。
いや、実の所俺は原作介入についてはどうでもよかった。
確かにスタンド能力という武器ならあるが、それを使って「俺ww最ww強wwフwwヒwwヒww」とかしたかったわけじゃない。
それなりにチートな能力を持っているとは言え、無敵というわけでもないので、あの死亡フラグ満載の世界に突入するとなったら二の足を踏むのが現状だった。
かと言って検査を逃げるわけにもいかず、悩んでいる間についに病院に来てしまった。
「待てよ、少なくとも黒神めだかと球磨川禊の邂逅は一度だけだったハズ。最も死亡フラグが建っている一日がドンピシャで今日なわけがない!」
……そんな楽観的予想が見事にはずれたのは、診察を終えて知り合いの所へ挨拶回りに行っているばーちゃんを待とうと託児室へ向かう途中の事だった。
「『まったく』『なんのためだなんて』『みんな大人のくせに』『的外れだよねえ』」
ボロボロのウサギのぬいぐるみを挟んで座る、どこかで見覚えがある女の子と男の子がいた。
「『人間は無意味に生まれて』
『無関係に生きて』
『無価値に死ぬに決まってるのにさ』
『きみたちもそう思うだろう?』
『えーと』『めだかちゃんと』『奏丞ちゃん?』」
……とりあえず俺に話しかけるのは的外れだと思うぜ。
善吉「奏丞、入学式が終わったらどうするよ?」
→ 「黒神めだかに会おう!」(めだかボックスルート)
「『ストレイキャッツ』に行こうぜ!」(迷い猫オーバーランルート)
奏丞「(やべぇ、ちょっと迷う……)」