目高箱と幽波紋!!   作:人参天国

16 / 17

遅くなりました!
そしてこれからも遅くなるでしょう(殴

いよいよスタンドの出番も増えて来ました。やっぱりバトルパートでは使い所が多いですね。
しかしこんなもんじゃまだまだ満足できねぇぜ!


(追記)
もがなちゃんは昔ぎゃんぶらーだったとわかったので少し修正しました。
綺麗なカラダだと思っていたのに汚れていたなんて……幻滅しました。那珂ちゃんのファンやめます。



第十六話:風紀委員長と幽波紋!

 

「え? 雲仙委員長に届け物? 音楽室に? 私がですか?」

 

 同僚にそう聞き返した少女の名は鬼瀬(おにがせ)針音(はりがね)。彼女は箱庭学園の治安を守る、風紀委員会で働くメンバーの一人だ。生真面目な性格ではあるが、『手錠メリケンの鬼瀬』なんて異名を持つ通り、手錠をメリケンサック代わりに殴りかかるという鉄拳制裁主義も掲げている。過去に生徒会と争ったことがあるが(どいつもこいつも服装が校則違反だった)、めだかの露出癖を矯正しようとしたのが運の尽き……これまで規則を厳守してきた彼女が、最終的に胸元が大きく開いためだかの制服を着るという屈辱を味わうこととなった。何がとは言わないが天と地ほどの差があったので、当然服はだぼだぼだった。

 

「ええ、私達は他に用事がありまして……このタオルをお願いします。それに近頃あなたはたるんでいるようですからね。一度雲仙委員長の仕事振りを拝見して気を引き締めた方がよいでしょう」

「あー……そりゃまーお気遣いどうもありがとうございマス!」

「そうすねないでください。きっとためになりますよ」

 

 そう言って語るのは、『箱庭学園十三組』。選りすぐり中の選りすぐり、エリート中のエリート、例外中の例外、人外中の人外が集まる、登校義務さえ免除された特別待遇にも程がある究極の特待生クラス。

 

「雲仙委員長は昨年弱冠9歳にしてその十三組に選抜された、学園始まって以来のモンスターチャイルド。彼の実行する正義は、まさしく風紀委員会そのものです!」

 

 

 

 

 

「……とはいうものの、私はここ最近生徒会のせいで失態続き。特にお咎めがあったわけじゃないんだけど、雲仙委員長とはちょっと顔を合わせ辛いのよね……」

「おや、鬼瀬同級生ではないか。奇遇だな、どこへ行く?」

「やっほー鬼瀬。タオル抱えてどこ行くの?」

「あ……うわっ。黒神さん……と不知火さん(サイアクの二人に会ってしまった!)」

 

 黒神めだかと不知火半袖、以前痛い目に合わされた二人だ。しかも片方はなぜか鼓笛隊の服装をしているし、もう片方は飴を齧っている。どちらも校則違反だ。

 しかし、今の針音には仕事がある。なのでとりあえずここは関わらないでおこう。決して逃げるワケではない。そう、決して。

 

「わ……私はその、音楽室へ行くところなので。それじゃあ……」

「音楽室? 奇遇だな、私も今向かっている。生徒会からも既に奏丞を派遣しているぞ」

「…………」

「……はい?」

 

 音楽室にたどり着いた三人は異様な光景を目にした。――壁にドでかい穴が開いている。慌てて中に入ってみれば、向かい合う人間が二人。雲仙冥利と宇城奏丞だ。

 

「……おー、鬼瀬ちゃんじゃん☆ タオル持って来てくれたんだ、サンキュー。これから(・・・・)使う予定だから、それ持っといてくれや」

「あ、は、はいっ」

「よう不知火。そしてめだか、お前はまた奇抜な恰好しやがって。……音漏れは防音設備がボロかったせいだった。とりあえず業者呼んで工事だな」

「ふむ、そうなるとあとはオーケストラ部の練習時間をすり合わせねば。しかしこの時間は彼らが練習しているはずだが」

「全員帰した。アブネーからな」

「ならば良い」

「(いやいや、何も良くないですって! なんなんですかこれ?! なんで雲仙委員長と宇城くんが睨み合ってるんですか! しかも……)」

 

 風紀委員会は常に風紀を乱す輩と戦ってきた。だから危険物を持ち込んだ相手はいくらでもいたし、その度に針音は愛用の手錠メリケンを掴んで立ち向かってきた。しかし、この音楽室に見られる風景ときたら、それどころではない。

 

「(いったいなんなの? この()は!? いったいどこから持って来たの!?)」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 時間は少し遡る。

 この日、生徒会はある案件の解決に乗り出していた。ここ最近、オーケストラ部への苦情が度々目安箱に投書されているのだ。どうやら利用されている音楽室の防音設備にガタがきているようで、そのせいで大音量が漏れ出ているらしい。そこで奏丞は件の音楽室に向かい、どの程度の問題が起きているのかを調べるよう命じられたのだ。ちなみに命じためだかは準備を終わらせてから来るらしい。ぶっちゃけ衣装の用意のためなのだが。

 

「というわけで部長サン。周りからの苦情も多いんで、これから解決のために協力してもらいますよ」

「えーと、その、オーケストラというのはそもそも大音量で演奏するものなので、ある程度周りに迷惑をかけてしまうのも……」

「ああ?(ギロッ)」

「はいっ、喜んでキョーリョクしますっ」

「(ぶ、部長。いつもみたいに言い包めてやるってさっき……)」

「(無理無理! 彼絶対カタギじゃないって! めちゃ怖い!)」

「(怖くて悪かったなチクショー)」

 

 190センチはある大男に凄まれるのだ、そりゃあ怖い。

 

「まあ設備の問題もあるので、大したペナルティにはならないスよ」

「それは、ありがたいです、ハイ」

「じゃあとりあえず、どの程度音が漏れているのか聞きたいので、短めのやつを一曲演奏してもらえますか。俺は外で聞かせてもらうんで」

「はいっ、わかりました! 皆聞いてたね! 準備して準備!」

 

 音楽室を出た奏丞。しばらくすると演奏が始まったが……なるほど、確かにこれはうるさい。全然防音ができていないようだ。

 

「これは駄目だな。エコーズを遠くまで飛ばしてみても、まだ音が聞こえてくる。こーなると工事でもするしか……」

「よお、宇城くん☆ オケ部の様子はどうカナー?」

「ん? 誰かと思えば雲仙先輩じゃないですか。なんでこんな所に?」

「いやー風紀委員会(ウチ)にも苦情(チクリ)があってよ。こうしてオレ自ら対処しに来たわけよ」

「そーすか。仕事が被っちまったみたいですね」

 

 雲仙冥利は風紀委員長としてかなりの有名人だ。年は子供で体格も小さいが、彼の影響で風紀委員の取り締まりは過激になったというし、何よりめだかと同じ、登校している数少ない十三組の生徒。奏丞も遠目にその姿を確認したことがある。

 

「あーあー、うっせーなーしっかし。こんな騒音出してよく生きてられるもんだねー。今まで(しか)ってくれるヤツがいなかったのかよ」

「まあうるさいと言えばうるさいスね。でも演奏自体は見事なもんじゃないですか」

「いやいや、これは紛れもない雑音だ。これはオレの出番だわ。……ところでテメェ、頭がたけーゾ♪」

「!」

 

 そう言って、冥利は突然腕を振るい、奏丞に攻撃を放った!

 

「ケケケ、まずはひと……り?」

 

 しかし妙なことに、奏丞は倒れるどころか痛がる様子もなく、変わらず立っている。

 

「おっかしーな。外しちまったか? 手元が狂ったかね」

「……もーほんと、こういうトコだよ。どいつもこいつも気軽に暴力沙汰に持っていきやがる」

「あん? ゴチャゴチャ何言ってんだ?」

「大した球速(・・)だがよォ……弾速(・・)ほどじゃねーな」

 

 奏丞が冥利の前でコブシを開いてみせた。その手の中にあったのは……スーパーボールだ。冥利が放ったはずの。

 

「なんだと?」

「説明書をちゃんと読んどいてくださいよ、先輩。こーいうのは『人に使っちゃいけません』って書いてるもんだぜ」

 

 体格の小さい冥利は、主な武器としてこのスーパーボールを使っている。勿論ただのスーパーボールではなく、魔改造されたスーパーボールだ。反射力、反発力ともに凄まじく、どんな角度でも、どんな身長差があろうとも、跳弾によって攻撃できるわけだ。

 ……しかし、奏丞のスタンドの多くは銃弾にも容易に反応できるほどのスピードを持つ。よって、この程度の攻撃ならば十分に対応可能。

 

「……面白れー。中途半端な異常(アブノーマル)とは聞いてたが、初見で、しかも不意打ちされながら自慢の手品を見破るとは。流石のオレちゃんも度肝を抜かれたぜ!」

「アンタに攻撃される謂れはないんだが」

「いいや、残念ながらあるんだわ。何せテメーは、下っ端ながら生徒会の関係者だからだ」

「そりゃまた、クソみたいな理由スね」

「だろ? そんな下っ端のクソが……どこまで抵抗できるか見せてみな!」

 

 今度は両手いっぱいのボールを投擲する。壁という壁に反射しながら、あらゆる角度から奏丞に迫る。

 

「フン!」

『おらおらおらおらおらおらおらおらあっ!』

「!」

 

 そして、その全てをスタープラチナがキャッチしてみせた!

 

「スーパーボールを使った全方位攻撃。反射角を計算しつくすのはクレイジーと言うしかねーが、攻撃方法としちゃ案外月並みな発想だぜ」

 

 先ほどと同じように、両手に溢れたボールを見せつけた。奏丞が身動ぎしたようには見えなかったのが更に異常。

 冥利は自身が冷や汗を流しているのを自覚した。

 

「……理事長もついに耄碌したみたいだぜ。何が紛い物だ。マジモン(・・・・)じゃねーかよ、コイツは!」

「どーやら陰で人のこと好き勝手言ってくれてるみたいだな。……ところで先輩、俺も手品は好きだぜ」

「…………」

 

 そう言って、奏丞はボールでひょいひょいとお手玉をし始める。手元ではボールがいくつか出たり消えたりしているようで、なるほどそれらしい手品ではあるが……

 

「……ケッ、どんなタネかと思えば子供騙しなミスディレクションの繰り返しじゃねーか」

「おっと流石先輩、難なく見破るかぁ?」

「当たり前……だ……?」

 

 一見消えたと思えるボールの行方も追えていた冥利は、ふと気付いた。本当に消えている(・・・・・・・・)ボールがあると(・・・・・・・)。一つ、また一つと、ボールはだんだん奏丞の手元から消えていく。やがて最後の一つになったボールを奏丞が両手で挟み込み、それで全てが消えてしまった。

 

「……どジャアァァ~~ん」

「どういうこった! オレはタネを見破ったハズだ!」

「(手先の器用さは結構自慢だったんだけどなぁ、自信なくすぜ……)」

 

 スタンド無しで手品するつもりだったが冥利相手には通じなかったので、格好を付けるためにスタンドを使った次第だ。裏事情カッコワルイ。ちなみにスーパーボールは何かと便利そうなので、このまま拝借する予定だ。

 

「とまあ、からかうのはこれくらいにして。曲もとっくに終わってることだし、ここは引いてくださいや。オケ部のことは生徒会が責任持って解決しときますんで」

「……はぁ~、オレもつくづく情けない先輩だぜ。後輩になめられてちゃあ立つ瀬がないっつーか」

「…………」

「ここは一つ、先輩の威厳を見せつけるしかねー……なっ!!」

「そりゃ引くわけねぇか!」

 

 冥利が飛び蹴りをかましてきた。しかし勢いや体格差を見るに、大したダメージはないだろう……とは奏丞は考えない。

 

「死んどけや!」

「チッ」

 

 奏丞がその場を飛び退く。冥利の蹴りは狙いを外れ、壁に命中したのだが。

 

「ムッ!?」

 

 ドンッ、という爆音とともに、その壁がぶち抜かれてしまった。奏丞は『猫草(ストレイ・キャット)』のスタンドを使い空気の盾を展開。飛散する瓦礫をガードした。

 

「ケケケ! こーんなプリティなお子様の蹴りを慌てて避けるなんてよォ! 図体の割には臆病過ぎるんじゃねーのぉ!?」

「もーちょい学校は大切に扱えやクソ風紀!」

「音楽室がぁ?! ちょっと宇城くんどーなってるんだ!」

「オケ部の皆さーん。本日は音楽室が使用できませんので、私物だけ持ってさっさと帰りやがれ!」

「と、突然そんな」

「この壁みたいになりたくないなら駆けあぁぁああし!!」

「あわわわわ……皆撤収! 撤しゅーう!」

「「「はいいいい!!」」」

「馬鹿かテメーらは。オレの虐殺(おしごと)に付き合ってもらわねーといけねーのに、逃がすわけねーだろ!」

「エコーズ ACT2! GO!」

 

 攻撃しようとする冥利の足元に、エコーズが『しっぽ文字』を投げつける。

 

「まとめて殺……?!」

 

 地面に貼り付いた『ピタリ』という文字を冥利は踏んでしまった。触れれば実感となるエコーズの文字に触れた冥利は、体が『ピタリ』と止まって動かなくなったのだ。

 

「か、体がまったく動かねェ!? クソが、今度はどんな手品だよ!」

「今のうちにさっさと行け!」

「「「ひいいい!?」」」

 

 結局、冥利はオケ部員を全員見逃すことになった。奏丞にいいようにあしらわれ、苛立ちは募るばかりだ。

 

「(腹立つぜ! 天下の風紀委員会委員長、雲仙冥利サマがこのアリサマかよ! 体が動いたら間髪入れずに攻撃をブチ込んでやる!)」

「(体が動いたら間髪入れずに攻撃をブチ込んでやるってツラだな。無理もねーが、相当苛立ってるみたいだ。だがそれをされると、ちっとばかしマズい)」

 

 迎撃をエコーズで行うにしろ、他のスタンドで行うにしろ、まずは『しっぽ文字』を回収しなくては迎撃に移れない。それには少し時間がかかるので、速攻で来られると対応できないのだ。

 

「(このままオサラバして、離れた所で解除できたら満点なんだが。後で来るめだかに丸投げはできないな……)」

 

 そこで奏丞は音楽室に入り、敢えてゆったりと椅子に座り込む。冥利の気をそらすために、ここは冷静な雰囲気を作ってトークで時間を稼ごうという作戦だ。

 

「さて、雲仙先輩。さっきも言った通り、アンタに攻撃される謂れはない。あのオケ部の連中だってそうだ。いくらか人様に迷惑をかけちゃあいるが、別に殴られるほど悪質でもなかったはずだ」

 

 そう切り出しつつ、エコーズを解除した瞬間。落ち着くどころか、逆に冥利は奏丞に向かって一直線に走り出した!

 

「ケケッ! 演出ゴクローサン! 『間髪入れずに攻撃されるとマズい』って感じがしてたぜ! 宇城奏丞!」

「なんだとッ」

 

 エコーズはまだ文字を回収できていない。スタンドの防御はできそうにない。冥利は腕を振りかぶり、スーパーボールを投げようと――

 

 

「……仕方ねー、だったらなんとかするしかねえよなぁ~」

 

 

「ハッ!?」

 

 冥利には、奏丞が一瞬で懐から紙切れを取り出し、それを広げたように見えた。次の瞬間、冥利は仰天する。

 

「どっから湧いて出た……?! このジープ(・・・)は!?」

 

 互いを遮るように現れたその巨体は、ゴッツゴツのオフロード車。流石に冥利も攻撃を中断せざるを得ない。

 

「コイツは完全に違う! あの宗像形……あのヤローは『技術で身体中に暗器を隠してる』。そういうのとは全然別格だ! 『超越する』何かを身につけているヤツだ!」

「(壁にもなって出鼻もくじける物つったらジープ(これ)ぐらいしかなかったぜ。真黒さんに貰ったヤツだが、怖くて値段は知らないし知りたくない……)」

「(どーすっかね。タネがわからない以上、ここでカードを切るべきか……?)」

 

 奏丞はいざという時のため、エニグマによって色々な物を紙にして持ち運んでいるのだ。このジープもその内の一つである。

 無事にスタンドは引っ込められたし、あとはめだかが来るのを待てば……と思っていたところで、ちょうどめだか達がやって来る。

 

「……おー、鬼瀬ちゃんじゃん☆ タオル持って来てくれたんだ、サンキュー。これから使う予定だから、それ持っといてくれや」

「あ、は、はいっ」

「よう不知火。そしてめだか、お前はまた奇抜な恰好しやがって。……音漏れは防音設備がボロかったせいだった。とりあえず業者呼んで工事だな」

「ふむ、そうなるとあとはオーケストラ部の練習時間をすり合わせねば。しかしこの時間は彼らが練習しているはずだが」

「全員帰した。アブネーからな」

「ならば良い」

 

 さて、めだかと冥利の二人だが。実は面と向かって話したことはない。

 

「雲仙二年生。私の友人と何やら揉め事があったようだが、どういう経緯なのか貴様の口から説明してもらいたい」

「俺は悪くねー」

「奏丞は黙っていろ」

「ひでぇ……」

「あひゃひゃひゃ! どーせ話がややこしくなったのは宇城のせいなんでしょー? ゲロっちゃえゲロっちゃえー!」

「バッカお前、なんでも俺のせいと思ったら大間違いだぞお前」

「……と、彼は言っているようだが」

「いやなに、ちょっとした立場の違いってやつよ♪」

 

 そう言って冥利は近くの椅子に座り込む。

 

「オレ達は風紀委員会、オマエらは生徒会。厳罰で不正を正したいオレ達と、なあなあですませちまうオマエら……水と油ってやつだな」

「校内を取り締まる貴様達には、日頃私も感謝している。見たところ随分不穏な空気を感じるが、私達は協力することこそあれ、対立する理由はないはずだ」

「対立する理由はない? ケケッ、ケケケケケ! だからだよ! テメーのような生温い平和主義者のせいで、犯罪者どもは思い上がってやがる! 『理由があれば赦される』ってなァ!」

 

 冥利は腹立たしそうに腕をふるい、傍にあったデカいコントラバスを粉砕した。

 

「話は聞かねぇ! 事情も知らねぇ! ルールを破ったヤツには厳しく罰を! そんなオレのポリシーに、テメーは敵対してんのさ! 『やり過ぎなけりゃ正義じゃねえ』!」

 

 挨拶代わりとばかりに、めだかに向かってスーパーボールを一発放つ。跳弾を繰り返して、めだかの死角から攻撃したが。

 

「悪いな、雲仙二年生!」

 

 めだかはボールを掴み取ってみせた。

 

「――貴様から攻撃される理由がない。ゆえに、攻撃を受ける理由もないッ」

「……あーらら。日に二回も見破られるたぁ、いよいよ今日は厄日だね」

「良お~しよしよし、ちゃんと防いだな」

「なーんで宇城が満足そうなのさ?」

「いやぁ、色々と口出しした甲斐があったなーと」

 

 ここで『避ける理由がない』とか言ってたら説教してやったところだ。

 

「やめてください委員長! いくら気に入らないからと言って、生徒会と敵対する理由にはならないでしょう!?」

「そうだそうだー、いいこと言ったぞ鬼瀬ー。私情を挟むなー」

「理由ならあるじゃねーか鬼瀬ちゃん。いつの時代だって正義は聖者を弾圧するモンだろ?」

「ふざけないでください!」

「そうだそうだー、少なくとも現代日本でケーサツが宗教弾圧なんてしてねーぞバーカ」

「テメーさっきから調子乗ってんじゃねーぞ?!」

「……とにかく、私と貴様では主義が違うかもしれん。だがそれも話し合いで解決できるレベルだろう」

「チッ、とことん上から目線だな黒神! だっけどもうそんなレベルじゃねーとオレは思うぜえ? なんせ生徒会潰しのための刺客を三名、既に放っちまってるんだからなあ!!」

「!!」

「テメーみたいな奴にはこういうのが一番効くんだろ? オラ、もっぺん同じコト言ってみな。それができたらベタ褒めしてやんよ!」

「……奏丞」

「あいよ」

「ここは任せたぞ」

「任せろ。お前もな」

「任せろ!」

「ああ!? なに通じ合ってんだよテメーらはよ! 今からこっから間に合うワケねーだろが! ムダな悪アガキしてんじゃねーよボケ!!」

 

 走り去ろうとするめだかの背に複数の攻撃を放った冥利だが……なぜかあらぬ方向にある教卓がボールで破壊される。

 

「なッ……またテメーの仕業か宇城ィ!」

「『チョコレート・ディスコ』」

 

 攻撃のエネルギーや物質そのものを別の地点へ正確に落下させる事ができるスタンドだ。めだかに対して行った攻撃を教卓があった場所へ移動させたのだ。

 

「アイツは子供の時から、やる時はやる性格のヤツだからな。アイツを邪魔するってんならそれこそムダな悪アガキってやつだぜ」

「……おもしれー。だったらこっちは高みの見物させていただくぜ。テメーの成敗はその後のオタノシミだ!」

「そりゃありがたいね。不知火、お前もさっさと帰っちまった方がいいと思うぜ。いつ雲仙先輩が暴れだすかわかんねーし」

「宇城後はァい? 人を猛獣みたいに言うもんじゃねーぜ?」

「なになに、心配してくれてんの? だいじょぶだいじょぶー! なんせ風紀委員長は校則違反してない生徒には手ぇ出さないから!」

「ほー、言うじゃねーかエアオッパイ」

「エアオッパイ!?(がびん)」

「なんて言い草ですか雲仙先輩! エアオッパイだって頑張って生きてるんスよ!」

「オマエオボエトケヨ☆」

「(こっわ……)」

 

 冥利よりよほど怖かった。

 

「えーと、いやー、でも俺はあいつらと違って校則違反してないのに襲われてるからなー。服の改造とかしてねーし、着こなしもフツーだし」

「はあー? 何勘違いしてやがる。生徒会関係者ってだけでも確かに有罪だが、テメーはそうじゃなくとも粛清対象だからな」

「は?」

 

 はて、何かまずいことをしただろうか。主張の激しい服装をしたわけでもないし、バイトも特に禁止されてなかったはずだし。

 

「オメー賭博部だろ。違法賭博の容疑がアガッてんだよ」

 

 ガチの有罪だった。

 

「…………」

「…………」

「…………つ」

「…………」

「つまづいたっていいじゃないか……人間だもの」

「……スゲェー大好き♡ 『相田みつを』――ッ!!」

「わははははは! 名言♡! だものォォ――ッ」

「ウケケケケケケケケケケ!」

「わはははははははははは!」

「ケケケケケ…………なわきゃねーだろ死ねボケッ!」

「待て待て待て!」

 

 その時、冥利の懐から携帯の着信音が聞こえてきた。

 

「チッ、いいところで……どーした呼子(よぶこ)ちゃん。…………ああ? 任務失敗? 全員だと!?」

「じゃ、めだかも仕事したことだし、俺はこのへんで」

「ちょ」

「『運命の車輪(ホウィール・オブ・フォーチュン)(変形無しバージョン)』!」

 

 スタンドをジープに憑りつかせ、強度とパワーを上げた車体で壁をブチ破って外に飛び出す。

 

「あのヤロー校内でなんて無茶しやがる!」

 

 冥利がそれを追って外を見るが、既に姿はどこにも見えない。

 

「逃がしたか……いや、このままじゃ終わらせねェ! ここからは男一匹雲仙冥利の個人的な戦争だ!!」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「……で、めだかちゃん達は風紀委員会と敵対しちまったと」

「うむ。しかも相手はかなり過激な方針だ。こうなるとどう落としどころをみつけたものか……」

「まったく、服装違反なんかするからだぞ」

「そう言うオメーは違法賭博ってハンパねーなオイ! 逆にイカしてんじゃねーかよ!」

「中学の時散々しでかした俺が言うのもなんだけど、君付き合う相手は考えた方がいいぞ……」

「へー、ぎゃんぶるやってるんだ。私も久しぶりに……」

「喜界島!? お前なんか昔の目つきに戻ってるぞ!?」

 

 生徒会室に戻った奏丞とめだかは、他のメンバーにも事情を説明した。

 

「しっかし真昼間から闇討ちかけてくるとは、聞きしに勝る物騒さだぜ風紀委員会! カッ、どうするよめだかちゃん! 敵の底も知れたことだし、このまま泣き寝入りするつもりもねーだろ?」

「おーっと、だからって風紀委員会に殴り込みなんてよしてくれよー?」

「! アンタは」

「失礼失礼、勝手に入らせてもらったぜ」

 

 いつの間にか部屋に入ってきた冥利は、そう言って後ろ手で扉の鍵を閉める。

 

「ま、確かに俺の武器もバレちまった。知られちまえば手品もそこまでだ」

 

 冥利の袖口からボールがポロポロと零れ落ちてくる。

 

「手品の解説に来てくれたわけでもあるまい。何の用だ雲仙二年生」

「用がなくちゃ来ちゃいけねーってのか? 冷てーことおっしゃるなよ悲しいなあ! 学年は違えど同じ十三組の……」

「善吉ー、箒と塵取り持って来てくれー」

「奏丞空気読んでー!?」

「何言ってんだ、生徒会にはいつオキャクサンが来るかわかんねーのに、散らかりっぱなしにできるかよ」

 

 そう言って今度は扉の鍵を開ける。

 

「ったく、勝手に閉めないでくださいよ先輩。誰か相談に来るかもしれないんスから」

「……宇城! ややこしくなるからテメーは大人しくしてろ! 掃除なら後でオレがしてやるよ!」

「おや? 先輩、俺そんなにおかしなこと言いましたか? もう少し余裕を持ちましょうや」

「…………」

「奏丞、あまり雲仙二年生を困らせるものではない。話がしたいと言うならば話そうではないか」

「……へいへい。俺はそこで座っとくとするよ」

「(……なんだ? 今のやり取り、妙に違和感があるな。奏丞のやつ、また何か企んでるのか)」

 

 善吉がそう考えている間にも、めだかと冥利の話は進む。そちらの内容もどこかおかしい。めだかを言い負かそうとしているようでもあるが、はっきり言って今更な話だ。

 

「――上から目線性善説とかよー。実際その聖者っぷりはヒデエや。聖者(テメー)の理想に従えない奴はイコール愚者(ダメ)ってコトになっちまう。テメーがスゲエのは誰もが認めるよ。だけどそのスゴさを他人にまで強要すんなや。人間に強要していいのはみんなで決めたルールだけだぜ?」

「どうやら二つの誤解があるようだな雲仙二年生。第一に上から目線性善説などは善吉が勝手に言っておるだけで私は聖者などではないし、第二に――」

 

 そこまで言って、めだかはコロコロと足元に転がるボールをふと見る。同時に、恐ろしい想像に思い当たってしまった。

 

「!! 貴様達離れろ! さっきこやつがバラ撒いたのはスーパーボールではない! 火薬玉だ!!」

「おっとバレたかい? ダメだなーオレって本当にダメだ! 手品下手過ぎ! だがまあ遅い。仕込みはギリギリ終わってる。オレの本筋、炸裂弾『灰かぶり(シンデレラ)』! これだけあればこの辺一帯は消えてなくなるぜ! そこの宇城は気付きそうだったけどな」

「…………」

「……密閉状態の部屋でそんなの爆発させたらキミもただじゃすまないよ」

「そうだ! 子供っぽい脅しはやめろ! 悪ふざけにしても度を越している!」

「テメーら知らなかったみてーだが……ケケケ。オレも『やる時はやる性格』のヤツなんでな」

「やめた方がいい」

「…………」

「火薬玉で一網打尽、自分はその高そうな服で無事生還って考えなら……お前は後悔することになる。やめた方がいい」

「(コイツ、オレの特服(トップク)白虎(スノーホワイト)』にも気付いてやがるのか)」

「もう一ぺん言うぞ。たっぷり。お前は後悔する。火薬を爆裂させるならな」

「宇城クン! あまり挑発するような言い方は……!」

「……奏丞、大丈夫なのだな」

「さて、どうかな」

 

 音楽室でのことといい、冥利が見るに、どうもめだかは奏丞を随分と信頼しているようだ。能力を買っているのか、あるいは……

 冥利はもう一人の幼馴染である善吉を見る。

 

「……雲仙、テメーは冷静(クール)なヤツだ。実に計算された行動をとる。俺は結構熱くなるタイプだし、勝負すればどうなるかわからねぇ。だが、俺はこの奏丞を信じてる。こう言うのにどういう意味があるのかは知らねーが、それでも俺は奏丞を信じて賭けるぜ」

「こいつはまあ……三人ともあまりの恐怖で頭がおかしくなったみてーだな」

 

 ――火のついたマッチを放り投げる。

 

「面白れェ! 後悔するのはどっちか試してやるぜ!」

 

 この期に及んで動こうともしない三人を見ながら、冥利は来るであろう爆発に備え体を丸め――

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ――爆発は起こらない。

 

「……………………あり?」

「ここには水の張った花瓶がたくさんあるんだが……」

 

 生徒会では誰かの悩みを解決する度に、花を一輪ずつ飾っている。その花を活けている花瓶だ。

 

「そのせいで結構湿気てんのかもしれねーぜ」

「んなわけあるか! 湿気程度でオレの『灰かぶり(シンデレラ)』が不発なんて……」

 

 その時。ジュッ、という音が冥利の耳に届く。さっき投げたマッチだ。火が消えている。

 

「なんで火が……あっ」

 

 そのマッチは、水に濡れていた。

 

「ま、まさかッ」

 

 近くの火薬玉を見てみれば、これも水でびしょ濡れだ。おそらく、部屋中に転がる全てがこうなのだ。だから不発。500体ものハーヴェスト達が、花瓶から水を運んで濡らしたのだ。

 

「……なんなんだ」

「…………」

「なんなんだテメーは! 何もかも台無しにしやがって! オレの計画はテメーのせいでことごとく失敗だ!」

「勝手に敵対しといてよく言うぜ。だが、俺に構ってるヒマがあんのか?」

「ああ?」

「雲仙二年生」

 

 めだかが呼びかける。それだけで、冥利は異様な雰囲気を感じ取った。

 

「哀れなことだ。貴様もかつては人の善性を信仰する心優しき美少年だったかもしれない。奏丞のおかげで未遂に終わったとはいえ、これほど残虐無比な行いをするのは、情状酌量に値するだけのきっかけがあったのだろう。――しかし! だからと言って私は貴様を許さない!! よくも友達を危険な目に遭わせてくれたな!」

「!!」

「後悔ってのはこのことかよ……! 黒神めだかの真骨頂その④『乱神モード』!」

「人吉クン、めだかさんがあの状態になるのはいつ以来だ?」

「……阿久根先輩が見たのは中一の夏休み以来、だから三年振りですか。奏丞と組手する時はちょくちょくなってたから、俺は散々見ましたけどね」

「宇城クン、あれを何度も相手にしてたのか……」

「あのバカ、俺なら何しても死なねーと思ってやがるからな。毎度毎度死ぬ思いで訓練してたな……」

「だったら宇城! 止められるんだよね?! 止めないとあの人何するかわかんないよ!?」

「理性はあるから一線は越えない……はず」

「今『はず』って言ったぁ!?」

「まあ、中途半端に終わらせて後で反撃されてもやっかいだ。ここらで一つ、あいつの心に敗北感てやつを植え付けてもらおうぜ。めだかを聖人君子か何かと勘違いしてやがるようだしちょうどいいだろ。俺だっていい加減キレたかったところだし、この際めだかがきつーく叱ってやりゃいい」

「そんな無責任な!」

「……ケケケ! オレを叱るだと!? やってみな! 乱神だろーが魔神だろーが、火山の前じゃ――」

 

 目にも止まらないスピードで冥利に接近しためだかが、冥利の顔面をアイアンクローで掴み上げる。

 

「!?」

「良い服を着ているな」

「へ、へへっ、耐圧繊維で縫製された自慢の服よ。ダンプにはねられたってへっちゃらなんだぜ☆」

「そうか、それは重畳」

 

 めだかの拳が鳩尾を貫いた。

 

「ガハッ……」

「つまり三発……いや二発までなら大丈夫ということだよな。私が本気で殴っても!!」

 

 窓を突き破り、それどころか勢いあまって向かいの校舎に突っ込んだ冥利。先日張り替えたばかりの窓ガラス、早くもご臨終。

 

「(一発目で既に血ヘド吐いてるぞオイ)」

 

 つまりめだかのパンチはダンプ以上の威力ということか。まともにくらったら奏丞でも死ぬので、勘弁してほしい事実だった。

 

「阿久根先輩、喜界島。もしも引き際があるとするなら多分ここだぜ。めだかちゃんの中身は見ての通りあんなのだし、生徒会にいる限り雲仙みたいに所構わず襲ってくるやつを引きつけるかもしれない。辞めるか、続けるか。ここで決めてくれ」

「善吉ー、俺は?」

「オメー実のとこ生徒会役員じゃねーだろ! しかも今更だしな!」

「そーいやそーだったぜ」

「……そうだよ人吉。そんなの今更じゃない」

「ああ、その通りだ。君に言われるまでもない!」

「……そっか」

 

 冥利のもとへ歩きながら、めだかが奏丞達に声をかける。

 

「……私の主義に巻き込んで悪かったな、貴様達。後で腕章を返して」

「水臭いこと言うなよめだか!」

「!」

「そうだよ! あたし達は黒神さんに巻き込まれたいんだ!」

「めだかさんになんと言われようと、俺達は生徒会を辞めません」

「俺達はもう二度とお前を一人にはしないからな! だから……」

 

「「「「そんなヤツやっつけちまえ(ちゃえ)!!」」」」

 

「……ふ、そうか」

 

 口元の血を拭い、冥利はフラフラと立ち上がる。

 

「(お高い衝撃吸収素材着込んでるってのにこれかよ……! キャノン砲みたいなパンチ打ちやがって、殴るなら砂袋でも殴ってろや!)」

「雲仙二年生。貴様は誤解していたようだが、私には大層な信念などないし、聖者でもない。友達が傷つけば怒りもするし信念だって捨てる。ただのちっぽけな人間だ」

「ケッ、バケモン女がよ……一丁前に仲良しゴッコかよ」

「ゴッコではない。仲良しなのだ」

「そーゆー問題じゃねえ……」

「貴様がしたことは実に許しがたい。しかし未遂は未遂だ。なので、チャンスを提示しよう」

「チャンスだぁ?」

「一言謝罪してもらおう。もちろん彼らにだ」

「…………」

 

 冥利は、この期に及んで甘い、と思わざるを得なかった。敵に体勢を整える機会を与えてどーすんだ、と。そして確かに、この提案にのれば、後々めだかを打倒するチャンスも得られるが……

 

「(できるかよ、謝罪なんざ! こちとら風紀委員会! 正義の看板背負ってここに立ってんだぜ!)」

 

 懐から切り札である『鋼糸玉(ストリングボール)』を取り出す。

 

「上から目線で言うんじゃねーぞ黒神ィ! テメーを取り締まる! それが今! この場でオレが下す決定事項だ!」

「あくまでも戦争を選ぶか」

 

 投擲。

 

「またスーパーボールか?」

「(この玉に巻いてある『(アリアドネ)』は、一本で五トンの重量を支えられるっつー最新科学技術の結晶だ! この攻撃を避けようが受けようが、張り巡らされた細く見えない糸はテメーの身体を拘束する!)」

 

 めだかはこの攻撃を今までと同じだと勘違いしている。もはや逃れることはできない。

 

正義(ジャスティス)は勝つッ!」

 

 その時、冥利は勝利を確信した。

 

 

「――しかし何度見ても見事だ。これだけのボールの軌道を自傷なく計算し尽くすとは。だが」

 

 

 めだかが飛び上がり、天井を粉砕した。上の階から机や瓦礫がガラガラと降り注ぐ。

 

「しょ、昇龍拳?!」

「さあ、障害物が降って来たぞ。計算し直すと良い」

「なんて事しやがる!?」

 

 完全に冥利の狙う軌道から外れたボールは、四方八方へ牙をむく。めだかだけにではない。当然、投げた冥利にも。

 

「しまった、糸が! クソ、巻き付いちまった!?」

「……む、なんだこれは。体が動かんな」

「このアホタレー!!」

 

 冥利が吠える。

 

「(どうするどうする!? あんな力技で対処するとは、思いもしなかったぞ! 『灰かぶり(シンデレラ)』で糸を瓦礫ごと吹き飛ばして……だがそれだと黒神も自由になる! 最後の切り札まで使っちまったから、もう対抗手段が……)」

「どうやら細く丈夫な糸が巻き付いているようだな。奏丞、頼む。なんとかできるであろう?」

「……『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』」

 

 鉄をも溶かす炎のスタンドで糸を焼く。糸の耐熱性は鉄ほどではなかったようだ。

 

「おお、自由になったぞ。いやはや便利なものだ。いい加減貴様の能力について教えてくれてもいいのではないか?」

「うっせ、秘密だ秘密。俺の生命線なんだよ」

「…………」

 

 冥利は、そういえば宇城奏丞という意味不明な敵もいたということを思い出した。しかも考えてみれば、自身の武器は全部コイツに攻略されている。

 

「…………はあ~」

 

 壁際にへたり込む。もうネタ切れ、手詰まりだ。

 

「降参か? 雲仙二年生」

「……降参? バカ言うんじゃねー。誰が参るかよ。ただちょっと疲れたんで、座っただけだ」

「ほう、その心は?」

「確かにもうオレが打てる手はない。フェイクのスーパーボールは見切られたし、本筋の火薬玉は筋を通せねえ。挙げ句の果てには切り札の鋼糸玉(ストリングボール)なんざまるで切れやしねー。だが……それでもオレは負けちゃいねーぜ! 信念は曲げねェ! 改心もしねェ! オマエは結局オレに勝てなかったのさ!」

「…………」

 

 そう言って冥利は目を瞑る。

 

「さあ、トドメを刺しな。大好きな人間を守るために、オレを排除してみせな」

「なるほど、よくわかった」

 

 ゴン、という痛々しい音が、冥利の頭から鳴った。めだかがゲンコツをしたのだ。

 

「――――ッてぇ~~!?」

「もう一つ誤解があったようだ。トドメを刺すだの排除するだのと言っているが、私はそんなつもりはない。なぜならこれは説教だからだ」

「せ、説教だと?」

 

 顔を上げて見れば、めだかの乱神モードが解けている。

 

「悪い子供にはゲンコツと相場が決まっている! 雲仙二年生! 『過ぎたるは猶及ばざるが如し』だ! 貴様のやり過ぎはよくないぞ!」

「な、な……」

「これから貴様がやり過ぎた時には、何度でも私がゲンコツを届けに行くからな! 覚えておくがよい!」

「テメーこの期に及んでそんなことを……!」

「それともう一つ!」

「!」

「貴様生徒会に入らないか? もとより副会長には私に敵対的な者に就いてほしかったのだ。そう考えるとここまで私と張り合った貴様は中々に適任ではないか!」

「……っ、ざっけんな! オレは風紀委員長だぞ!? 誰とでも仲良くできると思ってんじゃねーよボケ!!」

「そうか、残念だ。だが私はこれからも、誰とでも仲良くできると思い続けるよ」

 

 めだかは踵を返す。

 

「しかし今回は私もやり過ぎた。すまなかった雲仙二年生。私が悪かったよ。貴様には己の未熟さを学ばせてもらった。これからもご指導ご鞭撻のほどをお願いするぞ!」

「………………チッ、なんなんだアイツは。何度でもだと? そんなの、周りから黒神に会うために問題起こしてるみたいに見えちまうじゃねーかよ。ザけやがって」

「正直に言えば、俺はアンタがそれ程間違っているとは思わないんですよ。俺だって別にそんなに褒められた人間じゃありませんしね」

 

 舌打ちする冥利に、善吉が話しかける。

 

「めだかちゃんと同じくらい、アンタは正し過ぎると思っています。そうなるともうあとは好みの問題でしょう? 俺はアンタよりめだかちゃんの方が好きだ」

「…………」

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「――では黒神さん。雲仙くんに代わり、『フラスコ計画』に参加していただけないのでしょうか」

「……申し訳ありません不知火理事長。お話自体は興味深く聞かせていただきましたが、雲仙二年生をリタイヤさせてしまったことは別の形で償わせてください。では、これで失礼します」

「…………」

 

 そう言って、めだかは部屋を出ていってしまった。

 

「……で、君達はどう思いました?」

 

 声をかけて出てくるのは、以前も隠れて奏丞を見ていた『表の六人(フロントシックス)』の面子だ。

 

「以前の彼に妙な感覚を覚えた分、彼女は彼より大したことないんじゃないかと」

「いやいや、あの女ちゃんと俺達のことには気づいてたぜ。五回ぐらい殺してみようとしたけど全部失敗しちゃったもん。あれなら前のヤツよりは期待できそうだぜ」

「んー、あの子が雲仙くんに勝てたのはただのマグレだと私は思うよ(あの子が名瀬ちゃんの妹ちゃんなの? 案外普通だね?)」

「私は意見を有しない。思うことなど何もない(んなわけねー。アイツ比較的大人しいってだけで、中身はマジでバケモンだからな)」

「いいんじゃない? あれなら人数合わせくらいにはなるでしょ。結局ボクと王土がいればそれでフラスコ計画は成り立つんだし」

「うむ。あれだけの美貌だ。俺の視界に存在することを許してやってもよかろう」

「ふふふ、いやはや。君達にかかっちゃあ化物生徒会長も形無しですねえ。まあ彼女のことは問題ないとして、気になるのは宇城くんのことです」

 

 傍の棚から取り出した資料には、奏丞が今回見せた『異常』について書かれている。いたみも横からそれをこっそりと覗き込んだ。

 

「(宇城くん、結構派手にスタンド使ったみたいだね)」

「(相手が相手だからな。それよか行橋先輩に思考読まれないように注意しろよ)」

「(わかってるわかってる)」

「私の知る異常性とは、どうにも方向性が違うようにも見えます。今後のためにも、再確認が必要でしょうねえ」

「ならば高千穂と宗像。お前達二人で行ってこい」

「はあ? この前『試してやるか』とかなんとか言ってたのはそっちじゃねーかよ」

「それに僕まで行く必要はないだろう?」

「黒神を見て気が変わった。俺は黒神を口説き落とすことにしよう。それに、仮にも雲仙を手玉にとったのだ。少しは楽しめるかもしれんぞ? 宗像も会えば何かに気付くかもしれんしな」

「えへへっ、まったく気まぐれなやつだな! まあボクはそんなお前について行くだけだけどね!」

「おいおい、俺たちゃ残飯処理係じゃないんだぜ」

「……やれやれだ」

 

 ……さて、そんな話をされているとは今回気付いていない奏丞はというと。

 

「158722(困るぞ)! 623871336042497184965280994125(だって私は引きこもりで弟以下の女なんだぞ)!」

「そうかそうか、お前も大変だったんだな。よく頑張ったな」

 

 一つの出会いを果たしていた。

 

 





呼子「委員長! 生徒会室の火薬を全て回収してきました!」
冥利「わりーな呼子ちゃん。爆破できてりゃこんな手間かけさせなかったんだけどよ」
呼子「そんな、とんでもないです!」
冥利「謙虚だねぇ。ケケケ……あり、全然足りないぞ」
呼子「へ?」

奏丞「便利そうだし、迷惑料にちょっと貰っとこ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。